著者
シンジルト
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

新疆モンゴル牧畜地域には、特定の家畜を売らず屠らずその命を自由にするセテルという慣習がある。セテル家畜の扱い方に関する人々の解釈はその世代や地域によって異なるが、全体としてはセテルを行うのがよいとされる。動植物を含む万物の中に幸運を意味するケシゲという存在があり、セテルを行えばケシゲが集まるという認識こそ、彼らの自然認識の基礎を成す。この認識の特徴は幸福を追求することにある。そこで、幸福は人間だけでは達成しえないことが分かる。
著者
北原 淳
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

タイのミャンマーとの国境県の広域調査をふまえて、ミャンマー労働者が集中するターク県を対象に選び、各業種におけるミャンマー労働者の移動、労働、生活状態についての調査を行った。先行調査研究は繊維関係の工場労働者に集中しているので、これ以外の業種として、農業、建設、商業等を選んで、それらの分野の労働者についても調査研究を行った。手法として調査票とフリー・インタビューを併用した。産業構造の点では、ターク県はタイでは有数の繊維産業の集積地であるが、これは、ミャンマーから流入する低賃金労働者を求めて、外国、タイの工場がバンコク周辺からこの国境県に移転したためである。基本的には、賃金支払い制度は出来高払いである。労働条件が相対的に良いのは工業省への登録工場であるが、現地には工業省への未登録の工場・作業所も多く、そこでは労働者の労働条件はより厳しい事例が多いもようである。国境県の農業は、平地水田、山地畑地ともに、ミャンマー人、カレン人が農作業を行い、彼らは農地の中の掘立住宅に住み、タイ人農民は自らは全く農作業はせず、彼らの労働の統制・監視役に徹する。建設労働、商店、等の労働もほぼ同様の状況にあり、タイ人労働者は統制・監督役である。ミャンマー人労働者の法的立場は、入局管理法の上では不法であり、パスポートも持たないが、労働法の上では、タイ政府の特別措置によって半合法的であり、特定年月によって異なる各種の労働許可証を所持する。
著者
中辻 享
出版者
甲南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ラオス山地部では人や家畜の移動が活発化しており,その中でブタや家禽に壊滅的な被害を与えるような伝染病が多発するようになっている.また,集落内では舎飼いの必要性が高まっているが,従来どおり放し飼いでこれらの家畜を育てたいと考える村人は多い.この中で,伝染病を避けつつ,放し飼いも行なえるような飼育拠点(現地でサナムと呼ばれる)を村落領域内の奥地に設ける例が多数見られることが明らかになった.
著者
木村 三郎
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

図像学上の写真資料の収集管理の方法については、西洋における伝統を誇る方法を研究し、その調査結果は、放送大学「美術史と美術理論」のテレビにおける放映、ならびに、市販されたビィデオという形で発表している。西洋における20世紀初頭以来の歴史的な展開を紹介し、一方で図像学研究への具体的な応用である、比較論、並びに、主題解読論を論じた。さらに、この研究の延長上で、美術史研究の世界で、特にアメリカを中心にインターネット上に様々な図像上のデータ・ベースの構築が試みられており、それが、わが国においても、自宅、研究室における研究のツールとして十分に使用可能な局面に突入している現状を確認できた。元来が、各美術館が所蔵している作品の写真資料が、現在は国際的な意味を持ったネットで公開されて来ている。この事実は、やはり「美術史と美術理論(印刷教材)」(改訂版、特に2刷)の紙上で取り上げ(Joconde,MNR,San Franciso Museum,他)、一部共同研究の形で具体的な方法の提示をした。また、こうした資料を活用した個別の学術成果としては、宗教図像研究では、聖フランシスコ・ザビエル図像学を研究した。収集した写真資料の比較研究を行ない、特に、ル・クレール作の《インドにおける布教》についての、典拠、並びにその図像学を解明した。また一方では、ザビエルの肖像画の図像展開を調査し、肖像図像のカタログを作成し、また身ぶりの図像解釈上の問題を解明した。この研究に関連した成果としては、聖アウグスティヌスの図像を、〈燃える心臓〉を中心に分析した。他方で、平行して調査を行った西洋の古代史の図像研究としては、プッサン作《ファレリーの教師》についての図像と構図の成立過程を説明しえた。
著者
菅谷 泰行 川浦 孝之
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究課題は日本、ドイツ、オーストリア、スイスの主に介護付有料老人ホームに暮らす65歳以上の高齢者を対象にして、人生に関するライフストーリーインタビュー調査を実施し、そのインタビューを記録した音声データを文字に起こし、ライフストーリーコーパスを作成した。また、このコーパス化の作業と併行して、ナラティブに関する文献研究、コーパス化したインタビューデータを用いた「語り」におけるフィラーの使用に関する分析、高齢者の心的特徴の比較、デマテル法のストーリー研究への適用の可能性について検討した。
著者
内藤 順平
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

この研究課題において、視覚機能に深く関わる網膜神経節細胞の構造とその投射先との間にどの様なチャネルを形成するか、さらにそのチャネルにはどの様な生物学的意味があるのかをオペラント行動を利用して解明することを目的とした。視蓋の特定層に投射する網膜神経節細胞の樹状突起の詳細な形態解析は極めて困難な問題であるが、DiIの逆行性軸索標識とアセチルコリン受容体抗体による蛍光二重標識の結果、免疫標識網膜節細胞はグループIIc、IIIs、IVcに属し、視蓋F層とチャネルを形成した。この内、グループIVcのほとんどが視蓋F層とチャネルを形成することから、F層が動体視の情報処理の責任層となっている可能性が示された。また、グループIcは視蓋のD層と強くチャネルをもち、形態視に関与すると思われる。一方、視床は視蓋とは異なる機能のチャネルを形成した。ペダル押しによるオペラント条件付けはヒヨコでも可能であるが、オペラント行動による形態および色の識別能力をより明確にするために、実験を開始するためのスタートペダルを加え、かつ、手がかりペダルは最初は見えない状態にした。その結果、予め刷り込ませておいた正の手がかりとなる色よりも、実験の際の手がかりペダルの位置によりこだわる傾向を示した。これは我々のオペラント行動によらない色エサ選択実験の結果と符合せず、予期しない結果となった。その説明として、鳥類は後天的な色の刷り込みよりも、生得的に空間内の位置情報により強く惹かれるのではないかと思われる。従って、色についての、恐らくそれ以外でも、オペラント行動による視覚機能の解析には、ヒヨコが位置情報を全く利用できない実験方法を考える必要がある。形態の識別能力は十分明らかにはならなかった。今後も継続して調べる。
著者
川上 昌直
出版者
福島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

全3年度にわたって、新規事業プロジェクトにおける、ビジネスリスクとそのマネジメントに関する研究を行うに当たって、本年度はこれまでの研究の取り組みをまとめる作業と補足データの収集行った。本研究では、コンテンツビジネス、とりわけ映画ビジネスに焦点を絞って研究を行ってきた。本年度においては、韓国の映画関係者に対してインタビュー調査を行った結果をもとに、韓国映画産業におけるビジネスモデルと資本調達スキームを、これまでのハリウッド方式とわが国の方式との比較のもとに、一本の論文としてまとめあげた。韓国映画産業では、政府や政府系機関がそのビジネスモデルと投資スキームに関与して、映画の製作をバックアップしていることがわかった。これを、Afuah(2004)やドミナントロジックの枠組みを用いて明らかにした。本論文に関しては、平成19年度に文眞堂から出版される『ケースブック ビジネスモデル・シンキング』に掲載される。以上のように論文をまとめる過程において、本年度においては、国際ビジネス研究学会第13回全国大会において「ビジネスモデルから見た韓国映画産業」という表題で発表を行い、関係者からコメントをいただくとともに、論文の理論的枠組みをさらに強化することができた。また、本年度においては、ビジネスモデルとしての波及効果として、わが国におけるフィルムコミッションの活動を視察、資料収集を行い、それがビジネスとして成立するかどうか、その可能性の検討を行った。このテーマに関しては、本研究から派生的に発展したテーマである。その成果に関しては、理論的フレームワークのきらなる拡張を試みて、体系に組み入れる予定である。
著者
世良 耕一郎 村尾 智 中村 剛 川辺 能成
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

バングラデッシュ・モンゴルにおいて種々の食品・水・住民の毛髪等を採取・分析し有害元素濃度を測定した。また汚染の拡散状況を把握、曝露経路を同定した。毛髪分析により住民の曝露状況を把握、さらに住民の食生活を考慮した総合摂取量を推定した。その結果、有害元素総摂取量の管理が可能となった。また農作物中の有害元素動態を観察する目的で、「専用大気PIXEニ検出器同時分析システム」を構築、全元素の同時定量分析法が確立された。それに伴い、軽元素検出用Si(Li)に装着する「先端キャップ」を開発し、軽元素に対する感度を二桁向上させた。さらに同法を用いた「生きた植物に対する定量分析法」を開発、有害元素の植物内動態観察が初めて可能となった。
著者
飯沼 秀子
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

法令に基づき、月に一度、空気中の放射性物質の濃度測定を行っているが、放射性物質の使用がなかった実験室で、バックグランドより高い数値が検出されることがあった。検出された数値は、自然放射性物質であると考えられる。そこで、作業環境測定に及ぼす影響を知るため、自然放射性物質の測定を行った。(1)自然放射性物質の定期測定1年間、週1回定期測定を行った。試料採取はダストサンプラを使用し、ろ紙に吸着させた。採取場所は、非管理区域の屋内で行い、採取時間は8時間、採取量は約10,000L採取した。試料測定は、液体シンチレーションカウンタを使用し、採取直後から1時間測定を60回行った。また、バックグランドとして未使用のろ紙の測定値を使用した。作業環境測定への影響を知るために、同じ条件である屋内で採取したためか、採取日による測定値の変動は見られたが、季節・湿度・温度との相関は見られなかった。また、天気との関連については、採取日に雨の日が少なかったため、雨の日との関連は分からなかった。晴れの日と曇の日では、曇の日が高い傾向があったが統計的に言えるほどではなかった。また、当センターの定期作業環境測定では自然放射性物質の影響を除去するため、採取の48時間経過後に測定を行っている。経時変化を見るとほとんどの採取試料が48時間後には、バックグランドまで下がるが、採取直後の測定値が高いときなどに、48時間経過してもバックグランドまで下がらないことがあった。(2)採取した自然放射性物質の核種同定試料採取は(1)と同様に行い、名古屋大学アイソトープ総合センターにて、ゲルマニウムγ線スペクトルメータで核種を同定した結果、天候によるエネルギーのピークの位置の差はなく、4回ともトリウム壊変系列やウラン壊変系列由来の自然放射性物質であった。これらのことから、当センターでの作業環境測定に影響をあたえる自然放射性物質の基礎的な情報を得ることができたと考える。
著者
森田 直子 高村 昇 工藤 崇
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本課題研究期間において、小型加速度・温度・心電図感知機能に線量モニタリングを搭載したの個人用モニタリングセンサーの開発を行い、システム構築を完成させた。このモニタリングセンサーを用いて、2011年3月11日発生した東北地方太平洋沖地震に端を発して発生した福島第一原子力発電所事故における本学からの救援活動の際、現地で活動した本学から派遣の医療関係者の生体情報管理に応用した。また、本学内に設置の精密型ホールボディ-カウンターを用いて、福島に滞在した長崎からの派遣者の内部被ばくを測定した。特に、事故後初期に測定した被験者からは、短半減期のヨウ素-131をはじめ、ヨウ素-132やテルル-132も検出され、初期の段階での内部被ばくの状況を判断するための非常に重要な結果が得られた。
著者
奥山 治美 市川 祐子 藤井 陽一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

炎症性疾患はアレルギー症、多種の癌の他、多くの難治性疾患を含み、わが国では過去半世紀の間に発症率が著増している。これらの発症、病態の進展に持続性炎症が重要な因子となっている。本研究では、摂取油脂のリノール酸(n-6)系/α-リノレン酸(n-3)系の比を下げることによって脂質性炎症メディエーターの産生を抑え、これら炎症性疾患が予防できる可能性を基礎的、臨床的に評価した。【アレルギー過敏症の体質改善】動物実験ではn-6/n-3比の低い紫蘇油が、この比の高い紅花油に比べ脂質性炎症メディエーター産生を低下させることを明らかにした。臨床的にはアトピー性患者(76名)を対象に、n-6/n-3比を低くする食物を推奨した。2年追跡時で皮膚炎症状が著しく改善し、血清脂質のn-6/n-3比の低下に伴う好酸球の減少が認められた。約半数が3年まで受診したが喘息併発者が多く、n-6/n-3比と好酸球数が元に戻る傾向が認められたが、皮膚炎症状は改善したままであった(共同研究)。【腫瘍再発予防】動物実験ではn-6/n-3比の低い紫蘇油がこの比の高い紅花油に比べ、大腸癌、乳癌、腎臓癌などの化学発癌を抑えること、腹水肝癌の肺転移を抑えることを明らかにしていた。UVB照射で誘発した皮膚癌に対し、紫蘇油は良く抑えたが魚油は紅花油と同様、抑制効果を示さなかった。魚油と紫蘇油の差は、炎症性メディエーター産生能の差では説明できずまた皮脂量でも説明できなかった。臨床的に大腸腫瘍再発予防介入試験を継続中である。ポリープ切除者の中で癌になっていない人を対象に、総脂質摂取を減らす対照群と総脂質の摂取低下とともにn-6/n-3の低下を勧める介入群につき、ポリープの再発率を評価した。各群約20名の中間段階(2年時)では、対照群の再発率が40%、介入群が8%であったが、この段階では結論的ではなかった。より多くの人数について観察する必要があるが、介入による有害作用は認められなかった(共同研究継続中)。
著者
工藤 綾子 稲冨 惠子
出版者
順天堂大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1. テーマ「災害時における集団避難生活者の感染予防意識と行動」を第14回日本在宅ケア学会学術集会(聖路加看護大学)にて発表した。回答者は117名。男性44.4%、女性55.6%である。本調査では(1) 集団避難生活者の感染症意識は災害発生時期や集団非難の規模の影響をうけている。(2) 避難期間の長さによって体調の変化、集団避難生活の仕方(清掃範囲・清掃場所)などの清掃意識に影響を与える。(3) 避難生活中の感染症予防行動がとれていない人は30%みられる。感染予防行動は水確保の影響を受けており、医療関係者派遣と同時に、早い時期の水確保が感染症予防と拡大防止につながることが明らかにされた。2. 全国の県庁・市役所の災害防災課担当者への調査結果:611箇所から回答を得た。災害時に充分対応できるかと感染症の知識の両項目には関係がみられ、知識が不十分な場合には充分な対応ができないと捉えていた。また、災害時に感染症の知識が不十分と答えた人と対策が必要な細菌・ウイルスはなにかわからないと答えた人には有意な関係がみられた。最も注意する感染症は「呼吸器系の感染症」が最も多く264名(43.5%)であった。「消化器系の感染症」138名(22.7%)では、災害時に対応できる人数が21~30人と答えた人の項目に有意な関係がみられた。仕事内容と災害時の対応では、「地域住民の安全対策」担当と災害時の対応が充分な対応ができるともできないとも言えないと答えた人とは有意な関係がみられた。防災担当する人には、感染症に対する知識が求められることがわかった。3. 今後の課題:行政調査の結果を学会に発表し、1.2の結果をもとにマニュアルを作成する。
著者
山中 茂樹 荏原 明則 宮原 浩二郎 荏原 明則 宮原 浩二郎
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

1995年の阪神・淡路大震災から、2008年の岩手・宮城内陸地震まで、この間に起きた主な地震災害を対象に被災地・被災者を対象にした復興意識調査や現地調査、自治体職員及び復興施策に関与した専門家からのヒアリング調査を実施し、復旧・復興過程で生じる地域の毀損、とりわけ「働き盛り」の流出を中心にその原因を探った。この結果、応急仮設住宅(以下仮設住宅)・災害復興公営住宅(以下復興住宅)を被災地から遠く離す疎開施策が被災地の衰退に拍車をかけている実態が明らかになった。従って、復旧・復興過程においては従前居住者をなるべく被災地から離さない施策、例えば自宅敷地内仮設住宅や被災地内における共同協調住宅の建設、住宅再建支援だけでなくやむなく長期に渡る疎開を余儀なくされた場合の生活・生業支援、仮設市街地から恒久市街地建設にいたる連続復興支援のシステム構築の必要性などを考えていく必要があることを提唱した。
著者
政岡 伸洋
出版者
東北学院大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究は、ここ数年各地で見られるようになった「民俗文化」を活用したまちづくりと、それに伴う住民アイデンティティの再構築という現象について、「現代社会における民俗の実践」という視点から、地域を取り巻く政治的・経済的・社会的状況の変化に注目しつつ、民俗がいかに位置づけなおされ、新たな意味を獲得しているのかを、中山間地域および被差別部落の事例を中心に調査検討することで、新たな民俗理解の可能性を考えようとするものである。本年度は最終年度ということで、引き続き大阪府和泉市旧南王子村および徳島県旧東祖谷山村・旧西祖谷山村(現三好市)の資料整理とともに、昨年から調査を開始した青森県三戸郡新郷村のキリスト祭り、これまで台風等による自然災害の影響のため実施できなかった宮崎県東臼杵郡椎葉村の平家祭り、また比較のため近年農漁家レストランで成功している南三陸町他においても調査を行なった。この3年間、上記のような視点からの資料を調査収集し、分析してきたわけであるが、特に注目されるのが、ここで活用されている「民俗」が、新たな生活基盤や住民アイデンティティの再構築といった大きな社会変化に伴う動きの中で、過去ではなく、地域社会の今日的なイメージや状況に合わせるかたちで再構成されたものであった点である。つまり、変化と現在を視野に入れたうえで民俗を理解する必要がある。また、その活用の方法についても、各調査地によってきわめて多様な面もあり、今回取り上げた現象を、現代という一時代だけに押し込めるのではなく、地域社会の変化全体の中に位置づけたうえで、その意義というものを政治的・経済的・社会的状況の変化に注目しつつ再検討する必要もあろう。このほか、地域社会をめぐる変化は、町村合併等の影響をはじめとして、今日においても進行しつつあり、今後も継続的に調査していく必要があることも指摘しておきたい。
著者
大槻 憲四郎 藤巻 宏和 中村 教博 松澤 暢 三浦 哲 山内 常生 松沢 暢 三浦 哲
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

近い将来に危惧される宮城県沖大地震を予知するため、民間・地方自治体から深度1000m前後のボアホールと温泉を計10カ所前後借用し、遠隔自動受信による「深層地下水観測システム」を構築した。精密な水温・水位・ラドン濃度・炭酸ガス濃度を観測し続け、岩手・宮城内陸地震を含む7個の地震のpre-およびco-seismicな変動を捉えた。
著者
竹野 太三
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成16、17年度分の若手研究費(B)として給付を受けた本研究は貧困改善につながる段階的関税削減に関するものである。17年度は、16年度に行われた資料収集及び先行研究の把握を基に、未解決問題を特定し、これに考察を加えるべく、数理モデル構築に着手した。近年の国際貿易協定会議、WTOシアトルラウンドおよび、カンクーン(Cancun)ラウンドでは、開発途上国と先進諸国との対立が鮮明にされた。この対立の原因のひとつに挙げられるものは、先進諸国の、開発途上国における環境問題を軽視した開発政策への不満と、開発途上国の、先進諸国による閉鎖的貿易政策への不満である。本研究は、開発途上国と先進諸国間のこのような利益の不一致が解決され得る条件を数理モデルにより分析する。・数理モデルは、Edringtin(2001,2002)及びLimao(2004)によって提示された数理モデルを基に、Freund(2001,2003)を拡張したものである。Edrington(2001,2002)は二国間で貿易協定が締結されるにあたって、国内環境政策と貿易政策(関税削減)とがリンクされるべきか否かについて考察を加え、Limao(2004)は、Edrington(2001,2002)に、国内の環境団体が及ぼしうる影響を新たに考察した。Freund(2000,2003)は不完全競争市場が存在する国際社会でPTAおよびFTAが締結されうる条件を分析している。本研究では、南北問題を含む、不完全競争と環境問題が存在する国際社会で社会厚生水準が相互に上昇し、加盟国に締結を一方的に破棄するような誘引条件が発生しないような貿易協定が締結されるには、環境と貿易に関する協定はリンクして締結されるべきか否かについて、考察を加えた。17年度に行った海外出張では、得られた結果について世界銀行のエコノミストらと議論をし、Limao(2004)のような、環境団体或いは企業の献金など、貿易協定締結に影響を及ぼしうる団体が存在する場合の考察を加える事が今後の課題として有意義であると確認された。当研究はこの点の吟味を加えた後、学術雑誌に投稿する。
著者
杉岡 良彦 中木 良彦 伊藤 俊弘 西條 泰明 吉田 貴彦
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、宗教が重視する「感謝」の気持ちに注目し、感謝が免疫細胞(ナチュラルキラー(NK)細胞)活性に影響を及ぼすのかどうか、また心理テストでどのような変化が認められるのかを研究した。感謝の気持ちを高める方法は、内観療法を応用した方法を用いた。その結果、NK細胞活性には変化が認められなかったが、「主観的幸福感」を評価する質問票では、「心の健康度」が改善した。さらに「心の健康度」の中では「人生に対する前向きな気持ち」が優位に改善した。「生活の質」を測定する質問票でも有意な改善を認めた。
著者
佐藤 大介
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、近世から近代移行期の奥羽両国における地域間交流を、地元に残された古文書史料の調査分析を通じて解明した。その結果、これまで存在が確認されていなかった新たな峠道の整備事例を確認し、その動きが地域のリーダー層を中心に国境や領主支配領域を超えた地域間連携によって実現していたことを明らかにした。さらに、このような民間の交通網整備が明治初年の東北地方の運輸政策の直接の前提となったことを解明した。
著者
花方 信孝
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

花粉症をはじめとするアレルギー疾患の治療薬として期待されるCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)のデリバリーシステムを構築した。平均直径3.4 nmのシリコンナノ粒子(Si NPs)を合成し、表面をアリルアミンで修飾した後にCpG ODNを静電的に結合させた場合と、Si NPsの表面をマレイミドで修飾し、CpG ODNの一端のみを結合させた場合では、異なる免疫活性化サイトカインが誘導された。これら結合方法の異なるCpG ODNをSi NPsでデリバリーすることによって、より高い免疫活性を誘導できることを見出した。
著者
関 源太郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

18世紀中葉までにスコットランドでは、タバコ貿易やリネン製造業が次第に成長していった。それは世紀末に急速に展開する産業・経済発展、都市化へと連なる伏水流を形成していた。この歴史展開は、リネン製造業振興による経済開発を提言したパトリック・リンズィの貧民対策思想の内容にも表れている。彼は一方で、輸出産業としてのリネン製造業を育成し、この産業が繁栄する時にはじめてスコットランドの経済開発は可能になると洞察する。他方で、貧民問題、すなわち物乞いや犯罪者の増加の原因は雇用不足、失業にあると見る。つまり、彼らに雇用の機会を与えれば、彼らは「国富と国力」の源になるのである。要するにリンズィによれば、彼らはリネン製造業の発展の一助になることを通じて、『国富と国力」の増強に貢献することになる。したがって彼は、彼らを刑法によって処罰するだけではなく、彼らをワークハウスに収容しリネンの生産技術および商品経済社会にふさわしい生活習慣と倫理を身につけさせることによって、本格的な近代化、工業化、都市化に向けた胎動に資する主体に鍛え上げるよう主張する。この時期、グラースゴウとエジンバラにワークハウスが開設された。それに先だって公刊された両都市のワークハウス設立案も、主体形成という点ではリンズィの主張と見解を同じくする。もっとも、両案とも貧民問題をリンズィほどスコットランド全体の経済開発と結びつけて洞察していないが。にもかかわらず、グラースゴウの案は貧民問題をグラースゴウの地域経済開発と関連させ、エジンバラの案は非自発的失業の存在を認識している点は注目に値する。さら注目されるのは、その後エジンバラでワークハウスの運営費調達のために課税すべきかどうかをめぐる論争が起きたが、賛成派、反対派の議論によって、本格的な工業化、都市化の時代に問われた貧民救済の論点が先取りされていることである。