著者
新保 敏史
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.575-579, 2020-05-31 (Released:2020-11-30)
参考文献数
27

症例は46歳男性。腹部全体の鈍痛・下痢・嘔吐を主訴に当院へ救急搬送された。体温は40.5℃,腹部は軟で,心窩部に軽度圧痛を認めた。血液検査では軽度の炎症所見を認めるのみで,腹部CT検査では急性胃腸炎の所見であった。入院後,補液による加療を行ったが,来院約12時間後に突然ショックとなった。Disseminated intravascular coagulation(以下,DIC)を併発しており,救命処置を行ったが,死亡した。病理解剖でDICによる多臓器不全と診断された。後日入院中に採取した血液培養から肺炎球菌が検出されたため侵襲性肺炎球菌感染症と診断した。また入院時のCT検査で脾臓が小さく,体積は38.6mLであり,脾臓低形成であった。脾臓低形成による免疫機能低下の関与が疑われた侵襲性肺炎球菌感染症の症例はまれであり,若干の文献的考察を加えて報告する。
著者
鳶島 修治
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.201-225, 2020-02-21 (Released:2021-09-24)
参考文献数
42

本稿では、二〇一五年に実施された「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」の日本調査データを用いて、小学四年生の子どもをもつ母親の教育期待の規定要因について検討した。その際、教育期待形成における「準拠集団」としての学校の影響に注目し、学校平均学力と学校SEC(保護者の大卒割合)の効果を検証した。母親の教育期待(子どもに大学進学を期待しているかどうか)を従属変数とするマルチレベル分析の結果として、子どもの学力が高いほど母親は大学進学を期待しやすいこと、母親は子どもが女子の場合よりも男子の場合に大学進学を期待しやすいこと、母親または父親の学歴や職業的地位が高いほど母親は子どもに大学進学を期待しやすいことが確認された。また、母親の教育期待に対する学校平均学力の効果については明確な結果が得られなかったものの、学校SECの効果に関しては、子どもが女子の場合には学校単位でみた母親の大卒割合が、子どもが男子の場合には学校単位でみた父親の大卒割合がそれぞれ有意な正の効果をもっていた。この結果は、子どもと同じ学校に通う児童の保護者たちが母親の教育期待形成における準拠集団としての役割を担っていること、同時に、母親の教育期待形成における準拠集団の選択が子どもの性別という要因に依存していることを示唆するものである。
著者
金 ウンジュ 栗原 治 大町 康
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.249-255, 2014-05-15 (Released:2014-05-29)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

バイオアッセイ法は,被検者から採取された生体試料(主に排泄物)中に含まれる放射性核種を定量する方法であり,その結果は内部被ばく線量評価を行う上での基礎データとなる。バイオアッセイ法の利点は,体外計測法では測定が困難なα線やβ線のみを放出する核種に適用できることであり,プルトニウムを初めとしたアクチノイド核種に対しても十分な検出感度を有している。しかしながら,試料の放射線計測を行う前に必要となる前処理,化学分離等の工程に時間を要するため,緊急被ばく医療の観点からは迅速化が求められる。本稿では,アクチノイド核種を対象としたバイオアッセイ法の概要を中心に解説する。
著者
清水 誠治
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.2357-2368, 2018 (Released:2018-11-20)
参考文献数
114
被引用文献数
2

collagenous colitisは非血性の慢性下痢をきたし,病理組織学的に大腸の上皮基底膜直下に膠原線維束を認める疾患であり,おもに生検組織で診断される.CCはlymphocytic colitis(LC)とともにmicroscopic colitis(MC)に包括されている.MCは欧米で1980年代から1990年代にかけて経年的に罹患率が増加していたが,2000年以降はほぼ一定の水準であり,CCよりむしろLCの方が多い.病因は未だに明確ではなく発症には多因子の関与が想定されているが,欧米では複数の症例対照研究でNSAID,PPIがCCの発症リスクを高めることが示されており,近年はとくにPPIの関与が注目されている.本邦では2000年代に入って以降CCの報告が増加している.本邦には疫学的データは存在しないが,頻度は欧米に比べかなり低率である.LCは本邦でほとんど報告がなく,CCもほとんどがPPI(とくにランソプラゾールやNSAID)などの薬剤に関連して発症しており,欧米より薬剤起因性と考えられる症例の割合がかなり高い.このように欧米と本邦ではMCに関する実態に大きな乖離がみられる.CCでは元々,画像上異常を認めないと記載されていたが,内視鏡所見の異常がまれでないことが明らかになってきた.内視鏡所見としては,1)色調変化:発赤,発赤斑,褪色など,2)血管像の異常:血管透見低下・消失,血管増生など,3)粘膜表面性状の異常:浮腫,易出血性,粗糙粘膜,顆粒状粘膜,偽膜,粘膜裂創(線状・縦走潰瘍/瘢痕,“cat scratch”),ひび割れ様所見など,4)その他:ハウストラ消失,が挙げられる.とくに粘膜裂創と顆粒状粘膜は本症を疑う上で重要な所見である.内視鏡的有所見率は欧米で約20%と報告されているのに対して,本邦では70%以上である.治療としては,原因と考えられる薬剤を中止することでほとんどの症例で下痢が軽快する.MCの病態に関してはなお不明な点が多く,疾患のheterogeneityを含めた問題点の解明を期待したい.
著者
深谷 昌志
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.59-75,en262, 1983-10-20 (Released:2011-03-18)

In this paper, I would like to clear the relationship between educational aspiration and school culture.The percent of the students who feel to be a slow leaner increares as follows: 4 th grade=11%, 5 th=12%, 6 th=15%, 7 th=14%, 8th=26%, 9 th=25%. So in the junior high school, the students who cannot understand what he is taught reaches to 28% in English, and 32% in Math.But thay believe the results of the achievement test depend on how they studied hard in school and after school. In this situation, the Juku school become the second school, and the half of the students attend the Juku school.
著者
渋川 祥子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
家政学雑誌 (ISSN:04499069)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.591-595, 1979-08-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
5
被引用文献数
4

圧力鍋で煮豆を作るときの加熱条件, および煮豆の特性を常圧下で作った煮豆と比較した結果, 次のことがらが明らかとなった.1) 予備浸漬により十分に吸水した大豆は, 圧力鍋加熱では, 蒸気噴出後の加熱継続時間0~1分, むらし時間5分でやわらかくなる.常圧下加熱にくらべ, 所要時間は1/3~1/4, ガス消費量は, 約1/4であった.2) 圧力鍋によるゆで豆は, 常法にくらべ, 甘味が強くねっとりした口触りであり, 煮豆として好まれる.3) 甘味が強いのは, 加熱時間が短いため, 煮汁中へ溶出する糖量が少なく, 豆中め糖量が多いためであり, ねっとりしているのは, 同じ理由で, 豆中の水溶性ペクチン量が多いためと考えられる.4) ゆで豆を加熱しながら調味すること, 圧力鍋ゆで豆は硬さに変化がないが, 常法のゆで豆は硬くなる.しかし, 調味料の浸透量には差がない.
著者
山藤 勝彦 山本 建 澤田 賢治
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.852, pp.16-00553-16-00553, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1

This paper describes self-excited oscillation caused by coulomb friction of electromagnetic proportional valve. Especially, this research focuses on a hydraulic system in which electromagnetic proportional and pressure proportional valves are located tandem. In the system, the coulomb frictional force effects on the displacement direction of the spool of the former valve and the piston is established in the downstream region of the latter valve. Each valve is stable, but, the connection of them causes instability. This paper analyzes the mechanism of this unstable vibration and then investigates an anti-vibration design method. In analysis, this paper clarifies that the vibration is caused by an elastic deformation delay of the oil in the piston. This delay increases the phase delay of the spool due to the coulomb frictional force. After replacing the coulomb frictional force with hysteresis, the proposed method uses the describing function method to express phase delay phenomenon due to the coulomb frictional force. The describing function is the complex function which expresses an amplitude ratio and phase difference with the input and output of nonlinear element. The delay of a vibration factor is linearized by converting coulomb friction into hysteresis. The effectiveness of the proposed method is demonstrated via practical experiment and non-linear simulation results.
著者
岩永 誠 森 数馬
出版者
日本音楽知覚認知学会
雑誌
音楽知覚認知研究 (ISSN:1342856X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.57-68, 2017 (Released:2022-01-05)
参考文献数
57

本論文は,音楽聴取時の自律神経反応についてレビューし,特に用いられることの多い心拍数(HR)の測定と分析について概説したものである。音楽聴取時の自律神経系反応は,音楽の持つ感情価の覚醒次元に関連して変化する。刺激的な音楽では交感神経活動が活性化し,鎮静的な音楽では副交感神経活動が活性化する傾向にある。また鳥肌感といった強い感情には交感神経活動が関係している。音楽聴取研究で用いられることの多い自律神経系指標であるHR は,反応水準や時系列変化,心拍変動(HRV)による分析がなされている。本論文では,特にHRV の周波数領域解析と時間領域解析の指標化について概説した。研究の目的に応じて指標を選択し,分析することが大切である。
著者
亀上 隆 丸藤 哲 五十嵐 みゆき 牧瀬 博 松原 泉
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.215-219, 1997-07-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
15

コルヒチンの大量服用により多臓器不全に陥り,不幸な転帰をとった1症例を経験した。患者は16歳,女性。コルヒチン約1gを内服し,32時間後に当科搬入となった。初診時より代謝性アシドーシス,低酸素血症,肝腎障害をおよび播種性血管内凝固症候群がみられた。ICU入室後,酸素吸入,塩酸ドパミン投与を行ったが乏尿が改善しないため,8時間後に持続濾過透析を施行した。しかし,26時間後,全身痙攣発作を契機に循環動態も不安定となった。28時間後には心停止に陥り,3時間にわたる蘇生術にも反応せず永眠した。大量コルヒチン中毒の症状は激烈でその救命は非常に困難と考えられた。
著者
小二田 誠二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.38, no.8, pp.75-83, 1989-08-10 (Released:2017-08-01)

近世の仇討小説は厖大な量に上るが、"ワン・パターン″で面白みがなく、個々の趣向でしか評価できない、という見方が強い。しかし、量産された背景には、仇討小説の持つ本質的な魅力があった筈である。本稿では、実録等を材料として、趣向を捨象し、仇討小説の定型を抽出し、仇討小説が定型を保ちつつ史的な流れの中で、仇討とは別の副次的な主題を持って来たことを確認し、近世に於ける仇討小説の意味を考察した。
著者
佐藤 俊樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.2_3-2_20, 1990-11-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
25

プロテスタンティズムの倫理は近代資本主義を生んだか? この問いは現在の社会学の出発点である。だが、Weber自身のを含めて、従来の答えはすべて失敗している。経営の規律性や強い拡大志向、資本計算などは日本をはじめ多くの社会に見出されるからだ。この論考では、まずそれを実証的に示し、その上で、プロテスタンティズムの倫理が「禁欲」を通じて真に創出したものは何かを問う。 それは合理的な資本計算や心理的起動力などではない。個人経営においても、経営体(組織)と個人の人格とを原理的に分離可能にしたことである。この分離と両者を規則を通じて再結合する回路こそ、日本の経営体に決定的に欠けているものであった。なぜなら、それが近代の合理的組織の母型になったのだから。その意味においてはじめて、プロテスタンティズムの倫理は近代資本主義を生んだといえるのだ。
著者
井筒 竜宇 矢吹 信喜 福田 知弘
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F3(土木情報学) (ISSN:21856591)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.I_94-I_105, 2019 (Released:2020-04-07)
参考文献数
32
被引用文献数
1

建設現場における出来高管理は,通常,写真を撮影したり測量を行なって,図面やBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling)モデルと照らし合わせて出来形を把握して行う.この作業は時間がかかり人的ミスも発生しやすいことから,より正確で効率的に進捗状況を把握する手法が求められている.そこで本研究では,深層学習を活用し,施工途中の鋼骨組構造における梁や柱などの各構造部材をカメラで撮影した画像から検出を行い,効率的に施工現場の進捗を把握する事ができるシステムの構築を目的とする.具体的には,既存の物体検出Convolutional Neural Network(CNN)とセグメンテーションCNNをファインチューニングすることで,撮影した画像から施工途中の構造物を検出可能なCNNを構築する.その後,構築した二つのCNNモデルの統合を行い,画像から各構造部材を把握する事が出来るシステムを構築する.開発したシステムの精度検証と考察を実施する.その後,深層学習を活用して得られた検出結果を用いる事によって,二次元の出来形画像を活用して三次元モデルから出来高を算出するための検出システムの構築を行う.
著者
Hisashi HARADA Kazuhisa KITAZAKI Takeshi TSUJINO Yasuhiro WATARI Sachiyo IWATA Hidemi NONAKA Takeshi HAYASHI Tatsuya TAKESHITA Kanehisa MORIMOTO Mitsuhiro YOKOYAMA
出版者
The Japanese Society of Hypertension
雑誌
Hypertension Research (ISSN:09169636)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.277-284, 2000 (Released:2006-08-10)
参考文献数
34
被引用文献数
20 26

Taurine is known to lower blood pressure in essential hypertension and some experimental hypertensive models. Taurine has also been reported to activate aldehyde dehydrogenase and to inhibit the elevation of plasma acetaldehyde concentration after ethanol intake. Because acetaldehyde, the first metabolite of ethanol, is suspected to be responsible for many adverse effects of alcohol consumption, we examined the effect of taurine supplementation on ethanol-induced hypertension and abnormalities in the intracellular cation metabolism in Witar-Kyoto rats. In Study 1, systolic blood pressure and intraplatelet free calcium were significantly higher in rats who received 15% ethanol in drinking water than in control rats. Oral taurine supplementation (1% taurine and 15% ethanol in drinking water) completely prevented the development of ethanol-induced hypertension. Intraerythrocyte sodium and intraplatelet free calcium were significantly decreased in taurine-supplemented rats as compared with rats who received 15% ethanol only. In Study 2, hemoglobin-associated acetaldehyde (HbAA) was measured as a marker of protein-bound acetaldehyde. HbAA was significantly elevated in rats who received 5% ethanol in drinking water as compared with control rats. Taurine supplementation (1% taurine and 5% ethanol in drinking water) significantly decreased HbAA. Our findings suggest that the oral supplementation of taurine prevents ethanol-induced hypertension by decreasing protein bound acetaldehyde and altering the cation handling by the membrane. (Hypertens Res 2000; 23: 277-284)
著者
佐藤 秀紀 田垣 茂
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.214-218, 1999-12-22 (Released:2019-10-15)
参考文献数
9

定量噴霧式吸入器(MDI)を用いた吸入療法では,使用回数を把握し,ボンベを適切な時期に交換することが重要である.しかし現状では,吸入器の残量チェック方法に関するメーカー側からの情報提供が十分とはいえない.今回われわれは,ノンフロンタイプで200回使用可能なβ刺激薬2剤,ステロイド薬2剤,抗コリン薬の1剤の5種類の吸入薬を対象に,残量評価の方法を検討し,信頼性について検証した.残量チェック方法は,“ボンベの重量を測定する”,“水に浮かべる”の2方法を採用した.重量を測定する方法では,5剤とも負の相関が認められ,ボンベの重量を測定することにより残量を予測することが可能であった.水に浮かべる方法では,4剤で残量の評価に利用できたが,1剤は残量と傾きに関連性がなく,残量の予測はできなかった.