著者
山根 秀介
出版者
日本哲学会
雑誌
哲学 (ISSN:03873358)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.68, pp.215-230, 2017-04-01 (Released:2017-06-14)
参考文献数
3

William James’s pragmatism has been criticized since it was first proposed. In particular, his claim that whether an idea is true or not must depend on the effect which it has on our experiences invites the criticism that pragmatism is a form of subjectivism and anti-realism. According to this criticism, if any idea considered as useful is true, the criteria of truth set by pragmatism depend on the time and situation, and so are only arbitrary and relative; therefore, a true idea is a figment of some human imagination which has no connection with objective reality.However, James repeatedly objected to this criticism. He claimed that his pragmatism did not make truth vague and uncertain, that one could certainly get access to reality by true ideas and that in this sense he was a realist. The purpose of this study is to show, by analyzing the theory of truth in James’s pragmatism, that he understood the agreement of our ideas with reality in a different way from other theories, and constructed a characteristic realism of his own.In James’s view, truth as the agreement of an idea with reality is realized by certain actions that the idea leads to, namely, by a process of verification that one can practically follow, and reality is a mixture of sense experiences and previous truths one has already acquired. This study considers an action performed to know reality as a kind of intuition, and explains that the truth established by the action transforms reality. Reality as inevitable not only presses one to be subject to it: one can also act on and change it. James insists that an action as intuition embodies our knowledge of reality, and also contributes to the creation of reality in the sense that it newly produces truths and adds them to reality. For James, this interaction between human beings and reality, and the constant modifications occasioned by it are the actuality of our concrete world.
著者
安部 城一 坂村 健 坂前 和市 相磯 秀夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.306-313, 1979-07-15

この論文はソフトウェア作成プロジェクトの管理破綻を防止することを目的とし プログラムテスト項目数 検出バグ数 作業日の間の関係を示すPB曲線図により総合デバグ時の進捗度を把握する方法を示している.さらにPB曲線に現れるプロジェクトの性質について論じ 管理破綻の検出方法を提案している.ソフトウェア作成をプランニング期 プログラミング期総合デバグ期と大きく三段階に時分割した場合 プロジェクトの管理が破綻すると判明するのは総合デバグ期であるという実態に注目し 総合デバグ期におけるテスト項目数 検出バグ数 および時間の間の関係は一般的にモデルにより取扱うことができることを示している.このモデルの上の特性値が示す傾向からプロジェクトの破綻を判定する方法を提案し さらに総合デバグ期を初期 中期 終期の三段階に分け 期間 テスト項目数およびバグ数の間の性質10件を示すことによりプロジェクトの最終段階における工程計画ならびに進捗度管理の信頼度を向上する材料を提供している.またこの結果はソフトウェアの分野や規模によらずある程度の普遍性があることを述べている.判定方法の提案と共に過去の破綻例の原因について分類行い 原因の偏りと性質を分析し 一部の原因について対策が可能であるとしている.
著者
小出 明弘 斉藤 和巳 風間 一洋 鳥海 不二夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.164-173, 2013-08-21

本稿では,Twitterのフォローネットワークを分析することにより,ユーザのフォローがどのような目的で行われているのか議論する.まず,フォローネットワークの特徴を把握するため,ネットワーク内の高次数ノードに着目し,ブログの読者関係とレビューサイトのお気に入り関係を表したそれぞれのネットワーク構造の特徴と比較する.その結果,ブログやレビューサイトでは,比較的小規模な高コリンクグループが得られたのに対し,フォローネットワークでは,強い双方向関係により構築された大規模な高コリンクグループと,双方向関係がほとんど見られない複数の小規模な低コリンクグループが存在することが分かった.さらに,高次数ノードのツイート集合を分析し,これらのグループは同じようなツイートをしているにもかかわらず,フォロワとの関係に大きな違いが見られることが分かった.In this paper, we explored Twitter's follow mechanism through a network analysis. In order to characterize the salient structure of Twitter's follow network, we first empirically compared it with those of reader and favorite networks form blog and review sites by focusing on their high degree nodes. From this experiment, we observed a relatively large high co-link group whose nodes are mutually connected to each other and some small low co-link groups whose nodes are not mutually connected to each other in Twitter's network. On the other hand, most groups are relatively small high co-link groups such as discussion groups in blog and review sites. Moreover, by analyzing messages tweeted by these group's users, we found that these groups much differ in relation with followers although these groups resemble in content of tweets.
著者
加藤 康男 梅田 祐司 水澤 純一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.355, pp.35-40, 2010-12-12
参考文献数
11

網膜神経節細胞の入力に対する応答を定量化する際に,相互情報量が用いられている.観測データから相互情報量を求めるために,刺激が影響している間のスパイクパターンを離散化し,そのヒストグラムにより確率分布が求められている.しかし確率分布から相互情報量を直接的に求める手法は,離散化の幅により結果が左右され,データ数が限られている場合に推定誤差が大きいという問題を持つ.そこで本研究では,網膜神経節細胞のスパイク列に情報量解析を適用するための実際的手法の確立を目指し,べイズ推定を用いた情報量推定手法を導入する.さらに,べイズ推定のシミュレーション実験を通して,スパイク発火モデルの情報量解析を行い,様々な手法の妥当性や問題点の検討を行った.
著者
内藤 航 岡 敏弘 小野 恭子 村上 道夫 保高 徹生 石井 秀樹 黒田 佑次郎 作美 明
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

福島の地域住民や行政と連携した個人被ばく線量の実態把握、リスク対策に資する個人被ばく推定手法の開発、被ばく線量低減対策の社会経済性評価と国内外におけるリスク対策(食品基準の設定)等を分析・整理を行った。福島の避難解除準備地域における個人被ばく線量の実測値は、ばらつきは大きいものの、当初の推定より低いことが実証された。被ばく線量低減対策の費用はチェルノブイリのそれと比較すると相当高いことがわかった。本研究により得られたエビデンスは、科学的合理性が高く社会に受容されるリスク対策の検討において、貴重な情報を提供すると考えられる。
著者
梁木 靖弘
出版者
九州大谷短期大学
雑誌
九州大谷研究紀要 (ISSN:02864282)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.206-186, 2003-03-05

革命以前のロシアを代表する女優のひとり,ヴェラ・コミッサルジェーフスカヤVera Fyodorovna Kommissarzhevskaya(1864〜1910)の主宰する劇団に演出家として雇われたフセーヴォロド・メイエルホリドVsevolod Emilievich Meyerhold(1874〜1943?)は,1907年のシーズンが終わったあと,コミッサルジェーフスカヤから一通の手紙を受け取る。それはロシア演劇史上名高い絶縁状である。「フセーヴォロド・エミーリエヴィッチ!この数日,わたしはずっと考えつづけてきました。そして,わたしとあなたは演劇を全く異なった目で見ていることや,あなたが探しているものは,わたしが探しているものではないことなどを悟りました『愛の喜劇』(1907年1月)や『死の勝利』(1907年11月)では,あなたは「古い」演劇の原則と,あやつり人形劇(マリオネット)の原則を統合させることに成功しました。しかし,それ以外の作品であなたが通ってきた道は,人形劇への道なのです」。この手紙は単なる絶縁状というだけではなく,「古い」演劇の側に立った女優の目に映る,メイエルホリドという,異質な新しい演劇の担い手の特徴をいい当ててもいる。才能ある女優の直感は,自分の依拠する演劇とは異質の演劇理念を「あやつり人形劇(マリオネット)」と否定することによって,逆に20世紀演劇にあらわになったある側面を予告している。演劇の人形劇化,あるいは人形劇の侵入は,19世紀から20世紀にかけてさまざまな局面で見られる現象であり,演出家の時代と呼ばれる20世紀の舞台を考える上で,避けては通れない基本的な問題を投げかけていると思われる。もちろん,人形劇は古くから舞台のジャンルとして存在しつづけてきたわけであるが,19世紀末から20世紀の初頭にかけて,俳優が演じる舞台と交錯することになる。ロシアのメイエルホリドばかりでなく,同時代人でもあり,現代演劇の鼻祖と目されるフランスのアルフレッド・ジャリAlfred Jarry(1873〜!907)の「ユビュ王」は,もともと人形劇として考えられたものであり,それを生身の人間が演じるところに,今日的な,暴力的な表現がうまれてきた。さらに,20世紀のバレエを切りひらいたロシアのセルゲイ・ディアギレフSergel Pavlovich Diaghilev(1872〜1929)が主宰するバレエ・リュッスの代表作に,ロシアの民衆的人形劇をバレエ化した「ペトルーシュカ」がある。それを演じたのが伝説のダンサー,ワスラフ・ニジンスキーVaslaw Fomitch Nijinsky(1888〜1950)である。生身の人間が演じる舞台に,なぜ人形が,暴力的とも思える侵入をしたのだろうか。あるいは,19世紀末パリに誕生し,半世紀ほど存在することになる怪奇劇専門の劇場は「グラン・ギニョルGrand-Guignol」(大きな人形)と名づけられ,フランス語で一般名詞化するほど知られるようになる。さらに,演出家という職能の基礎を確立したエドワード・ゴードン・クレイグEdward Henry Gordon Craig(1872〜1966)の「超人形説」と呼ばれる俳優論。それが,なぜ20世紀演劇を予告することになったのだろうか。このなかのいくつかの例をとりあげることによって,その現象の意味するところへ考察の糸口をつけようというのが,本稿の目的である。
著者
越野 由香
出版者
実践女子大学
雑誌
実践女子短期大学紀要 (ISSN:13477196)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.49-58, 2010-03-20

自律神経機能の調整手段としてのマッサージの効果について、近年の調査研究を再考した。その結果、発達障がいをもつ子ども達にとってマッサージは、1)自立神経の調整に役立ち、さらに攻撃的行動や対人関係に変化をもたらす、2)親(身近な大人)との情緒的絆を築く助けとなり、触れられることに耐えるといった基本的な自己コントロールの力をもたらす、ことが示された。そのことから、触れられる体験の必要性および緊張(警戒状態)からの回復という点で、発達障害を抱える子ども達に対する早期からの足裏マッサージは有効と考えられた。
著者
青木 美香 桑村 充 小谷 猛夫 片本 宏 久保 喜平 野村 紘一 佐々木 伸雄 大橋 文人
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.1087-1091, s・vii, 1998-10
参考文献数
30
被引用文献数
5

イヌの正常および腫瘍細胞に対するリコンビナントヒト腫瘍壊死因子α(rh-TNF-α)とアクチノマイシンD(ACT-D)による細胞障害性を調べた.rh-TNF-αは, 継代培養細胞であるイヌ腎癌細胞に対して濃度依存的に細胞障害性と細胞増殖抑制効果を示した.初代培養されたイヌの正常細胞に対する, rh-TNF-αのみによる細胞障害性はわずかであった.しかし, ACT-Dとの併用により, 正常な腎髄質, 脾臓, 心筋, 肺の細胞で細胞障害性が認められた.自然発生のイヌの腫瘍細胞に対するrh-TNF-αとACT-Dのin vitroにおける細胞障害性を調べたところ, 60%に感受性が認められた.特に, 乳腺の混合腫瘍と肛門周囲腺腫では, 実験に用いたすべての腫瘍で細胞障害性が認められた.今回の実験では, rh-TNF-αとACT-Dはイヌのある種の自然発生の腫瘍細胞に対してin vitroで細胞障害性活性を有することが示された.
著者
酒井順蔵 著
出版者
徳島史学会
巻号頁・発行日
1972
著者
島野 翔
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2008年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.219, 2008 (Released:2008-07-19)

1.はしがき 地理学では古くから、歴史的・文化的に価値のある景観に関する研究が行われてきた。しかし近年、景観に関する諸問題が生じているのは、むしろ歴史的・文化的な景観を持たない一般の地域においてである。この一般の地域、特に都市の市街地の景観形成に関する助言こそが、景観を研究対象とする学問分野に求められている。建築計画学の分野では、部分的な街路形態の特徴に注目し、それを一般の地域における景観形成の拠り所とする研究が増加している。街路には、かつての地形的、土木技術的な制約による屈曲や勾配、狭まりが視覚的に認識できる状態で残されており、建築物の更新頻度が高いわが国では、こうした街路が地域の歴史を語る際の手がかりとなる。景観を「目に映ずる同様の特徴を有する地表の一部」(山口、2007)と定義し、目視で各地の景観を分析してきた地理学においても、街路形態に視覚で認識可能な資源を見出すことは、地理学の手法を景観形成に役立てるうえで意義があると考えられる。そこで、本論では「Y字路角地」という、一般の地域に普遍的に見られる街路形態の景観構成を調査・集計し、計量分析を用いて類型化を行い、一般の地域における景観形成の資源としていかに活用することが可能であるか、そのモデルを掲示することを目的とする。 2.Y字路角地とは 都市内の交差点は、交通流動や土地利用の合理性が志向されるため、できるだけ直角に近い角度で交わり、角地が矩形となった十字路、T字路を形成している場合が多い。しかし、諸事情により鋭角で交差するものもあり、(1)土地利用や建築物に形態的な制約がかかり、特徴的な景観が現れる、(2)角地に対面する道路から眺めたとき、角地の中央が強調され印象的なアイ・ストップとなるといった特徴を有している。本論では鋭角の角地のうち、交差角度が45°以下の交差点の角地を「Y字路角地」と定義し、景観観察を行った。 3.東京23区におけるY字路角地の分布 東京23区内のY字路角地(合計5875箇所)の位置を電子地図上にプロットし、カーネル密度推計法を用いて等値線を描いた。その結果、Y字路角地は1933年~1945年に行われた耕地整理以前とそれ以後の道路が混在し、かつ両者の方向が異なっている地域に多く分布していることが分かった。本論ではそのうち、JR池袋駅から1kmほど北西に位置する地域でY字路角地の景観観察を行った。 4.景観観察の手法とその結果 建築計画学で使われている「表層」の概念を援用し、調査地域のY字路角地163箇所に対し、対面道路から見える範囲を観察した。観察項目は(1)交差角度、(2)隅切り、(3)接道部と建築物の距離、(4)接道部の見通し、(5)土地利用、(6)建築物の階層、(7)配置物である。その結果、(2)、(3)、(4)は交差角度の影響を強く受けていることが判明した。 5.Y字路角地の景観構成の類型化 景観観察で得られたY字路角地163箇所における、34種類の変数を用いて数量化III類分析とクラスター分析を施し、Y字路角地の景観構成を類型化した結果、「(1)残余地のある低層建築型」、「(2)幹線道路型」、「(3)植栽・駐車スペース型」、「(4)残余地のない低中層建築型」、「(5)非建蔽地・公有地型」の5つの類型を得ることができた。 これらの類型は、(2)以外は分散して立地している。すなわちY字路角地の景観は、経済原理よりもその土地固有の諸事情によって決定されている可能性が高いことが判明した。その他、景観形成の資源として、それぞれの類型のY字路角地がいかなる価値を持ちうるかを考察した。
著者
植松 正 UEMATSU Tadashi
出版者
京都女子大学史学会
雑誌
史窓 (ISSN:03868931)
巻号頁・発行日
no.64, pp.75-81,中扉1枚, 2007-02
著者
大住 倫弘 住谷 昌彦 大竹 祐子 森岡 周
出版者
日本基礎理学療法学会
雑誌
日本基礎理学療法学雑誌 (ISSN:21860742)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.69-78, 2018-12-18 (Released:2019-01-08)

Goal-directed movements involve representative sensorimotor control, planning, and execution, both sequentially and cyclically. An optimal motor control is necessary to minimize jerk, torque change, variance, interaction torques. Disturbance of optimal motor control may cause or exacerbate pathological pain in patients with complex regional pain syndrome (CRPS). The present review article demonstrated abnormal kinematic feature in CRPS indicating sensorimotor disturbance and pain-related fear. Then, we also demonstrated rehabilitation strategy for them based on analyzing kinematic data. While, phantom limb pain is exacerbated through altered movement representations of their phantom limb, for example, ‘my phantom limb is frozen in one or more peculiar positions’. Previously study hypothesized that visual feedback using a mirror restored the voluntary movement representation of such a ‘paralysed’ phantom limb and simultaneously improved phantom limb pain. This observation generated a working hypothesis ‘distorted movement representation of a phantom limb induces pathological pain as the alarm sign of the limb abnormality'. In the present review article, we demonstrated process of verifying the working hypothesis by using the bimanual circle-line coordination task and rehabilitation with virtual reality system. We suggest the importance of evaluating the movement representations in a quantitative way, and that structured movement representations of the phantom limb are necessary for alleviating phantom limb pain.
著者
篠崎 信雄
出版者
Japanese Society of Applied Statistics
雑誌
応用統計学 (ISSN:02850370)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.59-76, 1991-12-20 (Released:2009-06-12)
参考文献数
53
被引用文献数
2 1

多くの母平均を同時に推定するとき,平均2乗誤差の和を基準にすれば,Stein推定量が通常の推定量を改良することはよく知られている.ここでは,Stein推定量をさまざまな現実の問題に応用するために考えられてきたSteinタイプの縮小推定量について,その基本的考え方を明らかにし,どのような現実の問題に対して有効であり,どのような問題があるのかを論じる.また,経験的ベイズ推定量,平滑化との関連性をも明らかにし,信頼領域の問題についても触れる.さらに,応用例として都道府県庁所在都市の一世帯当りの平均教育費を推定する問題をとり上げ,回帰直線に向けて縮小する推定量とその有効性を示す.
著者
郡山 純子 柴原 浩章 鈴木 光明
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.846-851, 2010-05-10

はじめに 1978年に英国のSteptoeとEdwards 1)が世界で初めて体外受精・胚移植(in vitro fertilization-embryo transfer : IVF─ET)の成功を報告し,その後1992年にベルギーのPalermoら2)が受精障害を伴う重症男性不妊症を対象とする卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection : ICSI)に成功した.これらの生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)は難治性不妊症に対する最終的な治療法として位置づけられ,広く一般に普及するに至っている. 一般にARTにおいては,調節卵巣刺激(controlled ovarian stimulation : COS)を行い,至適範囲内で複数の卵子を採取し,媒精後得られた受精卵の中から,良好胚を選択し移植を行う.また受精卵を凍結保存する場合も,一般に良好胚のほうが生存率・着床率とも高く,良好胚の選択は不可欠である. 従来は受精後2~3日目の初期胚の形態学的評価法が一般的であった.最近では初期胚を連続的かつ非侵襲的に長期間観察可能な体外培養装置を用いて,ヒト胚の発生過程の動的解析(time-lapse cinematography : TLC)が可能になり,静止画像からでは解析できなかった新たな知見を認めている3).一方,胚発生に問題の少ないと考えられる良好胚移植後の反復不成功例では,hatching障害による着床障害がその一因と考えられる.われわれは,抗透明帯抗体の検出法を確立し,抗透明帯抗体による不妊発症機序の解明,ならびに抗体の生物活性の多様性を報告してきた4). 本稿では,卵子・受精卵・透明帯の評価法について記述し,着床障害となる卵側の問題点について述べる(表1).
出版者
巻号頁・発行日
vol.巻2, 0000

光明皇后御願経。光明皇后(701-760)が亡き両親、藤原不比等、橘三千代の追福のために発願した一切経で、奥書に「天平十二年五月一日記」の日付けがあることから、「五月一日経」とも呼ばれている。写経生によって書かれた唐風の美しい楷書で、奈良朝写経中の優品とされる。本書には文字を消磨して書き改めた部分や、朱筆で校合、書入した箇所が見られる。料紙は麻紙。表紙、軸は後代の補修。表紙と本文との継ぎ目紙背に「東大寺印」の方形朱印が押捺されている。
著者
幸田 正典
出版者
大阪市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

魚類における複数の社会的認知能力を解明し、脊椎動物の認知能力の起源について検討してきた。顔認識、自己鏡像認知、意図的騙しに関して研究を行ったなかで、顔認識については大きな進展があった。本研究で、さらに2種のカワスズメ科魚類で顔認識していることが明らかにできた。さらに、顔認識ができる魚種では出会った相手の顔を最初にかつ頻繁に見ることを独自の実験装置を用い実証検証を行った。これは、魚類ではじめての確認である。また倒立効果も既知個体の顔模様だけに確認された。このことは、顔認識の系統進化が魚類にまで遡り可能性を示唆しているし、さらにほ乳類で知られる「顔神経」が魚類にも存在するとの仮説を提案した。
著者
東口 涼 柴田 昌三
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.74-79, 2017 (Released:2018-03-15)
参考文献数
18
被引用文献数
1

摘要:京都市北部において 2000年代にチュウゴクザサの一斉開花・枯死が起きたが,発生した実生がニホンジカによる高い採食圧を受けることで,群落再生が阻害される可能性が指摘されていた。本研究では 2007年に開花し,継続的な採食を受け続けた群落の再生過程を追跡調査した。また防鹿柵によって実験的にシカを排除し,柵内外で実生の成長をモニタリングすることで,一斉開花後の再生過程におけるシカ採食圧の影響を明らかにした。その結果,継続的採食下では個体サイズが矮小であり,群落が衰退していたことがわかった。加えて,自然下では採食圧が大きな再生阻害要因となっており,これを排除することがササ群落の再生を促進することが示された。