著者
小葉竹 重機 清水 義彦
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

森林の気候緩和効果に関して、観測とその結果に基づくシミュレーションモデルの構築という2本の柱を中心に研究を進めた。観測は大学から北約1. 5kmの山林のふもとにおける気温と湿度、大学構内に設置した簡易型総合気象観測装置による気温、日射、風速、風向、雨量について行い、この他に桐生市のアメダスの記録も収集した。さらに、異なった地被のもとでの夏期における気温、放射収支の計測も行った。得られた結果を要約すると以下のようである。1.地被の異なる場での気温、放射収支の観測から、夏期にはアスファルトと土の面上の気温差は2℃程度となり、アスファルトでは夜9時を過ぎても地面からの放射が50W/m^2程度残っている。2.夏期の日中の表面温度を熱収支式から検討したところ、アスファルトでは約60℃程度になることがわかった。これは浅枝等によって得られている値と同じである。3.森林の近傍にある孤立樹木の木陰で観測した気温と、大学に設置している簡易型総合気象観測装置による気温、および桐生市アメダスの観測結果を比較したところ、夏期には約2℃〜3℃程度森林の方が気温が低いことがわかった。また、日射の強かった日の夕方の数時間は、アスファルト等で舗装された地被の場合と比較すると5℃程度森林の気温が低くなる。これらが夏期の気候緩和の効果である。4.また、冬期には風が強い日の日中に森林の方が気温が高くなる場合がある。これは森林以外の観測地が風の通り易い場合であることと、それらが川沿いであることに一因がある。5.森林と大学の観測塔の気温差あるいは森林とアメダスの気温差の変化の様子は季節によって異なり、日射の効き方も季節によって異なる。正確な再現には厳密なシミュレーションモデルが必要である。6. LESモデルを用いた3次元モデルの構築を目指したが、熱収支式を取り込むところまで進めなかった。
著者
江藤 剛治 竹原 幸生 中口 譲 梶井 宏修 高野 保英
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.河川や海岸におけるPTVの適用技術の開発(1)効果的なトレーサーの自動認識技術を開発した。カラー画像を用いた判別分析、および粒子候補の継続時間(2秒以上継続するものが粒子候補)による判別の組み合わせにより、水面のさざ波により反射する多数の光点と、トレーサー粒子を、誤認率1%程度で識別することができるようになった。[江藤・竹原・高野ら:土木学会論文集](2)淀川、鳥取海岸等で、実際にヘリコプターや繋留気球を用いてPTV計測を行った。淀川ではグランドツルースとして、同時にADCPによる流れの空間3次元計測を行った。PTVによる計測結果とADCPによる計測結果は比較的良く一致した。[江藤他:水工学論文集、河川技術論文集等](3)風波発生時の波と流れのPTVによる同時計測技術を開発中した。[竹原(海岸工学論文集等)]。(4)同時に水質のグランドツルースとして淀川における窒素やリンについても実測を継続し、季節変動特性を明らかにした。[中口]2.繋留飛行船等による大気サンプリング技術の開発(1)繋留飛行船(微風時)や大型カイト(やや強風時まで)の係留索に、高度別に吊り下げることが可能な大気サンプラーを開発した。[中口・高野](2)実際にサンプリング実験を行った。NOx濃度やSPM濃度の計測値において、高度50m程度で濃度が最大になり、100m程度では再び濃度が下がる、ダストドームが生じていることが確認された。ダストドームは繋留飛行船に搭載したカメラで撮影した画像からも確認できた[中口・高野]。3.関連して得られた研究成果今回の科学研究費で購入した赤外線ビデオカメラを用いて、水域のローカルリモートセンシング以外にも以下のような貴重な研究成果が得られた。(1)交差点の管理における赤外線ビデオカメラの利用技術の開発[江藤]人体レベルにおける熱環境計測[梶井]
著者
河井 宏允
出版者
東京電機大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

300m以上の高さを持つ超高層建築物では,風荷重がその構造設計にとって支配的な荷重となる。このような超高層建築物では,従来の建築物では問題とはならなかった渦励振やギャロッピング,フラッターなどの空力不安定振動が生じ,振動振幅が急増し建築物が崩壊する恐れがある。本研究では,超高層建築物に対するこれらの空力不安定振動の発現の条件,発現の防止方法を風洞実験を主体として検討した。検討の結果,以下のことが判明した。(1)奥行きの短い断面の建築物では,都市内のような乱れた剪断気流中でも,渦励振が生じ,場合によっては,建築物が破壊される恐れがある。(2)渦励振が生じる風向は,風が面に直角に当たる所謂風向0°から高々15°程度の範囲であり,風が斜めから当たる場合には,激しい渦励振は生じない。(3)曲げ振動はねじり振動の影響は殆ど受けないが,ねじり振動は曲げ振動の影響を大きく受ける。両者の固有振動数比が1に近い場合,振動エネルギーが相互に移動し,ねじりフラッターは却っておきにくくなる。固有振動数が離れている場合には,ねじりフラッターは曲げ振動の影響を受けず,低い風速から発振する。(4)建物の角面を取ったり,丸めたり,或いは欠くとった変更は,渦励振などの空力不安定振動に極めて有効である。また,角付近に非常に小さなルーバーなどの突起物を付けることも振動防止に有効である。角の変更は,角が欠く方法が最も有効であり,その場合欠く部分は幅の1/20以下の方が良い。これは従来の実験で確かめられているものよりずっと小さく,わずかな設計変更により,渦励振を防止できる可能性を示している。
著者
里村 雄彦 沖 大幹 渡辺 明 西 憲敬
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

ドップラーレーダー解析研究では,タイ気象局(TMD)チェンマイレーダーとタイ王立人工降雨農業航空局(BRRAA)オムコイレーダーを中心に,1998-2000年のモンスーン雨期のレーダーエコー強度を解析し,その特徴を調査した。その結果,どちらのレーダー観測範囲においても,下層のエコー全面積はモンスーン雨期を通じて,昼前に急速に面積を増大して15-16時に最大を迎え,夜から翌日の朝にかけて緩やかに減少するという顕著な日変化を示すことがわかった。次に,観測範囲に欠けがないオムコイレーダーデータを中心に,詳しいエコー解析を行った。まず、エコー移動方向の解析を行ったところ,5-7月はほぼすべての日の大多数のエコーが近辺の対流圏下層と同じ風向の南〜南西風と同じ向きに動いていること,10月前半はエコー移動方向も卓越風向も逆転していることが明らかとなった。さらに,レーダー観測範囲の南半分を山岳地形にほぼ平行な11本の帯に分割し,それぞれの帯領域内のエコー面積の日変化を調べた。その結果、5-7月の南西モンスーン期においては,タイ北部山脈風上側のベンガル湾およびミャンマー海岸地域では朝に,山岳地域では午後に最大となる日変化をしていた。しかし,風下側にあたるタイ北部では,山岳からの距離が離れるとともにエコー面積増大の開始時刻や最大時刻が遅れることを,明瞭に示すことができた。さらに,風向の逆転した10月にも,風下側で同様な位相の遅れを認めることができた。雲解像モデルによる数値実験においては,スコールラインの東への移動がインドシナ地域の降水日変化の主要な原因であるという結論を得た。この数値モデルから提案された仮説が,上記レーダー観測から証明された。気象衛星赤外データと雨量計網を用いた解析研究では,バングラディシュからインドシナ半島全体に及ぶ広い範囲での降水日変化の様子を,詳細に調べた。その結果,降水日変化には海陸の差だけでなく,たとえば同じインドシナ半島内でも夕方から夜の早いうちに最大となる平原部や,深夜から夜明け前に最大になる一部山岳域など変化に富んでいることが明らかになった。また,3次元領域気候モデルによるインドシナ半島の長期間シミュレーションによって,タイ東北部の森林伐採がインドシナ半島の降水に与える影響を評価した。その結果,森林伐採を行った地域での平均降水量の減少は9月に発生にすることがわかった。これらデータ解析と数値実験の結果から,南西モンスーンが強い8月には十分な水蒸気が供給されるために森林伐採の影響は少なく,季節風の弱まる9月に局地的な森林伐採の影響が降水量減少となって現れると結論できた。
著者
榊原 保志
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,都市表面形状が夜間ヒートアイランドに与える影響について検討したものである.まず,都市モデルと郊外モデルを用いたスケールモデル実験とヒートアイランドの調査資料を基に,長波放射収支量の都市内外の違いに関与する天空率が夜間ヒートアイランドとの関係を検討した.スケールモデル実験の結果,都市の天空率が大きいとこの効果は小さく,都市内外の気温差にあまり影響を与えないことが分かった.つぎに,都市表面パラメータによって高層住宅地と低層住宅地を比べると,天空率,緑被率,建蔽率では両住宅地の違いは小さいが,高層住宅地の容積率やラフネスパラメータは低層住宅地よりはるかに大きくなった.そこで,当地域に共存する高層住宅地と低層住宅地の夜間のヒートアイランド強度ΔTu-rと風速の関係を検討したところ,どちらの住宅地でも風速が大きくなるにつれてΔTu-rは少しずつ小さくなるのに対し,その上限値は単純に小さくなるのではなく,ある風速を頂点とする山型になった.さらにこの最大値が生じる風速は高層住宅地では風速1.4m/sであるのに対し,低層住宅地では0.8m/sと小さかった.これらのことから,都市表面の大きなラフネスによる機械的混合が夜間ヒートアイランド形成原因に有力であることが示唆された.小都市における建蔽率,容積率,天空率,ラフネスパラメータ等の地表面パラメータの分布について調べた.その結果によると,いずれの地表面パラメータも都市が高く都市を中心とする同心円状の等値線が得られた.そして地表面パラメータはいずれも0.8程度の気温偏差との相関が見られた.
著者
岩下 誠
出版者
青山学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

1資料・史料蒐集と読解:平成21年3月より翌22年3月まで一年間にわたってバーミンガム大学において在外研究に従事し、Lambeth Palace Library等を始め複数の図書館や地方文書館を訪れて史料調査を行う傍ら、バーミンガム大学のデジタル・アーカイヴズを駆使して史料蒐集と整理を行った。現時点で、21年度に蒐集した史料の5割程度の読解を完了した。2研究論文の執筆その他:今井康雄編『教育思想史』(有斐閣、2009年)にジョン・ロックの教育思想に関する論文を寄稿した。また、サラ・トリマーの教育活動に関する論文を21年7月に脱稿した。これは、Malcolm Dick and Jane Martin(ed.), Recovered from Hisrory : Women, Children and Education in the Eighteenth Century(Brewin Books, 2010)に掲載予定である。さらに、国教会系の民衆教育団体である国民協会の設立に関する論文を脱稿した(平成22年4月に、History of Education Society(UK)に投稿予定)。3学会発表その他:ユトレヒトで行われた国際教育史学会、イギリス・シェフィールドで行われた教育史学会をはじめ、複数の学会や研究会に参加し、内外の研究者と交流した。また、平成21年12月には、バーミンガム大学において国民協会の設立に関する口頭発表を、DOMUS Seminarで行った。4研究成果の意義と重要性:ロックに関する論文は、ロック思想を重商主義国家の統治技術として読解したものであり、本研究の思想史的側面の一部をなす。トリマー論文は2007年に発表した論文の英訳であるが、在外研究中に蒐集した一次史料を加えてより実証性を高めた。国民協会に関する報告および論文は、国民協会成立における国教徒内部の葛藤と調整の存在を明らかにし、19世紀初頭における国制変化の一部として国民協会の設立を理解する視座を示したものであり、このテーマに関する内外初の研究としてオリジナリティを有するものであると同時に、本研究の中核をなす成果であると確信している。
著者
榎並 正樹 増田 俊明 平原 靖大
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

顕微ラマン分光装置に組み込むための,超小型点接触変形装置を設計・製作した.この装置は,結晶にかかる局所応力のその場(in-situ)観察をすることを目的とし,精密可動ステージ,超小型ロードセル,アンプとダイヤモンド圧子からなり,試料への荷重の調製は手動で行う.変形観察する試料は石英の単結晶薄板であり,その下面をダイヤモンド圧子で点接触変形させ,それにともなうラマン・シフトの様子を,上面より薄板を通過させたレーザー光で観察する.1. この装置を利用して点接触変形をおこした際のデータと比較するために,まず応力解放後点接触面の2次元マッピングを行い,接触痕と残留圧力分布の関係を解析し,その結果を論文投稿した(投稿中).2. 点接触面の点分析により,石英とは異なる複数のピークが観察された.これは,点接触により,石英とは異なるSiO2相が掲載されたことを強く指示する.現在このピークの同定および,加重のキャリブレーションを行っている.3. ラマン分光分析の鉱物学的研究への適用例として,Enami et al.(2007)によって提唱されたラマン残留圧力計を,三波川変成帯高温部に適用し,エクロジャイト相変成作用の痕跡を検出する試みを前年度に引き続き行った.その結果,(1) 従来はエクロジャイト相変成作用の痕跡が報告されていなかった変泥質岩も,エクロジャイト相の圧力に対応する残留圧力を保持している場合があること,(2) そのような岩石中には,エクロジャイト相を代表すると思われるオンファス輝石やアラゴナイトが,ざくろ石中の包有物として産する場合があることが明らかとなった.これらの成果に関する論文2編を投稿中である.
著者
菊池 洋 梅影 創
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

ランダム配列のRNA集団の中から生体分子に特異的に結合できるRNA分子を選択増幅し、得ることができ、この分子を丁度抗体のように利用できる。この分子をRNAアプタマーという。RNAアプタマーを開発するためには、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法を中心とする人工進化系が採用されるのが一般的である。本手法は、一度の操作で複数のRNAアプタマーを取得しようとするものである。これまでに、ヒト前立腺癌細胞の可溶性タンパク質を標的としたSELEX法を実施した結果、昨年度問題となった非特異的RNA結合タンパク質の存在によるSELEXの進行阻害の問題が本年度はある程度解決され、(1)SELEXのターゲットが複数存在しても人工進化させることが可能であること、(2)特異的な結合能を有するRNAアプタマーの選択が可能であることが示された。このような、網羅的なアプタマー創製に関する報告はこれまでなされておらず、当研究室オリジナルの手法であると自負している。特許出願を念頭に実験系の改良を行っているところである。また、本年度、網羅的に得られるRNAアプタマーのターゲットタンパク質を網羅的に同定するために、網羅的ノースウエスタン法を考案した。この手法は、網羅的なタンパク質ターゲットサンプルをメンブレン状に固定化し、蛍光ラベルした網羅的RNAアプタマーを結合させ、イメージアナライザーによって検出しようとするものである。この手法は予備的な段階であるので、まだ改良の余地が残されているが、特異的なアプタマーの結合が観察されており、メンブレンからRNAアプタマーを回収し、RT-PCRによって増幅可能であることも確認している。
著者
川上 智子 岸谷 和広 竹村 正明
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,技術受容モデルとネットワーク外部性に関する研究展開を融合し、対人クチコミやネットクチコミといった消費者行動との関連等を概念モデルとして定式化した。そして、携帯型家庭用ゲーム機、スマートフォン、ブルーレイDVDレコーダー、電子書籍リーダーといった製品カテゴリーについて、購買者・非購買者対象の質問票調査を毎年実施し、大規模サンプルのデータによる仮説の検証を行い、理論的・実践的示唆を得た。
著者
村田 靖次郎
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

フラーレンC70の内部に1個または2個の水素分子が内包された場合、フラーレンπ共役系がどのような影響を受けるかに興味がもたれる。そこで、最近当研究室で合成された水素内包C70の外側への付加反応を検討した。(H2)2@C70、H2@C70、C70の混合物(モル比,2:70:28)と0.44当量の9, 10-dimethylanthracene(DMA)をo-dichlorobenzene-d4(ODCB-d4)に溶解させ、30、40、50℃における平衡混合物の1H-NMRスペクトルを測定した。その結果、DMAの付加により生成した(H2)2@1およびH2@1の内包水素がδ21.80およびδ22.22に観測され、いずれも未反応の(H2)2@C70(δ23.80)およびH2@C70(δ23.97)のものより低磁場にシグナルを与えることがわかった(化合物1は、C70とDMAの付加体)。これらの内包水素のシグナル比ならびに1H-NMRより見積もった未反応DMAの濃度から、各温度の平衡定数K1およびK2を算出し、ファントホッフの式よりΔG1およびΔG2をそれぞれ計算した(Table1)。その結果、K2はK1より約15〜19%小さいことがわかった。すなわち、内包水素分子の個数により反応の原系と生成系のエネルギー差が影響を受けることが明らかとなった。
著者
鈴木 博 府川 和彦 須山 聡
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

将来のマルチメディア通信に向けて,高速・高信頼移動パケット無線の研究を理論と実験の両面から行った.MIMO-OFDM伝送システムを中心に検討した.送受信側で複数アンテナを用いるMIMO技術と,広い帯域幅を直交分割するOFDM技術により通信路容量の最大化を図る.統計的ディジタル信号処理の導入による高性能化,位相雑音等による劣化の低減化,広帯域ミリ波帯の開拓を行った.当初の研究目標はほぼ達成された.
著者
澤田 健二郎
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

卵巣癌腹膜播種には、上皮細胞間の接着因子であるE-cadherinの発現抑制によって誘導されるIntegrin α5が重要な役割を果たしており、Integrin α5の分子標的治療は卵巣癌腹膜播種の抑制に有用である可能性を証明した。また、妊娠初期において絨毛細胞が母体子宮筋層内に浸潤する際に、低酸素刺激によるE-Cadherinの発現消失から誘導されるIntegrin α5の発現が重要な役割を果たしていることを臨床胎盤検体のデータを併せて証明した。
著者
中谷 伸生
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本の近世絵画において、これまでほとんど研究がなされなかった大坂の戯画を採り上げ、江戸時代絵画史の重要な一領域を研究した。耳鳥齋(1751年以前-1803年頃、俗名松屋平三郎)は、江戸時代中期、商人の町として賑わう大坂で戯画作者として名をはせた画家である。京町堀で商いをする傍ら、絵画や浄瑠璃を嗜み、とりわけ戯画の世界で異才を放った。京都や江戸に比べ、大坂はアカデミズムとは一線を画す土地柄であるが、商人の町ならではの自由闊達な気風は、狩野派などの職業画家とは一味違う多彩な画家を輩出した。そして、耳鳥齋もまた、大坂的趣味を戯画で表現した、いわば「笑いの奇才」である。芝居絵から風俗画、あるいは版本に至るまで、作品は略筆ながらも当意即妙というべき適確さと「おかしみ」とを合わせもち、「世界ハ是レ即チ一ツノ大戯場」と堅苦しい世間を批判した。この研究では、美術館・個人所蔵家を徹底して調査し、真贋の問題を解明しながら資料整理を進め、耳鳥齋と大坂の戯画について新知見を得ることに成功した。また、東アジアにおける戯画の状況を把握するため、中国に調査に出かけ、版本など多くの比較資料を収集することができた。今回は、代表作「別世界巻」や「仮名手本忠臣蔵」などの肉筆画に、『絵本水や空』といった版本を加え、その画業の全貌を調査研究した。また、中村芳中や月岡雪鼎らによる人物戯画、さらには漫画の元租ともいえる鳥羽絵をも交えて大坂の戯画の系譜を浮き彫りにした。以上、きわめて独創的な研究成果が上がったと考えられる。
著者
大久保 恒夫
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

当該課題に関して最終年度であるが所期の成果を挙げることができた。すなわち,(1)種々の大きさの2種のポリスチレン粒子の組み合わせからなる二元合金構造を沈降平衡下で発現させた。電気2重層を含む粒子の実効径の比に応じて種々の合金構造や超格子が発現した。また反射スペクトルのピ-ク波長の高さ依存性からコロイド合金の結晶弾性率が求められた。18〜108Paであった。(2)二元コロイド合金構造などの構造化コロイド分散液の粘度特性を明らかにした。合金構造を発現している分散液の比粘度は混合比のわずかな変化により大きく変化した。鋭いピ-クが1個ないし2個出現した。(3)高度な単分散性粒子を完全に脱塩することにより2〜8mmにも及び巨大なコロイド単結晶を発現させることに世界で初めて成功した。コロイド結晶の成長過程の速度論的解析やコロイド単結晶のモルホロジ-研究に道を拓くものである。(4)コロイド単結晶がクリスマスツリ-上のランプのように明滅する現象を初めて見い出した。これは,単結晶の回転のブラウン運動にもとずくことが判明した。(5)多種類のコロイド結晶系の弾性率の測定を完成し,定式化に成功した。(6)コロイド結晶の融解温度を測定した。実測値は湯川ポテンシャル(斥力)を用いた理論に良く一致した。また,コロイド結晶が融解する臨界濃度も脱塩が完全になるほど低濃度側へシフトした。(7)コロイド分散液の屈折率特性を明らかにした。(8)コロイド粒子の回転拡散定数をストップトフロ-法で決定し,顕微鏡法で粒子の並進拡散定数を直接決定した。電気二重層や粒子間の静電的斥力が重要であることを裏づける結果を得た。(9)中性高分子および高分子イオン溶液の特異的粘度挙動を通じて電気二重層の重要性が示された。(10)包接的会合反応などの高速反応の速度論的解析を行った。(11)その他,単分子膜内のアルカリ加水分解反応の解析を表面張力法で行うユニ-クな手法を開発した。
著者
岩崎 博之
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

31年間AMeDASデータと高層気象データを利用して,近年,北関東山岳域の南側で日没後の豪雨(25mm/hr)が増加し,かつ,大気中の水蒸気量も増加していることを示した.また,数値モデルの結果から,大気中の水蒸気量が増加すると,この領域での日没後の積乱雲活動が活発することが示された.近年の水蒸気量の増加が,北関東山岳域の南側での積乱雲活動の活発化に寄与している可能性が示唆された.
著者
小林 正幸 石原 保志 三好 茂樹 白澤 麻弓
出版者
筑波技術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

発話内容をリアルタイムで速記用キーボードに入力することで、受講者の漢字の読み能力に応じた難読な漢字のみにルビを自動的に付加して字幕を提示する学年別ルビ付きリアルタイム字幕提示システムを開発した。学年別ルビ付き字幕は小学1年~6年、中学、高校の学年に対応し、携帯電話、スマートフォン、タブレット、ワンセグや地デジ生字幕放送にも提示可能で、聴覚障害者用の情報支援として利用できる。
著者
西川 長夫 米山 裕 高橋 秀寿 今西 一 麓 慎一 石原 俊 宮下 敬志 李 〓蓉
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

近代としての「帝国」を、その世界的な支配秩序の形成過程に巻き込まれてきた人びとの経験の場から実証的・理論的に捉え直すことを目的とした本研究では、それぞれの「植民地」における個々の歴史的実態を解明するためにフィールドワークを重視した。日本国内と韓国での複数回にわたる国際シンポジウムの開催と現地調査、およびそれらを踏まえた研究交流を通じて「帝国/植民地」の形成過程に関する比較分析を蓄積し、グローバル化時代における「国内植民地主義」の更なる理論化を準備した。
著者
島内 節 小森 茂 佐々木 明子 友安 直子 森田 久美子
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的はFOMAによるテレビ電話を用いて利用効果がでやすい在宅ケアニーズ・利用にあたってのコミュニケーション方法・指導やケア技術内容、を高齢者側とケア提供者の調査により明らかにした。テレケアの有用性評価は37ニーズ項目中27項目にケア効果がみられた。医療処置を多く要する利用者ほど、テレケアの利用によりケアニーズが「改善」あるいは「解決」に向かう傾向がみられた。また本人からは、テレケア機器があることで「訪問看護師とつながっている感じがする」「安心感がある」などの意見が多く聞かれた。また利用者よりもさらに看護師の方がテレケアに対する有用性の評価が高かった。機器を利用することによるケア項目別の有用性の評価で本人が高い上位項目は、「早期発見」「コミュニケーション」「観察」であった。看護師では、「相談」「観察」「早期発見」であった。医療依存度の高い利用者ほど両者ともに「早期発見」「観察」の項目が高かった。FOMAの利用は家族介護者よりも看護師において有効度と満足度がより高い変化を示した。FOMAを用いることを仮定した意識調査では本人の期待値が看護師より高かったが、実際利用するとその逆の傾向が見られた。家族介護者はFOMAの画面が小さすぎて見にくいとの声もあり、高齢者には画面拡大により効果・満足度が高められることが示唆された。
著者
沢田 信一 葛西 身延 荒川 修
出版者
弘前大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

高密度区のダイズ植物は相互遮蔽状態にあり、植物個体間で互いに光要因に対して競争状態にあった。これに対して、低密度区のダイズ植物は孤立個体状態で存在し、個々の葉は常に充分な光を受け光合成を行える条件にあった。そして、高密度区の植物の上層部の充分な光を受けている葉の光合成速度は午後も午前と同様な高い光合成速度を維持していた。しかし、低密度区の植物の午前の光合成速度は高密度区と同様に高かったが、午後には大きく低下する傾向が認められた。以上の結果から、高密度区の植物は個体全体として制限された光条件下にあり、個体として充分な光合成生産を行う事が出来ずにsource能がsink能よりも低下(source-limit)していたために、群落上部の充分な光条件下に有った葉は常に高い光合成能を維持していたものと考えられる。これに対して、低密度区の植物の全ての葉は常に充分な光条件下で光合成生産を行う事が可能であった。それにも係わらず、午前に比べ、午後の平均の光合成速度が大きく低下した理由は低密度区の植物においては、source能がsink能に比べて大きかった(sink-limit)事によると考えられる。また、高密度区に比べて、低密度区の植物の平均のsucrose含量が高かったこと、RuBPcaseのInitial activityが低かったこと、RuBP含量が高かった事は、これまでの研究において、ダイズ初生葉から作られたsource-sinkモデル植物をsink-limit状態に置いた場合に認められた実験結果と一致した(Sawada et al,1986,1987,1989,1990,1992,1995a,b)。しかしながら、光合成速度、RuBPcase活性およびsucrose,RuBP含量の個々の値には大きな固体差が認められた。また、これらの個々の値の間の相互関係についてみると、これまでsink-limit状態に置いたモデル植物において認められたこれらの値の相互関係とは必ずしも一致しなかった。これらの理由として、次の事項が考えられる。1)この種の実験には、全日晴天の日が数日つずくことが必要である。2)植物体の生長が均一であることが必要である。3)光合成速度その他の測定及び葉の含有物を定量する葉のage、および植物とその葉の置かれた環境条件が均一であることが必要である。以上の点を充分に配慮してこの種の実験を継続する事を考えている。
著者
松尾 七重
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は我が国における就学前教育と小学校低学年教育の接続を考慮した幼児・児童のための連携図形教育プログラムを確立することである。そのために,図形教育に関する問題点を解明するための調査を実施し,その結果及びアメリカ合衆国の就学前教育の研究プロジェクトの成果を踏まえ,就学前の幼児及び小学校低学年の児童を対象とした図形に関する指導の内容,配列及び方法を構想した。また,その指導の一部を実施し,その前後で質問紙調査等を行い,その効果を検証し,その結果を基に,幼児と児童を対象とした連携図形教育プログラムを提案した。