著者
髙山 卓美
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.114, no.11, pp.681-691, 2019 (Released:2023-12-10)
参考文献数
41

悠久の歴史を持つ中国の酒には多くの古文書があり,さらに現在もなお続く遺址の発掘によって当時の状況が明らかになりつつある。本稿はこれらの資料と関連文献を整理し,紀元前から現在に至る中国の酒の変遷を,その時代背景を踏まえながら解説したもので,中国酒に関心を持つものにとって貴重な知見と示唆を与えるものである。
著者
栗田 昌裕
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.69-96, 2021-11-30 (Released:2021-12-10)

著作権法は、著作物の流通をコントロールする権利として、頒布権(同法26条)、譲渡権(同法26条の2)及び貸与権(同法26条の3)を認めている。ただし、一方では商品の自由な流通を確保する必要があり、他方では著作者には第一譲渡に際して代償を確保する機会が保障されていれば十分であるため、著作物の原作品又は複製物の適法な第一譲渡があれば譲渡権は消尽し、その後の譲渡には権利を行使できないものとされている(同法26条の2第1項)。同様に、判例は「頒布権のうち譲渡する権利」についても解釈によって消尽を認めている。ところが、消尽は、「原作品」又は「複製物」という有体物の適法な第一譲渡を要件としているため、文言を素直に読む限りでは、情報の送受信によって提供されるデジタルコンテンツには適用の余地がないように思われる。しかし、複製物と同等の対価を支払ってデジタルコンテンツの永続的な私的利用の許諾を得たにもかかわらず、その再販売が認められないのは不当であるとして、この場合にも消尽を認めるべきとの主張がある。これをデジタル消尽という。欧州司法裁判所は、適用されるEU指令が異なることなどから、コンピュータプログラムについては限定的にデジタル消尽を認める判断を下しながら(UsedSoft事件)、電子書籍についてはこれを否定した(Tom Kabinet事件)。また、両先決裁定を受けて、ドイツ法では、デジタル消尽の一般化の適否が論じられるとともに、仮にこれを認めても権利者はプラットフォームのアーキテクチャの設計と利用許諾契約によってその適用を回避できることが指摘され、デジタルコンテンツを提供するプラットフォーム事業者とエンドユーザーとの法律関係の規律へと議論は展開しつつある。この両者の法律関係が契約法、消費者法及び競争法による規制を受けることはもちろんであるが、著作者、利用者及び公共の利益を調整するという著作権法の役割も重要であるとして、一部では、エンドユーザーの法的地位を役権(制限人役権)に相当する物権的権利と位置づけるなどの多様な視角からの検討が行われている。そこで、本稿では、デジタルコンテンツの流通形態を整理して現行法の解決を示したうえで、欧州司法裁判所の両先決裁定とこれを受けたドイツ法の展開を紹介し、日本法への示唆を得るとともに、将来に向けての検討の方向性を提示する。
著者
藤永 壮 伊地知 紀子 高 正子
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、まず血縁と地縁で結びついた在日朝鮮人のネットワークが、その渡航過程や日本での生活において果たした役割を究明するため、済州島のある村の住民たちの、解放直後から1970年代ごろまでの生活史を復元しようとした。その結果、とくに解放後の済州島側のプッシュ要因としては、済州4・3事件が重要であり、また多くは「密航」という形態で渡日していたことを指摘した。さらに朝鮮人の「密航」をめぐるインタビューの記録を韓国で刊行し、近現代史の中でのディアスポラとしての朝鮮民族の姿を描き出した。
著者
島田 邦男 土田 衛 大西 日出男 中野 博子 大東 俊一
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.202-208, 2013-09-20 (Released:2015-09-18)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

頭皮マッサージのストレスや快適感に及ぼす影響を生理学的指標,心理学的指標を用いて検討した。その結果,頭皮マッサージにより,唾液中のコルチゾール濃度は有意に低下し,分泌性免疫グロブリンA濃度は有意に上昇した。Visual Analogue Scale(VAS)を用いた検討では頭皮マッサージの前後で身体的疲労の軽減,リラックス度の上昇が認められ,POMS短縮版ではネガティブな感情を示す指標の低下が認められた。ストレスに関連した唾液成分濃度の測定およびVASやPOMS短縮版の結果から,頭皮マッサージにはストレスを軽減させる作用や快適性を向上させる作用があることが示唆された。
著者
宮木 秀雄 河野 宏輝
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.300-311, 2023 (Released:2023-11-25)
参考文献数
33

本研究の目的は,小学校1年生の通常の学級を対象に,ポジティブ行動マトリクスの提示,学級担任によるBehavior-Specific Praise(BSP),仲間の望ましい行動を口頭で報告し合うPositive Peer Reporting(PPR)を組み合わせた手続きによる学級規模ポジティブ行動支援(CWPBS)を実施し,その効果を検討することであった。公立小学校1年生(29名)を対象に介入を実施した結果,授業中に発表者の方に顔を向けた児童の割合および私語をせずに給食準備ができた割合が増加し,昼休み開始時に廊下を走った児童の割合は減少した。また,学級担任によるBSPの割合は,介入開始後に増加した。加えて,児童と学級担任への質問紙調査の結果より介入に関する一定の社会的妥当性も示された。
著者
池田 直樹
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.21-38, 2020-02-01 (Released:2022-04-07)
参考文献数
21

本稿の目的は一九八〇年代のP・L・バーガーの思想、特にその資本主義擁護論を新保守主義との関係において解釈することである。一般にバーガーと新保守主義の関係は、一九七〇年代から八〇年代にかけての接近、九〇年代の決裂という流れで理解されていると言えよう。だが両者の関係の破綻に至る伏線は、八〇年代にすでに胚胎されていたと考えられる。これを論証するために本稿は、この時期のバーガーの中心的主題であった資本主義擁護論を同時期の彼の対話相手の一人であったM・ノヴァクの同種の議論と対比する。 バーガーの八〇年代の資本主義論は七〇年代における第三世界への関心に端を発していた。彼はこの主題に取り組む中で、自らの社会観と資本主義との適合性を徐々に自覚していく。 ノヴァクは八〇年代に、資本主義やアメリカ社会への批判が激化する中で、資本主義の宗教的な正当化を求めた。その際彼に大きな示唆を与えたのがM・ウェーバーである。そうしてノヴァクは、資本主義における営利活動がユダヤ―キリスト教の精神に満ちていることを強調し、また、資本主義は民主主義と必然的に結びつくこと、その内部に多元主義を生み出す点においてユダヤ―キリスト教の精神に共鳴することを説いた。 バーガーの議論はノヴァクの議論と多くの主張を共有していたが、そこには確かな相違も存在した。両者の相違は以下の四点にわたる。すなわち資本主義と民主主義の相関性の度合い、資本主義の宗教的正当化の可能性、ウェーバー受容、アメリカ社会観である。総じて言えば、バーガーは資本主義を擁護するものの、ノヴァクの極めて宗教的な議論には距離をとっていた。
著者
石田 修 勝二 博亮 飯村 大智 宮本 昌子
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2314si, (Released:2023-12-01)
参考文献数
25
被引用文献数
1

発話の流暢性障害である吃音者は,遅延聴覚フィードバック(DAF)下では非流暢性発話が増加する場合や減少する場合があり,その個人差が生じる要因は明らかにされていない。本研究では,吃音者10名を対象にDAF下の音読と触覚・音声刺激への単純反応を求める二重課題の実験パラダイムを用い,NIRSを用いた脳血流計測の結果からDAF下の音読で発話が非流暢/流暢になる機序を検討した。その結果,DAF下で非流暢性が増加した非流暢性増加群8名と,減少した非流暢性減少群2名に分かれたが,群のサンプルサイズに偏りがみられたため,脳血流は非流暢性増加群を対象に分析した。非流暢性増加群は,触覚条件において能動的な注意の配分に関与する右上前頭回近傍と右上頭頂回近傍が活性化していた。そのため,触覚モダリティの標的に能動的に注意を配分し,逸脱刺激である遅延音声を無視しながら音読している可能性が推察された。これらの特異的な活動がDAF下における非流暢性発話の減少と関係しているものと考えられる。
著者
松山 睦美 蔵重 智美 七條 和子 岡市 協生 平川 宏 三浦 史郎 中島 正洋
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.257, 2010 (Released:2010-12-01)

小児期の甲状腺濾胞上皮は放射線に高感受性で、放射線は甲状腺発がんの危険因子である。一方、被爆者甲状腺癌の大部分は成人期被曝であるが、成人期での放射線外照射の発がんへの影響は一般的に低いとみなされる。ラットでは、成熟甲状腺濾胞上皮に放射線誘発DNA損傷応答とFISH法による転座型遺伝子異常が観察される。本研究では、甲状腺濾胞上皮の放射線感受性に対する年齢の影響を評価するために、放射線外照射後のラット甲状腺の組織変化とp53経路を中心としたDNA損傷応答分子の発現を経時的に解析した。成熟(7~9週齢)雄性Wistarラットに0.1 Gy, 8 GyのX線を外照射後24時間まで、甲状腺を経時的に摘出し解析に供した。対照として放射線高感受性臓器である胸腺を同時に解析した。照射前甲状腺濾胞上皮に増殖マーカーKi-67陽性細胞は2%であり、TUNEL法によって検出される細胞死は照射後甲状腺濾胞上皮細胞に誘導されなかった。一方、未熟(4週齢)ラットでは、照射前甲状腺濾胞上皮のKi-67陽性細胞は10%であり、照射後経時的に減少(3時間5%, 24時間2%)し、8Gy照射後6時間でTUNEL陽性の細胞死が検出された。胸腺では照射後多数のリンパ球にTUNEL陽性細胞死が観察された。Western blot法では、成熟甲状腺で照射後3時間よりp53, Ser15リン酸化p53の発現増加が見られたが、p21, Puma, Cleaved caspase-3発現は有意な変化を認めなかった。DNA二重鎖切断(DSB)後の修復系である非相同末端結合(NHEJ)に機能するKu70は照射後に発現が増加した。成熟甲状腺は、未熟甲状腺や胸腺と異なり、放射線照射後G1期停止や細胞死が誘導されず、DNA DSBはNHEJ により修復されていて、その後の発がん過程に影響している可能性がある。

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出版者
巻号頁・発行日
vol.[378],
著者
有澤 雄毅
出版者
一般財団法人 アジア政経学会
雑誌
アジア研究 (ISSN:00449237)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.17-32, 2021-10-31 (Released:2021-11-16)
参考文献数
41

How did Beijing become the capital of the People’s Republic of China (PRC)? Surprisingly, the Chinese Communist Party (CCP) has not provided a clear answer to this question. This is because if the “necessity” of Beijing as the capital of the PRC were to collapse, it could contradict the overall historical narrative of the CCP concerning the State formation. Chinese Area Studies scholars argue that the acquisition of political cohesion and legitimacy in the process of selecting a capital has affected the national integration of the PRC. Nevertheless, such arguments do not fully explain how such an event occurred; thus, the logic between the capital selection and national integration remains unclear. Therefore, to clarify these questions, this paper analyzes the perceptions of the political leaders of the Chinese Nationalist Party, the CCP, the Democratic Party (DP), and the Communist Party of the Soviet Union (CPSU) regarding the formation of the State and the selection of the capital. The result of the analysis shows that from the end of World War II to the establishment of the PRC, there was no concrete idea of selecting Beijing as a capital among the people. In the Constituent Assembly held in 1946, Chiang Kai-shek attempted to select Nanjing as the capital. However, the representatives of the Constituent Assembly highlighted various opinions on the selection; in particular, the delegates sought to strike a balance among China’s regions through this process. In response, the CCP delayed the selection and restrained local movements from establishing their own capital. Concerned about the CCP’s authority over the DP, who showed an inactive attitude regarding this, the CPSU demanded that the CCP establish the capital as soon as possible to consolidate their authority. However, on the eve of the establishment of the PRC, the CCP avoided active discussions on the selection of the capital; after the issue attracted public attention, they introduced official procedures to establish Beijing as their capital to consolidate their authority.
著者
佐野 友美 吉川 徹 中嶋 義文 木戸 道子 小川 真規 槇本 宏子 松本 吉郎 相澤 好治
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.115-126, 2020-05-20 (Released:2020-05-25)
参考文献数
26
被引用文献数
2

目的:医療機関における産業保健活動について,現場での事例をもとに産業保健活動の傾向や実施主体別の分類を試み,現場レベルでの今後の産業保健活動を進めていくための方向性について検討した.対象と方法:日本医師会産業保健委員会が各医療機関を対象に実施した「医療機関における産業保健活動に関するアンケート調査」調査結果を活用した.自由記載欄に記載された現在取り組んでいる産業保健活動の記述内容を対象とし,複数名の専門家により各施設の産業保健活動の分類を試みた.特に,1.個別対策事例(具体的な取り組み事例・産業保健活動の主体)2.産業保健活動の取り組み方を反映した分類の2点に基づき分類を行い,各特徴について検討した.結果:有効回答数1,920件のうち,581件の自由記載があり,1,044件の個別の産業保健活動が整理された.1.個別対策事例のうち,具体的な取り組み事例については,個別対策毎の分類では「B労務管理・過重労働対策・働き方改革(35.7%)」,「Cメンタルヘルス対策関連(21.0%)」,「A労働安全衛生管理体制強化・見直し(19.3%)」等が上位となった.また,施設毎に実施した取り組みに着目した場合,「B労務管理・過重労働対策・働き方改革関連」と「Cメンタルヘルス対策関連等」を併せて実施している施設が施設全体の13.2%に認められた.産業保健活動の主体による分類では,「a:産業保健専門職・安全衛生管理担当者(71.7%)」が最も多く,「b:現場全体(18.4%)」,「c:外部委託(2.4%)の順となった.2.産業保健活動の取り組み方を反映した分類では①包括的管理(42.0%)が最も多く,②問題別管理(23.8%),③事例管理(16.5%)の順となった.考察と結論:医療機関における産業保健活動として,過重労働対策を含む労務管理・働き方改革,メンタルヘルス対策への取り組みが多く実践されていた.特に,メンタルヘルスにおける一次予防対策と過重労働における一次予防対策を併せて実施している点,外部の産業保健機関,院内の各種委員会,産業保健専門職とが連携し産業保健活動が進められている点が認められた.厳しい労働環境にある医療機関においても,当面の課題に対処しつつ,医療従事者の健康と安全に関する課題を包括的に解決できる具体的な実践が進められつつある.また,各院内委員会や外部専門家との連携によりチームとして行う産業保健活動の進展が,益々期待される.