著者
田中 英高
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ODは起立循環反応が異なる4つのサブタイプがこれまでに報告されている。我々は非侵襲的連続血圧・心拍反応と近赤外分光計による脳血流を評価し、さらに新しい2つのサブタイプ、すなわちHyper-response型、脳血流低下型の存在を見出した。OD症状を持つ疾患群478名における各サブタイプの頻度は、起立直後性低血圧22.8%、体位性頻脈症候群20.7%、遷延性起立性低血圧5.0%、神経調節性失神1.0%、Hyperresponse型9.4%、脳血流低下型5.6%であった。新しいサブタイプはODの15%を占めると考えられ、新しい診断・治療法の開発が必要である。MemCacによる自律神経機能解析では、POTSは立位で著しい低下を認め、迷走神経活動の異常減少が推測された。Head-uptilttrainingを実施したところ、POTSにおいて治療効果を認め、起立後の心拍増加の改善、起立時間の延長を認め、臨床的に有用と考えられた。
著者
小池 生夫 原岡 笙子 古川 尚子 国吉 丈夫 石田 雅近 伊部 哲 朝尾 幸次郎
出版者
慶応義塾大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

本研究はわが国全体の英語教育を大学を中心として、早期教育、中学校、高等学校、海外子女教育から見た学校教育も含み、それらの実態と将来像を明らかにしてきた。職業人から見た英語教育については、昭和58年3月に提出した研究成果報告書よりはじまった一連の研究の最後のテ-マとして研究を行ってきたものである。研究成果報告書の内容は1.「あなたご自身について」でアンケ-ト解答者自身の年令、学歴、職種、海外経験などを調査した。次に、「あなたと英語のかかわり」については、仕事とのかかわりで英語が必要とする人が54.2%に達していることがわかった。英語が通じない人は41.3%、かなり不自由しない人が22.6%などいくつかの項目が分析されている。次は「あなたの大学生時代の英語学習について」では学習態度、授業内容などについて、4番目は「日本のこれからの英語教育について」の批判を調査した。学校教育で成果が、「まったく」あるいは「あまり」あがっていないと回答する人は74.2%で、これはかなり深刻な数字である。その主な理由は、日本人の完璧主義で細かいところに気を使いすぎるくせと、受験準備にあるとする人が首位を占めた。そして英語教育の目的は「コミュニケ-ションができる基礎力を養成することにあるとする人が88.9%とい圧倒的であった。総項目34、大学卒業生同窓会名簿多数の中から任意に抽出をした人々約12000名、回答率19%程度であった。あしかけ9年に及び調査分析は4冊の研究成果報告書として結実したが、その総集編を作成、同時に提出するべく努力をした。この特徴は、わが国の英語教育をタテ軸、ヨコ軸から見て、総合的分析判断するもので、またに画期的な資料になるであろうと期待する。すべてコンピュ-タによる資料分析を行ったものである。
著者
井尻 暁 坂井 三郎
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

熊野海盆海底泥火山および、下北八戸沖石炭層の掘削によって得られた堆積物試料からメタンを抽出し、メタンの生成温度の指標となるクランプトアイソトープを測定した。この結果、熊野海盆泥火山では断層を通じた水の供給により活性化した微生物によるメタン生成の寄与が非常に大きいことが明らかになった。八戸沖石炭層では海底下の微生物の生息限界に近い海底下深部(2500m)でもメタン生成が行われていることが明らかとなった。
著者
稲場 斉 大友 和夫
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

はじめに:大腿骨頸部骨折は高齢者では転子間骨折が多く、比較的若い年齢層では内側骨折が多いと言われている。また、Fankelらは大腿骨頸部への合力の方向により、骨折部位が異なるとしているが、年齢による骨折部位の差異は明らかになっていない。そこで大腿骨頸部近傍の骨密度を測定し、荷重試験による大腿骨頸部の骨折の部位との関連を調べた。材料および方法:秋田大学医学部解剖学教室にて、解剖用屍体10体(54-91歳、平均73.7歳)の両側より採取した大腿骨20本について、それらの単純X-Pにて骨稜構造を検索し、さらにQCTにて骨頭部、骨頭下部、転子部、転子間部および転子下部での皮質および骨髄の骨密度を測定した。その後、大腿骨を骨ホルダーに石膏にて固定し、インストロン荷重試験機8501にセットして骨折が生じるまで圧縮荷重をかけた。結果:各部の骨密度の平均値は骨頭中心部、骨頭下部および転子部の骨髄でそれぞれ、417.9 127.2、371.9 182.5および97.3 54.2(mg/cm)、転子間部および転子下部の内側の皮質骨でそれぞれ1155.0 172.6 1237.9 170.3(mg/cm)であった。それらの値の間には転子部を除いて比較的良い相関関係が見られ、特に骨頭中心部、転子間部および転子下部の骨皮質の骨密度の間に強い相関がみられた。骨折が生じた時の荷重は178.3kgから849.6kgで、それらの平均値は556.4 224.2kgであった。骨折部位は骨頭下8、転子部10および転子間2であり、骨密度と骨折部位との関連は明らかでなかった。考察:今回の実験より、大腿骨頸部骨折の部位は単純な荷重方法では骨密度と関連しないことがわかった。したがって、骨折部位は作用する外力の種類にも影響されると考えられ、さらに荷重方法を変えて研究を進めてゆきたい。
著者
藤原 翔
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本年度は2015年に中学3年生とその母親を対象として行った調査の追跡調査を行った.ベースサンプルの分析結果から明らかになった課題,高校に進学していたら2年であること,2012年の高校生調査との比較が可能なことなどを踏まえて調査票を作成した(2017年4月開始,11月確定).そして,東京大学社会科学研究所研究倫理審査委員会の承認を受けた上で,2017年11月から2018年1月にかけて,郵送調査を行った.郵送調査の結果,2015年の調査で有効回答が得られた1,854世帯のうち,1,591世帯(85.8%)の回答を得た.ただし,母親のみ回収の世帯が92世帯,子のみ回収の世帯が3世帯あり,ペアで回収できた世帯は1,496世帯であった(80.7%).調査票には,子どもの情報については進学した高校の情報や高校卒業後にどのような学校に進学したいか(学校名・学部学科名)などの項目が追加された.データの納品後はこれらの情報のクリーニングとコーディング(職業,高校偏差値,高校学科,大学偏差値など)を行った.基礎的な分析として,中学時の進学を希望していた高校の偏差値・学科と教育期待・教育アスピレーションと実際に進学した高校の偏差値・学科と教育期待・教育アスピレーションの情報を用いた固定効果モデルによる分析を行った.その結果,普通科希望から専門学科への変化は,教育期待・教育アスピレーションを下げることが示唆された.この結果については,高校階層構造の影響をみるための因果分析として論文をまとめている.
著者
杉浦 隆之 山下 純
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は研究代表者らが1995年に発見した新しい脂質メディエーターである。今回の研究により以下の点を明らかにした。1.2-AGの生成メカニズムの解明。TPAで惹起した急性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎の局所では、ホスファチジルイノシトールからだけではなく、ホスファチジルコリンなどからも2-AGが産生されることを明らかにした。2.白血球系の細胞の機能に及ぼす2-AGの影響。マクロファージなどの白血球系の細胞の接着が、2-AGにより増強されることを初めて明らかにした。2-AGは白血球の接着(組織や血管壁への接着)を亢進させることにより、炎症を増大させている可能性がある。3.炎症・免疫系における2-AGの生理的意義の解明。2-AGが急性炎症や慢性のアレルギー性炎症(気管支喘息モデル、アレルギー性皮膚炎モデル)に関与しているかどうかを詳しく調べた。その結果、これらの炎症局所では2-AGの著しい蓄積がみられること、カンナビノイドCB2受容体のアンタゴニストを塗布することにより、炎症反応(腫脹および白血球浸潤)が強く抑えられることなどを明らかにした。これらの結果は、カンナビノイドCB2受容体とその内在性リガンドである2-AGが、急性炎症やアレルギー性炎症の進展に深く関与していることを強く示唆するものである。このほか、2-AGを塗布することによって、炎症反応が惹起されること、2-AGが好酸球を効率よく遊走させることなども明らかにした。4.血管系に及ぼす2-AG作用。2-AGがCB2受容体を発現している細胞に作用するとNOの産生が増大すること、生成したNOによって血管の拡張や透過性の亢進が起きることを明らかにした。マウスの耳などに2-AGを塗布したときに観察される発赤や浮腫は主にNOによるものである可能性がある。
著者
和田 岳
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

2度のホネホネサミットを開催し、日本各地の博物館等で骨格標本などを作製しているグループ・個人が集結する機会を持った。その機会にホネの全国ネットワーク「ホネット」を立ち上げ、メーリングリスト・研修の機会を通じて交流した。また、博物館や学校教育などの場で使えるホネの普及教育活動展開用キットを作成し、その活用について「ホネット」の場で意見交換を行った。
著者
近藤 保彦
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

動物は、なわばりの維持、パートナーの選択と、さまざまな他個体との相互交渉を行いながら個の保存、主の保存を実現している。これらの社会行動は、嗅覚を中心とした社会信号が視床下部に送られ制御されているが、最近の研究でとくに神経ペプチドであるオキシトシンが重要な役割を果たしていることが分かってきた。我々は、この研究でオキシトシン欠損マウスが異性の匂いに対する選好性を失っていること、また、特に雌マウスでは初めての交尾時に雄をなかなか受け入れられないことを発見した。さらにラットを使った実験では、母親が仔ラットの匂いに惹きつけられるのにもオキシトシンが重要であることがわかった。
著者
小林 昭雄 藤山 和仁 梶山 慎一郎 福崎 英一郎
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

本研究では、食虫植物の栄養獲得機構に関する予備的な知見を得るために、モデル植物としてウツボカズラ科の食虫植物を用い、捕虫袋内部に分泌される消化酵素や分泌液に関する基礎データの収集を行った。まず、捕虫袋分泌液に含まれる消化酵素の種類を明らかにすべく、各種加水分解酵素の活性測定を行った。予備実験において、蓋(ふた)が開く前の未成熟捕虫袋分泌液は無菌状態であった。一方、昆虫が捕らえられた捕虫袋分泌液は、外見上透明であり、腐敗臭は全く認められないが、数種類の微生物の存在が確認された。その中にはプロテアーゼを分泌するものも存在することが判明した。そこで、植物由来の酵素のみを分析するために、ほぼ無菌的な蓋が開いた直後の捕虫袋分泌液を酵素活性測定に使用した。その結果、プロテアーゼ、エステラーゼ、ホスファターゼ、RNase.DNase、ホスホリパーゼD、キチナーゼといった、少なくとも7種類の酵素活性が存在することが明らかになった。このうちプロテアーゼに関しては、プロテアーゼインヒビターを用いた阻害実験がら、アスパラギン酸プロテアーゼ(酸性プロテアーゼ)である事が判明した。一方で、捕虫袋分泌液のpHは蓋が開いた直後で4.0 4.8、獲物が捕らえられると3以下にまで低下することが予備実験で観察されていた。そこで、分泌液が強酸性を示す原因を探るために、分泌液に含まれる各種無機イオン濃度を測定した。その結果、プロトンの他にK^+とCl^-が高濃度(それぞれ、650 760ppm、530 600ppm)含まれることが明らかとなった。このことから、分泌液の酸性pHは、哺乳類の胃の内部と同じく塩酸の分泌によるものと推測された。以上の結果から、捕虫袋分泌液には昆蚤の消化に必要な消化酵素が一揃い存在し、これら消化酵素と分泌液のpHの低下が本植物の栄養獲得過程において重要な役割を果たしていることが示唆された。今後のさらなる研究により、根以外の部位からの低分子の吸収機構が明らがとなり、葉面がらの効率的物質吸収に関する新しい知識が集積されることが期待される。
著者
中武 靖仁 渡邉 孝司
出版者
久留米工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

マイクロ・ナノバブルを混入した軽油が、ディーゼル機関の燃費と有害排気ガスの低減のために使用された。マイクロ・ナノバブル超小型エジェクタ式混入器(直径20 mm、長さ30 mm程度)で生成され、燃料供給ラインで連続的に燃料へ混入された。機関のエア噛みを起こすほどの比較的大きなマイクロサイズの気泡は、ミキシングタンクでナノバブルと分離され、コモンレール式燃料噴射置を有するディーゼル機関で、性能実験が行われた。結果は、ナノバブルを燃料に混入することによって、燃料消費率が負荷平均で3%、充填効率が1%、すす濃度に僅かながらの減少が認められた。この原因はマイクロ・ナノバブルが燃料に混入する作用によって物理・化学的作用によって、ディーゼル燃焼が改善されたものである。
著者
白畑 知彦
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

今回完成した報告書は、平成15年度から平成17年度の日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(2)(課題番号15520353、研究代表者:白畑知彦)による研究成果の報告書である。その研究内容は大きく2つに分けられる。1つ目は、日本の小学校での英語教育について第二言語習得研究の成果を踏まえて考察した論述形態のものである。これは第1章と英文で書いた第5章にまとめられている。2つ目は、日本語を母語とする子どもを被験者に、彼らの英語能力の伸長を実証的に調査した内容のものである。これは、第2章、第3章、そして第4章にまとめられている。第2章では小学校で英語教育を受けた子ども達が高校生になった時の英語力を調査している。第3章では、小学生の英語音声認識能力についての研究成果を報告した。第5章は代名詞、再帰代名詞の解釈についての研究成果を報告した。結論を総じて言えば、小学校から英語教育を始めても中学校、高等学校との連携が十分に取れなければ、その能力が持続して伸びていかない、というものであった。したがって、小学校英語教育が成功するか否かを論じるには、中学校との連携の考慮なしには考えられないのである。このことを今後行政に強く訴えていく必要がある。また、研究期間の3年間で、図書を2冊、学会誌等での論文を7本、学会等での口頭発表を4度おこなうことができた。その他にも関連する内容で講演等を何度かおこない、今後のさらなる研究に繋げる準備ができた。
著者
成清 修
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

ガラス的物質群の理解を目指して理論的研究を展開しているが、本年度は特に下記のことについての論文を出版することができた。ドープした半導体や希土類化合物(重い電子系)では金属スピングラスと呼ばれる新奇な状態が実現している。実験的には多くのデータの蓄積があるが、理論はほとんど未発達の状況にある。通常のスピングラスの理論は、絶縁体の局在スピンに対するものであるが、金属スピングラスの理論においては、遍歴するフェルミオン(電子)とスピングラスの秩序変数の共存を示さねばならない。2ないし3次元のスピングラスの議論はシミュレーションをしないと進まないが、理論的に確立しているのは無限大次元の解析的理論である。他方、フェルミオン系において確立した金属絶縁体転移(Mott転移)の理論は、やはり無限大次元の理論である。そこで我々は、スピン系とフェルミオン系の無限大次元の理論の統合を図った。具体的にはランダムなスピン・フェルミオン模型と呼ばれるモデルを無限大次元で厳密になる動的平均場近似を用いて調べた。過去、ミクロなモデルから出発して金属スピングラス状態を導出する試みは成功していなかったが、それはスピングラス系のダイナミクスを追跡できていなかったためである。我々はダイナミクスを正しく考慮し、金属スピングラス状態を導出することに成功した。同時にスピングラス相のなかで起こる金属絶縁体転移を導き、転移点を確定した。現在、本研究の一環としてクラスター描像にたって、大偏差解析およびマルチフラクタル解析を実行し、2ないし3次元での金属スピングラスの理論を構築しつつある。
著者
長沼 毅
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

通常の表層海水試料に加えて、深部地下水ならびにトカラ列島や口永良部島などの火山域、サハラ・ゴビ砂漠、北極・南極等の極限環境試料から孔径0.2ミクロン(μm)通過菌(すなわちナノバクテリア)の単離・培養を試みた。上記試料液あるいは懸濁液を三連にした孔径0.2ミクロンSterivexフィルターで濾過し、その濾液を貧栄養の1/100LB液体培地に接種した後、濁りの生じた培地をさらに1/100LB寒天培地に塗布し、形成した単コロニーからの釣菌および画線を繰り返して、0.2ミクロン通過菌、(極微小菌)の単離を行い、6株を取得することができた。このうち好気・室温条件で増殖が比較的速い深部地下水由来の3株の分子系統を16S rRNA遺伝子で調べたところ、それぞれ既知の属(Acidovorax、Micrococcusおよび phaeospirillum)に帰属することが分かった。この深部地下水由来の3株について、一酸化炭素と二酸化炭素の変換および亜硫酸と硫酸の変換という地球化学的な機能を有する酵素の遺伝子を得ることができた。また、一本鎖DNAの分解、突然変異源である酸化ヌクレオチドの分解酵素、トレハロース生合成の最終段階、グルタミン酸の生成(synthetaseではなく、糖代謝とアミノ酸代謝を結ぶsynthase)など、種々の代謝に関わる酵素の遺伝子も得ることができ、極微小生物の生理に関する基礎知見を拡充することができた。
著者
堀 正広 田畑 智司 今林 修 地村 彰之 島 美由紀
出版者
熊本学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

山本忠雄著Growth and System of the Language of Dickens(1950)に基づいた多機能搭載型電子版The Dickens LexiconはDickens Lexicon Onlineとして近い将来一般公開する基盤が構築された。
著者
武井 寛
出版者
岐阜聖徳学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、20世紀中頃のアメリカ合衆国における公正な住宅を求めた黒人の活動を、住宅改革家との関係に注目しながら考察することを目的とした。連邦住宅局(FHA)と全国黒人向上協会(NAACP)の住宅問題に関する一次史料の収集は、ほぼ予定通りに実現した。それらの史料を用いて、制限的不動産約款を廃止した連邦最高裁判所による1948年の「シェリー対クレーマー判決」の重要性を検証し、黒人の社会生活にとって転機となっていたことを明らかにした。そして公民権運動時代の都市住宅問題に取り組んだ1966年シカゴ自由運動を再考することで、本研究では都市住宅問題は公民権運動と密接な関連性があることを示した。
著者
平野 千果子
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、植民地支配の過去をめぐる歴史認識について、フランスを事例に考察したものである。日本に比すると、フランスはアルジェリアを除けば旧植民地からの批判にさして直面してはおらず、そもそも植民地支配の過去が必ずしも「負」の歴史と捉えられているわけでもない。本研究では、フランス植民地のなかでも独立前から親仏的傾向が強いサハラ以南アフリカに注目し、社会史的手法によって、本国側の認識がいかに形成されていったかを考察した。
著者
佐々木 真
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、スペイン継承戦争中の主要な戦闘の分析を通じて、戦争における作戦指導がどのようになされたのかという点を、とりわけルイ14世と将軍たちが果たした役割を中心に解明することである。この目的達成のために、フランスと日本で関連する史資料を網羅的に調査・収集した。そこから得られた知見は、国王のイニシアチブの重要性と、新貴族(法服貴族)の台頭下で影響力が低下したとされてきた旧貴族(帯剣貴族)が、戦争や政治において重要な役割を果たしたことであった。この知見は、従来の絶対王政像に再修正をもたらすものである。
著者
尾崎 喜光 朝日 祥之 野山 広 井上 文子 真田 信治 陣内 正敬 二階堂 整
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

移住先の言葉をどう感じているか等を中心的な内容とする半構造化インタビューを、関西方言と他方言とを対照する形で実施した。また、上記のインタビュー調査において、移住先の言葉として繰り返し指摘された表現や言語行動が、当該地域において現在どの程度用いられているかを数量的に把握するためのアンケート調査を実施した。特定の観点から両調査のデータを分析した結果については学会で口頭発表した。また、アンケート調査の研究成果については冊子体の報告書としてまとめた。
著者
戸田 勝巳
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

エストロゲン合成遺伝子欠損マウス(Ar^<-/->マウス)とエストロゲン受容体α遺伝子欠損マウス(ERα^<-/->を用いてエストロゲンの精巣における生理作用を解析した。Ar^<-/->マウスとERα^<-/->マウスはともに精子形成に異常を呈する。しかしERα^<-/->マウスでは2ヶ月齢で異常が観察されるのに対して、Ar^<-/->マウスでは5ヶ月齢を過ぎないと病態が現れないという違いが見られる。Ar^<-/->マウスを17β-estradiol(1ppm)を混入した餌で飼育すると精子形成の異常を完全に抑制できることから、精子形成が正常に進行するためには、あるいはそれを維持するためにはエストロゲンの作用が必要であると考えられる。そこで、エストロゲンが作用する生体部位を解析した。ERα^<-/->マウスでは精巣輸出管における精巣分泌液の再吸収機能の障害が原因で輸出管腔が拡張することが報告されている。 Ar^<-/->マウスで解析したところ、そうした形態的な変化は観察されず、精巣輸出管の機能と精子形成の障害との間には相関関係は見られなかった。 精巣輸出管の微細構造を解析したところ、ERα^<-/->マウスの輸出管には細胞内で小胞のリサイクルに関係しているapical tubuleが存在しないことが判った。このことから、精巣輸出管の上皮細胞でERαは小胞のリサイクルの制御をとおして分泌液の再吸収機能をコントロールしていると考えられる。また、その機能発現にはエストロゲンが不要であると解釈しなければならない。エストロゲンの欠乏が原因で、精子形成異常を起こす分子機構を明らかにするためには、野生型マウスと精子形成が形態的に正常な時期のAr^<-/->マウスの精巣で発現量に差のある遺伝子群を同定することが必須と考えらる。