著者
三島 憲一
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

多系的近代化、選択的近代化、交錯的近代化の観点から、西欧各国および東アジアにおけるきわめて多様なニーチェ受容を再整理した。多様な受容は特にファシズムの過去を持つか持たないかに大きな分かれ目があることで区別されることが明らかになった。また、ファシズムの過去を持つ国々においては、ナルシシズムが美的ナショナリズムと結合する触媒にニーチェがなったことがあきらかになった。
著者
星野 英一
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の結果から、以下の結論を導く事ができると思われる。(1)日本の教育援助が,それだけで受取国における教育の普及に貢献するとは断定できないが、他国との教育援助協調を通して、受取国における教育の普及に貢献する度合いを高める事ができる。(2)教育援助協調は、供与国の政治的・経済的な利益や受取国の開発ニーズなどが絡み合った政治的な過程の結果として実施されている。
著者
藤石 貴代
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は,1940年代前半期の朝鮮半島で唯一,発行を許可された月刊文芸誌『国民文学』(1941.11~1945.5通巻39号)誌の編集者であった金鍾漢の「国民文学(論)」を,日本帝国主義に対する抵抗か屈従(親日)かの政治的二項対立からの評価ではなく,朝鮮文人たちの朝鮮(語)文学存続のための試論として捉え直し,その内容と変化を明らかにすることである.2015年度から2016年度にかけては,在朝日本人作家(則武三雄)による同時代評に着目したが,2017年度には,「国民文学(論)」の存立が朝鮮半島に限定されるものでなく,日本内地の「地方」においても,変革を余儀なくされる戦時体制下の文学運動として把握された例を,戦前・戦中・戦後を通じて新潟で発刊された詩誌『詩と詩人』の調査により確認した.地方から大政翼賛会や放送局に「献納」された「愛国詩」の朗読運動に着目し,日本放送協会編『愛国詩集』(1942年)等に掲載された詩篇の調査を行った.調査の過程で,『詩と詩人』編者の浅井十三郎が,「愛国詩運動」としての「朝鮮の“國民詩歌”」に関心を持っていたことが明らかになった。『国民詩歌』は朝鮮文人報国会の機関誌であり,後に(1944年10月)『国民文学』と同じ発行所から『国民詩人』として刊行されることになる.2015年度に,『国民文学』主幹であった崔載端(1908-64)の恩師であり,英文学者で詩人の佐藤清(1885-1960)と浅井十三郎との交流を指摘したが,両者の接点をあらためて確認した.
著者
広渡 清吾
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、グローバル化の下で、先進諸国にとって共通の課題となっている国際移住(international migration)について、それに対する政策と法制度の対応をドイツと日本を対比しながら検討し、今後の日本の政策的課題を明らかにすることを目的とした。現代の国際移住は、(1)労働移住、'(2)家族の後追い移住、(3)難民の3つに大別される。移住は、一時的なものと継続的なものの両者を含むが、継続的なものに関して、受け入れ国の政策的、法制度的対応がとくに必要になっている。移住に関わる政策においては、受け入れ国の対応体制を求める移住者の側の視点と、他方で労働市場政策および人口政策を勘案する受け入れ国の側の視点2つが絡み合っている。ドイツについては、2004年に成立した移住法(Einwanderungsgesetz)の分析を行った。同法の目的および法システムの編成は、国際移住の基本カテゴリーへの対応、移住者側の視点および受け入れ国側の視点の両者の顧慮、なちびに定住化する移住者の社会的統合措置へのシステム整備などにおいて、国際移住に関する法制度を論じるための準拠モデルとみなせるものとなっている。ドイツの立法動向は、EUの政策動向と結びつけて論じる必要のあることが研究の過程でいよいよ明確になってきたので、国際移住に関するEUの政策と法制度についても検討した。日本政府は、この10年間、もっぱらその関心を国内の景気回復、行財政の効率化に向けて外国人労働者問題を重要な政策的課題としてとりあげることがなかった。それゆえ、ドイツやEUの政策的制度的議論に比すべき展開がみられない。このなかで日本経団連の外国人労働者の受け入れに関する政策提言が注目すべきものである。また、アジア諸国との経済連携協定の締結は、労働移住・国際的人的交流のネットワークの形成の展望と関連づけて議論されており、今後の重要な検討材料である。移民政策は社会の少子化との関連で日本、ドイツまたEUでも論じられている。移民政策が少子化をくいとめることができるかどうかは、今後の一層の検討を要する課題である。
著者
吉田 康夫 吉村 文信 永野 恵司 長谷川 義明
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

インドールなどの代謝産物は、細菌のバイオフィルムの形成に影響を与える。本研究課題では、歯周病細菌のインドール産生酵素であるトリプトファン分解酵素についての研究を行った。まず、歯周病細菌の一種であるPrevotella intermediaのトリプトファン分解酵素を精製して、その酵素学的な性質を明らかにした。また、22種のPrevotella種のインドール産生能および関連遺伝子の有無にについて検討を行った。次年度以降は、環状ジヌクレオチドである、Cyclic-di-GMPの合成タンパク質と分解タンパク質に着眼して、それらの酵素を精製し、その機能について検討を行った。
著者
成田 龍一 竹内 栄美子 鈴木 勝雄 高 榮蘭 丸川 哲史 黒川 みどり 坪井 秀人 島村 輝 戸邉 秀明 渡辺 直紀 東 由美子
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

高度成長文化研究会を定期的に開催し各自の成果を共有した。7月9日には、研究代表者・成田龍一と研究分担者・坪井秀人が、1960年前後の世相と社会運動をめぐって問題提起をした。また、2018年3月23日に『思想』「<世界史>をいかに語るか」(同年3月号)をとりあげ合評会をおこなった(WINCとの共催)。こうした研究活動の成果は、アメリカの研究者との研究集会によって還元した。6月9日~12日まで、UCLAでの国際ワークショップ「トランスパシフィック ワークショップ」に、成田、研究分担者・渡辺直紀、同・高榮蘭、岩崎稔、鳥羽耕史、坪井が参加、報告した。また、成田と岩崎、坪井は8月30日~9月3日まで、EAJS(ヨーロッパ日本学会)リスボン大会に参加し、報告し議論した。また、9月21日~23日、韓国・ソウルに国際シンポジウムに参加、成田、渡辺、坪井、岩崎、高、および、研究分担者・島村輝、同・竹内栄美子が報告した。10月25日~28日まで、アメリカ合衆国でおこなわれた国際シンポジウムに、成田と岩崎が参加し報告・討議をおこなった。2018年3月2日~4日には、国際日本文化研究センターが主宰する国際シンポジウム「戦後文化再考」で成田が報告したほか、島村、高、研究分担者・戸邉秀明が参加した。そのほか、成田は、琉球大学で開かれた戦争社会学会 4月22-24日)で報告したほか、日本社会文学会(10月4日、5日)で、井上ひさしについて報告をおこない、成果を還元した。12月17日には、シンポジウム「ジェンダー史が拓く歴史教育」(奈良女子大学)で報告した。また、各自が出版活動をおこない、随時、成果を公表している。高度成長の思想史を考察し、歴史学、文学史の領域で成果を着実に公表している。文献史料とあわせ、本研究では重要な核となる大衆文化にかかわる資料も、DVDをはじめ順調に収集され前進している。
著者
福渡 努 大貫 宏一郎
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

食品栄養学的観点から,トリプトファン代謝産物キヌレン酸産生の制御による高次脳機能低下の予防・軽減を目指した.細胞・組織レベルの研究により,キヌレン酸産生抑制作用をもつアミノ酸10種を見出し,その作用機構を明らかにした.動物実験により,アミノ酸関連化合物の摂取がキヌレン酸産生を抑制し,ドーパミン機能を改善することを明らかにした.行動実験により,キヌレン酸産生増加によって社会行動が低下することを見出し,食餌のアミノ酸組成を変えることによってこの行動異常を抑制できることを明らかにした.以上の結果より,アミノ酸摂取によってトリプトファン代謝を制御し,高次脳機能を調節できる可能性が示された.
著者
渡邉 裕美子
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

屏風歌は平安初期の10世紀初頭から11世紀半ばまでの約150年間を最盛期として、その後衰退して使命を終えたというのが今日の和歌史の定説である。しかし、天皇の代替わりに作成された大嘗会屏風和歌は、15世紀に応仁の乱で中絶するまで作られ続け、一般の屏風歌も、衰退から約130年を経て復活し、文治6年(1190)の『女御入内屏風和歌』を皮切りに、いくつかの大規模な屏風歌・障子歌が新古今時代を中心に作られ、その後、中世の間も途切れることはない。本研究では「使命を終えた」とする定説をくつがえすべく、中世・近世期までを視野に入れて屏風歌の史的展開を追い、和歌史における位置づけを明確にすることを目指した。研究計画に3点挙げたうち、「平安初期屏風歌の衰退の原因と中世初期における復活の契機」の検討については、大規模屏風歌が権力の象徴として機能していたこと、復活の契機もまた、かつての権力の復活を願う摂関家の復古思想によることを明らかにした(『歌が権力の象徴になるとき-屏風歌・障子歌の世界-』平成23年、1月の刊行で年度としては前年度)。同時に、平安時代の屏風歌・障子歌の衰退期である院政期には、屏風のような大きな絵ではなく、小さな歌絵が盛行したことも明らかにしたが、歌絵には絵画や工芸品だけでなく装束の例もある。その一例が建春門院中納言著の『たまきはる』に見える。そこから派生した問題として、建春門院中納言の事蹟を追った論考を発表した。中世の屏風歌復活後にその社会的な意味に大きな関心を示し、大規模屏風歌・障子歌を催しているのは後鳥羽院で、そこで歌人として、また院の意を汲んで全体の調整者として活躍したのは定家であった。後鳥羽院主催の名所障子歌『最勝四天王院障子和歌』は、日本国全体の統治の象徴として編まれている。一方、定家の息為家には、ごく個人的な依頼による屏風歌が二種残されている。そのうち『祝部成茂七十賀屏風歌』は近江国のみの名所屏風歌で、『最勝四天王院障子和歌』と対照して考えると、名所の選択・詠歌方法などに私的性格が明確に現れている。この屏風歌の問題については、近時、発表予定である。また、中世に入ると、歌人をめぐる歌壇状況や詠歌機会などに変化が見られ、そのことが天皇周辺での屏風歌制作にも影響を及ぼしていると考えられる。後鳥羽院時代に見られたような精鋭歌人による競作後、厳しい撰歌が行われるような例は見られなくなり、屏風歌の制作により協調と融和が強調される。こうした様相は、中世に盛んになった歌会様式である続歌と共通する。続歌の成立や特質についてはまだ不明な点が多いため、屏風歌との関係を論じる前に続歌の成立についての論考を発表した。
著者
田島 智子
出版者
四天王寺国際仏教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

平安時代中期における屏風詩歌資料集を作成した。勅撰集・私撰集・私家集・日記などに散在している屏風詩歌を集成し、整理を行ったのである。ただし、詩の資料はごくわずかであるので、ほとんどが屏風歌である。また、屏風詩歌ではないが、歌絵などの絵に詠み合わされた歌もできるだけ集成した。この資料集は今後の屏風歌研究に大きく寄与するものとなろう。その内訳は、古今集時代については、成立年代や成立事情が判明するものが74種類あり、その総詩歌数は709首であった。成立年代や成立事情が不明であるものは、10種類35首であった。後撰集時代については、判明するものが41種類684首、不明であるものは39種254首である。拾遺集時代については、判明するものが7種類176首、不明であるものは37種類106首である。以上のような状況の三つの時代を通覧した結果、おおまかに以下のことが指摘できる。これらは、屏風歌の歴史を考える上で、今後重要な指標となるだろう。1、屏風に歌を押すことがもっとも頻繁に行われたのは、古今集時代である。2、一つの屏風について歌を推す場面数が増えたのは、後撰集時代である。3、一つの屏風について複数の歌人に詠歌させることが増えたのも、やはり後撰集時代である。つまり、後撰集時代に屏風の大規模化が進んだのである。4、屏風に歌を押すことが激減したのは、拾遺集時代である。5、拾遺集時代の屏風は、大規模なものが多い。つまり、拾遺集時代には大規模な屏風がごく少数、制作されたのである。6、拾遺集時代の屏風のほとんどに、藤原道長が関わっており、道長が目的をもって積極的に屏風歌に関わったものと思われる。
著者
寺澤 悠理
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

感情は身体内部と外部の環境情報の統合的な理解によって生じると考えられる。しかし、脳と心におけるその過程は十分に解明されたとは言い難い。この問題を解くために、本研究では、女性の性周期に伴う自律神経活動の変動に着目した。この変動が、感情の認識と制御に及ぼす影響とその機序を、脳における反応の変化を指標として理解する。具体的には、①1ヵ月間の実生活における自律神経活動の変動と感情認識・制御の関係の実態収集と、②自律神経機能計測と同時計測による機能的MRI研究を実施する。
著者
高村 竜平
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、1940年代の調査対象地域に関する文献調査を中心に行った。とくに朝鮮大学校図書館に所蔵されている、「布施辰治弁護関係資料」から、大館市周辺で在日朝鮮人が密造酒にかかわり起訴された裁判の弁護記録を入手し、現在解読中である。本資料には取り調べや裁判のやりとりだけでなく、来日した経緯や生活の状況に関する聞き取り調査の記録もあり、多方面から分析可能なものであることが確認できた。また、在日朝鮮人にかぎらず戦後のこの地域の歴史をとくに鉱山業の興廃を通じて調査し、そのうち小坂町の事例を中心として2月に発行した中田英樹との共編著『復興に抗する』(有志舎)のなかの第5章「被災地ならざる被災地」として収録し、総合研究大学院大学の公開講演会での発表もおこなった。さらに、大館市の事例を中心とした論考は現在印刷中であり、平成30年度内に発行される予定である。ただし、筆者自身の体調不良や、調査対象者の体調不良などが重なり、インタビュー調査はうまくいっていない。来年度以降の研究計画の変更が必要な状態で、文献調査を中心とした研究とする予定である。
著者
佐藤 学
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度においては、4月から10月にかけて、中国、香港、台湾、韓国の研究者の訪問交流、および、中国、韓国、台湾への訪問調査と研究交流を行い、10月20日と21日に韓国慶尚南道教育研修院において第5回学びの共同体国際会議を開催した。この国際会議には、英、中、台湾、香港、韓国、日本、ベトナム、インドネシア、シンガポールなど計10か国350名の教区研究者と教育行政関係者と教師が集まり、本プロジェクトを主題とする「学びの共同体の授業改革と学校改革」について研究と実践の交流を行った。この第5回国際会議の中心主題は「民主主義」であり、教室において生徒を「学びの主人公」にする教育関係のあり方、民主主義社会を準備する学校改革のあり方、教師の専門家共同体における民主主義の重要性、教師政策と学校行政における民主主義的な統治のあり方、学校と地域社会における民主主義的な連帯のあり方が、上記10か国における「学びの共同体」の改革の実践に即して検討された。さらにこの第5回国際会議にひきついで、名古屋大学で11月24日から26日に開催された世界授業研究学会の大会においては、「アジアの学びの共同体」をテーマとする特別シンポジウムが開催され、アジア諸国から350名が参加して、このプロジェクトの主題にもとづく研究交流が行われた。そのほか、11月にはインドネシア、12月には中国と台湾において本プロジェクトに関するシンポジウムとワークショップ、11月にはJICAのプログラムによるインドネシアの研究者による「学びの共同体」の訪問調査と研修も行われた。若手研究者の育成においても、10月の国際会議、3月の訪中調査などを実施し、アジア諸国の「学びの共同体」を推進する若手研究者の研究交流を実現した。
著者
岸田 晶夫 木村 剛 橋本 良秀 中村 奈緒子 舩本 誠一
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

優れた生体適合性・生体機能性を有する脱細胞化生体組織を規範として、新しい生体材料である人工生体組織(Tissueoid:生体組織のようなもの)の概念を提唱し、その創製を通じてバイオマテリアルの設計概念および作製プロセスの獲得を目指した。脱細胞化組織の特性の要因のひとつとして生体組織の微細構造があることを見いだした。その要素をコラーゲンあるいは人工材料で作製した組織体に組み込み「Tissueoid」の開発概念を立証した。
著者
酒井 仙吉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

2009年、牛乳中に存在し、自己分解で過酸化水素を発生する低分子物質を発見したことを明らかにした。従来から牛乳中には過酸化水素分解酵素(ラクトパーオキシダゼ)とサイオシアネートの存在が知られ、過酸化水素が存在すると強力な抗菌機構が生まれる(ラクトパーオキシダゼ/過酸化水素/サイオシアネート抗菌システム)。今回の発見は過酸化水素の供給があることになり、乳房炎発症を低めると考えられた。しかしながら程度の実態は不明で、証明するには多くの乳牛で調べる必要があった。本年度(1年目)、230頭の乳牛から920検体の分房乳を採取し、過酸化水素水発生能と電気伝導度の違いによる異常性の関係を調べた。その結果は、「過酸化水素産生能の低い乳牛から高い割合で異常乳が出現する」ことを明らかに出来た。前年に報告した「乳房炎は過酸化水素産生能の低い乳牛に多い」とした結論と一致した。両者の結果から「過酸化水素産生能は乳房炎抵抗性と関係する」と断定でき、研究上と産業上で貢献できる大きな前進が見られた。さらに内因性物質であることから副作用は考えられず、過酸化水素産生物質は乳房炎治療薬として極めて有用と考えられた。申請書に記載した目的、過酸化水素産生物質の同定と構造決定が大きな意義を持つことになった。そのため生成を開始した。最初にゲルろ過で粗精製を行い、次にイオン交換クロマトグラフで精製した。ほぼ単一な状態にしたが、本物質は酸素存在下で分解することで、その後の精製は困難を極めた。
著者
落合 啓之
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

特殊関数論を他の分野との相互作用を意識しつつ展開することを探る挑戦的研究である。初年度である本年度は、まず、特殊関数として、Mittag-Leffler 関数やそれを拡張した一般ライト関数など、あまり馴染みのない関数の性質を調べた。特殊関数というと先行研究では超幾何関数やゼータ関数などがよく扱われているが、その範囲を超えていった場合にどのような性質が保たれ、どのような新しい現象が起こるのかをこれらの関数の族で検証していったものである。Uuganbayar(モンゴル国立大学) 並びに私の研究室の大学院生Dorjgotovと共同研究では、先行研究で得られている関係式を整理するとともに新しい関数関係式を与えることができ、それを論文として公表した。今後はこれらの関係式がなす代数構造があるかどうか、あるとしたら超幾何関数の昇降演算子のようなリー代数としての解釈を許すかどうかなどの発展が見込めるものである。特殊関数の由来として、新たに分数階の偏微分方程式の対称性の決定と、その対称性による変数分離の機構を考察した。群作用による多様体の分解だけでなく、独立変数の選択が分数階の微分の場合には、ドラスティックな変更をもたらすことに気づいたのが我々の研究の成果であり、この成果の副産物として、解の今まで知られていなかった表示を与えることに成功した。連立系に対する基礎方程式(係数関数に対する拘束条件)も新しく与えている。これは多数の未知関数を含む非線形の連立系であるが、帰納的構造を見出すことで幾つかの場合は係数関数と対称性のリー環を決定できている。このアルゴリズムが上手くいくカラクリを解明することは今後の課題である。
著者
寺尾 京平
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、臓器を物理的に切断し、1細胞サイズまで微小分割することで、立体的な臓器を空間的に「3次元分解」する新たな解析技術の確立を目指す。シリコンナノ加工技術により実現した独自技術であるシングルセルの一括切断技術をベースに、脳・腎臓等の様々な臓器を細胞レベルまで空間的に分割することで、多様な組成をもった微小臓器断片を得る。本年度以下の3項目について実験技術の構築と検証を行った。(1)生体から摘出した臓器を物理的に分割する刃状構造体(ナノブレード)を有した空間分画デバイスの製作:マウス臓器スライスをターゲットとして貫通孔を有したナノブレードアレイの作製条件、及び構造解析により強度に関する検討を行った。結果として、シングルセルサイズの貫通孔を有した様々なブレードアレイデバイスを完成させるとともに市販容器との適合性を考慮したチップ形状を実現した。(2)臓器サンプルへの正確なアプローチと確実な切断を実現する切断・送り機構の構築:押圧時に空間分画デバイスを臓器に確実にコンタクトさせるため、ナノブレードを保持する機構について開発を行った。また、操作性向上のためアタッチメント式で交換が容易なブレードデバイス脱着機構を考案した。(3)モデル臓器であるマウス脳・腎臓スライスを利用した空間分画の原理実証とイメージングによる分画状態の検証:マウス脳スライスをサンプルとして、空間分画を行い、各区画への薬液吐出時に隣接区画にリークがないことを確認し、それぞれの区画が独立した溶液層として利用できることを示し、細胞ライセートの逐次回収を実現した。
著者
野網 摩利子 谷川 惠一 小森 陽一 フローレス リンダ ドッド スティーブン テネフ ダリン ボーダッシュ マイケル
出版者
国文学研究資料館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

夏目漱石が中世ヨーロッパの文学・文化・思想、ならびに、欧米近代思想を学んだことにより、近代の枠組みに囚われない思考を有し、現代から見ても新しい小説と文学理論とを作り得たことを論証した。平成26年度にはケンブリッジ大学にて、また、平成28年度にはオックスフォード大学にて、アカデミックビジターとして在籍し、漱石留学当時の文献に基づいて本研究を進めた。英国およびヨーロッパでの招待講演、ならびに、国内外での国際シンポジウム主催のほか、単著『漱石の読みかた―『明暗』と漢籍』、単著論文「思想との交信―漱石文学のありか」【上】【下】、「漱石文学の生成―『木屑録』から『行人』へ」等、活発に成果を発信した。
著者
我部 政明
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、政権交代を介した米国のアジア外交の連続と非連続を、オバマ政権の推進したアジア重視のリバランス戦略の形成と展開をめぐるメカニズムから、説明することである。オバマ政権は、2009年1月に誕生し、従来の外交・安全保障政策とは距離を置き独自の基本的な姿勢として、このリバランス政策を位置づけた。しかし、この政策は米国の外交政策の基調とならなった。本研究は、このリバランス戦略が(1)なぜ外交政策の基調とならなかったのか、(2)リバンス戦略を進めた結果として何が実現できたのか、(3)次の政権の外交政策与える課題とは何か、などの問いに答えることである。上記の目的を達成するためには、戦後米国のアジア外交の軌跡をなぞるだけでなく、第1に政権交代によって変化した外交課題を生み出す各政権の外交政策の基調を明らかにしなればならない。第2に、民主党政権の継続となる政権交代そして共和党政権の継続となる政権交代、あるいは民主党から共和党へ、そして共和党から民主党へ継続とならない政権交代のぞれぞれの特徴を見出す必要がある。第3に、テロとの戦いを開始したブッシュ(息子)政権の誕生がもたらした米外交政策の基調を検討する必要がある。このようなオバマ政権を生み出す米国の国内政治と米国の対外関係に関する研究の整理が、不可欠である。それによって、オバマ政権が従来の外交・安全保障政策の何を変更しようとしたのが、明らかとなる。そして、なぜアジア重視のリバンス戦略を追求するのか、それを構成するものは何であったのか、そのための国内説得の論理を何であったのか、などを明らかに出来る。
著者
守屋 康充 飯笹 俊彦 横井 左奈
出版者
千葉県がんセンター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

肺癌症例の遺伝子発現情報の解析を行い、喫煙関連肺癌、特に肺扁平上皮癌において発現が亢進している遺伝子群、マイクロRNA(miRNA)群を抽出した。正常肺組織、肺腺癌と肺扁平上皮癌で比較検討したところ、扁平上皮癌の予後に関連するmiRNAを見出すことができた。マイクロRNA-mRNAのネットワーク解析から、これらのmiRNAの標的遺伝子が同定され、この遺伝子は予後に関連していた。これらの結果より喫煙関連癌、肺扁平上皮癌の発癌過程の解明、治療標的の開発に応用できる可能性があると考えられた。
著者
森 裕司 武内 ゆかり
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2014-05-30

牛乳は国民の健康に欠かせない重要な生鮮食料品であるが、牛乳を生産する乳牛の繁殖障害は年を追うごとに深刻化しており、その克服が喫緊の課題となっている。本研究では、従来のホルモン等を用いる方法に代わる新たな乳牛の繁殖障害の治療・予防手段を開発することを念頭に、フェロモンを活用するための基盤研究として雄牛フェロモン(Bull Pheromone)を同定することを目的とし、さらには天然フェロモンの分子構造に関する情報をもとに人工フェロモンを合成したうえで、容易に着脱可能なフェロモン徐放デバイスを開発し、雌牛の生殖機能に対する雄牛フェロモンの効果を検証する。こうした一連の研究により、牛の繁殖障害に対するフェロモンを用いた斬新な予防・治療方法を開発するための基盤技術を確立する。平成26年度には、現時点で雄牛フェロモンが存在すると考えられる雄牛の被毛採材を、(独)家畜改良センター(ホルスタイン種)および岐阜県畜産研究所飛騨牛研究部(黒毛和種)にお願いして入手した。これらの被毛サンプルを分包し、東京大学附属牧場および東京農工大学(ホルスタイン種)と(独)畜産装置試験場および名古屋大学附属農場(黒毛和種)における雌牛の発情周期を同期化した上でそれぞれ卵胞期と黄体期に雄牛被毛を暴露し、その前後4時間について10分ごとの頻回採血を行った。残念ながら本実験途中で課題が廃止となったために、血液中の黄体形成ホルモン濃度を測定できず、現時点で雄牛フェロモン効果の有無は判定できていない。また、フェロモンを分析する上で不可欠となるガスクロマトグラフ質量分析計と水素発生機を導入し、分析のための基礎検討を行ったが、こちらについても課題廃止のために実際のフェロモン分析までには至っていない。