著者
山田 三郎 大石 敦志 板垣 啓四郎 POAPONGSAKOR ニポン 下渡 敏治 比嘉 輝幸 NIPON Poapon 上原 秀樹
出版者
日本大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、近年ダイナミックな経済成長を続けるアジア諸国における「食料システム」の変化を、現地調査に基づいて実証的に比較検討するとともに、アジア全体としての食料需給に関する国際リンケージの進展を明らかにすることにある。「食料システム」とは、人々の食生活を巡る経済諸活動、即ち、(1)多様化し拡大する食料の供給を担う「川上」の農業・水産業、(2)食材をより需要に適する食品に加工しより円滑な流通を図る「川中」の食品加工産業・食品流通業、そして(3)所得向上によって多様化・高度化する「川下」の消費者の食品需要と彼らが望むサービスを提供する外食産業・食品小売業、更に、(4)それらの国内諸活動のそれぞれの段階でますます関わりを高めている海外直接投資・貿易をも包括した全体としての相互関係の全体系を意味する。本年度は、前年度の調査対象国の内のタイ・中国・台湾に、新たにインドネシア・ベトナム・韓国を加え、それぞれの国に於いて食料システムを構成する食料消費動向、食品加工業、食品流通業、外食産業、農業などに関する現地調査を実施した。その結果、2年間にわたる海外現地実態調査によって、アジア諸国の食料システムの実態を全体として把握することが出来た。本研究によってえられた成果の概要は以下の通りである。1.現地調査の結果明らかにされた対象地域での経済発展の進展と食料システムの変化のスピードは、われわれの予想をはるかに上回るもので、外資系ファースト・フードや大型スーパーマーケットの普及の中で、加工食品・外食の消費支出が増大するなど、何れの国の食生活も大きな変化が生じていた。2.しかし、こうした食料消費の変化には各国とも地域的なラグがあり、食料消費の変化は、特に、首都圏や経済活性化中心部(上海・ホ-チミン市等)で著しい。農村部では基本的には自給自足的な食生活ながら、それなりに新飲料の普及など結構加工食品の需要も増え、また、外食化の進行も認められた。3.他方、大都市でも在来的なバザ-ルは依然賑わっており、所得階層間格差を伴いながら、庶民の食生活は旧来のもと新食品の二重構造消費となっている。4.食料需要の増大は、特定の食品についてはアジア諸国での海外からの食料輸入をも増加させており、食料の調達がアジアでもグローバル化している。5.こうした食料需要変化に対して、農業生産、食品加工、食品流通・食料サービス産業などもそれに対応して多元化・多様化するなど大きなインパクトを受けており、特に、都市での加工食品や外食の普及は、食品産業に大きなビジネス・チャンスを与えるなど、食料システムにドラスチックな変化を与えた。6.急速な経済発展の誘引により、アジア諸国に進出する日本その他の国からのアグリビジネスが増加し、それがまた、現地でのさまざまな生産活動への関与を通じて、アジア諸国の食料システムの変革を促しいる面も明かとなった。7.こうしたアジア国内食料需要の変化の外に、日本など海外市場からの加工食品や生鮮野菜輸入需要が強まり、海外向けの食品加工が海外直接投資によって進められている。日本向け食品の場合、手巻海苔あられ・冷凍たこ焼きなど労働集約的な食品の加工生産輸出が各国で著しかった。8.しかし、急激な経済成長と国内外の需要拡大にともない、各国で、少なくとも地域的・時期的に人手不足と良質の原材料不足が深刻化し、雇用のサブコントラクトや食材輸入を促進させている。9.このような食料システムを構成する経済諸活動の変化によって、従来の一国での自己完結的な食料システムから、複数国とのリンケージを強めた国際的食料システムへと大きく変化しつつある。なお、2年間にわたる研究の成果は、「アジアの経済発展と食料システムのダイナムズム」(仮題)として刊行を予定しており、1997年2月にタイの研究分担者ニポン博士も参加して東京開催したワークショップでは、研究分担者達の個別報告をベースにして刊行の内容についても論議され、直ちに全分担者による中間報告論文の推敲と新論文の執筆準備がスタートした。
著者
安保 英勇
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

沖縄県本部町の住人を対象にインタビューを行った。対象は25歳から60歳までの男女10名で、複数回にわたりインタビューを行った。また、対象者の内の一人が加入する模合「Kの会(仮称)」にも参加し、参与観察を重ねた。対象者の全てが模合に加入しており、平均では2つ程度、多い者では現在6つの模合に参加している。模合の動機として最も強いものは親睦を強めることにある。「親睦」といっても様々である。「那覇からこっちに来た人が、こっちでも友達欲しいという訳よ。その子の友達がこっちにいるんだけど、『じゃぁ模合しようか』って始めたわけさ」(25歳女性)というように新たに交友関係を構築しようと企画される場合がある。また「僕は、親戚があちこちに散らばってるわけさ。だから、何かないとみんなと顔合わせ無いわけ。それじゃ寂しいってんで『模合しよか』ってなったんです。」(50歳男性)など、親戚関係を保持する事を意図して企画される場合がある。このほか親睦模合のもっと典型的なものは、中高の同級生・職場の同僚・自営業者の同業者同士が母体となるものである事が確認された。また、親睦模合でも親睦以外の機能も有する場合がある。「Kの会」は、退職教員や役場職員、自営業者などを主なメンバーとしているが、町の将来像を模索することを目的の一つとしており、住民参加による芝居の公演を企画した。この芝居は民話を題材に方言で行われ、一つの地域興しと考えることができよう。一方「Kの会」のメンバーの一人は、「僕は客商売だからね、こういうところに来て、顔を広げておくわけさ」と「仕事上のつきあいの場」と見なす面もある。歴史的には、1970年頃までは地域ごとに比較的大きな金額の模合を行い、家の改修や新築費用に当てていた。近年そのような本来的な金融機能は著しく衰退し、上記のような多様な「親睦」の機能を有するように変容している事を確認した。
著者
松平 雄策
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

未曾有の被害をもたらした東日本大震災。2年経過した今日でも未だに、震災の爪跡を残した被災地の様子がマスコミ等で映し出されます。当研究は震災直後、陸路等の寸断で孤立した人々を映像で目の当たりにし、空路を使用し安全を考慮した無人の輸送システム,飛行ロボットを開発できないものかと思い、先ずは動力となる小型ジェットエンジンから着手しました。さらに、研究者の所属する熱工学研究室では、様々な熱機関も講義に取り入れており、学生にエンジン構造を享受するのにも役立つものと思い、この研究テーマとしました。研究者が所属する研究室に於いては、創造性豊かな技術者を育てるため、無人航空機UAV (Unmanned Aerial Vehicle)用の超小型ジェットエンジンの開発と、それを活用した民生利用UAVに、1システムの検討を創造教育に取り入れています。今回頂きました科学研究費補助金の助成により、小型模型のジェットエンジン(外郭寸法φ150mm×200mm)を製作(参考文献:ENGINES FOR MODEL AIRCRAFT by KURT SCHRECKLING)、さらにリニアガイドとロードセルを組み合わせた推力測定装置を開発しました。ジェットエンジンは手作りながら良好なアライメントが得られ(エア・コンプレッサーのエア吹きつけのみで、8000rpmを出力)、軸振れによる振動も少なく、高回転数までスムーズに運転可能となりました。またこの装置は、学生に対しても教材として活用し、熱機関,ジェットエンジンの構造を知るのに、一役を担っています。最後になりましたが、平成24年度科学研究費補助金を助成していただき、誠にありがとうございました。
著者
前島 美保
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究は、江戸時代の上方歌舞伎における音楽演出がどのように組み立てられていたかについて、台帳(台本)に基づき明らかにすることをめざしたものである。『歌舞伎台帳集成』を典拠に音楽演出(囃子名目等)を抽出・リスト化する作業を経てわかってきたことは、囃子名目の初出を遡る例や従前には知られていなかった演出技法など、極めて豊富かつ具体的な用例の数々である。本研究で得た基礎データの慎重な分析と解釈が、今後の課題となる。
著者
中島 和江 平出 敦 高階 雅紀 中田 精三 多田羅 浩三 山本 浩司
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

医学生及び研修医への医療安全に関する教育方法の開発を目的として、講義時期、内容、方法に関する検討を行った。さらに、医療事故防止の実践的な教育ツールとして、患者急変時の対応、チームメンバー間や患者・家族とのコミュニケーション、診療記録の記載、医学や医事法の基礎知識に焦点をあてたシナリオを作成した。医療安全に関連する領域の講義を継続希望する学生は9割を越え、各学年の医学知識に合わせた講義、具体的ケースの提示による思考型講義の実施、多岐にわたるテーマを教育するための講義時間及び講師の確保が必要であることが明らかになった。作成したシナリオの概略とポイントは次のとおりである。【シナリオ1】血管造影中に患者が心肺停止に陥ったが、適切な心肺蘇生ができなかった。ACLS(advanced cardiovascular life support)の実施、CPR(cardiopulmonary resuscitation)コールの活用、患者急変時のチーム医療におけるリーダーシップ、診療記録の記載。【シナリオ2】研修医がインスリン経静脈的持続投与の口頭指示を出したため、ベテラン看護師に注意され医師指示簿に記載するが、単位を省略して書いたために新人看護師が投与量を誤った。薬剤に関する基礎知識、医師指示における注意点。【シナリオ3】大腸内視鏡で大腸穿孔が発生し、家族から強く責められた担当医は、感情面での支援や適確な説明が行えなかった。インフォームドコンセントのあり方、合併症発生時の患者・家族とのコミュニケーション。【シナリオ4】末期患者がベッドからの転落により急性硬膜下血腫を発症後、しばらくして死亡したが、主治医は安易に死亡診断書を作成しようとした。医師法第21条と異状死に該当する事例に関する知識、死亡診断書と死体検案書との違い。今後、これらのシナリオを実際の医学教育に使用し、教育効果を評価する予定である。
著者
稲本 志良 河村 能夫 小田切 徳美 佐藤 了 横溝 功 鈴木 俊 横溝 功 小田切 徳美 佐藤 了 鈴木 俊
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究における成果は、先に、日本農業普及学会の平成20年度春季シンポジュームで報告した。その報告要旨及び最終報告は、当学会誌『農業普及研究』(平成21年6月刊行予定)に掲載される。本研究において特に重点をおいた理論的研究の内容は、農業普及をめぐる産業組織論的交際比較研究及び歴史的展開に関する研究である。また、本研究においては上記の理論的研究を基礎にした実証的研究を重視しており、その主な内容は、農業普及をめぐる多様な運営・活動主体の実現の把握・分析とその類型化に関する研究である。そこで得られた知見は多いが、その主要な知見は以下の諸点である。1) 公的部門における普及主体の多様化、民間部門における普及主体の多様化の進展。2) 普及主体が展開する普及活動の高度化と多様化の進展。3) 普及事業・普及活動の専門化と高度化と多様化、特に企業次元、地域次元、ここの活動次元における多様化の進展。4) 民営化・多様化、有料化の親展。なお、上記にした多様化の動向は、国の間で、また、特定国内における産業間、地域間において精査し、検討することが重要になってきている。
著者
重岡 洋平
出版者
広島商船高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

○研究目的本校の商船学科学生は、本校における4年半の授業や実験実習に加えて、1年間の大型練習船による国内外の航海実習を通して、航海に必要な知識や技術を学んでいる。この航海実習において船舶での輸送航路の重要な要衝となる海峡や運河等を通過し、実際に航海実習で目にすることは学生にとって非常に有用である。しかし、近年は燃料の様々な問題から海外航路の重要な通過点である海峡や運河等は通航しなくなった。そこで本研究では世界中の船舶の航路の中でも重要な役割を担っている運河を模型とし、運河の往来および構造を視覚約に学ぶことができる教材の開発を目的とする。○研究方法運河の模型として、世界三大運河の一つであるパナマ運河を選ぶこととする。パナマ運河は年間1万隻以上の船舶の通航があり、世界的に見ても重要な運河である。また、閘門式と呼ばれる閘室内に船舶を入れ閘門を閉じ内部に水を貯め高低差のある運河をつなぐ構造を持ち、パナマ中央部のガトゥン湖も運河の一部として利用している特殊な運河である。この運河を模型にするにあたり、他の研究や教育にも活用されているLEGO EDUCATIONを用いて製作する。また閘門の門が開閉する構造や水を送るポンプなどの複雑な構造は、パーツの組合せで複雑な動きを可能にするLEGO TECHNICを使用することで再現する。○研究成果閘室とポンプをブロックのみで製作したことで、ブロックを組合せた部分から水が漏れ出てしまい、ポンプは水を送る量が少なくなってしまう。閘室も同様に隙間から水が漏れるため、水位の上昇に時間がかかってしまう。また、ブロックそのものが浮力の強い材料であるため浮力を考慮した構造にする必要が生じる。模型を製作する上で、ブロックを大量に使用するため上にあげた部分への考慮と、模型そのものの構造に配慮する必要がある。本校学生と共同で製作し、学生から改良する点はまだ多いが視覚的に体験できる良い模型になったとの評価を得た。
著者
三上 欣希
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

金属系構造材料の変形・破壊挙動を明らかにするためには,結晶粒レベルの微視的な応力・ひずみ分布を把握することが重要である.本研究では,デジタル画像相関法による材料表面の変位・ひずみ分布の計測,結晶異方性を考慮した結晶塑性論による応力・ひずみ分布の有限要素解析を実施した.また,デジタル画像相関法によって測定した材料表面の見かけの変形を達成できるような結晶のすべり変形を,結晶の異方性変形挙動を考慮して決定する手法を提案した.本手法を用いて決定したすべり変形量に基づいて各結晶粒の応力を推定し,微視的応力分布を算出することができた.
著者
武岡 暢
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

研究計画中、平成23年度分の内容についての要点は論文の執筆であった。しかし実際には、中間報告的な投稿論文を1本書き上げた他には、主として調査と学会報告に注力することとなった。以下ではおおざっぱな時系列順に、調査、学会報告、論文の順番で研究実施状況を説明する。(1)調査昨年度までに研究を進めてきたセックスワークに関して、本年度はさらに客引き、スカウトという、ストリートで活動するアクターにまで調査を進めた。国内にはそもそもセックスワークに関する先行研究の蓄積が薄いが、海外においてもセックスワークに関わる男性の研究は少ない。(2)学会報告客引きとスカウトへのインタビューという貴重な調査を実施できたことから、これを広く学会で発表することが重要と考え、9月と11月にそれぞれ学会報告を行った。また、これとは別に、昨年度までの研究成果を元に、8月にはブエノスアイレスで開催された世界社会学会International Sociological Associationでも研究報告を行った。(3)論文9月と11月の学会報告での議論を元に、論文を執筆した。ここでは客引きとスカウトを、2000年代以降に世界的に強化された取締りの対象=「都市の無秩序」として取り上げた。法制度的制約のなかでの経済的合理性の追求と、それのみに還元されない彼らの意味付けを明らかにする内容であった。
著者
三宅 芙沙
出版者
名古屋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

樹木年輪の14C濃度や氷床コアの10Be濃度は過去の到来宇宙線量を記録していると考えられている。本研究では、年輪の14C濃度測定から発見された西暦775年と西暦994年の単年宇宙線イベントの原因を追究し、さらなる宇宙線イベントを探索することを目的としている。南極ドームふじ氷床コアの10Be濃度測定から、775年イベントの原因は大規模なSPE(Solar Proton Event)が妥当であることを示した。また、紀元前の年代の14C濃度測定を行い、775年イベントに匹敵するイベントが稀であることを示し、さらに異なるタイプの宇宙線増加イベントを発見した。
著者
赤崎 勇 橋本 雅文 天野 浩 平松 和政 澤木 宣彦
出版者
名古屋大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

1.前年度に引続き、GaNの高品質MOVPE結晶成長条件下でZnを添加することによりMIS構造に必要な抵抗率の高いi層を実現し、MOVPE法による高性能MIS型青色LED(発光効率0.3%)を実現した。2.カソ-ドルミネッセンス(CL)法によりZn添加GaNの発光微細特性及び発光スペクトルを評価した結果、「GaH表面微細構造」と「発光波長及び発光強度」の間に密接な関係があることを見出し、面内で均一な青色発光を得るための成長条件を明らかにした。3.MOVPE法によりMg添加GaNの結晶成長を行い、以下の結果を得た。(1)Mg濃度はMg原料流量に対し線形的に制御できる。(2)Zn添加の場合と異なりMgの添加効率は基板温度によらず一定である。(3)Mg濃度を制御することにより室温のPL測定において青色発光(440〜460nm)を得た。(4)電子線照射処理を施すことにより、青色発光強度が1桁以上も増加すること、かつp形GaN(正孔濃度〜10^<16>cm^<-3>)が得られることを見出した。(5)pn接合形LEDを試作し、その発光スペクトルを測定したところ、青紫色及び紫外発光が観測された。以上の結果、Mg添加はGaN系短波波長発光素子の作製に極めて有効な方法であることが明らかになった。4.GaN上にGaAlNを成長させヘテロ接合の作製を行った結果、GaAlN層にクラックが発生することが分かった。このクラック発生はGaAlN層の組成及び膜厚を制御することにより抑制できることが明らかになった。またこのクラック抑制技術に基づきGaNとGaAlNの多層構造を作製した結果、表面平坦性の優れた多層膜が得られた。
著者
松浦 勉 一盛 真 佐藤 広美
出版者
八戸工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

十五年戦争とその敗戦に伴うアメリカの対日占領下の日本の教育学の「戦争協力」と、戦争責任についての「反省」についての態様を検討するとともに、当該期の沖縄と水俣の問題を追究した。主要には「講壇教育学」者の海後宗臣の戦争教育学の展開と、戦後に教育科学研究会の委員長になる勝田守一の教育科学の形成過程を対象化した。期せずして、3.11の原発震災は、沖縄問題と水俣病事件の、教育の視点からの考察を不可避とした。
著者
福田 秀志 富樫 一巳
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ニホンキバチ共生菌のスギ丸太における繁殖に適した含水率は100~150%の間で、含水率がこれよりも低いあるいは高い条件では共生菌の長期間の繁殖は困難と考えられた。巻き枯らし木において、ニホンキバチは樹種・処理時期に関わらずほとんど発生せず、共生菌を持たないオナガキバチがヒノキ11 月処理木から主に発生した。カシノナガキクイムシの生態から考案した総合防除対策を行った結果、新たな被害木の枯死を激減させることができたが、穿入生存木の枯死を助長させる結果となった。
著者
廣松 勲
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本年度は、マルティニック島の作家ラファエル・コンフィアンとハイチ系ケベック移民作家ダニー・ラフェリエールの小説作品を中心にして、研究活動を続けた。同時に、分析上の方法論の精緻化を目的として、トランスカルチャーという鍵概念および社会批評分析(Sociocritique)関連の書籍を収集・分析してきた。まず、昨年度の研究対象であったパトリック・シャモワゾーとエミール・オリヴィエに関する研究は、論文や研究発表として公表した。「社会批評分析」という方法論については、受け入れ研究者である堀茂樹先生のゼミが制作した論文集に、研究論文として投稿した。本論文「文学研究における社会」では、文学研究において「社会的なるもの」がいかに読まれてきたのかを検討することで、「社会批評分析」の系譜を辿った。この方法論の再検討は、トランスカルチャーが文体・テーマ・思想を介していかにテクストに書き込まれているのをより説得的に分析するために、非常に重要なものであった。次に、本年度の研究対象であるコンフィアンとラフェリエールに関しては、新刊が5冊程度刊行されたこともあり、それらを収集した上で、研究対象となる作品の選定を改めて行うことになった。いずれも多作の作家であり、新作刊行も予想してはいたものの、この再選定の作業には、予定以上の時間を要してしまった。とはいえ、本年度の研究結果は、今後、以下の2つの学会において公表する予定である。まず、ラフェリエールに関しては、彼を含めたケベック移民作家に関する口頭発表を、2014年5月25日にお茶の水女子大学にて開催予定の「日本フランス語フランス文学会全国大会」において行う予定である。今回の発表は、「カナダ文学の現在 : ケベックを中心に」と題されたワークショップの一環である。次に、コンフィアンに関しては、2014年11月1日に韓国の高麗大学において開催予定の「Association d'études de la culture et des arts en France (CFAF)」において発表を行う予定である。
著者
山根 周 深見 奈緒子 布野 修司 鈴木 英明 武末 佐恵加
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、インド洋海域の港市において、イスラーム・ネットワークやインド商人のネットワークに着目し、都市、建築の空間的特質とその地域的連関等を臨地調査に基づき明らかにした。アラビア海・インド洋西海域世界においては、グジャラート地方を中心としたインド西部の商人による交易や移住が、東アフリカ沿岸の建築、都市の形成に大きな影響を与えていたことが明らかになった。一方、ベンガル湾海域世界に位置する東南アジアの港市では、タミル・ナードゥ地方を中心としたインド南東部の商人や労働者の交易、移住が建築、都市の形成に影響を与えたことが明らかになった。
著者
茅根 由佳
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本年度の前半期には、まず、インドネシア政治に関する既存研究によって得られた知見と比較検討した。既存研究のまとめ作業を行うに際して、関連のインドネシアの政党政治研究であるマルクス・ミーツナー(Marcus Mietzner)の近著Money Power and Ideology: Political Parties in Indonesia.の書評を執筆した。また、本年度の後半期からは、1年次から2年次にかけてインドネシアのジャカルタで収集した資料をとりまとめる作業に集中した。本研究で得られた考察を発展させ、来年度中に博士論文を書き上げることを前提として、現時点での研究成果を発表するために関連の学術誌(『アジア研究』等)に論文「民主化期のインドネシアにおける石油天然ガス政策と政治過程の変化 -チェプ鉱区権益問題を事例として- 」を投稿している。本論文においては、インドネシアの資源政策においては、大統領及び執政府が石油ガスなどの資源産業の生産性を維持するため、積極的に外国投資を誘致してきたのに対し、野党政治家を始めとする議会が国有企業を支援してこれに対決姿勢を強めた過程を検討した。本論文が分析対象とした、2004年から2009年までの第1期ユドヨノ政権においては、資源政策における執政府の主導権が確立されていたが、2009年から2014年までの第2期ユドヨノ政権では経済ナショナリズムの圧力が強まり、政府外アクターや憲法裁の影響力が政策方針を変化させようとしていくこととなった。こうした第2期ユドヨノ政権における資源政策をめぐる政治過程の変化については論文を執筆中であり、東南アジア研究に投稿したいと考えている。
著者
伊香 俊哉 永井 均 林 博史 芝 健介 内海 愛子 福永 美和子 粟屋 憲太郎 高取 由紀 宋 志勇 戸谷 由麻
出版者
都留文科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究の主な目的は、第2次大戦後の連合国による対日対独戦犯裁判を解明するための資料調査・収集である。調査・収集は日本、中国、台湾、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フィリピン各国の公文書館や図書館など約30ヵ所で実施した。また日本、中国、フィリピンではヒアリング調査も実施した。収集資料の成果は資料紹介・論文・著書として発表されている。戦犯裁判研究の国際交流のため2014年にドイツ研究者とワークショップを開催した。
著者
林 力丸 河井 昭治 佐藤 周一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

高圧分光学のうち、円偏光二色性(CD)のその場観察を行うための耐高圧セルを開発するため、石英光学セル、サファイヤ光学セル、人工合成ダイヤモンド耐高圧セルによるCD測定を検討した。これを用いてポリアミノ酸、各種タンパク質・酵素の円偏光二色性(CD)測定を高圧下で行った(「その場」観察)。特にαヘリックスやβ構造と共にタンパク質立体構造の耐圧力性を比較し、タンパク質構造形成の原理を解明することを目的にし、以下の結果を得た。1)高圧下(400MPa以下)でのCD測定を行うため、光学窓に石英とサファイヤを用いるセルを組み立て、紫外領域における測定限界の改良と、人工ダイヤモンド窓による光学セルを作成し、ダイヤモンドに含まれる不純物のCD測定に与える影響を検討した。その結果、近紫外CDの測定が可能なことを明らかにした。2)高圧下(500MPa)でポリグルタミン酸とボリリジンのαへリックスとβ構造の崩壊過程を観察するため、pH条件を酸性からアルカリ性に変化させて、pHと圧力の関係を測定した結果、ダイヤモンド窓は220nmに吸収があることがわかり、α、β両構造を明確に分離できなかった。3)リボヌクレアーゼAとカルボキシペプチダーゼYおよびそれらの1残基置換変異型酵素の圧力効果を解析し、タンパク質構造の圧力安定性を測定し、リボヌクレアーゼAのPhe120とカルボキシペプチダーゼYのシステイン残基の構造への寄与を明らかにした。4)ダイヤモンド窓をもつ耐圧セルにより、タンパク質の近紫外CDを測定し、圧力の三次構造に与える影響を解析した。特にリボヌクレーーゼAの280nm付近の高圧下のCDを測定し、この圧力変性が二状態遷移であることを明らかにした。
著者
本多 良太郎
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

25年度は試作Cylindrical Fiber Tracker (CFT)の製作とそのビーム試験を予定通り行った。試作CFTは本実験で使用する実機と同サイズであり、構造的に複雑なCFTの開発の実証とその性能の確認を主な目的として開発された。試作CFTはビーム方向にファイバーを張る、通称φ面と、らせん状にファイバーをまきつける、通称UV面から構成され、全読み出しチャンネル数は1200ch程度となった。特にUV面はらせん状にファイバーをまきつけるという工作上の困難があるが、これを達成することが出来た。ビーム試験は東北大学サイクロトロンRIセンターにおいて、陽子ビームを用いた性能評価を行った。その結果から、CFTは十分な性能を有しており散乱断面積を測定することが出来ることがわかった。次に、読み出し回路に関して述べる。本実験でCFTを読み出すための高集積MPPPC読み出し回路の開発を行った。本回路はVME 6U規格の基板に2個のEASIROCチップを搭載することで、64chのMPPCを一台で読み出すことの出来る回路である。この回路により、MPPCの読み出し単価を1500円まで下げることが出来た。我々の最終目的はバリオン間相互作用の一般的理解であり、その中でもとりわけ重要なΣp間の研究をJ-PARCで行う予定であった。ところが、25年度6月にJ-PARCで放射能漏洩事故があり予定されていたビーム計画が白紙、および遅延となってしまった。そこで、私は博士論文のためにテーマを関連研究であるJ-PARC E10実験に移し、核中でのΣN相互作用の研究を行うことにした。その結果、核中でのΣN相互作用の性質が、原子核の構造に依存することがわかった。また、その結果を日本物理学会で報告した。
著者
池田 貴夫
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

水産面では海産物やサケ・マス類の漁撈、利用に人文学的な関心が集中してきた北海道において、現在いわゆる「雑魚」などとして扱われるウグイがいかなる目的で資源化され、どのように採取・利用されてきたのか。それらの変容と消長の過程を民俗学的視点から明らかにし、飽食の時代に進むなか人々の志向が海産物に傾く一方で忘却されてきた民俗知識を掘り起こし、その意義を明らかにした。