著者
大西 剛
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究計画では1)単結晶基板表面上の分子層ステップの形状と密度を制御した上で、2)ヘテロエピタキシーと電界効果トランジスターへの応用、そして3)界面修飾による低次元導電層の形成を行う予定であった。テンプレートとなるSrTiO_3単結晶基板表面の分子層ステップの密度を制御する上で必要なSrTiO_3ホモエピタキシーをPLDにて行うに当たり、レーザーによる原料蒸発時にSr/Ti比がずれることが明らかとなると共に、それが分子層ステップの形状(ファセットの有無)を支配することがわかった。理想的なホモエピタキシーにはアブレーション条件を正確に制御し、Sr/Ti比が1となるようにすることが必要である。次に、そうして得たホモエピタキシャル薄膜が堆積された基板がなぜか導電性になってしまうことがわかった。これは真空中のPLDによるSrTiO_3薄膜の堆積によって、堆積した薄膜はもとより基板が酸素欠損していることに寄ることを突き止めた。詳細な実験の結果、導電性は酸素欠損した薄膜よりも酸素欠損した基板が担っており、薄膜が基板から酸素を引き抜いていることによることがわかった。この現象は酸化物薄膜であれば堆積する材料にはあまり寄らず、真空中でPLDによって薄膜を形成する際に避けられない現象であることがわかった。このSrTiO_3基板からの酸素の引き抜きをアブレーション条件、酸素分圧、基板温度を制御することで液体He温度で40,000cm^2V^<-1>s^<-1>を超える高移動度2次元導電層が作製できることがわかった。またこれらの導電性を表面形状を崩さすに消し去るには大気中での低温アニールが有効であることを突き止めた。
著者
松原 平
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-36, 1995-06-15

施設に居住している32名の知的障害を持つ人々の要求言語行動の表出に関して、彼らの要求言語行動に影響を及ぼす環境要因との関係について検討を行った。当研究では、要求言語行動を促進する環境要因の一つとして、「集会」という要求の窓口を設定し、その効果について日常場面と集会場面を比較しながら、以下の検討を行った : (1)居住者らの要求言語行動の頻度は増加するのか?、(2)居住者らの要求言語行動の内容が変化するのか?、(3)居住者らの要求を実現させようとする職員の行動の生起率は変化するのか? その結果、集会場面では日常場面に比べて要求言語行動の生起頻度が明らかに高く、要求の内容についても質的に多様で、これまで要求したことのないような新しい要求内容が含まれていた。また、居住者らの要求言語行動の増加とともに、職員による要求の実現行動も増加したことが確認された。自己権利擁護の文脈からみた要求言語行動の実現においては、ここで紹介した「集会」のような明瞭な要求の場を呈示する事が有効であると考えられた。
著者
山中 龍彦 乗松 孝好
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究はレーザー核融合炉用燃料ペレットインジェクション装置を開発する上で必要な基礎技術、即ち、ペレットの正確な加速と加速されたペレットの速度、方向を正確にに評価するトレース技術の開発を目的としたものである。将来のレーザー核融合炉では直径6mm、壁厚200μm程度のプラスチック中空球に燃料である重水素、三重水素混合ガスを均一な厚さになるように容器の内面に固化したターゲットを数Hzの周期で投入し、レーザー照射し、核融合反応に導く。投入したレーザーのエネルギーと核融合で生成されたエネルギーの比、ターゲットゲインはレーザーの照射精度に大きく依存し、レーザー集光位置と照射時のターゲット位置とのずれはターゲット直径の1/100、即ち、50μm程度でなければならないと言われている。レーザー核融合炉の半径は5mm、インジェクション速度は300m/s程度と言われているので、これは方向精度において10μrad、速度において0.1μsの精度で測定・制御が必要であることを示している。試作したコイルガン方式のインクジェクション装置を用いた加速実験ではペレットインジェクション速度に対する初期位置の影響を中心に調べ、最適位置から100μmずれても出射速度は10^<-6>程度しか影響しないことが分かった。これはレーザー照射タイミングの調整範囲であるので、初期位置の精度は技術的には問題ないと言える。現時点では摩擦の影響の方がはるかに大きい。Z型に配置された3本の平らなレーザービームと、3個の検出器からなる位置、速度検出システムを考案し、ペレットの通過時間に関しては約10ns、通過位置に関しては0.01mmの精度で測定ができる可能性があることが分かった。このユニットをXY軸に対して各1セット、進行方向のZ軸に対して3セット用いれば、将来のインジェクションシステムに必要な十分な精度と応答速度をもっているといえる。
著者
河田 政明 石野 幸三
出版者
岡山大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

従来の高頻度刺激不全心モデルに比較し、より拡張型心筋症に類似した臨床症状を有する不全心モデルの作成に、独自に開発した高頻度刺激プロトコールによって成功した。正常心犬と我々の不全心モデル犬の摘出交叉環流心標本を用いて、左室形成術(PLV)の心機能と心筋酸素消費に及ぼす効果を対比検討した。心機能に及ぼす効果:1)心収縮性-Emaxは左室形成術により有意に増加し、心収縮性の改善を認めた。2)心拡張性-拡張末期圧-容積関係は左室形成術により有意に急峻となり、心拡張性の障害を認めた。3)心弛緩能-時定数は左室形成術術後急性期には不変で、心弛緩能には影響を認めなかった。4)心ポンプ能-一回心拍出量は心収縮性と心拡張性との相反する効果のために変化は一定しなかった。以上の効果は、正常心より不全心でより著明であった。心筋酸素消費に及ぼす効果:左室形成術により左室圧容積面積-心筋酸素消費量関係において有意な左室仕事量の酸素コストの低下、すなわち心筋酸素消費削減効果を認めた。本実験の成果をまとめ,第99回日本外科学会総会「PLVの心機能に及ぼす効果:不全心と正常心との実験的比較」、第63回日本循環器病学会総会「拡張型心筋症モデルにおけるBatista手術の心拡張能並びに心ポンプ機能に及ぼす影響」、第52回日本胸部外科学会総会「左室部分切除術と心ポンプ能-正常心と不全心での効果の違い-」、第3回日本心不全学会・学術集会「EFFECT OF PARTIAL LEFT VENTRICULECTOMY ON DIASTOLIC FUNCTION IN NORMAL AND FAILING HEARTS」等の発表を行った。
著者
釜江 常好 牧島 一夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

硬X線で偏光が期待される「かに星雲」と「白鳥座X-1」を気球搭載の偏光計PoGOLiteで観測し、当該天体での放射過程と磁場分布の決定を目指した。偏光計は2010年に完成し、スウェーデン北部のESRANGE気球基地で太陽パネル、制御系、通信系等を装備したゴンドラに組み込み放球の機会を待ったが、気球納入会社の不良品リコール、放球後のガス漏れ、天候不順などで観測出来ないまま3年の計画期間が終わってしまった。
著者
池野 旬 島田 周平 荒木 茂 池上 甲一 半澤 和夫 児玉谷 史朗 上田 元 高根 務 武内 進一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

東南部アフリカの農村においては、多様な生業が同時並行的に展開されて、究極的な目的である安定的な食糧確保が目指されてきた。1980年代以降の国家の政治・経済・行政改革に伴うマクロ・レベルの社会経済変動に対して、生計戦略を変容させながら農村世帯は巧みに対応してきた。本研究では、主として農村での実態調査に基づき、多様な生計戦略と食糧確保の方策、ならびにそれらの背景にある規定要因について、実証的に分析した。成果の内容は、数冊の単行書(和文)、英文論文等として公表している。
著者
瀧川 雄一
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

植物病原細菌の主要な発病機構であるIII型分泌機構は多くの細菌で見つかっているが、それによらない植物病原細菌の探索と新たな発病機構の解明を試みた所、Pantoea ananatisが該当することを見いだし、系統により植物ホルモン合成遺伝子が主要な病原因子であることを解明し、それを利用した検出システムも構築した。また、イネ、ネギを侵す系統がタバコに過敏感反応様の反応を引き起こすことも明らかにし、機能解析のための変異株の作出に成功した。Rhizobacter dauciやPseudomonas fuscovaginaeにおいてもIII型非依存であることを示し、特異な発病機構の一端を解明した。
著者
稲垣 保弘
出版者
法政大学
雑誌
経営志林 (ISSN:02870975)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.73-82, 1993-10-30
著者
洞口 治夫 柳沼 寿 松島 茂 金 容度 近能 善範 天野 倫文
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

産業クラスターの知的高度化とグローバル化とについての実証的調査研究は、イノベーションの創出に関するアクターの多様性に関する研究として進化した。産業クラスターにおける企業間の協業と分業に焦点をあてた調査によって、組織間の共同研究と新たな組織の形成という課題が重要性を増していることが明らかになった。産業クラスターにおける現地調査は、名古屋、福岡・北九州、シリコンバレー、富山などで行った。産業集積に着目して調査を行うと、必ず「産業」の枠を超えた組織間関係の重要性を発見し、また、地域という距離的凝集性を超えたグローバル化したネットワークの存在を知ることになった。日本の産業クラスターで追求されている技術と経営の方向性は、「ものづくり」を基盤としながら、さらにイノベーションを求める姿勢であった。イノベーション創出への姿勢は、具体的には、複数の企業による共同特許の取得として定量的に把握できる。トヨタは、その共同特許の取得に最も熱心な企業であった。従来、イノベーションと産業集積との関係については、後者が前者の苗床となるという漠然とした研究しかなく、必ずしも明確なものではない。マーシャルのいう外部経済は、必ずしもイノベーションを誘発しない。シュンペーターのいう「新結合」は、経済社会における生産要素の定常状態を仮定した論理である。結合されるべき要素それ自体が「開発」される可能性を論理的に排除しているのだが、本研究においては、生産「要素」それ自体が、企業の研究所と大学、あるいは、研究開発機関との共同研究によって増加していることを明らかにした。また、シュンペーターは「新結合」を遂行するのは企業家の役割であるとしていたが、企業の研究開発担当者、大学の研究者、企業家、公設試験機関など、多様性をそなえたアクターが、既存の要素技術を組み合わせる作業に従事していることも明らかになった。
著者
中村 勲 長沼 大介
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.14, pp.7-12, 2002-02-15

低音部のおよそ2 オクターブを除いて,一つの音符に3 本の弦が使われているので,弦の間のエネルギーの交換が響板を通して生じ,弦振動は非常に複雑になる.3 本弦の一本は一つの音符に正確に調律されているが,他は少し低めと少し高めに調律されている.3 本弦と響板の結合システムの振動特性を説明するために,一つのモデルを採用する.各弦は各部分振動に対応する共振回路で構成され,同様に響板も一定のインピーダンスを持つものと仮定する.ただ一つの部分振動についての最も単純化したバージョンは,響板抵抗で結合された3 つの共振回路によって表される.このモデルの計算は理論とコンピュータ実験で行われる.この結果は二段減衰の現象が観測され,更に余韻の包絡線は緩やかに振動することを示す.外側の2 本の弦は同相で振動するが,中央の弦とは逆相で振動する.響板に対する駆動力は音圧を表し,外側の弦と殆ど同相である.これらの結果は測定値と一致している.Since three strings are used for one note, except about two octave low notes, an exchange of energy among strings occurs through the soundboard, making the string vibration very complex. One of the three strings is in tune exactly to one note, and others are tuned a little lower and higher. A model is employed to explain the vibration characteristics of a coupling system of three strings and the soundboard. Each string is comprised of resonance circuits that correspond to each partial, and likewise, the soundboard is assumed to have a finite impedance. When the most simplified version of only one partial is considered, the equivalent circuit is expressed by the three resonant circuits coupled with the soundboard resistance. The computation of this model is performed theoretically as well as computer experimentally. The results show that a double decay phenomenon is observed and furthermore that the envelope of the after sound vibrates slowly. The outer two strings vibrate almost inphase, while the middle string vibrates anti-phase. The driving force for the soundboard as well as the sound pressure are almost in the same phase with the outer strings. These results agree with the measured values.
著者
孫田 信一 小野 教夫 武藤 宣博 山田 裕一
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

均衡型染色体構造異常を有し、同時に遺伝性疾患を含む各種疾患、器官形成異常や発生異常などを示すマウスを系統的に作製し、切断点を指標にして各異常に関する遺伝子探索システムの確立を目指した。チャイニーズハムスターによる予備実験に基く方法にしたがって実施した。マウスを用いて4シーベルトのX線照射した雄との交配で26.9%の子獣に染色体構造異常をもつ65系統が得られ、これらのうちホモ接合体(一部ヘテロ接合体)で何らかの症状を示すものが得た(8.6%)。発育障害を含む諸症状、行動異常、不妊、発生及び器官形成異常などを発現する動物・系統を分離した。また構造異常のホモ接合体で能を含む器官形成異常、着床後早期の発生異常、2〜8細胞期における発生異常や発生停止などを示すものもかなり多いことが判明した。また、ゲノム解析を進めるため近交系マウスおよびチャイニーズハムスター(CH)のgenomic DNAを用いて定法によりゲノムライブラリーを作製した。これまでCHについては500以上のコスミドクローンをFISH法で染色体上にマッピングし、マウスでも同様にライブラリーを作製した。染色体2p23と4q19の相互転座を有し、ホモ接合体で侏儒症と学習記憶障害を示すCH系統と特定の発生異常、器官形成異常を示す転座2系統の動物を用いて切断点の遺伝子解析を実施した。前者の切断点近傍に成長ホルモン受容体遺伝子GHRが存在しその発現異常を認めたが、切断点とは一致しない。発生障害を示す他の2系統の遺伝子を含めその領域をかなり狭い範囲に決定したが、まだ遺伝子を特定するには至っていない。本研究システムを用いて各種疾患や発生異常に関わる遺伝子が多数発見され、それぞれの構造・機能が解明されれば、異種遺伝子間の相同性を利用して同一機能のヒト遺伝子が解析できる。
著者
青木 幸昌 佐々木 康人 平岡 真寛 名川 弘一 斎藤 英昭 花岡 一雄 中川 恵一 青木 幸昌 澤田 俊夫 小林 寛伊
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

術中照射専用可動型電子線照射装置が完成した。電子線エネルギーは4,6,9,12MeVのいずれかを選択可能で、出力は最大10Gy/分、照射野は直径3-10cmが可能である。既存の手術場内に設置して、一人による装置の移動が可能である。米国、カルフォルニア大学において、臨床治験を開始した。同施設において、漏洩線量を測定した結果、1週間に12例、2400Gyを照射して、手術室周囲の最大検出線量は、室外のドア表面で72μシ-ベルトであった。従って、室内を放射線管理区域に設定することによって、追加遮蔽を要さないことが確認された。電子線エネルギーが大きくなるに従って、漏洩線量も増加することが示された。実際の運用は以下のようなものとなる。先ず、装置の保管室から手術場へ移送する。装置を規定の場所に設置し、ケーブル類をとりつけた後、QAに関するチェックを行う。この段階で放射線治療スタッフは一旦退出し、外科スタッフが装置にプラスティックキャップとドレープで装置を覆う。外科操作が完了すると、放射線治療スタッフとともに、使用アプリケータを選択する。手術台を照射装置まで移動させる。放射線スタッフがアプリケータを照射装置にドッキングさせ、照射線量と電子線エネルギーを決定する。スタッフは保管室に入り、モニタをテレビで観察しながら、約2分の照射を行う。この後、必要に応じて、手術操作を継続する。本装置を規制する法規として、科学技術庁関係の放射線障害防止法と厚生省関係の医療法について検討を行った結果、放射線障害防止法では装置の移動に関する問題はなく、放射線管理区域設定上の運用が問題となるのみと考えられるのに対して、医療法では、診断用高エネルギー放射線発生装置は決められた使用室で使用するとされており、今後の重大な検討項目となった。
著者
吉岡 邦浩 田中 良一
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

320列面検出器型CTによる「前向き心電図同期撮影法による1心拍撮影」を用いることで、低被ばくの心臓撮影が可能であることを明らかにした。本法を冠動脈ステントが留置された102例を対象として調査したところ、ステント内再狭窄の診断精度は感度100%、特異度87.8%で、実効線量は約4.8mSvであった。また、逐次近似再構成法を用いればさらに約32%の被ばく低減が可能であった。また、本法を応用したサブトラクション冠動脈CTを高度石灰化症例に対して試みた。