著者
深田 吉孝 富岡 憲治 河村 悟 津田 基之 徳永 史生 塚原 保夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

交付申請書に記載の研究実施計画に沿って研究を進め、以下の知見を得た。【視覚の光情報伝達】種々の部位特異的変異を導入した光受容蛋白質を作成して光応答特性を調べた結果、光受容蛋白質の特性(桿体型または錐体型)を規定するアミノ酸を同定することに成功した(七田)。また、脊椎動物視細胞に発現する諸蛋白質の性質を検討し、カルシウム(河村、深田)あるいはリン脂質代謝系(林)を介した未知の光情報調節機構があるという証拠をつかんだ。一方、無脊椎動物については、ロドプシンキナーゼの一次構造を決定し、脊椎動物のロドプシンキナーゼとβアドレナリン受容体キナーゼの両者の特徴を併せもつことを明らかにした(津田)。この事実は、無脊椎動物のロドプシンが脊椎動物の光受容蛋白質と古くに分岐して以来、独立して進化し、色覚などの視覚システムを発達させたという知見(岩部、深田、徳永)と矛盾しない。【光受容系と概日時計】節足動物の視葉におけるセロトニンやドーパミンの量に概日リズムがあることを見出し、その投与により視覚ニューロンの光応答特性が変化することから、生体アミンによって周期的に視感度が調節されている可能性が考えられた(冨岡)。魚類においては光以外に温度がメラトニン合成の概日リズムを規定する重要な環境因子であることが判った(飯郷)。また、ヤツメウナギやカエルの松果体・脳については、光受容蛋白質やセロトニンに対する抗体を用いて、光受容細胞を幾つかのクラスに分類することができた(保、大石)。ピノプシン抗体を用いた免疫組織学的解析からは、鳥類の松果体におけるピノプシンの局在を示す(荒木、深田)と共に、濾胞を形成しない新しいタイプの光受容細胞を同定した(蛭薙、海老原)。一方、ショウジョウバエ変異体の概日時計に与える光の効果を解析した結果、口ドプシン以外の光受容系の存在が示唆された(塚原)。
著者
麻生 英樹
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

1.20年度に収集した食事嗜好に関するアンケートデータの解析結果をとりまとめた。想定状況と現実状況での嗜好の分布は有意に異なり、想定状況下では現実状況下よりも状況に関して理想的に影響を受ける傾向がある。この結果を国際会議(International Conference on User Modeling, Adaptation and Personalization, UMAP2010)にて発表した。2.階層ベイズモデリングを用いた状況依存な嗜好のモデル化について検討した。単純な加法的効果に基づく正規分布モデルを階層化したモデルを提案し、上記のデータおよび映画嗜好データに適用して、個人性や状況依存性のモデル化に有効であることを検証した。さらに、想定状況下のモデルと現実状況下のモデルを階層的に融合させるモデル適応方式を提案し、上記の食事嗜好データに適用して、モデル適応が有効であることを検証した。これらの成果について、研究会(2件)および国際ワークショップ(Workshop on Context-Aware Recommender Systems 2010)において発表した。3.3年間にわたる研究成果をとりまとめた。主要な成果は、想定状況下での嗜好と現実状況下での嗜好には構造的な差がありえることを明らかにしたこと、および、想定状況データと現実状況データを組み合わせるモデル適応方式について、ベイズ階層モデリングが有効であることを示したことである。収集した食事嗜好データは状況依存な嗜好モデル研究用に公開する準備を進めている。
著者
谷口 伸一 山崎 一眞
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究はエコ・ミュージアム(Eco-Museum)の本来の定義に基づき、以下の課題について実践的に研究する。(1)エコ・ミュージアム・マスタープランの設計手法を提案する。(2)ユビキタス技術を応用してエコ・ミュージアムに対応した学習型観光システムを研究開発する。(1)の研究に関しては、(1)彦根をテストベッドとするエコ・ミュージアムの形成、(2)エコ・ミュージアムの重要要素"elder"に相当する「語り部」の発掘と育成モデルの提案、(3)文化遺産の保護活動に関する方法論の提案からなる。(1)では彦根旧城下町地区の歴史遺産の特性や分布状況から6つのサテライトからなる「彦根エコ・ミュージアム」を提案した。(2)では「それぞれの彦根物語」と題した市民研究会を開催して、歴史、文化、自然、建築、観光などの分野から「語り部」を発掘した。本研究会は平成21度末で72回を数えるに至った。(3)では文化遺産としての価値が高い芹橋地区足軽屋敷の存続に向けて「彦根古民家再生トラスト」を立ち上げ、売却に出された足軽辻番所を地域住民が主体となって募金活動を行い買い上げた。この市民活動が行政を動かすことになり、彦根市が再生することになった。これらの研究は都市計画論と地域デザイン論に基づいて実践しており、エコ・ミュージアム・マスタープランの設計手法として提示できたと考える。詳細を「びわ湖世界の地域デザイン」として刊行した。(2)の研究に関しては、(1)QRコードに代わる当該地点の情報取得技術の開発、(2)コンテンツデータベースの構造化設計技法の確立、(3)観光者が発見や連想から学習する観光の仕組みづくりの実証研究を進めてきた。(1)ではおサイフケータイ(R)の普及が8割を超えているため3者間通信を利用した情報取得装置「ユビキタスみちしるべ」を開発し操作性を向上させた。さらにPICマイコンで制御し、太陽電池駆動のための省電力化を図るとともにSDメモリに記録された音声ガイダンスを実現した。なお、文字、画像、音声、動画などのマルチメディア情報の配信は携帯電話の通信機能を活用した。(2)ではデータベースの設計技法である実体-関連モデルとオブジェクト指向モデルの応用により、学芸員のような高度な知識がなくても観光魅力の概念拡張を含めて構造化設計ができる技法を提案した。(3)ではエコ・ミュージアムに定義される「発見の小径」を学習しながら散策できる「ケータイまち遊び検定」システムを作成した。さらに、携帯電話のGPS機能とカメラ機能により観光者の気づきや疑問をその場で撮影してWebサーバに送信し、それらを集約してGoogleの地図に重ね合わせる「ケータイまち遊びマイニング」も完成させた。これらのシステムにより物見遊山の観光から、点である観光魅力を深く理解し、さらにそれらを線としてつなぎ合せて文脈とする学習型観光が提案できた。
著者
寺本 あい
出版者
関東学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ニンジン、ジャガイモを用い各種加熱方法を試みた。加熱時間は圧力鍋(B)<保温調理器(D)<過熱水蒸気(A)<ゆで(C)であった。最適加熱後の試料は、硬さが同程度であっても加熱方法によりトータルの食感に差異があった。また、煮崩れはD<C<Bであった。野菜の軟化と関係が深いペクチン質の総量はA<D<C<Bであった。また、加熱後のジャガイモの官能評価における総合評価ではA>C>B>Dの順に高い評価が得られた。
著者
高津 裕通
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

太陽面における様々な活動現象は、太陽磁力線の繋ぎ変えをきっかけとして、磁場に蓄えられたエネルギーが開放される高温プラズマ現象であると考えられている。フレア等の質量放出現象により太陽から宇宙空間へ飛び出たプラズマは、磁気嵐を発生させることがある。磁気嵐は、電波障害を起こし、人工衛星の軌道に影響を与えることもある。また、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士や北極圏航路を飛行する航空機乗務員の、宇宙線による被爆にも関係している。フレアの発生を予報することができれば、これらの影響を最小限に抑えることができると期待されている。このように、太陽フレア等の発生メカニズムを解明することは、純粋学問上の意義だけでなく、我々の生活にも密接に関係した意義を持っている。しかしながら、太陽活動現象の発生メカニズムは未だ解明されておらず、さらなる研究が必要とされている。太陽フレア等の活動現象は、磁場の活動によるものであるが、そもそも太陽磁場は、太陽内部の対流層で作られる。この磁場が対流層を通り、太陽表面まで浮上することで、様々な活動を引き起こすことができる。我々は、この浮上磁場領域における対流構造を研究することで、太陽活動の素過程の解明に取り組んでいる。今年度は、昨年度に引き続き、京都大学飛騨天文台のドームレス太陽望遠鏡を使い、太陽活動領域の可視光観測を実施した。観測結果は、主にDVDディスクに保存された。解析結果として浮上磁場領域における発散対流構造が得られており、成果発表の準備中である。また同時に、ドームレス太陽望遠鏡主焦点での撮像装置の改良を行った。これにより、観測精度が向上した。また、スペインのラパルマ天文台で観測された高分解画像の解析を行い、その過程で解析方法の精度向上のために必要な誤差の見積もり方法を開発した。これらの結果は、日本天文学会秋季年会で発表され、論文として投稿準備中である。
著者
小田 啓二 山内 知也
出版者
神戸商船大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

宇宙活動に伴うシャトル乗務員の被曝線量測定、環境中ラドン濃度測定、個人中性子線量計等に利用されているCR-39飛跡検出器は、その製造過程、エッチング条件及び評価手法が研究者によって異なっているため、データの直接比較が出来ない状況にある。そこで、本研究では、これまで独立に基礎データを収集してきたサンフランシスコ大学(USF,米)、フランシュ・コンテ大学(UFC,仏)、ドレスデン工科大学(DUT,独)及び神戸商船大学の4チームが、統一された諸条件の下で軽イオン較正実験を行い、世界共通のデータベースとして確立することを目的とした。まずはじめに、1999年度までに3チーム個別に収集した水素同位体(p,d,t)およびα粒子のデータを見直すとともに、一部データを補充した。次に、4.8,6,8,10.8MeVのLiイオンを照射したサンプルを各チームに配布し、個別にエッチング処理およびデータ解析を行った。その結果、DUTチームの10.8MeVサンプルに対する評価値のみおよそ20%ずれていたが、その他のデータは概ね一致した。また、詳細に調べると、本来一本のレスポンス関数となるべきデータが、入射エネルギーに少し依存していることを見出した。同時平行で進めている潜在飛跡形成に関する基礎研究の結果から、表面に低感度の薄い層が存在しているためではないかと推論した。最後に、炭素イオンに関する実験を行った。この結果、3チーム間の評価値のずれがリチウムイオンより大きくなる傾向にあった。炭素イオンはリチウムイオンと比べてトラックエッチ率の変化が一層激しいため、特に飛跡終端での誤差が大きくなったためだと考えられる。このため、我々のチームでは、エッチング間隔を密に取るとともに、我々が開発したトラック追跡法も適用した。これらとの比較から、評価したレスポンスの誤差はエッチング間隔の選定が重要なファクターとなっていることを明らかにした。
著者
柴田 直 三田 吉郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

過去に経験した最もよく似た事例の連想・想起により、人間は迅速かつ柔軟にものごとの認識・判断を行っているという「連想原理」に基づき、我々はこれまで脳の機能を模擬した知能VLSIシステムの開発を行ってきた。本研究の主眼は、これまでの静止画像の認識に加え、さらに動画像の意味を理解できるシステム構築の基礎技術確立である。“What is it?"をさらに一歩進め、“What is it doing?"の認識を可能にするシステム高機能化の研究である。動きの理解には、先ず動画像から動きの情報を抽出し、それを特徴ベクトル表現に変換することが必須である。そのため、実時間の動き場生成VLSIプロセッサを新たな回路方式で実現した。アナログVLSIでは、時間領域演算に基づく新たなハードウェアアルゴリズムを導入し、500fpsでのnormal optical flow生成可能なCMOSイメージセンサを開発した。またデジタルVLSIでは、方向性エッジ情報を用いたブロックマッチング法を新規開発し、これにより超高速の高精度動きフィールド生成に成功した。このチップは、2.8GHzCPUを用いたソフトウェア処理と比較して、たった100分の1の遅い周波数動作で1000倍以上高速の高密度動きフィールド生成を実現した。また各瞬間の動きフィールドをコンパクトに表現する動き成分空間分布ヒストグラム(PPMD)ベクトル、さらにPPMDベクトルを時間的・空間的に積分してあるアクション全体を表現するMotion History Vector等のアルゴリズムを開発、前者は隠れマルコフモデルを用いて認識を行い、後者は従来の連想マッチングで認識を行う。これらのアルゴリズムにより、エゴモーションの認識、簡単なジェスチャーの認識、さらに動き物体の追跡がロバストに行えることを実証した。
著者
山崎 喜比古 井上 洋士 江川 緑 小澤 温 中山 和弘 坂野 純子 伊藤 美樹子 清水 準一 江川 緑 小澤 温 中川 薫 中山 和弘 坂野 純子 清水 由香 楠永 敏恵 伊藤 美樹子 清水 準一 石川 ひろの
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

病・障害・ストレスと生きる人々において、様々な苦痛や困難がもたらされている現実とともに、よりよく生きようと苦痛・困難に日々対処し、生活・人生の再構築に努める懸命な営みがあることに着眼し、様々な病気・障害・ストレスと生きることを余儀なくされた人々を対象に実証研究と理論研究を行い、その成果は、英文原著17 件を含む研究論文26 件、国内外での学会発表60 件、書籍2 件に纏めて発表してきた。
著者
吉村 長久 大谷 篤史 山城 健児 山田 亮
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

ARMS2遺伝子A69Sの迅速検出キットを作成した。A69S多型は滲出型加齢黄斑変性に対する光線力学療法後の視力予後に相関し、抗VEGF治療の後の視力予後には相関しなかったことから、このキットを用いることによって、個別化医療が実現できると考えられた。さらに他の候補として、VEGF遺伝子、PEDF遺伝子が治療後反応を予測し、精度の高い個別化医療の実現が可能であることが分かった。
著者
向後 恵里子
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、日露戦争(1904-05)の視覚イメージを、絵画作品や新聞・雑誌等を含む当時の多様なメディアを横断的・包括的に調査し、分析と考察を行うものである。従来未調査の部分が多く残されていた日露戦争と視覚文化のかかわりについて、基本的な見取図を描くことができた。また、戦争の表象をめぐる多様なあり方が明らかになるにつれ、日露戦争のイメージ形成の道筋が一つではなく多層的になされていること、戦争の推移に連れてその様相が移りかわってゆく様子をとらえることができた。こうした観察から、日露戦争の視覚イメージが、当時の社会状況と不可分であること、また「文明国」の「国民」を表象する傾向の多いことが明らかとなった。
著者
齋藤 昇 秋田 美代 跡部 紘三 村田 勝夫 佐藤 勝幸 今倉 康宏
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,教員養成大学大学院の開発途上国への設置に向けての学術調査研究を行うことを目的としている。学術調査の結果,次のことがらが明らかになった。1 ラオスの教育大臣,教育省教員養成局長から,ラオスへの大学院修士課程設置について,国として歓迎するとの意向を受けた。また,ラオス教育副大臣から,具体的な設置場所について提案があった。さらに,設置について鳴門教育大学への協力要請があった。2 ラオスの小・中・高等学校の学校制度は,5-3-3年制である。ラオスの教員養成学校卒業生の就学総年数は,14年間である。ラオス教育省は,中学校を4年制に改革する計画を立てている。3 ラオスの教員養成学校(8校)理数科教員の学力及び授業実践力は,かなり乏しい。ラオスの理数科教育の質を高めるためには,教員養成学校教員の質の向上が必要である。4 ラオスの教員養成学校の施設・設備,特に実験装置,実験器具・薬品類は,皆無に近い。大学院修士課程を設置する際には,それらの設備の充実が必要である。必要な設備の例を列挙した。5 ラオスの教員養成学校教員の学位取得状況は,修士が16%で,博士が0%である。また,教員養成学校教員の100%が修士課程の設置を希望している。6 ラオスの教員養成学校及びラオス国立大学教育学部のカリキュラムを調査し,それをもとにラオスに適する大学院修士課程理数科コースのカリキュラム案及び履修方法案を作成した。7 大学院修士課程のラオスへの設置に際して,タイのコンケン大学から連携協力の申し出があった。それに基づき,連携した場合のカリキュラム素案を作成した。
著者
多田 充裕
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、低出力レーザー照射の生物学的効果についてラットを用いたin vivo実験系を応用して実証することを目的とし、Type 2 collagenのブースター免疫による膝関節リュウマチの病態モデルを作成して半導体レーザー照射と自由電子レーザー(FEL)照射を行い、低出力レーザー照射による炎症抑制効果について検討を行った。実験動物はLewis系ラットを用い、初回感作としてウシII型コラーゲンを含むFreund's Adjuvant Incompleteのエマルジョンを背部に皮内投与し、初回感作の7日後に同エマルジョンを尾根部より皮内投与して関節炎を発症させた。低出力レーザー照射装置はGa-Al-As半導体レーザー照射装置(松下電器産業)を、FELは日本大学量子科学研究所電子線利用研究施設に設置されているものを用いた。レーザーの出力は2.2Wで総照射エネルギー密度は5J/cm^2であり、照射時間は500秒とした。動物は1群5匹として3群にわけ、第1群は無処置群、第2群はコラーゲン感作を行い数日おきにレーザー未照射で動物を固定するだけとしたレーザー未照射群、第3群はコラーゲン感作を行い数日おきにレーザー照射したレーザー照射群とした。実験期間中は、動物の一般状態を毎日観察し、週1回体重測定および関節部分の腫脹をノギスで測定し、頚静脈より血液を採取した。その結果、いずれの低出力レーザー照射によっても、実験的に引き起こされたラット後肢の腫脹を抑制することが認められた。また、炎症性サイトカインであるIL-1βおよびIL-6の血清中の濃度を測定したところ、レーザー未照射群に比較して照射群で有意に低下していた。これらの結果より、低出力レーザー照射によって腫脹抑制効果が得られたものと示唆され、低出力レーザー照射は副作用のない非侵襲的な抗炎症効果を期待しうる治療法であることが示唆された。
著者
金子 邦彦
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

細胞内部の化学反応ネットワーク、化学物質のやりとりによる細胞間相互作用、細胞内での反応の進行に伴う体積増加による分裂、の3つの機構だけをとりいれた構成的モデルの数値実験と理論研究を行なった。このような簡単なモデルでも細胞分化さらには幹細胞システムががあらわれることを既に我々は見出しているが、それを進めて今年度は以下を調べた。(1) 安定性:我々のモデルは(a)細胞内の化学成分のゆらぎにもかかわらず同じ細胞タイプがあらわれる(b)あるタイプの細胞を取り除くなどの大規摸な乱れに対しても、分化の比率の自発的制御により、もとの細胞分布が再現する、という2種類の安定性を有することを明らかにした。(a)については、そのために必要な分子の数などを調べ(b)についてはそのためのダイナミクスの性質を調べた。(2) 細胞が2次元空間の上で増殖していく場合のモデルを調べ、それによって幹細抱から派生したいくつかの細胞タイプが、同心円状、縞模様などのパターンをつくることを示した。これらのパターン形成過程は安定であり、たとえば一部をとりのぞくと再生する能力をもつ。このパターン形成は位置情報の生成過程としてとらえられ、特に位置情報と細胞内部のダイナミクスの間の相互フィードバックによって安定性が生まれることを示した。また細胞間の接着の違いを導入することにより、幹細胞→分化した細胞集団のコロニー→幹細胞の放出による次世代の細胞集団の誕生→残った細胞集団の増殖の停止、という多細胞生物のサイクルが簡単に生じることを明らかにした。
著者
杉山 卓史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度はまず、研究第一年次(平成16年度)に得られた成果である<『カリゴネー』におけるヘルダーのカント批判の意義は、カントの『判断力批判』における「超越論的」趣味論と人間学講義における「経験的」ないし「心理学的」趣味論との比較検討を促す点に存しており、趣味判断が主観的普遍性を要求するというカントの主張は、この比較検討によって捉え直されるべきである>という見解を承け、この比較検討を実践した。その結果、経験的・心理学的趣味論は人々が考えたことや感じたことを実際に伝達している「社会」という経験的な要素からトップダウン式に、そしてそれゆえ共通感覚概念によらずに趣味を規定する「社会的存在としての人間の陶冶」を意図するものであることが明らかになり、カント美学受容史に新たな理解の基軸をもたらしえた。次いで、研究第二年次に行ったヘルダーの共通感覚論の研究を、視点を変えてさらに継続した。具体的には、その音楽論におけるクラヴィーアのアナロジーに即して「五官」に「共通」の「感覚」と「人々」に「共通」の「感覚」との連関を検討した。クラヴィーアは一方でその内部に調和することもあれば不調和に終わることもあるさまざまな音を生み出す点において人間の快および不快の感情を説明し、他方、自ら音を発するのみならず外からの音に共鳴して新たな音を発しもする点において人間の共感を説明してくれる。もちろん、このアナロジーはヘルダー独自のものではなく、同時代のフランス唯物論者たちも好んで用いたものではあるが、唯物論者でないヘルダーにとってこのアナロジーは、彼がライプニッツのモナドロジーをハラーの生理学を参照しつつ批判的に摂取して形成した「有機的モナドロジー」とでも呼ぶべき独自の自然哲学の表現であった。その意味で、二種の共通感覚の連関の問題は、ヘルダーの思想の中心に位置している。
著者
平野 恵
出版者
文京ふるさと歴史館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、近世後期から近代初期までの約100年間を対象として、日本における温室の歴史的意義を解明することを目標として据え、前段階として温室にかかわる史料を、近世的な「窖」と、近代的な「ガラス温室」の二つに分けて収集した。「窖」に関しては、本草学者また植木屋がその網羅的著作、植物図鑑・名鑑から、窖をどのように記録したかを調査した。小野蘭山『重訂本草綱目啓蒙』ほか五種の著作のなかでは、全体で数えても57例、重複分を除くと44種の植物に関して窖の記載があり、記述の傾向には異国産植物に対して詳しい記載があった。また、窖の一部を形成するガラス障子の史料、崖地や地下を掘って作った窖の史料をも提示し、これらにより、19世紀前半は土や岩を掘る古い形の窖から、新しい形式の窖を工夫して製作しようとする段階であることを明らかにした。以上は、2007年12月9日開催)で口頭発表を行い、論文「本草学者による和風温室『窖』の記録」(『洋学』16号、2008年)としても発表した。一方、19世紀後半ガラス温室の史料は、内国博や、酒井忠興や大隈重信ら華族らによって広められ一般に公開されたことが判明した。近代における園芸は、果樹・疏菜に重点を置き、花卉栽培は趣味人の道楽という側面が強くなっていった。ただし、華族の園芸趣味は、「奇品」の収集公開という点では、近世後期における旗本を中心とする園芸愛好家の事例と非常に酷似していた。このことは、近世から近代への連続性として今後の重要な課題として研究を続けたい。以上の一部は、2007年度長崎大学における洋学史学会秋季大会(2007年11月11日開催)シンポジウムC「本草から植物学へ」において「十九世紀における植物概究と商業園芸」として口頭発表した(発表要旨集『平成19年度日本医史学会秋季大会・平成19年度日本薬史学会年会・2007年度洋学史学会秋季大会合同大会プログラム・抄録集』に所収)。
著者
京谷 啓徳
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、ルネサンス期の宮廷祝祭の構成要素たる美術、すなわち山車行列とそれを飾ったタブロー・ヴィヴァン(活人画)、沿道に設置された各種アッパラート(仮設建造物、仮設仕掛装置、既存の建築物の仮設装飾)、そして祝祭を記録するメディアであったフェスティヴァル・ブック(宮廷や市当局等の祝祭主催者が当日もしくは後日に発行する公式記録)等に関して、美術史の側からの包括的な研究が従来行われてこなかった現状に鑑み、研究の基本的な枠組みの構築を試みた。
著者
大谷 渡
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

昭和前期に日本の高等教育機関に学んだ台湾知識人の日本統治下における日本認識と、台湾社会での活躍や役割、さらにはその心情について、聞き取り調査によってその生の声を記録化し、当時の新聞、雑誌、公文書、手紙、手記などとの照合検討をとおして、これを社会・文化史的観点から多角的かつ具体的に解明した。その成果は『台湾と日本 激動の時代を生きた人びと』(大谷渡、東方出版、1頁-244頁、2008年)として出版した。
著者
菊地 勝広
出版者
横須賀市自然・人文博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の結果、横須賀製鉄所では「木造と煉瓦の折衷構造」の建築構造形式を意識的に採択していたことなどが確認された。この構造形式は、良質な石材が少ないという日本の資源の状況に見合ったもので、耐震性は日本でも馴染のある木造が担い、煉瓦壁で耐火性を持たせた点が利点であると認識されていた。また、多くの近代的な建築材料を先駆的に使用すると共に、科学的な材料研究を進めていた様子も明らかとなった。
著者
池田 隆 RAOUF A. Ibrahim
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,自由液面を有する正方形断面の剛体容器が水平方向に正弦励振またはランダム励振を受ける場合,容器内に二つの振動モードが同時に発生する液面スロッシングの内部共振現象について,非線形性を考慮した数学的モデルを構築し,数値計算と実験によりスロッシング挙動を明らかにするとともに,スロッシング波高を精度良く予測できることを示した.また,液面スロッシングの内部共振現象を利用した正方形断面容器が構造物の制振装置として有効であることを示した.