著者
大塚 雄一郎 根本 俊光 岡本 美孝
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.376-381, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
6

単純ヘルペスウイルス(以下HSV)初感染症は症状から歯肉口内炎型(単純疱疹性歯肉口内炎)と咽頭扁桃炎型(ヘルペス性咽頭炎)の2つに分類される。前者は歯肉腫脹や口腔の粘膜疹・アフタを生じ,後者は咽喉頭に多発する有痛性の粘膜疹・アフタと高熱のため全身状態が不良となる。HSV初感染症の診断には血清抗体価が有用であるが,HSV-IgMは発症早期には陽性化しないことに注意が必要である。その点に注意して診断した5例の小児の口腔・咽喉頭のHSV感染症を報告する。1例が男児で4例が女児で年齢は2から17歳であった。4例が歯肉口内炎型,1例が咽頭扁桃型であった。後者の咽喉頭病変の把握に喉頭ファイバースコピーが有用であった。全例で38℃以上の発熱を認め,4例が咽頭痛を訴え3例は食事摂取が困難であった。2例は外来で3例は入院加療とした。5例で抗HSV薬を投与し,1例は抗菌薬も投与し後遺症なく治癒した。
著者
佐々木 信幸
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.277-284, 2022-03-18 (Released:2022-06-21)
参考文献数
29

新型コロナウイルス感染後に多彩な神経学的症状を中心とする後遺症が高率に続発し,long COVIDとして社会問題化している.強い疲労感やさまざまな認知機能障害,brain fogと呼ばれる脳に霧がかかったようになる症状を呈し,思うように日常生活・社会生活が送れなくなる.これらの症状は過去のパンデミックでも認められ,筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群と関連づけて研究が進められている.原因は判明していないが,感染を契機に炎症反応性・自己免疫性応答として脳神経変性が生じ,特に前頭前野・上縦束由来の症状が出現する可能性が示唆されている.治療法は確立されていないが,反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)による脳局所賦活が有効である可能性がある.
著者
山口 勝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.30, 2005

1.はじめに新潟県中越地震直後の震災番組(2日後のクローズアップ現代と1週間後のNHKスペシャル)で、主に地震と土砂災害のメカニズムの部分の制作に携わった。災害報道には、災害の事実を伝えるだけでなく、2次的な災害を防ぎ、次の災害に備える視点が求められる。その番組制作過程で"地理学の視点"の大切さを感じた。「自然と人々の暮らしを見つめる学」としての地理学の視点である。2. 「余震はいつまでつづくのか?」被災者の不安に地震のメカニズムから答えられたか?_から_クローズアップ現代_から_地震を起こした断層は、既知の活断層か?断層は地表に現れているのか?まず、この科学的関心から取材を始めた。いち早く現地入りし、地理学の視点で断層調査を行った名古屋大学鈴木康弘教授・東洋大学渡辺満久教授から"小平尾断層で、地表変位の証拠を確認"の報を頂いたのは、番組放送の3時間前。どこよりも早くスクープとして報道することができた。さらに、震度6強(後に震度7も)が、約1時間で3回も起き、その後も強い余震がつづいた新潟県中越地震。「なぜこんなに強い余震が多いのか?いつまで余震はつづくのか?」被災者の不安・関心はそこに向かった。市民感覚から言えば、今回の地震は、"強い余震が多い特殊な地震"である。それに答える地震メカニズムが期待された。しかし、専門家にあたっても、なかなかこれという答えがみつからなかった。多くの地震学者は「震源が浅いのだから、深い地震では感じないような余震まで地上で大きい揺れとして感じる。内陸地震の余震のパターンとしては、決して特殊ではない」と答えた。確かに正しそうだ。しかし市民感覚とは乖離している。視聴者のなぜには答えているのか?また、ある地震学者は「これまで断層活動がなかった場所で初めて滑ったので、摩擦が大きくずれにくかったので、その分、余震が多いのでは」と答えた。今回の地震が特殊であるという立場からのコメントである。しかし、地形・地質学的には、新潟県中越地方はもっとも有名な活褶曲帯であり、地表に現れた活断層だけではなく、地下に多数の断層が存在している。決して"これまで断層活動がなかった場所"ではない。むしろ地殻変動が激しい場所である。さらに取材を進めた結果「震源が浅いために余震の揺れを強く、多く感じる。さらにこの地域は地下構造が断層や褶曲があって複雑で、堆積物も柔らかいため、余震が誘発されやすい。今後も強い余震に注意する必要がある」という、この地域の地形・地質の特殊性をふまえたコメントを地震の専門家にお願いした。報道は、短時間で各分野の専門家の情報を理解、評価し、素人の視点で判断していく仕事だが、今回の判断は正しいかったのだろうか?3.「自然風土との共生を破壊した災害」_から_NHKスペシャル_から_ 「春の棚田、錦鯉、そして牛の角つき」。番組は山古志村の美しい風景とそこに暮らす人々のシーンから始まった。今回の地震では,地すべりや崖崩れなど"地震による土砂・地盤災害"が被害を大きくした。それまで暮らしを支え守ってきた棚田やため池が、各所で崩れ村は孤立した。土砂が川を堰き止め,集落も灌水した。自然地理学的には、"構造性地滑り地帯"として知られてきた地域である。第三紀の未固結な泥岩や砂岩が互層をなし、断層や褶曲の影響で地層が切り立っている。春の雪解け時期には地滑りがおきる。この自然環境・風土に対して、人々は地すべり地に棚田をつり、あぜ塗りや水路を管理することで地下に浸透する水分を調整して地すべり災害を防いできた。こしひかりの棚田も,錦鯉の池も、豪雪と地すべりという自然環境・風土に対して人々の知恵と営みが生んだ共生の風景なのである。まさに、人文・自然地理学融合のフィールドと言っても良い地域である。番組の土砂災害メカニズパートでは、この地形・地質に、直前の台風で、たっぷりと水が供給され地震で大地が揺すられることで、土砂崩壊が起きやすくなったという、再現実験を行った。しかし、科学的解説と再現実験だけでは番組が、流れなかった。冒頭の映像にあるような、人文地理的視点のシーンを挿入して初めて番組全体が流れたのだ。災害をメカニズムだけでなく、風土や人々の暮らしとの関係でとらえる「地理学の視点」、いわば災害地理学の視点は、番組づくりだけでなく、長期的な防災対策や街づくり、国づくりへのヒントを含んでいると感じる。
著者
藤本 眞克
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.592-595, 1992-06-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
7
被引用文献数
1

われわれが日常使っている時刻の基準となるのは,世界各地の原子時計の統計的平均として作られた国際原子時である.基準時刻は相対性理論によって座標時として定義され,セシウム原子時計を主とする原子詩計群,およびこれらを高精度で相互比較するためのGPSを利用した時刻比較法によって,国際的な時刻決定が行われている.関連した話題をいくつか紹介する.
著者
稲垣 暢也
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.396-401, 2016-03-10 (Released:2017-03-10)
参考文献数
10
被引用文献数
3 2
著者
安野 史彦
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.36-43, 2022-03-25 (Released:2022-05-06)
参考文献数
22

脳の障害や変性疾患に伴う炎症反応に応じて,グリア細胞は活性化し,炎症性サイトカインの関連遺伝子とともに,18 kDa translocator protein(TSPO)とよばれる受容体の発現が促進される.生体内におけるグリア細胞活性化の評価のために,TSPOに特異的に結合するPET放射性薬剤が開発され,これを用いたTSPO-PETイメージングが神経炎症の評価に使用されてきた.本稿では神経炎症とグリア細胞の活性化について論考し,TSPO-PETイメージングの開発状況について記述し,自験例を含めADおよびAD前駆状態におけるPET炎症イメージングから得られた知見について検討する.

3 0 0 0 OA 漆と高分子

著者
宮腰 哲雄
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子 (ISSN:04541138)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.608-613, 2007-08-01 (Released:2011-10-14)
参考文献数
47

漆は植物から得られる塗料・接着剤である。漆の接着力を利用して漆の塗りものに金粉をまきつけた蒔絵は繊細で豪華であり,日本独特の漆芸技法でつくられた芸術品である。この蒔絵が16世紀後半にヨーロッパに輸出され王侯貴族を魅了しジャパンと呼ばれた。このような漆工芸品をヨーロッパでもつくるために塗料が開発され模造漆がつくられ,塗装技法についても大きな影響を与えるなど日本とヨーロッパの文化交流があった。
著者
家入 一郎 樋口 駿
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.231-235, 2009-02-01 (Released:2009-02-01)
参考文献数
12
被引用文献数
5 4

Intra- and inter-ethnic differences in pharmacokinetic and pharmacodynamic profiles of clinically relevant drugs are important issues not only for scenes of appropriate drug use in clinical settings but also for those of the drug development. Pharmacogenomics is extremely useful for understanding these racial differences. In this presentation, I will introduce pharmacogenomic concepts (e.g., single nucleotide polymorphisms (SNPs) and haplotype) for interpretation of racial differences in some drugs; pharmacogenomics of drug transporters such as OATP1B1 (organic anion transporting-polypeptide 1B1) and OCT1 (organic cation transporter 1) in pravastatin, metformin, and rosuvastatin will be discussed as model drugs.
著者
栗田 太郎
出版者
独立行政法人 情報処理推進機構 ソフトウェア高信頼化センター
雑誌
SEC journal (ISSN:13498622)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.34-39, 2011 (Released:2012-07-03)

モバイルFeliCaの開発で実施した、形式手法の一つであるVDMを用いた形式仕様記述の使用経験と知見に対する質問と回答について紹介する。
著者
廣川 俊二 福永 道彦
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.15-26, 2014 (Released:2017-02-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

和式生活では様々な座位動作が行われるが, これらの動作時の下肢関節のキネマティクスを体系的に計測した研究例は少ない. 本研究では, 健常成人男子10名, 同女子10名を対象に, 三次元磁気式位置計測センサーを用いて, 正座を初め, 様々な座位動作中の股関節と膝関節の屈曲角の時間変化を計測し, 各動作中の関節角の時間変化パターンの特徴や, 最大屈曲角, 股関節と膝関節の屈曲角変化の相関関係などを求めた. その結果, 股関節の最大屈曲角は立位靴下着脱での157.5±20.4°, 膝関節のそれは上肢の介助なし, 片脚から踏み出して正座を行う際の157.1±10.0°であること, 座位状態よりも座位動作や起立動作の過程で最大屈曲角を示す動作が多いこと, 股関節と膝関節の屈曲角変化には強い相関性が認められることなどの点を明らかにした.
著者
守谷 順 丹野 義彦
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.123-131, 2007-03-31 (Released:2010-10-13)
参考文献数
45
被引用文献数
4 3

本研究では,社会不安に見られる脅威関連刺激に対する選択的注意が,刺激からの注意の解放の欠如によるか検討した。社会不安高群と社会不安低群を選出し,実験を行った。プライム刺激には社会的脅威語,中性語,記号を用い,画面中央に100 ms,または800 ms提示した。その後,ターゲット刺激がプライム刺激の左右の一方に提示されるので,実験参加者にはプライム刺激を注視しながらターゲット刺激の位置弁別をキー押しで判断するよう求めた。結果,社会不安高群は社会不安低群に比べ,社会的脅威語を800 ms提示時に反応時間が遅延した。また,刺激提示時間が800 msでは,社会不安高群は中性語・記号よりも社会的脅威語で反応時間が遅れた。しかし,刺激提示時間が100 msの際は,社会不安高群と低群の間で差はなかった。社会的脅威刺激が800 ms程度長く提示されると,社会不安高群は刺激からの注意の解放が困難であることが明らかになった。
著者
SPRING Ryan
出版者
The Japan Association for Language Education and Technology
雑誌
外国語教育メディア学会機関誌 (ISSN:21857792)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.1-24, 2023 (Released:2023-10-18)

Automatically calculated measures correlated with L2 productive skill can be useful in rating speaking and writing, but many can be too complicated for L2 teachers and learners to understand, some are overly topic-specific, and others exhibit too much multicollinearity to aid predictive models. Therefore, novel measures of L2 productive skills that are relatively simple and valid across topics are still required. This paper examines the use of measures based on the number of discourse markers that signal a writer is providing evidence or details for main ideas. I created an automated tool that counts these words and phrases, and then calculates several transformations, finding that counts of two discourse marker lists (SDM and IDM scores), but not transformations were predictive of L2 writing scores and TOEFL ITP® scores for L1 Japanese EFL learners across two data sets with different writing topics. Furthermore, I found that these measures could add a small amount of power to a predictive model when combined with other measures of length and complexity and that this tendency was steady across the data sets. However, the results also indicate that the two lists of discourse markers were quite different and that the creation of a new master list that combines the best elements of both would be helpful for both EFL teaching and rating in the future.
著者
Kinuyo Yoneya Junji Takabayashi
出版者
Japanese Society for Plant Cell and Molecular Biology
雑誌
Plant Biotechnology (ISSN:13424580)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.409-416, 2014-12-25 (Released:2015-02-27)
参考文献数
55
被引用文献数
5 42

When exposed to herbivore-infested plant volatiles or volatiles from artificially damaged plants, intact plants enhance their defense against herbivores. This phenomenon is called plant-plant communication. Here, we outline studies on plant-plant communication from both ecological and plant physiological perspectives. Regarding the ecological perspective, we give an overview of studies showing that plant–plant communication affect direct and indirect defense levels of exposed plants, and herbivore performance on exposed plants. Cases of kin selection in plant–plant communications and intra-plant communication via airborne signals are also summarized. Regarding the plant physiological perspective, we give an overview of studies that showed specific responses of receiver plants to a volatile molecular species, to different configurations of a volatile molecular species and to blends of volatiles. Furthermore, we review the signaling pathways involved, priming, sensitivity, and how plants receive volatile compounds in plant–plant communications.
著者
中瀬 明男
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.1992, no.454, pp.1-9, 1992-09-20 (Released:2010-08-24)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3
著者
鈴木 直樹
出版者
日本スポーツ運動学会
雑誌
スポーツ運動学研究 (ISSN:24345636)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.157-171, 2022-12-26 (Released:2023-10-16)
参考文献数
32

The purpose of this study is to determine the general movement technique for control in pitching, based on the analysis of the personal technique of individual “A”. As a first step, this study analyzes the execution of the “movement” and “mindset” behind them as performed by individual “A”. Next, it examines the adequacy and effectiveness of the “movement” and “mindset” while explaining how confidence in this method was achieved. As a result of this analysis, two effective methods of “movement” and “mindset”were achieved from individual “A”.The first is the movement to leave the glove side arm when shifting the weight to the home base side to prevent “early torso rotation”. It was by chance during the match that “A” realized “early torso rotation” led to failure of “control”. After that, while focusing on preventing it and practicing repeatedly, “A” gradually became convinced that preventing “early torso rotation” was essential for “control”. In this process, “A” also noticed that the movement to leave the glove side arm when stepping to the home plate side is effective in order to accomplish this. Now, this is an essential movement for “A”.The second is the movement to tilt the knee of the pivot leg towards the home base side, which is effective for increasing strength in the direction of home base to prevent “early torso rotation”. This is based on the “mindset” that if the strength toward the home base is weak when stepping forward, the pitcher will rely on the power of the upper body. Which will make “early torso rotation” more prone to occur. This “mindset” was also something that “A” realized through repeated trial and error, focusing on suppressing “early torso rotation”. “A” now firmly believes that it is effective to tilt the knee of the pivot leg to the home base side in order to increase the strength in the direction of home plate.
著者
石黒 千晶 東南 裕美 安斎 勇樹
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会研究報告集 (ISSN:24363286)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.3, pp.47-52, 2023-10-16 (Released:2023-10-16)

創造性の発揮は企業組織にとって喫緊の課題である.近年,海外では創造性に関する自信を示す創造的自己効力感が実際の仕事の場での創造的パフォーマンスに影響することが示されている.本研究では企業の従業員と上司を対象にして質問紙調査を行い,従業員個人の創造的自己効力感とチームレベルの創造的自己効力感が上司による創造性評価に与える影響の違いを検討した.
著者
齊藤 愼一 海老根 直之 島田 美恵子 吉武 裕 田中 宏暁
出版者
The Japanese Society of Nutrition and Dietetics
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.317-332, 1999-12-01 (Released:2010-02-09)
参考文献数
54
被引用文献数
2 2

エネルギー所要量は栄養所要量の基礎とされている。幼児期から高齢期まで生涯にわたり健康で活力のある生活を送るには, どれだけ食べればよいかを考えることに加えて適切な運動を生活に取り入れることが重要である。一方, 激しいトレーニングを行うスポーツ選手では, 不適切なエネルギー摂取は競技成績の低下につながりやすい。このような点から, 我が国に限らず世界各国で1日のエネルギー消費量の適正な測定法に関心が集まっている。二重標識水 (Doubly Labeled Water; DLW) 法は, エネルギー消費量測定法の比較的新しい方法であり, 実験室内でも実験室外でも幅広く使用できる。日常生活状態のエネルギー消費量を測定できるゴールドスタンダードであり, 得られた値はより実際に近い状況でのエネルギー消費量の基準となると考えられている。しかし, 使用する安定同位体の酸素-18 (18O) の価格及び分析機器が高額なので, 多数の被験者を用いる実験や疫学的調査あるいは教育プログラムへの応用には制限がある。ここでは, この原理と実際の測定について解説し, 加えて健康づくりの運動やスポーツへの応用についても述べた。