著者
小野寺 恒信
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では、光触媒還元法を確立し、新規な有機・無機ハイブリッドナノ構造体を創製するとともに、有機・無機双方の特性を相乗的に活かした物性・機能を探求する。本年度は、作製した有機・高分子ナノ結晶をコアとする金属ナノシェル複合体の評価と、複合体の集積化を行った。1.有機・高分子ナノ結晶をコアとする金属ナノシェル複合体の評価ポリジアセチレンナノ結晶をコアとする金属ナノシェル複合体について、SEM/TEM観察および分光測定を行った。金属ナノシェルは、金属種によってシェルの凹凸に顕著な違いが認められた。その中でも、銀ナノ粒子は被覆率の違いと表面プラズモン吸収ピークのシフトに相関かおり、銀ナノ粒子間の双極子-双極子相互作用により議論できた。さらに、共同研究として単一粒子のレイリー散乱スペクトルの測定、特に偏光依存性を評価した結果、ポリジアセチレンナノ結晶の光学異方性に対応したスペクトルを観測すると共に、銀ナノ粒子の表面プラズモン吸収についてもコア結晶の屈折率の異方性に影響されたスペクトル変化が観測され、単一粒子レベルでコアーシェル間の相互作用を詳細に評価できた。これらは、複合体の構造と電場増強効果の相関解明に向け、重要なデータと成り得る。2.金属ナノシェル複合体の集積化交互積層法を用いて、複合体を35層まで積層し、非線形光学特性評価に必要な吸光度1程度の薄膜の作製に成功した。しかし、薄膜のSEM観察から、μmオーダーの凝集体が確認でき、より光学品質の高い薄膜を作製するには積層過程での複合体の分散安定性に留意する必要がある。以上のように、金属ナノシェル複合体の評価を行い複合化の特色を明確にすると共に、複合体の集積化を行うという当初の目標を達成できた。また、本研究の成果は学会および論文発表を行った。非線形光学材料・触媒・メタマテリアルなどの作製に貢献すると期待している。
著者
児玉 幸子 小池 英樹
出版者
電気通信大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

これまでの研究で、インタラクティブアートにおいては、展示会場に生じたイベントや鑑賞者が起こすイベントに対して、作品から効果的なインタラクションが返ったときに感じられるインタラクションの「つぼ」があることがわかってきた。本研究では、インタラクションが成功する争件を探るために、何種類かの入力デバイスを選び、タイミングなどの条件を変えて実験を行った。インタラクティブアートは、CGをモニタやプロジェクターに出力することが多いが、磁性流体ディスプレイを用いれば、CGの技術的制約から離れた実験が可能である。その特徴は,(i)微細な信号にも敏感かつダイナミックに反応するインタラクション、(ii)肌理細かなマテリアル性,(iii)液体であることに起因する形状変化(例:CGのモーフィングのような連続的変形。磁場に応じて、流動的状態や、スパイク状の突起をもつ何らかの形状を静止したまま保持する状態に移行できる)となる。芸術作品にはマティエールが重要と言われる。物質表面の肌理細やかな素材感は、芸術において極めて重要である。リアルタイムに3次元形状を変化させる場合、CGにおいでは画像の生成速度から生じる制約が大きく、テクスチャーの肌理はある程度犠牲にしなければ滑らかで自然なインタラクションは可能ではない。磁性流体ディスプレイを使えば、再現する形の制約はあるが、電気信号をほぼリアルタイムに液体形状の変化として反映できる。従って本研究では、まず磁性流体ディスプレイを中心に据えてリアルタイムのインタラクションの効果的技法を検討し、入出力の内容とタイミングをモデル化した。具体的には(a)画像認識を用いる手と形状のインタラクション(b)測音計を用いる音声と形状のインタラクションの2項目について実験した。その結果を最初に簡単なCGに反映させ、次に調整を加えて磁性流体ディスプレィに反映させて、独自のライブラリを構築した。今後複数の入力デバイスを統合的に用い、展示会場の画像・環境音、人間の動作等に連動して変化するダイナミックなインタラクティブアートを製作したい。
著者
中川 一郎 中村 佳重郎 田中 寅夫 東 敏博 藤森 邦夫 竹本 修三
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

ジオイドは、地球表面におけるさまざまな測地学的測定の基準面であるばかりでなく、その起伏が地球内部の構造と状態とを反映することから、ジオイドの精密決定は、測地学のみならず、地球物理学においても、きわめて重要で、かつ、基礎的な課題の一つである。本研究は、人工衛星アルチメトリィ・データや海上重力測定データや検潮データに加えて、陸上における重力測定やGPS精密測位および水準測量などのデータを総合し、西南日本におけるジオイドの起伏を精密に決定するとともに、得られたジオイドの起伏と地殻および上部マントルの密度異常との関係を明らかにし、その物理的な意義を解明することを目的として、つぎの研究を実施した。1.西南日本におけるジオイド面の起伏を精密に決定にするためのデータ・ベースとして、重力測定データ、水準測量データ、鉛直線偏差データならびに検潮データなどに加えて、トペックス・ポセイドン衛星のアルチメトリィ・データを収集した。2.近畿地方から九州地方にかけての東西約600kmの範囲内で選定された26地点において、可搬型GPS受信機6台を用いたGPS観測を実施し、これらの地点の楕円体比高を求めるとともに、水準測量によって標高を決定した。その結果、すでに得られている結果とあわせて、西南日本における合計57地点のジオイド比高が決定された。3.鳥取,別府,紀伊半島および西国の各地域におけるGPS観測点において、ラコスト重力計を用いた精密重力測定を実施した。4.気象庁および大学の地震観測データを用いて、西南日本の地震波速度異常の3次元的構造を決定することを試みた。5.ジオイド面ならびに3次元地震波速度構造の空間表示を行なうための面像処理プログラムの開発を行なった。
著者
末永 智一
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は, 「細胞の新規パターンニング法, 分離, 捕捉法を確立する」ことにある. 本年度は, 遺伝子組み換え細胞, バイオ微粒子を用いて, 誘電泳動による細胞捕捉と細胞アレイの作製, 捕捉された細胞の機能評価, 異種細胞のパターンニング等に関しても検討した.・単一細胞アレイの作製 : 誘電泳動により個々の微小ウェル中への細胞の捕捉することによる細胞アレイの構築に関して検討を行った. その結果, 直径30μm, 深さ25μmのウエルアレイを利用し, 1MHz, 3Vppの交流電圧を印加することにより, 効率的に単一細胞(HeLa細胞)ウエル中に捕捉することができ, 細胞アレイを構築できることが明らかとなった.・捕捉された細胞の活性評価 : 分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)をレポーター遺伝子として組み込んだHeLa細胞を作製し, 上記手法により誘電泳動により単一細胞アレイパターンを作製した. 発現したSEAP活性を電気化学顕微鏡により評価したところ, 単一細胞レベルでは遺伝子発現効率に大きな不均一性が認められた.・異種細胞のパターンニング : 誘電泳動パターニングデバイスを用いて細胞のパターニングを行なった. 本デバイスの利用により細胞に大きな損傷を与えることなく, 5分という極めて短時間に細胞をラインアンドスペース状に配列できることを明らかにした. さらにこのデバイスを利用することで, 異種細胞の異所領域へのパターニングが行なえることが明らかとなった.・バイオ微粒子のパターンニングと応用 : ITOマイクロアレイ電極上での誘電泳動を利用し、抗体固定化微粒子を抗体が固定されたPDMS表面の特性部分に集積させた. 集積化した微粒子量を蛍光計測することにより. マウスIgGを0.01ng/mLと高感度でしかも迅速に検出することに成功した. この手法を利用することにより, 各種細胞が混合した液から特定の細胞を分離できると考えている.
著者
真下 節 柴田 政彦 井上 隆弥 阪上 学 中江 文 松田 陽一 住谷 昌彦 喜多 伸一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

神経障害性疼痛モデルマウスでは疼痛出現後しばらくしてうつなどの情動異常が発症するが、うつ行動の発現にはα2Aアドレノ受容体が深く関与していることを明らかにした。さらに、モルヒネ耐性マウスではデクスメデトミジンの鎮痛効果が増強し、後根神経節のα2A、α2Cアドレノ受容体mRNAの発現増加がみられた。また、神経障害性疼痛モデルラットでは、セロトニン2C受容体のRNA編集が起こり、受容体作動薬の疼痛軽減効果が増強された
著者
松井 正典 廣瀬 敬 肥後 祐司 舟越 賢一 真下 茂 佐多 永吉 入舩 徹男
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

高温での圧力スケールとして良く用いられるMgO,NaCl,Ar,Au,Ptについて、それらの常温常圧~高温高圧における温度-圧力-体積関係を、放射光高温高圧X線回折、高温高圧下における弾性波速度測定、衝撃圧縮実験、分子動力学法を用いた計算機シミュレーション等に基づいて、高精度で求めた。加えて、地球マントル遷移層から下部マントル、コア上部を想定した、温度1000~3000K、圧力20~150GPaにおける、高信頼度の圧力スケールを求めることに成功した。
著者
深尾 良夫 山田 功夫 青木 治三
出版者
名古屋大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

最終年度の研究は大別して2つに分けられる。1つは前年度までに試作した改装CMG-3地震計を用いて、火山性微動の観測を行うこと、もう1つは前年度までの研究でメーカー規格との食い違いが明らかになったSTS-2地震計の感度特性を最終的に確立することである。第1の課題については1991年6月から約1年半雲仙普賢岳で試験観測を行い、特に火砕流に伴う震動記録を数多く記録した。これらの記録には通常の高感度地震計では捉えられない5-10秒の比較的長周期成分が明瞭に含まれており、広帯域地震計の威力を見せている。ビデオカメラによる火砕流記録と震動記録とを比較した結果、火砕流に伴う震動は地表に押し出された溶岩塊がゴロンと斜面を転がり始めるときに出るものであることが分かった。第2の課題については、感度特性が振巾・位相と共に固有周期140秒の速度型地震計との特性等価であることを2つの独立な方法で確認した。これはメーカ規格による固有周期120秒とは大きく異なり、解析にあたって十分な注意が必要である。またSTS-1地震計との並行観測を行い、STS-2地震計は周期50秒以上で地震計台の傾斜変動によるものではないノイズが卓越すること、このノイズは地震計を耐圧容器をかぶせることにより顕著に減少することを見出した。そこでSTS-2地震計用の耐圧容器を製作し、現在これを東海大学敷地内の地下1mに埋設しテスト観測中である(横浜市立大学と防災科学技術研究所との共同研究)。記録は地球潮汐を明らかに捉えており、この耐圧容器の効果の絶大なことを示している。
著者
池田 元美 渡邉 豊 渡部 雅浩 杉本 敦子 見延 庄士郎 笹井 義一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本科学研究費補助金研究は、極域の大気と海洋のそれぞれにおいて、気候変動に重要となるプロセスを解明することに加え、大気と海洋の相互作用、地球化学の要素、さらには陸面の植生まで含めた極域全体のシステムが、如何に機能しているかを調べたものである。特にこれから深刻化する地球温暖化に伴う変化を予測する基礎情報として、海洋生物生産の低下、亜寒帯陸域における植生の劣化が避けられないこと、およびそれが炭素循環に悪影響を与える可能性を示唆した。大局的視点からのまとめを2008年と2009年の北海道大学サステイナビリティ・シンポジウムで報告した。
著者
松本 嘉孝
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

河川環境とその場に生息する生物の相互作用を仲介する堆積性有機物BOMの堆積・流出メカニズムの解明は進んでいない。そこで本研究では,BOM量の基礎的データを蓄積し,出水前後におけるBOM量変動の把握とその影響要因の解析を行った。その結果,1)BOMはサイズによりその堆積量が異なり,変動傾向にも違いが現れた。2)出水前後のBOM量の変化は,出水始めの水位上昇時にはBOM量が減少し,出水後の水位低下時にはBOM量が増加する傾向が見られた。
著者
笹原 克夫 田村 圭司 恩田 裕一 土屋 智 小山内 信智 石塚 忠範
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

2004年3月26日にインドネシア共和国南スラウエシ州ジェネベラン川源流部のバワカラエン山で巨大崩壊が発生し,ジェネベラン川源流部に堆積した.本研究では衛星画像と現地調査により堆積土砂の地形変化を追跡し,流出土砂量の経年変化と侵食ガリーの発達状況を把握した.また流出土砂の放射性同位体分析により土砂の流出源を探り,洪水時の土砂と平常時の土砂は異なる土層から流出したことを把握した.
著者
鉾井 修一 朽津 信明 宇野 朋子 小椋 大輔
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

東南アジアでは、多くの石造・レンガ造文化遺産が植物および微生物による被害を受けている。本研究では、遺物に及ぼす藻類の影響を検討し、藻類の成長予測モデルの提案を目的とした。具体的には、スコータイ(タイ国)の大仏を対象として、藻類の成長に及ぼす環境の影響について検討を行った。藻類の成長予測には藻自身の含水率を予測することが重要であることを明らかにするとともに、環境条件を考慮した藻類の成長モデルを提案し、その妥当性を検証した。
著者
渡邉 彰 筒木 潔 真家 永光 RUDOLF Jaffe LULIE Melling
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

熱帯(マレーシア)、亜熱帯(米国フロリダ)、冷温帯(北海道)に属する湿地河川水中の溶存有機物(DOM)の構造特性の異同を各種分光化学分析および分解分析法を用いて明らかにした。また、DOMの微生物分解性は低く、主に非腐植物質が分解を受ける一方、腐植物質は速やかに光分解を受けることを見出した。地域間で各成分の分解速度に違いはなく、腐植物質・非腐植物質の割合に加え、炭素組成、三次元蛍光特性を用いて、各地域の湿地起源DOMの動態を一元的に評価することが可能であることを示した。
著者
山田 明徳
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究計画の主要な仮説は「熱帯林床のリター(枯葉、枯枝)をめぐって、微生物とシロアリとの間に競争関係がある」のではないか、というものである。前年度までに、微生物によるリターの分解量(リターの炭素無機化量=呼吸量による二酸化炭素の放出量)が雨期になると増加することを示してきた。「熱帯林床のリター(枯葉、枯枝)をめぐって、微生物とシロアリとの間に資源獲得競争関係がある」とすれば、微生物によるリター分解量が比較的少ない乾期にシロアリによるリター分解量が多くなることが予想される。そこで、タイ国・サケラートのシロアリによるリター分解を代表するキノコシロアリの菌園の現存量(土壌中に分布するキノコシロアリの菌園の現存量)を雨期と乾期とで比較し、乾期に比べると雨期では統計的有意に少なくなることを明らかにした。したがって、熱帯林の降水量の変化は微生物とシロアリによる分解量のそれぞれに逆の影響を及ぼし、微生物とシロアリが結果として相補的に熱帯林床におけるリターの迅速な消失(分解)に関係していることが示された。熱帯林におけるリター分解におけるシロアリの重要性は上述のように定量的には明らかになってきたが、空間的にどのようにシロアリがリター分解に関わっているか、ということは明らかになっていない。しかしながら、リターの分解過程を詳細に明らかにし、熱帯林の炭素循環や二酸化炭素収支などを考える上では、空間的に不均質に分布するシロアリによるリター分解パターンを解明することは必要不可欠である。そこで、メッシュサイズが異なる2種類のケージを用いてそれを比較することで、シロアリによるリター分解の強度と頻度を調査した。その結果、シロアリによるリター分解は微生物によるリター分解と比べると局所的・集中的に起こることが明らかになり、シロアリはリターの分解過程を空間的に不均質にするような効果があること明らかになった。
著者
九郎丸 正道 金井 克晃 大迫 誠一郎 前田 誠司 恒川 直樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

プラスティック製品の可塑剤として広く使用され、精巣毒性が知られているフタル酸エステル類に属するDi(n-butyl) phthalate(DBP)及びDi-iso-butyl phthalate(DiBP)について、その作用機序を種々の実験系を用いて検討した。その結果、DBPはエストロゲン様作用を示し、DBP投与により誘起される精細胞アポトーシスは精巣におけるエストロゲン受容体の活性化によりもたらされると考えられた。一方、DiBPによるアポトーシスはエストロゲンのそれと異なる作用経路によることが示唆された。
著者
本郷 健 近藤 邦雄 齊藤 実 須藤 崇夫 堀口 真史 佐野 和夫
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

分散処理的な見方・考え方はさまざまな事象を、情報を軸として捉えるときに大切となる新しい考え方である.分散処理的な考え方を育成することを意図したカリキュラムを開発した.高等学校の共通教科情報の必修科目また選択科目で活用できる複数のカリキュラムを開発し実践して、その効果を確認した.また、指導する教師の研修カリキュラムを開発し、教育センターで実施して、その有効性を確認した.開発した資料等は書籍やWeb上で公開して、普及を図っている.
著者
加我 君孝 室伏 利久
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

聴性脳幹反応(ABR)の難聴乳幼児の早期発見のための臨床応用が広く普及するようになった結果、わが国では0才のうちに難聴児が発見されるようになった。同時に0才のうちに補聴器のフィッティングを行い、超早期教育が行われるようになった。我々はこの難聴乳幼児の早期発見、早期教育に過去20年取り組んできた。その成果は著しく、2才前後での言語獲得がなされ就学後は普通学校に入学し、高等教育を受けるに至る場合も少なくなくなってきた。これらの症例を対象とする乳幼児の喃語や言語に関する研究は極めて少ない。早期発見された難聴乳幼児の始語に至る0〜1才の間の発達と音声の変化の関係について、他覚的に明らかにすべく音響分析を行った。対象:0〜1才の正常乳児3例とABR他の検査で高度難聴の証明された5例方法:ビデオカメラで、喃語を行動の記録とともに録音し、それをサウンドスペクトルグラフで解析した。結果:1)代表的な高度難聴乳幼児の発達と喃語および音声の変化を図1にまとめて記述解説し、サウンドスペクトルグラフによる解析の例を生後11ヶ月の“あー"を図2、生後19ヶ月の“あうーん"を図3に示した。2)対象例も難聴乳児もサウンドスペクトルグラフによる解析では、ほぼ同様のパターンを示した。異なる部分も一部に認めた。
著者
西村 明
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、戦後から現在まで日本人によって行われているアジア・太平洋戦争の旧戦地における遺骨収集・慰霊巡拝という行為に焦点を当て、インタビューや資料収集を通して、その概要を明らかにした。具体的には、戦死者の亡くなった瞬間と彼が置かれた戦没地からの時間的・空間的隔たりが、霊をはじめとする死者へのイメージや想いを喚起し、遺骨収集・慰霊巡拝という実践を促していることを明らかにした。
著者
若林 邦彦
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

ペンスリット爆薬の衝撃起爆機構を明らかにするために、レーザー誘起衝撃波によって衝撃圧縮されたペンスリット単結晶の時間分解ラマン分光実験を実施した。その結果、衝撃圧縮誘起の振動数シフトは振動モードに依存することが示された。ペンスリットのニトロ基が関わる振動が衝撃起爆に影響する可能性があることが分かった。
著者
多部田 茂
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

海洋生態系における炭素や窒素の循環をシミュレーションするための生態系モデルを構築した。低次生態系の窒素循環を扱うときに広く用いられているKKYSモデルをベースとし、植物プランクトンの分解実験に基づいて構築されたPDP(Phytoplankton Decomposition Process)モデルを参考にして拡張した。構築した生態系モデルを海域の流れや成層を再現する物理モデルと結合し、人工湧昇流を対象とした実海域の計算を行って観測値との比較により再現性を確認した。その際、長期間の炭素収支の推定には、準難分解性有機物の分解に支配される物質循環が重要であることが示唆された。そこで、3次元モデル(短期モデル)では易分解性有機物の分解に支配される物質循環がほぼ定常になるまでの時間スケールの計算を行い、その結果を用いて鉛直1次元モデルで長期の炭素収支を計算することによって、対象海域における長期間の炭素収支を推定するスキームを構築した。海底マウンドによる人工湧昇流に関して炭素隔離量評価モデルを用いたシミュレーションを実施し、炭素/窒素比の鉛直プロファイルが準難分解性有機物の生成・分解の影響によって徐々に変化し,それに伴って大気一海洋間の炭素収支が変動することを示した。また、オホーツク海沿岸や沖ノ鳥島周辺海域など日本近海のいくつかの海域において、海域の特徴を考慮した生態系モデルを構築し、物質循環のシミュレーションを実施した。さらに、海域肥沃化技術を導入したときの社会経済的な影響を評価するために、水産物を考慮した食料経済モデルを開発した。それを用いた日本の将来の動物性タンパク源食料(肉類・水産物)の需給予測、および海域肥沃化による水産物増産がこれらの需給に与える影響の予測を行ない、日本の食糧自給率に及ぼす水産物の重要性を示した。
著者
川中 淳子
出版者
島根県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

今年度は、本研究の最終年度であった。今年度も3名の研究協力者とともに研究をすすめてきた。研究協力者荒川ゆかり(しまね臨床心理研究所)(役割分担:地域文化、地域理解、神話、スクールカウンセリング)木谷健二(平成22年度 島根県中央児童相談所、平成23年度島根県立こころの医療センター)(大元神楽、神懸り、地域と個人の無意識、心理検査を通しての理解)西田京子(島根県スクールカウンセラー)(精神的風土、スクールカウンセリングを通してみた石見神楽)それぞれが研究旅行で調査を実施したり、より良いインタビュー面接を実施するために研修を受けたり、学会参加により多くの知見を得たりしてきた。研究協力者の荒川は、平成22年11月の中国四国心理学会第66回大会で「スクールカウンセリングと地域臨床-文化を生かす見立てについて-」の発表を行った。研究代表者の川中は、神楽の心理療法的意味と音楽持つ意味との関連を追求し、その成果を、平成23年度7月に島根県立大学短期大学部松江キャンパスの公開講座で報告する予定である。研究協力者の木谷は神懸りと心理療法の関連を論文として執筆している。平成23年度中に発表予定である。研究協力者の西田は平成23年度2011年3月31日心理臨床学会第30回秋季大会で「石見神楽の心理療法的可能性-非日常世界を抱える日常性-」として発表する予定である。3年間の取り組みを通して、地域の個性、地域性と文化や芸能の関連を明確にしてきた。広く地域を支援する上で重要な視点を得ることができたと言えるだろう。