著者
鍵和田 賢
出版者
福島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、異なる信仰の者同士が、紛争を経つつもいかにして「共存」のシステムを構築していったのかを、近世神聖ローマ帝国都市ケルンを対象に明らかにしていくことである。とりわけ、各地域の紛争を調停する立場にある帝国諸機関が当該紛争に対してどのように介入していたのかを明らかにする。本年度の研究の目的は、18世紀初頭に発生した宗派紛争である「居留民条令改訂問題」に関わる史料を分析し、成果を発表することであった。この紛争はケルン都市参事会による当条令の改訂に対し、それを不服とするプロテスタント住民が参事会を相手取り帝国機関に告訴したものである。分析の結果として、帝国最高法院での訴訟には長い時間と多額の費用を要するにも関わらず原告であるプロテスタント商人は訴訟を継続し、最終的に判決が下されなかったため更に帝国議会への請願まで行ったことが明らかになった。このような原告側の行動の意図として、訴訟が継続している期間中について自らに不利な新条令の施行を停止させる一種の「時間稼ぎ」である可能性が想定され、帝国機関による最終的な判決を必ずしも必要としていなかったことが明らかになりつつある。一方被告となった都市参事会は、「居留民条令改訂問題」についてプロテスタント商人が帝国最高法院への上訴を行うことに関して、上訴の必要性を否定する立場をとった。最終的に上訴は実行され、参事会も訴訟に応じたが、上訴に先立って原告・被告間で頻繁な接触が行われていたことが分かる。さらに、訴訟の継続中に参事会は条令の一部を修正して再発布するなど、法廷外で原告との妥協を図ろうとしたことが明らかになった。これらの分析の結果から、宗派紛争における帝国諸機関の役割として、最終的な判断を下すことよりも妥協のための環境を整備することが重要であった、少なくとも紛争当事者はそのように捉えていた可能性が明らかになりつつある。
著者
淺野 玄 國永 尚稔
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の最終目標である野生化アライグマとマングースに対する経口避妊ワクチンの実用化は、本申請研究期間で完了できるものではないが、今回得られた知見の概要は以下の通りである。アライグマでは、卵透明帯蛋白の塩基配列と立体構造を参考に合成した3種類のペプチドに対する抗ウサギ血清において、抗体産生誘導および誘導抗体の種特異性が確認され、これらがワクチンの抗原候補として有力であることが示された。マングースでも同様に、卵透明帯蛋白の塩基配列をもとに合成した2種類のペプチドに対する抗マングース血清において、抗体の持続期間や誘導抗体の生体抗原認識能が確認され、両ペプチドのワクチン抗原としての有用性が示された。
著者
酒井 健介
出版者
城西国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

運動負荷は、ラットの見かけのMg吸収率の増加し、骨格筋におけるTRPM7の発現量を高めた。とりわけ運動直後にTRPM7の発現量の増加が確認されたことから、運動負荷に伴う代謝性アシドーシスの影響について検討したが、塩化アンモニウム投与によるアシドーシスモデルでは運動負荷時とは異なる発現様式を示した。また骨格筋ではTRPM7以外にCLDN16が、消化管でも同様にTRPM7とCLDN16が、腎臓ではTRPM7とCLDN16に加えTRPM6の発現が認められ、運動負荷による生体内Mg動態に異なるMg輸送タンパク質が関与していることが示唆された。
著者
伊東 乾 青木 直史 添田 喜治 岩城 達也 石原 茂和
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日欧の木造・石造建築物の比較測定に基づき、西欧教会、オペラ劇場の動的音楽音響特性を、そこで行われる演奏・儀礼との関係に基づいて明らかにした。上下方向に移動変化する音楽音響に既存の評価法がなかったため、相関解析を用いてこれを定式化し数理を準備した。これを用い、作曲家リヒャルト・ヴァーグナーが設計に直接関与したバイロイト祝祭劇場の音楽音響ダイナミクスを、ヴァーグナー楽劇の上演を伴って収録解析した。その成果に基づいて空間演奏の要素を伴う指揮の技法を初めて体系化、国際公刊した。この過程で創出した新しい非線形音楽音響解析手法群を適用し、古代ギリシャ・ハルモニアのヘテロダイン共鳴などの機構も明らかにした。
著者
金井 陸行 木下 浩一
出版者
(財)田附興風会
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

我々は臨床における創傷治癒機転と治癒不全病態を分子生物学的の解析することにより、日常の臨床現場で遭遇する消化管再建後の治癒不全、即ち縫合不全の発生を減じることを目的として研究を行ってきた。創傷治癒遅延、縫合不全発生の主たる原因である低酸素環境下での腸管上皮細胞の動態に着目し、種々の腸管上皮由来細胞株の低酸素条件下での培養条件を確立、低酸素条件下では消化管粘膜の修復機転の第一相であるrestitution(創傷面に隣接する上皮細胞の遊走)は著しく遅延していたが、当初注目していた消化管上皮細胞に比較的特異的に発現されている線維芽細胞増殖因子受容体タイプ3(FGFR3 III-b)の遺伝子発現に大きな差は認められず、この受容体のrestitutionへの貢献は少ないと考えられた。そこでFGFR3に関しては消化器癌との関連で研究を継続し、以下の研究成果を得た。膜貫通型FGFR3の発現上昇消化器系癌患者より、癌組織及びその周辺の正常組織を収集し、癌の悪性化過程におけるFGFR3-IIIb、FGFR3-IIIcの発現を解析した。その結果、FGFR3-IIIcが食道癌、大腸癌で上昇することを明らかにした。FGFR3c誘導発現細胞のFGF2に対する応答能の獲得in vitroの病態モデルとして扁平上皮癌細胞株DJM1を用いて、FGFR3-IIIcの発現上皮細胞はFGF2と協調することで癌悪性化を獲得できるか検討した。FGFR3-IIIcを発現誘導ベクターに組み換えてDJM1細胞に遺伝子導入し、FGFR3-IIIcの発現を誘導した結果、FGFR3-IIIcの発現を誘導しない細胞はFGF2刺激での足場非依存性増殖は促進されなかったが、FGFR3-IIIcの発現を誘導すると、FGF2刺激により足場非依存性増殖が著しく促進した。また、FGFR3-IIIc誘導発現過剰細胞はFGF2刺激によって高い遊走能を獲得した。以上の結果よりFGFR3-IIIc過剰発現細胞はFGF2と協調して癌悪性化を獲得することが明らかになった。可溶性FGFR3の発現上昇本研究の過程で、消化器系上皮細胞に可溶型FGFR3が発現していることを明らかにした。可溶型FGFR3は、FGFR3遺伝子から膜貫通部位を欠損したmRNAが選択的スプライシングにより生じて発現するが、この受容体が正常のヒト食道粘膜組織において発現されていることを確認した。胃および大腸においては正常組織における可溶型FGFR3の発現率は非常に低いが、癌部においてその発現が高まることを見いだした。以上の結果から、大腸と胃では可溶型FGFR3の発現と癌悪性化には何らかの関連性があることが示唆された。
著者
富岡 憲治
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究ではキイロショウジョウバエ概日活動リズムを制御する時計機構に関して、(1)温度感受性時計がどのような機構で振動するのか、また、(2)温度感受性時計が光感受性時計とどのように協調して概日リズムを制御するのかの2点について解析を行い、以下の成果を得た。恒明温度周期下から恒明恒温条件への移行でリズムが数サイクル継続すること、恒明下で20℃への単一温度変化でリズムが誘発されることがわかった。温度ステップ変化後、PER、TIMともに周期変動が誘発されることから、温度のステップ変化が、PER、TIMなど時計分子の量的変動を介して概日時計の振動を誘発することが示唆された。無周期突然変異系統での実験結果から、温度による振動にはCYC、CLKが必要であることも示唆された。PERの発現を指標として温度周期下で駆動する時計細胞を探索し、脳側方部ニューロン群(LNs)でPERが低温期に発現することが示された。LNを欠失したdisco系統では、温度周期下でも内因的な活動リズムは発現しないことから、上記の結果とあわせて、LNが温度周期下でのリズム発現に主要な役割を担うことが示唆された。クリプトクロームの機能欠損をもつcry^b系統では恒明条件下で長周期(LPC)と短周期(SPC)の2つのリズムを発現する。抗PER抗体を用いた免疫組織化学の結果は、SPCはLNと一部の脳背側部ニューロン群(DN)が、LPCは残りのDNによって制御される可能性を示唆した。光周期と温度周期への同調実験の結果、SPCはより温度同調性が強く、LPCは光同調性の振動体により制御される可能性が示唆された。この結果は、温度周期下でのリズム発現にLNが主要な役割を担うことともよく一致する。cry^b系統の行動リズムの解析から、SPCとLPCは相互作用により通常同調するが、SPCがLPCに対してより強力な同調作用を持つことがわかった。
著者
大形 徹
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

中国の文様、雲気文は雲だとみなされてきた。しかしその初期のものは中央アジアのヘラ鹿等の角の形状に似る。ヘラ鹿は中央アジアの代表的動物である。その特徴は長くて大きな角にある。鹿の角は毎年、落ちてはまた生えかわる。このことが復活再生観念と結びつけられた。墓葬に描かれる鹿の角の文様は、死者があの世に生まれ変わることを助ける役割を担った。中国ではヘラ鹿類は少ないため、その文様は雲気とみなされるようになった。
著者
相馬 直子 山下 順子 陳 國康 王 永慈 栄 多永
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、晩産化・超少子化・高齢化が同時進行する東アジア社会において、介護と育児のダブルケア分担という新たな社会的リスクにいかに対応しているのか、あるいは対応できずにいるのか、その対応の仕方の共通点と差異は何かを、ミクロな家族の実態分析と制度分析を通じて、日本・韓国・中国・台湾・香港とのケアレジーム比較研究から明らかにした。晩産化、超少子化、高齢化の同時進行は、現存の介護サービス、育児サービスを使いこなしながら親の介護と子育てという「ダブルケア負担」に対応しなければならない世帯が増加することが推察され、包摂的なケア政策の構想が東アジア全体で求められる。
著者
森 文秋 丹治 邦和 若林 孝一 三木 康生
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ストレス顆粒は、ストレス状況下で、RNAとRNA結合タンパク質によって細胞質に形成される。神経変性疾患においてRNAからタンパク質への翻訳過程を制御することで、異常たんぱくの産生ならびにタンパク質の異常凝集を防ぐとされる。本研究では、多系統萎縮症患者ならびに正常対照の剖検脳組織、αシヌクレイノパチーの細胞モデル、さらに、シヌクレイントランスジエニックマウスを用いて、ストレス顆粒ならびに細胞内分解系に関連するタンパク質の動態を検討した。多系統萎縮症のαシヌクレイン封入体の形成過程、神経細胞死との関連を明らかにすることで、多系統萎縮症の予防治療戦略の可能性を示した。
著者
山田 真司
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

複数の知覚実験を実施し,それらの結果を統合することで,音楽を構成するパラメータ,音楽の印象,ゲームの印象,ゲームの遂行成績の間の機序を定量的に明らかにした。このことによって,ゲーム音楽のための科学的設計指針が得られ,求めるゲームの印象および難易度を実現するためには音楽のどのパラメータをどのように設定すれば良いか推定することが可能になった。
著者
梅川 健 菅原 和行 梅川 葉菜
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

アメリカ大統領は様々な形式で行政組織に命令を下す。その総称は「大統領令」と呼ばれる。典型は、具体的な法律を明記して行政組織に法執行を命じる行政命令(executive order)だが、オバマ政権とトランプ政権では大統領覚書(presidential memorandum)が増加している。覚書では根拠法は示さなくともよいとされる。さらに覚書の中には、大統領に法律上の権限がないはずの事柄について命じるものもある。なぜ、どのようにアメリカ大統領は法律に依拠しない形で命令を下すのだろうか。そして、憲法上の抑制と均衡から逸脱するように見える大統領の行動に、他の部局はどのように対抗しうるのだろうか。
著者
山口 範晃 駿河 和仁
出版者
長崎県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

肥満を発症するOLETF ラットの脂肪組織では、幾つかのビタミンA代謝関連遺伝子が変動した。特に、レチノイン酸合成酵素RALDH1遺伝子発現および脂肪組織中のレチノイン酸含量が減少していたことから、肥満状態ではレチノイン酸合成能が低下する可能性が示唆された。また、マウスの脂肪細胞3T3L-1細胞を用いた実験では、βカロテンを添加して培養したところ、その細胞の分化・成熟が抑制された。その機序として、核内受容体PPARβ/δを介して誘導されている可能性が示唆された。
著者
梅村 浩 川平 友規
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

(1)ガロア理論の同値性。一般微分ガロア理論には、Malgrange 理論(2001)と研究代表者によるもの(1996)がある。 前者は幾何学的であり、後者は代数的である。 代数的にジェット空間のなす Lie groupoid を構成することにいより、 両者が同値の理論であることを示した。(2)差分ガロア理論の提唱とその力学系への応用。差分方程式の一般ガロア理論を構成した。それを閉リーマン面上の離散力学系に応用して、閉リーマン面上の力学系でガロア群が有限次元であるものを決定した。 それらの力学系のガロア群は可解であるので、閉リーマン面上の離散力学系で可積分なものを決定したと言ってもよい。(3)ガロア理論の量子化。研究代表者の学生であった F. Heiderich は我々の一般ガロア理論が微分方程式や差分方程式のみならず、 一般の Hopf 代数の作用に関する関数方程式にまで拡張できることを発見した。この理論を具体的に意味付ける研究を開始し、成果を上げ始めている。
著者
小林 雄一郎
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2017年度は、申請書に記した研究計画に則り、ライティングおよび自動採点および自動フィードバックに関する先行研究の調査と整理にあたった。その作業の結果、本研究課題と関連し、学術的にも有用であるものを選定し、2018年度中にliterature review論文を投稿・発表する予定である。また、ライティングの自動評価に向けて、語彙や文法に関する項目だけでなく、談話に関する項目に関する研究を行った。具体的には、母語と習熟度の異なる学習者のデータを定量的に分析することで、ライティングにおける談話能力の発達と、発達過程における母語の影響を調査した。この調査に関しては、Corpus Linguistics 2017で研究発表をしたのち、Journal of Pan-Pacific Association of Applied Linguisticsに論文として発表した(Developmental patterns of metadiscourse in second language writing)。そして、自動評価に関する技術的な研究として、Conference of the International Federation of Classification Societies 2017において、機械学習を用いたテキスト分類に関する発表を行った(Automated speech scoring: A text classification approach)。統計学・情報科学のオーディエンスが多く来場し、言語学・言語教育の学会とは異なる議論や情報交換ができ、有益な示唆を得た。
著者
寺尾 純二 板東 紀子 室田 佳恵子
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

フィチン酸(Phytic acid:inositol hexaphosphaste:IP6)は.穀類豆類に広く分布し日常摂取する一般的な食品成分であるが.その強力な金属イオンキレート力には潜在的な生理機能性が存在するはずである。本研究は消化管の酸化ストレス抑制に対するフィチン酸の有効性を明らかにすることを目指すものであるがフィチン酸(IP6)とその部分加水分解物(IP5〜IP2)の(1)キレート能(2)リポソーム膜の鉄イオン依存性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性,(3)ラット大腸粘膜の鉄イオン性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性(in vitro系)の評価を行った。その結果(1)リン酸数に従い,IP2<IP3<IP4<IP5<IP6の順にキレート能が強まった。(2)リン酸数に従い,IP2<IP3<IP4<IP5<IP6の順に抗酸化活性が強まったがIP3以上ではIP6に匹敵する抗酸化活性がみとめられた。(3)IP3はIP6と同程度の粘膜酸化抑制作用を発揮することが明らかであった。さらにラット大腸粘膜の鉄イオン性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性をex vivo系で評価することを試みた。フィチン酸投与群と無投与群(対照群)から18時間後に大腸粘膜を採取し鉄イオン誘導脂質過酸化反応を行ったところ,TBARS量,ヘキサナール量.4-ヒドロキシノネナール量においてフィチン酸群が無投与群よりも低値を示した。以上のことは、日常摂取するフィチン酸は実際に消化管での酸化ストレス防御に働くことを示すものであり.食品成分として摂取したIP6が消化管内で腸内細菌由来のフィターゼによる加水分解を受ける過程においても、生じた加水分解物が十分に抗酸化作用を発揮できることを示唆するものである。
著者
桐原 健真
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、18世紀末から19世紀中葉にかけて「帝国」ということばを用いた日本知識人における自他認識の転回に光をあてることである。「帝国」は古典的な漢語ではなく、18世紀末に蘭学者が、オランダ語keizerrijkから翻訳した新しいことばである。日本知識人の多くは、「帝国」のステータスを、「王国」や「公侯国」といった他のいかなる君主国よりも優越していると考えた。儒学的教養を身につけたこれら知識人は、「皇帝」が他の君主たちよりも優越していることを知っていたので、彼らは、中国古典に見いだせないこの新奇なことばを、たやすく受け容れることができたのである。彼らにとって幸いであったのは、ヨーロッパにおいて刊行された多くの地理書が、「日本は帝国である」と叙述していたことである。翻訳書を含むこれらの書籍おいて、こうした記載を読んだ日本知識人は、日本の優越性と独立性を確信するようになった。日本排外主義が、海外の書籍によって形成されたことは、まことに皮肉であったと言える。
著者
遠藤 康男 菅原 俊二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

平成18年度:グラム陰性細菌のエンドトキシンまたはlipopolysaccharide(LPS)は,ニッケル(Ni)アレルギーをsensitization(感作)とelicitation(炎症発現)の両段階で強力に促進することを見いだし,これに関連して以下を解明(Clin Exp Allergy 2007;37:743-751に発表).1.炎症はTh2優位マウス(BALB/c)よりもTh1優位マウス(C57BL/6)で強力である.2.炎症はTNF欠損やT細胞欠損マウスでも対照マウスと同程度だか,TLR4変異,マクロファージ枯渇,IL-1欠損などのマウスでは微弱である.ヒスタミン合成酵素(HDC)活性が炎症に平行して増加する.炎症はマスト細胞欠損マウスでむしろ増強,HDC欠損マウスでは微弱である.5.LPSとの併用は他の金属(Cr, Co, Pd, Cu,Ag)に対するアレルギーの成立も促進する.平成19年度:以下を示唆する結果を得た(補足実験を加え論文投稿予定).Niアレルギーの発症にはマクロファージに加えNK細胞または好塩基球が関与する.2.Ni-感作マウスはCr, Co, Pd, Cu, Agに対しても反応する.3.ヒスタミンはelicitationの過程に関与する.4.LPS以外の細菌成分や関連炎症性物質(MDP, mannan, polyI: polyC, TLR2 ligands, concanavalin A, nitrogen-containing bisphosphonates)も, sensitizationとelicitationの両段階でNiアレルギーを促進する.5.LPSが存在すると,Niはelicitationで1x10^<-12>Mの極めて低濃度で炎症を誘導する(感染は金属アレルギーに対し極めて敏感にする).
著者
久恒 辰博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

タウリンは、哺乳類動物の脳に最も豊富に存在する遊離アミノ酸の一つであり、脳の正常な機能の多くに不可欠である。特に発達期には、大脳新皮質にもタウリンが豊富に存在することが知られているが、その脳生理作用機構については未だ詳細に解明されていない。本研究では、タウリンに対する受容体を特定することを目的とし、解析を進めた。発達期大脳新皮質において、各種の阻害剤を用いた実験により、タウリンはグリシン受容体だけでなく、GABA_A受容体にも作用していることが明らかになった。さらに、タウリンによる反応は、発達初期(生後4〜6日目;P4-6)にはグリシン受容体阻害剤によって大きく阻害されるのに対し、発達後期(P29-P33)では、GABA_A受容体阻害剤によって大きく阻害された。タウリンの作用は、発達初期(P2)には細胞膜の脱分極を起こし興奮性に働くのに対し、発達後期(P31)には過分極を起こし抑制性に働くことが示された。これは、発達初期には細胞内Cl^-イオン濃度が高く、発達と共に減少していくため、受容体チャネルの活性化でCl^-イオンの動態は流出(膜電位の上昇)から流入(膜電位の下降)へと変化するためである。免疫染色によって発達初期にはグリシン受容体がCl^-イオンを細胞内に取り込むトランスポーターであるNKCC-1と共発現しているが、発達後期にはNKCC-1の発現が見られないことからも細胞内Cl^-イオン濃度の減少が支持された。大脳新皮質のグリシン受容体は発達と共に急激に減少すると思われていたが、免疫染色法およびパッチクランプ法により発達後期の神経細胞においてもその存在が確認された。本研究により、タウリンの脳細胞に対する作用を分子レベルで明らかにすることができた。本研究では、さらに脳回路の障害に対する予防・再生機構に関する基礎的な知見も得られた。
著者
藤野 千代
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

盛唐期の成熟した国際文化と交流を深めることで、我が国にはシルクロード周辺の広大な文化が集約された物品が集まり、正倉院に保管された。固有な文化を持たず、世界のデザインの源流を形成するこれらのデザインは「美」の概念を調査するのに最適な素材である。正倉院宝物に描かれたデザインデータ74点について電子データ線画として完全対称性等を念頭において再構築し、金属酸化や文様の欠損といった経年変化を完全消去することで文化遺産としての先入観を排除した。その上で新しい色彩を付したことにより、人々の印象はどのように変化するかを調査した。デザイン部分だけを抽出した約150点収納の電子データベースを作成することができた。
著者
竹内 幹
出版者
一橋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

カブトムシの闘争傾向を分析しナッシュ均衡の実証をするために、111頭のカブトムシを各4回(延べ444回)闘争させたデータの分析を行った。そこでは、基準となる個体を設けて、それに対する各個体の闘争傾向を観察することで、体格や頭角長と闘争傾向の関係を個体ごとに整理できた。2種類の戦略を特徴づけるデータが得られたと確信している。ただし、学会報告で受けたコメントから、判別分析の手法を開発する必要があると判断し、その正しい手法を調査した(現在も続行中)。以上とは独立に、カブトムシの体格の決定が、幼虫時の栄養摂取状態にあることを実証するために、幼虫を114匹飼育し、栄養状態を統制し、成虫の体格に与える影響の分析を試みた。だが、大型個体を中心に3割近くが死亡してしまったため、残念ながら分析結果を得ることはできなかった。以上と並行して、信念形成の実証として、コオロギの闘争行動を統制することを試みた。闘争させることはできているが、信念形成をうながすためには、数ヶ月単位で一定期間飼育を続ける必要があり、安定的な飼育を試行した。なお、研究成果を、平成29年10月にバージニア・コモンウェルス大学で開かれた「Economic Science Association (ESA=実験経済学の分野で最も代表的な国際学会)」の北米大会、また、平成29年11月にシドニー大学で開かれた「Behavioural economics: Foundations and applied research」の学会で報告し、非常に有用なコメントを受けた。