著者
菅原 正義
出版者
長岡工業高等専門学校
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

動物の消化管に常在している細菌は、宿主に有害・有益な代謝を行い宿主の健康に大きな影響を及ぼすことが知られている。本研究では、脂質代謝や発ガンへの影響が示唆されている二次胆汁酸を一次胆汁酸から生成させる腸内細菌由来の酵素7α-デヒドロキシラーゼに関する知見の収集とその代謝制御を目的として研究を行った。これまで本酵素生産菌としてEubacterium sp. strain VPI 12708などが知られ、比較的菌数の低い強い酵素活性を有する菌が主として生産していると考えられてきた。我々は、これまで胆汁酸分析に一般に用いられてきたTLC、HPLC、GPCより感度が高いELISA法を用いて本酵素生産菌の探索を行った結果、総菌数の1〜10パーセント程度の多くの菌株が低い本酵素生産能を有することを確認した。その中でもEubactrium spと考えられる比較的酵素生産能の高い数菌株を用いて酵素精製を試みたが、継代培養を繰り返すにしたがって生産性が低下し精製することができなかった。本酵素活性の食品成分による制御を目的として酒粕粉末をラットに投与した結果、胆汁酸排泄量が有意に増加、二次胆汁酸の排泄が減少した。また、コレステロール吸収に重要なコール酸及びデオキシコール酸の排出が増加した。さらにパスタに難消化性澱粉素材である湿熱処理ハイアミロースコーンスターチを添加してヒトヘ投与した結果、胆汁酸排泄の増加とコール酸とケノデオキシコール酸の増加、デオキシコール酸とリトコール酸の減少を示し、食品成分によって胆汁酸排泄と7α-デヒドロキシル化を制御できることがわかった。
著者
大下 祥枝
出版者
沖縄国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

19世紀前半のフランス社会は、政治体制がめまぐるしく変わる激動の時代にあった。そのような時に思想・信条を発表する場として新聞・雑誌が大いに利用されたが、大衆がつめかけたパリのブルヴァールの劇場も、その場を提供していたのである。いったい舞台の上でどのような場面が展開し、聴衆の心をつかんでいたのであろうか。大衆演劇の枠組みに入る数多くのメロドラマの中から、役者フレデリック・ルメートルが主役を演じた作品を選び、舞台が観客に与えた影響について考察を進めた。第一部では、権力に挑む大衆演劇とその周辺というタイトルのもとに、『ロベール・々ケール』と『パリの屑屋』を取り上げた。主人公たちがいかにして権力に立ち向かっていくかを調査し、またメロドラマと他分野との関連性や検閲について検討を加えた。社会的弱者を描く大衆演劇と題した第二部では、家族制度の矛盾点がメロドラマの『リチャード・ダーリントン』と『三十年間、または或る賭事師の一生』ではどのような形で登場人物の動きに反映されているかを検証した。第三部ではバルザックの劇作品、および劇中劇の形式で描かれた『魔王の喜劇』について、『ロベール・マケール』の影響を調査すると同時に、作家が七月王政下の社会を調刺する手法を探った。以上のような考察を通して、当時の民衆が体制批判をする一つの切っ掛けとなったのが、メロドラマなどの舞台であるといえるのではないだろうか。
著者
柳澤 弘揮 宮崎 修一 岩間 一雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. COMP, コンピュテーション (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.537, pp.1-8, 2008-03-03

安定結婚問題は,GaleとShapleyによって提案されたマッチングの問題である.任意の例題について,解が存在し,それを見つける多項式時間が存在することが知られている.しかし,このアルゴリズムによって得られるマッチングは「男性最適」,つまり,男性にとっては好ましいが女性にとっては好ましくないマッチングである(逆に,男女の役割を入れ替えれば,女性最適なマッチングになる).GusfieldとIrvingによって提案された男女平等安定マッチング問題は,男女両者にとって「公平な」安定マッチングを求める,つまり,男性側の不満足度の和が女性側の不満足度の和になるべく近づくような安定マッチングを求める問題である.この問題は,強NP困難であることが知られている.本稿では,男女平等安定マッチング問題に対して,ほぼ最適な解を求める多項式時間アルゴリズムを与える.さらに,評価指標を一つ増やして,男女平等(sex-equality)の観点でほぼ最適なもののうち,全体の公平さ(egalitarian)が最小の安定マッチングを求める問題を考える.我々は,この問題がNP困難であることを示し,この問題に対して近似度が2より良い多項式時間アルゴリズムを構築した.
著者
比嘉 夏子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

19年度は、前年度までに実施したトンガ王国における長期フィールドワークで得られたデータを整理、分析し、それを国際的な場において発表することに重点を置いて研究を進めた。具体的な成果としては、ブタをはじめとする多くの伝統財が贈与交換された国王葬儀や宗教行事を比較研究し、2007年6月に開催された第21回太平洋学術会議においてContinuity and Change of Gift and Tribute:Spectacular Practice in the Modern Kingdon of Tongaのタイトルで、英語ポスター発表を行った。また、雑誌Research in Economic Anthropologyへ投稿した論文、Economics Emerging Between Religious Faith and Practice:A Microanalysis of a Donation Event in the Kingdon of Tonga(現在査読中)の執筆をおこない、現代のトンガ王国において、依然として顕著な現象として見られる宗教的贈与について、信仰と経済活動とがどのように人びとの日常生活を織りなしているのか、村落調査で得られた詳細なデータをもとに分析、検討した。年度末にはこれまでのトンガ王国での調査をさらに深めるべく、トンガとは地理的、文化的に隣接していながらも、現在はニュージーランドの自治領であることから島内の過疎化が進行しているニウエ島での短期調査を実施し、王制を維持しているトンガとニュージーランド本島の影響を強く受けているニウエ島の生活が、ブタ飼養や贈与交換のありかたなど、さまざまな点においてかなり異なったものであることが確認された。
著者
村井 文江 田代 順子 谷川 裕子
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

インタビュー内容を再度分析した。結果、健康上"しかたない"と認識していることの概念と"しかたない"という認識と健康行動の関連が明確になった。1)健康上での"しかたない"ことの概念健康上"しかたない"と認識されることは、自分のコントロールが及ばないと感じているところで生じた健康上の気がかりや問題(先行要件)によって、深刻ではないがしたいことができないなどの喪失が生じている状態であった。そして、その状態を"しかたない"と認識することで、「なぜ自分が」という否認から「自分のこと」として引き受けていた。"しかたない"と認識する内容は、人生経験や価値観によって個人差があり、状況によっても変化し常に"しかたない"こととして存在するわけでなかった。また、時間的特徴として、月経痛のように生じる期間が限られていることや繰り返すことが認められた。今後の予測としては、軽減または消滅することを期待しているが明らかな見通しがなかった。帰結として、健康行動を模索する場合と自然の解決を待つ場合が認められた。健康行動の結果、解決・軽減することもあるが不変の状況も認められた。2)"しかたない"という認識と健康行動との関連月経時の痛みに焦点を当てて、月経痛の状況と健康行動について、月経時の痛みを"しかたない"と認識している群としていない群で比較検討した結果、"しかたない"という認識と健康行動に以下の関連が見出された。"しかたない"という認識は、月経時の痛みそのもののとそのことに対する健康行動の結果に対するものの2つがあった。月経時の痛みそのものを"しかたない"と認識している場合にとられている健康行動は「我慢する」ことであった。月経時の痛みそのものを"しかたない"とは認識していない場合には、健康行動が模索されていたが、痛みの程度によって模索状況は異なっていた。また、健康行動の結果、月経時の痛みを"しかたない"と認識している場合は、健康行動によって個人が期待する結果が得られていない状況であり、かつ、その後の健康行動の模索があきらめられている状況であった。今後は本研究での成果を踏まえ、女性の健康増進を支援するプログラム開発を検討していきたい。
著者
繁桝 江里
出版者
青山学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

仕事に関わるネガティブなフィードバック(NF)が受け手に与える効果について、大学生に対する面接実験、および、就職活動期と入社後のパネル調査を行い、NFの効果を規定する要因として、表現方法、送り手および受け手の個人特性、職場の組織文化を特定した。また、新入社員に対する上司の日常的なNFは、能力の自己評価や職業価値観に弱い悪影響を与えることがパネルデータにより実証されたが、1回のNFの影響は良い場合と悪い場合が拮抗していることが示された。
著者
本多 正史 石崎 太一 黒田 素央
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.443-446, 2006-08-15
被引用文献数
7 23

本評価では,(1) 1日4時間以上VDT作業を行っている労働者であり,(2) 11名中9名が「眼が疲れる」「眼がかすむ」「肩,腰がこる」を感じており,(3) 平均年齢が45.7&plusmn;7.8歳のパネル11名(男性)を対象に解析を行い,以下2点が明らかになった.<BR>(1)鰹節だしの4週間継続摂取により,自覚症状に関して,眼精疲労にみられる「眼が疲れる」「眼がかすむ」「涙がでる」「眼が赤くなる」などの項目が初期値に比べて主に摂取3週目,4週目で改善傾向を示した.<BR>(2)フリッカーテストの結果,主に夕方のフリッカー値が初期値に比べて摂取4週目で有意に上昇した.前観察期間のフリッカー値の&Delta;(朝-夕方)の平均値を基準に層別解析を行った結果,平均以上のパネルでは,顕著に&Delta;(朝-夕方)が低下した.平均以下のパネルでは,ほとんど変化しなかった.<BR>以上の結果から,鰹節だし摂取により眼精疲労が改善される可能性が示唆された.
著者
矢部 直人
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

裏原宿に小売店の集積が形成された要因は,店舗の供給側から見ると,1980年代後半のバブル経済期に,不動産開発が住宅地の内部まで進んだことが大きい.一方,店舗に出店するテナント側では,人脈を使った出店が行われていた.小売店の集積が,アパレル生産に与える影響は二つあった.一つは,消費者の情報を商品企画に生かすことであった.もう一つは,小売店が生産工程を商社に外注することによって,中国における小ロット生産が可能になったことである.
著者
石森 秀三
出版者
観光経済新聞社
雑誌
観光経済新聞
巻号頁・発行日
vol.2480, pp.2, 2008-08-23
著者
木戸 詔子 大野 佳美 角田 万里子 口羽 章子 中原 満子
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.140-147, 2006-04-20
被引用文献数
1

高齢者にむせないで利用しやすい「合わせ酢」の開発を目的に,その前段階として女子大生を対象として,3種類の市販の食酢を用い,4種類の方法で調製した「合わせ酢」の官能評価を行った。なお,酢の物が「好き」「どちらでもない」「嫌い」の3グループに分けて評価を行った。その結果,以下の通りにまとめられた。1)「基本の合わせ酢」を市販の「穀物酢」,「米酢」,「純玄米酢」を用いて評価したところ,酢の物が「好き」のグループでは,「穀物酢」がすっきりしてさわやかであるなどの理由で「米酢」よりも好ましく,「純玄米酢」はまろやかな点から好まれた。しかし,「どちらでもない」のグループでは3種類の食酢での相違はほとんどみられなかった。「好き」と「嫌い」のグループ間で「穀物酢」や「純玄米酢」で調製した「基本の合わせ酢」では,0.1%の有意水準の差があったが,「米酢」では3グループ間での有意差はなく,「嫌い」のグループで評価が高かった。2)「基本の合わせ酢」の加熱処理は,穏やかな沸騰持続20〜30秒が,風味が失われず,酸度が5%低減してまろやかさが得られたが,官能評価では,3グループともに期待される効果は見られなかったものの,「嫌い」のグループでは5%有意水準で加熱による評価が高かった。3)「合わせ酢」を3倍に希釈した食酢10%相当の「希釈の合わせ酢」は,特に「嫌い」のグループで0.1%の有意水準で高い評価が得られた。4)砂糖濃度5%の「合わせ酢」の官能評価では,「好き」および「どちらでもない」のグループと「嫌い」のグループでの評価では,それぞれ0.1%の有意差があったが,砂糖濃度が8%になると5%有意水準となり,砂糖濃度13%では有意差がなくなり,「嫌い」のグループの評価は「好き」の評価と同等の高い評価を示した。5)「合わせ酢」について,香り,酸味,甘味,塩味,旨味,おいしさ,のみ込みやすさ,後味,総合評価の9つの評価項目間の相関関係を求めたところ,特に「のみ込みやすさ」は「総合評価」と強い正の相関関係をもち「合わせ酢」の重要因子であることが明らかとなった。また,「のみ込みやすさ」と「酸味」は負の強い相互関係を示し,「甘味」と「香り」が正の相関関係を示し,「のみ込みやすさ」の重要因子であることが分かった。この研究は日本調理科学会近畿支部・高齢と食分科会の研究活動の一環として行ったものである。
著者
全 聖福 釜堀 文孝
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.29-38, 2004-03-31
被引用文献数
1

本論文は食品や生活用品購入において商品のどのような要素を重視しているかについて「大学生が持っている商品購入の傾向」と「商品において各項目がどの位重要なのか」の二つの項目を蔚山(ウルサン)大学の学生52入に対して調査を行い、分析した。その結果、両方の各項目に対して、「デザイン」「機能」「販売」を重視しているのは「化粧品」「合成洗剤(お風呂用洗剤)」であり「デザイン」「販売」を重視しているのは「飲み物(果実飲み物,炭酸飲み物)」「アイスクリーム類(アイスクリーム)」「お菓子類(ビスケット)」「お菓子類(クッキー)」「お菓子類(スナック)」「お菓子類(パイ)」、「機能」「販売」を重視しているのは「歯ブラシ/歯磨き」「乳加工品(粉ミルク)」「合成洗剤(洗濯用洗剤」「発酵食品(ヨグルト)」、「デザイン」「機能」を重視しているのは「穀類加工品(ご飯)」「水産物加工品(しじみのみそ汁)」「レトルト食品(コムタン)」「調味料(みそ)」「即席乾燥食品(明太スープ)」「芳香剤」という結論を得、商品によって重要視する要因が異なることがわかった。
著者
圓川 隆夫 鈴木 定省 フランク ビョーン
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、現在多くの企業が目標としているCS(顧客満足度)について、世界ではじめて同一尺度による先進国、新興国からなる8つの国・地域での15の製品・サービスを対象としたCSを含むCS関連指標のデータベースを構築し、CS関連指標の国の文化、そして経済状況の影響と、CS関連指標間の因果メカニズムの違いを実証的に検証したものであり、グローバル化したマーケティングや品質設計に多くの示唆を与えるものである。
著者
瀬川
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
藥學雜誌 (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
no.224, pp.1001-1002, 1900-10-26
著者
白松 賢
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.49-64, 2009-05-31

This paper attempts to determine a method for making use of the "image of deviation," which we fieldworkers possess and typically regard as a bias contaminating our research, as a resource for interpretation, and by doing so open the door to the field of "deviation." Among qualitative studies of educational sociology, only a handful have focused on the self (involvement, attitude, etc.) expressed in the "image" held by researchers. One of the reasons for this situation seems to be the long-standing perception among quantitative studies in educational sociology that the "image" (involvement and attitude) introduced by the researcher is "a potential contaminant" that should be "separated out, neutralized, minimized, standardized, and controlled" (Fine et al. 2000, p. 108) In this paper, we begin by examining barriers to fieldwork in the area of "deviation" (the problem of fieldworkers being regarded as contamination) and, through research and study in the "narrative mode," offer direction in shifting to a closed field. Secondly, we develop a method of description that transforms the fieldworker's "image" into a resource for research and interpretation. In order to achieve this goal, the "practice of interpretation" must first be described in words, through a transformation of the fieldworker's "image" into a resource for interpretation; the method of description must also be properly set out and organized, in order to avoid becoming trapped in a "dead end of self-reflection." We opt to focus on the "writing mode" and "reading mode" (Emerson et al. 1995, p. 63) as methods of description, and adopt a technique by which we avoid the "dead end of self-reflection." In transforming the "image" into a resource for interpretation, we focus our attention on the distinction between "content" (experience lived and experience described: what is described) and "method" (way of description: how to describe) (Gubrium and Holstein 2000, p. 496). By carefully describing "first person narrative" and "third person narrative," we also explain in this description the process of interaction-based meaning construction. Thirdly, based on results of actual fieldwork (follow-up survey on persons who have experienced taking magic mushrooms), we discuss ways to move toward practical applications in problem solving. (1) The process described in this paper is the same as the "interpretation technique" (process of interpretation practice) of "those who have experienced magic mushrooms," re-emphasizing that this practice may be referred to as a reason why people take magic mushrooms, and offering hints, though limited, toward answering the larger question of "why people take magic mushrooms." (2) Our next step will be in the direction of initiating a dialogue with the findings of previous studies. The dialogue between "cause approach" and "process approach" is important in terms of practical aspects of this research. For example, we can propose that, based on the results of this paper, the concepts of "neutralization" and "drift" can be reconstructed as ideas corresponding to situation-dependent interpretation practice applied to the deviation category.
著者
後小路 雅弘
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、東南アジアの近代美術が、とりわけ1960年〜1980年の西欧モダニズムの本格的な受容の時期に、どのようにモダニズムを受容したのかを、具体的な作品を通して、検証、考察することを目的としている。その時期は、東南アジア各国が独立を果たし、国民国家が形成されていく時期でもあり、その中で、国民文化としての美術が求められたが、他方、国際的な抽象美術運動を背景に、モダニズムの持つ視覚言語の自律性と普遍性を追求することが時代の要請でもあった。そうした相反する方向のなかで、東南アジアの美術家たちが、国際的な普遍性とローカルな固有性のはざまでどのような制作活動を行い、どのような作品をその成果として生み出していったのかを明らかにすることが主要な課題である。具体的な研究成果は、以下の通り。1.東南アジアの1960年〜80年に活躍した作家の作品について現地調査を行い、作品撮影をし、同時代の資料を収集した。2.現存作家・遺族、関係者へのインタビューを行った。その主要なものは報告書に収録した。3.「アジアのキュビスム」「ベトナム近代絵画展」ふたつの展覧会の企画構成、図録作成に関わり、調査研究を展覧会の形で、広く公開した。