著者
シュレーガ ベンジャミン
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100139, 2016 (Released:2016-11-09)

1 初めに 日本の養鶏産業は、昭和時代から徐々に産業型に変動してきた。今日、インテグレータが中心となり現在の養鶏業界を大きく形作っている。本発表では、日本の養鶏業界の展開における、鶏の飼育方法と鶏肉の食文化の変容過程、および生産と消費の繋がりについて分析する。本発表では特にcommodity chain(コモディティチェーン)の移り変わりに着目し議論を進める。2 鶏肉食の展開日本の食文化において、卵は鶏肉に先駆けて一般的な食卓に普及した。昭和初期、カツやケーキなどの洋食が増えてきた流れの中で、卵ブームがあった。国内の養鶏は副業としてなされることが多かったことから、小規模養鶏は自給のために行われ、販売されるのは過剰分の卵と鶏肉が主であった。増加する卵の需要に対応するように、中国から輸入を行うようになった。 その輸出入の差に対して、日本政府が養鶏業界の支援に乗り出し、この戦略により5件の養鶏試験場が建立され、養鶏農家への補助金のシステムが創立された。北村(1987)によると、1921年から1935年にかかけて、養鶏農家一戸あたりの平均羽数は8.7羽から18.2羽へ増加し、それに伴い、全国の養鶏羽数は2,773万羽から5,170万羽に増加した。しかし生産の大規模化が進むにつれ、飼料や流通ルートの整備といった問題点も多数現れてきた。 養鶏業界の日比野(1941)らが提案したように、第二次世界大戦中において、「満州新養鶏法」という大規模の飼育方法が目指された。ただ、この計画は満州産の飼料に依存したことにより様々な面において失敗した。大戦直後は、自給率を保護するために「草鶏」という飼育方法が広まった。輸入飼料への依存の脱却のために多くの農家が飼料と鶏、両方の管理を行った一方で、米国国内における飼料の生産過剰問題があり、結局、日本における米国の飼料は輸入は続けられた。輸入飼料の流通は大規模農業企業を通して行われたため、そのような大規模企業の国内の養鶏産業における役割の拡大につながった。 飼料流通の整備とともに、養鶏の産地の移動も行われた。長坂(1993)が論じたように、戦後は都市周辺におけるブロイラー産業が増加したが、70年代以降は遠隔地域に移動した。後藤(2013)によると、遠隔地域の中でも、インテグレータの指導のもと鹿児島県と宮崎県が日本のブロイラーの大産地として形作られた。冷蔵方法の整備も進み、南九州から東京の中央市場までの流通が進んだ。 ブロイラーの生産が増加する一方で、消費需要の伸び悩みが業界の課題となった。三菱株式会社がこの問題を把握し、米国のケンタッキーフライドチキン本社と結びつきを深めたことで日本ケンタッキー社が設立された。日本ケンタッキーは宣伝広告を通して消費者にブロイラーの魅力を伝えた。さらに、カーネルサンダースとクリスマスのキャンペーンが大ヒットとなった。文化および生産においても日本ケンタッキーが鶏肉の消費において果たす役割は重要なものであった。Dixon(2002)がコモディティチェーンアプローチを用いて評論したように、小売業を通して生産と消費の再編成が行われたのであった。 経済成長と同時にブロイラー産業が激増し、さらに90年代以降はグローバル化の影響で安価のブロイラーの輸入増加により、養鶏産業は激しい競争となった。農林水産省によると、ブロイラーの平均羽は1975年から2005年にかけて7,600羽から21,400羽と約3倍に増加した。現在、ブロイラーの平均羽は56,900となった。 このように、日本における養鶏産業の展開には国内外の様々な経済そして政治的な要因が影響を及ぼしてきた。本発表では、上述のように、まず飼料配分と食文化の変容において米国が果たす役割について述べる。さらに、近年における食の安心の問題への関心の高まりとともに着目される。食における「ブランド」の働きを考察することで、国内の鶏肉の生産と消費がどのように展開されてきたのかを論じる。3 文献日比野兼男. (1943) 満洲新養鶏法.鶏の研究社.北村修二. (1987) わが国における養鶏業の地域的展開.名古屋大学文学部研究論集 p149-174.長坂政信.(1993)アグリビジネスの地域展開.古今書院.後藤拓也. (2013) アグリビジネスの地理学, 古今書院.Dixon J. (2002) The changing chicken: chooks, cooks and culinary culture: UNSW Press.
著者
内藤 勲
出版者
愛知学院大学
雑誌
経営管理研究所紀要 (ISSN:13413821)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.17-34, 2007-12
被引用文献数
1

組織化の問題は,単に新しい組織を形成する際だけでなく,組織を変化させる場合にも考慮すべき理論的問題を多くはらんでいる。本稿では,組織あるいは組織化を構成している最小単位としての行為に注目し,その行為を導き,同時に行為によって形成される知について議論した。単に組織だけでなく,社会現象を考える際の行為概念は,それを導く意図性とその過程と結果を記憶する意識性からなっていること。したがって,知は行為を通じて獲得し,行為を通じて表現される概念であることを指摘した。
著者
澁谷 真二 今野 和夫
出版者
秋田大学
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.53-62, 2006-04-28

友達関係は人生においてなくてはならないものだが,障害のある人にとっては,ノーマライゼーションの実現ということにおいて障害のない人との友達関係も欠かせない.この重要なテーマについての試行的・探索的な本研究では,作業所に福祉就労する知的障害者(41名,うち31名が20歳台)の保護者に対して質問紙調査を実施した.その結果,彼らには友達が少なく,特に障害のない友達をもっている人は僅少であること,保護者たちは子どもが就学前や学童期の頃は障害のない友達ができるようにといろいろ取り組んでいることが示唆された.また現在,程度に強弱はあるが,半数を明らかに上回る保護者(6割強)が,子どもに障害のない友達がいればよいと思い,一方でその実現を容易でないと考えていることが示された. さらに本研究では,筆者の一人(渋谷)が友達関係を深めてきている知的障害(ダウン症候群)の青年の母親に面接し,母親が友達関係の大切さを認識し,障害の有無を問わず友達ができるようにと青年の幼い頃から何かと配慮と行動を重ねてきていることが確認できた. 以上の結果を踏まえ,友達関係の構築に向けた支援のあり方について,また研究上の課題について言及した.
著者
村田 昌俊 及川 雄一郎 古川 宇一
出版者
北海道教育大学
雑誌
情緒障害教育研究紀要 (ISSN:0287914X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.79-90, 1994-03-10

従来,わが国の心身障害児の療育は主に彼らの発達をいかに促進し,社会的適応能力を高めるかということに視点がおかれ,健常者にとって好ましい価値感によって彼らを囲いこんでしまう傾向が強かった。しかし,医療・教育・福祉のそれぞれの分野ではその視点を転換し,彼らのライフステージを見すえ,たんに社会適応をめざすのではなく,彼らの生活の質の向上や家族支援に視点をおいた総合リハビリテションシステムを進展させつつある。障害児に対する地域福祉が究極的にめざすものはクオリティ・オブ・ライフであり,「誰もが豊かな生活を追求することができるような社会」を市民レベルで地域の中に作り出して行く営みが重要である。筆者らは障害のあるなしにかかわらず,子供たちの生活が潤いと豊かさを持って活動できるような場面を作りたいと思っている。今回は,その一つの段階として,もっとも遊び環境が疎外されやすい障害児とその家族についての遊び・遊び場についての実態調査を行なった。今回の調査では(1)「子供の日常生活や生活環境」,(2)「子供の遊びや余暇活動」,(3)「遊び環境」,(4)「親の余暇活動」,(5)「将来の生活に目をむけた遊び・遊び環境」という5つの観点から調査を行った。その結果を参考にし,今後の具体的な基盤整備に向けた実践的な課題を見つけて行きたいと思う。
著者
鈴木 正崇
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.174, pp.247-269, 2012-03

長野県飯田市の遠山霜月祭を事例として、湯立神楽の意味と機能、変容と展開について考察を加え、コスモロジーの動態を明らかにした。湯立神楽は密教・陰陽道・修験道の影響を受けて、修験や巫覡を担い手として、神仏への祈願から死者供養、祖先祭祀を含む地元の祭と習合して定着する歴史的経緯を辿った。五大尊の修法には、湯釜を護摩壇に見立てたり、火と水を統御する禰宜が不動明王と一体になるなど、修験道儀礼や民間の禁忌意識の影響がある。また、大地や土を重視し竈に宿る土公神を祀り、「山」をコスモロジーの中核に据え、死霊供養を保持しつつ、「法」概念を読み替えるなど地域的特色がある。その特徴は、年中行事と通過儀礼と共に、個人の立願や共同体の危機に対応する臨時の危機儀礼を兼ねることである。中核には湯への信仰があり、神意の兆候を様々に読み取り、湯に託して生命力を更新し蘇りを願う。火を介して水をたぎらす湯立は、人間の自然への過剰な働きかけであり、世界に亀裂を入れて、人間と自然の狭間に生じる動態的な現象を読み解く儀礼で、湯の動き、湯の気配、湯の音や匂いに多様な意味を籠めて、独自の世界を幻視した。そこには「信頼」に満ちた人々と神霊と自然の微妙な均衡と動態があった。Yudate is the boiling water ritual dedicated to Kami ( deities) and Hotoke ( Buddhas) based upon the combination of sacred water and fire. This paper analyses the meaning and function of Yudate Kagura consisting of dance, music and Yudate, held at Tōyama valley in November by lunar calendar. Tōyama is located on the mountain area in the southern part of Nagano prefecture of Japan. Shinto priests or Shugenja ( mountain ascetics) has conducted these rituals on the occasion of annual cerebration called Shimotsuki Matsuri ( November festival) to activate the diminishing power of the sun and human body in the winter solstice. The topics to be discussed in this paper are local history, origin myth, syncretism of Shintōism & Buddhism, ritual process and status of religious practitioners. The main purpose is to make an interpretation of folk religion under the historical perspective. Yudate Kagura is conducted to express the gratitude for Kami and Hotoke to get the good harvest and make sure the future in next year. The villagers want to fulfill the vows of curing the disease, solution of unfortunate troubles and big accidents. Yudate Kagura is the spectacle to become into rebirth through the purification of the body by boiling water based upon the folk knowledge to live with the severe nature.
著者
高橋 征資 公文 悠人 竹田 周平 稲見 昌彦
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会誌 (ISSN:13426907)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.J39-J45, 2012 (Released:2012-01-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

We propose a remote transmission system of hand clapping from the audience to the performer on live video streaming. This system consists of a collection system for a clapping button and hand clapping machines. The collection system for these buttons is to count the number of clicks they receive on the related website. The hand clapping machine is a mechanical device that imitates hand clapping and works by increasing the number of the clicks to produce a clapping sound and the physical movements of hands at the shooting location. This system is intended to reproduce the simple presence of the audience at the shooting location by transmitting movement and sound of hand clapping in real-time. We consider and evaluate this system by observing the behavior and the evaluation of the performer and audience at performances where this system is used.
著者
VOSSE Wilhelm
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

I visited the UK in June/July and November 2017 to deepen my existing andestablishing new connections with scholars and research groups who work on governing cyberspace in general and the response to growing threats in cyberspace by governments and international institutions. I interviewed several scholars at UK universities and had first contacts with FCO, MOD and MOD-related organizations who work in cybersecurity I also interviewed Japanese scholars who work on the growing impact of threats to CII on government policies and the international cooperation of government and non-governmental bodies.
著者
Manuela Malatesta Chiara Caporaloni Stefano Gavaudan Marco B.L. Rocchi Sonja Serafini Cinzia Tiberi Giancarlo Gazzanelli
出版者
Japan Society for Cell Biology
雑誌
Cell Structure and Function (ISSN:03867196)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.173-180, 2002 (Released:2002-11-19)
参考文献数
29
被引用文献数
55 76

No direct evidence that genetically modified (GM) food may represent a possible danger for health has been reported so far; however, the scientific literature in this field is still quite poor. Therefore, we carried out an ultrastructural morphometrical and immunocytochemical study on hepatocytes from mice fed on GM soybean, in order to investigate eventual modifications of nuclear components of these cells involved in multiple metabolic pathways related to food processing. Our observations demonstrate significant modifications of some nuclear features in GM-fed mice. In particular, GM fed-mice show irregularly shaped nuclei, which generally represents an index of high metabolic rate, and a higher number of nuclear pores, suggestive of intense molecular trafficking. Moreover, the roundish nucleoli of control animals change in more irregular nucleoli with numerous small fibrillar centres and abundant dense fibrillar component in GM-fed mice, modifications typical of increased metabolic rate. Accordingly, nucleoplasmic (snRNPs and SC-35) and nucleolar (fibrillarin) splicing factors are more abundant in hepatocyte nuclei of GM-fed than in control mice. In conclusion, our data suggest that GM soybean intake can influence hepatocyte nuclear features in young and adult mice; however, the mechanisms responsible for such alterations remain unknown.
著者
古俣 達郎
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:24343110)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.107-137, 2018-11-30

本稿では、明治末のアメリカ人留学生で日本学者であったチャールズ・ジョナサン・アーネル(Charles Jonathan Arnell 1880-1924)の生涯が描かれる。今日、アーネルの名を知るものは皆無に等しいが、彼は一九〇六(明治三十九)年に日本の私立大学(法政大学)に入学した初めての欧米出身者(スウェーデン系アメリカ人)である。その後、外交官として米国大使館で勤務する傍ら、一九一三年に東京帝国大学文科大学国文学科に転じ、芳賀矢一や藤村作のもとで国文学を修めている(専門は能楽・狂言などの日本演劇)。卒業後は大学院に通いながら、東京商科大学(現:一橋大学)の講師に就任し、博士号の取得を目指していたが、「排日移民法」の成立によって精神を病み、一九二四年十一月、アメリカの病院で急逝した。

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著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1926年10月15日, 1926-10-15
著者
松村 昌廣
出版者
桃山学院大学
雑誌
桃山法学 (ISSN:13481312)
巻号頁・発行日
no.19, pp.51-81, 2012-03-26
著者
[紫式部] [著]
巻号頁・発行日
vol.1, 1600
著者
藤高 和輝 フジタカ カズキ Fujitaka Kazuki
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.34, pp.163-180, 2013

ジュディス・バトラーがスピノザの熱心な読者であるということはあまり知られていない。しかし、スピノザは彼女にとってきわめて重要な思想家である。実際、彼女は『ジェンダーをほどく』(2004)で「スピノザのコナトゥス概念は私の作品の核心でありつづけている(198 頁)」と述べている。本論はこの言葉の意味を明らかにしようとするものである。バトラーがスピノザの『エチカ』に最初に出会ったのは思春期に遡る。その後、彼女はイェール大学の博士課程でヘーゲルを通して間接的にスピノザと再会する。この二番目の出会いは、彼女の学位論文『欲望の主体』(1987)を生み出すことになる。最後に、このスピノザからヘーゲルへの移行によって、彼女は「社会存在論」を確立することができた。バトラーの著作におけるスピノザのコナトゥス概念に着目することで、私はこれらの運動を明らかにするだろう。そして、このような考察を通して、バトラーの思想においてコナトゥス概念が持つ意味も明らかになるだろう。It is not well known that Judith Butler is an avid reader of Spinoza. However, Spinoza is a very important philosopher for her. Indeed, she said in Undoing Gender (2004) "the Spinozan conatus remains at the core of my own work (p.198)." This paper tries to elucidate the meaning of this sentence. Butler rst encountered Spinoza's Ethics during her adolescence. Afterwards, she indirectly met Spinoza again through Hegel during her doctoral studies at Yale University. This second encounter led to the production of her dissertation, Subjects of Desire (1987). Finally, by this journey from Spinoza to Hegel, she could establish "social ontology." I will make these movements clear by paying attention to the Spinozan conatus in Butler's works and we can understand what is meant by conatus in Butler's thought.