著者
吉田 敦也 堀尾 裕幸 山口 隆美
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、交流共感型先端VR遠隔医療システムとしてのハイパーホスピタル(超病院)の一部として、ISDNを経由した遠隔2点間で、医師と患者が、それぞれの3次元VR映像のエージェントを用いて面接を行なう電子問診システムのプロトタイプを試作した。平成6年度においては、シリコングラフィックス社のワークステーション「インディ」を中心とした(1)双方向映像通信システムを試作し、ISDN回線とEhtemetを用いた実験的な利用を試みた。平成7年度においては、(2) 3Dグラフィックエージェントを人間様の形状と非人間様(野菜など)の形状をベースに試作し、対話場面に必要な表情表出や動作を利用できるようにインターフェースを開発した。平成8年度においては、上記に構築したシステムとグラフィックエージェントなどを用いて、(3)模擬的な電子問診実験を行い、話し易さ、緊張感、行動の反響など対話におけるコミュニケーション特性について測定・評価した。本研究の全体的な成果としては、グラフィックエージェントなどの視覚的、聴覚的なリアリティが高いほど、コミュニケーション効果は低下する可能性が認められたことである。すなわち、高忠実な現実再生型の描画や音声合成は必ずしも、対話を促進する方向へでは機能しない傾向にあり、むしろ精細度を低下させた描画や電子音声の方が人間関係をメディエ-トしやすいのではないかと思われる結果を得た。また、動作レベルでは、電子面接中にグラフィックエージェントが表現する手足や体の動きが被面接者に反響することが明らかとなった。このことは、電子面接を行う際のグラフィックエージェントの非言語的行動が、被面接者に対して心理的影響を与える要因となることを示唆するものである。音声レベルでは、面接者の発話音声の周波数に非面接者に対して好印象を与える値があることを見いだした。特に、第一フォルマント周波数が平均的な成人の値よりも低い場合に、被面接者はその音声による質問に答えやすいと感じる傾向が認められた。このことはグラフィックエージェントの発話音声の特性が面接効果に影響を与えることを示唆するものである。以上の結果をもとに診察場面など医療環境における電子問診システムのヒューマンインターフェース設計について総合的な考察を試みた。
著者
臼井 正彦 薄井 紀夫 坂井 潤一
出版者
東京医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

ヒトぶどう膜炎におけるEpstein-Barr virus(EBV)の病因的関与を検討する目的で、原因不明のぶどう膜炎患者より得られた種々の検体を用いてEBV特異的抗体価の測定およびPolymerase chain reaction(PCR)法によるEBVゲノムの検索を行った。結果として、1)HLA-B27と強い相関を示すとされている急性前部ぶどう膜炎患者の中にEBV特異的抗体価の異常(VCA IgM抗体陽性)を示す症例を認めた。これらの症例はすべてHLA-B27陰性であり、新しい概念に属する一つの疾患単位として考えられた。2)ある種の網膜色素上皮症においてEBV特異的抗体価の異常高値および血中EBV感染リンパ球の増加を認め、EBVとの関連が示唆された。3)原田病患者の髄液から高率にEBV DNA並びにEBV特異的抗体を認めた。原田病の疾患感受性を規定しているHLA-DR抗原中のT細胞認識部位である第3超可変領域とEBV複製の際に感染細胞の核と細胞質に存在するnucleocapsidglycoproteinであるgp110との間に相同性の高いアミノ酸配列が存在することを文献的に見い出し、このアミノ酸配列を含む合成ペプチドに対する反応性(proliferation法)が原田病急性期患者のリンパ球において上昇していることを認めた。またこのことは、特に原田病患者においてEBVがなんらかの関連を有していることを示すものである。以上の結果から、ぶどう膜炎におけるEBV関与の可能性が示された。さらに上記疾患の発症機序解明にむけてのひとつのステップとして、正常眼内組織(死体眼)におけるEBVレセプター(EBVR)の発現の有無および部位についてEBVRを認識するモノクローナル抗体(OKB7)を用いて免疫組織学的染色ならびにウエスタンブロッティング法による解析を行った。その結果、網膜色素上皮及び毛様体の一部において、EBVRの発現が確認された。これにより、EBVが直接眼内に感染性を有する可能性が示された。
著者
熊谷 正朗
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では球面モータの動力評価、効率評価に必要な回転中のトルク計測手法を提案、実証した。従来のモータと異なり、球面モータは3自由度、すなわち三つの空間軸周りの回転の自由な組み合わせで回転でき、トルクも同様で、かつ両者の軸方向が同一とは限らない。そのため、従来は同時に測定する手法が見られず、開発中の球面誘導モータの性能評価、改良のために、6軸力覚センサと、機械的な球体の駆動装置の組み合わせにより実現した。
著者
小木 哲朗 新江ノ島水族館
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

イルカは、人間のトレーナーとの間でコミュニケーションを成立させているため、この原理を明らかにすることで、情報デバイスを介したイルカとのコミュニケーションを実現することが期待できる。本研究では、タブレット上にトレーナーのハンドサインの画像を提示することで、イルカに対して画像による指示をできるようにする学習実験を行った。その結果、学習不足と過学習を繰り返しながら、画像を認識していく過程を観察することができ、情報端末を介したイルカとのコミュニケーションに対する可能性を見出すことができた。
著者
園山 繁樹 柘植 雅義 洪 イレ 酒井 貴庸 倉光 晃子
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、知的障害特別支援学校に在籍する児童生徒の不登校について、主に次の2つのことを目的としている。第1に.知的障害特別支援学校における不登校児童生徒の実態を調査研究から明らかにする。第2に、知的障害特別支援学校において不登校になっている児童生徒の事例検討から、再登校や社会適応に向けた支援の在り方を明らかにするとともに、校内・校外における支援体制作りを提案する。平成29年度は主として以下の研究活動を行った。1.平成28年度に実施した知的障害特別支援学校を対象とした質問紙調査(不登校児童生徒の在籍状況や支援体制を明らかにするために、知的障害特別支援学校すべて(計865校)に質問紙を送付し、回収した)のデータを分析し、平成29年9月開催の日本特殊教育学会第55回大会でポスター発表した。現在、その詳細をまとめた論文を学術雑誌に投稿中である。2.知的障害特別支援学校において不登校になっている児童生徒の事例検討については、上記1の調査協力校10校を対象に実地面接調査を行い、不登校の児童生徒の状況の詳細、支援体制、具体的支援についてまとめた。その結果の概要については、平成30年9月開催の日本特殊教育学会第56回大会でポスター発表する予定である。3.知的障害児童生徒の不登校に関する先行研究のレビューを行い、その結果まとめた論文を学術雑誌に投稿中である。不登校の知的障害児童生徒を対象にした先行研究の数は非常に少ないことが明らかになった。
著者
磯瀬 沙希里
出版者
独立行政法人国立病院機構(千葉東病院臨床研究センター)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

神経障害性疼痛患者における病態評価として、表皮内電気刺激法を用いてAδ線維・C線維の選択的刺激を行い疼痛関連誘発電位を評価、その結果、神経障害性疼痛において有意なAδ/C振幅比の増大を認め、またAδ/C振幅比増大と疼痛症状の強さは関連を示し、Aδ線維からのC 線維に対する抑制の減少が疼痛機序の一因となりうる可能性が示唆された。表皮内電気刺激法を用いた疼痛関連誘発電位は、神経障害性疼痛の病態機序の推定及び客観的評価に有用な手法となり得ると考えられた。
著者
河村 顕治 加納 良男
出版者
吉備国際大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

PC12細胞から変異源処理によって細胞内シグナル伝達系に突然変異をもった特殊な神経細胞であるPC12m3細胞を開発した。PC12m3細胞は薬剤や様々な物理刺激に鋭敏に反応するので、抵抗性を示す細胞を見つけPC12m321細胞と命名した。PC12m321細胞はPI3Kに突然変異をもっていた。PI3Kは主としてインスリンによって活性化し、Aktを介してサバイバルの上昇や長寿遺伝子の活性化に働いている。PC12m3細胞に100 mAの電気刺激を30分与えたところ、増殖因子によるAkt活性を大きく抑制した。これは、電気刺激がAkt活性の抑制を介して長寿遺伝子FOXOの活性化に働くことを示している。
著者
宮下 敬志
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、アメリカにおける人種マイノリティ教育実践が、19世紀末以降に内外の植民地に転用していったことを明らかにすることを目的とした。研究の結果、19世紀半ばのハワイ先住民教育を参考に作られたアメリカ本土のアフリカ人・先住民(インディアン)学校における手作業教育偏重の教育実践が、官僚や教育者の移動や交流を通じて、フィリピンや日本の先住民教育などに地域を越えて転用していったことについて、歴史学的な実証分析の手法を用いることで明らかにすることができた。
著者
古賀 憲司 富岡 清
出版者
東京大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1990

ポドフィロトキシン系抗癌剤エトポシド2__ーはその糖部分の変換誘導体による活性強度増強、毒性の軽減が検討されている。本研究ではこうした手法に加えて、ポドフィロトキシン1__ー自体の骨格の注目し、新規含窒素骨格3__ーを設計し、その合成法の開発及び生物活性を検討した。3__ーは短工程、高収率、高立体選択的に合成できた。すなわち、d1ーあるいは光学活性なアミノ酸を還元、環化、ベンジル位の酸化、次いでトリメトキシベンツアルデヒドと縮合するとトランス体4__ーが得られた。シスートランス異性化及びベンジル位置換反応を経由して4__ーから3__ーおよびその誘導体の合成は容易であった。3__ーは期待通りin vivoさらにはin vitroで強い制癌活性を発現することが判明した。また、天然ポドフィロトキシン1__ーと同じ絶対配置を有する3__ーにより強い活性が認められた。これらの結果は含窒素骨格3__ーが新たなリ-ド化合物として多大な可能性を有していることを示すものである。
著者
武田 将明
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

イギリス18世紀の小説が、統御できない欲望への不安を様々な形で描いていることに注目し、この時代を代表する小説家が、それぞれ別の手法でこの問題に取り組んだことを、登場人物の名前の表記に注目することで論証した。また、上記の視点と最近の人類学の知見を組み合わせることで、一般的な文学史で小説に分類されない作品や、小説史の傍流に置かれている作品を組み込んだ、新しいイギリス小説史の構築への土台を築いた。
著者
金子 友美 芦川 智 菅井 さゆり 髙木 亜紀子
出版者
昭和女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

外周を道路で囲まれた都市の街区内には、通過交通の進入しない歩行者の空間が存在している場合がある。それは、外周道路に面して建築物が建てられていったとき、街区の中央部にできる閑地の利用であったり、あるいは街区をショートカットできる抜け道であったりする。本研究は、こうした都市の街区内に形成された歩行者の空間の役割と空間的効果について明らかにするためヨーロッパ都市を事例とし4回の現地調査を行い、224の事例について空間分析を行った。その結果、出入口の数、分岐数、吹抜の有無とその上空(天空・ガラス)が主要な要素として抽出された。
著者
藤田 和生
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本課題の目的は、こころの中に過去や未来を描く働きが、進化史の中でいつどのように発生したのかを、多様な動物種の行動の分析により明らかにすることである。29年度の主要な成果を述べる。「過去を想うこころ」に関する成果:1)これまでにイヌ、ネコで行われた偶発的記憶に関する研究を、手続きを試行錯誤しながらデグーとシリアンハムスターで実施した。その結果、デグーにおいて、傾向はやや弱いものの、これまでのイヌ・ネコ・ウマでみられた結果と同様、前回の訪問で妨害物によって食べることができなかった場所を再訪する個体が多くみられた。国際誌投稿に向け準備中である。「未来を想うこころ」に関する成果:1)フサオマキザルを対象に、2種の遅延時間が明示される遅延見本合わせ課題を行い、遅延時間の初期にヒント希求フェーズを設け、サルがヒント希求をした場合にのみ遅延時間終了直後に見本刺激を再度提示した。2個体中1個体のサルは、遅延時間が長い条件でより頻繁にヒント希求を行った。この結果は、サルが遅延時間の長さに応じて、自身の記憶痕跡が弱まることを予測して、準備行動として情報を希求することを示唆している。この結果は国内学会にて発表された。2)ハトを対象とした研究では、長期記憶課題遂行時に、これから行う課題の知識度に応じて適切なヒント希求を行うかどうかを検討した。結果、難易度の高い課題が到来するときの方が、難易度の低い課題が到来するときよりも、頻繁にヒント希求を行うことがわかった。鳥類であるハトが「近い未来」の自身の知識度を予測し、行動を調節する可能性を示している。この結果はIwasaki, et al. (2018)にて公表された。
著者
木村 大治 藪田 慎司
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は以下のように,5回の研究会をおこなった。■通算第7回目:2017年5月29日・藤田翔 産業社会における人と動物(豚)との関係 ・花村俊吉 合宿のまとめと報告:「規則性=ありえなさ」のアブダクションとしての挨拶から制度化されたヒトの挨拶まで ・藪田慎司 「挨拶」研究は何を目指すか:何に答えたいか ・参加者全員によるブレインストーミング 合宿(2017年3月19-20日)の議論の整理と展開 ■通算第8回目:2017年7月31日 ・坂井田瑠衣 相互行為基盤としての身体 ・幸田瑞希 共在状態における相互行為のダイナミズム ・居關友里子 別れの場面における言語的な挨拶 ■通算第9回目:2017年11月26日 ・参加者全員によるブレインストーミング KJ法を用いて成果本の構想を練る ■通算第10回目(第2回出会い×宇宙人類合同研究会):2018年2月15日 ・岩谷洋史 「見えないもの」をなんとかして見えるようにするための工夫:日本酒の製造現場における事例から■通算第11回目:2018年2月22日 ・木村大治 ヒト・動物・地球外生命体の出会いと挨拶:成果本に向けて ・花村俊吉 KJ法のまとめと報告:二つの時間軸からみた出会いと挨拶の初発と反復 ・参加者全員によるブレインストーミング 成果本の構想を詰めるこれらの研究会で,出会いと挨拶に関する具体的な事例をもとに,それをどのように分析,解釈するかについての討論をおこない,成果本のまとめに向けて構想を練った。
著者
川野 輝彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

F-Theoryのコンパクト化において7ブレインのWorldvolume理論がGUT理論のゲージ場などを与えるが、7ブレインの交差しているところに局在しているクォークやレプトンなどの物質場の湯川相互作用はフレーバー構造を理解する上で根幹をなす。これまでの研究により、場の3点相互作用について理解が進んできたが、物理的な湯川結合定数を求めるためには、場の理論の解析方法を開発する必要がある。このため、主に6次元N=(2,0)理論と呼ばれる理論を「局所化」という手法を使って研究を進めた。
著者
水野 雅史
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

レンチナンによる抗炎症機構を明らかにすることを目的として研究を行った。レンチナン経口投与したDSS腸炎モデルにおいて、Dectin-1KOマウスでは抗炎症効果は認められなかった。さらに野生型マウス腸上皮細胞のTNFR1発現量は減少したのに対して、Dectin-1KO マウスでは減少は認められなかった。以上の結果から、レンチナンの炎症抑制効果は、Dectin-1を介して認識され、最終的にTNFR1 mRNA発現量を制御することによって抗炎症効果を誘導している可能性が示唆された。
著者
山元 隆春
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

児童・生徒の「読解力」育成のために、小学校から高等学校までの児童・生徒の読者反応を多角的に分析し、読者反応の個人的構成と社会的構成との関係性を解明し、「読むこと」の授業における足場づくりのための枠組みを構築することを目的とした。国内外の国語教育学及び読者反応研究関連の文献をもとにして研究を進めた。絵本などをもとにした「読解力」育成のための学習開発論を構築した。米国の理解方略指導論に学びながら「読解力」の足場づくりとしての理解方略指導のあり方を探り、さらに多様な学習ニーズに応じて「読解力」を育成するための支援策を提言し、「読むことの指導」をどのように教えるのかということについての見通しを示した。
著者
齋藤 政彦 山田 泰彦 太田 泰広 望月 拓郎 吉岡 康太 野海 正俊 野呂 正行 小池 達也 稲場 道明 森 重文 向井 茂 岩崎 克則 金子 昌信 原岡 喜重 並河 良典 石井 亮 藤野 修 細野 忍 松下 大介 阿部 健 入谷 寛 戸田 幸伸 中島 啓 中村 郁 谷口 隆 小野 薫 ラスマン ウェイン 三井 健太郎 佐野 太郎
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2012-05-31

不分岐な不確定特異点を持つ接続のモジュライ空間の構成,リーマン・ヒルベルト対応の研究により,対応するモノドロミー保存変形の幾何学を確立した.また,混合ツイスターD加群の理論の整備,可積分系の幾何学的研究において種々の成果を得た.高次元代数幾何学においては,端末的3次元射影多様体のある種の端収縮射の分類や, コンパクトケーラー多様体の標準環の有限生成性などの基本的結果のほか,モジュライ理論,シンプレクテック多様体に関する種々の成果を得た.量子コホモロジーの数学的定式化や,ミラー対称性の数学的理解についても大きな成果を得た.また,代数多様体の層の導来圏に関する研究においても種々の成果を得た.
著者
加藤 信一 高崎 金久 斎藤 裕 松木 敏彦 西山 享 行者 明彦
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究は、代数群、リー代数またはそれに関連する対称空間、概均質ベクトル空間やヘッケ環等の上で定義される様々な特殊関数を主に表現論の立場から研究したものであり、整数論、数理物理学等と関連した多くの成果が得られた。加藤はヘッケ環の表現を調べ、その「双対」がどの様に与えられるかを決定した。また、数理物理学にあらわれるR行列の新しい例をヘッケ環を用いて与え、これを使って可積分系のq類似である量子化されたクニズニク=ザモロヂコフ方程式を考察、この方程式とマクドナルド差分作用素の関係を明らかにした。斎藤は対称行列のなす概均質ベクトル空間の数論的研究を行い、そのゼータ関数を具体的に決定した。そしてそれらのジーゲル保型形式の研究への応用等を論じた。行者は概均質ベクトル空間の研究を表現論、D加群の理論と関連して研究した。特に一般化されたヴァーマ加群の既約性と概均質ベクトル空間のb関数の関係を調べ、代数群、リー代数の無限次元表現論の研究において概均質ベクトル空間の理論が有効に適用できることを示した。松木は表現の記述に必要な、代数群の旗多様対の対称空間に関連する軌道分解について研究し、また球部分群についても考察した。西山はリー超代数のユニタリー表現論を研究した。特にハウによる双対対の理論の超代数版を用いて、各種の古典的リー超代数の既約ユニタリー表現をフォック空間上に実現して、その性質を調べた。高崎は数理物理学にあらわれる微分方程式、非線型可積分系を研究した。特にそれら方程式、可積分系の対称性を考察の対象として、体積保存微分同型群、無限次元リー代数等との関わりを調べた。