著者
道下 幸志
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

変圧器のモデルと中実がいしのスパークオーバ電圧やV-t特性について検討した。配電線に発生する雷過電圧波形は、標準雷インパルス電圧波形と比較すると急峻・短波尾波形となることが多く、また、このような波形が発生する場合に、スパークオーバが発生しやすいことから、過電圧評価に当っては、変圧器内部の共振の影響を考慮した等価回路を用いる必要があると考えている。また、がいしの絶縁特性については、V-t特性を用いてシミュレーションを行うのが正確ではあるが、計算がかなり複雑になるため、絶縁レベルが10号相当の中実がいしの50%スパークオーバ電圧として200kVを用いることは概ね妥当であると考えている。避雷器や架空地線が接続された高圧配電線における雷害対策の主たる検討対象は、直撃雷であることが確認された。有限な大地導電率を考慮した場合には、従来のように大地を完全導体と仮定した場合と比較すると10倍以上スパークオーバ率は大きくなることが明らかになったが、それでも直撃雷によるスパークオーバ率と比較すると誘導雷によるスパークオーバ率は1/10以下となる。本研究の結果は従来の手法による予測結果よりもより現実に近いシミュレーションとなっていると考えられるが、依然として、実際に報告されている、事故率とは、1桁近い相違が認められる。今後は、更なる被害率予測精度向上を目指して、雷の吸引空間を含めた直撃雷の発生確率や、多相スパークオーバから実際の事故に至る過程の解明に取り組む予定である。多地点での電界の同時観測結果に基づいて、推定した夏季雷パラメータの50%値は、海外において電流観測によって得られた値と概ね一致した。国内の送電線における電流観測によってもこれらとほぼ同様な結果が得られていることから、電界観測により波尾部分を含めた雷電流波形が推定できる可能性があることが明らかになったと考えている。
著者
竹中 隆 田中 俊幸 周 輝 西本 昌彦
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

長崎大学の研究グループでは改良された合成開口処理法を提案した.次に乾燥した砂による地雷フィールドを作成した.この地雷フィールドに金属製の地雷を想定した直径3cm,長さ5cmの金属円柱とプラスチック製地雷を想定した直径7cm,長さ5cmの円柱(ロウソク:比誘電率2.6)を埋設し,検出実験を行い,改良された2次元合成開口処理法の有効性と現有のレーダ装置に対する地雷探査の限界を確認した.さらに,改良された3次元合成開口処理法を提案し,2次元合成開口処理では識別が困難であった模擬プラスチック地雷でも,精度良く推定できることを示した.また,処理時間の短縮化を図るため,2段階の3次元合成開口処理を検討し,マルチグリッドの概念を3次元合成開口処理に取り入れることにより処理時間の大幅な短縮(従来法で約60分の処理時間が約1分)が可能であることを示した.熊本大学の研究グループでは,地雷とその他の物体(石など)を識別するのに有効な特徴の一つとして,ターゲットの上面と下面で反射されたパルスの時間間隔を用いる方法を提案した.この特徴を用いた検出・識別アルゴリズムを基に,実際に地雷識別部を構成し,計算機シミュレーションにより有効性を確認するとともに,信頼性・安定性の検証を行った.すなわち,地雷の種類,地面の粗さ,地雷の深さ,土壌の誘電率や導電率(含水率)など,種々のパラメータの変化に対する識別性能の変化を定量的に評価し,総合的な検出・識別性能と適用限界を明らかにした.同時に適用限界についても検討にした.また,実験的にも有効性を確認するため,センサ用のアンテナシステムを構築し,これを用いたモデル実験による有効性の確認を行った.さらに,性能向上へ向けての取り組みとして,最適な低次元特徴ベクトルについての検討も行なった.
著者
谷川 恭雄 長谷川 哲也 黒川 善幸 森 博嗣
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7年度は、RC構造物の外壁仕上げ材の剥離調査のためのサーモグラフィー法および内部探査のための電磁波レーダ法に関して、以下のような研究を実施した。1)剥離調査のためのサーモグラフィー法の適用限界に関する実験および解析:人工空隙を有するコンクリート試験体の両面の温湿度を自動制御して一連の実験を行った。また、3次元有限要素法解析プログラムを用いて、実験結果の検証を行うとともに、各種環境条件下における適用限界および最適計測条件を明らかにした。2)内部探査の電磁波レーダ法に関する研究:構造体中の内部欠陥や鉄筋位置を探査するためのモデル実験を行うとともに、ハギア・ソフィア大聖堂(トルコ・イスタンブル)の劣化度調査に本手法を適用した。その結果、本手法の有効性を明らかにするとともに、ハギア・ソフィア大聖堂の2階ギャラリー部において過去に報告されていなかった数本の補強材を新たに発見した。平成8年度は、RC構造物の外壁改修のための立体不織布・アンカーピン併用工法に関する研究に関して以下の2シリーズの研究を実施した。1)使用材料の選定実験:試験版体を作成し、版のせん断力試験、層間接着耐力試験、曲げ耐力試験などを行った。また、版とピンの接合耐力試験、アンカーピンの配置とワッシャー径の決定、負圧に対する検討などを行った結果、水平方向に負圧を受ける版体の最大耐力は、フィラーを含むモルタルの強度に依存すること、繊維を太く、亀甲状の網目部分の面積を大きくしたネットが有利であることなどが明らかとなった。2)改良繊維の検証試験:改良されたネットの性能を検証した結果、それらの改良効果を確認すると共に、下地層を設けることで、アンカーピンとの接合強度を向上させることができた。
著者
山下 俊
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

様々な光機能材料の多くは固相状態での反応を活用しているため、高分子固相中での光反応論を確立することは基礎的に重要であると共にも応用的にも重要である。本研究では高分子ナノ自由空間におけるフォトクロミズムなどの化学反応の不均一分布を定量的に解明し、動的自由空間では光反応分子の律速段階のダイナミクスとマトリックスの緩和のダイナミクスの相関で反応性が決まることが明らかになったまた、材料のナノ空間を制御することにより巨視的な構造変化や相変化を誘起することに成功した
著者
五十嵐 泰正
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

2006年度は、年度内に発表した業績は非常に少ないが、本研究課題「重層的なヒトの移動と、都市コミュニティ・アイデンティティの再編成」の総まとめとしての単著『グローバル化時代の「下町」上野』(仮題)の執筆に専念した。同書は、2007年末に刊行予定であり、S書房からの出版企画が進行中である。その中で、国際シンポジウム「カルチュラル・タイフーン2006」において、「戦後の記憶、大衆の痕跡」という大規模なセッションを企画・コーディネイトし、自らも理論的な整理を提示する口頭報告を行った。同セッションは、昭和30年代を参照する近年のノスタルジー・ブームを批判的に検討しつつ、終戦後すぐの闇市の記憶を含む都市の歴史的重層性や、コミュニティの結節点としての大衆食堂・立ち飲み屋の視点から、労働や生活が切り離された消費的な都市空間が優越してゆく都市再開発の現状を再考するものであり、このセッションの準備過程(大阪市築港地区・世田谷区下北沢でのフィールドワークを含む)は、私の上野での実証研究の深化にきわめて重要な影響をもたらした。また、昨年度の米国出張における、シカゴに再移民した元在日不法就労パキスタン人への聞き取り調査をもとに、外国人支援NGOの機関紙に、「群馬経由、シカゴ行き」という研究ノートを寄せた。同小論は、まだ萌芽的なものではあるが、グローバルなエスニック・ネットワークに媒介された現代の移民現象を考える上で、今後の研究へと発展しうる重要な論点を提起した。
著者
柴田 佳子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

カリブ海社会のアジア系、特に内外の研究で最も手薄な中国系に焦点を当てたことで、現地内外のカリブ海地域研究に貢献できるものとなった。具体的には、経済社会的に躍進を続ける現地生まれの中国系のジャマイカ社会へのコミットメントのあり方を、諸行事や生活などの参与観察と多数へのインタビューなどにより、到来150周年記念を契機にエスニシティが再活性化される様態を明らかにした。さらに80年代以降の中国の改革開放政策、ジャマイカでの自由経済政策への転換によるフリーゾーンへの若者労働者、また従来型の親族ネットワークによる移民、出稼ぎ労働者の五月雨式到来により、チャイニーズ・コミュニティは大きな転換期を迎えたが、その種々の側面と動態について調査した。なかでも政治経済的左傾化で大挙して海外逃避した70年代に廃墟と化し、長年の懸案だった民族共同墓地の再編は特筆すべきで、世代を超え、最新の技術や知識、資金を駆使し、内外のディアスポラ・ネットワークが動員されている。グローバル化のマクロなレベルとの連動やクレオール化には従来の主流派のアフリカ系/黒人系主体とは異なる位相がみられ、グローカル化、ディアスポラ研究、トランスナショナリズム研究へも重要な知見の提供が可能となった。現代の急速に変化するミクロなレベルの動態とグローバル化との関連、クレオール化の現代的位相において、ガイアナはジャマイカとは別種の展開をみせ、カリブ海社会の多様な変化の実態を証明できる。ガイアナのエスニック・コミュニティはインド系と中国系では全く異なる。中国系の旧移民はほとんどが国外居住し、共同体としては崩壊したが、90年代から参入増加が目立った新移民がとって代わりそうな状況にある。しかし、クレオール化した旧移民とのコミュニケーション回路がほとんどなく、言語、宗教、生活文化の差異は分断する決定的な影響を与えていることがわかった。
著者
生田 英輔
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

阪神・淡路大震災における調査から、倒壊を免れた家屋内でも、家具転倒等による負傷者が発生している。このような被害を防止するために、その危険度を定量的に評価する手法を開発した。大腿骨骨折に焦点を当て、実験とシミュレーションによる危険度評価を試行した。実験に関しては、より現実に近い環境を想定し、多様な条件下での家具転倒実験を実施した。また、実際の被災状況を想定するため、アンケートを実施し、防災意識や家具の状況を把握した。
著者
落合 啓二
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.ニホンカモシカの生息密度,なわばりサイズ,食物条件,成獣メスの繁殖成功率の相互関係を明らかにするため,青森県下北半島(標高0-240m),山形県朝日山地(標高500-1100m),長野県上高地(標高1500-2000m)の3地域で調査を実施した.2.生息密度は,下北で14.2±2.5頭/km^2,朝日で7.4頭/km^2,上高地で1,6頭/km^2であった.成獣メスの年間なわばりサイズは,下北で10.5±3.6ha,朝日で29.8±3.6ha,上高地で49.8±31.6haであった.3.繁殖成功(成獣メスが出産し,かつ生後1年までその子が生存した場合)率は,下北で38.1%,山形県朝日山地で29.6%,長野県上高地で15.8%であった.4.雪上のトレース調査に基づき,冬顛の食物量指数(FAI:採食対象木本の幹の雪面断面積合計)と採食効率を調査した.平均FAIは,下北で1871.4mmm^2/10m^2,朝日で1236.2m^2/10m^2(下北の66.1%),上高地で869。8mm^2/10m^2(下北の46.5%)であり,地域間で有意差が認められた.採食効率は,下北で59.1個/10m^2,朝日で38.2個/10m^2(下北の64.6%),上高地で10.4個/10m^2(下北の17.6%)であり,同様に3地域間で有意差が認められた.5.なわばりサイズと生息密度の間,冬期食物量指数と冬期採食効率の間,冬期食物量指数となわばりサイズの問,及び冬期食物量指数と繁殖成功率の間で,それぞれ相関関係が認められた.即ち,海岸沿いで標高が低く,積雪量の少ない下北半島では,好適な食物条件に支えられる狭いなわばりサイズと高い繁殖率が高い生息密度をもたらしていること,反対に標高が高く,気象条件の厳しい亜高山帯の上高地では,低質な食物条件に起因する広いなわばりサイズと低い繁殖率が低い生息密度をもたらしていることが示された.
著者
武井 協三
出版者
国文学研究資料館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

「与論十五夜踊り」は予想以上の型の崩れがあったため、なお分析研究を残すことになったが、沖縄県立芸術大学教授の板谷徹氏や元日本学術振興会特別研究員鈴木博子氏の協力のもとに、新出の文献資料に注目できたこと、さらに「登場の演技」と「笑いをよぶ演技」という視点を導入することによって、17世紀後半の野郎歌舞伎の演技・演出研究の実態解明を進展させたことが本研究の主たる成果であった。
著者
笹原 亮二
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

南九州から薩南諸島・吐喝喇列島を経て奄美諸島に至る地域には、数多くの民俗芸能が伝わっている。それらの中には、この地域が沖縄とヤマト(沖縄・奄美以外の日本)の境界領域に位置し、双方から政治的・社会的・文化的な影響を歴史的に様々なかたちで蒙ってきたことと呼応して、沖縄あるいはヤマトとの関係が様々なかたちで認められる、琉球系及びヤマト系の民俗芸能が少なからず存在している。従来、この地域の民俗文化については、吐喝喇列島と奄美大島の間にヤマトと沖縄・奄美を分かつ境界があり、奄美大島以南では与論島と沖縄本島の間に沖縄と奄美を分かつ境界があり、奄美諸島内においても他の2つ程明確ではないが、徳之島と沖永良部島の問にも境界があって、大きく3領域に分かれることが指摘されてきた。この地域の琉球系・ヤマト系両系統の民俗芸能も、南九州から吐喝喇列島までは、ヤマト的な芸能をベースに、沖縄的な趣向や特徴が異国・異人的なイメージとして現地の人々によって意識的に演じられている琉球系の芸能が見られ、奄美大島・喜界島・徳之島では、沖縄的・ヤマト3的それぞれの趣向や特徴が現地の人々によって意識的・無意識的に演じられている両系統の芸能の混在.が見られ、沖永良部島以南では、全般的には琉球系の芸能が優越する中で、ヤマト的な趣向や特徴が異国・異人的なイメージとして現地の人々によって意識的に演じられるヤマト系の芸能が見られるというように、ほぼ3領域の区分に沿ったかたちで整理することも可能である。しかし、各領域内を見ると、吐喝喇列島以北では、同じ琉球系芸能でも南九州に比べて薩南諸島は沖縄的な特徴や趣向が異国・異文化イメージとして過剰に演出されていたり、奄美大島・喜界島・徳之島では、奄美大島で見られないヤマト的な特徴やイメージの表出が、喜界島・徳之島それぞれ別のかたちで見られたりというように、より狭い地域や個々の島々の問で民俗芸能のあり方に類型的かつ明確な違いが存在していた。このことは、この地域の民俗文化の理解においては、従来の3区分に基づく境界論では必ずしも十分ではなく、外界との交流と域内での滞留の相互作用によって文化的な独自性が歴史的に醸成されてきた諸地域・島々の集合といった、より複雑な地域構造を想定する必要性を示唆している。
著者
新城 郁夫
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

まず、2007年11月に出版した『到来する沖縄 沖縄表象批判論』(インパクト出版会、全246頁)において、本研究の全体像を公刊できたことが、当該研究の最大の成果と言える。この著作に明らかな通り、本研究においては、戦後沖縄文学を、主に次の3点において考察し、その考察を通じて、戦後沖縄文学を総合的視野から把握し、その可能性を広範な表現史的かつ思想的パーススペクティヴにおいて開示しえた。まず、1点目に、戦後沖縄の文学表現そして思想史的展開を考察するさい最も重要なテーマとであるところの、一九七〇年前後における反復帰・反国家論について、その文学的意義を明らかにした。次に2点目に、「日本語」の規範の脱中心化あるいは脱構築的可能性を、戦後沖縄文学の具体的テクストへの緻密な読解と分析を通して明快に論証した。そして3点目として、戦後沖縄文学におけるジェンダー的特質および身体の政治性を、具体的なテクスト分析と思想史考察を通じ論証した。そして、この三点目において、戦後沖縄文学に表出された男性の身体性がどのような性政治的特質を内在化させていたかを明証した点と、「従軍慰安婦」という存在の表出が果たす歴史的意義を戦後沖縄文学のなかにおいて明らかにした点は、本研全体においても、特に重要な成果と言い得る。以上の3点をもって本研究成果の柱と言うことができるが、この3点の明証を通じて、ポストコロニアル文学として瞠目すべき独自性と特異性を内在する戦後沖縄文学の総合的内実を本研究において明らかにすることができたことをここに報告する。
著者
狩俣 繁久 BAKSHEEV Evgeny Sergeevich BAKSHEEV Evgeny Sergeevic
出版者
琉球大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

N.ネフスキーが80年前に宮古島を訪問して得た資料に基づき現代との変容の有無などを現地で確認、検証した。琉球文化圏における村落祭祀を行なう御嶽(聖地)を中心に宮古、八重山、沖縄、奄美の民間信仰・民俗文化の比較研究・調査を行なった。聖地およびその祭祀の記録として映像資料を作成した。そのために、宮古、八重山、奄美、沖縄の各地で国内調査研究旅行をした。宮古サニツ(久松)、ナーパイ(砂川)、桟橋ニガイ(佐良浜)、ダツマス(伊良部)、スツウプナカ(高野)、旧八月十五夜(狩俣)、世乞(伊良部)、豊年祭(友利)、ヤーマスプナカ(来間)、正月行事(平良)、御葬式・三日目供養・開眼行事・四九日目供養(友利)、聖地・その年中行事並びにミャーカ墓などの墓制調査(平良、久松、狩股、来間、池間、下地、伊良部、上野、城辺)。沖縄島旧正月(糸満)、遺跡・聖地・門中墓などの墓制(糸満、浦添、西原)。八重山旧盆・アンガマ(西表祖納・星立)、十六日祭・洗骨(与那国)、聖地・墓制(祖納・星立;与那国)。奄美ショチョガマ・新節(龍郷町秋名)、柴差し(喜界島、宇検村阿室);ノロ祭り(宇検村阿室);聖地・ノロの祭祀・墓制(名瀬、龍郷、笠利、宇検;喜界;加計呂麻)。ネフスキー資料の調査採取・記録の状況を現地宮古島各地で調べた。宮古・沖縄にかんするネフスキーの論文ならびにネフスキーについての資料のカタログ・データベース作り始まった。ネフスキーの未発表の論文・資料の翻訳および公開のための準備を行っている。日本人言語学者との共同作業の結果で「宮古方言ノート」の大部分を解読して、日本語の翻訳をした。「N・ネフスキー『宮古方言ノート』の民俗学的考察」等の解説をまとめている。これから「宮古方言ノート」をもとに「宮古方言辞典」が完成されて、発行する予定である。
著者
坂本 要
出版者
筑波学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

この研究は平成11年から14年にかけて行った科研「身体表現から見る念仏芸能・民間念仏行事の調査および成立過程の研究」の発展として行った企画である。この科研の目的は本土の盆踊りに関係すると見られる、南島や韓国南部にひろがる輪踊り、巻き踊り等の身体表現の比較、盆に現れる来訪神の研究である。平成15年は沖縄南西諸島の輪踊り、手招きという身体表現のある類似を、16年には韓国南部に残るカンカンスオレーという輪踊り行事の調査を行った。最終年度の17年はこれらの行事以外の豊年祭の巻き踊り、ユークイ(世乞い)奄美諸島の浜下りの踊り、徳島県の盆踊り、神事踊りを調査した。いずれも神迎えとしての輪踊り、手招き等の身体動作がともなってこれらの行事がなりたっていることが分ってきた。これらの踊りを通して、従来風流踊りから盆踊りが成立したという説に対して南西諸島から沖縄にひろがる八月踊り、豊年祭の巻き踊りがアジア的なひろがりを持って、盆踊りに連続していく可能性を証明できた。具体的にいえば豊年祭として神迎えの輪おどり、ユークイの手振り、豊穣を願う男女の掛け歌等が盆踊りのベースにあり、仏教の影響によって供養踊りに転化していくと考えられる。本土の風流踊りと盆踊りが日を別にして同じ踊りを踊る所のあることからもそれは伺える。8月15日の豊年踊りと7月15日の盆踊りは元を同じくするといえる。調査箇所82ヶ所の撮影ビデオのアーカイブ化と平成11年からの科研とあわせ念仏踊り関連調査455箇所の一覧表作製をしている。
著者
斎藤 晃 多田 裕
出版者
鶴見大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

【目的】本研究の目的は早産児の行動特徴が生後1年間の母子相互交渉とアタッチメント形成に与える影響を検討することにある。母子相互交渉に特に影響を与える児側の要因として啼泣しやすさとなだまりやすさ等の情動反応が挙げられる。この特徴はブラゼルトン尺度(NBAS)と心拍変動分析によって予測することが可能である。心拍変動のスペクトル成分中,低周波成分は交感神経と副交感神経に,高周波成分は副交感神経によって変調を受けていることは既知の事実である(Akselrodら,1981)。【方法】被験児: 早産児の母親105名にNBASを依頼し,32名(男児18名の女児14名)の協力を得た。このうち,1年間の家庭訪問とアタッチメント実験の協力を得られたのが25名である。平均出生体重は1664.8g(SD512.16),平均在胎日数は224.1日(SD23.58)であった。手続き: (1)NBAS: 退院前1週間,退院後1週間,1,2,3ヶ月に1名の認定評価者がNBASを行った。(2)心拍変動: NBAS施行日と同一日で,児の深睡眠時に心拍変動の測定を行った。(3)母子相互交渉: 退院後1週間,1,2,3,6,9,12ヶ月に家庭訪問を行い,行動観察を行った。(4)アタッチメント実験: 退院後12〜13ヶ月に母子分離再会の実験を行った。【結果と考察】NBAS値をLester(1984)に従って素点変換し,これを児の行動特徴とした。ただし,慣れ群は欠損値が多いので分析から除外した。心拍変動値に対してはスペクトル分析の一種である自己回帰要素波分析を行い,3種類の周波数成分が抽出された。総パワー中に占めるこれら3周波数成分のパワー比を独立変数に,NBAS値を従属変数として重回帰分析を行った。交感神経によって変調される成分であるPWR1「なだめ」を有意に予測し,なだめやすさは単に副交感神経だけによるものではないことが示唆された。交感神経と副交感神経の働きを意味するPWR2は「状態向上迅速性」と「易刺激性」を有意に予測した。これは交感・副交感神経が優位な児は外部刺激が累積的に増大しても啼泣しづらいことを意味する。また,PWR3は「易刺激性」と「抱擁」を予測した。PWR3が高いほど,啼泣(ぐずりを含む)しやすく,かつ抱きづらいことを示している。これは交感神経が関与している可能性があり,高周波成分であっても単に副交感神経だけの作用とはいえないことを示唆した。児の新生児期の行動特徴であるNBAS項目と心拍変動値を独立変数とし,アタッチメント実験時における児の近接・接触維持,抵抗,回避,遠隔相互交渉の各行動を従属変数として重回帰分析を行った。その結果,CV-RRとPWR2両者の値が高いほど,再会時の近接・接触維持傾向が低く,回避傾向が高いことが示された。CV-RRは副交感神経系の活動を表す指標であり,PWR2は副交感神経の影響を大きく受けている領域である。実験時における児の行動は単に母子相互交渉だけではなく,児が新生児期の行動特徴にも影響を受けることが示された。
著者
関場 武 高橋 智 佐々木 孝浩 住吉 朋彦 川上 新一郎
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本研究では、中近世期の東アジアに広く行われた辞書および類書につき、その社会的影響の基盤となった出版情況を明らかにすべく、和書班と漢籍班の二班に分かれて、関連する文献の書誌調査と研究を行った。和書班は、関場・川上新一郎(前半2年のみ・斯道文庫・教授)・佐々木の3名、漢籍班は高橋・住吉の2名によって組織した。関場は、『節用集』類の総合的伝本研究を行い、慶應義塾図書館主催の「辞書の世界-江戸・明治期版本を中心に」展を企画・立案し、解題図録を作成した他、特に「早引節用」類の書誌調査を行い論文を執筆した。川上は、版行された近世期歌枕書類の調査研究を行い、辞書的構造を持つ歌枕書とその他の文献との関係を整理し、解題書目「近世版行歌枕書一覧(稿)」を作成した。佐々木は、類書的な性格を有する『新類題和歌集』と『歌合部類』を取り上げ、伝本研究を行って、歌書をめぐる商業出版と社会的需要の関係を考察し、論文を執筆した。高橋は、中国明清時代に於ける音韻学書の書誌的調査を行い、特に慶應義塾大学言語文化研究所所蔵永島文庫と台湾師範大学所蔵趙蔭棠旧蔵書を集中的に調査し、各々の書目や解題を作成した。住吉は、中国元代成立の類書『韻府群玉』の東アジアに於ける普及を主題として研究を進め、東アジアとアメリカでの総合的な伝本研究を行い、その改編・版刻の経過を追跡し、その成果を書目や論文などの形で発表した。以上の成果の一部は、平成13・14年度の単独の研究成果報告書、及び平成15・16年度調整班(B)出版物の研究の成果報告書に発表している。
著者
若木 太一 高山 百合子 不破 浩子
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

唐通事・異国通詞および周辺の唐話学者(稗官の徒、小説家)たちが編纂した唐話辞書の探索、書誌的調査、及び翻訳語彙の分析えを通して、日本近世文学・語学に及ぼした日中言語文化の顕著な相互影響を解明を目的とした4年間(平成9年度〜同12年度)の研究成果は次の通りである。1)唐話辞書、唐話学書の所在調査・書誌調査など基礎調査をカード化した。唐通事の諸家において編纂された唐話辞書、及び出版された唐話学書、あるいは翻訳書等の所在調査を行い、書誌をとり目録化した。(国文学研究資料館、東京大学図書館、慶応大学図書館、松平文庫、長崎県立図書館その他)2)「唐話辞書・通俗書略年表」をまとめた。「唐話辞書類従」(長沢規矩也解題)などに収載する唐話辞書・通俗書よび唐話学関係の文献・データなど既存の基礎目録を確認し、国文学研究資料館、国会図書館、国立公文書館等の唐話辞書の調査を基礎に、新資料を加えた目録「唐話辞書・通俗書略年表」を作成した。3)唐話辞書の語彙・内容の分析研究分担者の協力をえて辞書の翻刻、語彙の分析などを行い、索引を制作した。*『訳詞長短話』巻一の翻刻と解題*『東京異詞相雑解』の総合語彙索引4)『唐話辞書と翻訳語彙の研究-日中言語文化交渉史-』の報告書を制作した。これまで資料の発掘や収集の基礎調査と各辞書の図書館・文庫所蔵の唐話辞書、通俗書などの調査をふまえた「唐話辞書・通俗書略年表」、『訳詞長短話』の翻刻、『東京異詞相雑解』の総合語彙索引、唐通事の生活と文事等を収載。
著者
梅村 又次 中川 清 伊藤 繁 斎藤 修 熊谷 文枝
出版者
創価大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

「新潟県100年の生活史」研究は、日本人の生活構造の諸側面には、都市と農村との間に多大な格差が存在するとの仮定のもとに出発したものである。「地方の時代」といわれる現在、各地域の社会・経済構造の基礎ならびに、その影響を様々な角度から分析することは、各地域の今後の発展の方向づけをする上で極めて重要であると考えられる。新潟県は、その地理的、地形は、歴史的現況等から、細分化して考える必要がある。そこで、本研究では、西日本型とも言われる佐渡地域、最も新潟県らしい湛水田稲作単作地帯満原地方の新潟市、そして山村の豪雪地帯にある漁沼の三地域に焦点を当てた。そして、研究成果として以下四点の論文を中心に報告書をまとめた。1.初等教育の普及と教育の成果(梅村又次)2.新潟県における食生活の変遷(熊谷文枝)3.人口変化の歴史的パターン(斎藤修・中川清)4.戦前期新潟県経済の位置(伊藤繁)これらの論文により、生活史の分析が、歴史的横の側面と、地域的縦の側面の双方からのアプローチが同時になされなければならないことがわかっている。そして、分析結果をもとにして、地域の住民が、幸せであると感じつつ余生を過ごせるような環境作りに励むことが必要である。それは、この研究の対象地域である新潟に対してのみ言うのではなく、日本全域に対して言えることである。その様な点に生活史研究の意義があろう。換言すると、多角的に生活水準の諸側面の歴史的推移を研究することにより、その生活史のダイナミズム分析が可能となる。地域社会を歴史的、かつ総合的に分析することは、日本の他地域・全体との係りの中で把える事を可能にし、地域社会の将来の総合的システム構築への施策となろう。
著者
吉成 直樹
出版者
法政大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

1. 四国、静岡、伊豆諸島(三宅島)などのカシュウイモとニガカシュウの分布状況、利用状況を調査した結果、カシュウイモは基本的にブナ林帯において栽培、利用されているものの、一部照葉樹林帯(高知県北川村、三宅島など)に及んでいることが明らかになった。特に高知県の北川村ではカシュウイモとニガカシュウが存在し、ともに栽培遺物であるものの、両者の違いを認識し、カシュウイモを食用として用いている状況である。2. 高知県におけるカシュウイモの消失過程を集中調査したところ、山間村落においてカシュウイモが利用されなくなったのは、戦後、コウケイ35号と呼ばれるサツマイモの品種が導入されたことが契機であることが明らかになった。それ以前のサツマイモは、収量が多くなかったとされ、依然としてカシュウイモの優位が続いていたという。また、カシュウイモは痩せた土地でも栽培でき、連作しても障害を起こさないものであった。3. イモ類の年中行事における儀礼的利用を全国的にみれば、西日本のサトイモ類に対して東日本のヤマノイモ類という構図を描くことができるが、西日本においては、標高の高い山間村落においてカシュウイモなどを中心とするヤマノイモ類を儀礼的に利用していることが明らかになった。このことは、西日本でも標高の高い地域や東日本などの比較的寒冷な地域では、恐らく初期に導入されたサトイモ類は充分に育たないため、カシュウイモやヤマノイモなどのヤマノイモ類をサトイモ類の代用品として利用したことを示すものと考えられる。
著者
寒川 恒夫 石井 浩一 安冨 俊雄 瀬戸口 照夫 宇佐美 隆憲
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究では,(1)日本の民族スポーツの実施状況を地方誌など主に文献資料によって把握し,次にその基礎の上に(2)47都道府県について各1〜2事例を選んで現地フィールドワーク(参与観察と聞き取り調査)をおこない,個々の事例の変容過程を明らかにした上で,変容の諸傾向を抽出することに目的が置かれた。研究目的の(1)については,対象事例が年中行事化しているものに限ったが,(a)実施頻度に地域差がみられること,(b)日本列島全体に実施が及ぶ種目と特定地域に実施が限定される種目があり,種目間に分布差がみられることが明らかにされた。研究目的の(2)については,観光化変容,行政公共化変容,簡素化変容,競技化変容の諸傾向が抽出された。観光化変容とは,民族スポーツが地域の経済振興のための観光資源としてその内容を変化させられてゆく現象という。行政公共化変容は,従来特定の集団に伝承されてきた民族スポーツが諸種の理由から主催権を市町村など行政当局に委譲したことによる変容を指している。簡素化変容は,人口減や経済的負担の増加などの理由から,主催集団が民族スポーツの規模や内容を簡略化する現象をいう。競技化変容は,それまで競争の形式をとっていなかった民俗行事が競技の体裁を取ってゆく現象をいう。これら4つの傾向は,それぞれを独自に生起する場合もあれば,その中のいくつかが複合する場合もある。