著者
山崎 了 馬場 彩
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.196-200, 2009-03-05
被引用文献数
1

宇宙空間を飛び交う高エネルギーの荷電粒子(宇宙線)のうち,エネルギーが10^<15.5>eV以下の核子は我々の天の川銀河内にある若い超新星残骸などに見られる衝撃波で加速されていると考えられている.しかし,その決定的証拠は未だに得られていない.本稿では,銀河宇宙線の起源に迫る理論的研究や最新のX線・TeVガンマ線等の観測的研究の進展を紹介する.
著者
光田 重幸
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.75-83, 1984-05-29

スマトラ島やジャワ島は早くからオランダの植民地となっていた関係から生物相の調査の歴史も古く、BLUMEの「ジャワ植物名彙」などすでに1828年に出版されている。それだけに植物相調査のように時間とともに進展してゆく仕事は大いに進んでいると思われがちであるが、それはそれまでの資料の集積によるモノグラフ等がやっと順調に出はじめた第二次大戦前までの話で、独立運動によってインドネシアを失った後のオランダは、往時の活動は望むべくもないのかもしれない(顕花植物のvan STEENISのような人がいなかったら、それこそ沈滞といってもよい所である)。いっぽう現地のボゴール標本庫に残された標本も研究体制が整わないまま、その大半が放置されているというのが現状である。この地域におけるシダ植物相の調査報告は、今世紀にはいってからかなり乏しい。まとまった報告としては1925年にジャワ植物ハンドブック1が出ていて、ミズワラビ科、ウラジロ科、カニクサ科、リュウビンタイ科、ハナヤスリ科、トクサ科、ヒカゲノカズラ科、マツバラン科などが扱われているが、植物誌としては断片的なものにすぎない。1940年になって、シダ植物全体を扱った植物誌がライデンのリークスハーバリウムで刷られているが、これは標本館向きの私家版で謄写印刷であり、内容も覚書きといった程度のものらしい(筆者はまだ実物を見る機会を得ない)。それ以後では、KRAMERのホングウシダ科やHOLTTUMのヘゴ科等、分類群によっては調査が進んでいるものもあるが、これらの目的もマレーシア全体の調査の一環としてなされたものであって、まだスマトラ・ジャワの植物相全体の固有の性格に言及するというところまでは及んでいない。堀田満博士達の植物相調査は、西スマトラの一部ですでに3年にわたって継続されており、京都大学に集められた標本の数も次第に増えてきている。この報告で扱ったのは1983年夏の採集の分までで、しかも西スマトラの一地域のものにすぎないが、それでも180種をこえる種が明らかになった。中には新種かと思われるものもいくつかあるが、この地域の文献や情報がもう少し揃うまで保留しておいた。スマトラ島やジャワ島は熱帯圏にあるので、その植物相は日本や中国南部のものとは大きく異なっていると想像されがちであるけれども、山地の植物相について言えば、じつはそうではない。van STEENISの書いた「ジャワ山地の植物相」(1972)には316属の顕花植物が収録されているが、そのうち207属ほどは屋久島以北の日本にある属と共通であり、更に26属ほどのものを沖縄諸島に見いだすことができる。単純な計算によれば、山地性の属では、その73.3%、つまり約4分の3が日本と共通しているのである。この本に扱われている植物は、花の美しいものや、調査のゆきとどいた地域から選択されている可能性もあるので、これをもってジャワの山地全体におしひろげることはできないけれども、べつに日本の読者向けに書かれた本ではないので、この数字は調査が進んでも大きくかわることはないと思われる。中国南部の属を加えると、共通の属は80%を越えるのではないかと、筆者は考えている。だが、こういう属の数字上の共通部分が多いからといって、両者が同じ起源による同じ性格の植物相であるということは早計である。熱帯の山地などの植物相では、種間の棲み分け現象がはっきりないことがわかっているが、これらの共通部分も、もとあった異質な植物相をベースにして、大陸側から何度も植物が侵入していった結果として成りたったものかもしれない。こういう問題を調べるには、それぞれの林の構成種が大陸側のもととどの程度置きかわっていて、どの種とどの種が対応しているかといった観点が大切であるが、それは今後の調査にまたなければならない。このレポートでふれたトウゲシバ、クラマゴケ、Osmunda vachellii等は、そういう意味で興味ぶかい種と言えると思うのである。
著者
河合 正朝
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

日本刀の学術的価値を明確にするためには、その表面形態解析が不可欠である。これまで表面形態解析は刀剣研究者に依存しており、刀剣研究者がいう日本刀表面形態の特徴を刀剣愛好家が視覚的に理解することは困難であった。本研究では株式会社リコーと、従来の日本刀鑑識法を踏襲した多色拡散撮像装置を共同開発し、日本刀100口のデジタル画像を作成した。その結果を解析し、日本刀五大流派の地鉄の特徴をまとめた資料集を作成した。併せて、研究成果の一部を平成23年度「名物刀剣」展、平成25年度「清麿」展で公開し、日本刀の地鉄の美とその変遷を一般に認識させるよう努めた。
著者
寺村 裕史
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

古墳のデジタル地形測量を、調査者1人でハンディGPSを用いて計測した場合に、どこまでの精度でデータを記録できるのか、またトータルステーションを用いた計測データとの精度や形の比較検証をおこなうために、岡山市・造山古墳の各陪塚を対象に簡易測量を実施した。成果として、トータルステーションを用いた地形測量よりも精度は劣るが、地形のプロファイリングなど個人で計測するにあたっては、許容誤差の範囲におさまり、十分今後の研究に有用な方法であり、空間データ処理が可能であると結論づけた。
著者
梅津 信幸
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

遺構の発掘は基本的に破壊的な検査であり、遺構実測図はその過程を記録する最も重要な記録の一つである。多くの実測図は発掘現場で手描きで作成された後にスキャンされ、考古学者が多大な時間をかけて多数の点をクリックして手作業でベクトル形式に変換する。本研究で提案するラスター・ベクター変換アルゴリズムにより、そのような非効率な状況が改善された。イスラエルのテル・レヘシュ遺跡の実測図をスキャンして用いたベクトル化の実験から、提案するアルゴリズムによって手作業によるクリックと編集の負担が大幅に軽減されることが確認された。
著者
佐古 愛己
出版者
佛教大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

古代都城平安京から中世都市京都への変貌は、従来、京域内の変化に関しては、律令制的都市支配制度の形骸化、解体による治安の悪化や都市民による巷所の形成など、権力の弱体化や不在が中世都市の形成に繋がったとする視角が主流であった。本研究では、度重なる御所の焼失や頻繁にみられる天皇や上皇などの居所の移動(移徙)が、院政期に次々に実施される新宅(内裏・里内裏や院御所)造営と密接に関連しており、さらにその背景には、造営を請け負う受領をめぐる人事との関係がみられる点を明らかにして、当該期の政治・経済・人事制度に関連する構造的な問題の存在と、権力者により積極的に中世的都市の構築が図られていた側面を指摘した。
著者
楠 義彦
出版者
東北学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

歴史学研究で用いる文書資料を計量的なテキストマイニングにより分析することは、歴史学研究者のみに可能な事柄である。これは文書資料を構成する語の時代的、地域的また文脈による多様性を計量的分析では捉えられず、通常の文書分析と並行して行わなければならないためである。解釈批判の実行は極めて高度な歴史学研究の能力と経験を必須の基礎としており、現状ではコンピュータで人の代わりをさせることはできない。仮にできたとしても、そのための準備作業に膨大な時間と労力がかかり、コスト高となってしまう。今後資料のデジタル化が進展や新たな方策を開発により、テキストマイニングの歴史学研究への利用可能性は高まるものと考えられる。
著者
冨山 一郎
出版者
同志社大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では、ある地域において歴史的意義を担っていた史料を別の主体にかかわる歴史記述において読み直すとき何が問われるのかということを、史料読解にそくして検討した。また歴史認識における地域史や辺境史と日本史、あるいは植民地史と帝国史の違いや対立を、歴史史料の読解を通じて検討し、どちらか一方を他方へと還元しない新しい歴史記述の方法を具体的に提示した。
著者
気賀沢 保規 肥田 路美 高橋 継男 手島 一真 松浦 典弘 高瀬 奈津子 櫻井 智美 江川 式部 江川 式部
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の目的は、魏晋南北朝隋唐時代の本質が「仏教社会」であるとの認識に立って、その社会の構造や特質を、仏教石刻(主に文字資料)を通じて明らかすることにある。本研究では、(1)房山石経、(2)山西・河北仏教石刻、(3)四川仏教石経、(4)華北仏教石刻の4本の柱を立て、現地調査や資料整理と考察を進めた。(1)では4千点以上の隋唐石経の所在状況と題記を整理し、(2)では山西長治地区の仏教に焦点を当て、(3)では洛陽の石刻資料の把握に努め、(4)では四川灌県の仏教石経の所在に迫った。当時の仏教社会の基層を浮き彫りにするにはなお研究の深化が必要となるが、多くの成果により基礎的作業はほぼ終了したと考える。
著者
高橋 実 大友 一雄 渡辺 浩一 山田 哲好 青木 睦 吉村 豊雄 江藤 彰彦 大石 学 福田 千鶴 松澤 克行 東 昇
出版者
国文学研究資料館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、当初の計画調書に明示しているように、幕府・諸藩など領主組織が各部署において作成・授受し、管理・保存し、活用してきた文書記録やアーカイブズをアーカイブズ学に立脚した視点から、通算15回の研究会を開催し、44本の報告と議論を行った。具体的には、江戸幕府、旗本、弘前藩、秋田藩、米沢藩、高田藩、松代藩、尾張藩、京都町奉行、岡山藩、鳥取藩、萩藩、土佐藩、福岡藩、長崎奉行、熊本藩、対馬藩、鹿児島藩について、最新の研究成果を得ることができた。
著者
高倉 浩樹
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

200字程度本課題は、デジタル映像技術の発展を背景に、人類学的研究の新たな方法とその可能性を探ろうとするものである。具体的には、(1)デジタル映像技術と人類学調査研究に関わる最新知識の解明、(2)映像人類学の基盤的知見の探求、(3)日本の人類学における写真史に関わる総説的知見の探求、(4)デジタル映像技術を利用した研究成果発信方法の開発である。結果としてデジタル映像技術を利用した人類学調査は、調査者と被調査者との関係の相対化をふくむ双方向性的なものになっていること、この特性を利用することで人類学の知見はより効果的・説得的に社会に提起されうることを明らかにした。
著者
杉藤 重信 窪田 幸子 川口 洋 遠藤 守
出版者
椙山女学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究の主要な成果は、親族オントロジーの研究およびアプリケーションAlliance3.3の開発である。前者としては、人類学調査における個人情報に関する不詳データをグラフィクスとしてどのように取り扱うかの基本的なロジックの研究である。具体的には、どのような条件をデフォルトとすればコンピュータ・グラフィクスとして表現可能であるかについての研究である。後者としては、今期の開発の焦点は、親族オントロジーの研究をふまえて、直感的な入力方法を開発することであった。開発されたアプリケーションは、下記のウェブサイトからダウンロードが可能である。また、親族データベースや親族研究に関して、国際連携研究を行い、国内外において成果報告を行った。
著者
楠井 清文
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、二つの目的を持つ。第一に、植民地期韓国で日本語によって刊行された文芸雑誌を収集し、デジタル化することで、資料の利便性を高めることである。第二に、それらに基づいて、当時の日本人の文学活動を明らかにすることである。研究成果では、第一の点について、三つのデータベースを構築・公開することができた。第二の点については、1920年代に朝鮮で詩雑誌が盛んに発行されており、朝鮮の詩人と交流するなど、幅広い活動を行っていたことが明らかにできた。
著者
松葉 涼子
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本年度は大英博物館における絵入版本資料計1828点を調査し、目録化した。目録データはすべて博物館に納品しており、館のデータベースに反映される。また、博物館の版本コレクションのうち、582点をしめるジャック・ヒリアー旧蔵の版本データの撮影を行い、版元情報のデータ入力を実施した。また、すでに公開されている書籍画像データベースを参照しながら、版元基礎情報のデータ入力を進めている。以上の作業によって構築されたデータは版元総合目録として公開する予定である。所蔵資料の画像全公開を目標とする書籍閲覧システムにおいては、版元の住所表記など細かな情報を入れ込むことは困難であった。ところが、版元データベースとして別に走らせておき、書籍閲覧システムと連結させることができれば、版本一点ごとに版元の詳細なデータを付加することができる。版元データベースは、他の書籍閲覧システムにも活用し得る基礎的データとなり、現在各所蔵機関ですすめられている所蔵資料のデジタル化においても大きな意味をもつものとなる。さらに、作業と並行して浮世絵出版と版元との関連に着目し研究をおこなった。まず、吉原俄の浮世絵出版にみる歌舞伎音曲と版元の関係性を明らかにした。また、大英博物館所蔵資料の江戸役者絵本を中心に、江戸役者絵本の出版事情を整理し、浮世絵との比較のなかで、役者絵本が出版された意義について検討し、地方にむけて出版するための意図が役者絵本の出版事情にどのように関わっていたかについて述べた。
著者
山崎 真克
出版者
比治山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

江戸後期類題和歌集に付された「作者姓名録」や、島根県立図書館蔵『雲陽人物誌』など、出雲歌壇の実態解明に必要な関連歌書の調査・収集を行い、出雲歌壇を構成する歌人について「姓・別称・身分・所在地・血縁関係・師弟関係」などの人物情報を抽出した。二次的資料により情報を整備し、データベースシステムに実装して、江戸後期出雲歌壇を構成する歌人データベースを構築し、これを用いて出雲歌壇の実態に関する研究を行った。
著者
山本 卓 高橋 圭一
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

鳥取県立博物館(中島家文書)・国立公文書館・国文学研究資料館・関西大学図書館などに所蔵される実録を詳しく調査して、その書誌事項・目録(目次)をとり、その成果を「データベース『実録所在目録・目次』」(DVD版)に纏めて、公開した。また、『近世実録翻刻集』と題して、『厭蝕太平楽記』・『田宮物語』・『白川根笹雪』・『享保太平記』『播磨椙原』新出本の実録を翻刻して刊行した。この作業は『新編 近世実録全書』公刊の地ならしに相当する。
著者
玉城 司 平林 香織
出版者
清泉女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

松代藩第六代藩主・真田幸弘の文芸について調査研究した。幸弘が一座した点取俳諧資料九万句の内、約三分の一の三万句を翻刻して、その一部を研究成果として作成したホームページ「松代藩第六代藩主真田幸弘の文藝」に写真と共に掲載した。これは、語彙索引機能を備えているので、点取俳諧資料として利用できるだけでなく、江戸時代の語彙を検索することができる。なお、ホームページは、幸弘の全体像を理解できる構造にした。