著者
高田 肇
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

施設作物を加害するアブラムシ類の生物的防除素材として、アブラムシ寄生性ツヤコバチ科の在来寄生バチの利用を検討した。わが国では4種のツヤコバチが、ワタアブラムシとモモアカアブラムシ(以下それぞれワタ、モモアカと略記)に寄生することを確認した。主要種はAphelinus gossypiiとAphelinus sp.B(nr.varipes)である。長日(15L-9D)における雌の平均発育期間は、A.gossypiiでは18℃で21.9日、25℃で12.3日、Aphelinus sp.Bでは18℃で23.3日、25℃で13.7日であった。長日18℃におけるA.gossypiiの平均産卵数は57、寄主体液摂取数は11、長日25℃におけるAphelinus sp.Bの平均産卵数は48、寄主体液摂取数は24であった。A.gossypiiはワタに対する適性は高いが、モモアカに対する適性は低い。Aphelinus sp.Bはワタ、モモアカのいずれに対しても適性が高い。さらに、大量増殖用の寄主として好適なマメにも適性が高い。Aphelinus sp.Bは北海道と京都個体群は長日型の休眠性をもつが、沖縄個体群はもたない。マミ-形成後の休眠幼虫を5℃で4週間保存する場合、生存率は順化処理を行った区(86%)のほうが、行わなかった区(39-63%)より高かった。Aphelinus sp.Bでは、大部分の蛹がマミ-内で頭部をマミ-の後方に、腹面をマミ-の背面に向けていた。成虫の羽化脱出率はマミ-の背面よりも腹面を張り付けたときのほうが高かった。A.gossypiiのLD50は、成虫施用よりマミ-施用のほうがマラソンでは16倍、ピリミカーブでは38倍、フェンバレレートでは6倍大きかった。これら3種殺虫剤の中では、本種に対する影響力はピリミカーブが最も小さいと考えられる。
著者
田島 文博 中村 健 峠 康
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

【目的】健常者における運動時の免疫機能はNatural Killer細胞(NK細胞)活性を指標として、多数の報告がある。しかし、脊髄損傷者においては、我々が車いすフルマラソンではレース直後にNK細胞活性が低下し、ハーフマラソンでは上昇する事が知られているだけである。今回我々は、実験室で運動強度を一定にし、2時間の運動を継続した時の免疫機能の変動を調査した。【方法】対象は男性脊髄損傷者7名(脊損者、年齢34.3±7.1歳、損傷レベルTh11〜L4)と健常男性6名(健常者、年齢28.8±7.7歳)とした。予めハンドエルゴメーターで被験者の最大酸素摂取量(VO2max)を測定した結果、脊損者は27.9±3.0ml/min、健常者は25.7±4.1ml/minであり、両群に有意差を認めなかった。VO2max測定とは別の日に、被験者はそれぞれのVO2maxの60%で2時間ハンドエルゴメーター運動を行った。採血は、運動前、1時間運動後、運動終了直後、終了後2時間の4回行い、白血球数、アドレナリン、NK細胞数、NK細胞活性を測定した。別の日に運動を行わないタイムコントロール実験を行った。【結果】健常者の白血球数と血中アドレナリンは運動直後に有意な上昇を見た。NK細胞数は運動直後の変動は有意ではなかったが、NK細胞活性は運動直後に有意に低下し、2時間後に回復した。【考察】車いすフルマラソンの実験モデルを行い、NK細胞活性は低下した。しかし、NK細胞活性は2時間後には回復した事から、車いすマラソンで選手が感染に留意する時間は数時間で良いと考えられる。
著者
保科 英人
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,農村地帯に放棄された水田を,ビオトープとして,学校教育や社会教育の材料として維持・管理し,活用していくシステムを確立していくことを目的としている.フィールドは,平成17年度と同様,越前市(旧武生市)黒川町の休耕田を用いた.このエリアは,武生西部地区と呼ばれ,ナミゲンゴロウやハッチョウトンボのほか,アベサンショウウオなどの希少種が数多く残存する地域として有名である.環境省が全国から4つ選定した「里山保全モデル事業」の1つにもなっている場所である.フィールドとなった休耕田の管理を始めてから,今年で4年目である.近年の温暖化,少雪傾向を反映してか,イノシシの増加が目立つ.そのため,あぜの決壊が頻繁に起こり,その対策が必要となった.なお,希少種であるナミゲンゴロウは,平成19年度も新成虫が誕生している.トンボ類では,ニューフェイスの飛来は見られなかったが,種多様度は全体的に維持されている.里地保全で最も重要と言うべき,地元の協力は相変わらず強く得られている.アベサンショウウオに代表される希少種の保護活動が,住民の意識を高めているのは言うまでもないが,それから派生して,外来種問題などにも協力を得られている.オオクチバスやアメリカザリガニと言った里地に生息可能な侵略的外来種に対しては,地域の厳しい監視の目が存在する.昨年度から見られるようになったヒシ類の極端な増加は見られず,トンボ類にとって,重要な休憩場所及び産卵場所になっていることが観察された.他地域に位置する休耕田との比較の調査を前年に続き,継続した.北陸における水資源の豊かさは,本州太平洋側や四国,九州と比べて際だっており,ビオトープ造営や維持・管理に関しては,大きな強みであることが改めて示された.
著者
加藤 隆史
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

歯や骨などの生体内部で作り出される有機/無機複合体は温和な条件で形成する精緻な構造を有する環境適応材料と考えられる。これまでにこのバイオミネラルの形成過程に倣い、高分子の相互作用を利用して人工の有機/無機複合体の構築を行ってきた。本研究では液晶性を示す有機化合物をテンプレートに用いて、無機微粒子の結晶成長を行う事により、その配向制御を試みた。炭酸ストロンチウムはその強い負の複屈折率を有することから、光学材料の添加剤に利用されている。平成21年度は液晶性有機高分子をテンプレートに用いて炭酸ストロンチウムのナノ結晶を温和な条件下において結晶化させ、巨視的に配列した有機/無機複合体を作製することに成功した。結晶成長溶液におけるストロンチウム濃度の違いにより、得られる結晶の配向やモルホロジーが変化した。これらの薄膜は、巨視的に配向を揃えており、偏光顕微鏡観察において、ステージの回転に伴い明暗を繰り返した。テンプレートとなる液晶キチンマトリクスのキチン繊維の表面官能基の配列が薄膜結晶の成長に影響を及ぼした。透過型電子顕微鏡による電子線回折測定は、炭酸ストロンチウム結晶の(001)面、または、(110)面がキチンマトリクスの表面と相互作用していることを示した。このような配向制御の知見を生かして、層状水酸化コバルト/イオン液体複合体の構築や有機高分子マトリクスの熱架橋による炭酸カルシウム薄膜の3次元凹凸構造の形成制御を行った。
著者
小笹 晃太郎 竹中 洋 浜 雄光 安田 誠 加藤 則人
出版者
(財)放射線影響研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

京都府南部のある町の唯一の公立小中学校の児童生徒を対象として2008~2010 年の毎年5月に質問票による症状の調査と血清検査を行った(対象者数は277-300人で受験者は232-242人)。スギ花粉への曝露は各年の2~4月のダーラム式捕集法によるスギ花粉飛散量の毎日の合計数で評価した。スギ花粉特異的IgE 抗体が陽性の者は毎年約55%であり、抗体が陽性でその年の3~4月に目または鼻のアレルギー症状が3週間以上持続したスギ花粉症確定的有症状者は19~25%であり、スギ花粉飛散量と比例していた。
著者
中野 実
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

脂質ナノディスクの構造とダイナミクス脂質ナノディスクはリン脂質とアポリポタンパク質A-Iとの複合体であり、生体内で見られる新生HDLと同じ構造をもち、薬物のキャリアとしての応用も検討されているナノ粒子である。dimyristoylphosphatidylcholine(DMPC)を構成脂質とするナノディスクについて中性子小角散乱及び栄光法によって構造評価を行ったところ、ナノディスク中のDMPCはベシクル中に比べ、密に充填されていることが明らかになった。脂質のナノディスク間移動速度をTR-SANSによって評価したところ、ベシクル間移動よりも約40倍も促進されており、しかもエントロピーの増加を伴うことが判明した。すなわち、脂質の高密度の充填が、膜のエントロピーの低下をもたらし、脂質の膜解離プロセスを有利にすることが明らかとなった。脂質ナノディスクの構造変化Palmitoyloleoylphosphatidylcholine(POPC)のような不飽和リン脂質でナノディスクを調製すると、脂質/タンパク質比に応じて大きさの異なる3種類の粒子(流体力学的直径9.5-9.6nm、8.8-9.0nm、7.8-7.9nm)が得られることが判明した。小さい2種類のナノティスクはDMPCなの飽和リン脂質膜や、コレステロールを高濃度含む膜からは生成しなかった。Dipyrenyl-PCのエキシマー蛍光とdansyl-PEの蛍光寿命から、小さい粒子では大きい粒子に比べ、アシル鎖領域の側方圧の減小と脂質頭部付近のパッキングの上昇が生じていることが判明した。これらの結果より、大きい(9.5nm)ナノディスクの脂質二重層は平面構造をとるのに対し、小さいナノディスクでは鞍状曲面を形成することが明らかとなった。
著者
野中 泰二郎 高畠 秀雄 谷村 真治 梅田 康弘 河西 良幸 井元 勝慶 坪田 張二 中山 昭夫
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.最近発生した地震の現地調査と地震波形記録にもとづく破壊過程の検討から、キンデイオ地震では小さな破壊開始の約1秒後に大きな破壊があったこと、第2の大きな破壊がアルメニア市を直撃し、1000人を超える死者が生じた大きな被害を引き起こしたこと、30,000人が犠牲になったコジャエリ地震では100kmを超える断層が現れ、断層の近くでは最大加速度は水平方向で407Gal、上下方向で260Galに達したこと、鳥取県西部地震ではふたつの異なったフェイズが観測され、この地震の破壊は連続的に進展したのではなく、別途の破壊が新たに進行したと考えられ、大破壊によってせん断応力が開放されところに「地震のブライトスポット」が形成されたことなどがわかった。2.記録地震波と実構造に近い三次元連続体モデルの有限要素による弾塑性動的数値解析を遂行した結果、激しい直下地震の場合などでは初期の過渡応答過程がその後の動的挙動に支配的な影響を及ぼすこと、またそれは、構造物の大きさや形、支持・境界条件と初期地震動のプロファイルによって著しく異なる事がわかった。これらの現象は構造物中を伝わる応力波の影響を考慮することで把握できる。3.兵庫県南部地震で構造物に発生した顕著な被害箇所は急激なエネルギーの変化と密接に関係している。特に、高層鋼骨組の極厚断面主柱の破断が特定の階の段落し部分での溶接部に多発した原因が明らかにされた。4.この地震で高層骨組のブレースと柱の接合部が一体となって破断した原因は、剛接ブレースに作用している軸方向力と剪断力とから生じる鉛直成分の力によって、ブレースが上向きに引っ張られて破断し、次に、柱の破断を誘発した。5.骨組構造において、塑性ヒンジが初期に集中して発生する階では構造物の損傷を受けやすく、塑性ヒンジが発生していない階では被害は顕著でない。塑性ヒンジが集中的に作用する事を避ける必要がある。6.既存木造家屋を外部から耐震補強する工法を開発し、外部補強の支持部の水平載荷実験と3次元弾塑性解析によってその効果を評価確証した。7.衝撃速度を変えたシャルピー衝撃試験の結果、衝撃速度が大きいほど吸収エネルギーが大きくなる、すなわち、破壊靭性が増加することがわかった。8.塑性歪履歴を受けた鋼材を用いたシャルピー衝撃試験から、塑性歪が鋼材の脆性破壊発生に大きな影響を及ぼすこと、予ひずみが大きいほどエネルギー吸収能力が低くなり、予ひずみ材は衝撃荷重を受けると破壊し易いことなどを明らかにした。
著者
三浦 伸夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

デューラーの『計測法教程』の源泉を中世ラテン,ギリシャ,アラビア数学に探索し,またドイツ語原典およびラテン語訳のそれぞれの受容を,両版を比較しながら,読者層,当時の学問の状況などを視野において探求した.とりわけ描かれた科学器具,引用された数学著作を中心においた.影響は中国にまで及び,その数学は世界規模である.他方でその数学の時代的限界も指摘した.しかしその内容は今日数学教育に大いに活用できることを指摘した.
著者
上田 多門 後藤 康明 長谷川 拓哉 濱 幸雄 田口 史雄 遠藤 裕丈 林田 宏 桂 修 加藤 莉奈 佐藤 靖彦 王 立成
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

寒冷地のコンクリート構造物は,コンクリート内部の水分が凍結融解を繰り返すことにより,凍害といわれる劣化が生じる.超音波を用いた実構造物における凍害の程度を測定する方法を提示し,凍害の程度と材料特性の劣化程度との関係を示した.乾湿繰返しや塩害と凍害との複合劣化のメカニズムを明らかにし,劣化をシミュレーションするための数値モデルを提示した.凍害を受けた構造物を増厚工法で補修補強した後の,構造物の挙動を数値解析するためのモデルを提示した.
著者
三好 信哉
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

水分子と固体表面の相互作用は,電気化学,不均一触媒,更には腐食問題など様々な現象と密接に関連していることから,これまでに精力的に研究が行われてきた.また近年は,表面の影響が顕著に表れるナノ空間材料を用いた水分子輸送の制御などに関しても盛んに研究が行われている.例えば次世代のエネルギー生成デバイスとして期待される固体高分子型燃料電池では,マイクロボーラス層と呼ばれる細孔径10~100nmの炭素系ナノ細孔を用いることで,電極で生成される水蒸気の輸送特性が向上することが報告されている.代表長さが数十nm程度のナノ空間においては,気体分子の衝突相手の大部分は固体表面となることから,気体-固体表面間相互作用,特に散乱挙動の理解は輸送特性の定量的な予測を行うためには必要不可欠である.そこで本研究では入射エネルギー35~130meVの水分子線を使用し,入射分子線のベクトルと表面法線ベクトルを含むin-plane面内に加え,in-plane面外,即ちout-of-planeでも散乱計測を行っている.また,吸着,表面滞在,脱離という一連のプロセスの解析をMDシミュレーションによって行っている.分子線散乱実験では散乱分子の質量流束と並進エネルギーの角度依存性を計測した結果,入射エネルギーが64,130meVの場合はin-plane面内は10bular散乱となり,out-of-planeへの散乱の広がりは小さいことが示された.一方、吸着エネルギーと比較して低い入射エネルギー(35meV)の場合,表面法線方向,及びout-of-planeへの散乱分子が増加し,拡散的な散乱挙動になることが明らかになった.MDシミュレーションによる解析では,入射エネルギー35~130meVの範囲で,大部分の分子は表面に長時間(16~18ps)滞在した後に散乱すること,表面滞在中の適応過程や散乱分子の特性が,法線,接線方向,更にはそれら二つの方向に垂直な方向ごとに異なることが示された.
著者
平田 煕 杉山 民二
出版者
東京農工大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1)りん吸着力の強い黒ボク心土に,CaーP__ーを3濃度段階添加してVA菌根菌共生の有無下でダイズを生育させたところ,感染の抑制される高P__ー施用下であっても,ダイス子実生産とタンパク蓄績を高めることを実証した。2)本学農場の飼料畑(多腐植質黒ボク土)に生息するVA菌根菌の90%以上は,Glomus属およびAcaulospora属であるが,その中の優先種(未同定,黄色壁,Gl etunicatumに酷似、以下gYと略),本圃場には存在の確認されていないGlomus E_3(ヨ-ロッパでは顕著な植物生育促進効果が認められている種)に対するササゲ,キマメ,ラッカセイの生育反応を,γ線殺菌した黒ボク土(Bray IIーP__ー:26.1ppm)を培地として追った。ササゲ,キマメは,gYの共生なしには,その生活史を全うし得ず,子実着生は全くみられなかった。ラッカセイでは,子実着生はみられたものの,稔実は極めて貧弱であった。gE_3は,これらマメ科作物の生育前半には殆んど菌根形成を起さず,終段階でのササゲ,キマメに感染をもたらしたものの,それらの生育へのプラス効果は全くみられなかった。3)りん肥沃度の極めて高い条件下でのgY共生の有無によるダイズ栽培を行なった前年度のサンプルについて,導管出液及び発芽77日目の稔実終期の茎葉部からサイトカイニン画分をメタノ-ル抽出し,高速液体クロマトグラフィによって精製ののち,重水素標識サイトカイニンを内部標準とするガスクロマトグラフィ/マススペトロメトリ-(GC/MS)により,内生サイトカイニンの同定,定量を行なった。その結果,gY共生の有無で,イソペンテニルアデノシン(〔9R〕iP__ー)含量では,導管出液,茎葉部とも差がなかったが,gY共生区のリボシルゼアチン(〔9R〕Z)およびデヒドロゼアチンリボシト(diH〔9R〕Z)のそれは,対照区(非gY共生区)の2倍近い値を得(導管出液20nM/l,茎葉部4〜6pmol/g新鮮重),前年度のバイオアッセイ法による総サイトカイニン定量結果を,物質的に同定,定量することができた。
著者
千田 智子
出版者
東京芸術大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

今年度は、研究期間の最終年度にあたるため、まず研究成果の出版に力を注いだ。その結果として、『南方熊楠の森』(共著、2005年、方丈堂出版)、『技術と身体-日本近代化の深層』(共著、2006年、ミネルヴァ書房)が出版されるにいたった。前者は、南方熊楠研究会との共同作業によるものであり、和歌山・田辺での実地調査と聞き取りを伴い、その成果を論理化したものである。後者は、国際日本文化研究センターでの共同研究の成果物であり、幾度にもわたる発表と意見交換の結果である。さらに、二本の研究論文を執筆した。また、新たな段階に踏み出すべく、環境に配慮した空間創造という側面から意義深い都市として、オーストリア・グラーツを訪問した。芸術性の追求と都市の持続可能な創造という観点から、その成果は、来年度に研究発表としてまとめる予定である。さらに、論文(「岡本太郎と南方熊楠-「比較」を超えて」)で明らかにした南方熊楠と岡本太郎の対比を発展させるとともに、芸術と人間の根源的な生命力との連関を論じた『生命の芸術(仮)』(講談社)を来年度に出版予定である。なお、この著作は、人間による環境へのはたらきかけの芸術性と、環境それ自体がもつ芸術性との関係を問題にしたものであり、この研究の集大成ともいえるものである。以上のように、研究は研究期間中に成果となったものと、これから成果物としてまとめる予定のものがあるが、最終年度としての研究段階としては、一応の結実をみた。
著者
矢部 光保 荘林 幹太郎 田中 宗浩 西澤 栄一郎 林 岳 高橋 義文 陳 廷貴 黄 波 田村 啓二 辻林 英高
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

中国では畜産廃棄物が深刻な水質汚染をもたらしている。そこで、中国江蘇省にある出荷頭数 2.8 万頭の養豚場と近隣農家を対象に、ふん尿由来のメタン発酵消化液を液肥利用する試験を行い、その環境的・経済的効果を評価した。3 年間で液肥利用農地面積は、ゼロから 40ha に拡大し、農家は肥料代を大きく節減できた。また、消化液の投棄が防止され、有機性廃棄物循環、水質環境の改善、温室効果ガス削減に、液肥利用は貢献できることが実証された
著者
熊田 孝恒 丸山 隆志 岩木 直 田村 学 川俣 貴一 村垣 善浩
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

人間の認知機能では、前頭葉から脳のより低次の領野に対するトップダウンのコントロールによって、低次領野における情報処理の調節が行われている。この研究では、トップダウンの情報処理の基盤としての前頭葉の機能を、特に、前頭葉機能の中心である「知能」の側面に着目して明らかにした。知能を構成する3つの要因である、更新、移動、抑制の機能には脳内の異なるネットワークが関与していることがわかった。
著者
宮田 篤郎 井上 和彦
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

多機能神経ペプチドPituitary adenylate cyclase-activating polypeptide(PACAP)は、中枢神経系以外に、精巣に比較的高濃度に存在しており、その特異的レセプターと共に発現が精子形成のステージにより周期的に変化する事から、生殖細胞の増殖、分化あるいは生存への関与が示唆されている。我々は、ヒト精巣におけるPACAP遺伝子発現調節機構を解明する目的で、ヒトPACAP遺伝子の精巣特異的プロモーター領域の同定と解析を行った。ヒトゲノムデータベースにおいて、すでに報告されたラット精巣特異的エクソンに対する相同配列を探索したところ、ヒトPACAP遺伝子の翻訳開始点から10.9kb上流に精巣特異的エクソン(hTE)を同定した。RT-PCRによりヒト精巣において、hTEを含むmRNAの発現を確認し、hTE上流領域の約1kbをクローニングした。この領域の様々な長さの欠失変異体を作成し、そのプロモーター活性を、非生殖細胞株(swiss-3T3とPc12)と生殖細胞株(F9とCHo)において、ルシフェラーゼアッセイにより比較評価した。その結果、約80bpの領域において、顕著な転写活性が精巣由来細胞であるF9においては観察されたが、非生殖系細胞株のSwiss-3T3とPC12では見られなかった。この領域のプローブとF9及びマウス初代精巣細胞の核抽出蛋白を用いてゲルシフトアッセイを行ったところ、複数の結台蛋白の存在が確認された。この領域にはC/EBPとAML-1a配列が存在するが、これら単独ではプロモーター活性を示すという報告がないことから、PACAP遺伝子の精巣特異的発現調節に未知の転写因子の関与が示唆された。
著者
瀧口 桂子 松本 園子 富田 恵子 遠藤 久江 森久保 俊満 小林 理
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

<研究目的>核家族化や少子化が進み、地域社会の連帯も失われつつある現在、子育て中の家族が孤立化し、育児不安や養育困難な問題が生じ、児童虐待も深刻な社会問題となっている。本研究は乳児院や児童養護施設などの基幹児童福祉施設が要保護児童の保護や自立支援など従来の役割に加えて、地域社会の家庭養育支援施設としてどのように機能を拡大し、地域社会のネットワークを形成していくことができるか、またその課題を明らかにすることを目的とした。平成9年の児童福祉法改正により新設された「児童家庭支援センター」に焦点を絞り、センターがどのように設置運営され利用されていくかそのプロセスを調査し、地域におけるセンターの役割機能と地域子育て支援ネットワークの実態を明らかにして、これからの児童家庭支援センターの充実発展、さらにセンター制度改革への提言を行う。<研究成果>1.児童家庭支援センター構想とセンター制度が制定された経緯を検証した。2.児童家庭支援センター制度創設から5年間のセンター設置プロセスを明らかにした。児童家庭支援センターが発足して今年度で5年が経過した。平成14年度末現在、全国に36センターが設置されている。そのうち25センター(実質1年以上の活動実績があるセンター)を訪問し、運営方針、活動内容、利用状況、地域の関連機関との連携・ネットワークの形成、今後の課題などを聞き取り調査した。そのほか全国児童家庭支援センター会議で情報、資料収集を行い全センターの状況を把握した。3.児童家庭支援センターは付設されている本体施設の機能を活用し、地域の子育て支援機能を果たしていることは実証できた。しかし地域偏在、センター間の活動内容、利用状況の差が大きいこと、児童相談機関としての位置づけが明確でないこと、本体施設の運営、養護実践自体が厳しい状況下でセンター付置が容易でないことなど、多くの課題が明らかとなった。
著者
楢崎 幸範 田上 四郎 山本 重一 濱村 研吾 力 寿雄 天野 光 大久保 彰人 安武 大輔
出版者
福岡県保健環境研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

北部九州の広域で観測される大気汚染について2010年~2012年の春期を中心に同位体化学を含む環境動態解析及び健康影響評価を実施した。西日本では大気環境が悪化し,春先から梅雨にかけて都市部以外でも空がかすむ現象が頻発した。汚染大気中には化学物質の他,黄砂や花粉が観察された。これらの複合大気汚染が原因で鼻炎の悪化,アレルギー疾患,呼吸器疾患等の増加が懸念された。なかでも,2010年5月20~21日には越境大気汚染物質によると思われる濃い霧に包まれ,視程が悪く鉄道や航空機等の交通機関に支障をきたした。この間,黒色炭素,硫酸塩,鉛,オゾン及びベンゼン等の人為起源成分が高濃度で検出された。この濃霧は1945年のロサンゼルスと同様なメカニズムで発生していたことを突き止めた。また,同時に大気汚染物質に曝された黒い黄砂の存在を明らかにした。
著者
高橋 義雄
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

昨年は、多くのスポーツ種目のトップアスリートが雇用され、トレーニングできる環境を与える市場による経済システムについて調査してきた。しかし平成不況による業績不振、さらには資本の国際化により海外投資家や機関投資家らによる事業の見直しもあり、アスリートを雇用してきた企業が本来の事業ドメインとは異なるトップアスリートの育成から撤退している。そこで本年度は、文部科学省が推進している総合型地域スポーツクラブにおける競技力向上に関連する経済的なシステムについて、ヒアリングや質問紙調査を実施した。特にスポーツ競技連盟などのNPO組織が、トップアスリート育成を直接実施している事例をとりあげ、NPO組織と行政、企業との連携を考察した。具体的には、鶴岡市水泳連盟の事業である鶴岡スイミングクラブを調査した。そこでは公共財である市民プールの運営委託を受け、運営・管理するとともにアスリート育成システムを構築している。直接の公共投資ではなく、ソフトの部分をNPOが請け負うことで、公的資金をアスリート育成に還流させるシステムである。このような公的資金を還流させるシステムに成功している競技団体に共通することは、学校では施設や指導者の関係でアスリート育成が難しい点である。例えば、温水プール、スケートリンク、スキージャンプ、スキーアルペンなどである。学校施設ではないために、競技者の意思により選択されるために、アスリートのモチベーションが高く、そして施設の維持管理のために市場とともに公的な資金が支えていることが共通していた。これらの結果から、総合型地域スポーツクラブが単に学校スポーツクラブの代用になるのではなく、アスリート自らの選択が可能となる選択の多様性の確保が大事であることが示唆された。また競技団体やクラブ、学校などが組織横断的にコミュニケーションをとること、さらには今後の資金現となるスポーツ振興投票の配布先についても多様なニーズを汲み取る必要性が示唆された。
著者
小林 芳恵
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

平成17年度は、本研究の目的達成の為に、バルトリハリ著『ヴァーキヤパディーヤ』第三巻及びそれに対するヘーラーラージャの注釈「プラカーシャ」について、次の研究を実施した。まず、前年度のインド渡航時に収集した写本写真を含む現在使用可能な『ヴァーキャパディーヤ』及び「プラカーシャ」の写本資料を整理し、同時にコンピューター上で画像ファイル化した。これによって写本使用の便が図られ、かつ永続的な保存が可能となった。次に、それら収集・整理された写本資料を利用して、『ヴァーキャパディーヤ』及び「プラカーシャ」のこれまでの読了部分、すなわち第一章「種詳解」章前半分(第一詩頌から第四十詩頌まで)、第二章「実体詳解」章、第四章「再実体詳解」章、第五章「属性詳解」章について、テキスト・内容・翻訳を再検討した。その成果は広島大学に提出予定の学位請求論文「ヴァーキャパディーヤ研究」に附論として収録の予定である。同論文は、既発表の論文を含むこれまでの研究成果と本科学研究費による成果等を集大成するものであり、それによって、抽出された語意の観点からバルトリハリの言語理論が明快に示されることとなろう。なお、研究計画において同論文は本年度中に広島大学に提出される予定であったが、『ヴァーキャパディーヤ』及び「プラカーシャ」の写本の整理編集作業と写本研究の成果反映に予定外の時間と労力を要したため、今年度中の提出は見合わせざるを得なくなった。しかし研究の内容そのものに変更がないことはいうまでもない。そのほか前年度に開催された国際バルトリハリ学会での口頭発表の内容を論文としてまとめた。近刊の同学会報告書に掲載予定である。
著者
大石 芳裕
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の主テーマはグローバルSCMの現状と課題およびその成果の研究であるが、これらを定量分析(アンケート調査)や定性調査(インタビュー調査)を通して明らかにしている。その結果、グローバルSCMに取り組んている企業はすべて多かれ少なかれ一定程度の成果をあげているものの、それは一直線に向上するものでもなく、また必ずしも短期間で表れるものでもないことが分かりつつある。グローバルSCMを成功させるための条件にはいくつかあるが、経営者のリーダーシップ、流通業者との提携(精度の高い需要予測)、納入業者との提携(柔軟な調達体制)、受注生産に対応できる効率的な生産体制などがとりわけ重要な成功条件である。グローバルSCMに取り組み一定の成果をあげている企業は、まずこの4条件を満たしている。「延期・投機理論」的に言えば、投機から延期ヘシフトするSCMは、変化する需要にすばやくかつ的確に対応する必要がある。しかし、その成果が出るまでに時間がかかり、経営者の強い信念とリーダーシップを不可欠とするのである。リードタイムの短縮や在庫削減、欠品率低下などの成果は、良好な企業では一時的にかなり向上する。しかしながら、リードタイムの短縮はロジスティクス・タイムの制約を受けるし、在庫も少なすぎると柔軟性を欠くようになる。欠品率はメーカーと流通業者との提携によっても変化する。国内のSCMでさえそれらは簡単に克服できる課題ではないが、グローバルSCMではますます困難てある。グローバルSCMの経営成果が紆余曲折するのもそのためである。今後は、このような課題についても研究し、成功条件をより深く探索したい。