著者
長岡 直人
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

安定な電力供給に資するため,雷サージ,電気鉄道,配電系統高調波などを解析するソフトウェアおよび解析モデル構築ツールを開発した。回路解析と電磁界解析プログラムを相互補完的に用いて新たな知見を得ると共に,実機・縮小モデルを用いた実験により精度確認を行った。提案法は実用精度を有すると共に,従来と比して高速な解析が可能となり,本研究の成果は安定かつ高品位な電力供給,安全・安心な社会構築に貢献する.
著者
坂原 茂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究では,従来の意味論の枠内で処理することが困難なコピュラ文をメンタル・スペース理論の枠組みで研究し,コピュラ文に反映される人間の知識使用の柔軟性についての基礎的研究も行った.コピュラ文「AはBだ」は,通常,同一性と集合論的包含関係を表すと考えられている.本研究では,コピュラ文をさらに詳しく見た場合,変数的に使われた非指示的名詞句に値の割り当てを表現する同定文(「源氏物語の作者は,紫式部だ」).すでに同定された対象に付加的属性を付与する記述文(「紫式部は,源氏物語の作者だ」).異なる情報領域で互いに独立に同定された2つの対象の同一性を表わす同一性文(「シェークスピアはベーコンだ」),対象同定のパラメータと値が直接結合された多少アクロバット的な知識使用を含むウナギ文(「私はウナギだ」),メタ言語的な定義文(「ピラミッドは古代エジプト王の墓だ」)などのさまざまな用法があることを明らかにし,それらの用法の相互関連について考えた.この研究は,シカゴ大学出版から刊行されるメンタル・スペース理論関係の論文集に掲載予定である.さらに.コピュラ文の特殊例としてトートロジーについても考察を広げ,それを東京大学教養学部紀要に発表した.その後,コピュラ文の意味論から考えた場合,トートロジーは4つの基本的用法があり,それ以外の用法はすべてこの4つからの派生として説明されるべきであるという暫定的結論に達し,その主旨の口頭発表を筑波大学で行った.この結論が,広くデータを収集した場合も成立するかどうかは確かめていないが,トートロジーの多様な用法に対する包括的理論を構成できるという見通しを得ることができた.この点に関する本格的研究は,将来の研究課題である.また,知識使用との関連で,条件文の語用論的解釈についての研究も行った.
著者
寺内 文雄 久保 光徳 青木 弘行
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,触知覚や操作に対するフィードバック感覚を利用して,直感的に情報を伝達するための方策について検討した。具体的には,飲料の種類を識別できる飲料パッケージ用触覚記号や薬剤の種類を示唆するパッケージ用触覚記号を提案することと,押しボタンスイッチの操作感とスイッチの物理特性の関係を解明することを試みた。本研究の結果は以下のように要約できる。1)晴眼者と視覚障害者を対象とした実験によって,内容物に対応した飲料パッケージ用触覚記号の形状と材質を明らかにした。2)薬剤パッケージを対象として,薬効を示唆する触覚記号と容量の異なるパッケージが存在することを伝える触覚記号の具体案を示した。3)押しボタンスイッチを対象として,スイッチの操作感と操作目的,スイッチの物理特性の関係との対応関係を明らかにした。さらに,スイッチの操作感評価においては,時間の要因を考慮する必要があることを示唆した。
著者
番原 睦則
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

組合せテストは,ソフトウェアの信頼性・安全性を高めるためのソフトウェア検証手法の 1つである.本研究では,組合せテストのテストケース生成の性能向上を目指し,SAT ソルバー,制約ソルバー,解集合ソルバーを用いたテストケース自動生成ツールに関する研究開発を行った.提案手法を実装した 3つのツールは,組合せデザイン・ハンドブック等に記載されているベンチマークに対して,様々な既存手法で得られた既知の最良値を更新することに成功した.
著者
小川 正 熊田 孝〓
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

未知の問題に直面したとき、我々は試行錯誤をすることにより知識を獲得し適切に問題を解決することができる。しかしその過程における神経メカニズムについては十分に知られていない。この問題を調べるため、我々は試行錯誤を伴う視覚探索課題を開発し、前頭前野外側部(the lateral prefrontal cortex, LPFC)から単一神経細胞記録を行った。試行錯誤を伴う視覚探索課題において、サルは6つの異なる色刺激の中から1つの色刺激を選択しなければならない。選択された色刺激が、実験者が事前に決めた目標色であれば報酬(ジュース)が得られる。目標刺激の色は試行ブロックが変わるごとにランダムに変更されるが、サルには目標刺激の色、更新タイミングに関する情報が一切与えられない。このため、報酬のフィードバックにもとづいて試行錯誤により目標となる色刺激を探索する必要がある。サルは目標刺激の色が変更された後、通常、数試行にわたって目標以外の色刺激を選択するが、一度でも目標である色刺激を選択するとステップ状の正答率変化を示し、それ以後は90%程度の高い正答率を維持した。このようなステップ状の正答率変化は、知識ベースの学習であることを示唆する。学習が成立する前(試行錯誤期間)では異なる色刺激を次々に選択することが必要であるが、学習が成立した後(メンテナンス期間)では同一の色刺激を選択し続けることが必要となり、2つの期間で行動選択の方略が根本的に異なると考えられる。実際、試行錯誤期間とメンテナンス期間でLPFニューロンの神経活動を比較したところ、試行錯誤期間において特異的な活動を示し2つの期間を区別するニューロン群を見出した。このことから、LPFがオブザーバー的な役割を果たし、2つの期間で異なる方略を使い分けるための神経機構の形成に役立っている可能性が考えられた。
著者
二宮 敬虔 久保田 孝 橋本 樹明 川口 淳一郎 丸家 誠 澤井 秀次郎
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

月や惑星などへの探査機の自律的着陸誘導法について,安全・確実に着陸するために必要なセンサ情報処理,カメラ画像に基づく地形認識,それらの情報に基づいた探査機誘導制御則に関する検討を行った.また,計算機上に天体の表面地形モデル(太陽光の反射特性も含む)と探査機モデル(ダイナミクス・制御則,センサモデルなどを含む)を構築し,探査機の自律着陸を計算機上で模擬できるグラフィカル着陸シミュレータを開発した.以下に得られた知見をまとめる.1.グローバルマッピング移動ステレオ法と輪郭・影情報を用いる手法により,3次元構造を復元する手法を確立した.2.惑星モデルの構築惑星形状や表面のクレータなどのモデル化を行い,さまざま惑星モデルを生成可能にした.また,太陽光の反射特性を考慮し,任意の位置から撮像した画像を生成する機能を実現した.3.着陸誘導制御アルゴリズム複雑な表面地形に対しても特徴点抽出が可能な手法を構築した.また,距離センサおよび画像情報を用いて,探査機の相対位置姿勢検出などがロバストに行われるアルゴリズムを考案した.4.地形認識画像情報から定性的な地形認識を行う手法を確立し,障害物回避,目標地点への高精度誘導着陸手法を構築した.本研究により,ロバストで高精度な自律着陸航法誘導システムが構築可能となり,今後の惑星科学の発展に大きく貢献できることが期待される.
著者
森信 繁 宮本 和明 福田 浩
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

1) 難治性うつ病の病態解明に関するBDNF遺伝子メチル化の解析対象は電気けいれん治療を受けた難治性うつ病群15例であり、治療前後での解析を行った。解析方法は、MassARRAYシステム(SEQUENOM)を用いた定量的メチル化解析法である。Exon 1のプロモーター領域にあるCpGアイランド内のメチル化の解析では、特に本治療によって特徴的に変化する部位は検出されなかった。Exon 4プロモーター及びexon 4内のCpGメチル化の解析でも、特に本治療によって特徴的に変化する部位は検出されなかった。Exon 1プロモーター領域のCpGアイランド内のメチル化の解析結果から、難治性うつ病群と未治療うつ病群を比較すると、難治群で低メチル化であるCpG32や難治群で高メチル化であるCpG4, 71などでのメチル化の程度の違いから、難治性うつ病群と未治療うつ病群は、異なったクラスターに分類される可能性が示唆された。2) 難治性うつ病の病態解明に関する拡散テンソル画像を用いた研究対象は難治性うつ患者8例・健康対照者6例であり、3テスラMRI装置(GE社製Signa Excite HD3.0T)を用い、頭部の拡散テンソル画像を撮像した。得られたデータからfractional anisotropy(以下FA)画像の作成を行った。患者群の前頭前野白質のFA値は健康対照群と比較して、AC-PC線20mm頭側の断面で、有意な減少が見られた。難治性うつ病群で前頭前野白質のFA低値がみられたことから、同部での微細脳構造の異常が示唆され、うつ病症状との関連が考えられる。今回の研究結果は、うつ病の難治化にBDNF遺伝子のメチル化の変化や前頭前野の白質構造の変化が関与していることを示唆していると思われる。
著者
楳田 洋太郎 田久 修
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、直交変調構成の包絡線パルス幅変調(EPWM)スイッチング動作型送信機について、実験的に初めて電力増幅器を用いた変調精度評価を行った。また、直交変調型EPWM送信機の実質的な電力効率の指標として、復調後信号点における振幅の大きさを表す実効復調電力効率を提案した。さらに、周波数可変で、電力損失、変調精度劣化を抑えつつ、量子化雑音による帯域外輻射を低減するため、180°ハイブリッド電力合成を用いた電力増幅器挿入型トランスバーサルフィルタを提案した
著者
蔵中 しのぶ 福田 俊昭 山口 謡司 相田 満 野口 恵子 谷 晃
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

学際研究の試みとして、日本文学を軸としつつも、中国文学・歴史学・建築学・情報学の諸分野から参加者をえた本研究は、従来、歴史学の一分野として、また、建築学の対象として発展してきた茶の湯研究・茶室建築に対して、日本文学研究の書誌学・本文解釈学、注釈研究・出典研究の方法論を導入することによって、茶道文献の読みそのものを格段に深めることができた。一方、日本文学の側からいえば、茶の湯や茶室建築の用語、茶室の寸法等、日本文学の対象の外にあった茶道文献に対して、新たなアプローチをおこない、日本文学研究における茶道文献の有効性を実証することができた。茶の湯を「場」として成立した「座の文芸」の特質は、日本文学のさまざまなジャンルとも複雑に絡み合っている。分析対象として選定した『茶譜』の本文校訂と注釈作業をおこなうなかで、日本文学研究における茶道文献の有効性を検証し、日本文学と茶道史研究の関係論を構築するための基礎データの集積を進めることができた。さらに、国際的な意義として、第二年度のヨーロッパ日本研究協会への参加、日EU交流年認定イベントに認定されたチェコ・カレル大学でのインターナショナル・ワークショップ「茶の湯と座の文芸」の主催、第三年度の中国・魯東大学における国際学会への参加は、茶の湯と日本文学というテーマに対する国際的な関心の高さを実感させてくれた。本プロジェクトが主催したチェコでのワークショップには、ヨーロッパから4名の研究発表者の参加をえた。大東文化大学語学教育研究所『語学教育フォーラム』第11号として刊行された研究報告書には、論文編として、蔵中しのぶ「茶の湯と座の文芸」、福田俊昭「五山文学にみえる茶」、山口謡司「『茶譜』の諸本について」、相田満「茶文化のオントロジ」、野口恵子「茶の湯と連歌-共営する場に関する一考-」、さらに、大東文化大学語学教育研究所客員研究員ションタル・マリ・ウエーバー「『茶譜』巻-における茶人のネットワーク-ネットワーク分析による寛永文化の時代区分論の試み-」、谷晃「『茶譜』論考(一)」の論文7本、「『茶譜』人名索引」、注釈扁として『茶譜』巻-注釈を掲載した。本研究の取り組みは、これを基盤として、他のさまざまな分野の研究への進展とコラボレーションの可能性を秘めている。第一に大東文化大学東洋研究所において「茶の湯と座の文芸」研究班をたちあげ、国会図書館本を底本とし、東洋研究所刊行物として継続して『茶譜』全18巻の注釈研究を完成させるとともに、第二に情報学の分野からは、『茶譜』データベースの作成に着手するとともに、相田満が手がけてきたシーソラスとのコラボレーション、第三に建築学の分野からは、矢ヶ崎善太郎を中心として、『茶譜』の寸法を忠実に復原した茶室建築の画像化を予定している。
著者
赤松 明彦 船山 徹
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

研究実績は以下のとおり.『ヴァーキヤ・パディーヤ』第二巻の注釈本文のテキスト・データベースを作成し、すでに入カ済みの第一巻、第二巻、第三巻詩節本文、および第一巻注釈(自注とプンヤラージャ注)とそれとを対照しつつ第二巻注釈のテキスト校訂を行った。『ヴァーキヤ・パディーヤ』第三巻に対するヘーラーラージャの注釈テキストを入力して電子テキスト化する作業を開始した。作成されたテキストデータベースをもとにして、主として当時の言語論と存在論とに関わる語彙を抽出し語彙研究を行った。たとえばdravya(「実体」)とかguna(「属性」)、kriya(「運動」)、jati(「普遍」)といった語-これらの語は、文法学における語彙であるとともに自然哲学派(ヴァイシェーシカ)などの存在論におけるカテゴリーでもある一を取り出し、そららのこのテキストにおける用法を明らかにした。同時に、関連する他のテキスト、『パダールタダルマサングラハ』、『ニヤーヤ・カンダリー』、『ニヤーヤ・ヴァールティカ』などにおける用法と比較検討した。本特定領域研究A04班「古典の世界像」班研究会における共同研究でなされた他領域の研究者との議論を通じて、インド古典期における「言語観」を、古代ギリシアや古代中国におけるそれとの比較を通じて考察することができた。言語哲学に関して現代哲学を代表する思想家であるJ・デリダやジュリア・クリステヴァの思想と、バルトリハリの言語哲学の比較を試みた。特に、言語の起源の問題と、エクリチュールとパロールの問題は、バルトリハリの言語論の枠組みを考える上でも重要な視点であることを確認した。
著者
宮内 敏雄 三宅 裕 店橋 護 梶島 岳夫 笠木 伸英 宮内 敏雄
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

乱流要素渦を理解し,それらを工学的に応用することを目的として,宮内は,種々の乱流場の直接数値計算結果から,要素渦の特性が乱流場の種類やレイノルズ数に依存しないこと,高レイノルズ数乱流中ではクラスターを形成することを明らかにした.また,要素渦による微細スケールでのスカラー輸送機構とフラクタル特性を明らかにした.三宅・辻本は,壁乱流の大規模な直接数値計算により,壁近傍場が遠方場とは独立に普遍的性質を持つこと,遠方場は大規模なストリーク構造で特徴づけられることを明らかにするとともに,スパン方向に狭隘な領域の数値実験では横渦しか存在し得ないことを示した.笠木は,壁乱流フィードバック制御システムの実現に向けて,DNSを用いて研究開発を行った.乱流制御のレイノルズ数効果の評価し,実際のアプリケーションにおいても制御効果がほとんど劣化せず,また,円管内乱流でも既存の制御アルゴリズムが有効であることを示し,現在の測定技術でも壁乱流制御が可能である制御アルゴリズムを開発した.また,せん断応力センサ群,壁面変形アクチュエータ群からなる制御システムのプロトタイプを試作・評価を行った.梶島・太田は添加物または壁面操作,圧力勾配などによって変調を受けた乱流場の渦構造を直接数値計算によって調べ,固体粒子群の分布や回転,壁面植毛の効果,空間発展乱流場(拡大・縮小流路)の影響を要素渦の視点から明らかにした.店橋は,高レイノルズ数一様等方性乱流の直接数値計算結果から乱流要素渦の階層構造及びスケール間のエネルギー輸送機構を明らかにするとともに,SGSモデルの評価を行った.
著者
垣見 和宏 森安 史典
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

肝がんに対するRFA治療を受けた患者に対して免疫細胞治療を実施するために、in vitroにおける樹状細胞(DC)培養条件の最適化を検討し、肝がん患者に対する臨床試験の開始を計画した。腫瘍特異的な免疫応答を誘導するためにDCには、1.RFA治療により熱変性した腫瘍細胞をuptakeする能力、2.免疫応答を誘導するために必要なCD80, CD86などの共刺激分子の発現、3.リンパ節へのホーミングに必要なケモカイン受容体CCR7の発現、が必要である。そこで我々は、1.immature DCをOK432で刺激して2-6時間後のDC(maturating DC)は、OK432刺激を除いても、それ以降mature DCへの成熟過程が進行し、16時間後にはCD80, CD86, CCR7などの分子を発現すること。2.肝癌細胞Huh7 cellをRFA治療と同様の加熱条件(85℃で10分間)で熱変性させた後、さまざまな成熟段階のDCとover nightで共培養すると、maturating DCは、熱変性した腫瘍細胞を効率よく取り込むこと。3.さらにmaturating DCは腫瘍の取り込みによって成熟過程を妨げられることなくmature DCへと変化することを明らかにした。これらの結果に基づいて、肝がんRFA治療後に腫瘍局所内へ投与するDCは、GM-CSFとIL-4によって誘導した末梢血単球由来のimmature DCを、OK432を用いて2時間刺激したmaturating DCの状態で用いることに決定した。東京医科大学病院において、肝がんの治療を受けた患者を対象に臨床試験を実施するためにプロトコールを作成した。倫理委員会での承認を受け臨床試験を開始し、肝がん患者の登録を開始した。
著者
山川 正 田中 俊一
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

酸化LDLは血管平滑筋に対する分化、増殖、遊走促進作用を有し、動脈硬化の成因として非常に重要であるが、その機序は不明であった。そこで、酸化LDL刺激により発現する遺伝子をDNAチップを用いて網羅的に解析し、helix-loop-helix Id3(Id3)の発現亢進、サイクリン依存性キナーゼ抑制因子(CDKインヒビター)であるp21WAF/Cip1とp27Kip1発現の低下が認められた。酸化LDLによるId3発現亢進はId3promotor/luciferaseのchimera plasmidを用いた解析およびActinomycinDを用いた実験から、転写の亢進及びmRNAの安定化によるものであることが明らかとなった。更に、Id3発現亢進はp38MAPKの阻害剤SB203580およびp38MAPKのdominant negative mutant用いた検討により、p38MAPKを介していることが示唆された。次に、Id3 dominant negative mutantを強制発現させたところ、p21WAF/Cip1とp27Kip1発現の低下傾向が認められたが、その効果は部分的であり、他の機序が示唆された。以上のように酸化LDLは血管平滑筋増殖作用は細胞周期関連蛋白であるhelix-loop-helix Id3が関与していることが明らかとなった。しかし、まだ不明な点も多く残されており今後の検討が必要である。
著者
大森 保 新垣 雄光 又吉 直子 棚原 朗
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

(1).瀬底島サンゴ礁において、海水中の炭酸系成分のシステマチックな時系列観測を5年間継続しておこなった。海水中の二酸化炭素濃度は、昼間に低く、夜間に高い日周変化を示す。これは、昼間には光合成と石灰化が卓越し、夜間には呼吸が卓越することによる。(2).流向流速計を用いた海水の流動解析をおこない、さんご礁の炭酸系変動の日周変動を説明できるボックスモデルを構築した。(3).海水中の二酸化炭素濃度の変動を周期解析すると、最も主要な変動周期は、約26.7時間であった。これは、海水中の二酸化炭素濃度変動が、太陽の日射量変動よりも、むしろ月の運行に関連した潮位変動に大きく規定されることを示している。それ以外にも、13時間、6.5時間などの短時間の周期変動があり、複合的なメカニズムによって規定されることが示唆される。(4).短周期の成分変動を除去して、年間を通した長周期の変動をみると、二酸化炭素濃度は、おおよそ、月単位でブロック上に変化し、夏に向かって上昇する傾向と、冬に向かって減少する傾向が確認された。この変動は、主として、海流の循環にともなう季節変動に支配されていると示唆された。サンゴ礁炭酸系変動と地球環境変動の関係を解明するためには、炭酸系変動の長周期因子の解明が必要であることがわかった。(5).瀬底島で構築した炭酸系変動ボックスモデルをレユニオン島のサンゴ礁に適用したところ、炭酸系の日周変動をうまく説明できることが確認された。これによりサンゴ礁の炭酸系をグローバルな視点から整合的に評価する方法を確立することができた。(6)以上により、サンゴ礁における炭酸系変動と地球環境変動について解明するための基礎を確立した。
著者
清水 孝一 加藤 祐次 山下 政司 北間 正崇
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

従来、カプセル内視鏡など体内機器との通信には、電波による単純な通信方式が用いられてきた。これに対し本研究は、体内を伝搬する散乱光を積極的に用いた光通信を新たに提案し、その実現可能性を実証することを目的とする。体内深部からの光信号は、生体組織で散乱され広く拡散していく。体表面に装着した複数の光センサでこの信号をとらえ、体内生理情報を復元する。光散乱を積極的に利用し、体表上いくつかの点に光センサを配置することにより、死角のない常に安定した信号伝送が期待できる。本年度は、前年度までの検討内容を踏まえ、提案手法の基本をなす体内散乱光による信号伝送実験装置を試作すると共に、それを用いた実験により信号伝送方式の最適化を図った。具体的内容は次のとおりである。1.生体内・光通信システムを試作した。2.試作システムを用い、生体モデルファントムと生体において本手法の特性を実験的に解析した。その結果、提案手法の実現可能性が実証された。3.種々のダイバーシティ方式の比較などを通し、提案手法の最適化を図った。その結果、提案手法の実用における有用性が実証された。研究成果の発表:国際学術誌(Applied Optics 2件、Optics Express 1件)および国際会議(invited talk 2件を含め4件)において、本研究の成果を報告した。
著者
板垣 正文 若狭 有光
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

核融合装置における磁気センサー信号からプラズマの外側の磁場とプラズマ境界形状を推定する新しい3次元計算手法が開発された.磁場センサーおよび磁束ループ信号に対応する境界積分方程式を連立させ,3次元ベクトル・ポテンシャルを未知数として解く.未知数の数を減少させるため,定式化においてはプラズマの回転対称性を導入した.大型ヘリカル装置について逆解析した結果,多数の磁気センサーをプラズマ外に配置すれば,磁場分布と最外殻磁気面形状をある程度の精度で推定できることがわかった.
著者
坪木 和久
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

集中豪雨や豪雪をもたらす激しい降水系は、メソスケール(中規模、水平スケールで数10kmから数100kmの規模)に組織化された対流システムである。これをメソ対流系と云う。メソ対流システムのリトリーバルでは、ドップラーレーダーの速度場の解析法を発展させるとともに、雲解像モデルの開発が不可欠である。メソ対流系は100kmオーダーの構造を持っており、それを構成する積乱雲は数キロメートルオーダーの構造を持っている。これらのシミュレーションにはこうした異るスケールの構造を同時にシミュレーションできるモデルが必要である。ここで開発するべき雲解像モデルは、広域の領域を非常に細かい解像度で覆うものでなければならない。そこで高速の並列計算機で実行できる雲モデルの開発を行った。ここで開発したモデルは、基本方程式系は非静力学圧縮系で、座標系は地形に沿う3次元直交座標である。変数は、流体力学過程について、流れの3成分、温位、気圧、雲物理過程について、水蒸気、雲水、雨水を用いている。雲物理過程は現在のところバルクの暖かい雨のみを含むが、将来的にはバルクの冷たい雨、さらに詳細な雲物理過程の導入を計画している。この新モデルは並列計算機用にデザインされたもので、大規模な領域、高解像度のシミュレーションができる。このモデルのテストとして、ドライの大気では山岳波、KH不安定等をテストした。また湿潤大気では、1999年9月24日に愛知県豊橋市で、台風18号に伴って発生した竜巻のシミュレーションを行った。広領域でかつ100mの水平解像度のシミュレーションで竜巻の親雲となる準定常的なスーパーセルが形成され、その中心部付近で竜巻に相当する規模と強さの渦が発生した。これより雲解像モデルの並列計算により竜巻をその親雲と同時にシミュレーションでき、そのメカニズムを解析できる可能性が示された。この他に既存のモデルを用いて、梅雨時に小規模な山岳の風下に形成される降雨帯のシミュレーションを行い、その形成メカニズムについて調べた。
著者
瀬戸 宏
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

中国演劇のリアリズムと話劇は密接に結びついている。リアリズムを主な内容とする演劇は、日本では近代劇とも呼ばれる。このため、本研究では、まずリアリズムの演劇、話劇、近代劇の相互関係を研究した。『話劇と近代劇』(西洋比較演劇研究会会報二十三号)にその研究成果が詳述されている。続いて、中国演劇のリアリズム概念を作品に即して具体的に考察するため、中国におけるリアリズムの演劇の代表作とされる曹禺『雷雨』を分析してその近代性を明らかにし、中華人民共和国建国後の上演とテキスト出版において『雷雨』の近代性が変質せざるを得なかったことを具体的に分析した。この面での研究成果は、『曹禺「雷雨」の近代性』(『野草』63号)、『曹禺作品上演史からみた中華人民共和国50年-曹禺「雷雨」を中心に』(『現代中国』74号)で詳述した。また、演劇のリアリズムを中国だけでなく世界演劇全体の中で考察するため、『演劇学論集-日本演劇学会紀要』三十八号「演劇のリアリズム」特集編集責任者となり、共同討議「演劇のリアリズムとは何か」を主宰し冒頭発言と討議の結語を担当・執筆した。研究の過程で「曹禺作品上演史からみた中華人民共和国50年」(日本現代中国学会第四九回学術大会)、「試論《雷雨》的家庭性質」(曹禺誕生九十周年記念学術研討会)の題目で口頭発表をおこなった。さらに、中国演劇におけるリアリズム概念の成立過程をより厳密に考察するため、中国現代演劇運動が主に展開された上海・北京の五四運動時期新聞記事・上演広告を調査した。調査結果は、平成十三年度中に論文・資料研究として公表する予定である。全体として、研究課題についてかなり大きな成果をあげることができたと考えているが、残された問題も多く、今後も研究を継続していく。
著者
岡田 千あき
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、ポストコンフリクト(紛争後)期という社会の混乱期に実施された「地域住民による自発的なスポーツ活動」に期待された役割を明らかにすることを目的に、カンボジア王国シェムリアップ州で実施されている事例の検証をした。現地調査の結果から、「開発手段としてのスポーツ活動に期待された役割は、内発性を引き出すことである」という結論を得た。内発性とは、開発途上国の社会開発、人間開発の議論の中心になりつつある概念であり、人々の内発性が引き出され、適切なエンパワメントがなされることが、開発分野に求められている課題でもある。
著者
堀 知行
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

近年、実環境での微生物代謝生理を決定する同位体追跡技術の進展・適用により、陸上地下圏においてメタンの産生抑制や分解に関与する微生物の存在が明らかになってきている。本研究では、嫌気土壌圏メタンフラックスに中心的に関わる未知細菌群を分子生態学的手法によって探索し、さらに分離培養することを目的とした。まず初めに、分離培養の微生物接種源である美唄湿原土壌の分子生態解析を行った。pmoA,mcrA,16S rRNA遺伝子のクローンライブラリ解析の結果、美唄湿原ではType Iメタン酸化細菌やFen clusterに分類される新規なメタン生成古細菌群が優占化していることが明らかとなった。現在、水素資化性メタン生成菌の基質競合細菌(還元的酢酸生成菌)に関する生態学的知見を得ることを目的として、アセチルCoA経路の鍵酵素遺伝子,fhsを標的としたクローン解析を進めている。また酢酸資化性メタン生成菌と基質競合する鉄還元細菌を分離培養すべく、難分解性の結晶性酸化鉄(GoethiteやHematiteなど)を電子受容体とした集積培養実験を開始した。しかし、これまでのところ新規な鉄還元細菌の純粋分離には至っていない。さらに嫌気環境のメタン動態に直接的に関与する嫌気メタン酸化微生物の取得を目指したバイオリアクターを考案・設計した。今後は、本連続培養システムを用いて目的微生物群の集積培養を行う予定である。