著者
松村 理恵子 岩田 美千代 澤田 愛子
出版者
富山大学
雑誌
富山医科薬科大学看護学会誌 (ISSN:13441434)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.77-84, 2001-08

本研究では, 看護婦と末期患者のコミュニケーションの課題を考察するために, 末期患者とのコミュニケーション場面における看護婦の感情を明らかにすることを目的とした.その結果, 看護婦の感情は《事実を知っている緊張感》, 《患者の人生に影響を与える責任の重み》, 《思いを共有できないつらさ》, 《何もできない申し訳なさ》, 《看護の手ごたえのなさ》, 《余裕のなさ》, 《責められることへのやるせなさ》, 《患者の心の中に入る怖さ》の8つに分類された.さらにターミナルケアに関わる看護婦は, 末期医療の特殊性から, 患者と同じ目標をもつことが難しいことを悩んでおり, また, 看護婦の無力感, 自信のなさなどから, ひとりの人間として患者と関わることが困難であることがわかった.これらのことから, 末期患者とのコミュニケーションの課題として, 末期医療の厳しい現実を正しく見つめた上で, まず自分のいかなる感情も自分のものとして受け入れ, さらに自分を価値ある人間として認めることが重要であると考えられた.
著者
田中 智子
出版者
教育史学会
雑誌
日本の教育史学 : 教育史学会紀要 (ISSN:03868982)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.56-68, 2009-10-01

For the most part, student self-government in dormitory life was accepted within the prewar high school system. Student dormitory self-government originated with the introduction of a boarding school system at First High School, Student dormitory self-government at First High School became the model for other high schools. Due to student labor mobilization and governmental policy during World War II, student dormitory self-government became difficult to maintain. However, after Japan's defeat, dormitory self-government was revived by the students in every high school. At First High School in 1946, self-government was restored by the students. Despite food and material shortages, boarding schools resumed operation. At the same time, a movement to reform extant regulations and student self-government organization appeared, Leading to opposition between "traditionalist" and "reformist" students. The traditionalists wanted to preserve student self-government through adaptation to the current situation. In addition, they wanted to pass on the tradition to the students of the newly established liberal arts college of Tokyo University. Opposed to this were the reformists (most belonged to leftist student organizations) who sought to expand student dormitory self-government-not only to govern dormitory life, but also to encompass school administration as well as larger social movements. The the reformists pushed through the following three reforms: first, the incorporation of the principles of individual freedom and sociality; second, the inclusion of students not living in dormitories; and third, student self-government participation in school administration and student movements outside the school. After the end of the boarding school system, the First High School Self-government Association was formed by a cell of the Communist Party. In the end, the efforts of the traditionalist students resulted in Tokyo University's new system inheriting First High School's legacy of student dormitory self-government.
著者
大内 雅利 村山 研一
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、農村と農家の社会変動を、それらを構成する最小単位である個人のライフコースからみようとした。それは諸ライフコース間の協調・対立・妥協、さらには新しい制度形成によって説明されよう。第1に、特に顕著な対立は昭和ヒトケタ男性と女性の間にある。前者は現在70歳前後で戦後農業の担い手であり、今は農協組合長などの役職につき農村権力構造の頂点にいる。女性の地位向上と対立する世代である。第2に、背後にあるのは農家女性のライフコースの変化である。女性のライフコースは結婚に大きく左右される。近年は非農家出身・農業経験なし・農外就業・恋愛結婚というライフコースが多い。これは昭和ヒトケタ世代の農家出身・農業手伝い・見合結婚というライフコースとは著しく異なる。家制度と農業の外へと出た経験をもたない。第3に、非農的な体験を積み重ねた農家女性はこれまでの世代と異なり、直売店を持つなど積極的に外に出るようになった。第4に、親のライフコースは子のライフコースのモデルとならなくなった。むしろ子のライフコースが親のライフコースに影響するという、ライフコースの相互規定的な現象がみられる。第5に、合い異なるライフコース間の諸対立を社会的に調停する一つの試みが家族経営協定である。これは行政の主導によって、宮崎県高城町に多くみられた。第6に、現代の農村においてもっとも異質なライフコースは非農家出身の新規就農者であろう。新規就農者のライフコースは未だ安定していない。なかには自然農法のグループもいる。このように現代の農村は、ジェンダー・世代・出身などによって多様なライフコースの持ち主が構成する社会となり、それらの間の対立と共同によって変動している。
著者
出口 禎子 武井 麻子
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本では太平洋戦争時に58万人が学童疎開を経験した。本研究では、疎開生活の実態と疎開が人生に与えた影響について当事者にインタビューした。その結果、親から切り離された孤立無援感、飢餓、いじめなど共通の外傷体験がある一方、疎開地で友人の死を目撃し今も罪悪感に苦しんでいる人、東京大空襲で家族を亡くした人など、戦争による心的外傷は複合的に重なり、現在の生活に影響を残している事例があることが明らかになった。
著者
林山 泰久
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

環境教育とは,個人が自らの行動の長期的影響を考慮し,理解を深め,合理的な行動を行うように変容することを想定しているものと考えられる.しかしながら,新古典派経済学では合理的な個人を仮定していることから,ここでの個人はそもそも個人の長期的影響を考慮した行動を行っており,環境教育を施すことによって厚生が上昇することも,行動を変容させることもないという論理的な矛盾が生じている.そこで,本研究では,実験経済学および行動経済学において議論されている「自制問題」に着目し,環境問題を現在偏重型選好により生ずる時間不一致性の問題として捉え,その際の環境教育の効果について検討した.
著者
佐々木 直美
出版者
広島国際大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

高齢者を対象として、グループで短期心理支援法を実施した。テーマは過去・現在・未来について、全3回で行った。その結果、実施後において、主観的幸福感が低い人は主観的幸福感が上昇した。また抑うつ感が高い人は抑うつ感が低減した。また自己概念については実施前後で差はみられなかった。
著者
桑田 耕太郎 松嶋 登 高橋 勅徳 山田 仁一郎 水越 康介 山口 みどり 入江 信一郎
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究テーマである「制度的起業」とは、単に制度的環境を与件としてそれに組織が適応するとする議論を越えて、企業が既存の制度に埋め込まれながら新たな制度を創造する側面を持っていることに注目した概念枠組みである。本研究では、こうしたダイナミックな制度的実践の側面に注目しつつ、制度変革のマネジメントについて明らかにした。
著者
桑田 耕太郎 松嶋 登 高橋 勅徳 長瀬 勝彦
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、科学ないし技術的な知識基盤に支えられたベンチャー企業(以下、技術系ベンチャー企業)が、特定の科学および技術コミュニティにおける科学的・技術的知識を、それとは異なったコミュニティ(ビジネス・コミュニティ)へと移転し、ひいては経済活動を通じて社会変革を導くメカニズムを理論的ないし経験的に明らかにすることを目的として取り組んできた。まず、本研究では、技術系ベンチャー企業をめぐる理論的基盤の整備が行われた。ベンチャー企業論は、1970年代から欧米において研究が着手され、経済学、経営学、心理学、社会学、人類学等の領域を横断するカタチで無秩序に拡散・増大してきた。80年代末より独自の体系を持つ研究領域として体系化が進められ、近年は新制度学派社会学の知見を取り入れた理論的・方法論的基盤の整備について議論が交わされるようになった。こうした理論的基盤の整備の下、本研究では、ハイテクのなかでも、とりわけ近年勃興しているネット系のベンチャー企業の行動原理に基づいたビジネスモデルの形成過程について考察を行ってきた。そしてさらに、ハイテクベンチャーをめぐる理論的課題を検討する中で、本研究が新たに注目した論点として、ハイテクベンチャーをめぐる制度的環境の重要性を見出すにいたった。従来まで予見とされてきた制度的環境は、実は、ベンチャー企業にとっての設計対象であることに、その要点がある。なお、本研究で取り上げた事例の一部は、社団法人ニュービジネス協議会の協力を得て、近年にニュービジネス大賞を受賞した企業の中からリサーチサイトとなりうる技術系ベンチャー企業を理論的な観点から選定を行い、現実の経済界とのつながりを重視してきた。また、具体的な調査方法としても、ライフヒストリーの編集や、参与観察、GFA(グループ・フィードバック分析)など、さまざまな方法論・手法を用いて綿密に行われた。
著者
福武 将映
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

統合失調症がその病態の基底にもつ生物学的な脆弱性に着目し、その疾患感受性を担う遺伝子変異の同定を試みた。神経発達障害仮説などの従来の仮説に基づいた標的遺伝子の探索に加えて、従来の視点とは異なる手法として大規模な遺伝子発現プロファイリングが可能であるDNA chipを統合失調症死後脳に用い、その結果を基に相関解析を行った。その結果、いくつかの遺伝子多型において統合失調症との相関が見出された。
著者
木林 和彦
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では熱中症における脳神経障害に着目し,熱中症の脳内病態を形態学と分子生物学の両方の観点から捉え,熱中症患者の救命に寄与することを目的とする.また,熱中症に特異的な形態学的・生化学的変化を明らかし,法医鑑定の実務への貢献も目的としている.飲酒酌酊は熱中症の一要因であるので,本研究では,熱中症の形態的変化を捉えるために,熱中症とアルコール投与を組み合わせた実験系を検討した.マウスを熱中症マウス,エタノールを腹腔内投与(2g/kg)した熱中症マウス,エタノールを腹腔内投与したマウス及び食塩水を腹腔内投与したマウスの4群に分け,各群5匹とした.熱中症マウスとエタノールを腹腔内投与した熱中症マウスを全身麻酔し,40℃のインキュベータ中に45分間置いて直腸温を42℃とし,続けて37℃のインキュベータ中に15分間置いて直腸温を40℃以上とした.各群のマウスについて,血圧,直腸温度,血液ガス分圧,血液電解質及び血糖を経時的に測定した.各群のマウスを全身麻酔し,リン酸緩衝化パラホルムアルデヒドで灌流固定した.脳組織について多種類の一次抗体を用いたホールマウント免疫組織化学,通常の免疫組織化学,TUNEL法によるアポトーシスの検出を行って脳内細胞の変化の有無を調べた.熱中症マウスは,直腸温が40.6±0.2℃であり,代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスとなった.エタノール投与した熱中症マウスは,直腸温が41.2±0.2℃であり,代謝性アシドーシスと呼吸不全となった.熱中症マウスは,脳の扁桃体中心核に神経細胞の活性化を示すc-fos陽性神経細胞が増加した.エタノール投与した熱中症マウスは,扁桃体中心核のc-fos陽性神経細胞がさらに増加した.本研究により,熱中症では脳の扁桃体中心核が活性化されることが判明した.また,エタノールは熱中症による扁桃体中心核の活性化を増強することも判った.扁桃体中心核には発熱を促進する役割があり,その活性化は熱中症における高体温と致死の機序に関与していると考えられた.扁桃体中心核の活性化は熱中症の剖検診断での指標となる可能性が示唆された.
著者
三村 信男 江守 正多 安原 一哉 小峯 秀雄 横木 裕宗 桑原 祐史 林 陽生 中川 光弘 太田 寛行 ANCHA Srinivasan 原沢 英夫 高橋 高橋 大野 栄治 伊藤 哲司 信岡 尚道 村上 哲
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

気候変動への影響が大きいアジア・太平洋の途上国における適応力の形成について多面的に研究した.ベトナム、タイ、南太平洋の島嶼国では海岸侵食が共通の問題であり、その対策には土地利用対策と合わせた技術的対策が必要である.また、インドネシア、中国(内蒙古、雲南省など)の食料生産では、地域固有の自然資源を生かした持続可能な農業経営・農村改革が必要である.また、本研究を通して各国の研究者との国際的ネットワークが形成されたのも成果である.
著者
鈴木 克彦 PEAKE J.M. PEAKE J.M
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

我々は、運動負荷に伴う血中サイトカイン濃度の変動が、運動の強度や時間などの生体負担に依存することを明らかにしてきた。本研究では、究極の運動負荷と考えられる鉄人トライアスロン(3.8km水泳、180km自転車、42.2kmマラソン)のレース前・後、1日後に被験者9名から採血し、筋損傷・炎症との関連を調べた。筋損傷の指標としては、筋力、関節可動域、腫張、疼痛、血中ミオグロビン濃度、クレアチンキナーゼ活性を、炎症マーカーとしてはCRP、SAAを、ストレスタンパク質としてはHSP70を測定したが、すべて顕著な変動を示し、レース後および1日後に筋損傷が顕在化した。サイトカインは10種類の測定を行ったが、炎症性サイトカインである1L-1βとTNF-αは変動を認めず、一方、IL-6、IL-1ra、IL-10、IL-12p40、G-CSFが顕著に上昇した。しかし、筋損傷とは関連が認められず、血中サイトカインから筋損傷のメカニズムを説明することはできなかった。これらのサイトカインは、細胞性免疫を抑制する作用があり、炎症の全身性波及を抑制する適応機構として働く反面、感染に対する抵抗能力を低下させる可能性が考えられる。以上の研究成果は、国際運動免除学会にて発表し、現在、European Journal of Applied Physiologyにて審査中である。また、運動による筋損傷と炎症の機序に関して、先行研究の知見を文献的に整理したが、血中のサイトカインの関与は少なく、むしろ白血球の産出する活性酸素の関与の重要性が示唆され、その方向で今後の研究を進める必要性が考えられた。
著者
森杉 雅史 大野 栄治 宮田 譲 根本 二郎 大西 暁生 金 広文
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題は、近年のメコン川流域諸国の急激な経済発展に起因する水資源に関わる諸問題を、経済と環境の二つの視点に即し、統計整備と幾つかの解析を試みるものである。具体的には得られた地域内間表のサーベイと、諸国の経済状況、並びに、誘発環境負荷分析の下で諸地域の相互依存状況を見ていく。また現地調査により水質悪化に伴う疾病対策の評価も行っている。また一方で目下流域諸国の中では情報整備が抜きんでている中国を対象とし、河川流域の水資源に関する需給モデルを展開する。また、費用関数やフロンティア分析の応用などによって、水資源の農産物に対する生産性、課徴金制度の効果なども吟味している。
著者
福岡 義隆 後藤 真太郎
出版者
立正大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

この研究は3つのサブプロジェクトからなる。第1のプロジェクトでは、都市の温暖化の実態と影響についてまとめた。具体的には埼玉県熊谷市を対象として研究を進め、温暖化による熱中症と植物季節の異常を明らかにした。熱中症に関しては気温が30℃超えると発生し始め35℃以上では急増すること、男女・年齢・生活内容・時間・季節によって異なることなどが明らかになった。また、植物季節に関しては温暖化で桜の開花は早まり紅葉は遅れることなどが解明された。第2のサブプロジェクトでは、屋上緑化によるヒートアイランド緩和を調査し、その緩和効果は屋上緑化の規模によることを解明した。すなわち、スポットタイプの屋上緑化よりはガーデンタイプの方が体感温度(WBGT値など)を下げる効果が大きく、ガーデンタイプよりもフォーレストタイプの方が効果が大きいことが分かった。心理効果についてはアンケート調査である程度まで把握できた。最後の第3のサブプロジェクトでは、立正大学構内に設置した特殊舗装面での熱収支観測により、透水性(セラック)と保水性(エコプレート)の舗装面がアスファルトやコンクリート面に比べて温熱緩和効果が大であり、より芝生面に近いことを見出した。歩道や駐車場などに適用でき温暖化緩和に役立つものとの確信を得た。
著者
櫻井 義秀 土屋 博 櫻井 治男 稲場 圭信 黒崎 浩行 濱田 陽 石川 明人
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

社会貢献活動を行う宗教団体・宗教文化の特徴を比較宗教・比較社会論的視点から明らかにする調査活動を実施し、共生・思いやり・社会的互恵性・公共性の諸理念を形成することに宗教の果たす役割があることを明らかにした。その成果の一部は稲場圭信・櫻井義秀編『社会貢献する宗教』世界思想社、2009年で明らかにされ、分担・協力研究者たちの研究により、宗教と社会貢献の関連を研究する研究分野を宗教社会学に確立した。
著者
笹谷 努 高井 伸雄 鏡味 洋史 笠原 稔 安藤 文彦 早川 福利
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

都市部での地震観測において,そこでの人工ノイズを避けるためにボアホール地震観測が必要なことは広く認識されている.しかし,大きな問題は,その設置にはボーリング掘削等に多額の費用を要することである.本研究は,その問題を回避するために,既存の深層井戸(500m以深)を利用したボアホール地震観測システムの開発とその実用化を目指したものである.平成12年度の研究においては,ボアホール地震計を鉛直に設置するために,以下の開発を行なった:(1)二重ケーシングと井戸孔底の特別仕上げ方法,(2)ケーシングを伝わる地表からのノイズの除去方法(免震機能),(3)それに対応した地震計の開発.二重ケーシング構造は,井戸本来の目的を損なうことなく地震観測を行なうために考案された.また,地震計は,既存の井戸の孔底にさらにボーリングした孔に設置される.平成13年度においては,本システムの性能チェックとそれによるデータを基に以下の研究をすすめた.(1)本研究で開発されたシステムが正常に作動していることをチェックするために,本システムによる記録と札幌市が市内に展関している3点のボアホール地震観測による記録とを比較した.微動記録と震度2の記録について比較し,本システムが正常であることを確認した.(2)札幌市と本研究による全部で6点のボアホール地震観測点と郊外2点の地表地震観測点のデータを用いて,札幌都市域直下の最近4年間の微小地震活動について調べた.その結果,北西-南東方向に線状に配列した震央分布を得た.(3)地表とボアホール地震記録との比較から,堆積層による増幅特性について研究した.その際に,PS検層の行なわれていなかった地層についてS波速度を推定した.本研究により,既存の深層井戸を利用したボアホール地震観測システムの開発・実用化に成功したと言える.
著者
利安 義雄 大辻 永 山本 勝博
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では4本の柱を立て、「総合的な学習」への活用のカリキュラムを開発した。1.伝統的染色技術の教材化「水戸黒染め」の再現と簡便法を確立し、文部科学省のSPP事業の教員研修において実践を行った。一方,茨城の大洗海岸において採集した海藻(アオサ、カジメなど)を用いて海産物による染色法を開発し、地域のこども科学館で実践した。海藻からの色素の抽出について適正なpHを調べて、授業時間内に効果的に抽出できる条件を見つけた。2.茨城県の地震関連教材前年度開発した簡易水平動地震計で新潟中越地震および茨城県周辺の多くの地震を計測できた。今回は、地震が発生すると計測を始める簡易上下動地震計を開発した。作動するセンサーはカラクリ技術で作り、記録ドラム部分はオルゴールを使用し、、振動本体部分は木製にした。さらに、最近の茨城地方に発生した地震の各観測地点でのデータから振動開始時間と震度の分布マップを作った。3.茨城県の塩に関わる教材化。茨城県海岸地方の釜や塩に関連した地名と古代製塩との関係と、昔塩の内陸への輸送路になった「塩の道」の調査を行った。また塩の字名の多い大子町の湧水、鉱泉、温泉水の水質分析(イオン分析)を行った。ジュラ紀の八溝中生層は非常にきれいな水が多く、主要な溶存イオンは、重炭酸カルシウムである。一方、第3紀層に属する北田気・浅川層は、鉱泉・温泉群が多く分布して、溶存イオンは硫酸ナトリウム・塩化ナトリウムが多かった。また、水戸の名産梅干を作るときの梅酢より、正八面体の食塩を析出させる条件を見出した。4.山寺の水道の教材化永田茂衛門・勘衛門親子の江堰に関する文献調査をすすめた。一部の成果を、SPP事業中学校理科教員研修において実践を行い、自然と人間とがかかわった「総合学習的な学習」への地域教材の一例として提示した。
著者
杉山 純多 斉藤 成也
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

1980年代に登場した分子系統進化学の新しい波は、これまで形態学中心の保守的な立場を堅持してきた菌類分類学にも波及し、1990年代初頭より菌類の分類・系統進化の研究は、新しい局面に入った。すなわち、菌類分子系統分類学と呼ぶ新しい研究分野が登場した。そのような背景を踏まえて、本研究は当初次の諸点を明らかにすることにあった。1.分子進化学的手法を用いて、高等菌類系統論の鍵を握るタフリナ目(Taphrinales)菌類の系統進化的関係を明らかにする。2.担子菌酵母・アナモルフ酵母の超微形態学的、細胞学的研究を行い、それらの形質の系統進化学的指標としての評価を行う。3.分子と形態の両形質の多面的解析から、高等菌類における系統進化の現代的構図を提示し、分類体系再構築の手がかりを探る。4.分子系統樹作成法の開発。その結果、次のような特筆すべき研究成果が得られた。1.18S rDNA 塩基配列の比較解析から、タフリナ目菌類などの系統進化的関係を明らかにして、子嚢菌類中の新主要系統群として“Archiascomycetes(古生子嚢菌類")を提案した。2.分子と形態の両形質の解析から、85年にもわたり子嚢菌類と堅く信じられてきたMixia osmundae(=Taphrina osmundae)は、担子菌類のサビキン菌類系統群に位置づけられることを明らかにした。3.担子菌類における担子菌類系酵母の系統関係を明らかにした。4.高等菌類は単系統であるが、下等菌類のツボカビ類と接合菌類は多系統であることを提示し、さらに複数の系統で鞭毛の消失が起こったことを示唆した。5.植物寄生菌類Protomyces属菌種の18S rRNA遺伝子中にグループIイントロンを発見し、当該遺伝子の異種生物間における水平移動を強く示唆した。6.分子系統樹作成法について、最尤法を用いた分子系統樹作成への並列配列論理プログラムの応用を検討し、論理プログラム言語の一つであるKL1を適用して開発した。
著者
徳増 征二 山岡 裕一 佐藤 大樹 出川 洋介
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究期間中、メンバー全員がタイ北部においてそれぞれの担当分野の菌類あるいはその分離源を採集、持ち帰って観察、分離、同定を行った。また、マレーシアの熱帯湿潤地域からも同様な方法で菌を収集した。熱帯との比較を行う目的で、同じ季節風の影響を受けるが気温的に暖温帯に属する南西諸島において同様な調査を行った。現在分離・同定を継続申であるが、アジア季節風の影響下にある熱帯と暖温帯を微小菌類の種多様性という観点から比較した場合、以下のような傾向が確認できた。マツ落葉に生息する腐生性微小菌類の種多様性は明らかに熱帯が暖温帯より高かった。また、両者に共通する種の割合は低かった。マツの穿孔虫に随伴する菌類では、温帯から熱帯季節風地域にまで連続して分布する種の存在が確認され、それら菌類はそれぞれの地域に適応している宿主を利用していることが明らかになった。昆虫寄生性の菌類はタイ北部において多くの冬虫夏草を採集した。その多くの種が本邦では梅雨の末期に子実体形成するものであった。熱帯季節風帯の長い雨季はこうした菌類に感染、子実体形成に好ましい環境であると推測できた。また、トリコミケーテスの一新種を発見した。接合菌類の調査ではタイ北部で40種、マレーシアで24種採集した。出現菌の中で13種は分類学的に新種あるいは詳細な再観察を要するものであった。加えて、菌類地理学的観点から新しい知見を加えることができた種が多数記録された。全体に結果を総括すると、この地域の菌類群集の種多様性が熱帯湿潤地域、暖温帯に比べて高いことが示唆された。この地域の多様性の高さは最終氷期以降の気候変動による植生の南北移動、温帯性植物が逃避できる高地や高山の分布という地史的、地形的要因に、乾季雨季によってもたらされる季節性という気候的要因、さらに耕作、焼畑などの撹乱という人間による要因が重なって成立していると考えられる。