著者
中田 達広 河内 寛治 流郷 昌裕
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

【背景】大脳領域では虚血再灌流後に、虚血部位に活性化microglia/macrophageが集積する事が知られている。今回我々は、脊髄虚血再灌流障害発症後のこれらの細胞の役割について検討した。【方法】雄Witar ratを、下行大動脈を13分遮断再灌流して虚血再灌流対麻痺モデルを作成し、下肢運動の神経学的評価を軽症、中等症、重症に分けて検討した。脊髄組織の頸髄、腰髄を採取し、免疫蛍光染色、real-time RT-PCRにて検討した。さらに、GFPラット骨髄移植ラットを用い、上記実験を施行した。【結果】GFP骨髄移植ラット実験において、虚血再灌流後の亜急性期の主体免疫細胞がresident microglia(RMG)ではなく、bone marrow-derived macrophage (BMDM)であることが示された。再灌流2日後、重症群ではBBBの破綻が著明であった。再灌流7日後、Sham群は、全部位RMGのみが観察された。軽症群では、RMGとBMDMが混在するように観察された。中等症群下部脊髄では、ほとんどのIbal^+細胞は、樹状活性化BMDMであった。一部の細胞はsynaptic strippingが観察された。重症群では、中等症群に比べ、大量のアメーバ状BMDMが集積していた。虚血再灌流7日後の抗TNFα, IL-1β, iNOS, CD68, IGF-1抗体等を用いた二重蛍光免疫染色により、これらの炎症性サイトカイン、iNOSは中等症群以下ではBMDMにほとんど発現しなかった。それに対し、重症群でほぼ全BMDMがこれらを発現していた。中等症樹状BMDMの一部にIGF-1の発現を認め、重症群では全アメーバ状BMDMでこの発現を認めた。real time RT-PCRでは、重症群はPCNAのmRNAの上昇を認め、活発に増殖していることが示された。【考察】脊髄虚血病理像は、不全麻痺症例では重症度とともに樹状BMDM浸潤数が増え活性化する。完全麻痺例では、BBBの破綻とともにアメーバ状BMDMの浸潤が大量に生じ、両者の病理像は大きく異なる。不全麻痺症例では、樹状BMDMによる神経細胞保護の動きが見られる。重症例ではアメーバ状BMDMは貪食と共に、神経再生に関与している可能性がある。
著者
片方 江 中西 敏浩 鬼塚 政一
出版者
一関工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

2009年度:特別な超越整函数に対して,『回転数が有界型のジーゲル円板の境界は擬円周である』を得た.またその系として,考察した特別な超越整函数の対数持ち上げは,境界が擬円周である遊走領域を持つことが分かった.2010年度:『回転数が有界型のジーゲル円板の境界は擬円周である』を満たす超越整函数の具体例を構成した.また,整函数全体の集合に力学系を考慮した位相を導入し,その位相における函数の摂動に対するジーゲル円板の変化を考察した.2011年度:微分方程式の定性的理論と複素力学系との間に密接な関連があることが分かり,複素力学系における(超)吸引的周期点・放物的周期点・ジーゲル点・クレーマー点と微分方程式における平衡点について研究を行った.
著者
森田 裕介
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,プログレスチャートシステムの構築,オンライン学習コースの作成とLMSへの実装,学習者特性の測定,ブレンディッド学習の実施と分析を行った.そして,WebベースPSIコースのようなブレンディッド学習において,効果的な学習支援の方法を検討した.MBTIを用いた学習者特性の調査から,Eタイプ,もしくはIタイプの場合,具体的にどのような支援をしたらよいか,その方法論に関する知見を示した.
著者
金子 貴昭
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

当年度は、板木デジタルアーカイブと、2009年度に構築した板本デジタルアーカイブの連携に取り組み、公開されているシステムに実装を行い、研究ツールとしての付加価値を高めた。奈良大学に板木が所蔵されている享保十七年版「十巻章」の諸本調査のため、7月に真言宗智山派智積院智山書庫所蔵本の調査を行った。奈良大学所蔵板木は、半丁ごとに板木が寸断された状態で伝存しているが、袋綴じと粘葉装の板本を摺刷できるよう、元4丁張の板木を半丁毎に分断したものであることが判明した。板木が現存する板本を対象に匡郭高の全丁採寸調査を行い、匡郭高低差および板木の構成に相関関係を見出し、かつ高低差発生の原因が木材収縮に起因することを明らかにした。昨年度デジタル化を行った出版記録の記述内容について検証を進めた。結果、異なる記録間で情報の出入りや齟齬があり、可能な限り全ての記録を参照して初めて確定的な事実が得られるとの結論に至った。当年度は、2009年度以前の成果報告に上記の研究成果を加え、博士学位論文「板木デジタルアーカイブ構築と近世出版研究への活用」の執筆に注力し、博士(文学)の学位を取得した。
著者
吉田 紀子
出版者
中央大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

1920~30年代のフランスで発展したアール・デコ様式のポスター・デザインをめぐり、当時のポスター・デザイナー、美術批評家、広告産業家は、19世紀にさかのぼるポスターと絵画芸術の交流、およびポスター収集・批評の歴史を参照しながら、フランスの広告表現の独自性や優秀性を立証する理論的基盤を構築しようとした。こうしたフランス広告の芸術的伝統を前景化する言説「広告芸術論」は、広告産業界の社会的評価を高める助力になるとともに、競合する英米圏の広告に対するフランス広告の優越を証明するという戦略的な役割を担った。
著者
藤野 敦子
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

二つの分野における研究成果が挙げられる。一つは、非正規の働き方の家族形成に及ぼす影響に関しての日仏比較である。日本では、非正規の働き方が家族形成に負の影響をもたらしていることが明らかとなった。今一つは、歴史的な観点から、児童労働が生じる経済メカニズムを考察した。日本の場合には、労働需要サイドや労働供給サイドの原因だけではなく、雇用制度,ジェンダー問題などによっても児童労働が生じていたことが明らかとなった。
著者
川田 進
出版者
大阪工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は以下の二つの仮説を実証することを目的とした。「チベット問題を読み解く鍵は東チベットにある」。「東チベットの宗教上を読み解く鍵は漢人信徒にある」。前者の仮説証明は概ね達成することができたが、後者は継続調査が必要である。調査対象地域は当初四川省カンゼチベット族自治州とアバ羌族チベット族自治州を予定していた。しかし、研究期間中に「2008年チベット騒乱」が発生したことにより、青海省内のチベット人居住地区も調査対象に加えた。「2008年チベット騒乱」について、その動向を時系列に追い、発生の原因と特徴をつかむことができた。中国共産党の宗教政策を検討するためにラルン五明仏学院とヤチェン修行地にて定点観測を実施した。統一戦線活動の実態を知る上で、ゲダ5世・ゲダ6世と中国共産党の政治的結びつきを明らかにした。
著者
橋床 泰之 原口 昭 小池 孝良 波多野 隆介 玉井 裕 宮本 敏澄 堀内 淳一 宮本 敏澄
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

寒冷地の森林帯では窒素供給源が不明である。この「窒素ミッシングリンク」と呼ばれる「謎」を解明するため,東シベリア・永久凍土帯のグイマツ林床と北欧森林限界帯のスプールス林あるいはカンパ林で現地調査をおこない,土壌が持つ窒素固定能を探った。現地土壌微生物群集は土壌環境を反映した条件下で強いアセチレン還元を示した。16S rDNAを標的としたDGGE菌相解析では,Clostridium属細菌およびDugnella属細菌(γ-Proteobacteria綱)の活動が示唆され,植生によって主要な機能性菌相が大きく異なった。森林限界付近の森林土壌ではアセチレン還元力が小さく,逆に森林のない亜北極ツンドラ土壌で高いことが分かった。森林限界に近い北方林では,生態系全体の物質循環スケールが土壌単生窒素固定細菌による特徴的アセチレン還元能を制御し,ピースや菌根菌を系全体でのより協働的な窒素固定と樹木への効率的窒素供給が行われていることが強く示唆された。
著者
平川 一彦 荒川 泰彦 岩本 敏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

我々は、半導体量子構造を強いテラヘルツ電磁場の中に置き、その量子伝導を制御することを目的として研究を行った。主な成果は以下の通りである;1)半導体超格子に強いテラヘルツ電磁波を照射することにより、高電界ドメインの発生を抑制することに成功した。2)量子ドットにナノギャップ電極を形成することにより、量子ドットとテラヘルツ電磁波の強い結合を実現し、テラヘルツ光子支援トンネル効果により単一電子の伝導を制御することに成功した。
著者
高橋 昭久
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

温熱処理においてγH2AXに比べてATMのフォーカスの減衰が速いこと、DNA-PKcs、Chk2のフォーカスは遅れて認められることを明らかにした。また、NHEJ修復欠損株に比べてHR修復欠損株は温熱感受性になることを明らかにした。温熱耐性にPolβが関与していることを明らかにした。さらに、温熱耐性獲得時にγH2AXおよびその他のDSB認識リン酸化タンパク質のフォーカス形成率が減ることを明らかにした。
著者
伊藤 武廣 宮崎 樹夫
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の成果は,直観幾何の学習と論証幾何の学習の間にある不整合の特定と,直観幾何の学習と論証幾何の学習を接続するためのカリキュラムの開発である。前者については,命題の全称性の認識における不整合と,中学校数学の論証幾何カリキュラムにおける「証明」の定義における不整合を特定した。後者については,内容知での接続のために,中学第1学年図形領域「空間図形」カリキュラムを開発するとともに,方法知「証明・説明」での接続のために,証明の学習の諸相を整理するための枠組みを開発した。
著者
深瀬 浩一 藤本 ゆかり
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

糖鎖の機能を明確な物質的、構造的基礎に立って明らかにすることを目指し、固相法と固相-液相ハイブリッド法による糖鎖の迅速かつ効率的な合成法について検討した。4-アジド-3-クロロベンジル(ClAzb)基を持つ糖鎖を固相合成した後、アジド基と固相担持ホスフィン樹脂の反応により、ClAzb基を持つ目的化合物のみを釣り上げ、続いてDDQ酸化によって目的物を切り出す手法を用いてエリシター5糖の合成を行った。アスパラギン結合型糖タンパク質糖鎖の固相合成に向けた基礎的な検討を行い、(Bu_3Sn)_2を用いたラジカル反応によりトリクロロエトキシカルボニル(Troc)基を固相上で効率的に切断する方法を開発した。また固相上でN-Troc基の隣接基関与を利用した立体選択的グルコサミニル化を行うことに成功した。4,6-O-ベンジリデン保護マンノシルN-フェニルトリフルオロアセトイミデートを糖供与体として、TMSOTfを触媒として用いるβ-選択的マンノシル化法を見出した(α:β=1:9)。またN-フタロイル保護シアル酸のフェニルトリフルオロアセトイミデートを供与体に用いるα-選択的なシアリル化法も見出した。われわれは、タグとタグ認識分子の特異的なアフィニティーを利用してタグの結合した化合物を分離する手法を開発し、Synthesis based on affnity separation(SAS)と名付けた。本研究ではポダンド型エーテルをタグに用い、タグの結合した目的糖鎖を固相担持アンモニウムイオンに選択的に吸着させる方法を確立した。この手法を用いてルイスX糖鎖を含む10数種のオリゴ糖ライブラリーの合成を行った。免疫増強活性複合糖質リポ多糖ならびにペプチドグリカンについて、様々な部分構造や類縁体の合成を行い、それらの生物活性試験により、機能の解析ならびに生体の蛋白因子の相互作用について調べた。
著者
尾花 裕孝 古田 雅一
出版者
大阪府立公衆衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

食品の放射線照射は、食品の微生物管理や品質保持に効果がある。本研究では、照射時のラジカル反応により脂肪成分が変性して照射特異的に生成する2-アルキルシクロブタノン類(シクロブタノン)を検知指標とする食品照射履歴を化学分析により検知する分析法開発を第一目的とした。加熱溶媒による効率の高い抽出、低温下の脱脂、固相カラム精製を組み合わせた前処理法により、EU公定法ではGC/MS測定までの前処理操作に約2日を要するが、それを7、8時間に短縮することができた。牛肉、豚肉、鶏肉、鮭などにγ線を照射し開発した分析法によりシクロブタノンを分析したところ、すべての試料で、照射線量とシクロブタノン生成の用量一反応関係を確認した。シクロブタノン生成量は試料の脂肪含有量が影響したが、脂肪の多い試料で0.5kGy、少ない試料でも1kGy程度の線量まで検出できる感度であった。加熱加工・調理の影響を検討するために、照射食肉を加工・加熱調理してシクロブタノン分析を行った。その結果一般的な加熱・加工では食品の内部温度は100℃以下でありシクロブタノンは安定であったが、加熱温度を200℃に上げるとシクロブタノンは消失した。従って加熱加工・調理後の照射食肉類の照射履歴も検知可能であることが判った。食肉類の照射は冷凍状態で行われることが多いが、低温時のシクロブタノン生成は室温に比べると少ないことが明らかになり、低温時には元の脂肪酸構成を反映しにくいシクロブタノン生成比率であった。1年の冷凍保存を目安に冷凍保存後も照射の検知ができるかを検討したところ、生肉類ではシクロブタノンは若干減少したが照射検知には支障はなかった。加工食品では生肉類よりも大きく減少する例もあった。また、室温保存と比較すると、冷凍保存の方がシクロブタノンの安定性は高かった。
著者
尾崎 浩一 佐藤 明子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

昆虫の網膜における視物質発色団の代謝経路について,(1)光により11-シス形レチノイドを生成する蛋白質の同定と,(2)不完全変態昆虫における発色団代謝経路の解明とそれに関与する蛋白質の同定,の2点に焦点を絞り研究を行った。その結果,ショウジョウバエの網膜特異的酸化還元酵素(PDH)が光異性化蛋白質であることを見出した。また,コオロギの発色団代謝経路をHPLC解析により明らかにし,それに関与するレチノール結合蛋白質を発見した。
著者
宇野 佑子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

ミツバチは齢差分業や高い記憶学習能力といった発達した脳機能を持つ。前年度までに得られた研究成果から、ミツバチで顕著に発達している高次中枢(キノコ体)の小胞体がカルシウム放出、貯留機能を亢進していることを示唆する結果を得た。ヒトの脳ではこれらの遺伝子の亢進は報告されているが、ミツバチの近縁種でありモデル生物であるショウジョウバエでは検出されておらず、これらの遺伝子の亢進が社会性を持つ生物でのみ亢進している可能性もあると考えている。本年度はこの結果を国際紙に投稿すべく追加実験・論文執筆を行った。またミツバチで上記仮説等を検証するためには、脳への遺伝子導入系やその評価系が必須であると考えられるが、これまでにミツバチ成虫で利用可能な実験系は確立されていない。そこでその実験系の確立を目的に、ウイルスベクターを用いたミツバチ脳への遺伝子導入系の確立に携わった。まずは系の確立を目的としているため、Green Fluorescent Protein(GFP)遺伝子を成虫にインジェクションした個体の脳を用いて、インサイチュウハイブリダイゼーション法により脳へのGFP導入が検出可能かを検討し、同方法で検出が可能であるという結果を示唆した。遺伝子導入系やその評価系を確立することは、本研究の仮説検証に必須であるのみならず、ミツバチの脳機能と脳で発現している遺伝子の機能の相関を検証するうえで重要であり、研究分野へのインパクトが非常に大きいものである。
著者
松崎 毅
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究によって得られた知見は以下の通りである。1.ブロードサイド等の安価な出版物として大衆向けに書かれた歌、俗謡、連祷、哀歌等のジャンルにおいては、隠蔽の意図そのものが希薄であるのに対し、読者層が階級的に限定される牧歌、恋愛詩、瞑想詩、宗教詩等のジャンルについては、偽装および隠蔽的含意の生成の両面において、ジャンルの果たした役割が大きかった。2.恋愛詩、瞑想詩等のジャンルが主に偽装として機能するのに対し、牧歌はジャンル自体のコードを通じてより能動的に意味の生成に関わっていた。また、読者はそのコードについての理解を共有することにより、王党派としての階級的文化的な結束を強めたと考えられる。3.王党派文学の隠蔽性は、実体論的権威を神秘化し、かつその神秘化された知の占有を誇示することにより、内乱による敗北後も王と王政主義者達がその権威を維持し続けるための重要な機能を果たしたと考えられる。4.恋愛詩、瞑想詩、宗教等のジャンルにおける偽装の機能について、いくつかの具体例を明らかにした。特に、いわゆるキャバリエ詩人から宗教詩人へと「転向」したヘンリー・ヴォーンの宗教詩に、ピューリタン批判の極めて辛辣な政治的言説が隠蔽されており、それが「私的な祈り」としての宗教詩が前提とする「語り手=詩人」という解釈の枠組みを逆手に取った極めてジャンル・カンシャスな企てであったことを明らかにした。5.ジャンル理論に関する最新の知見、個々のジャンルの歴史的成り立ちやそこに含まれる従属的な諸コードに関する知見、また同時期の散文ジャンルについての知見を得ることができた。今後は個々のジャンルの問題に加え、理論面での研究をより強化したいと考えている。
著者
糸 健太郎
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

現在まで有限生成クライン群,特に擬フックス群の変形空間を,曲面上の射影構造との関係を通して研究している.射影構造空間において擬フックス群ホロノミーを持つ射影構造の集合は無限個の連結成分を持つが,この各成分は自己接触し任意の2つの成分は互いに接触することを明らかにした.この結果を論文「Exotic projectives structures and quasi-fuchsian spaces II」にまとめ投稿した.上記の結果は各成分間の接ぎ木写像が不連続となる現象に注目することで得られるのだが,逆にある意味においては連続であることを示すことにより,擬フックス群に関するGoldman's grafting theoremを擬フックス群空間の境界群にまで拡張できることを示した.これは論文「On continuous extension of grafting maps」として準備中である.一方で,3次元球面S^3の等角写像全体の成す群Conf(S^3)の離散部分群の研究をした.特にクライン群(Conf(S^2)の離散部分群)のConf(S^3)の中での変形空間を考察することで,今まで研究してきたConf(S^2)での変形空間に対して一段高い見地を得ることを目指している.具体的にはConf(S^2)におけるonce punctured torus groupに関する理論をConf(S^3)において構築する研究を荒木氏(東大)と共同で行った.すなわち特異3次元トーラス上の等角構造を一意化するConf(S^3)のクライン群を考え,その群の極限集合や変形空間(Maskit slice)の3次元コンピュータグラフィックスを描かせる試みを行った.
著者
内貴 正治 高橋 芳幸 笠井 憲幸 廣井 正彦
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

両生類において卵が輸卵管を通過する際、輸卵管のムチン様糖タンパク質を付着し、精子の認識を助けることがよく知られている。このようなことは哺乳類でも起こっており、ハムスターで明らかとなった。この輸卵管由来糖タンパク質のどのような構造を精子が認識してるかを知る目的でハムスター輸卵管糖タンパク質に対する単クローン抗体を作成した。マウスに免疫して作成した1つの単クローン抗体(AZPO-8)はIgGlで、輸卵管通過卵とのみ反応し、卵巣卵と反応しない抗体を得た。この抗体は卵管膨大部及び峡部の粘膜上皮細胞と強く反応し、子宮内膜と頚部内膜表面にも反応する物質が認められた。輸卵管糖タンパク質、輸卵管通過卵透明体糖タンパク質で共に反応するタンパク質は200Kの分子量を示すものが主成分で、その他に43〜95Kにかけて多数のバンドが認められた。ZPO-8抗体はA型ヒト赤血球を特異的に認識し、これを1600倍希釈まで凝集した。この凝集は赤血球をパパイン消化することにより10倍力価が上昇したので赤血球より糖脂質成分を精製した。その結果以下の糖脂質が抗原として同定された。いずれも血液型A型抗原活性をもつものと同一であった。1)GalNAc(α2-3)Gal(β1-4)GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)Glc-Ceramide(α1-2)Fuc2)GalNAc(α2-3)Gal(β1-4)GlcNAc(β1-3)Gal(β1-4)GlcNAc(β1-3)-(α1-2) Gal(β1-4)Glc-CeramideFucしかし現在までの検討の結果ハムスター精子がこの糖鎖構造を認識して卵に付着する知見は得られていない。現在精子の認識する化学構造に対する単クローン抗体を作成検討中である。
著者
日野 剛徳 田口 岳志
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

北部九州に位置する有明海沿岸低平地域の表層には、海成の有明粘土層と非海成層の蓮池層からなる軟弱粘土層が厚く堆積している。これらの軟弱粘土層の上では、諫早湾干拓や有明海沿岸道路のビッグプロジェクトを始めとする種々の建設現場が存在し、化学的地盤改良技術の採用、あるいは検討がなされている。化学的地盤改良技術は決して新しいものではないが、その社会問題化が後を絶えない。この課題を解決するために、本研究では : (1)化学的改良土における物質循環の解明 ; (2)物質循環が認められる場合の具体的な課題の解明 ; (3)この結果が化学的改良土の品質や周辺環境に及ぼす影響の解明、に取り組み、(4)対策の提案を行うことにより、地域・社会貢献を果たそうとするものである。有明海沿岸域に堆積する採取直後の粘土、浮泥および底泥に生石灰(以後CaO と呼ぶ), 酸化マグネシウム(MgO)および高炉セメントB種(BB)を添加した化学的改良土の改良特性および溶出・固定特性に関する検討を行い、次の結果を得た : 1)通常のタンクリーチング試験におけるpHと浸水日数の関係から、CaOではほぼ12以上のpHを示し、BB、MgOの順でpHの値は小さくなり、どの固化材においても浸水日数の経過に伴うpHの変化は認められなかった ; 2)他方、エアレーションを与え好気性環境を再現した場合のタンクリーチング試験のpHと浸水日数の関係では、生石灰150, 250kg/m^3のものは浸水当初に高いpHを示したものの、28日間の浸水期間中に全ての改良パターンで改良前の値まで減少した ; 3)硫酸水溶液を用いたタンクリーチング試験では化学的改良土の劣化速度が進み、主成分の溶出特性に違いが認められた ; 4)タンクリーチング試験と実環境との間の具体的な対比および地表・地下における化学的改良土の環境影響・変遷の考え方について新たな視点・対策案を見出せた。