著者
藤川,賢
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.11, 2005-10-25

被害が被害として認識されにくいことは多くの公害問題に共通して見られるが,イタイイタイ病および慢性カドミウム中毒においてはとくに特徴的である。中でも,大幅な発見の遅れにより多くの激甚な被害者が見過ごされたこと,富山以外でも要観察地域や土壌汚染対策地域が指定されながら同様の健康被害が公害病と認められなかったことは,重要と考えられる。本稿は,被害地域などでの聴き取り調査にもとついて,こうした被害放置の経緯と背景を明らかにしようとするものである。発見の遅れについては,公害の社会問題化以前で危険性が重視されなかったこと,川への信頼などの他に,個々の症例においても地域全体としてもイ病が長い年月をかけて深刻化したために,激しい症状さえもあたかも自然なことのように受け止められていたことが指摘できる。また,農業被害は明治時代から明らかで補償請求運動も続いていたにもかかわらず,それが直接には健康被害への着目や運動につながらなかったことが指摘される。イ病訴訟後も,土壌汚染対策費用などの政治経済的理由を背景に,イ病とカドミウムの因果関係を疑い,神通川流域以外でのカドミウムによる公害病を否定する動きがある。これは医学論争であると同時に,力の弱い少数者の被害が行政面でも医療面でも軽視されるという,未発見時代と類似した社会的特徴を持ち,現代にも問題を残していると考えられる。
著者
河崎 健
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.44-55, 2015 (Released:2018-03-23)
参考文献数
29

諸外国でしばしば理想視されるドイツ連邦議会の選挙制度だが,1990年の統一以降,その構造的な問題点が研究者などの間で議論されることが増えてきた。そして2005年の補欠選挙を契機に,「負の投票価値」という制度特有の問題が露わになり,改革論議が高まったのである。その後,連邦憲法裁判所の2度の違憲判決などを受けて2013年に新制度が発足したが,選挙制度に内在する問題が完全に克服されたとはいいがたい。本稿ではこの新制度の特徴と問題点を,新制度下で初めて行われた2013年の連邦議会選挙との関連で考察する。具体的には,負の投票価値,超過議席,阻止条項そして調整議席といったドイツ特有の選挙制度の特徴について,内在する問題点について考察する。
著者
椎名 乾平
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.415-444, 2016 (Released:2018-03-21)
参考文献数
146

Pearson’s correlation coefficient is an important statistic. For over a century, the index has been used in various branches of science. This paper introduces both its creation and initial developments that are often forgotten or ignored. Because no theory is independent of the original setting and the research plan of its creators, knowledge about the context of pioneering ideas helps researchers better understand the meaning of the coefficient. The paper highlights the work of Bravais, Galton, Pearson, artillery scientists, Spearman, and many other early contributors, and describes their original intentions, achievements, and faults. Key comments on the present statistical theories and practices are also presented in several pivotal comments.
著者
大塚 英志 小松 和彦 安井 眞奈美 エルナンデス アルバロ 荒木 浩 劉 建輝
出版者
国際日本文化研究センター・プロジェクト推進室
雑誌
日文研大衆文化研究叢書 全5巻序論集
巻号頁・発行日
2022-03-17

国際日本文化研究センターによる大衆文化研究プロジェクト(人間文化研究機構機関拠点型基幹研究プロジェクト「大衆文化の通時的・国際的研究による新しい日本像の創出」)の成果として刊行された「日文研大衆文化研究叢書」シリーズ全5巻 [『日本大衆文化史』(KADOKAWA, 2020年9月)、『禍いの大衆文化 : 天災・疫病・怪異』(KADOKAWA, 2021年7月)、『身体の大衆文化 : 描く・着る・歌う』(KADOKAWA, 2021年11月)、『〈キャラクター〉の大衆文化 : 伝承・芸能・世界』(KADOKAWA, 2021年11月)、『戦時下の大衆文化 : 統制・拡張・東アジア』(KADOKAWA, 2022年2月)] の序論を集めたもの
著者
三宅 恒夫
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.55-59, 1963 (Released:2009-09-04)
参考文献数
5
著者
金 玲花 中野 亜里沙 安藤 元一
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.137-144, 2014 (Released:2014-10-29)

自由行動ネコが野生鳥獣にどのような捕食圧を与えているか,神奈川県厚木市で調査した。神奈川県自然環境保全センターの傷病鳥獣保護記録を調べたところ,保護鳥獣の10%はネコに襲われたものであり,キジバトやスズメなど地上採餌性の種,あるいはヒヨドリなどの都市鳥が多かった。育雛期である5-7月には鳥類の巣内ヒナが半数以上を占め,ネコの襲いやすい位置に営巣するツバメなどが多かった。同市の住宅地帯および農村地帯におけるアンケート調査では,ネコは13%の世帯で飼育されていた。このうち屋外を自由行動できる飼いネコの比率は,住宅地で29%,農村で59%であり,生息密度に換算すると住宅地で2.2頭/ha,農村で0.35頭/haと推定された。こうしたネコが家に持ち帰る獲物の種類は,住宅地では小鳥と昆虫が多く,農村ではネズミ,小鳥や昆虫など多様であった。持ち帰った獲物の半分以上は食されなかった。これらのネコが年間60頭程度の鳥獣を捕らえると仮定すると,1年に捕食される鳥獣はそれぞれ132頭/ha,21頭/haと推定された。飼いネコによる生態系への影響を避けるためには,室内飼いが望まれる。
著者
湯田 厚司 小川 由起子
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.1623-1630, 2013-12-30 (Released:2017-02-10)

点鼻用血管収縮(α交感神経刺激)薬の長期使用による薬剤性鼻閉の臨床検討をおこなった.【対象背景と治療法】2011年10月から15カ月間に治療した33例(男性23例,女性10例,平均44.4±15.6歳)の背景因子と追跡し得た31例の治療成績を解析した.薬剤使用期間は最長7.5年で,1年未満が7例のみ,2年以上が16例(48.5%),5年以上が6例であった.原因疾患は,急性炎症6例,慢性副鼻腔炎2例,アレルギー性鼻炎20例(うち10例スギ花粉症)であった.治療は,点鼻液を中止して代替薬にステロイド鼻噴霧液を使用した.【結果】全例で点鼻用血管収縮薬から完全離脱して鼻閉が改善した.19例(61.3%)が3日以内で,25例(80.6%)が1週間以内で改善し,早期改善例が多かった.背景因子および薬剤使用期間と改善までの期間に関連が無く,長期使用例でも早期に改善した.問診での本薬の使用申告は36.4%であり,注意深い診察が必要であった.【結論】本薬による薬剤性鼻閉は可逆的な病態であり,適切な指導により改善しやすい.