- 著者
-
深瀬 浩一
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬学会
- 雑誌
- ファルマシア (ISSN:00148601)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.11, pp.1091-1095, 2014 (Released:2016-09-30)
- 参考文献数
- 16
自然免疫研究は,細菌由来複合糖質研究から始まった.まず,特定の分子構造が免疫増強作用を示すことが明らかにされ,続いて様々なセンサー受容体群の発見につながった.細菌由来複合糖質の多くは複雑構造の高分子であり,天然物には他の免疫増強物質のきょう雑が避けられない.我々は,活性本体ならびにその受容体を確定するために,1)合成法の確立,2)均一な化合物の十分量の供給,3)合成化合物の生物機能研究への提供,という研究戦略に基づいて,細菌由来複合糖質の自然免疫機能の解析研究を実施した.微生物による免疫増強作用は,細菌感染によってがんが治癒,縮小する現象として300年以上前から報告されていた.19世紀の終わりからこの現象に科学の目が当てられ,1893年にColeyは細菌を用いた世界で最初のがんの免疫療法を実施した.その後様々な細菌による免疫活性化作用が報告され,現在この現象は自然免疫の働きによるものと理解されている.自然免疫は,種々のセンサー受容体(病原体認識受容体,パターン認識受容体)により,細菌,ウイルス,カビなどの病原体由来の複合糖質,グリカン鎖,リポタンパク質,DNA,RNA,鞭毛タンパク質フラジェリンなど,病原体に特徴的な分子を認識して生体防御にあたるシステムで,抗原-抗体反応や腫瘍免疫などの獲得免疫の誘導にも重要な働きをしている.また自然免疫は,アレルギーや自己免疫疾患,慢性炎症やがんとも深くかかわっていることから,大きな注目を集めている.我々は,リポ多糖や細菌細胞壁ペプチドグリカンなどの細菌由来複合糖質を主な対象として,それらの合成研究と合成化合物を用いた機能解析研究を実施したので,以下に紹介する.