著者
鈴木 暁世 橋本 順光
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

20世紀初頭の英語圏で上演された日本を題材にした戯曲の中でも、菊池寛と郡虎彦の作品は、日本語で執筆された作品が英語に翻訳・上演される過程での、文化・言語圏の移動による変容が見られる。アイルランド、イギリス、日本における資料調査と専門家との研究情報交換を行い、新資料を発掘・整理した。その研究成果を公開するために、研究分担者と共にシンポジウム及びワークショップを計三回開催したほか、国際学術集会や国際ワークショップを含む国内外の学会で研究発表を行った。それらの研究発表における議論の結果を『日本近代文学』『比較文学』等査読付学会誌で発表し、著書『越境する想像力 日本近代文学とアイルランド』にまとめた。
著者
木村 武二 堂前 雅史
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.雄マウスの性誘引因子:雄の包皮腺の分泌物中、分泌後に変化を受けて生成される有効物質の候補として50種以上の揮発性物質を同定し、また、その多くが排出尿に混入して排出されることが確認された。これによって、性誘引因子の化学的解析への展望が開かれた。2.休止期(明期)における雌マウスの性的反応:休止期における、雄の匂いへの反応には、他の雌個体の存在と、自身の交尾経験とが必要であり、活動期(暗期)とは反応性が異なることが明かとなった。3.雄マウスの父性行動:雄マウスの育児行動の発現には交尾経験が最重要であり、妊娠雌との同居や雌の出産を目撃することは、雌や新生児との直接的接触を妨げた条件下では効果を持たないことが明かとなった。4.生育環境がマウスの行動発達にもたらす影響:段階的に複雑化した環境に単独または複数のマウスを離乳時から入れ、諸行動の発達を比較した。その結果、環境の複雑化(豊富化)は、複数で生育したマウスにおいては探索行動の発達を促進したが、単独飼育群では豊富化の影響が見られないことが分かり、物的環境と社会環境との相互作用の重要性が明かとなった。5.ヤマネの冬眠開始機構:ヤマネの冬眠開始には低温の他に食物の不足が重要な要因である事が確認された。さらに、高温下でも、餌の制限によって低体温状態が誘起されるという、興味ある事実が明かとなった。6.野生齧歯類のコミュニケ-ション:アカネズミ及びヒメネズミは共に尿マ-キングをコミュニケ-ションに利用しているが、利用の仕方に種差があり、それには生態的な違いが反映されていることを示唆する結果が得られた。
著者
池田 隆徳 阿部 敦子 中沢 一雄 芦原 貴司 稲田 慎 三輪 陽介
出版者
東邦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では心室細動(VF)の発現に関与する因子を明らかにし、心臓突然死(SCD)を予知する手法を検討した。VFの発生に関与する電気生理学的因子をコンピュータシミュレーションで評価した結果、再分極異常、脱分極異常、自律神経活動異常が関連することが示された。ホルター心電図を用いて、再分極異常指標(T-wave alternans)、脱分極異常指標(心室late potentials)、自律神経活動異常指標(heart rate turbulence)を心筋梗塞および心筋症患者で評価したところ、心室性不整脈既往患者ではこれらの指標が高率に検出され、SCDの予知指標として活用できる可能性が示された。
著者
中村 哲 岩坂 英巳 根來 秀樹 サクリアニ サクティ 戸田 智基 Neubig Graham 田中 宏季
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

自動ソーシャルスキルトレーナと題して,ソーシャルスキルトレーニング(SST)の過程を人間と対話エージェントの会話によって自動化する研究を進めてきた。これまでに開発したシステムは、自閉スペクトラム症での効果測定をしていなかったという問題があった。最終的な実験的評価として、自動ソーシャルスキルトレーナを使用し、10 名の自閉スペクトラム症者における訓練の効果を調査した。50 分間のシステムを使用した訓練実験により、有意に話のスキルが向上していることを示し、自動ソーシャルスキルトレーニングが有効であることを示してきた。これからも希望者がいつでもどこでも手軽に使用できる SST を目指していく。
著者
赤星 正純 飛田 あゆみ 今泉 美彩 瀬戸 信二
出版者
(財)放射線影響研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

放射線影響研究所・長崎研究所では原爆の後影響を縦断的に調査する目的で、1958年より原爆被爆者7,564名(男性3,374名、女性4,190名)を対象として、2年に一度検診を行っている。1958年から2003年(平成15年)までに死亡したり、他市へ転居したりしたために平成15年と16年に実際に受診した対象者は1,691名(男性586名、女性1,105名)である。この対象者で、問診、診察、身長・体重測定、血圧測定、一般検血、生化学検査(血清コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、尿酸、血糖、CRP、インスリン)、腹部超音波検査、心電図検査、脈波速度測定を行い、このうち325名ではアディポネクチン測定を行った。肥満度が大きいと血圧、中性脂肪、LDL-コレステロール、尿酸、空腹時血糖、HbAlcが高く、逆にHDL一コレステロールは低値であった。肥満に伴いHOMO-IRは高くなり、インスリン抵抗性が増大する事が示唆された。肥満者では脈波速度の増大を認め、肥満に伴い動脈硬化が進展していると考えられた。また肥満者では脂肪肝の合併が多く、この脂肪肝では高血圧、高中性脂肪、低HDLコレステロール、耐糖能異常、高尿酸血症を伴い、アディポネクチンが低下していた。脂肪肝ではアディポネクチンの低下によりインスリン抗性が増大する事で高血圧、高中性脂肪、低HDL-コレステロール、耐糖能異常、高尿酸血症を合併し、動脈硬化が引き起こされると考えられた。原爆被爆で脂肪肝が増える事により、被爆者では脈硬化が進展し、心筋梗塞の増大が認められると考えられた。
著者
中村 雅典 近藤 信太郎 江川 薫 曽我 浩之 八木 秀樹 伊藤 恒敏
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

我々は、骨破壊を伴う重症リウマチ性関節炎(RA)患者腸骨骨髄における著しい好中球造血の亢進とその好中球による骨破壊の可能性を示した。また、破骨細胞による骨吸収を強力に抑制するaminobisphosphonate(ABP)をコラーゲン誘導関節炎マウスに投与しても骨破壊が抑倒されないことも見いだしている。そこで、好中球による骨破壊の可能性を詳細に検討する目的で、コラーゲン誘導関節炎マウスにABPを投与した時の破骨細胞によらない骨吸収機構を好中球の動態を中心に検索すると共に顆粒球と骨との共培養による骨破壊についても検索を行った。ABP投与群・非投与群共に骨破壊を伴う関節炎が認められ、ABP非投与群に比してABP投与群では炎症が悪化する傾同にあった。骨破壊部位を観察すると、ABP非投与群では多数の酸性フォスファターゼ(ACP)強陽性の破骨細胞が骨表層に認められるのに対し、ABP投与群では破骨細胞は少数存在するもののACP活性は弱く、また骨表面から遊離していた。骨破壊部位には顆粒球が集積し、超微形態学的に骨表面に集積する好中球のrupture、細胞内顆粒の骨周辺への散在、コラーゲン線維が消失が認められた。好中球と骨との共培養系では、in vivo同様骨基質からのコラーゲン線維の消失が認められ、好中球の持つMMP-2,9やelastaseに対する阻害剤添加実験でコラーゲン線維消失が抑制されることが明らかとなった。以上の結果から、骨破壊に好中球が直接関与することが示された。
著者
池田 和彦 竹石 恭知 小川 一英
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

骨髄増殖性腫瘍(MPN)は真性多血症 、本態性血小板血症および原発性骨髄線維症(PMF)を含み、成熟した骨髄系細胞の増殖から骨髄線維化や急性白血病への進展を来すが、その進展機序の多くは不明である。今回の研究によって、MPNの中でも、HMGA2は特にPMFにおいて高発現していること、HMGA2高発現にはlet-7マイクロRNAの低下が関与していることが示唆された。一方、HMGA2発現はDNAメチル化などにも関与し、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬によって制御されることも判明した。さらに、HMGA2発現が長期間持続することによって無効造血など病態の進展が見られることがマウスの検討で示された。
著者
高村 大也 笹野 遼平
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

要約技術の開発に必要となる大規模要約データを自動構築する技術、またそれを効果的に利用する技術を開発した。また、入力文書に対し、文分割、文圧縮、文融合などの演算を施した上で要約を生成する技術、およびウェブページの推薦システムにおいて、ユーザにカスタマイズしたスニペットを生成する技術を開発した。また、野球のイニング速報を自動的に生成する技術を開発した。さらに、ニューラルネットワークに基づく文要約手法において、出力長を制御する技術を開発した。また、日本語の文圧縮のための大量のデータを自動的に抽出する手法を開発し、実際にこの手法を用いて大規模データを構築し、文圧縮モデルの学習を行った。
著者
大野 誠寛
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、話し言葉や、即興で生成された書き言葉を入力とする言語アプリケーションのための基盤技術として、読みにくい語順を持った文に対する高性能な係り受け解析器を開発する。平成29年度は、以下の4項目を実施した。(1)これまでに開発済みの語順整序・係り受け解析の同時実行手法を、節内部と節間の2段階に分けて適用する解析器の開発を推進した。具体的には、その前処理として、読みにくい文に対する節の始境界検出手法を開発した。昨年度構築した読みにくい文のデータを分析した結果、読みにくい文には埋め込み節が頻出することが分かり、節ごとに分割実行するには、節の始境界の検出が必須となることが判明したためである。(2)本研究では、人が漸進的に係り受け構造を把握する過程を分析し、その振舞に関する知見の獲得を試みる。その分析用データとして、これまでに作業者1名が漸進的係り受け解析を実行したデータを構築していたが、本年度は昨年度に引き続き、当該データの増築を実施した。具体的には、異なる別の作業者1名によるデータ構築を推進し、3,639文に対する作業が完了した。(3)漸進的係り受け解析では、入力に対して同時的に処理を行う必要があり、処理の正確さを保ちつつ、遅延時間を抑えることが求められる。そのため、意味的なまとまりをもつ文が今後どれだけ続くかという情報は重要な手がかりとなりうる。そこで、漸進的係り受け解析の関連研究として、文節が入力されるごとに残存文長を推定する機構の開発に取り組んだ。(4)読みにくい文に対する係り受け解析の関連研究として、昨年度に引き続き、法令文に対する並列構造解析手法の開発を推進した。本年度は、ニューラル言語モデルを用いた法令文の並列構造解析技術の精緻化を新たに実施した。昨年末時と比較して、適合率は65.2%から66.1%に、再現率は62.5%から65.2%に、それぞれ向上した。
著者
中田 敏夫 酒井 恵美子
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、従来「気づかない方言」などとして関心が示されてきた「学校方言」について、学校建築用語に絞り、文献資料と方言資料から総合的に検討することで、個々の学校方言並びに標準語の成立と展開を分析し、その一般的な傾向を導き出すことを目的とした。「屋運」という愛知県一宮市に分布する語形を主な事例として、発生から周辺への広がりの実態とその背景である教育関係資料を渉猟し,縦軸と横軸をつなぎ合わせ、立体的に実証した。その結果、従来日本語資料として看過されてきた教育史資料及び各種法令を現代語研究を進める上で必須の資料群として位置づけ、十分な事例研究数とは言えないが、研究課題については達成できたと考える。
著者
佐原 哲也 石田 勇治 市野川 容孝 山岸 智子 薩摩 秀登 丸川 哲史 三沢 伸生 関 哲行 武内 進一 大石 高志
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、民族浄化とは民族が国家主権の基礎となるという国民国家理念に起因する近代的現象であるとの仮説の有効性を検討した。三年間の研究期間の間に、ヨーロッパ、ユーラシア、中東、アフリカ、東アジアの幾つもの事例を比較研究し、仮説の有効性は大部分証明された。住民の強制排除、大量追放は、近代初期のヨーロッパに始まり、一九世紀から二〇世紀には東欧・バルカン、中東、旧ソ連、アジア、アフリカへと広がっていったことが確認されたからである。研究の結果、更に重要な発見もなされた。それは民族浄化の発生メカニズムの具体的な解明である。この発見は、ボスニア内戦を中心に、民族浄化を生み出した政治状況、社会的条件、イデオロギー、暴力の展開過程がつぶさに解明された結果であった。ボスニア内戦はユーゴスラヴィ社会主義連邦共和国の解体に起因し、これは一九八○年代のデタントと世界的な金融危機に始まり、一九八九年の東欧革命の余波をうけていた。余波は共和国毎の複数政党選挙という形をとり、選挙後、連邦政府の統合機能が失われ、憲法秩序が崩壊した。これに続いて、独立を目指す共和国が非合法な武装を開始し暴力の独占が崩壊した。こうして、住民の間に生命と財産の不安と恐怖を広がり、従来のアイデンティティが崩壊し、ジェノサイドの「記憶」に基づく危機意識が芽生えた。そして、民族主義者はこれを利用して権力を濫用し、民族浄化を展開したのである。その際、特に民兵の役割が重要であった。民兵は主に犯罪者から組織されていたが、民族解放運動の伝統を利用して自己正当化を図り、受け入れ可能な存在となった。結論として、民族浄化の防止には秩序崩壊時の暴力の統制、特に民兵の排除が中心的課題であることが明らかとなった。
著者
高橋 征仁
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

「若者の政治的無関心」は、これまで戦後日本における私生活主義の産物として考えられてきた。しかし、こうした時代的観点だけでは、政治的関心の加齢効果という単純な発達的傾向をうまく説明することができない。そこで、本研究では、国際比較調査などを用いてよりグローバルな観点から、政治的関心をめぐる齢間分業の普遍性と多様性について検討を行った。その結果、①政治的関心の加齢効果、②政治的関心のモジュール性、③リスクと齢間分業の関係を明らかにした。
著者
藤岡 穣 淺湫 毅 稲本 泰生 加島 勝 高妻 洋成 高橋 照彦 村上 隆
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

国内の彫刻史、金工史、考古学、保存科学の研究者との連携、協力に加え、韓国国立博物館の研究グループとの共同研究という研究体制のもと、日本、韓国、中国、ベトナム、欧米等において、 半跏思惟像および関連の金銅仏について、 蛍光X線分析 100 余件、3 次元計測 11 件 、X線透過撮影 7 件の調査を実施した。その結果、青銅の成分については、日本製の金銅仏は止利派の作例を除けば多くは自然銅に僅かに錫を混ぜた青銅を用いており、南朝作例では錫分が特に多く、百済製とみられる作例でも錫分が多い傾向をしめすこと、華北の作例では錫と鉛が同程度に含まれるとの暫定的な見解を得ることができた。また、技法面では、従来、鬆(青銅の凝固時に内部に残る気泡)が多いのは韓半島もしくは中国製とみられていたが、鬆の多寡は必ずしも製作地に関わらないこと、韓半島や中国の作例では細部の造形も基本的には鋳型の段階で表現しているのに対して、日本の作例では鏨の使用が多いことなどが明らかになった。一方、 2009 年に南京において初めて南朝・梁代の金銅仏が出土し、 2010 年にはカンボジア南部で 2006 年に出土した梁代とみられる金銅仏が紹介されたが、その一部は山東や韓半島出土ないし伝来の金銅仏に近似しており、従来、文献から指摘されていた南朝と百済との交流、さらには山東を含む 3 地域間の交流が実作例によって裏付けられた。以上の科学的調査、南朝製金銅仏の発見等の結果、日本や韓国に伝来する金銅仏については製作地を再検討する必要があること、半跏思惟像についても南朝を含めた伝播のあり方を検討する必要があることが明らかとなった。
著者
福島 孝治
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、データ駆動型の研究方法を物性物理の分野で展開することである。まず磁化曲線の観測データを入力として、これまでの経験的な理論モデルの構築に機械学習の技法を援用する方法を提案した。複数の候補から適切なモデル選択が可能となった。その結果、スピン構造など実験的に観測が難しい情報へのアクセスが可能となり、その後の実験計画に役立てられるようになった。さらに、扱う系を量子系に展開するためにはベイズ最適化の手法が有力であることがわかった。一方、大規模施設からのデータを想定して、中性子散乱実験のスペクトルから緩和時間分布を推定する問題に着手し、実データ解析も含めた新しい方向性を示すことができた。
著者
中村 秀明
出版者
崇城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ピラルビシン(THP)は他のアントラサイクリン系薬物と比較し高い細胞内取り込み、細胞傷害性を示した。さらにHPMAポリマーを用い高分子化し、P-THPを作成し検討したところ、他の高分子化アントラサイクリンと比較し、P-THPは細胞内取り込みおよび細胞傷害性とも優れていた。P-THPは高い腫瘍集積性、抗腫瘍効果を示し、重篤な副作用を起こさず、S-180腫瘍の完全消失、ヒトすい臓がんモデルの腫瘍縮小をもたらした。これらの結果より、P-THPは腫瘍への選択的集積性、高い細胞傷害性を示すことが示され、すい臓がんなどの固形癌に有効であると考えられる。
著者
鈴木 邦夫
出版者
電気通信大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

戦前日本の総合商社は、日本国内と世界各地に支店網を張り巡らし、商品相場、売れ行き、生産、金利、新製造法(特許)などに関する情報を収集していた。本研究では、この総合商社に焦点をあて、第1に、商社がどのような情報網を形成し、どのような情報を収集し、これを伝達したのか、第2に商社が形成した情報収集・伝達網が商品取引などをどのように変化させるに至ったかを分析した。そのさい、とくに三井物産に焦点をあてて分析をおこなった。具体的には、財団法人三井文庫で三井物産の内部資料を閲覧し、三井物産の情報網と情報の伝達について分析をおこなった。その結果、利用媒体、情報の機密保持と情報コスト削減の方法、情報収集の方法、情報の処理・分析組織の形成などに関して、かなりの程度まで実態を明らかにすることができた。また、収集された情報が商品取引や組織のあり方に与えた影響などについても、分析を深めることができた。上記の三井物産の分析を補強するため、三井物産を含む総合商社一般の資料に関して、名古屋、京都、大阪の大学図書館ないし公立図書館で資料調査をおこなった。また、情報に関連する図書を購入し、分析に役立てた。
著者
花井 秀俊
出版者
秋田県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1.菌糸生育促進物質の精製・単離昨年度に引き続き,ウシグソヒトヨタケの菌糸生育を指標に,籾殻に存在する菌糸生育促進物質の単離を目指して精製を進めた。20kgの籾殻より水抽出物を得,これを各種カラムクロマトグラフィー及び分取HPLCにより順次分離し活性物質を精製した。現在までに,1-5μg/m1で菌糸生育促進活性を示す画分を2画分(各0.5mg以下)得た。^1H-NMRスペクトルを測定したところ,アミノ基及び水酸基の存在を示唆するシグナルを観測したが,構造決定には至らなかった。今後更に精製スケールを増やして構造解析に供する試料を得る予定である。2.キノコ栽培における実証試験今年度は,ガラスビーズ及びオガコ培地に籾殻を添加することで,収穫量(キノコ個数,重量)が向上するかを検討した。ヒラタケについて検討したところ,オガコ培地に80-160mg/mlで籾殻を添加すると,キノコ個数,一個あたり重量とも増加することが明らかとなった。今後は菌種ごとに添加量を検討することにより,最適な栽培条件を明らかにする予定である。3.ソバ殻に含まれる生物活性物質申請者は,籾殻だけでなく,ソバ殻にも様々な生物活性物質が存在することを見出し,植物の初期生育促進物質の一つとしてオレアノール酸を単離・同定した(学会発表)。今後はソバ殻についてもキノコ栽培における効果を検証し,その有効利用の可能性を追究する予定である。
著者
宇戸 清治
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、タイ映画におけるナショナリズムが、立憲革命、第二次世界大戦、軍部独裁政治、1970年代の民主化運動、1990年以降の経済発展といった歴史的転換点において色濃く反映されていつ点に着目し、各時代におけるタイの社会・文化状況と映画に表象されたナショナリズムの関係を具体的作品に即して分析することを目的とした。このため、ナショナリズムがテーマとなっているタイ映画のデータベースを作成し、タイ現地においては映画の鑑賞、デジタル記憶媒体(映画DVD、VCDなど)の収集と分析を進めた。とくに戦前期の貴重な映画『白象王』については2種類のバージョンを分析し、これが国内よりは国外に向けてタイの政治・軍事的中立政策を訴えた国策映画であることが明らかとなった。また、映画『闇の天国』の分析を通じて、戦後1950年代のピブンソーンクラーム政権とサリット政権という2つの軍事政権のタイ近代化と王制の政治利用に対するスタンスの違いが、モダニズム理解の相違に基づくものであり、両者のナショナリズム観が対極的なものであることが明らかとなった。また、1970年代中期の民主革命前後の時期の映画については『スパンの血』の分析を通じて、これがナショナリズムを煽る目的ではなく、むしろ経済発展によって失われつつあったタイ伝統文化へのノスタルジーが根底にあることを明らかにできた。最後に1990年代のニューウェイブ映画『7人のマッハ』では、国王、仏教、国旗、国歌などが前景化される傾向が強く、新たな時代のナショナリズム映画となっており、今後の研究の深化が必要であることが認識された。
著者
平野 博之 佐藤 豊
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

イネの花序は,穂軸,ブランチ,小穂から構成され,小穂は小花(花)と外穎や内穎などいくつかの側生器官から成る.本研究は,この高い階層性を持つイネの花序の構築および花の発生ロジックを解明することを目的としている.fon2変異を昂進する変異体 (fon2 enhancer 2B-424),一次ブランチが偽輪生の表現型を示すpvp1, 小穂の形態異常を示すtol変異体 (wadより改名)やfsp1変異体などを用いて,発生遺伝学的研究を行った.FON2は花メリステムの幹細胞維持の負の制御因子であり,fon2変異体では花メリステムが肥大する結果,花器官数が増加する.2B-424系統はfon2変異を昂進する変異体の一つである.昂進変異の原因遺伝子を同定した結果,クラスC遺伝子のOsMADS3に機能喪失型の変異が起きていることが判明した.この研究により,FON2とOsMADS3が共同して花メリステムの有限性を制御していること,OsMADS3が花メリステムの維持制御にも関わっていることが明らかとなった (Yasui et al. 2017).tol変異体の表現型を詳細に解析し,この変異体では小穂の左右相称性がそこなわれ,対称軸が2つ形成されるようになること,その原因はメリステム増大や部分的な活性低下であることを明らかにした (Sugiyama et al. 2016).fsp1変異体の原因遺伝子の単離を試みたところ,メリステム維持に関わるFON1遺伝子に変異が起きていることが示された.fsp1の小穂には,fon1小穂に見られる異常に加えて他の表現型が現れることから,未知の第2の遺伝子に変異が生じている可能性が示唆された.PVP1に関しては,この遺伝子の近縁パラログであるPVP2と併せて解析を行い,これら2つの遺伝子が穂の構築に冗長的に作用していることを明らかにし,メリステム機能との関連を解析中である.
著者
猪瀬 優理
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

平成14年度は、札幌市に住む活動的創価学会員の入会・入信動機、活動頻度、家族状況、ジェンダーに関する意識、二世信者の背景的状況などについて調査するため、北海道創価学会の方と交渉の末、1200名の活動的学会員を対象に調査票調査を実施した。平成14年の11月に実施し、820票あまりが回収された。本研究の目的は、信仰継承過程の解明であるため、非活動者や組織から離脱した二世信者への調査が実施されるべきであったが、実際的には困難がともなうため、活動的二世信者の状況について調査した。一世信者との比較などから間接的ではあるが、信仰継承に関する知見を得られるものと思われる。年度終了近くの調査であったため、まだ詳細な分析結果は出ていない。今後は、この調査の分析を深めるとともに、調査票調査では拾いきれなかった信仰継承とジェンダーの再生産過程の質的な側面をインタビュー調査によって補充する予定である。また、ものみの塔聖書冊子協会については、雑誌論文(『宗教と社会』第8号,19-38)が掲載された。ここでは、信仰を継承しない場合も二世信者特有の問題があり、またジェンダーの要素が重要な意味を持つことを確認している。日本宗教学会大会のテーマセッションにおいて家庭にとどまることが多い既婚女性が教団組織活動へ参加する理由は、ジェンダーに規定されている部分が大きいことについて事例をもとに発表した(外部との接触、知的刺激にかけていたこと、仕事中心などの理由から夫とのコミュニケーションが希薄であったことなどを解消する手段として教団活動が女性たちに認知された)。本年度の調査研究から、教団組織におけるジェンダーの問題をとらえるには教団組織活動への関与度を確かめる必要性が確認され、創価学会の調査においても家族における社会化過程とともに組織における社会化の側面をより重視した分析を行う方向に修正された。