著者
河上 敬介 宮津 真寿美
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

昨年度、レジスタンス運動による筋肥大モデル動物を確立し、筋肥大とサテライト細胞活性化の関係を明らかにすることを目的に検討したが、筋肥大を起こす条件や、活性化サテライト細胞の検出条件を決めることが困難で、研究デザインの改良が必要であることがわかった。そこで、平成21年度は、レジスタンス運動によって筋萎縮が回復する過程において、筋サテライト細胞が関与するかどうかを明らかにすることにした。まず、レジスタンス運動による筋萎縮回復モデルマウスの作製を行った。レジスタンス運動の方法は、警告音のあと床面から電気刺激を行い、壁スイッチを押せば、その電気刺激から回避できるレジスタンス運動ボックスを製作し、電気刺激の前の警告音で壁スイッチを押すようマウスを学習させた。壁スイッチの高さを、ラットが立ち上がり、踵が離地する位置に設置すると、警告音後、立ち上がってスイッチを押すようになる。このような立ち上がり運動を学習した後、尾部懸垂を1週間行い、下肢筋の萎縮を起こし、その後、立ち上がり運動を1週間行った。その結果、1週間の不活動により筋が萎縮すると、ヒラメ筋の筋線維横断面積の減少、筋核数の減少が起こるが、その萎縮筋に一週間のレジスタンス運動を行うと、筋線維断面積の早期回復、筋核数の増加が起こることがわかった。さらに、萎縮筋にレジスタンス運動を行うと、筋核数/筋線維断面積比が大きいことがわかり、レジスタンス運動による筋線維断面積の増大に先だって筋核数が増えることがわかった。増殖した核の数と位置を観察すると、レジスタンス運動2日目に筋細胞外に増殖核が増え、3日目に細胞内に増殖核が増えることが分かった。この現象は、レジスタンス運動によって筋サテライト細胞が活性化・分裂し、その後融合した可能性がある。今後、免疫学的手法により、増殖核がサテライト細胞の核であることを明らかにする予定である。
著者
前田 忠彦 朴 堯星 吉川 徹 尾崎 幸謙
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2019年度は,「日本人の国民性調査」に関連して次の内容を実施した。(1a)2018年度に実施した「日本人の国民性 第14次全国調査」についてのデータクリーニング、および関連する調査地点データ等の整備、(1b)同調査の基礎集計の吟味と主な時系列的な知見の整理、(1c)先に整理が進んだ過去のデータに基づく共同分析の実施と成果発表,(2)過去(第13次全国調査まで)の調査データに付帯するメタデータ情報の整理と共同利用研究のためのデータ整備、(3)オンラインパネルに対するウェブ調査の方法論の検討、等。(1a)に関しては調査報告書の発行とウェブ上での公表を予定していたが,データ整備の遅延により2020年度に先送りした。(1b)について,継続調査の中で長期にわたって利用されてきた調査項目の多くでは,(変化自体が観察されにくくなっていることを含めて)これまでの動きと同質の傾向性が見られる一方,2013年度実施の第13次全国調査で見られた「東日本大震災後」に特有の意識,たとえば自然災害に対する不安や,日本人の良い性質などについての項目で若干の「揺り戻し」とみられる動きが観察されること,などが分かってきている。(2)1953年に第1次調査が行われて以来の,2018年まで14回にわたる全国調査について,,今後の共同利用(のためのデータ公開)に向けて,メタデータおよび個票データの整備を進めた。すなわち調査データそのもの,コード表,調査地点情報の3点の整備を行った。また複数時点間で微妙に異なるコーディング法等をハーモナイズする方針などを検討した。(3)については確率標本に対する面接調査とオンラインパネルに対するウェブ調査の比較検証の前に,ウェブ調査の信頼性を揺るがす可能性がある,いわゆる手抜き回答の検出法等に関する成果発表を行った。
著者
海野 知紀
出版者
東京家政学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

緑茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)をラットに混餌投与したとき,ラットの糞重量を増加させ,腸内細菌叢バランスを変化させた。一方,盲腸内容物の短鎖脂肪酸含量は減少したことから,EGCGは盲腸内発酵性に影響を及ぼすことが示唆された。さらに,高脂肪食負荷ラットの盲腸発酵性について緑茶抽出物と紅茶抽出物を比較したところ,高分子ポリフェノールを含む紅茶抽出物では盲腸内短鎖脂肪酸含量が増加したことから,ポリフェノール化合物の化学的特徴によって腸内細菌に及ぼす作用が異なることが推察された。
著者
古畑 徹
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、中韓両国の高句麗・渤海をめぐる論争の経緯を明らかにしたうえで、次の3点の成果が得られた。①唐代の国際システムは、中国の「内」「外」と、指標によってどちらにもなりうる中間ゾーンという三層構造で、それは時代によって変動するものであること。②高句麗はその三層構造の「外」の存在であり、渤海は中間ゾーンの存在で、時間経過とともに「外」に移行したこと、③渤海史の叙述方法には、いくつかの歴史的な広域地域にまたがる存在として叙述する方法があること。
著者
吉開 泰信
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

Mycobacterium bovis BCG感染においてIL-7はIL-17A産生γδT細胞との増殖と維持に、IL-21はエフェクターCD8+T細胞の増殖に働くことがわかった。結核菌由来の防御抗原であるAg85Bとこれらサイトカインの融合蛋白質を分泌するレコンビナント(r) BCGワクチンを作成して、免疫応答を解析した結果、rBCG-IL-7/Ag85BはIL-17A産生γδ型T細胞と抗原特異的CD4+Th1細胞を増加させた。rBCG-Ag85B-IL-21は抗原特異的エフェクターCD8+T細胞を増加させ、相対的に疲弊CD8+T細胞を減少させた。
著者
奥村 利勝 粂井 志麻 高草木 薫 野津 司
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

過敏性腸症候群(IBS)の主要病態である内臓知覚過敏の中枢メカニズムを解明することを目的にした。内臓知覚はラットの直腸にバルーンを装着し伸展させることで内臓痛を生じさせる実験系で検出した。オレキシンの脳室内投与は内臓知覚鈍麻を誘導すること。モルヒネ、levodopaやグレリンによる内臓知覚鈍麻はこのオレキシンによる内臓知覚鈍麻作用を利用していること。オレキシンによる内臓知覚鈍麻作用は脳内ドパミン、アデノシン、カンナビノイド シグナルを介していることが明らかにできた。これらの結果からオレキシン シグナルの低下はドパミンなどを介して内臓知覚過敏を誘導し過敏性腸症候群の病態形成に深く関与すると考えた
著者
西村 直記
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高濃度人工炭酸水への浸漬による生理的効果について検討した。炭酸水の主成分であるCO2は皮膚から吸収されることで、皮膚血管を拡張(末梢循環の改善)させ、温感を促進(高水温による生体への負担軽減)させることが確認できた。また、夜間睡眠前の炭酸水への入浴は、睡眠初期の体温の低下を促進させ、睡眠中の迷走神経活動を亢進させるためにより深い睡眠が得られ、積極的な疲労回復効果が期待できることが明らかとなった。
著者
田宮 徹 藤見 峰彦 神澤 信行
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

ヘビ毒および哺乳類の膵液に含まれるいわゆる外分泌性ホスホリパーゼA2(PLA2)は、その一次構造が明らかになったものが多くある。両酵素間には一次構造におけるホモロジーがあるほか、X線結晶構造解析により明らかになった立体構造においても類似性がある。外分泌性PLA2は7個のジスルフィド結合の位置の違いにより2群(I型、II型)に分類される。I型PLA2はコブラ科、ウミヘビ科に属するヘビの毒や膵液に含まれるもので、Cys11とCys77間のジスルフィド結合が存在するのがその特徴である。さらにI型は、哺乳類膵臓由来のPLA2に存在する"pancreatic loop"の有る(IB)、無い(IA)により2つのサブグループに分類される。II型はマムシ科、クサリヘビ科に属するヘビの毒や炎症部由来の非膵臓型PLA2がこれに含まれる。一般に、ヘビ毒中のPLA2は神経・筋接合部の神経側に作用してアセチルコリンの放出を阻害することで毒性を発現する。コブラ科のヘビ毒中に存在するI型PLA2は、PLA2活性の強いもの、弱いもの、毒性の全くないもの、強いものまでいろいろで、なかにはtipoxinγやOphiophagus hannnahの毒由来PLA2のように、"pancreatic loop"を持つものも知られている。沖縄産エラブウミヘビの毒液中にはI型PLA2が存在することが既に明らかになっている。本研究では、エラブウミヘビ毒腺並びに膵臓で発現しているIA及びIB型PLA2遺伝子(cDNA、genome DNA)の構造を明らかにした膵臓由来I型(IB)PLA2と毒腺由来I型(IA)PLA2の遺伝子を比較したところ、イントロンは互いに良く保存されていたが、膵臓由来I型に存在する"pancreatic loop"および第4エクソンの後半部分が毒腺由来I型では欠損していた。毒腺が唾液腺から変化した器官であることを考慮すると、毒腺由来I型PLA2は膵臓由来I型のprototypeを祖先遺伝子として進化してきたと考えられる
著者
吉田 耕一郎 小司 久志 二木 芳人 詫間 隆博
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

低濃度二酸化塩素ガスの空中浮遊菌に対する抗微生物効果を明らかにする目的で、有人の室内(66.5m2)において低濃度二酸化塩素ガスを発生させ、その効果を検討した。昭和大学の医局(温度及び湿度はコントロールしない)において、あらかじめエアサンプラーを用いて空中浮遊菌数を測定し、コントロールとした。続いて安全性に配慮した低濃度二酸化塩素ガスを発生させて空中浮遊菌数を測定した。職員の医局への出入りは制限しないこととした。発生させた二酸化塩素濃度は0.01 ppmから0.02 ppmで安定していた。低濃度二酸化塩素ガスを医局に発生させることで、医局内の空中浮遊細菌濃度がday1からday3の初期から減少し、全二酸化塩素発生期間中にわたり有意な抗微生物効果が持続していた。低濃度二酸化塩素ガスを有人の室内に拡散させることは、空中浮遊菌の減少に効果を示した。
著者
飯塚 博幸
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

自己と他者の違いについて運動主体間を用いることで焦点を当てる.動作を行っている主体が自分であるという運動主体感が視覚と触覚と運動の感覚の統合においてどのように形成されているのかを明らかにすることを目的とし,他者にくすぐられるとくすぐったいが,自分で自分をくすぐることはできないことを利用する.結果として視覚刺激を操作することで自分でくすぐっているにも関わらず,くすぐったくなることを示し,運動主体感の生起について明らかにした.
著者
横山 尊
出版者
九州大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、近代日本における禁酒運動と教育・メディアとの関係性を解明する。その解明に、日本禁酒同盟資料館の旧蔵史料を活用する。主な内容は次の通りである。①日本国民禁酒同盟(1920年結成)、姉妹団体の日本学生排酒聯盟(1922年結成)の活動に着目し、これらが学生や児童を禁酒運動に取り込みながら運動を展開したかを解明する。②同盟や聯盟が刊行したメディア、『禁酒新聞』、『のぞみの友』、『無酒国』などの編集方針と編集組織、執筆陣の分析を通し、メディアの禁酒教育への影響、各学校の運動家間のネットワークの解明を行う。③未成年者飲酒禁止法の運用、外地への拡張や改正をめぐる論議を、①、②を踏まえ解明する。
著者
金山 幸司
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2017-08-25

脱毛症に対する先進医療として、細胞を用いた毛髪再生医療が注目されている。毛包由来の毛乳頭細胞を用いた基礎研究が多く行われる中、未だにヒト細胞から構成される毛包の新生は実現していない。近年、毛包を構成する真皮毛根鞘に比較的未分化な細胞が多く存在することが明らかになってきた。この真皮毛根鞘に存在する間葉系細胞である真皮毛根鞘細胞に着目し、臨床応用可能な毛髪再生治療を開発することが本研究の目的である。本年度は、まず臨床検体の採取と毛包由来の毛乳頭細胞および真皮毛根鞘細胞の初代培養を行った。患者からの提供検体に付属する毛包を採取し、毛乳頭と毛根鞘をそれぞれ単離した。大気酸素下または低酸素下で細胞培養を行ったところ、いずれの場合も細胞の増幅が可能であったが、特に真皮毛根鞘細胞は低酸素環境下で増殖活性が増大した。細胞移植による治療には細胞の増幅が不可欠であるが、毛乳頭細胞よりも増殖活性の低い真皮毛根鞘細胞の増幅を得るためには低酸素環境下での培養が有効であることを確認できた。次に増幅後の培養細胞を用いて遺伝子発現解析を行った。細胞内に発現している多分化能関連遺伝子のmRNA量をRT-PCRで解析したところ、真皮毛根鞘細胞ではSOX2の発現が毛乳頭細胞と比較して40倍以上高値を示した。真皮毛根鞘細胞は毛包再構築の主体となる毛乳頭細胞とは異なる特徴をもつこと、および毛包新生を実現するための移植細胞ツールとして高い潜在性を有することが確認できた。
著者
松坂 尚典 佐藤 至 西村 義一 志賀 瓏郎 小林 晴男 品川 邦汎
出版者
岩手大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

実験動物(マウス及びラット)に放射性亜鉛(Zn-65)及び放射性マンガン(Mn-54)を投与して、胎子、胎盤、胎膜における両核種の取り込みを追跡した。さらに、妊娠末期のラットに両核種を投与したのち分娩させ、在胎中に胎盤を経て胎子に移行した両核種の量と、生後に新生子が母乳を介してもらい受けた量を調べた。1.妊娠17日のマウスにZn-65及びMn-54を1回静脈内投与したのち、24時間目における胎子の取り込み量を調べたところ、それぞれ1腹あたりで36%及び9%となった。すなわち、マウス胎子におけるZn-65の取り込みは、Mn-54のそれよりも約4倍ほど多くなることが観察された。2.妊娠0日、7日、14日のマウスに両核種を1回皮下に同時投与して、分娩直後の新生子における取り込みを調べた。分娩直後の新生子におけるZn-65の取り込み量は、妊娠0日、7日、14日群で、それぞれ1腹あたりの値が11%、12%及び28%となり、妊娠初期に投与された場合よりも妊娠後半に投与された場合の方が、胎盤を経て在胎中に取り込まれた量が多くなった。Mn-54でもほぼ同様の傾向が認められたが、分娩直後の新生子における取り込み量は、Zn-65に比べて1/3から1/4となった。3.妊娠末期のラットにZn-65を1回投与したのち分娩させ、分娩直後の新生子における取り込み量を測定した。そののち、同日に分娩したZn-65無投与ラットの新生子と一部交換して哺乳させた。分娩直後の新生子には投与量の3%(1腹あたりでは約30%)が取り込まれており、さらに離乳するまでには母乳を介して1.5%(1復あたりでは約15%)が移行した。Mn-54についても、ほぼ同様の傾向が認められた。これらの結果から、Zn-65及びMn-54に関しては、胎児への経胎磐移行とともに、母乳を介する汚染経路が重要であると考えられる。
著者
荒木 和憲 伊藤 幸司 榎本 渉 須田 牧子 後藤 真
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成30年度に引き続き,研究代表者と研究分担者が5つの作業チームに分かれて研究を進めた。「東アジア交流史関係史料」の検出・データ化作業は,荒木班・榎本班・伊藤班・須田班が行った。具体的には,榎本班は中世前期の記録・典籍類(刊本),伊藤班は九州に所在する中世後期の文書類(刊本),荒木班は九州以外に所在する中世後期の文書・記録類(刊本),須田班は禅宗関係史料(東京大学史料編纂所謄写本)を分析し,10~16世紀における「東アジア交流史関係史料」を検出した。検出した史料については,基本情報(年月日・作成者・受信者・史料名・典拠など)だけでなく、本文の全文テキスト(一部は抄出)を作成し,かつ当該史料の生成・授受にかかわる地域・階層などのメタデータを付与した。各班で作成したデータは,研究代表者である荒木がとりまとめ作業,校正,データの整合性チェックを行った。こうして作成したデータは,平成30年度末の時点では約4,600件であったが,令和元年度末には約7,000件に増加した。また,紙媒体での報告書(『東アジア交流史関係史集成(稿)』)の編集作業を同時に進捗させており,原稿量は令和元年度末の時点で約1,300頁(A4版・2段組)に達した。一方,後藤班は,ファセット検索システムの運用改善を進めた。当該システムは,ユーザーがさまざまな切り口から高度で有意な情報を引き出すことを意図したもので,今年度内に国立歴史民俗博物館の「総合資料学情報基盤システム」(https://khirin-ld.rekihaku.ac.jp/)における試験公開を行っており,校正済のデータについての基礎検索が可能である。