著者
田口 陽子
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、現代インドの都市における「公共性」のあり方を明らかにすることである。平成23年度は長期の現地調査を行い、南アジア研究における人格論を援用して、ムンバイにおける公共性を検討した。調査開始当初は、現地の都市計画と食物を扱う移民商人の活動の関係性に焦点を当て、人格を構成する「物質コード」(物質と規範コード、行為者と行為を切り離せないものとして考える南アジアのエスノ・ソシオロジーの概念)の概念を検討するべく、食物の授受や流通についてのデータを収集することを目的としていた。現地で調査を進めるにしたがい、現代ムンバイにおいてミドルクラスの「市民」における社会運動が活発化しており、それらの運動がおもに食物を扱う移民商人、露天商の啓蒙と排斥という一見矛盾する活動に力を入れていることがわかった。物質コードの授受や公共空間の再構成に直接かかわり変更を加えようとするそれらの運動に焦点を当てることが本研究にとって重要と判断し、「市民活動」を看板に掲げるムンバイ市の住民団体や英字新聞、政治団体を主な調査対象とした。具体的には、タブロイド紙の主導する美化キャンペーン、ミドルクラスの住民団体による市民活動、「市民候補者」を選出しようとする選挙運動への参与観察と主要活動家への聞き取りを行った。物質コードの概念は、ムンバイにおける「市民」や「市民社会」を分析概念としてのみではなく具体的でローカルなマテリアルとして捉えるために有効だと考えられる。そのうえで、本研究では、物質コードのやりとりに注目して現実生成の過程を観察することを試みた。具体的には、調査対象者の用語や行為、使用されるモノに焦点を当て、彼らによる「市民」の具現化と美学がどのような形で表されているのかを分析した。さらに、公共空間をめぐるミドルクラスの活動家と露天商らのコンフリクトに注目し、パーソンの重層性と空間的境界の変容を検討した。
著者
山肩 洋子
出版者
独立行政法人情報通信研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

一般の調理者が自作の料理のレシピを作成し,WEBを通じて公開する例が急増している。料理法は言葉だけで説明するのは難しいので,一般の調理者にもテレビの料理番組のような教示コンテンツを作れるよう,調理中にエージェントが調理者と対話することで音声解説を加えたり,映像編集を行うシステムの実現をめざした。本年度は主に調理映像とレシピとの対応付けに注目し,(i)調理開始から終了までの一連の調理映像をレシピと対応付ける仕組みと,(ii)調理者の手の動きから食材の変遷を獲得する仕組みについて研究を行った。まず(i)については,調理の過程をフローグラフで表現する方法を利用し,映像認識結果とレシピをグラフレベルで対応付けることで,映像認識にある程度誤りが発生しても最適なマッチングを選ぶことで正しく対応付けることができることを示した。次に(ii)については,(i)において食材の変遷を認識することが重要であることが示されたことから,調理台を上方から撮影した映像より各食材を追跡することを考えた。食材は見た目が多様で,加工を受けて変化し,かつ混ぜられることでその個数も変わるため,視覚的特徴のみによる追跡は困難である。しかし食材の変化にはかならず調理者が介在することから,調理者の手の動きを抽出することで変化した食材を特定し,食材の追跡を行う仕組みを提案した。以上のような情報システムによる調理活動支援の試みは,日々の食事管理により病気を未然に防ぐことの必要性が叫ばれている昨今では,より重要なものとなっている。そこで京都大学教授の美濃導彦を中心に,電子情報通信学会の第三種研究会として「料理メディア研究会」を発足し,申請者もその幹事補佐として,調理支援に限らず健康医学や食育などの幅広い観点から人間の食を支援する情報システムのありかたを議論する活動を行ったことも本研究の成果の一つである。
著者
島田 恵 正木 尚彦 池田 和子 木村 弘江 金子 千秋 眞野 惠子 兒玉 俊彦 郷 洋文
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

慢性肝炎患者調査から、患者の治療継続を支援するには“患者の考える”治療の必要性や生活上の制限を聞き取る必要があることが分かった。また、外来看護師調査からは、患者の相談対応技術や外来システム・連携に課題があることが分かった。そこで、アクティブ・ラーニング形式で外来看護システムについて学ぶ「外来看護師育成プログラム」を作成し、肝炎外来看護研修を実施した。受講者は「HIV/AIDS外来療養支援プロセス」を参考に自施設における外来看護システムを考案し、アクションプランを立案した。研修後のフォローアップ調査では、受講者10名中3名が達成率80%以上に到達しており、その看護師達は管理職経験者であった。
著者
酒井 智宏
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

「文脈から独立した言語的意味」という概念が自然言語の意味論から除去されるべきであることを示した。トートロジー (「猫は猫だ」) 分析で用いられる「等質化」概念 (「どの猫も似たり寄ったりだ」) に見られる理論的混乱は、語 (「猫」) の意味の共有という想定を放棄すれば解消される。矛盾文 (「ねずみを捕らない猫は猫ではない」) に見られる規範性解釈 (「ねずみを捕らない猫は猫と呼ばれるべきではない」) は、複数の異なる言語システムの対立から生じる。
著者
五味 暁憲 横尾 聡 神戸 智幸
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

開鼻声値(NS)は鼻咽腔閉鎖機能(VPC)の評価に有用だが,高齢者のNSは不詳である。本研究はNSを用いた高齢者のVPC評価を可能にする条件を探るpilot studyである。健常高齢者9名について母音,子音,低圧文「よういはおおい」,高圧文「きつつきがきをつつく」のNSを測定した。主なサンプルのmeanNSの平均値は/a/25%,/i/41%,低圧文23%,高圧文23%であった。また低圧文のmaxNSは平均52%で,高圧文は平均70%であった。過去の報告と比し高圧文,低圧文のmaxNSが若年者より高値であった。この結果を踏まえると,高齢者に限定したNS基準値は必要と思われる。
著者
山極 壽一 村山 美穂 湯本 貴和 井上 英治 藤田 志歩
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アフリカの熱帯雨林に共存するゴリラとチンパンジーのコミュニティ構造を低地と高地で調査して比較分析した結果、標高の違いにより、ゴリラは集団サイズや構成、集団同士の関係、個体の集団への出入り、コミュニケーション、個体の成長速度に、チンパンジーは集団のサイズ、遊動域の大きさ、個体の分散に違いがあることが判明した。また、同所的に生息するゴリラとチンパンジーの間には、個体の分散の仕方、個体の集団への出入り、コミュニケーション、攻撃性、ストレス、繁殖戦略、生活史に大きな違いがみられ、それらの違いが食性の大きく重複する両種が互いに出会いを避け、競合や敵対的交渉を抑えるように働いていることが示唆された。
著者
川畑 博昭
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、ペルーの憲法裁判所が2000年代半ばから積極的に権利保障機能を果たした事実を、憲法裁判所自身の広報活動と憲法訴訟手続法の制定から捉えた。1990年代後半とは異なる政治社会環境がそれを可能とした。ペルーの憲法学はこの現象から、社会問題の解決を憲法裁判所に求める傾向(法の憲法化)や従来とは異なる憲法をめぐる政治の可能性(新たな立憲主義)を見出していることがわかる。最終年度は、ペルー先住民文化と憲法裁判所に焦点を当て、比較の観点から、アメリカ石油パイプライン建設先住民反対運動の研究に着手した。
著者
呉屋 淳子
出版者
国立民族学博物館
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

近年では高等教育機関で伝統芸能を修練しながら、芸能活動を展開している様子がみられる。そのような彼らの実践には、伝統芸能に対する捉え方や価値観の変化がみられ、新しい伝統芸能を創出した。しかしながら、芸能を実践するにあたって「伝統」と「創作」のはざまで揺れ動いている様子も見られた。同時に、伝統文化の継承を担う彼ら自身は芸能の中で「沖縄らしさ(Okinawaness)」をいかに表現するかという問いに向き合っていた。
著者
渡邉 孝信
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

急速に進む立体構造デバイスの研究開発を基礎から支えるため、ナノスケールの半導体結晶、およびそれを覆う酸化絶縁膜の原子論的界面構造モデルを、ハイスループットで自動生成する技術を開発し、現実的な立体構造モデルを用いた様々な輸送シミュレーションを可能にした。開発した手法を熱伝導シミュレーションに応用し、ナノスケールのシリコン結晶が示す特異な熱的特性の起源の解明に成功した。
著者
稲葉 穣
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

古代アフガニスタン由来の貨幣資料について、欧米所蔵の資料調査および最新の研究状況の把握につとめ、イスラム化前夜から初期イスラム時代の同地域の歴史を、貨幣と文献資料に基づいて再構成することに一定程度成功した。その成果は、邦文で執筆された二本の論文に示した。また国外の学会に積極的に参加し、多くの研究報告を行った。また、2013年にはアフガニスタン、オーストリア、イタリアから8名の研究者を招聘し、国際共同研究イベント Kyoto Afghan Week 2013を開催し、公開講演会、共同ワークショップ、博物館実習などを通じて国際共同研究の新しい道を開いた。
著者
福住 俊一 小島 隆彦
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

広いπ共役系を持つカップ積層型ナノカーボン、フラーレン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体の電子移動特性や化学反応特性を明らかにした。さらにそれらを複合化させることにより、高次π空間構造を構築し、有機太陽電池へと応用し、光電流発生におけるIPCE 値が77%の高い値を示す系を構築した。さらには、長寿命電荷分離系を構築し、光スイッチングデバイスの作成にも成功した。
著者
相馬 雅代
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

卵生の動物のメスにとって産卵量の調節は,限られた繁殖資源を配分投資し,自身とさらに子の適応度を最適化するという面で,重要な繁殖パラメータである.一般的に,卵1個に対する栄養投資量が多いほど子の生存率は高まる一方,メスには総投資量として大きな負担を強いることになる.また,一度の繁殖で産む卵は多いほうが,効率的に子の数を増やすことができ,適応度に寄与する可能性もあるが,他方で,育児・育雛のコストが大きくなり兄弟間競争が激化するぶん,メス自身や子の各個体にとって必ずしも利益となるとは限らない.そのため,産卵量の調節は,繁殖コンディションの影響を鋭敏に反映するのではないかと予測されている。このような産卵量の調節に関わるのが,繁殖コンディションやつがい相手オスの質である.ジュウシマツのような鳴禽類は,性淘汰形質として発声行動(歌)を求愛ディスプレイに用いる.そこでメスは,どのような歌をうたうオスとつがうと産卵投資を増加させるのか検討を行った.その結果,それぞれのメスがつがった相手の歌の音響特性が,初期発達期にさらされた歌とどれだけ似ているかどうかという指標が,卵重・一腹卵数・性比の増減に関連していた.メスの配偶投資に反映される選好性には,父親よりも,発達初期に社会交渉のあった非父親オスの歌の方が影響を与えていることが示唆された.このことは,初期聴覚記憶にもとづく性的刷り込み学習が繁殖投資に影響している一方で,近親交配を促進するような,すなわち父親の歌を選好するような傾向は無いことを示唆している.この結果については,学会において発表を行い,論文を準備中である.
著者
竹中 繁織
出版者
九州工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

ヒトテロメアDNA配列を有するオリゴヌクレオチドの両置換基末端にピレンを導入したPSO4を用いて、K^+添加に伴うゲル電気泳動、吸収、円二色性、蛍光、蛍光偏光スペクトル変化等の解析によってヒトテロメアDNAの4本鎖構造(最近になってbasket、chahr、propeller、hybrid I、hybrid II型の五つ)のうちchair型の時だけ効果的なFRETが見られると予測された。そこで前年度はG-リッチオリゴヌクレオチドにトロンビン結合アプタマー(TBA)配列を導入することによってより高いFRET効率を示すPSO2の合成に成功した。しかし、細胞内へ導入すると導入された細胞の73%が細胞死を起こすことが明らかとなった。これは、TBA配列が核内に存在するヌクレオリンタンパクが結合したためと考えられた。そこで当該年度では二つのFRET色素に加えビオチンを導入したPSO5を合成した。これをストレプトアビジンと結合させ同様に細胞へ導入することによって細胞毒性を軽減することに成功した。PSO5をアビジンに結合させることによってヌクレオリンの相互作用が阻害されたものと考えられたが、このような条件によってもPSO5の核への移行が観察されたが、一部は細胞質に留まっていることがわかった。そこで細胞内のK^+濃度を減少させることが知られているAmphotericin Bの添加に伴う蛍光変化を調べた。その結果核内のK^+濃度の上昇がみちれた。これは、核内のK^+をモニターできた最初の例と見られる。しかしながら、PSO5の合成収率は低く、また、精製も困難であった。そこで、ペプチド-オリゴヌクレオチドコンジュゲートを利用してPSO6の設計を行い、その合成に成功した。予備的検討では、PSO5よりも感度良くK^+濃度の蛍光イメージングが可能なことが明らかとなった。
著者
中野 三敏 板坂 耀子 渡辺 憲司 松崎 仁 迫 徹朗 今井 源衛
出版者
九州大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

「学海日録」の翻字作業は順調に進み、完成した原稿が続々と代表者のもとに寄せられた。出版元の岩波書店によって整理され、活字が組まれるのを受けて、最後まで残る難読箇所の解読のため、代表者及び分担者は岩波書店に借り出されている「学海日録」の原本との照合を行なった。その結果、解読不能として残ったのはほんのわずかとなった。昨年11月に『学海日録』第7巻が岩波書店によって刊行され、以下隔月に続刊されている。3月14日には第3回配本の第9巻が出る。翻字作業と並行して、依田学海の「学海遺稿」その他の詩文草稿類の目録作成にも従事し、それらと「学海日録」、及び吉川弘文館から刊行されている別宅日記「墨水別墅雑録」との比較を行なった。あくまでも「学海日録」読解に資するためであるため、比較対照は不十分に終わったが、詩文と日録を読み比べる時の便は保証され得る。また、学海における詩文と日録の占める位置が互いに補い合う性格のものであることが確認できたのも、幕末・明治の代表的文人の精神生活を知る上で大いなる手がかりとなった。また、「学海日録」が幕末・明治文化史の一級資料たることが改めて認識された。特に明治の文学者達の動向や文学観、作品評価や人間性などにおいて、全く新しい知見を与えてくれることも少くなく、明治文学史の大幅な書きかえを必要とする場合もあることを言い添えておきたい。今後は「学海日録」の一番有効な索引のあり方を模索しつつ、具体化を図ってゆくつもりである。
著者
上山 一
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、GCC諸国におけるイスラム銀行の費用構造について、同地域の銀行部門に共通して見られる特徴との関連において実証的に分析することを目的とする。分析結果から、通常の銀行よりも経営規模の小さかったイスラム銀行は、経営資源の拡大を通じて、イスラム金融による資金運用業務に積極的に取り組んできた。しかし、GCC諸国のイスラム銀行部門では、費用面で、規模の経済性や範囲の経済性を観察できなかった。これら背景については、イスラム銀行の経営規模が小さく、規模の経済を享受できる段階に達していないこと、そしてGCC諸国の金融制度がイスラム銀行による業務多角化の取組に対して負の影響を与えた可能性が挙げられる。
著者
塩澤 健一
出版者
中央大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

2006年3月12日、政府の発表した米軍再編案に絡んで山口県岩国市で住民投票が行われた。現在厚木基地に配備されている空母艦載機57機の岩国基地への移駐に「反対」が圧倒的多数を占めたこの住民投票について、同年6月から7月にかけて郵送調査を行った。住民投票の有権者であった合併前の旧岩国市内の住民2,101名を対象として行い、最終的な有効回答数は743件、転居・不着分等を除いた調査対象者に占める回答率は35.8%であった。基地を抱える住民の感情は見た目の投票結果以上に複雑であり、「反対」票が全て移駐案の「白紙撤回」の意思表示というわけではない。そこで本調査では、あくまで「白紙撤回」を求めるのか、条件付きで移駐受け入れを望むのかという点について尋ねた。実際の投票行動とのクロスデータを見ると、住民投票で反対票を投じた人の中にも「条件付き受け入れ」を望む回答は約3割に上り、市長選で「移駐反対派」の井原に投票した人で見ても、やはり同様の傾向が確認できる。また、住民投票を棄権した人の多くは「条件付き受け入れ」を求めていることが明らかとなった。すなわち、同一の争点について尋ねた場合でも、その尋ね方、選択肢の提示の仕方によって、「民意」の表れ方が異なることが、本調査のデータから明らかとなった。90年代後半に同じ米軍基地問題に関して沖縄で実施された2つの住民投票などとの比較も踏まえて考慮すると、特定の政策争点に関する「民意」は一回の、一種類の投票によってのみ一義的に決まるわけではないということが理解できる。
著者
矢島 宏紀
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

平成23年度も、図書を購入して前年度に引き続き研究動向の整理に努めた。その結果、アメリカ独立革命史研究においてこれまで相対的に低い関心しか寄せられてこなかった先住民や独立反対派(ロイヤリスト)に着目した研究が昨今多数現れていることが分かった。ロイヤリストや英国国教会にも関わる大西洋史の文脈でも最新の研究が多数見られ、私の研究テーマがアメリカにおける研究動向と乖離していないことが確認できた。昨年以来、南部におけるアメリカ主教派遣問題を中心としたアメリカ植民地と英国国教会の関係を探る論文の執筆を目標としていた。これについては手稿吏料の収集および解読が困難を極めることもあり、残念ながら平成23年度内に成果を発表することは叶わなかった。南部植民地における宗教に着目した研究が本邦において寡少である現状にあって本研究は完成すれば日本の初期アメリカ研究に一定の貢献ができると思われるため、今後も継続していく予定である。以上のように英国国教会と本国との関係を探る研究は未だ途中であるが、修士論文で注目したジョナサン・バウチャーという人物の伝記的考察を『東京大学アメリカ太平洋研究』12号に掲載した。これは一人物の分析を通じて独立革命当時の南部植民地における政治社会の実相に迫ることを意図したものである。バウチャーは革命期アメリカにおいて最も保守的な人物とされてきたが、彼のアメリカ植民地における軌跡を丹念に追ったところ、反動的とまでは言えないことが分かった。こうしたバウチャーが結果的に亡命を余儀なくされたのは、愛国派による詭弁的論難や暴力を伴う迫害を受けたことによる。ただし、彼は教会統治論上明らかに保守的であり、愛国派とは思想的に対立する要素を本来的に有していたとも言える。一方、愛国派の教会観も一枚岩的ではなかった。上で挙げた本国国教会の動向と合わせて、革命期アメリカの複雑な宗教状況を今後も考察していくつもりである。
著者
青峰 正裕 大和 孝子 西森 敦子 仁後 亮介 松岡 伴実
出版者
中村学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ストレスに対しては視床下部-下垂体-副腎系が密接に関与している。しかし、糖尿病患者ではストレスに対する抵抗性の低下がしばしば報告されている。そこで本研究ではラットを糖尿病にし、さらに副腎を摘出してストレス負荷前後の行動や脳海馬神経伝達物質セロトニン放出を調べた。その結果糖尿病では総移動距離の減少傾向を示し、副腎摘出は多少行動の低下を引き起こしたが有意ではなかった。一方、セロトニン放出もストレス負荷前後での副腎除去の有意な影響はみられなかった。糖尿病プラス副腎除去は高い死亡率を引き起こし十分な実験例数を確保できなかったが、少なくとも今回の実験系では副腎の関与の程度は大ではないことが示唆された。
著者
増田 研 波佐間 逸博 宮地 歌織 山本 秀樹 野村 亜由美 宮本 真二 田川 玄 田宮 奈菜子 佐藤 廉也 野口 真理子 林 玲子
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題は日本のアフリカ研究者による初めての高齢者研究であり、かつ、人類学と公衆衛生学・保健学を組み合わせた方法論を採用したため、期間を通じてそのアプローチのあり方について模索を続けた。成果として書籍(編著)を公刊したほか、日本アフリカ学会におけるフォーラムの開催、日本アフリカ学会の学術誌『アフリカ研究』に特集を組んだことがあげられる。検討を通じて、都市部貧困層高齢者の課題、アフリカにおける高齢者イメージの解体、生業基盤によるケアのあり方の違いといった探求課題を整理できたことも成果である。
著者
前川 仁 子安 大士
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、拡張現実における仮想物体描画の位置決めに、シーン中の画像特徴群を用いる。このため、3DのCGシミュレーションによる局所特徴量の評価法を提案した。これによって、隠蔽のある状況での各種局所特徴量の経時的な追跡評価が行えるようになった。また、モバイルデバイスの自己位置推定法について、機械センサからの加速度データとカメラからの画像特徴を、それぞれの観測の不確かさに応じて統合する手法を示し、実験的に検証した。さらに、仮想物体描画のために、シーンの代表物体の影から光源位置を推定する手法を提案し、仮想物体の影付けに適用した。これらによるプロトタイプシステムのアンドロイド端末への実装も行った。