著者
権 学俊
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は近現代日本におけるスポーツ・ナショナリズムの解明を目的とし3年間スポーツ・ナショナリズムを「支配・管理」「統制」「同和」「排除」「抵抗」という側面から検討した。本研究を通して、戦前スポーツイベントが天皇制と国家的な秩序への同意を強化し、国家との一体感を推し進める装置として巧妙に機能した点、戦後天皇・皇族が様々なスポーツ大会と関わりながら、「象徴天皇制」「大衆天皇制」の基盤強化を図るとともに、国民との距離を縮め新しい皇室像をアピールしていったことが明らかになった。
著者
西山 茂
出版者
東洋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

補助金交付期間に得られた研究成果の概要は、以下の通りである。(1)生野区にいる在日韓国・朝鮮人(以下、在日という)の葬儀の約90%が日本仏教寺院で行なわれているが、そうした寺は彼等にとって便宜的な葬儀の場以上の意味をもっていない。また、生野区の日本仏教寺院の82%が在日の葬儀を経験しているが、寺が葬儀を引き受ける動機の多くは経済的なものである。さらに、寺での在日の一般的な葬儀の形態は儒教式(韓国・朝鮮式)と仏教式(日本式)の折裏である。(2)生野区にいる在日の殆どは、町内会を通して自動的に神社の氏子となって神社への寄付もしているが、役員となって神社の意志決定に参画する機会は殆ど与えられていない。ただし、在日の多くは、初詣や祭りの時に神社に参拝するだけでなく、七五三や結婚式、さらには地鎮祭や上棟式のお祓いなどを神社に依頼したりもする。また、祭礼時の地車曳行や獅子舞いには在日の子弟が数多く参加し、それが大人になっても懐かしいふるさとの思い出となっているという。(3)生野区には比較的多くの在日信者を含む創価学会(推定で3300名前後)、崇教真光(推定で1000名前後)、天理教(140名)などの新宗教がある。これらの新宗教の在日信者の割合は、創価学会と崇教真光が約三分の一、天理教の場合は2.5%である。また、切宗教諸教団のなかでは比較的歴史の浅い新宗教のほうが在日の信者が多く、同一の新宗教教団のなかでは指導者が在日で信者のなかにも多くの在日があるような教会などに在日の信者が集中する傾向がある。
著者
中山 哲夫 柏木 保代
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

現在、わが国で使用されているワクチンをマウスに筋注し安全性を評価した。現行ワクチン製剤はかつての筋拘縮症のような筋組織の壊死、瘢痕化を起こすことはなく安全に使用できることが明らかとなった。接種部には炎症性肉芽腫が認められ接種3時間後から接種部位に炎症性サイトカイン(IL-6, IL-β, TNF-α)やIL-4, G-CSFが産生され7日後には検出できなくなる。接種部位には好中球が遊走し炎症反応を惹起し獲得免疫を誘導する。ワクチン接種後の副反応として発熱を認めた児では G-CSFが高値を示し、ワクチン接種後の免疫応答に炎症反応が重要な役割を担っていることが明らかとなった。
著者
清水 裕子 井上 一由 森松 博史 高橋 徹 山岡 正和 大森 恵美子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ヘム代謝の律速酵素であるヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)は横紋筋融解症性急性腎傷害に対して保護効果を示すと報告されている。BTB and CNC homology 1 (Bach1)はヘム依存性の転写因子で、HO-1の発現を制御している。今回我々は、横紋筋融解症ラットモデルの急性傷害腎においてHO-1 mRNAとHO-1タンパクが有意に増加し、ヘム合成の律速酵素であるALAS1のmRNAの発現が抑制されることを確認し、さらに横紋筋融解症性急性傷害腎において、細胞内遊離ヘムの増加に伴い核内Bach1タンパクが核外へ移行し、本研究は腎臓のBach1発現の動態をin vivoで初めて明らかにした。
著者
上町 達也
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,日本の豊富なアジサイ遺伝資源を利用して環境耐性をもつ園芸品種を育成するために,これらの系統学的な解析を行うとともに,強光耐性並びに乾燥耐性を持つ育種素材の探索を行った.①ガクアジサイとエゾアジサイの分布境界域が,頸城山塊であること,②伊豆半島ではガクアジサイとヤマアジサイの自然交雑が生じていること,③アジサイ園芸品種の中にはガクアジサイとエゾアジサイの種間交雑品種が多く含まれること,④八丈島と青ヶ島のガクアジサイ野生系統において乾燥耐性が認められること,⑥強光障害には2タイプあり,いくつかの耐性系統が認められること,が明らかとなった.
著者
鯉沼 陸央
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

酸化グラフェン(GO)を用いた新しい電気化学二重層キャパシタの作製に成功した。ここで作製した電解二重層キャパシタは、バインダーフリーのオールカーボンスーパーキャパシタとして作用することが分かった。GO内に多塩基酸である硫酸やリン酸を添加することによって、その特性が1ケタ向上することも見出した。GOにスルホ基を導入することで、サイクル特性の向上を目指した。スルホ基を導入したGOを固体電解質に用いると、サイクル特性は10倍以上(数1000回の充放電に耐性をもつ)に向上した。以上の結果から、GOおよびスルホ基を導入したGOは非常に高い能力を有する固体電解質として作用することが証明できた。
著者
横山 俊一
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

Julia 言語を用いた新しい数式処理システム Nemo の開発を通して,以下の課題を解決することを目指す.1) AbstractAlgebra.jl の開発を通して,拡大体(とくに局所体)の高速計算アルゴリズムを提案し,高次拡大体の計算や高速同型判定を可能にする.2) Hecke.jl の開発を通して,数論幾何的対象(楕円曲線やモジュラー形式)の計算パッケージを実装し,代数体上の楕円曲線の効率的探索を実現する.また,以上の実装を用いて大規模探索を行い,数論データベース LMFDB の拡張プロジェクトへの貢献を目指す.
著者
山中 伸弥 青井 貴之 中川 誠人 高橋 和利 沖田 圭介 吉田 善紀 渡辺 亮 山本 拓也 KNUT Woltjen 小柳 三千代
出版者
京都大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2007

4つの転写因子を体細胞に導入することで多分化能を持ったiPS細胞が樹立できる。c-Mycを含めた4因子を用いた場合にキメラマウスで腫瘍化が高頻度で認められ、レトロウイルス由来のc-Mycが原因の一つであることが分かった。樹立条件などを検討しMycを用いずにiPS細胞を作ることに成功したが、性質の点で不十分であった。c-Mycの代替因子の探索を行いL-Mycを同定した。L-Myc iPS細胞は腫瘍化リスクもほとんど認められず、性質の点でも十分であった。レトロウイルスを用いずにプラスミドを用いることでもiPS細胞の樹立に成功した。このことにより体細胞への初期化因子の挿入が起こらずより安全な作製方法の確立に成功した。神経細胞への分化誘導とそれらの移植実験により安全性を検討する方法の確立も行った。また、肝細胞、血液細胞、心筋細胞への分化誘導系も確立した。iPS細胞の性状解析をディープシークエンサーなどを用いて詳細に解析する技術の導入も完了し、網羅的な遺伝子発現、メチル化解析、スプライシング解析なども行った。
著者
飯塚 哲 高橋 好徳 畠山 力三 佐藤 徳芳
出版者
東北大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では空気のオゾナイザー放電により生成されたオゾン処理空気を水槽に流し、実際に金魚を飼育して、その成長に及ぼす効果について明らかにした。実験では、(1)オゾン生成部、(2)処理空気の輸送部、(3)水中での成分測定、及び(4)金魚の成長を観察した。(1)ではオゾナオザー放電の発光スペクトルを測定した結果、300〜400nmの紫外線が強く発光し、原子状酸素の存在が確認された。オゾンの紫外線吸収帯(254nm)以下の紫外線の発光は微量であった。(2)オゾナイザーを通過した空気の成分を調べるために気体の吸光度を測定した結果、254nmを中心に半値幅が約20nmの吸収帯が観測された。これはオゾンによるものであり、その他の窒素酸化物などによる吸収はほとんど観測されなかった。(3)この処理空気を蒸留水に瀑気して水の吸光度を測定した。その結果、波長が230nm以下の領域での吸光度が、瀑気日数と共に上昇していくことが分かった。通常の空気瀑気ではほとんど吸光度の変化は見られなかった。これは重要な知見である。さらに、オゾンと水との反応による過酸化水素の検出をしたところ、オゾン瀑気水に0.013ppm程度のわずかな量が見られた。過酸化水素水中で金魚の飼育を試みたが顕著な成長は見られず、過酸化水素の生体活性度はなかった。また、各種の水中負イオンの分析を行った。金魚を入れたオゾン処理水の硝酸負イオン濃度は空気瀑気水の17%であり、顕著な差異が認められた。水中オゾン濃度は検出限界以下であった。(4)オゾン処理水中の金魚は活発に運動し、餌をよく食べ、成長は空気瀑気通常水の体長で約2倍、体重で約4倍の差が見られた。以上の測定結果から、空気酸素の放電による生成オゾンが水と反応し、イオン濃度等を変化させ、金魚の成長と関連していることが確認された。
著者
横田 耕一
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1.「法人」の「人権」主体性は最高裁判所で認められているが、「人権」の未来の趣旨からして、「法人」には「人権」は認めるべきでなく、仮に認めるとしても、「個人」と同等のものは認めるべきでない。ただ、宗教団体(教会)が信教の自由の主体であるとの説については、検討課題として残されている。2.労働組合の「団結権」は、組合という「集団」の「権利」としては、認めるべきであるが、これを労働組合の「人権」として認めることは労働者「個人」の「人権」を抑制することになりがちであるので賛成できない。3.アファーマティヴ・アクションは、「集団」に「人権」を保障したものではなく、特定の「集団」に属する「個人」に対して特別の「実質的平等」を保障したものとして理解すべきである。4.人権・民族などの「集団」に対する名誉毀損、差別表現を法的に規制することは不必要であるばかりか、危険であり、重要な「人権」たる「表現の自由」を侵害するので、行うべきではない。5.「第三世代人権」の一つとして主張されている「平和的生存権」は、国際法上の概念が曖昧であり、「人権」として現段階では認められない。日本国憲法における「平和的生存権」は、「個人」の「人権」と考えるべきであり、それを積極的に認めることには意義がある。6.「発展権」は、それを第三世界諸国が主張する理由は理解できるが、それを「人権」と呼ぶには未だその具体的内容が不明であり、主体もはっきりしないので、せいぜいスローガンないし「発展途上の人権」として理解すべきである。したがって、「発展権」を「集団的人権」といま呼ぶことはできない。
著者
遠藤 英子 那須 浩郎 山田 昌功 國木田 大
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

黒海北側に位置するウクライナは、ユーラシア農耕拡散の結節点であるが、確実な考古植物資料が限定的である。本研究では種子同定精度が高いレプリカ法を用いて栽培穀物データを蓄積した。成果として、1.新石器時代資料からは栽培穀物は同定されず、定説である6000年紀を遡る農耕開始は再検討が必要な事。2.金石併用時代には西アジア起源のムギ類の栽培が導入されているが、既報告のキビは本調査では同定されず、再検討が必要である事。3.これまで確実なキビの出現期とされてきたUsatovo文化を含めて、金石併用時代末から青銅器時代中期の遺跡でもキビは検出されず、青銅器時代後期に突如キビが出現する、等を明らかとした。
著者
伊藤 隆敏 山田 昌弘
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、外国為替市場における高速頻度取引(high-frequency trading)の発達が、市場の効率性と安定性にどのように影響しているかを実証的に明らかにすることである。データは電子ブローキングシステム(EBS社)の中に蓄積される、高頻度(1秒の100分の1)の大量のデータを使用する。昨年度は、ロンドンの仲値(4pm WM/Reuters fixing)と東京の仲値(9:55am)前後の価格の動き、取引量の動きから、私的情報を保有する銀行が、仲値形成に影響を及ぼそうとして取引実行のタイミングや実行価格について「工夫」しているかどうかを検証した(Ito and Yamada (2017), Ito and Yamada (2018))。本年度(2018年度)は、この日本の論文を発表する機会を増やして研究成果の伝播につとめた。2019年3月にGRIPSで開催したEBSデータ国際会議では、アメリカから二人の学者を招待した。Melvin教授はわれわれが分析したロンドンでの談合疑惑の結果として生じた民事裁判で、訴えられた銀行側の証人としての経験を話して、伊藤・山田論文が非常に核心をついていると評価した。Levich教授も東京市場の仲値決めに関連して、非常に興味深い結果と評価した。一方、Melvin教授の発表論文とLevich教授の発表論文は、来年度以降の研究の方向を考えるうえで参考になった。本年度発表の論文は、Ito, Takatoshi (2018)があるが、これは、外国為替市場が、EBSのマッチング・コンピューターの導入、銀行などのDealerのコンピューターとの接続、などによって外国為替市場が、裁定取引が瞬時のうちにできるという意味で、効率的になる一方、高速取引のなかで、一方的に急騰あるいは急落するというリスクがたかまっていることに警告を鳴らしている。
著者
稲 正樹
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

東北アジア地域における人権メカニズムの前提条件(もしくは同時的取組み)としては、最小限6個の課題の解決を必要とすることが明らかになった。そして東北アジア各国において国家人権委員会(国内人権機関)の設置を進めて、各国国家人権委員会の連携と協力を進めていく必要がある。人権メカニズムを制度化する場合には、監視、通報制度、能力形成と教育、構成と支援に関する国連人権高等弁務官事務所の国際基準をクリアーしなければならない。そして人権メカニズムの保障する人権保障の基本原則としては、(1)人権の普遍性、不可分性、相互依存性、(2)持続可能な発展、(3)平和主義原則を提案できる。
著者
植野 妙実子
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

フランスでは、立法過程・政策決定過程において、憲法院とコンセイユ・デタが大きく関与する。とりわけ憲法院は、法律の違憲審査を通して、立法のあり方にも影響を及ぼしている。他方で国家の行政上の重要な役割を担っているのはコンセイユ・デタであるが、コンセイユ・デタと憲法院との連携は、機関として行われているばかりでなく、人的配置においても行われている。このような協力を通して、国家としての一貫性、安定性を図っている。こうした関係において、憲法院がいかに公正に合理性をもって人権保障を図るかが、市民にとっては重要になる。
著者
今井 康之 黒羽子 孝太 渡辺 達夫
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

化学物質アレルギーにおいて、抗原感作を強める作用(アジュバント作用)の機構には不明な点が多い。マウス接触性皮膚炎モデルにおけるフタル酸エステルのアジュバント機構について、侵害刺激受容チャネルTRPA1の重要性を明らかにした。作動活性のある既知の天然物、アンタゴニストを用いた実験結果も上記の機構を支持した。アジュバント物質の予測において、TRPA1作動活性の検索が有用であることを、化粧品や薬剤処方に汎用されている代替可塑剤を題材として明らかにした。
著者
村田 容常 本間 清一
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

リンゴを切ると褐変することはよく知られた現象で、酵素的褐変の典型例である。これは、リンゴ細胞中のポリフェノール類がポリフェノールオキシダーゼ(PPO)により酸化されキノン体となり、それがさらに重合するためと考えられている。リンゴPPOは、我々により1992年に初めて単離された。抗PPO抗体を調整し、PPOのリンゴ組織内分布を検討したところ、PPOはリンゴ果実の中心付近(種子の回り)に局在することがわかり、これが褐変部位と一致した。このようにリンゴPPOは、リンゴの褐変に中心的役割をはたすが、構造と活性の詳細は未詳であり、また、その発現を制御することにより褐変をコントロールすることも試みられていない。そこで申請者は、まずリンゴPPO遺伝子をクローニングし、その構造を明らかにすることとした。リンゴPPOをコードすると予想されるプライマーを用い、PCR法によりゲノムDNAを増輻した。その結果、PPO遺伝子と思われるバンドが検出された。増輻断片をpBluescriptに組み込み、大腸菌に導入した。得られた十数個のコロニーの遺伝子を調べたところ2個のPPO遺伝子を得ることができた。各々をシークエンスし、全塩基配列を決定し、アミノ酸配列に翻訳した。その結果、リンゴPPO遺伝子にはイントロンがないこと、シグナルシークエンスよりPPOタンパク質はプラスチドへ輸送されること、銅2分子が結合すると予想される保存性の高い2つの活性中心領域(Cu-A、Cu-B)が存在すること等が明らかとなった。さらに本遺伝子の大腸菌中での発現に成功した。発現タンパク質はPPO活性を有し、かつ抗リンゴPPO抗体と反応した。
著者
黒川 峰夫
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

骨髄異形成症候群(MDS)は多様な病態を含む不均一な疾患群だが、主に造血不全が問題となる病態である低risk MDSについては、その機序はこれまでのモデルだけでは十分に説明できず、MDS細胞との相互作用による正常造血幹細胞の抑制などの未知の機序の存在が示唆される。我々は一般的な骨髄異形成症候群(MDS)のモデルであるNUP98-HOXD13(NHD13)トランスジェニックマウスから採取した造血細胞を正常造血細胞と混合し、致死量の放射線を照射したレシピエントマウスに移植してキメラマウスを作製した。白血球表面のCD45多型を利用したLy5.1/5.2システムを用いて、MDS発症過程における正常造血細胞の分化、増殖を解析した。生着後MDS発症前の段階において、コントロール群と比較し正常造血細胞の成熟顆粒球への分化が阻害されることを明らかにした。またIn vitroの系において、NHD13をレトロウイルスを用いてマウス造血細胞に感染させ不死化した細胞を、骨髄造血ニッチを模したOP9細胞上で正常造血細胞と共培養したところ、キメラマウスの系と同様に正常造血細胞の成熟顆粒球への分化が抑制された。また、トランスウェルを用いてNHD細胞と正常造血細胞の直接接触を防いだ状態で共培養した系や、共培養後の培養上清を用いて正常造血細胞を培養した系では、正常造血の分化抑制は認めなかった。これらの結果より、MDS細胞との直接接触により正常細胞の分化抑制が惹起され、MDSにおける造血抑制に関与している可能性が示唆された。また、MDS細胞と共移植したキメラマウスの正常細胞中の骨髄球系前駆細胞をソートし、DNAマイクロアレイを用いて発現変動遺伝子を抽出した。今後遺伝学的解析によりその下流のシグナルを明らかにするとともに、当該分子の作用を阻害することで正常細胞の分化抑制が解除されるか検討する。
著者
土井 守
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

アカウミガメでは、通常受精卵の頂点付近から胚の固着と卵殻の白濁が進行した。しかし、転卵区ばかりでなく通常の孵卵条件下の受精卵でも胚が卵殻上部の位置で固着せず、孵卵15日目において卵殻下部の位置で発生が進行しているものも観察できた。そのため、初期胚は必ずしも卵上部で固着し発生が進行するとは限らないものと考えられた。また、アカウミガメの受精卵において移植時に生じる胚発生の停止は、産卵後12時間以上から約40日目までに起こるものと考えられた。孵卵に必要な温度と砂中水分含量は、自然下では降水量と密接に関係しており、積算温度は、1800℃を超えると孵化に至ることが確認できた。一方、飼育水槽内の水温が低下した時期に雌のエストラジオール-17β濃度、雄のテストステロン濃度の上昇が一致する動態が見られ、雌の血中エストラジオール17β濃度および雄の血中テストステロン濃度は、飼育海水温が低下する9月から2月にかけて上昇し、飼育海水温が上昇する5月から7月にかけて低下した。なお、雌のプロジェステロン濃度は、2月から5月にかけて上昇した。本研究では、産卵してもほとんど孵化が期待できない場合の移植時期と方法を明らかにすることができ、また雌雄のウミガメの産卵生理を内分泌学的に捉えることができた。希少動物種であるアカウミガメが北太平洋で唯一の産卵場所である日本の海岸で、できる限り多くのアカウミガメを保護・保全するために、この研究が役立つものと期待される。