著者
山上 明子 岩佐 真弓 井上 賢治 若倉 雅登 龍井 苑子 石川 均 高橋 浩一
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.162-171, 2021-06-25 (Released:2021-06-22)
参考文献数
23
被引用文献数
2

脳脊髄液減少症と診断された28例(男性13例,女性15例)の自覚症状,眼所見,調節力を検討した.また視力・視野障害のない症例に輸液治療施行前後で近見時瞳孔反応と調節をTriIRISとARK-1を用い測定し比較検討した. 眼科的な自覚症状は眼痛71.4%,ピントが合わない60.7%,単眼複視42.9%,両眼複視35.7%,視力低下 28.5%,羞明25.0%,視野異常7.1%であった. 視力低下例では眼内に異常所見がなく,視野異常例では半数で求心性視野狭窄を呈した.調節力は75.0%で年齢に比し低下傾向を示した.輸液治療施行前のTriIRISを用いた検査では輻湊時の視標への追従が悪い,瞬目が多いなど近見視に伴う輻湊や縮瞳にノイズが多かったが,輸液治療後は全例見え方の改善を自覚し,一部の症例でTriIRISでの輻湊時視標への追従の改善,瞬目の減少がみられたが,ARK-1の結果では調節微動および瞳孔径に差がなかった.脳脊髄液減少症に対する輸液治療後の見え方の改善は輻湊系の機能の改善を示唆している可能性がある.
著者
中井 大介 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.453-463, 2006-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34
被引用文献数
20 3

本研究では, 中学生の教師に対する信頼感の内容を尺度を作成する中で明らかにし, 中学生の教師に対する信頼感とその規定要因について検討した。中学生345名を対象に調査を実施した。分析1では, 生徒の教師に対する信頼感尺度を作成し, 信頼性と妥当性を検討した。その結果,(1) 生徒の教師に対する信頼感尺度には「安心感」,「不信」,「正当性」の3つの下位尺度があること,(2)「安心感」,「不信」,「正当性」については, 学年によって有意に得点が異なることが明らかになった。分析2では, 生徒の教師に対する信頼感とその規定要因について検討した。その結果,(1) 各学年とも「基本的信頼感」「保護者の信頼感」が「不信」に影響しており, 生徒の教師に対する信頼感には家庭の要因も関連すること,(2)「安心感」「正当性」においては, 各学年とも共通して「ソーシャル・サポート」が影響を与えており, 生徒の教師に対する信頼感には教師からのソーシャル・サポートが重要な要因であること,(3)「不信」には,「STT尺度」のポジティブな2因子である「安心感」「正当性」と比べ, より多くの要因が関連していること, などが明らかになった。
著者
坂井 妙子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.25-36, 1996-03-25 (Released:2019-06-10)

豪華なフルコースがでる披露宴と三段重ねのケーキ,友人達のかける花吹雪に見送られてヨーロッパへハネムーンという結婚式のイメージは今では西洋だけでなく日本でさえ当たり前となっているが,結婚披露宴やハネムーンにまつわるこのような習慣は,実は意外に新しく19世紀末イギリスで確立した。そしてこの習慣の確立には中産階級が大きく関与したと考えられる。本論文ではヴィクトリア朝中産階級の経済力の向上,階級意識の変化および19世紀末に本格化したコマーシャリズムと技術革新が現代の結婚式の基礎をつくった,という視点から19世紀イギリス中産階級の結婚式を解釈する。カップルへの贈り物,結婚披露宴,ハネムーンに現われるヴィクトリア朝中産階級の価値観を考察すると共に,現代の贅沢ではあるが画一化された結婚式のルーツを探る。
著者
山田 智久
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.157, pp.32-46, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
27

本研究は,日本語教師二名へのPAC分析調査を3年の間を空けて,2回行い,教師のビリーフの変化,および変化を促した要因について分析したものである。PAC分析調査の結果の比較から教師のビリーフには,その性質によって変化しやすいものと変化しにくいものがあることが分かった。変化しやすいビリーフの特徴としては,形成されて間もないものであることや同質のビリーフが存在せずに単独で存在していることなどが挙げられた。反対に,変化しにくいビリーフの特徴としては,新人教師の頃に獲得されたビリーフであることや同じ性質を持つビリーフが集まったビリーフの塊が形成されていることなどが挙げられた。
著者
木村 幹
出版者
政治経済史学会
雑誌
政治経済史学 (ISSN:02864266)
巻号頁・発行日
no.403, pp.10-30, 2000-03

近代韓国史における「親日派」出現の原因について、開化思想との関連において論じた。
著者
三代川 正秀
出版者
拓殖大学経営経理研究所
雑誌
拓殖大学経営経理研究 = Takushoku University research in management and accounting (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.115, pp.131-146, 2019-03-27

国立民族学博物館の「会計学と人類学の融合」共同研究会に招かれ,持論の「辺境会計」について報告する機会(2018年2月25日)があった。その折のレジュメ「辺境会計の覚書」に加筆・訂正したものが本稿である。日頃「何故」を問いながら原稿用紙のマス目を埋めてきたので,研究会では,研究対象としてきた「何故」の史的考察を,簿記技法,家計簿記,アカウンタビリティ,重要性の判断,信託法理,取締役報告書,営業報告書(事業報告),環境会計,幸福論を通じて「会計は学問たりうるか」を問って,これを報告した。また2012年と翌3年の二度に渡ってソウルにある国立韓国学中央研究院(AKS)の要請があって,韓・中・日の三か国の土着簿記共同研究会に参画し,この国に育った「帳合の生成とその終焉」を報告してきた。上記の二つの研究機関が求めていたのは,はからずも自国の文化(人類学)と近代(会計)科学の絡みを究めることであった。まさに社会科学の在りようを模索していたのである。そこで,これまでの拙い研究態様を会計学徒に詳らかにし,ご批判を仰ぐものである。
著者
松崎 和江 外木 徳子 長谷川 浩三 矢島 功 町田 幸雄 井坂 隆一
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.88-93, 1985-03-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
16
被引用文献数
2

歯磨圧は歯垢清掃効果及び歯質,歯周組織の損傷と大きな関連性を有しているものと思われる。そこで本研究は,小児のスクラブ法による最適歯磨圧を歯垢清掃効果率,刷掃時の疹痛及び歯齪よりの出血の有無等を参考として求めた。被験者は,4歳から5歳までの歯牙の欠損および歯列不正を認めない乳歯列期の小児15名である。歯ブラシは中等度の毛の硬さを有するライオン株式会社製DentM-2を使用した。測定部位は上下顎左右側の乳臼歯部頬面の4部位で,欄掃回数は各部位とも20回とした。設定歯磨圧は,100g,200g,300g,400g,500gとし,その他の条件は一定とした。得られた結果は以下の通りである。1)100gの歯磨圧での歯垢清掃効果率は30・2%であり,200gでも44.3%であった。これらに対し300gでは76・1%と大きな向上が見られた。しかし,400gでは76.7%,500gでは73.4%とあまり変化がみられなかった。それぞれについて有意差検定を行ったところ1009,2009及び3009の間には1%の危険率で有意差が認められた。しかし,300g,400g,500gの間には有意差は認められなかった。2)部位による清掃効果の差は,歯磨圧100gおよび200gにおいてはみられたが,300g,400g,500gにおいては殆どみられなかった。3)刷掃時の疹痛は300g以下では全く認められなかったが400gで8名,500gで11名の小児に認められた。また,辺縁部歯齪からの出血が400gで3名,500gで5名の小児に認められた。以上の結果より小児のスクラブ法による刷掃において,中等度の硬さの歯ブラシを用いた場合,最適歯磨圧は300gと考えられる。
著者
正垣 明 中田 潔樹 下之園 俊隆 楠本 耕平 菅 健敬
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.228-235, 2023-04-15 (Released:2023-04-15)

先天性心疾患を有する新生児に対する心臓血管外科術後は,呼吸不全や心不全などの合併症を防ぎながら運動発達を促すことが重要とされる.近年,PICS(集中治療後症候群)により小児集中治療室(PICU)退室後のQOLの低下につながる可能性が指摘されている.今回,新生児重症エプスタイン症に対するStarnes術後,長期人工呼吸管理を要した症例を担当し,呼吸循環機能を考慮しながら座位練習や上肢運動を含んだ早期作業療法を経て抜管が可能となり,家族のリハビリテーションへの参加を経て退院に至った.周術期管理中からの作業療法介入により合併症を最小限にすることで,早期退院やQOLの改善に寄与できたと考えられた.
著者
藤井 雄一郎 大塚 雅子 岡本 五郎 日原 誠介 各務 裕史
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.307-311, 2007 (Released:2007-04-23)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

放射線育種により作出されたモモ‘清水白桃RS’は,原品種の‘清水白桃’と比較して果実品質は同等であるが,結実率が低い.開花30日後の結実率を調査したところ,‘清水白桃’が平年では50~70%であるのに対し,‘清水白桃RS’は20~30%と著しく低かった.花器の形態的観察を行ったところ,‘清水白桃RS’には胚珠や胚のうの未発達や退化など形態的異常の花が多く存在しており,これが結実率の低下を引き起こしていると考えられた.また,‘清水白桃RS’は葯当たりの正常花粉数が少なく,このことが受粉の効率を低下させ受精率を低下させているとも考えられた.しかし,結実率の低さが生産性の低下につながることはなく,3~5月にかけての摘蕾・摘果労力の大幅な低減につながる省力品種であることが確認された.
著者
大桃 敏行
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.47-63, 2013-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
54
被引用文献数
1

教育行政学は領域的な学問であり,日本教育行政学会の機関誌に掲載された高等教育関係の論文でも多様な研究方法が用いられてきた.また,領域についても機関誌掲載論文の対象はかなり広範囲に及んでいる.この方法の多様性と対象の広がりの一方で,教育行政学は高等教育を主対象としてこなかった.そのため,高等教育行政研究の各領域で一層の研究の蓄積が必要となるが,本稿では3つの課題を示した.第一に高等教育の政策過程の研究であり,多様なアクターの活動分析とともに行政機関内のよりミクロな分析が必要なこと,第二に高等教育のガバナンス改革の研究であり,諸外国の改革動向をふまえた分析が必要なこと,第三に高等教育制度や行政に関する規範的研究であり,規範に関わる理論構築が必要なことである.
著者
今元 佑輔 徳光 謙一 谷口 鷹史 永井 美咲
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.361-368, 2023-06-15 (Released:2023-06-15)
参考文献数
16

本実践報告の目的は,精神科病院に入院している依存症患者に対して作業療法介入プロセスモデル(OTIPM)を用いた個別プログラムを実施することが作業遂行および社会交流技能に与える影響を検討することである.研究対象者10名について個別プログラム実施前後を比較すると,カナダ作業遂行測定(Canadian Occupational Performance Measure;以下,COPM)の遂行度(p=0.009) ,COPMの満足度(p=0.006),社会交流技能評価(Evaluation of Social Interaction;ESI)(p=0.018)において有意な改善が認められた.
著者
湯川 勇人
出版者
一般財団法人 日本国際政治学会
雑誌
国際政治 (ISSN:04542215)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.190, pp.190_130-190_144, 2018-01-25 (Released:2018-12-19)
参考文献数
67

This article investigates that how Japan pursued inconsistent diplomatic conceptions, establishing a New Order in East Asia and avoiding the deterioration of the U.S.-Japan relationship, by focusing on Foreign Minister Arita’s diplomatic strategy toward the United States from the beginning of the Second Sino-Japanese War to 1940. It argues that Arita tried to maintain the U.S.-Japan relationship within the framework of the Nine Power Treaty by rectifying the open door policy for establishing a New Order in East Asia.During the initial stage of the Second Sino-Japanese war, Foreign Minister Hachiro Arita devoted his primary attention to the creation of so called Toa Shin Chitsujo (New Order in East Asia) by establishing an economic block with China and a puppet state “Manchukuo.” The United States had been opposing this policy as it infringed upon the Nine Power Treaty which reaffirmed the open door policy and guaranteed the sovereignty and territorial integrity of China. At the same time, Japan was economically dependent upon the US especially for raw materials that were of vital importance for Japan’s war against China.The preset study reveals in what way Arita pursued two inconsistent diplomatic goals: avoiding the deterioration of US-Japan relations while attempting to establish a New Order in violation of the Nine Power Treaty. Previous researches interpreted Arita’s Statement of 18 November 1938 as abandonment of the Nine Power Treaty and alteration of the status quo. However, this article shows that Arita made efforts to keep Japanese engagement consistent with the Nine Power Treaty by asking the Department of State, through the U.S. Ambassador to Japan Joseph C. Grew, to rectify the interpretation of the open door policy in exchange for the protection and respect of the US rights in China. In that sense, the Nine Power Treaty served to Arita as a valuable asset in achieving inconsistent diplomatic objectives.In order to alleviate the Depart of State skepticism about Arita’s approach and gain the US trust, Japanese Ministry of Foreign Affairs decided to engage in protection of the US interests in China. Then policy makers of the Foreign Ministry decided to settle the problem of the blockade of the Yangtzu River. However, this policy had never been implemented because of the strong opposition from young diplomatic officers. As a result, the Department of State made their perception of Japan worse, and it bankrupted the Arita’s foreign policy.
著者
新中 新二
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌D(産業応用部門誌) (ISSN:09136339)
巻号頁・発行日
vol.126, no.3, pp.225-236, 2006 (Released:2006-06-01)
参考文献数
34
被引用文献数
3 4

Almost all methods for sensorless drive of permanent-magnet synchronous motors (PMSMs), which estimate rotor phase using fundamental components of stator voltage and current, cannot operate properly at low speed including standstill. For proper sensorless drive of PMSMs, they must be started and driven up to a certain speed by other methods. This paper proposes a new simple vector control method for a starter, which can start and drive PMSMs from rest up to the 50% rated speed. The proposed vector control method has the following useful features: 1) It is constructed on basis of “MIR strategy" together with feedback current control, and has a new specific stability function preventing rotating oscillation; 2) It can start up PMSMs with less than 50-70% rated load; 3) It can prevent over-current even at very low speed including standstill; 4) It can be applied to both of salient and nonsalient pole PMSMs; 5) It does not require motor parameters of high precision; 6) It is simple and required computational load is very light; 7) It starts up PMSMs with pre-specified maximum current and automatically reduces current amplitude to the necessary minimum; 8) It attains pre-specified ratio of effective/reactive currents at steady state; 9) It can estimate properly rotor phase as well as speed at speed of 10% rating or more. This paper presents the new vector control method in detail from principle and confirms its usefulness by experiments.
著者
縣 和一
出版者
日本芝草学会
雑誌
芝草研究 (ISSN:02858800)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.18-26, 2008-10-31 (Released:2021-04-08)
参考文献数
27
被引用文献数
3

本報告は, わが国におけるゴルフ場の主要植生である芝地植生と林地植生の光合成による大気の浄化, 温暖化防止に対する効果を明らかにする目的で, ゴルフ場の規模別, 地域別面積, 生育期間, 用途別芝地の芝種とその純生産量, 森林タイプ別純生産量を基礎にCO2固定量, O2発生量および蒸発散量を算出して大気の浄化と温暖化防止に対するゴルフ場の寄与について検証した。その結果以下の諸点が明らかになった。1) わが国のゴルフ場は, 規模別では18Hが68%を, 27Hが20%, 36Hが11%を占め, 平均面積は, それぞれ100, 128, 172ヘクタールであった。総面積に対する芝地面積の比率は, 18Hが43%で27H, 36Hでは49%前後を占め, 林地面積が50%以上であった (表5)。2) ゴルフ場の規模による用途別の芝地の比率は大差なく, 18Hの平均値でラフが62.7%, フェアウエイ31.2%, ティー2.6%, グリーン3.5%であった (表5)。3) 全国の18Hを対象にした芝地面積と林地面積の比率および用途別の芝地面積比率に地域間差異がみられた (表6)。これは地域によって気象, 地形, 土地利用条件が異なるためと考えられる。4) 全国のゴルフ場の芝地植生, 林地植生には種の違いがみられ, 芝種により生育期間の長さ, 平均気温が地域によって異なった (表7, 8)。5) 芝地植生と林地植生のCO2固定量, O2発生量, 蒸発散量の試算は, 有機物の純生産量を基礎に行った。両植生の純生産量の基準値には, 主として国際生物学事業計画 (IBP) の調査結果を採用した (表1~4)。6) 純生産量である有機物生産は, 北海道, 東北, 中部で小さく, 関東以南では低緯度地域に行くほど大きくなる傾向がみられた。これは生育期間が南に行くにつれて長くなることが関係していた。CO2固定量, O2発生量, 蒸発散量には有機物生産と同傾向の地域的変異がみられた (表9)。7) ゴルフ場の規模別有機物生産量は, 18Hで1,148トン, 27Hで1,440トン, 27Hで1,936トンであった。CO2の固定量, O2発生量, 蒸発散量も規模別にほぼ同様の傾向であった (表10)。8) 全国のゴルフ場の総計をみると, 総面積は約27万haで, 有機物生産の総量は年あたり314万トン, CO2固定量は460万トン, O2発生量は336万トン, 蒸発散水量は11.7億トンであった (表11)。CO2固定量を排出係数で除して電力量に換算すると, 約110億kWhとなり, 約230万標準世帯の年間消費電力となった。このことは全ゴルフ場が, これだけの電力を発電する際に発生するCO2量を吸収固定する潜在能力を有することを示している。これは京都議定書の削減計画の森林整備による目標削減量である4,680万トンの約10%に相当するCO2量である。また336万トンの発生O2量は約1,225万人の年間に必要な酸素給源になることがわかった。9) 以上から, 全国のゴルフ場は, CO2とO2のガス交換, 水の蒸発散を通して大気の浄化, 気象改善に有効であり, 地球温暖化防止に寄与していることが判明した。
著者
Aya Tanaka Linka Koun Rei Haruyama Kyna Uy Maryan Chhit Lumpiny Kim Noriko Fujita Yutaka Osuga Tadashi Kimura Kanal Koum
出版者
National Center for Global Health and Medicine
雑誌
GHM Open (ISSN:2436293X)
巻号頁・発行日
pp.2023.01002, (Released:2023-06-18)
参考文献数
21

The clinical features of newly diagnosed cervical cancer in Cambodia are poorly documented. We aimed to describe the histologic type and stage distributions of newly diagnosed cervical cancer patients at the Khmer Soviet Friendship Hospital in Phnom Penh, which is one of the two national cancer centers in Cambodia. A descriptive cross-sectional study was conducted using the Gynecologic Test Registry of the gynecology department between January and December 2019. In 2019, 351 women were histologically diagnosed with cervical cancer, representing approximately one-third of the estimated total cases occurring in the country. The mean age at presentation was 54.7 years. The histologic type distribution was largely consistent with other Asian countries, with squamous cell carcinoma accounting for 83.8%, followed by adenocarcinoma (15.4%). Among 309 patients with recorded staging information, 57.6% were advanced-stage cancers (i.e. stage IIB or higher). Raising awareness of early symptoms of cervical cancer, increasing access to cancer diagnosis, and better recording of patients’ clinical information are important to improve cervical cancer management in Cambodia.
著者
菅原 至
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.230, 2023 (Released:2023-04-06)

1.問題の所在 日本は第二次大戦の敗戦により小笠原諸島の施政権を喪失した.米国施政権下(1945-1968)の小笠原諸島では先住者である欧米系・太平洋系世帯のみが居住を認められ,日系島民は施政権返還まで居住が許されなかった.施政権返還後の小笠原村民は,住民行政上「在来島民」「旧島民」「新島民」の3者に区分されるが,「在来島民」は米国施政権下の父島に居住していた人々を,「旧島民」は戦前に小笠原諸島に居住していた日系世帯を指す.「新島民」は返還以降に父島・母島に移住した人々である. 「在来島民」の歴史経験や「新島民」の移住に関する研究には一定の蓄積がみられ,戦後に難民化した「旧島民」の生活や帰島・補償運動については石原(2013; 2019)に詳しい.しかし「旧島民」の返還前後の活動や帰島後の生活については詳らかになっていない.そこで,本研究は故郷喪失を経て帰島し,島内に定住した「旧島民」の経験を明らかにすることを目的とする.手法としては,南方同胞援護会の刊行物等の分析と,聞き取り調査を用いた. 2.返還以前の「旧島民」の動向 強制全島疎開以降,難民化した「旧島民」は,東京都(島嶼部を含む),神奈川県,静岡県を中心に全国43都道府県および沖縄(大東諸島)に離散した(南方同胞援護会編 1966).帰島を待つなかで「旧島民」は経済的に困窮し,1953年の東京都による「小笠原島引揚民の生活状況調査」では全体の85%が困窮者とされている.いつ帰島が許可されるか見通しが立たない状況のため,現住地への資本の投下が困難であったことも困窮の要因となった(犬飼・橋本 1969).総理府が返還直前に全国の「旧島民」を対象に実施した悉皆調査では,帰島希望者は回答者全体の68%にのぼり,島別の内訳は父島2,276名,母島1,424名,硫黄島395名であった. 3.返還時の諸島内の状況と課題 戦前の小笠原諸島には, 5つの行政村(父島: 大村・扇村袋沢村,母島: 沖村・北村,硫黄島: 硫黄島村)が設置されていたが,米国施政権下では父島大村のみが居住地として利用され,その他の集落は放棄されていた.「旧島民」の帰島に際しては,住宅や上下水道,電気等のインフラ整備が喫緊の課題であった.そのため,小笠原返還をもって「旧島民」の帰島が実現したわけではなかった.特に米軍が駐留しなかった母島は,全島が亜熱帯の植物に覆われたため再開拓が求められ,定住には返還から5年の歳月を要した. 4.「旧島民」の帰島・定住の過程 返還後に帰島を果たした「旧島民」は,主に戦前の生活の記憶を持つ40代以上であり,少数の若者は親の意志に応えて随伴した島外育ちの戦後世代であった.帰島時期に着目すれば,同じ「旧島民」にも従事する職種により差異がみられた.例えば,漁業者は農業者よりも帰島・定住が早く,その要因としては以下の3点が指摘できる.第1に,米国施政権下の父島では,「在来島民」がグアムに冷凍魚を輸出していたため,最低限の港湾設備が整っていたこと.第2に,漁業者は,返還以前から返還後の漁協設立に向けて「在来島民」の漁業者と接触していたこと.第3に,戦前の農地が密林に戻っていたため,農業者としての定住を希望した人々は生業基盤の整備に時間が掛かったことである. これに対し,帰島が果たされなかった「旧島民」も存在する.一部の硫黄島出身者は父島・母島に移住し帰島を待ったが,現在まで帰島は実現していない.また,小笠原復興計画では,インフラ集約を目的として「一島一集落」が基本方針とされ,父島大村地区と母島沖村地区の優先整備が行われた.そのため,他集落出身者は帰島できても帰郷できない状況が続いた.本発表では,以上のような文書資料から得られた「旧島民」の帰島・定住の過程を,聞き取り調査の結果と照らし合わせることで,生きられた経験として論じる.文献 石原 俊 2013.『〈群島〉の歴史社会学――小笠原諸島・硫黄島,日本・アメリカ,そして太平洋世界』弘文堂. 石原 俊 2019.『硫黄島』中央公論新社. 犬飼基義・橋本 健 1969.『小笠原――南海の孤島に生きる』日本放送出版協会. 南方同胞援護会編 1966.『小笠原関係実態調査書元居住者名簿編』南方同胞援護会. [付記] 本研究は「阿部英雄史学地理学科研究奨励金」および 「明治大学大学院生研究調査プログラム」の補助金を使用した.
著者
同志社々史々料編集所編
出版者
同志社
巻号頁・発行日
1965