著者
山中 めぐみ
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

体温調節中枢は視床下部の視索前野(POA)に存在し、生体内外の環境変化を末梢からの入力として受けている。それにより、POAからの出力が変化し、その環境変化に応じた体温調節反応が引き起こされる。POA内には、GABA作動性神経があり、体温調節制御に重要な役割を担っている。そこで本研究は、遺伝子改変技術を用い、マウスに光活性化タンパク質であるチャネルロドプシン2(ChR2)およびハロロドプシン(Halo)をGABA作動性神経特異的に発現させ、そして、その神経活動を光によって制御することにより、無麻酔・無拘束下において、GABA作動性神経による生理的な体温調節反応機構についての解析を行うことを目的とする。ChR2およびHaloはそれぞれ非選択的陽イオンチャネルおよびクロライドポンプを形成し、ChR2は青色光により活性化されて、イオンチャネルを開口、膜電位を脱分極させることで、神経細胞では閾値を超えると活動電位を発生させることが出来る。一方、Haloは黄色光で瞬時に反応し、細胞外から細胞内ヘクロライドイオンを流入させ、膜電位を過分極させることによって、活動電位発生を抑制する。今年度は、本マウスを作成し、抗Gad67抗体を用いた免疫染色によって、光活性化タンパク質がGABA作動性神経特異的に発現していることを確認した。さらに、このマウスから脳スライス標本を作製し、GABA作動性神経にパッチクランプを行った。HaloはGFPとの融合タンパク質として発現しているため、GFPの蛍光を指標としてGABA作動性神経を同定した。電流固定により膜電位を記録しながら、対物レンズから黄色光(580nm)を記録神経細胞に照射すると、瞬時に強い過分極が生じ活動電位発生を完全に抑制することに成功した。このことより、in vitroにおいて光活性化タンパク質が正しく機能していることが確認できた。
著者
齊藤 修 橋本 禅 高橋 俊守
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、里山を対象として、供給サービス(木材、食料)、調整サービス(大気・水循環調整)、文化的サービス(レクリエーション、景観)、基盤サービス(生物生息地)の各生態系サービスを定量評価し、複数の将来シナリオのもとで生態系サービスが今後どう変化しうるかを政策立案者や地域住民に対して定量的・空間的・視覚的に伝え、協働を支援する対話型シナリオ分析ツール開発を行った。
著者
前濱 剛廣 曽根川 富博 比嘉 晃
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

シリコンをHF溶液中において臨界電流密度以下で陽極化成すると多孔質シリコン層が形成される.その多孔質層は,多孔度に対応して屈折率も変化し,多孔度は陽極化成電流密度で容易に制御できる.この性質を利用して,電流密度を低・高と周期的に変調し,第1層の多孔質シリコンの格子パターンを下層に自己クローニングして作製する,屈折率孔質シリコン3次元周期構造(PS3DPS)の作製手法を確立し,3次元フォトニック結晶作製に応用することがこの研究の狙いである.本枡究での具体的な目標は,赤外領域の光に反応する1辺が約1μmサイズのPS3DPSの作製である.1μmサイズのPS3DPSの作製の基礎データを得るため,1μm層厚の1次元周期構造の形成特性を,走査電子顕微鏡及びX線2結晶法で詳細に調べ,10mA/cm^2と50mA/cm^2を交互に流す周期的変調法でほぼ設計通りの1次元周期構造が形成できることを確認した.1μm〜20μmの正方格子ホトマスクを用いた選択陽極化成と,提案した自己クローニング法でPS3DPSの作製を行い,どこまでPS3DPSサイズの縮小化が実現できるか走査電子顕微鏡による断面観測で調べた.その結果,(1)選択陽極化成のレジストとしてポジ形フォトレジストは不適でネガ形フォトレジストが適していることがわかり,(2)PS3DPSのサイズは,5x5μm正方格子を1μmの層厚で7層目まで自己クローニングできることが確認できた.また、サイズの縮小化と自己クローニングの繰り返し数の増加の障害となっている主な原因は,多孔質シリコンが深さ方向だけでなく横方向へも成長するためであることがわかった.今後は,多孔質シリコンの成長メカニズムを解明して,深さ方向に対する横方向成長比が小さくなる陽極化成条件を探索して,1μmサイズのPS3DPSを実現する研究をさらに進める必要がある.
著者
久保 健一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

まず後北条氏関係文書約4500通の目録データベースを作成した。これには年月日・差出・充所等のほかにキーワードとして後北条氏における公儀を示す文言といわれる「大途」「公方」「公儀」を載せ、これらの使用者・使用対象・使用時期・使用方法等を検索できるようにした。「大途」文言の事例はおよそ120件、「公方」文言の事例はおよそ70件、「公儀」文言の事例はおよそ25件であった。これを基礎とした後北条氏関係文書の分析により、後北条氏における公儀の構造と機能を追究した。その結果、構造については当主ないし宗家のみが主体となる「大途」が支城主クラスの一族も主体となることができる「公方」「公儀」には見られない人格性・文書の発給主体・軍事的諸機能等の特徴を有していることを明らかにした。したがって「大途」は「公方」「公儀」に対して相対的に優位であり、「大途」を頂点とする公儀の構造を明らかにすることができた。特に「大途」の人格性は後北条氏における公儀の確立や維持に重要な規定を与えており、幕藩制国家における公儀に比して後北条氏の公儀の独自性を示していると考えた。この点は従来ほとんど追究されていないことであり、これを仮に公儀の人格的・イエ的構造と呼ぶことにした。機能については一般にいわれる訴訟→裁許や公共機能も再確認できたが、役賦課の正当性を示す機能や、上にも述べたように「大途」において見られる文書発給機能や軍事的諸機能をも見出すことができた。そしてこれらの必ずしも公共的でない機能が後北条氏の公儀においては重要な比重を占めていることを確認できた。なお毛利氏関係史料の調査・収集を行ったが、戦国期段階では公儀に類する文言はほとんど見出せなかった。後北条氏との大きな差異として留意し、今後追究したい。
著者
吉岡 健二郎 太田 孝彦 太田 喬夫 佐々木 丞平 野口 榮子 山岡 泰造
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

美的価値と芸術的価値の問題は美学及び芸術史研究にとってその中心をなすというべき重要な問題である。研究代表者の吉岡は60年度に美術史研究が独立した学問として成立するに至る過程をたどり、それが18世紀の西欧世界においてであること、そしてまた美術史学の成立と美学の成立とは互いに支えあって初めて可能であったことを明らかにした。(京都大学文学部美学美術史学研究紀要第7号)吉岡の研究は各研究分担者の個別的で緻密な研究に支えられ、そこから大きな示唆と教示を得て執筆されたのであるが、同時に問題の難しさを一層鮮明なものにする結果ともなった。即ち美の問題と美術の問題との、近代世界における新たなる関係如何という、美学にとってのより根底的な問いが避けられなくなってきたのである。美学が美と芸術の本質を探求する学として成立したのは18世紀半ばであるが、美と芸術が一つの学の中で、まとめて扱われたのは、芸術が美的価値の実現を目標とする人間活動と見倣されたからに他ならない。ところが、人間活動の一形態としての芸術は必ずしも美的価値を目標とするものではないのではないかという疑問や、西洋以外の諸文化圏の芸術は少くとも西洋の伝統的美概念には包摂できないという明白な事実が、研究者の意識に上ってくるようになると、美的価値と芸術的価値とは分離されざるをえなくなる。東洋・日本の美術の研究者は、中国や日本の美術の目差すところが、いわゆる西洋世界で確立された美的諸範疇といったものでは充分に説明できないこと、それにも拘らず人間の表現活動としては西欧の認識の心を深く感動させるものを有していること、従って美的価値概念と芸術的それとの再検討が地球的規模で行なわれなければならないこと、そして美的価値と芸術的価値との価値論的な新しい統一の試みが必要であるという点を明らかにしてきたのである。
著者
佐々木 健一 西村 清和 礒山 雅 戸澤 義夫 藤田 一美 坂部 恵
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本年度は6回の研究会を開催した。昨年度は報告を提出したあとの3月にも研究会を催したが、今年度分に限って言えば、それぞれの研究報告者とその主題は次の如くである。先ず、尼ヶ崎彬は舞踊を対象とし「藝術的価値と身体」について論じた。その際、舞踊批評において用いられる評言を手掛かりとして、訓練された踊り手の身体において認められる独特な藝術的価値を明らかにした。小田部胤久は18世紀のドイツ美学、すなわちまだ価値の概念が十分に術語化していなかった時代の美学思想のなかに潜在している価値論を、再構成することを試みた。長野順子は「生の強度」という観点から、バ-クからカントをへてニーチェに至る崇高概念を研究した。そして、とくにこの種の美的範疇に伴う性差のイメージを、理論書のテクストから抽出して、そこに新しい光を当てた。加藤好光は、西田幾多郎の述語論理と場所の概念に注目しつつ、これを生命科学や生気論哲学によって再記述することによって、「美的体験の生命関係学的基礎づけ」を試みた。大石昌史は、価値の再評価を行ったニーチェのニヒリズムの哲学において、絶対的肯定によって美的価値が創造されるという思想を捉え、その理論をあとづけた。伊藤るみ子はP・キヴィーの論考を手掛かりとして、音楽における作品の演奏の関係、特に「演奏のauthenticity」の問題を考察した。この他、代表者佐々木が価値概念についての原理的考察を著書の一部として公表するなど、各研究分担者の独自の研究もあるが、全体の研究成果のうち、公表可能な段階に達したものを集めて研究成果の報告書を編んだ。
著者
岸 清香
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

1980年代後半以降の現代美術の芸術生産において、活動領域の世界的拡大と価値規範の多様化が観察されるが、本研究はこの現象について、(1)「アジア現代美術」の芸術生産の様態、(2)フランスにおける公共政策、(3)日本における公共政策、の三つの研究軸から考察することを目指している。本年度はそのとりまとめとして、共著の刊行、学会報告、論説・翻訳文の発表を行った。まず上記(1)について、本研究で行ってきた福岡アジア美術館でのフィールドワークに基づき「美術館がアジアと出会うとき」(戦後日本国際文化交流研究会の論集『戦後日本の国際文化交流』所収)を上梓し、「アジア現代美術」を社会学的に考察するための視座を得た。特にこの「アジア現代美術」という美的カテゴリーが欧米で展開する多文化主義の議論を踏まえた言説空間のもとに出現した点に着目し、その論理的構成を整理した内容を日本社会学会年次大会で発表した。また(2)に関して、フランスで行ってきた調査研究を踏まえ、「1990年代の現代美術論争」を上梓したが、さらにこれを戦後フランスにおける美術と国家という枠組に位置づける論考を日本国際文化学会全国大会で報告した。社会文化史の重鎮P・オリー氏の来日講演に際しては、通訳と講演原稿の訳出に関わり、日本では十分に知られていないフランスの文化政策研究の紹介にも携わった。また「『文化』は戦略化する」では、フランスとヨーロッパにおける近年の対外文化政策の動向を論説した。(3)については、前述の戦後日本国際文化交流研究会論集に、「『日本的グローバリズム』のアジア的契機」のほか、史的概説と関連年表を共同研究の成果をまとめた。以上を通して、芸術生産が社会経済生活に関わる価値や規範の問題として国家と国家間政治の次元において争点化し、国際社会における集合的同一性の問題として出現している様相を具体的に解明することができた。
著者
松本 文子
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

平成24年度の本研究の成果としては、第一に、アートプロジェクト開催地の住民5名に対して実施したインタビュー調査の結果を、カチナ・キューブというアプリケーションを用いて3次元空間上で空間的な検討を行ったことである。これは前年度にオハイオ州立大学で習得したQualitativeGISという手法である。結果、積極的にアートプロジェクトに参加する人は生活空間において変容があり、新しい空間の利用機会の増加や、それに伴う空間移動の拡大が確認された。これらの特徴は男性に顕著であり、女性においては空間移動には変容はなかったが、アートプロジェクトにおいての「自己実現」的機能があることが挙げられた。「自己実現」は本研究課題で対象とする「創造性」とも結びつく概念であり、さらなる調査により創造性の生成を明らかにできると期待できる。次に、ハワイ州立美術館におけるコミュニティアートへの支援について調査し、芸術の有する社会的価値についての評価は国際的にはいまだ途上であるという現状を確認した。ハワイ州はPercent for Art Lawという、公共建築物への芸術作品設置に関する法律がアメリカ内で初めて制定された州であり、芸術の社会性について1967年という早い時期から認識されていたと考えられる。しかし、現在ソフト事業やコミュニティアートの支援をしているものの、ハード作品の設置や若手アーティストの育成が中心であり、日本のアートプロジェクトのような地域振興的機能はあまり想定されていなかった。また、国際学会Association for Cultural Economicsの年次大会においては、'festival'のセッションにおいて座長をつとめ、海外の研究者と意見交換を行うことができた。この中で得られた共通認識としては、フェスティバルやアートプロジェクトの価値評価は数値評価やインタビューといった量的or質的評価のどちらかに偏りがちであるが、複数の研究者が協力して実施することにより、研究の意義や貢献性を高めることが必要ということであった。
著者
松尾 友矩 北田 敏廣 太田 幸雄 三村 信男 楠田 哲也 村岡 浩爾 野池 達也
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

地球温暖化問題はきわめて重要かつ緊急の課題となってきており、影響評価と対策立案が急がれている。本研究では特に、都市と地球温暖化の関わりについて総合的に研究を行った。すなわち、都市活動に起因する温室効果ガス排出、都市大気中での大気反応と輸送、都市諸活動・施設への温暖化の影響を明らかにするとともに対策を検討した。本年度における各研究分担者の行った研究成果はそれぞれ次のようである。都市活動にともなう二酸化炭素の発生については、都市からの発生量の国際比較、未利用エネルギー利用可能量の推定について検討を行った(松尾)。自然水系として底泥からのメタン発生速度をバッチ実験によって測定し、底泥の性状や水質の汚濁指標との関連を検討した(野池)、汚濁を受けた都市河川における一酸化二窓素の存在量と発生ポテンシャルを現場調査と室内実験によって明らかにした(花木)。可視光領域の太陽放射量の変化とそれに伴う光解離速度の変化、雲粒による硝酸、亜硝酸、過酸化水素等の吸収を考慮した対流圏光化学モデルを検討した(太田)。前年度に開発した温室効果ガス輸送モデルを汚染大気の化学反応を含むものに拡張し、東アジアに適用した(北田)。沿岸部に集中した港湾、橋梁、護岸、防潮堤、排水排除に関する水理計算の方法を再検討し、浸水の予測が正確に出来るように計算法を改良した(楠田)。実際の都市の水収支、水循環推定の手法を大阪に引き続いて,合流式下水道を持つ沿岸都市である神戸に応用した(村岡)。さらに本年度は最終年度にあたるので、各分担者の課題について総括的なまとめを行い、総説的解説論文にとりまとめた。
著者
熊澤 慶伯 橋口 康之 山田 知江美 ジョニオ ピエール
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

次世代シーケンサーを用いたハイスループットなミトコンドリアゲノミクスの手法の開発を行った。まずミトゲノム配列既知の個体を用いて、この方法の効率性と正確性を証明し、ヤモリ下目の様々な系統を代表する約40種から新たにミトゲノム全塩基配列を決定した。遺伝子配置の変動の事例を4例発見するとともに、ヤモリ下目の7科間の系統関係等について従来の形態データに基づく仮説とは異なる結果を示した。
著者
勝山 清次 鎌田 元一 藤井 譲治 吉川 真司 早島 大祐 野田 泰三
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、日本中世の聖俗両面において大きな役割を果たした南都寺院の構造、生態を解明すべく、その内部集団のうち、堂衆と院家に着目し、彼らの残した古文書・古記録を調査・研究するとともに、あわせてその史料的性格に関する基礎研究を行うことにある。平成15年度以降、東大寺法華堂・中門堂両堂衆の残した史料である東大寺宝珠院文書(800点余)、並びに興福寺を代表する院家である一乗院の坊官二条家が伝えた一乗院文書(2000点余、ともに京都大学総合博物館所蔵)の史料調査を実施した。質量ともに希有の史料群でありながら、これまで本格的な調査の行われていなかった宝珠院文書については、全点の原本調査と調書作成を終え、目録作成と平安・鎌倉時代分の文書翻刻を完了した。一乗院文書についても同じく原本調査を行い、2287点全部の目録作成を完了した。以上の調査完了に伴い、宝珠院文書・一乗院文書の読解を行い、科研報告書において計七編の関連論文を収録した。
著者
桑原 俊介
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

本研究は、確率論革命とも呼ばれる17世紀中葉以降の「蓋然性」と「真実らしさ」概念の変容が、いかにして、バウムガルテンの美学の成立のための条件となったのかを明らかにすることを目的とするものである。その結果、近世においては「観客への効果」として主観的に規定されてきた両概念が、確率論革命を経て「真理の度合い」として量的に再規定されたこと、このことが、完全なる真理ではなく真実らしさを実現することしかできないとされる美学を「学問」として、さらには「方法論」として可能にしたひとつの重要な論理的契機となったことが明らかにされた。
著者
品川 森一 金子 健二 古岡 秀文 石黒 直隆
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

伝達性海綿状脳症の病原体プリオンは従来の微生物不活化処理に高い抵抗性を示し、その不活化には132℃1時間、1-2Nの苛性ソーダ或いは数%の次亜塩素酸ソーダへの浸漬などの厳しい処理が要求される。しかし、精密医療機器のほとんどはそのような処理には耐えられえない。医療器機のプリオン汚染は、比較的低濃度或いは,洗浄により低濃度とすることが可能と考えられる。本研究は、このような低濃度の汚染プリオンを除くための、温和な処理によるプリオン不活化法の開発を目的とした。液化酸化エチレン(LEO)は2%程度で完全ではないが目的にあった程度にプリオンを不活化する。その作用機構は、プリオン蛋白のリジンを始め5種のアミノ酸と反応して比較的特異性を持って切断されるため,不活化がおきることが判った。しかし、処理に数十時間と長時間を要することと、沸点が10□と低く爆発性であり、取り扱いが難しい難点があった。LEOに代る化合物のスクリーニングを目的として、3種のエポキシ化合物、6-プロピオラクトン、プロピレンオキサイド及びグリシドール(GLD)のスクレイピープリオンに対する影響を抗体の反応性を指標に調べたところ、GLDが有望であった。GLDはやはりプリオン蛋白と結合して、LEOの場合より速やかに低分子に断片化することが判った。3及び5%GLDによりPBS中で室温処理のマウスを用いたバイオアッセイにより、プリオンの感染性が、千分の一以下に低下することが判ったが十分とは言えなかった。より有効に処理する条件を見いだすために、GLDの効果に及ぼすGLDの濃度、温度、塩、pHの影響を抗体との反応性により調べた。抗原としての反応性は短時間に減少するが、なお僅か残存し、残りは時間と共に徐々に消失した。調べた範囲のGLD5%、50℃、pH7.8まででは高い方がより効果的であった。マウスを用いたバイオアッセイに長時間を要するため、これらを合わせた条件で処理した試料の成績を本研究期間内で終えることはできなかった。
著者
品川 森一 桑山 秀人 石黒 直隆 堀内 基広
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

感染性プリオンを試験管内で複製することを最終目標として、試験管内で微量のプリオンと多量の正常プリオン蛋白の接触により正常プリオン蛋白の構造を変えることを目論んだ。以前、動物脳から正常プリオン蛋白を多量に精製することに失敗しているため、今回は組換プリオン蛋白を用いることを計画した。さらにプリオン蛋白の精製の困難さから、組換プリオン蛋白のN端にヒスチジンタグを結合し、キレ-トカラムでアフニティ-精製を導入した。今回われわれの用いた系で、プリオンに見られるように,微量のプリオンを添加することにより組換プリオン蛋白のαヘリックス含量が減少し、βシ-ト含量が増加すること、蛋白分解酵素抵抗性に変化すること、プリオン蛋白の一部に相当する合成ペプチドの添加により阻害されること、さらにこのように変化したプリオン蛋白を次の新たなプリオン蛋白に添加することにより、プリオン添加と同様の構造変化を引き起こすことを見出した。唯、この系では,蛋白分解酵素抵抗性に変わったプリオン蛋白の状態がプリオンと同様の構造を反映しているとはいえない可能性が示唆された。この結果、真のプリオン複製に至らなかったが、プリオン複製のために、プリオン蛋白以外の要因が必要か否かを解析するために適した系として使用できる可能性が示唆された。一方、本研究をサポ-トする周辺領域の研究として,プリオン蛋白検出法の改良,牛プリオン遺伝子の完全1次構造解析、発現調節,羊プリオン遺伝子多様の解析,さらに人アルツハイマ-病の危険因子であるApoE蛋白遺伝子が、プリオン病の危険因子ともなる可能性について、羊スクレイピ-での検討等も行った。
著者
呉 繁夫 大浦 敏博 鈴木 洋一
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

グリシン脳症は、グリシン解裂酵素系の遺伝的欠損により引き起こされる先天代謝異常症の一つで、体液中グリシンの蓄積を特徴とする。本症には、新生児期にけいれん重積や昏睡などの症状を示す古典型と乳児期以降に精神発達遅滞、行動異常、熱性けいれんなどを主な症状とする軽症型が存在する。本研究では、軽症型グリシン脳症モデルマウスを用い、治療法の開発を行った。軽症型モデルマウスは、野生型であるC57BLマウスと比べ、多動、攻撃性の亢進、不安様行動の増加、及び易けいれん性の亢進などの行動の異常を示す。本研究では、多動と易けいれん性を指標として有効な薬物を検索した。薬物としては、抑制性グリシン受容体のアンタゴニストとNMDA型グルタミン酸受容体のグリシン結合部位のアンタゴニストの2種類を検討した。これは、グリシンは、中枢神経系で大きく分けて2種類の神経伝達に関わっていおり、一つは、抑制性グリシン受容体を介した神経伝達で、もう一つは、NMDA型グルタミン酸型受容体のグリシン結合部位を介したこの受容体の興奮調節である事に基づいている。これらの薬剤をモデルマウスに腹腔内投与し、多動の改善を検討した。その結果、NMDA受容体のアンタゴニストでは、野生型の行動量を変化させない薬量で、増加していた行動量を正常化した。次に、けいれん抑制効果を電気ショックを与えた後の誘発されるけいれんの長さを指標に検索した。その結果、モデルマウスで延長していたけいれん持続時間が治療で正常化していた。この結果は、NMDA受容体のグリシン結合部位のアンタゴニストがグリシン脳症の治療に応用可能であることを示している。
著者
梅津 和夫 湯浅 勲
出版者
山形大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本年度は,日本人・韓国人・中国人・パプアニュ-ギニア人・南米インディアンを中心として各種血清タンパク型を調査したところ,次のようなことが判明した。1.ORM1座の重複遺伝子であるORM1^※2・1はアジアの北から南にかけての勾配がみられた。またORM1^※5・2はモンゴロイドにのみ広く分布していることがわかった。2.ORM2座はいずれの集団も1型が優勢であるが,ORM2^※6は特に中国人を中心として高い分布を示した。3.南米インディアンは,AHSG^※2を持つ割合がどの集団よりも高率を示した。4.AHSG^※5は調べた多数のモンゴロイド集団の中で,日本人しか検出されず,その中でも奄美大島〜石垣島までの南西諸島でのみ,きわだった高い値を示した。このことは,この遺伝子は琉球で発生し,ここから,九州,四国,本州にもたらされたことが推定される。なお,アイヌには発見できなかった。5.IF型のIF^※Aは広範なモンゴロイドにみられたが,南米インディアンにはなかった。なお南米インディアンの一集団には多型的頻度で新しい変異型のIF^※A3がみつかった。6.ZAG型の各種変異型遺伝子はいずれの集団においても出現頻度は低いが,民族に特微的ないくつかの因子が明らかになった。以上のように,モンゴロイドに特異的な標識遺伝子を調べることにより,モンゴロイド集団の系統解析に役立つことが明らかになった。
著者
新澤 秀則 大島 堅一 高村 ゆかり 橋本 征二 島村 健 羅 星仁 久保 はるか 松本 泰子 亀山 康子 亀山 康子
出版者
兵庫県立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

気候変動枠組条約や京都議定書の締約国会議や補助機関会合にオブザーバー参加することによって, 交渉の進捗をつぶさに, かつ総合的に把握し, 合意の評価と, 今後の課題とその選択肢の比較評価をリアルタイムに提示することに一定の貢献をした。京都議定書の運用, 欧州連合, ドイツ, アメリカの政策動向を調査分析し, 国際枠組みに対する意味合いを考察した。政府以外のアクターとして, 欧州連合, 自治体, NGOを取り上げ, 条約交渉や合意したことの実施に関して果たす役割を, 具体的な事例にもとづいて明らかにすることができた。