著者
市原 耿民
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

植物病原菌由来の植物毒素類は病徴の発現に関わるばかりでなく、植物調節物質など多様な生理活性を示すことで注目されている。具体的にはバレイショ細胞の肥大や塊茎誘導活性を持つコロナチンやトマトの宿主特異的毒素であるAAL-毒素を対象にこれらの高効率合成法の開発を目的として以下の成果を上げた。コロナチンは牧草イタリアンライグラスかさ枯病菌の産生毒素で、他の数種の細菌病菌も同じ毒素を生産している。コロナチンの化学構造は分光学的データ、化学反応、合成、X-線構造解析などにより決定したが、インダノン骨格を有するコロナファシン酸とアミノ酸であるコロナミン酸がアミド結合した特異な化合物である。最近コロナチンは植物ホルモンとして認識されつつあるジャスモン酸との構造ならびに生理活性との類似性が指摘され、コロナチンの方が高い活性を示すことから、ジャスモン酸の関与する生理現象を解明するための最も重要なプローブ化合物と考えられる。応用面ではセイヨウイチイの植物体をコロナチン処理することにより、抗癌剤タキソ-ルの生産性向上に役立つことも明らかとなった。シクロペンテノンを出発物質として、柴崎らの開発した不斉マイケル反応により9段階、通算収率25%で光学純度98%以上のコロナファシン酸を得ることに成功した。コロナミン酸はRーリンゴ酸より環状サルフェートを経て通算収率30%で(+)-コロナミン酸を得ることが出来た。最後にコロナファシン酸とコロナミン酸を水溶性ジアルキルカルボジイミドを縮合剤としてアミド化し、保護基を除去して高収率でコロナチンを合成した。この合成法により幅広い生物活性試験が可能となった。
著者
武石 彰 椙山 泰生 三品 和広
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.34-48, 2010-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
2

『組織科学』は,誰が,何を,どのように論じてきたのか.これまで掲載された論文の著者プロフィール,テーマ,スタイルの時系列・国際比較分析を通じて『組織科学』の特徴や傾向を明らかにする.『組織科学』が多様なテーマについて相互に分散的に議論を進めてきたことを示し,その意味するところを論じる.

4 0 0 0 OA 千社札

巻号頁・発行日
vol.二巻, 1800
著者
澤邉 裕子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.182-189, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
14

本稿の目的は,韓国の高校で日本語を学ぶ高校生と日本の高校で韓国語を学ぶ高校生間における交流学習の意義を質的研究の手法を用いて考察することである。高校の第二外国語教育としての日本語教育,韓国語教育の共通点としては「生きたコミュニケーション活動と文化理解」「学習者志向・学習者参加型の活動」が内容・方法の指針とされていることが挙げられる。本稿ではこれらを考慮した上でデザインされた交流学習について,参加者に対し自由記述型アンケートとインタビューを行い,質的研究のグラウンデッド・セオリーを援用して結果を分析した。その結果,共に学び合う仲間の存在が意識され,言語面と文化面において学習意欲が高まり,交流活動に積極的に関わろうとする態度が形成される等の意義が示唆された。
著者
菱川師宣 画
出版者

菱川師宣の職人尽歌合絵本。初板と考えられるのは、貞享2年(1685)2月刊。大本上下2巻合1冊。上巻はさらに二分され、それぞれの区切りに山水画の口絵を配する。中世以来、職人絵の題材として盛んに描かれた『七十一番職人歌合』の本文に基づいたもので、序には、『四十三番職人歌合』に従ったとするが、不審。各丁は、上欄に、『七十一番職人歌合』の歌、判詞を載せ、下段に師宣の職人絵を配する。また、絵にも会話文の詞書がある。師宣の職人絵は32丁(1丁欠)で、計64種。職人は、「ばんざう(番匠)」「かぢ師」「かべぬり」「ひわだふき」以下、さまざまな職人、商賈から成る。はじめの「ばんぞう」「かぢ師」は烏帽子から中世風と判断されるが、あとは当世風にやつしている。(鈴木淳)
著者
張 紅
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.149, 2019 (Released:2019-09-24)

歴史的街並み景観にみられる地域アイデンティティの創出メカニズムCreation mechanism of residents’ regional identity in the historical street landscape張 紅(筑波大・院)Hong ZHANG(Graduate Student of Tsukuba Univ.)キーワード:歴史的街並み景観 地域アイデンティティ 経済性 公共性 社会性Keywords:Historical street landscape, Regional identity, Economic viewpoint, Public viewpoint, Social viewpoint 歴史的街並み景観は,歴史の積み重ねの中で地域住民が取捨選択を繰り返し,作り出してきたものであり,住民の量的/質的な変化に対して敏感に反応する。そのため,現在日本において進行中の少子高齢化は,歴史的街並み景観に対しても大きな影響を及ぼし,それが顕著な中山間地域の歴史的街並み景観は崩壊の危機に瀕している。それが崩壊することは,地域アイデンティティの崩壊を意味する。景観を望ましい形で保全するためには,地域アイデンティティの創出メカニズムを知り,住民に適切な地域アイデンティティを根付かせるような方法を考えていかなければならない。そこで,本研究では,福島県南会津郡に位置する下郷町の大内宿と南会津町前沢を事例にして,地域特性の異なる2つの地区の保全方法を明らかにした上で,そこから生まれる地域アイデンティティを比較することによって,望ましい地域アイデンティティを創出する保全方法を提案することを目的とした。研究方法は,両地区の住民と行政側に景観保全の経緯や現状などを聞き取り調査し,これらに基づいて地域アイデンティティを決定する因子を抽出し,相互に比較を行い分析した。 大内宿は宿場町で,地区を南北に走る会津西街道の両側に茅葺きの寄棟造の住居が軒を連ね,全戸の妻壁が街道に面するというような景観を呈している。前沢は山村集落で,茅葺きの曲家が集まっている。冬の北風が強くて,そのほとんどが南東向きである。 この2つの地区では3種類の地域アイデンティティが創出されている。大内宿は,観光地化から生まれる経済効果を追求し,活気のある街並みを形成,維持することによって,「生活できる」という実感から経済的な地域アイデンティティが創出され,街並み景観を保全している。しかし,一部の景観が犠牲になり,「形だけの街並み」になりかねないという問題点もある。また,重伝建地区の意味が見失われ,地域アイデンティティの本質も見失われやすい。これに対して前沢は,住民の意見を尊重し,景観保全に重点を置き,急激な観光開発を行わなかったため,経済性に基づく地域アイデンティティが低いまま推移してきた。けれども,このように行政が住民を巻き込み,政策を実施する中で公共的な地域アイデンティティが誘導され,街並み景観が保全される。公共性による地域アイデンティティは最も有力であるが,住民意識の高揚が課題となる。政策提言の出発点への妥協や,担当者の交代による政策実施の不徹底が住民の不公平感を招き,反発が起きる恐れがある。最後に,共有意識や地区への憂慮などによって住民主体に社会的な地域アイデンティティが育まれ,街並み景観が保全されていくといえる。これには,コミュニティ内の中心的人物による牽引,または住民個々人の自覚が必要である。このような社会性に基づく保全の効果は経済性に基づく保全より強いが,少子高齢化の背景があり,現状では社会性だけに頼ることは難しい。 結論として,地域特性や歴史的経緯が異なる大内宿,前沢では,それぞれに地域アイデンティティの創出に作用する因子(経済性・公共性・社会性)のバランスが異なるため,結果的に現地で感じる住民のアイデンティティには大きな差異が生じていると考えられる。経済性・公共性・社会性によって創出される地域アイデンティティは,それぞれ独立したものではなく,相互に関連がある。社会性による地域アイデンティティの創出が望ましいが,その主体である住民の継続的な関与が難しい状況にある中では,生活が確保されなければ(経済性),行政による誘導(公共性)を進めていくことはできない。3つのうちどれか1つに頼らずに,それぞれのメリットを最大限に発揮し,デメリットを抑え,行政と住民が一体となって複合的な対策を取ることで,当該地域の特性に合わせた地域アイデンティティが創出され,歴史的街並み景観を望ましい形で継続的に保全することができると考えられる。
著者
矢野 和歌子
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.67-72, 2014-12-26 (Released:2016-11-20)
参考文献数
6

本研究は、卒業論文の実情を踏まえた指導や教材の開発を目的とし、人文・社会学系の4大学4学部の優秀卒業論文計35編を対象に引用の形式、目的など、引用の使用実態について調査した。その結果、引用の形式としては、間接引用の使用が多いという傾向が明らかになった。また、段落単位での間接引用など、既刊の教材ではあまり扱われていない類型もみられた。留学生の論説文における引用の使用について調査した矢野1)との比較では、優秀卒業論文において、「論点を分析する観点の提示」、「解釈の提示」など幅広い目的で引用を活用していることが特徴として見られた。学部間の比較では、外国語学部、社会学部の論文全編で「論点を分析する観点の提示」を目的とした引用がなされていること、20編中17編で「解釈を提示する」目的での引用が見られる点が特筆できる。社会学部の論文では、「自己の主張の補強」を目的とした引用が全編で活用されていることも特徴である。また、商学部、経営学部の論文では、「先行研究の整理」をする目的での使用が多く、目的が限定的で引用の割合も少ないという傾向が見られた。これらの結果から、指導への示唆をまとめた。

4 0 0 0 OA 富の活動

著者
安田善次郎 述
出版者
大学館
巻号頁・発行日
1911
著者
廣瀬 春次
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1+2, pp.11-16, 2012-05-01 (Released:2013-03-04)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

量的研究法と質的研究法の両者を含む混合研究法は,研究の妥当性・信頼性を高めるとともに,量的研究と質的研究のパラダイム論争に一つの方向を与える第3の研究法として発展してきた. 混合研究法を用いる研究者は,実証主義と構成主義という2つの異なるパラダイムを持つ量的研究と質的研究を併用するという点で,その哲学的前提について無関心ではいられない.現在,混合研究法のパラダイムとして最も支持されるのは,実用主義であるが,弁証法も有力である. 混合研究法の分類については,現在,統一されたものはないが,混合研究法の表記法については,共通のものが開発されている.著者は,混合研究法として分類されるには,質的・量的研究のいずれも,完全な研究として示されることが必要であることを提案した. 日本看護科学会誌の最近10年間の混合研究法を検索した結果,それ以前の10年間の検索結果とほとんど差がないことが示された.今後の混合研究法の展望として,一つの研究の中で2つの方法を相互参照するだけではなく,異なる研究間での相互交流が期待される.
著者
ISHIJIMA Kentaro TSUBOI Kazuhiro MATSUEDA Hidekazu TANAKA Taichu Yasumichi MAKI Takashi NAKAMURA Takashi NIWA Yosuke HIRAO Shigekazu
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
pp.2022-017, (Released:2021-12-10)
被引用文献数
2

Temporal variations of atmospheric radon-222 (222Rn) observed at four Japan Meteorological Agency stations in Japan by the Meteorological Research Institute were analyzed using an on-line Global Spectral Atmosphere Model–Transport Model (GSAM-TM). Monthly and diurnal variations, and a series of synoptic high-222Rn events were extracted from 5-12 years of 222Rn observations during 2007-2019. Observed seasonal patterns of winter maxima and summer minima, driven mainly by monsoons, were well reproduced by the GSAM-TM based on existing 222Rn emission inventories, but their absolute values were generally underestimated, indicating that our understanding of 222Rn emission processes in East Asia is lacking. The high-resolution model (∼ 60 km mesh) demonstrated that observed consecutive high-222Rn peaks at several-hour timescales were caused by two 222Rn streams from different regions and were not well resolved by the low-resolution model (∼ 200 km mesh). GSAM-TM simulations indicate that such cold-front-driven events are sometimes accompanied by complicated three-dimensional atmospheric structures such as stratospheric intrusion over the front, significantly affecting distributions of atmospheric components. A new calculation approach using hourly 222Rn values normalized to daily means was used to analyze the diurnal 222Rn cycle, allowing diurnal cycles in winter to be extracted from 222Rn data that are highly variable due to sporadic continental 222Rn outflows, which tend to obscure the diurnal variations. Normalized diurnal cycles of 222Rn in winter are consistent between observations and model simulations, and seem to be driven mainly by diurnal variations of planetary-boundary-layer height (PBLH). These results indicate that 222Rn in the near-surface atmosphere, transported from remote source regions, could vary diurnally by up to 10 % of the daily mean owing mainly to local PBLH variations, even without significant local 222Rn emissions.
著者
神野 雄
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.125-139, 2018-11-01 (Released:2018-11-08)
参考文献数
53

本研究では,先行研究で知見が一貫していない恋愛関係の嫉妬傾向と自尊感情との関連について,自己愛的観点に着目することで知見を整理し直すことが目的であった。交際経験のある大学生160名を調査協力者として質問紙調査を行い,相関分析の結果,自尊感情は嫉妬の三次元すべてと明確な直線的関係にないことが示された。また階層的重回帰分析の結果から,特に嫉妬の情動的側面に対して自尊感情と自己愛の誇大性に相当する変数を同時に投入した場合は自尊感情が負の,「有能感・優越感」が正の有意な影響を示し,先行研究の知見の混乱は自尊感情が自己愛的な自己評価の高さと弁別して測定されていないために生じた可能性を見出した。さらに自己愛の過敏性に相当する変数と「注目・賞賛欲求」を投入すると,「注目・賞賛欲求」「自己愛性抑うつ」の影響が強く示されたため,自己評価の過敏さ・脆弱さが青年の情動的な嫉妬深さを規定しうることが示唆された。
著者
Masashi Tanaka Shinya Masuda Yoshiyuki Matsuo Yousuke Sasaki Hajime Yamakage Kazuya Muranaka Hiromichi Wada Koji Hasegawa Tetsuya Tsukahara Akira Shimatsu Noriko Satoh-Asahara
出版者
一般社団法人 日本動脈硬化学会
雑誌
Journal of Atherosclerosis and Thrombosis (ISSN:13403478)
巻号頁・発行日
pp.32680, (Released:2016-03-18)
参考文献数
24
被引用文献数
1 14

Aim: This study aims to determine the association between glucose metabolism and proinflammatory/anti-inflammatory properties of circulating monocytes or those of carotid plaques in patients who underwent carotid endarterectomy.Methods: Clinical characteristics and expression levels of proinflammatory/anti-inflammatory markers in circulating monocytes/carotid plaques were examined in 12 patients with diabetes and 12patients without diabetes.Results: Circulating monocytes from patients with diabetes revealed higher tumor necrosis factor (TNF)-α and lower interleukin (IL)-10 expression levels compared with those from patients without diabetes, which was also observed in carotid plaques from patients with diabetes. Hyperglycemia revealed positive and negative correlations with the ratios of IL-6+ and IL-10+ cells in carotid plaques, respectively. Moreover, we determined a positive correlation between circulating monocytes and carotid plaques with respect to TNF-α and IL-6 expressions.Conclusions: The inflammatory property of circulating monocytes was associated with that of carotid plaques. Hyperglycemia increased inflammatory properties and decreased anti-inflammatory properties of carotid plaques.
著者
相川 直樹
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.7, pp.641-654, 1994-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
107
被引用文献数
3 1

重症の救急患者にみられるショックや臓器障害の病態は侵襲に対する生体反応に起因し,その発生機序にサイトカインが重要な役割を演じている。サイトカインはエンドトキシンなどに対しマクロファージ,単球,リンパ球,好中球などが産生する生理活性物質で,多くの種類がある。腫瘍壊死因子(TNF),インターロイキン(IL)-1, IL-6, IL-8などは炎症性サイトカインと言われ,とくにTNF-αとIL-1とは侵襲直後に産生され,他のサイトカインや種々のメディエータの産生を誘導する。エンドトキシンなどの外因を投与しなくても,TNF-αやIL-1-βの投与によりショックや臓器障害が起こることは,外因に対する生体反応がショックや臓器不全を起こすことの証拠として重要な知見である。IL-6は急性相反応のalarm hormoneの役割を演じ,IL-8は好中球の走化・活性化因子としてARDSの病因となる。一方,IL-4, IL-10,可溶性TNFレセプター(TNFsr)やIL-1レセプターアンタゴニスト(IL-1ra)などは抗炎症性サイトカインであるが,侵襲下では炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの両者とも産生が亢進する。サイトカインの多くはautocrineやparacrineとして局所で作用し,侵襲に対する生理的反応に不可欠な物質である。しかし,高度の侵襲によりサイトカインが多量に産生されたり,サイトカイン産生の制御機構が破綻すると,血中に種々のサイトカインが高濃度検出されるようになる。このような高サイトカイン血症で惹起される過大な全身性炎症反応から,自己破壊的なショックや臓器障害が起こる。この状態を筆者はサイトカイン・ストーム(cytokine storm)と称している。種々の病態におけるサイトカインの役割の解明とともに,抗サイトカイン療法が新しい治療法として注目され,とくにキー・メディエータであるTNFやIL-1の制御を目的として,抗TNF抗体,IL-1ra, TNFsrの応用が試みられている。抗サイトカイン療法はリスクの高いサイトカイン・ストーム下の患者でその効果が期待される。
著者
品田 瑞穂
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.99-110, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
36
被引用文献数
1 3

近年の実験研究では,社会的交換において第三者の立場にある参加者が,参加者自身にとって罰行動が何の利益ももたらさない場合であっても,他者を搾取した非協力者を罰するためにすすんでコストを支払うことが示されている。本研究では,このような第三者による罰行動は,協力的な社会的交換を維持するための二次の協力行動であると考える。重要な社会的交換が外集団成員よりも内集団成員との間で行われることを所与とすると,第三者による罰行動は内集団成員に対してより向けられやすいと考えられる。Shinada, Yamagishi, & Ohmura(2004)はこの予測を検討する実験を行い,協力者は内集団の非協力者をより強く罰するが,非協力者は逆に外集団成員を強く罰するという結果を示している。本研究は,Shinadaらの実験における外集団への罰行動を,相手との利益の差を最大化するための競争的行動と解釈し,罰しても相手との利得差が拡大しない実験で,参加者が内集団成員と外集団成員に対し罰の機会を与えられる実験を実施した。実験の結果,仮説を支持する結果が得られた。参加者は,外集団の非協力者よりも内集団の非協力者を罰するためにより多くの金額を支払った。