著者
田中 吉郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.15, no.10, pp.784-797, 1939-10-01 (Released:2008-12-24)

The method herein described is based on the principle of shading by oblique illumination. In working out this new method, however, the author investigated theoretically the intensity of light and shade or the configuration of brightness on a surface, and found a way of correctly representing on a map the brightness thus determined, justifying his view that the reasoning of the investigation should be based on realities, and that the method of drawing should be as scien-tific as possible, so that the resulting map may be exact and true to nature. The process of drawing may be explained with the aid of Fig. 3. The ground is first tinted grey, the contours in the light are then drawn in white, and those in the shade in black. The breadth of the contours, however, varies with the cosine of the angle θ between the horizontal direction of the incident ray and the normal to the contour at the point under consideration. It is shown that the configuration of brightness of the two cases, namely, the actual surface and the map, will resemble each other very closely, if the maximum breadth of the contours may be determined theoretically in terms of the brightness of the ground and of the contours. The advantages of the proposed method are: 1. The method gives a remarkable effect of relief. 2. The process of drawing is simple and scientific, and involves no ambiguity. 3. The maps afford at a glance a clear idea of the minor featuies, no matter how complicated, they may be, to say nothing of the general character of the country.
著者
CODATA-ICSTI Task Group on Data Citation Standards and Practices
出版者
CODATA
雑誌
Data Science Journal (ISSN:16831470)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.CIDCR1-CIDCR75, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
185
被引用文献数
56

The use of published digital data, like the use of digitally published literature, depends upon the ability to identify, authenticate, locate, access, and interpret them. Data citations provide necessary support for these functions, as well as other functions such as attribution of credit and establishment of provenance. References to data, however, present challenges not encountered in references to literature. For example, how can one specify a particular subset of data in the absence of familiar conventions such as page numbers or chapters? The traditions and good practices for maintaining the scholarly record by proper references to a work are well established and understood in regard to journal articles and other literature, but attributing credit by bibliographic references to data are not yet so broadly implemented. This report discusses the current state of data citation practices, its supporting infrastructure, a set of guiding principles for implementing data citation, challenges to implementation of good data citation practices, and open research questions.
著者
藤原 哲
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.11, no.18, pp.37-52, 2004-11-01 (Released:2009-02-16)
参考文献数
118

弥生時代における戦闘はどのようなものであったのか? その様相を具体的に明らかにすることが本論の目的である。こうした問題を検討するため「武器」と「殺傷人骨」を取り上げ,対人殺傷の分類・検討を試みた。研究の方法としては「殺傷人骨」を主な資料とし,「武器」と「殺傷人骨」との関係から,弥生時代における対人殺傷方法の型式的な分類を行う。先ず「武器」を至近距離戦用武器(短剣),接近戦用武器(刀剣類),遠距離戦用武器(弓矢)の3種に大別する。これに基づき,対人殺傷方法を,I・至近距離武器による殺傷,II・接近武器による殺傷,III・遠距離武器による殺傷,そしてIV・遠・近距離武器の殺傷に区分する。この区分により「殺傷人骨」をいくつかのカテゴリーで分類した結果,「殺傷人骨」に見られる弥生時代の殺傷方法も極めて多岐に及ぶことが明らかにできた。特に弥生時代前半(早期~中期)は短剣による(背後からの)殺傷や,弓矢による(側・背後からの)殺傷などが多く,数人単位の戦闘が主であると考えた。また,矢合戦や暴力的儀礼(殺人)の可能性も指摘した。これに対し,弥生時代後半の殺傷人骨には,鉄剣や鉄刀などが想定される鋭利な殺傷痕跡や遠・近距離武器複数の殺傷から「まず矢を射て,最後に剣で止めをさす」といった戦闘が考えられた。また特に,中期末~後期には1遺跡から大量に殺傷人骨が出土する例が認められた。以上の結果から,弥生時代の具体的な戦闘は小規模な「奇襲・襲撃・裏切り」や儀礼的な争いなどが中心であり,弥生時代後半,特に中期末~後期には激しい「集団戦」の比重が高まると想定した。これらの変化には政治力・動員力の確立や,金属器の流通といった社会的な背景が想定され,弥生時代の戦闘は単なる「戦い」から「戦争」へと移る過渡的な「未開戦」段階にあると評価した。
著者
岡部 正勝
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.683-689, 2017-01-01 (Released:2017-01-01)
参考文献数
4

インターネットの利便性をこれまでになく享受し,ネット上に拡散する情報の力が革新的な発想を後押しすることも多い21世紀初頭は,同時に情報漏えいや権利侵害,依存といった弊害や危うさを露呈し始めた時代でもある。不可視だが確実に存在する脅威,ネットにつながっているゆえの不自由さをも見極める必要がある。現代の環境を冷静に認識し,今起きていることに対してどうふるまうべきか。現代思想・法曹・警察行政・迎撃技術・情報工学・サイバーインテリジェンス等のスペシャリストが,6回に分けて考える。第3回は警察庁から慶應義塾大学に出向中の岡部正勝氏が,サイバー犯罪捜査,検挙による抑止努力,犯罪拡大防止のための国際連携の最新状況をとおして,日本の警察の奮戦の実態を解説する。
著者
田中 吉郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.15, no.9, pp.655-671, 1939-09-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
4
被引用文献数
3 1
著者
藤森 孝俊
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.665-696, 1991-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51
被引用文献数
9 16

糸静線中央部に位置する諏訪盆地の活断層は,変位様式と活動度,分布に基づいてA~Cの3タイプに分類できる.タイプAの断層は盆地の南東端および北西端にみられるもので,大きな左横ずれ成分 (8~10m/kyr) をもつ.タイプBは盆地底と周辺山地の境界部に位置し,盆地側を低下させるもので,約1~3m/kyrの上下変位速度をもつ.タイプCは周辺山地内に位置し盆地側を低下させるもので,いくつかは並行し盆地側への階段断層となっている.平均変位速度は最大でも0.5m/kyr程度である.これらの活断層の分布・分類は,プルアパートベイズンとしての諏訪盆地の形成過程を示すモデルで説明される.諏訪盆地を開口させる主断層にあたるものがタイプA,開口した地殻の盆地側の面(開口壁)にあたるものがタイプB,開口壁の背後の地殻に発達した重力性の正断層がタイプCの断層である.また,古水系や諏訪盆地の形態から,水平圧縮応力により屈曲した主断層(糸静線)が左横ずれし,屈曲部の地殻が徐々に開口していくモデルが諏訪盆地の形成をよく説明できる.諏訪盆地の長辺方向への弘大速度は約8~10m/kyrであり,形成開始期は約120~150万年前と推定される.
著者
嶽本 新奈
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.21-34, 2009 (Released:2010-11-02)
参考文献数
22

The opening of Japan in the mid 19th century encouraged Japanese women's emigration overseas.Because most of them engaged in prostitution abroad, the existence of these women, usually known as Karayuki, was the focal point of anti-prostitution criticisms in Japan from the early Meiji era. Moral advocates and anti-prostitution activists regarded their presence as a possible disgrace to the nation. However, their discursive circumstances changed in the Taisho era with the inflow and circulation of the ideas of eugenics, which were repeatedly featured in Kakusei, the official bulletin of Kakusei-kai, one of the most influential anti-prostitution organisations in Japan. In this paper I explore the way in which criticism of Karayuki by the anti-prostitution movement was incorporated into a narrative of eugenics, and how its discursive entity resulted in what can best be termed the alleged crisis of "blood purity" of the Japanese race in the Taisho era. The ideas of eugenics provided theoretical background and offered a highly effective remedy for the anti-prostitution movement as an antidote against both licensed prostitution in the body politic of Japan and "unlicensed" prostitution abroad. By evoking hygienic images, the narratives of eugenics diagnosed prostitution and prostitutes as social pathogen. That is, as the main source of "venereal diseases" threatening "domestic purity." This perspective of racial contamination shaped a crucial aspect of anti-Karayuki criticism, which had never before been in focus: Karayuki's ignorance of interracial intercourse as a representation of an encroachment on the nation's racial purity. The scientific guise of eugenics manipulatively transformed the ethical discourse of sex and the moral discourse of prostitution into the obscure but evocative discourses of "blood," "race," and "national purity." Karayuki's sexual economy began to be imagined as the dismal locus of racial contamination, which then provoked severe assaults on Karayuki.
著者
大久保 憲
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.90, no.8, pp.1531-1537, 2001-08-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
13

病院感染防止には消毒は不可欠であるが,不合理で過剩な消毒が行われている場合がある.消毒薬の使用では対象微生物に有効で,生体や器材を損傷しないような薬剤を選択しなくてはならない.手指消毒は感染防止の基本であるが,手荒れを起こすような方法では,皮膚常在菌,通過菌(一過性付着菌)を増加させてしまい,交差感染の危険性を高める結果となる1).また,病室などの環境に存在する微生物が感染源となることは稀であり,常に手が触れない床などは,消毒ではなく洗浄剤による丁寧な清掃が重要である.環境の無菌性を追求するような過剰な消毒をすべきではない.消毒薬の基本的な使用法は,浸漬法と清拭法であり,噴霧,散布,燻蒸などの方法は作業者に対する危険性から行ってはならない方法である.消毒の功罪を考慮した適正な消毒法が望まれる.
著者
西澤 真理子
出版者
THE SOCIETY FOR RISK ANALYSIS, JAPAN
雑誌
日本リスク研究学会誌 (ISSN:09155465)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.2_21-2_32, 2009 (Released:2012-03-09)
参考文献数
44

Media reporting often influences how people perceive risks.Using a content analysis as a method, this paper attempts to investigate acorrelation between newspaper reporting about BSE (bovine spongiformencephalopathy) and risk perception of Japanese consumers about the safety of beef.
著者
今泉 敦美 小川 亞子 鄭 飛 田熊 公陽 阪元 甲子郎 松崎 航平 丸田 健介 矢野 佑菜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0966, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】長時間の精神作業や精神的ストレス負荷は,眠気の誘発と共に意欲・集中力の低下をもたらす。また,尾上ら(2004)は脳が疲労することにより前頭前野の血流低下がみられることを報告している。脳の疲労回復に効果的なものとしてアロマセラピー,ガムを噛むなどが挙げられているがそれらの効果を比較した文献は見当たらない。本研究の目的は,閉眼安静・ガム・アロマセラピーの3つの項目のうち短時間で脳の疲労を改善する手段を比較検討することである。【方法】対象は健常若年成人9名(男性3名,女性6名,平均年齢22.3±1.4歳)。脳表の血流変化は,光トポグラフィETG4000(株式会社日立メディコ製)を用い,国際10-20法に準じて脳疲労関連部位である前頭前野に3×3のプローブを設置した。今回,脳の疲労回復方法として3つの方法(閉眼安静,アロマセラピー,ガムを噛む)を用い,また脳を疲労状態にさせるため2桁の100マス計算を施行した。方法は1.10秒間安静,60秒間100マス計算を30秒の休憩をはさみ2回施行。その間NIRSによる脳血流量の測定を行う。2.30秒間安静後被験者は3つの方法をそれぞれ5分間実施。(1)安静:光を遮断した室内で閉眼し,5分間の安静をとる。(2)アロマセラピー:香りは精油(レモングラス)を匂い紙に浸したものを被験者より約3cmの距離で吸入させる。(3)ガム(ミディアムタイプ):メトロノームを用いて毎分60回の頻度で5分間咀嚼する。3.その後1分間安静をとり,その間にNIRSによる脳血流量の測定を再度行う。統計学的解析は,SPSS(Ver.21)を用いて多重比較検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。【結果】3つの課題において,閉眼安静がアロマセラピーとガムに比べて左右の背側前頭前野のoxy-Hb量が最も増加した。安静の次にoxy-Hb量の増加がみられたのはガムであり右側背側前頭前野において増加がみられた。また,アロマセラピーは他項目に比べ増加率は少なかったが,左側上部前頭前野のoxy-Hb量の増加が見られた。【結論】本研究では,3つの課題が大脳皮質前頭前野の脳血流に与える影響についてNIRSを用いて脳血流量の変化を比較・検討した。閉眼安静時に最も脳血流の増加がみられた。理由として,高橋ら(2003)は,入眠前になると,副交感神経が活発になり血管が拡張すると報告している。このことから,5分間の閉眼安静による視覚遮断,室内を暗くすることにより睡眠に近い状況に持っていくことで,副交感神経が活発になり心身・身体ともにリラックスできたことで脳血流量増加に至ったのではないかと推測される。また石黒ら(2013)は,測定部位である前頭前野は運動学習の課題遂行性の改善に重要な役割を果たしていると報告している。今後の課題として,臨床において閉眼安静が運動学習効率化に活かせるのかを検討していきたい。
著者
山口 真一
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.53-65, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
30
被引用文献数
3

本稿では、近年多く発生している炎上の実態と、炎上に加担している人の属性について、実証分析によって以下6つの仮説検証を行う。①炎上件数は近年増加している。②企業に関連する炎上が多く発生している。③炎上加担者は少ない。④炎上加担者はインターネットヘビーユーザである。⑤炎上加担者は年収が少ない。⑥炎上加担者はインターネット上で非難しあって良いと考えている。まず、記述統計量分析の結果、仮説①-③はいずれも支持された。つまり、近年多く炎上が発生しており、心理的・金銭的被害が出ているが、実際に炎上に加担している人は非常に少なく、具体的には約1.5%であった。また、2011年-2014年にかけての炎上件数は、いずれも年間200件程度であった。次に、計量経済学的分析の結果、炎上加担行動に対して、「男性」「年収」「子持ち」「インターネット上でいやな思いをしたことがある」「インターネット上では非難しあって良いと思う」等の変数が有意に正の影響を与えていた一方、「学歴」や「インターネット利用時間」等の変数は有意な影響を与えていなかった。このことから、仮説⑥は支持された一方で、④、⑤は棄却され、炎上加担者は社会的弱者、バカ等としている先行研究と実態が乖離していることが確認された。
著者
川田 賢介 河原 正和 秋森 俊行 山口 朋子 岡本 喜之 石川 好美
出版者
Japanese Society of Oral and Maxillofacial Surgeons
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.423-426, 2008-07-20 (Released:2011-04-22)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

Oral mucosal lesions associated with foreign body injuries can have various origins, but traumatic lesions of the oral mucosa caused by other organisms are rare. Such cases thus require special knowledge for diagnosis. We report a case of oral stings from spermatophores of Todarodes pacificus, the Pacific squid. The patient was a 31-year-old woman who cooked the internal organs of a raw T. pacificus for lunch. She experienced a sharp pain on the tongue and buccal mucosa when eating the organs. On checking the oral cavity, she identified multiple white objects with a worm-like appearance sticking into the tongue and oral mucosa. Attempts to remove these objects herself were unsuccessful. She then visited the emergency department of our hospital. We examined the oral cavity and found multiple white objects appearing to be parasitic worms sticking into the tongue and oral mucosa. Attempts to remove the objects with forceps were unsuccessful because of tight attachment to the mucosa. Removal was thus achieved by making slight incisions under local anesthesia. The specimens showed a white spinate shape and were about 4mm long. Endoscopic examination of the upper digestive tract after treatment of the oral cavity revealed no additional foreign bodies. The final pathological diagnosis was spermatophores of T. pacificus.
著者
岡部 貴美子 牧野 俊一 島田 卓哉 古川 拓哉 飯島 勇人 亘 悠哉
出版者
The Acarological Society of Japan
雑誌
日本ダニ学会誌 (ISSN:09181067)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-11, 2018-05-25 (Released:2018-06-25)
参考文献数
30
被引用文献数
4 4

マダニ類は様々な脊椎動物の寄生者で、重要な害虫でもある吸血生物である.化学防除に対する懸念から,生物防除によるマダニ個体群およびマダニ媒介疾患拡大の制御への期待が高まっている.本研究では,実験室内でオオヤドリカニムシ(Megachernes ryugadensis)によるマダニの捕食を初めて観察した.アカネズミ類に便乗しているカニムシ成虫および第三若虫を採集し,シャーレ内で実験した.これらのカニムシはチマダニ属の幼虫,オオトゲチマダニ若虫および雌雄成虫を捕食した.カニムシは概ね,幼虫を与えられた最初の一日間に,2,3頭を捕食した.カニムシ成虫の雌雄間で,初日の捕食数および与えられた幼虫を食べ尽くすまでの日数には差がなかった.またマダニの若虫,雄成虫の捕食に費やす日数に差はなかったが,カニムシ雄成虫は雌成虫よりも短期間でマダニ雌成虫を捕食した.供試数は少ないが,カニムシ第三若虫もマダニ幼虫および若虫捕食において同様の傾向を示した.オオヤドリカニムシのマダニ天敵としての評価のためには,マダニとカニムシの生活史特性,小型げっ歯類および巣内の生物相への影響に関する更なる研究が必要である.
著者
野村 駿
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.25-45, 2018-11-30 (Released:2020-06-26)
参考文献数
21

本稿の目的は,「音楽で成功する」といった夢を掲げ,その実現に向けて活動するロック系バンドのミュージシャン(以下,バンドマン)を事例に,夢の実現可能性に関する解釈実践の内実を検討し,若者が夢を追い続ける社会的背景を明らかにすることである。バンドマンを対象とした質的調査の結果に基づき,次の4点を明らかにした。 第1に,夢の実現可能性に関するバンドマンの語りの特徴として,可能性と限界という2つの認識が内包されていることを示した。そして,なぜ夢の実現可能性に限界を感じながら,夢を追い続けることができるのかを検討した。 その結果,第2に,「夢の実現には時間がかかる」という認識枠組みが獲得されることによって,また第3に,周囲のバンド仲間の状況を選択的に参照する行為によって,夢を実現できていない自己の正当化と将来における夢の実現期待が同時に達成されることで,夢を追い続けることが可能になっていると指摘した。加えて,第4に,夢の実現可能性を低く見積もる因習的見解からの作用が,バンドマンの夢追いアスピレーションを加熱させることで,夢追いの継続という意図せざる帰結を導いてしまうことを明らかにした。 以上の知見をもとに,先行研究で論じられてきた進路選択・進路指導の実践を再考し,教育社会学においても積極的に学校外部へと視野を広げて,子ども・若者の進路選択プロセスを検討する必要があると論じた。
著者
西原 史暁
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.448-453, 2017-09-01 (Released:2017-09-01)

本稿では整然データという概念について紹介し,それがどのように有用かを議論し,その限界についても触れる。整然データとは,①個々の値が1つのセルをなす,②個々の変数が1つの列をなす,③個々の観測が1つの行をなす,④個々の観測ユニットの類型が1つの表をなすという条件を満たす表型のデータである。これは,データ利用者にとって有用な概念であり,特にデータ分析用のプログラミング言語であるRを使う際には重要になってくる。この概念はデータ利用者だけでなく,データ提供者にとっても有用なものであり,データ共有の際にも応用できる。
著者
高田 佳輔
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.89-105, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
24
被引用文献数
1

これまでMassively Multiplayer Online Role-Playing Game(MMORPG)に関する先行研究において,仮想世界内での活動は,問題解決および対人関係能力を高めるという結果が量的な検討によって示唆されているが,MMORPGにはさまざまな集団および難易度の活動があり,それらの区別が十分に行われていない。その一因としては,仮想世界内の活動について,質的な検討が未だ十分に行われていないことが挙げられる。したがって,本稿は,我が国で流行するMMORPGの1つであるFinal Fantasy XIVを対象に,成員が流動的な集団における高難度クエストに焦点を当て,活動の内実およびプレイヤーに求められる能力について参与観察およびインタビュー調査による質的検討を行った。 その結果,第1に,高難度クエストは,仕掛けられた罠に対処するための問題解決能力と,非言語的情報の多くが遮断された環境下での,対人関係能力が必要とされる環境であることが示された。第2に,高難度クエストにおけるプレイヤーの思考や行動を抽出し,コーディングを行うことで,高難度クエストでは「問題の明確化」,「根拠・事実の確認」,「原因の分析および解決策の案出」,および,「実行と評価」といったサブカテゴリーによって構成される合理的問題解決能力と,「同調行動」,および,「調和行動」によって構成されるチームワーク能力が重要であることが示された。さらに,以上の能力は,現実世界の集団作業で重要な2つのリーダーシップの機能として提示される「目標達成」と「集団維持」を包含し,それぞれがリーダーシップを介在せずに機能していることが示された。