著者
服部 朝美 宗像 正徳
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.71-75, 2016 (Released:2017-06-23)

少子高齢化に伴い、日本では労働人口が減少していく。労働人口の維持は国の存立に関わる問題であり、国家を維持するために、国民はより長く働くことが求められるようになる。一方、加齢に伴い、心血管リスクは上昇することから、高齢労働者の健康を守るために、より綿密な心血管リスク管理が必要となる。高血圧は日本人の脳・心臓疾患発症に寄与する最も重要なリスク因子であり、2010年の国民・栄養調査によると、30歳以上の男性で60%、女性で45%が高血圧と考えられる。しかしながら、血圧のコントロール率は、過去30年間、改善傾向にあるものの、男性で30%、女性で40%程度に留まっているのが現状である(高血圧治療ガイドライン2014)。一方、職業性のストレスは健康障害と関連することが示されており、特に血圧の上昇に対する影響については多くのエビデンスが蓄積されてきた。これまでの報告から、職業性のストレスは特に職場血圧の上昇と強く関連し、この関連は女性よりも男性でみられること、さらには、脳・心臓疾患発症とも関連することがわかっている。長時間労働についても心血管リスクを上昇させるとの報告があるが、両者の関連は、仕事のやりがいや裁量権といった要因によって緩衝をうける可能性がある。加齢に伴い、ストレス等に対する血圧反応が亢進する可能性があり、高齢労働者の血圧管理を考慮するうえで、量的、質的労働ストレスの考慮は重要となろう。健康で長く働いてもらうためには、十分な心血管リスク管理とストレスマネジメントの両者に配慮する必要がある。
著者
宮口 英樹 宮口 幸治 石附 智奈美
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

非行少年の社会復帰プログラムでは、先行研究から認知行動療法やSSTの効果が検証されているが、一方でいくら指導しても深まらない少年たちの存在にも苦慮させられている。その中には、視覚認知、聴覚認知、ワーキングメモリなど様々な認知機能に問題をもっているケースも多く、矯正教育の成果を上げるためには、ある程度の知的機能を保つことが課題となる。本研究は、少年院内だけでなく境界知能者の生活自立活動能力の向上、就労支援を目指した認知トレーニングのシステム作りを目的とし、認知機能向上に加え、社会生活支援にあたっている専門家を対象に聞き取り調査を行い、プログラムを改良・充実することを目指している。
著者
上野 輝弥 坂本 一男
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum Ser. C Geology & Paleontology (ISSN:0385244X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.p109-117, 1994-09

A fossil slender mola from the Middle Miocene Hiranita Formation, Chi-chibumachi Group, Saitama Prefecture, Japan is described as a new species Ranzania ogaii in the family Molidae (Tetraodontiformes). This new species is characterized by having closely attached, long neural spines in the caudal vertebrae and unique scale plates that have a single prominent tubercle at the center of each regularly-shaped, polygonal scale plate in the middle of the body.
著者
村岡 潔
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.137-146, 2013-03-01

本稿は,筆者の造語である「隠謀学」についての最初のイントロダクションです。隠謀学は,この世の日常茶飯事に満ち溢れている数々の隠謀(プロット)を解読するための一種の論理学であり,行動科学であり,文化的解剖学(アナトミー)です。また,性善説で生きている人に対する性悪説の世界観からのツッコミであり,人生において駆け引き上手になるための手引きでもあります。例えば,「金儲けの話」「死ぬまで保障される保険」「骨董屋の店先の掘り出し物」「水子供養のための金の仏像」「健康食品」などのうまい話は,すべて隠謀の可能性を秘めているからです。むろん,隠謀学は,日常生活に隠された罠を見抜くためにこそあれ,逆に隠謀力を増進するためのものでもありません。本文では,事例を踏まえながら,隠謀主義の特徴である「錯覚化」「モデル化」「権威的錯覚化」「偶然化」などの作用について解説し,最後に簡単に脱隠謀化の処方箋を提示しました。
著者
森 正人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.254, 2009

本発表は、中世の武士である楠木正成が1930年代の日本においてどのように意味づけられ、彼に関する催事や事物が形作られていったのか、またそうした出来事をとおしてどのように人びとのアイデンティティが刺激されたのかを論じる。よく知られるように、楠木正成と息子正季は後醍醐天皇に対する忠誠を、命を賭して体現した人物として『太平記』に描かれているが、南北朝時代の南朝に与したため江戸時代にいたるまで朝敵と見なされていた。楠木正成の名誉回復がなされ、江戸時代末期に尊皇攘夷運動が高まると、「忠君」楠木正成は顕彰の対象となる。各地で執り行われた鎮魂祭は招魂社の設立運動にいたり、後に靖国神社と名を変える招魂社にまつられる英霊から区別された楠木正成はただ一人、湊川神社に祀られることになった。 国家を代表する偉人としてがぜん注目されるようになった楠木正成は、宮城前への銅像設置や、南北朝のどちらが正統であるかをめぐってなされた南北朝正閏論争をとおして完全なるナショナル・ヒーローの座へ登りつめていった(森2007)。したがって、楠木正成の近代に注目することで、日本のナショナリズムや国家的アイデンティティの問題の一端が明らかになると思われるのだが、この楠木正成が見せた国家的偉人への軌跡を正面からあつかった研究は実はそれほど多くない。 近代日本のナショナリズム研究は、1990年代に大きな興隆をみた。ベネディクト・アンダーソン(1997)の想像の共同体の議論を受けながら、近代史や法制史を中心に国家的諸制度の整備が確認された。地理学においては近代における均質的な国家空間創出のためのさまざまな物質的基盤が解明された。それらの研究が一段落した後に残されたのは、国家的な諸制度や観念の形成に貢献したローカルなるものの役割の検討であった。すなわち、アイデンティティであれ諸制度であれ、それらは決して国家によってのみ作動されたのではなく、地域や郷土などといったローカルな地理的範域での実践もまた国家的なものを下支えしていたことが確認されたのである(「郷土」研究会2003)。 ただし、国家的スケールに対して地域的スケールでの実践の重要性を強調するだけでは、国家と地域を二項の固定的なものと前提してしまう。国家も地域も、首尾一貫性を持つ地理的スケールではない。それらは、相互の関係性のなかで認識されるべき地理的スケールであるだけでもない。むしろ国家的スケールも地域的スケールも、後にそれと確認されるスケールでの諸実践をとおして認識される。したがって、一貫した地域も国家もなく、事後的に確認される地域的なるものと国家的なるものととらえ、地域と国家というスケールの二分法の不可能性と、それが生成されるプロセスに取り組むことが重要となろう。こうした空間への視座は、近年の英語圏人文地理学における空間の存在論の高まりと共鳴している(Massey 2003, 2005; アミン2008)。 国家/地域的なるものを、出来事をとおしてその都度に構成し直される関係的なものとすれば、国家や地域へのアイデンティティもまた、自律的な人間主体の内側からの発露とすることも、あるいは人間主体の外側に措定される権力主体からのイデオロギー的呼びかけととらえることも困難になる。すなわち、とある地理的範域に対するアイデンティティは、前提される地理的スケールの外部、人間主体の外部にある事物や自然や機械などの客体との折り重なりの中でつねに刺激され、形作られ続けているのである。アイデンティティを含む人間の感情や倫理は、つねに資本によっても多方向へ屈曲されている(スリフト2007)。 本発表はとくに1930年代に照準する。この時期、楠木正成は国家的偉人であると同時に、彼を輩出したり彼が最期を遂げたりした場では地元の英雄として取り上げられた。それは楠木正成の死後600年を祝う1935年に一つのピークを魅せた。楠木に関わるイベントは郷土を確認させる出来事であり、そのイベントは行政だけでなく新聞社やレコード会社やラジオ局などの資本によっても開催されたのである。
著者
Kazuki Fukushima Toko Kanomata Aoi Kon Hiromi Masuko-Suzuki Kana Ito Sadayoshi Ogata Yoshinobu Takada Yukihiro Komatsubara Tsuyoshi Nakamura Takumi Watanabe Saori Koizumi Hitoshi Sanuki Jong-In Park Satoshi Niikura Keita Suwabe Sota Fujii Kohji Murase Seiji Takayama Go Suzuki Masao Watanabe
出版者
The Genetics Society of Japan
雑誌
Genes & Genetic Systems (ISSN:13417568)
巻号頁・発行日
pp.20-00066, (Released:2021-06-18)
参考文献数
62
被引用文献数
1

In various coastal areas of Japan, naturalized radish populations are observed. Radish is a cruciferous plant and exhibits self-incompatibility, involving a system controlled by a single locus with multiple S alleles. Although the S allele diversity of radish cultivars and wild radishes has been characterized, the S allele distribution in naturalized populations has not yet been analyzed in relation to the positions of the plants in situ. Here, we show the S allele distribution in naturalized radish populations of Yakushima, a small island in the East China Sea, with positions of the plants. Radish plants were sampled in coastal areas in Yakushima, and their S alleles were detected and characterized. Most of the S alleles had been previously identified in radish cultivars. However, four novel S alleles, which may be unique to Yakushima, were also found. Moreover, seeds in siliques from plants growing in the study areas were sampled, and S allele determination in DNA extracted from these seeds suggested that the plants had exchanged their pollen among their close neighbors. There was also a problem in that the PCR amplification of some SRK alleles was difficult because of their sequence diversity in the naturalized populations, as occurs in cultivars. Our results suggest that the exchange of S alleles between cultivars and naturalized populations occurs and that S alleles in naturalized populations are highly diverse. The methodology established in our study should be applicable to other self-incompatible species to dissect the diversity of S allele distribution in naturalized populations.
著者
加藤 昌彦
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2005

博士論文
著者
鈴木 正美
出版者
北海道大学スラブ研究センター
雑誌
スラブ・ユーラシア研究報告集
巻号頁・発行日
vol.1, pp.47-58, 2008-12

共産圏の日常世界. 望月哲男編
著者
常木 暎生
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.59-85, 2008-12-20

This research proposes ansewrs to the following two questions: ①What do that brand advertisement express from the perspective of content analysis? ②Does a person who looks at brand advertisements have some kind of image, from the perspective of impression evaluation? Brand advertisement is not about the appeal of the goods themselves. Brand advertisement strengthens the brand image: its nobility, unfriendliness, elegance, beauty and privilege. The receiver of brand advertisements receives an impression which is similar to the image which the advertisements has expressed. The sender and the receiver of brand advertisements are sharing the same brand image.
著者
岡村 浩
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
家政学雑誌 (ISSN:04499069)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.375-382, 1977-08-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
2
著者
赤木 妙子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.127-140, 1991

論文はじめに一 尾張国津嶋と織田信長 (1) 戦国時代の津嶋と織田氏 (2) 織田信長と津嶋牛頭天王二 織田信長の自己神格化と摠見寺 (1) 摠見寺への理解と神格化 (2) 摠見寺と提灯祭 (3) 摠見寺の開山 (4) 摠見寺への参拝方法 (5) 自己神格化の終焉結びにかえて
著者
大谷 修
出版者
学校法人 敬心学園 職業教育研究開発センター
雑誌
敬心・研究ジャーナル (ISSN:24326240)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-7, 2019

<p>消毒や漂白のために用いられる塩素系製剤はしばしば健康被害をもたらす。塩素系製剤である次亜塩素酸ナトリウム(ハイター)は水溶液中で加水分解して次亜塩素酸を生じる。この次亜塩素酸が殺菌効果を発揮する。 次亜塩素酸は排水管などの金属を腐食させる。次亜塩素酸ナトリウムはトイレ掃除に使う塩酸や酸性洗剤と反応して有毒な塩素ガスを生じる。塩素ガスを吸引すると、肺水腫などの重篤な呼吸器障害を生じる。レジオネラ感染を予防する目的で温泉水に次亜塩素酸ナトリウムを加えても窒素化合物と反応してクロラミンを生じるので殺菌効果が小さい。塩素処理したスイミングプールにおいても喘息等を発症するリスクが高まり、アレルギー疾患を増悪する。急性胃腸炎を起こすノロウイルス感染を防ぐには、牡蠣などの生食を避けること、感染者に調理や給仕をさせないこと、およびトイレ、ドアノブ、手すり、壁面スイッチなどを適切な濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を含んだペーパータオルで拭くことが重要である。吐物や便は、まず拭き取ってから、床面を次亜塩 素酸ナトリウム水溶液を含んだペーパータオルで拭く。次亜塩素酸ナトリウム水溶液をスプレー等で噴射するのは次亜塩素酸を含んだエアロゾルを吸引するので健康被害をもたらす恐れがあり危険である。感染防止で最も重要なのは手指衛生を保つことである。ノロウイルスはアルコール抵抗性を示すので、頻回に石鹸と流水で少なくとも20秒間手を洗うことが重要である。</p>
著者
小川 功
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-18, 2010-10-15

京都の洛西地区の地主・名望家グループの風間八左衛門,小林吉明らは町村長・議員等として地域の行政・政治に関わる一方,明治30 年代から40 年代にかけて地元の嵯峨・嵐山の地域振興,観光振興を目論み,名勝旧跡の保存・紹介,嵐山焼など名産品の開発を行う傍ら,1、温泉会社,2、遊園会社,3、水力電気,4、銀行等を共同で発起した。本稿ではこのうち嵐山温泉,嵯峨遊園両社を取り上げたが,彼らは外人観光客を対象とした名所案内,環境整備等にも努力し,外人誘致にも貢献した。1、嵐山温泉は無色透明の炭酸冷泉であったが,渡月橋畔から船で嵐峡の清流を遡る風景絶佳の地にある老舗旅館として内外の観光客に愛好された。また2、嵯峨遊園は葛野郡による嵐山公園設置の経費を使用料として調達する意味から,公園内に遊覧客向の建物を数軒新築し飲食・遊興業者に賃貸するという官設公園内の民営代行から出発した。設立に当って同社が「営利を専らとせず,成る可く公衆の利便に資する」旨を謳ったように,京都市内の投資家集団が買収した嵐山三軒家や,嵐山に広大な別荘を建築しようとした内外の資産家等の行動に比し,小林らの行動は地元の振興を第一義とするものであったと評価できよう。しかし3、清滝川水力電気が創立早々に川崎・松方系統の嵐山電車軌道への身売りを余儀なくされたように,巨額の資金を固定化させがちな風間・小林派の関係企業は概して苦難の道を歩み,昭和2 年の金融恐慌で彼らが共同出資した旗艦・4、嵯峨銀行が破綻すると,嵐山焼の廃絶に象徴されるように,上記の両社を除き多くの関係企業の衰退を招いた。その後も彼らの意志を継承する子孫等により,嵐山焼の再興が幾度も企画されたり,近年でも嵐山に本格的な温泉を掘削・導入するなど地元資本による観光振興策が試みられる一方,残念ながら長い歴史を有する老舗旅館・嵐峡館が休業を余儀なくされ,大手観光資本により買収・改名されるなどの変化が見られる。大幅改装後の同館が期待通り内外貴賓の接待所の機能を果すならば創設者の意にも沿う展開であろう。