著者
桜井 洋
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の成果として、『社会秩序の起源』と題する書物を準備し、この秋頃には完成する予定である。その章立ては、1.存在と同一性、2.モーフォジェネシス、3.自己の起源、4.心の秩序、5.心のフィジックス、6.社会秩序の起源、7.力と自由、である。社会学ではすでに社会システム論が一般理論として存在するが、本研究は社会システム論に代わる一般理論の構築の試みである。社会システム論がその基盤とするシステム論に対して、本研究は物理学における非線形力学における複雑性あるいは自己組織性の概念を理論の基礎とする。また、システムの概念に対して現代物理学における場の概念を使用する。社会学は西欧起源の学であり、その思考は同一性の概念によって組み立てられている。周知のように20世紀の思想はこの同一性の概念に対する批判を中心として展開した。だが脱構築の思想に見られるように、同一性に対する代替案はいまだ提示されていない。私は自己組織性の概念が主体と同一性の思想に対する代替的な思想となると考える。自己組織性とは形態形成であるから、これをモーフォジェネシスと呼ぶ。本書はまず主体と同一性をめぐる現代の思想的状況を概観したのち、2において自己組織性の理論を定式化する。この応用として、3において生命の概念を検討する。そののちに心と動機付けの概念を、自己組織性の概念を使用して説明する。本研究は心は自己組織的に動機付けられる、という仮説から他の命題を演繹する、仮説・演繹型の理論として構築されている。
著者
楢崎 正也 藤本 佳子 谷口 浩司 柏原 士郎 横田 隆司 鈴木 克彦
出版者
摂南大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

阪神・淡路大震災において被災した分譲マンションの復興過程に関して平成9年度から継続して行ってきた調査結果の分析を行い、最終結果としてまとめる作業を行った。これまでの調査結果を一度展開した上で、被災からの時間経過に伴った以下のストーリーで集約し直し、それぞれの項目に関して、調査結果に基づく分析・検討を行った。1.マンションの被災状況2.震災後の居住者の対応行動3.被災マンションの復興過程における事例4.マンション復興における法的諸問題5.被災マンションの管理組合の対応6.被災マンションに対する管理組合の対応7.復興過程における住民の合意形成過程とコンサルタント・設計事務所の役割8.復興過程における住民の合意形成過程とまちづくり協議会9.建替えマンションの建物状況と居住者の生活実態10.被災マンションの復興再生方策特に、本研究の着目している「合意形成過程」に関しては、管理組合自身での合意形成過程の調査のみならず、そこに係わっていたコンサルタント・設計事務所・住民組織への聞き取り調査を行い、行政との橋渡しなど様々な側面でのその役割が大きかったことを明らかにした。また、平成10年度までの研究で不十分であった項目に関する今年度の補足調査としては「9.建替えマンションの生活実態」を行い、震災から5年が経過した現状での生活実態について明らかにした。
著者
楢崎 正也 山中 俊夫 大野 治代 佐藤 隆二
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

気密な市街地住宅において, もっとも汚染発生の著しい調理の際に, 室空気環境を良好に維持し, しかも熱負荷が過大にならない合理的な換気方式の確立を目的に研究を進めた. 本研究は三部から成っている.1.種々の調理条件時に発生する熱・水蒸気・汚染ガス・臭気の発生状況を調べた.まず, コンロ上方の熱気流と汚染ガスの拡散性状を詳細に検討し, 高性能な排気フードの開発に有益な資料を提供した.また, 調理時に生成するような汚染物質, とくにNO_Xと調理臭の発生量を定量化し, 室空気質評価に必要な資料を提供した.2.気密な住宅では台所の局所排気だけでなく, 局所給気の必要性を提言し, 給・排気方式を採用した住宅の換気調査を行い, 給気口の換気効果を実証した.また, 住宅においては自然換気とくに風力換気の依存度が高いため, 外部風と換気量の関係を調べ, 換気量推定のための風データーのサンプリング法を提言した.3.Tracer-Gas法による換気量推定法を種々考察した. ここでは, 空間の相互換気を考慮した二室換気を算定する手法を提案している.以上, 各検討事項は今後に多くの問題点を残しているが, ある程度の成果は達成できたと考えている. 今後はこの研究成果をもとに, さらに研究を進展させ, 所期の目標に近づくことを念願する次第である.
著者
山森 邦夫
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

岩手県越喜来湾には夏〜秋に毒性の高いフグ科魚類稚魚が出現する。そこでフグの毒化原因は天然餌生物中にあると仮定し、無毒の養殖クサフグ稚魚を籠に収容して同湾の海中に吊るし、籠目から入る天然餌生物を同稚魚に摂食させて飼育し、毒化が起こるかどうかを調べた。実験は同湾内の鬼沢漁港と袖の沢沖の2ヶ所で、2001年〜2003年に実施した。体重0.1〜1.6gの稚魚数十尾をプラスチック製魚籠(80×56×37cm)に収容して上記2ヶ所の水面下1mに吊るし、7月頃〜11月頃まで2週間〜1ヶ月間の飼育実験を繰り返した。回収後の供試魚の毒性はマウス試験で調べた。袖の沢沖では3年間、計14回の飼育実験で1回も毒化しなかった。一方、鬼沢漁港では計14回中、年により異なるが8月11日から10月3日までの期間内の5回の飼育実験で毒化した。毒化個体の毒性は、4.0〜76.5MU/gであった。以上から養殖クサフグ稚魚は特定の時期に特定の場所で海中籠飼育することにより毒化することが分かった。上述の海中籠飼育実験で無毒の養殖クサフグ稚魚を毒化させる原因となった餌生物を特定する目的で次ぎの実験を行なった。鬼沢漁港の陸上に養殖クサフグ稚魚飼育水槽2個を設置した。水中ポンプを使用して汲み上げた海水(流量120l/m)を0.335mmおよび0.1mmの2段階のプランクトンネットで濾し、大型および小型のプランクトン部分に分けて濃縮し、それぞれを稚魚飼育水槽に流した。2003年7月から11月まで両水槽に各数十尾の養殖クサフグ稚魚を収容して2週間-1ヶ月間飼育し、飼育終了後の稚魚の毒性を調べた。両水槽中のプランクトンの一部は毎日採集・保存した。大型プランクトン水槽では10月1日-10月15日飼育の9検体中2検体が毒化した。小型プランクトン水槽では8月12日から10月15日までの期間内の4回の飼育実験で25検体中13検体が毒化した。毒性は4.3〜7.3MU/gであった。以上はプランクトン摂食による養殖フグの毒化を示唆する。毒化原因プランクトン種の絞り込みは進行中である。
著者
李 敬淑
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究は、最近発掘された植民地地域の映画を研究対象に含め、戦時下の東アジア映画の全体像を把握するものである。そして、1931年満州事変から1945年第二次世界大戦終戦に至るまでの時期において日本、朝鮮、満州の映画界に現れた文化史的現状を「女優」という一つの軸を中心に分析することで、東アジア映画界のネットワークの在り様を明らかにすることを目的とする。その中で特に主眼を置いている課題は、既存の一国的な観点からではなく、帝国の中心(日本、内地)と植民地周辺(朝鮮・満州)との間で起こる統合/分離の緊張関係の中で、東アジア地域における戦時下映画を捉えることである。そのため、本研究は田中絹代、原節子、文芸峯、金信哉、李香蘭といった戦時下の東アジア映画界における重要な女優たちを対象にし、今年度は彼女らの表象比較に重点をおいて研究活動を行った。その結果、各々の表象を日本と朝鮮・満州映画史に結びつけつつ、しかし個別的女優史としてではなく、映画産業や国家政策、言説、言語、欲望、またその時代の社会的・文化的環境との関係といった複数のレベルの要素が複雑に関わり合った重層的な歴史的変容として描き出すことができた。今年度の研究は個々の女優を演技者として検討する方法よりも、帝国と植民地の間(in-between)と彼女らがどのように接合されていたかという戦時下の映画と女優との構造的な相関関係や帝国―植民地の影響関係を浮き彫りにしたことに意義がある。
著者
上野 直樹 茂呂 雄二
出版者
国立教育研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

平成2年度からの3年間の科研費による研究において、学校における算数に関する"言語ゲーム"のあり方の調査、実験を行った。その結果、多くの小学生が、意味のない算数の問題を何ら疑問なくといてしまうこと、あるいは、非現実的な問題に「これは算数の問題だから変ではない、解ける。」と答えることなどが示された。以上の調査から、小学生は、与えられた問題の現実性・意味についてモニターしないこと、算数理解のあり方が手続き指向的であること、算数の問題は「算数」である以上、現実的である必要はないと積極的に判断していること、などが明らかになった。こうした諸事実は、学校の算数が何を指向しているか、つまり算数という「ゲーム」が学校においてどの様な運営のされ方をしているかを示している。さらに申請者がトヨタ財団研究助成によって行っているネパールにおける日常生活における算数の調査によれば、商人や農民の算数という「ゲーム」のあり方は、以上に示される様な学校算数と対照的である。例えば、「水牛1頭18円で3頭でいくら」というような非現実的な問題に皆笑いだす。また、ネパールの商人や農民の算数の問題解決は、協同的である。例えば、個人に、問題を与えてみても、自然と人が集まり、互いにいろいろ教えあったり、計算に関してコメントすることが頻繁にあった。つまり、ネパールの人々にとっては、個人的に算数の問題を解くこと自体がむしろ不自然な事態であると考えられる。さらに、そのストリート算数の背景に、歴史的に構築されてきた様々な手続き、道具があり、そうした算数の道具が学校とは異なった形で発展し、又洗練されていることが明らかにされた。以上の事実から、算数認知は、特定の活動のコミュニティ(学校・バザール等)に参加し、メンバーとして文化・歴史的状況との相互交渉を行うことを通して社会的に構成されるものであることが明らかにされた。
著者
佐藤 由美
出版者
埼玉工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

かつて日本の植民地であった台湾と朝鮮に公布・施行された教育令には、植民地教育の思想的な根幹が示されているはずである。しかし、日本政府が両植民地を視野に入れ、その教育方針を共通化したのは1922年のことだった。それ以前は両総督府の学務官僚により、それぞれの状況に応じた学校制度が整備されていたため、台湾では朝鮮と合わせるために制度が後退する事態にもなった。一方、第一次朝鮮教育令で示された綱領はその後、教育令の条文から姿を消すが、「忠良ナル国民ノ育成」は水面下で強化され続けた。
著者
山本 正幸 長 篤志
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

視覚障害者が単独歩行するためには,白杖または盲導犬の助けが必要である.盲導犬は実働数が少ないため,簡易に利用できる白杖による歩行が現状では主となっている.しかし,白杖を用いた歩行には十分な訓練が必要であり,また,安全性の問題もある.そこで,本研究では,盲導犬のように視覚障害者を安全に誘導できる自律移動型歩行補助システムの開発を目指した.その結果として,ユーザとシステムの相対速度を検出する機構の提案とシステム速度を調節することで使用者に危険の有無を呈示する手法の提案を行った.
著者
濱崎 考史 新宅 治夫 梅澤 明弘 豊田 雅士
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

小児神経伝達物質病は、シナップスでの神経伝達物質の異常によって起こる遺伝性疾患群である。当教室が中心として行ってきた全国疫学調査により、臨床症状および臨床検査所見が明らかとなってきた。従来の血液検査、髄液検査等では、神経症状の病態を説明できない症例も存在している。また、個々に希少疾患であるため、体系的な治療法の開発手段は存在しない。今回、小児神経伝達物質病患者由来iPS細胞を樹立し、神経系細胞へ分化することで、細胞レベルでの病態の解明を目指すた。患者由来iPS細胞からの神経分化誘導を行い、細胞レベルでの機能解析、増殖能、神経突起をリアルタイムで解析し病態を解明する系を確立できた。
著者
高木 信宏
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は,フランスの作家スタンダールの死後,その従弟で遺言執行人のロマン・コロンが出版したエッツェル版『パルムの僧院』,ミシェル・レヴィ版『アルマンス』と『カストロの尼』のテクストとそれぞれの初版の本文とを照合してヴァリアントの有無を精査し,『パルムの僧院』についてはエッツェル版に含まれる異文が,1842年2月26日に作家が行った修正を採録したものであることを,書簡,備忘,同小説の作家の手沢本などの網羅的調査をつうじて解明し,その成果を日本スタンダール研究会,フランスの国際スタンダール研究誌等で発表した。
著者
河崎 豊
出版者
大谷大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

この研究において研究代表者は以下の研究を行なった:①ジャイナ教における最古の断食死マニュアルのひとつであるシヴァーリア作『バガヴァティー・アーラーダナー』(1-2世紀)全編にわたる学術的な翻訳を世界に先駆けて作成した。②本文献の全詩節に亘り、他のジャイナ教文献との間の平行表現一覧を作成した。③本文献が説く不妄語、不淫、不偸盗の概念について他のジャイナ教文献との比較研究を行なった ④批判的校訂本の作成のためにヨーロッパおよびインドでの現存写本の状況を調査した。
著者
松山 雅子 畠山 兆子 土山 和久 田中 俊弥 香山 喜彦
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

最終年の本年度は、二度の予備調査を踏まえ、2003年2月〜3月にかけて、国語科メディア・エデュケーションを標榜した単元学習を開発、実施、検討を行った。また、前年度から継続研究である英国映画研究所教育部門開発の教授法の考察ならびにドイツにおけるメディア教育の検討を基礎研究として行い、教授法ならびに教材開発を多角的に行うよう努めた。合わせて、予備調査を踏まえた子ども用国語科学習ソフト作成への見通しをつけた。具体的には、大阪府下・兵庫県下の公立小中学校ならびに大阪教育大学附属中学校の計10校の協力を得て、大阪教育大学との連携システムを構築し、テレビ・アニメーションを用いた読解表現単元を構想し、指導法ならびに教材資料の開発、指導前、中、後指導を行い、実施、検証した。パイロット授業は、作り手の立場に立って読む・表現することを目的とした単元学習「新しい国語「名探偵コナン」の予告編を作ろう」(全8時間)で、「子どものメディア環境アンケート」を補助調査として実施した。授業展開の大要は、動画の基礎読解→動画粗筋の作成→粗筋と予告編の違いに気づく→予告編の意図、機能および視聴者を意識した予告編案の作成→大学において子どもの予告編案の映像化→相互批評会→オリジナル予告編の批評→アンケート調査であった。短編中心の物語小説教材を扱うことの多い国語科にあって、30分番組という中篇物語を作り手の立場に立って読解し、受け手を意識して予告編に再構築するという学習活動は、学習者にとって予想外の困難さを伴う、新鮮な活動と映ったようであった。動画リテラシーを全面に取り立てた授業に対する子どもの反応と学習のさまは、ワークシートの学習記録ならびに事後のヒアリングによって検証した。大学において映像化をサポートした本研究の授業法によって、設備面で困難な学校でも実施が可能になり、小中校の実践者の方々にとって具体的な意欲付けになった。
著者
古村 孝志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本海下で起きる深発地震の広帯域地震波形を調査し、深さ400 km以深の地震においてS波初動部の波形が変化し、低周波数の先駆波が見られることを明らかにした。これをスラブ内部に相転移遅れにより生じた薄い、くさび形状の低速度層(MOW)によるものと考え、2010年2月12日に発生したウラジオストックの深発地震(578 km, Mw6.8)の地震波形を差分法に基づき計算し、MOWの存在を確認するとともに、その物性(低速度異常)を明確化した。スラブ深部のMOWは、周波数2-4Hzの地震波をスラブ上部に向け強く放射することで、MOWが無い場合の3倍の導波効果を生み出していることを確認した。
著者
北川 裕之
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

黒鉛製のスライドボートを用いた液相成長法によりp型熱電材料Bi_<0.5>Sb_<1.5>Te_<3>とn型熱電材料Cu添加Bi_<2>Te_<2.85>Se_<0.15>を作製した。ボートスライド方向が熱電変換に適した結晶方位を有していることを確認した。キャリア濃度制御を行った結果、室温付近で大きな出力因子を有する材料がp型n型ともに再現性良く得られた。
著者
土居 晴洋 山崎 健 香川 貴志 木本 浩一
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,現代中国において改革開放政策導入以後,急速に展開されている住宅改革の実態と都市地域構造の変化における意味を明らかにすることを目的としていた。本研究の具体的な研究テーマは,中国における住宅改革の特質を明らかにすること,中国国内における都市の住宅の市場化の地域的特質を明らかにすること,北京と上海における住宅開発のタイプとその開発の地域的特質を明らかにすること,住宅建材を含めた中国独特の住宅供給構造を明らかにすることの4点である。これらのテーマに関して,代表者と各研究分担者は海外共同研究者の協力を得て,中国現地において不動産企業や行政機関などへの聞き取り調査や統計・文献資料の収集と整理を行った。土居は住宅改革およびその市場化に関して,文献・統計資料を用いて全国的な動向を把握して北京市と上海市の全国的な位置づけを確認するとともに,北京市における不動産企業への聞き取り調査を進めて,住宅開発が行われるメカニズムを明らかにした。山崎は北京市における住宅開発の地域的動向を統計資料と開き取り調査によって明らかにし,住宅開発が北京市の都市地域構造の変化に持つ意味について考察した。香川は上海市における住宅開発の地域的動向を分析するとともに,インターネットを通じた住宅物件情報の整備状況を調査した。木本は建設業者や内装設備等の関連業者への聞き取り調査を進め,日本とは異なる中国独自の住宅開発プロセスおよび住宅産業の特質を明らかにした。なお,香川と木本は共同で北京市,上海市において,住宅入居者に対するアンケート調査を用い,住宅購入の動機や住宅選択の要因などを考察した。以上の研究成果を通じて,経済成長が急速に進む中国の大都市において,居住環境の改善を求めて住宅を購入する市民,中国独自の土地・住宅制度のもとで住宅開発を行う住宅開発企業,さらに社会主義的特質の維持にも努力する政府・行政機関それぞれの特質と3者の相互関係が明らかになるとともに,このような住宅市場の形成によって都市地域構造が急速に変容していることが確認された。
著者
兼橋 真二
出版者
明治大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は天然漆の長期安定性に及ぼす影響因子と漆構造との関係解明と漆の更なる有効利用を目的とした新規な機能材料の創製を目的としている。本研究では産地の異なる漆(ベトナム、ミャンマー、中国)塗膜を調製し、各種構造解析を行い基本物性を明らかにした。また漆の構成成分である水球サイズに着目し、この水球の大きさ、分散状態の異なる漆液を調製し、その漆塗膜の紫外線劣化と水球の状態に関係があることを見出した。これは水球中に存在する酵素の反応性が大きく関係するものであった。漆の有効利用を目的として、漆を用いた電波吸収特性を有するハイブリッド材料の創製では漆が酸化鉄等の多量の金属フィラーを含有することのできる優れたバインダー特性を有することを明らかにした。また漆の構成成分であるウルシオールと類似構造体のバイオマスである非可食なカシューナッツシェルリキッドに着目し、エポキシ反応、プレポリマー化(酸化重合)により新規なバイオベースエポキシ材料を得た。このエポキシ材料は市販品のものよりも乾燥性、耐熱性に優れるものであった。また加熱により熱硬化特性を示す材料であった。またアミン化合物を含有した複合材料では、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌特性を有することを明らかにし、医療用塗料への可能性を見出した。漆は通常の環境下で優れた長期耐久性や美的な外観特性を有する。この漆の優れた機能を学びそれらを再現することを目的として、このカシューナッツシェルリキッドを原料としたカテコール類の合成と酵素重合を用いたポリカテコールの研究と新規な合成漆を開発した。得られた合成漆は黄色い外観であり、この発色原因が乾燥(重合)過程で生じるキノンに由来することを明らかにした。
著者
ROSER Barry・P
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本州、北海道、韓国の主要なテレーンで採取した砂岩-泥岩試料は全岩化学組成の上から顕著なコントラストを示す。本州では、四万十-丹波、三波川、黒瀬川テレーンにおける砂岩-泥岩試料は主・微量成分、希土類元素に関して、比較的分化の進んだCIAまたはACM堆積物の特徴を示す。コンドライトで規格化したREEパターンはLa_N/Yb_N比平均値はそれぞれ10.4-10.9、8.2、9.2であり、また、Gd_N/Yb_N比はそれぞれ1.72-1.33、1.45、1.71と違いがある。低いGd_N/Yb_N比はジルコンやガーネットの濃集を示している。負のEu異常はこれら3テレーンのすべてに共通して認められる(Eu/Eu*平均値は0.77-0.73,0.63,0.79)。渡島半島テレーン(北海道)の珪質岩に於ける高いLa_N/Yb_N比(平均値11.00)とより大きな負のEu異常(Eu/Eu*=0.64)は比較的成熟した起源物質を示している。蝦夷層群下部イドンナップ帯岩石における低いLa_N/Yb_N比とEu/Eu*比(平均値9.74と0.69)は苦鉄質物質のより大きな影響を反映して、より上位に向かって減少(6.76と0.78)していく。Gyeongsang累層群(韓国)における平均的なLa_N/Yb_N比(13.5)は、この累層群に対比される関門層群中のもの(8.8)に比べ、より大きいが、Eu/Eu*比平均値は類似している。四万十、三波川、大島、蝦夷イドンナップテレーンのNdモデル年代は著しく異なる。四万十帯のモデル年代は、大部分が1.0-1.4Gaにはあるものの、0.74から1.6Gaの幅を示し、領家と肥後テレーンの起源物質の中間的な年代値となっている。二つの三波川結晶片岩試料は1.04と1.2Gaという類似したモデル年代を示し、四万十帯プロトリス、つまり源岩の共通性の可能性を示唆する。渡島半島テレーンのモデル年代は著しく古く(1.44-1.85Ga)、Yangtzeクラトンの年代と類似し、おそらくそれらを起源とする。下部蝦夷イドンナップテレーンのモデル年代は、渡島半島テレーンものより若く(1.05-1.31Ga)、上部蝦夷イドンナップテレーンにおいてはさらに若く(0.71-0.93Ga),このことはおそらく付加体内においてリサイクルした海洋地殻の影響が反映されているのであろう。造山帯としての日本列島の平均的な上部地殻組成(JOAUC)に対する元素組成規格値は、同じテレーンにおいて、REEやHFSEは良く類似しているにもかかわらず、ある種の元素(例えば、Fe,Mn,Mg,Ca,P,Sc,V,Cr,Niなど)は負の異常を示す。元素の枯渇は渡島半島、蝦夷イドンナップ、四万十テレーンにおいてもっとも顕著であり、また、泥岩に比べ砂岩で著しい。この異常はJOAUC平均値の中で、ある種の元素については修正しなくてはならないであろうことを示している。
著者
石川 葉菜
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

近年のアメリカの福祉政策の変容を理解する上で、1996年福祉改革は非常に重要な分析対象である。同改革がもたらした重要な変化は、以下の二点である。第一に、連邦政府の定める福祉受給資格が厳格化され、福祉政策が抑制的なものへと変化した。第二に、州政府は、連邦政府が定めた福祉受給資格よりも厳格な基準を設定することが認められ、大幅な裁量権を得た。既存研究の多くは、近年の福祉政策の変容の要因を96年福祉改革にばかり求めていた。しかし、同改革がもたらした重要な変化の一つである州政府への権限移譲については、1962年社会保障法改正で挿入され、現在まで存在する第1115条(ウェイバー条項)の中に、その萌芽が認められる。ウェイバー条項は、社会保障法のもとでは連邦政府のみが有していた福祉受給資格を設定する権限を、例外的に州政府に与え、独自の政策の実施を認める制度である。また、ウェイバー条項の運用目的と運用数は、時代を経て大きく変化した。1962年から1986年までの実証試験のうち、その多く福祉拡充を意図したものであった一方で、受給資格の制限などの福祉縮減を意図した実証試験は稀だった。ところが、1987年以降になると、福祉拡充を意図したウェイバー条項の運用は全く実施されなくなり、反対に、福祉縮減を意図したウェイバー条項の運用が、突如として増大した。すなわち、96年福祉改革の特徴とされる、福祉の縮減と州への権限委譲という福祉政策の変容は、ウェイバー条項に基づく実証試験の実施という形で、ロナルド・レーガン政権から、すでに生じていたと捉えなければならない。そこで本研究では、なぜ、レーガン政権以降、福祉縮減のためのウェイバー条項の運用が拡大したのかという問いを設定した。主にロナルド・レーガン大統領図書館、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領図書館、ビル・クリントン大統領図書館において収集した政権内部の資料を用いて、レーガン政権が意図的にウェイバー条項の運用を転用させ、それがその後のウェイバー条項の運用拡大を導いていたことを明らかにした。本研究成果の一部は、2013年日本比較政治学会年次大会にて報告した。
著者
櫻谷 眞理子 大橋 喜美子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、乳幼児を養育中の母親の意識や子育ての実態を把握し、適切な社会的支援のあり方を明らかにすることを目的としている。595人の親へ質問紙を配布したところ、365人から回答が得られた。その結果、親になるまで赤ちゃんの世話をした経験がある人は3割に過ぎず、経験がある人に比べ、経験の無い人の育児不安はより高い傾向がみられた。また、出産前のイメージと現実とのギャップがあったと答えた人は52.5%で、そのうち、76.5%が現実の子育ては思っていたよりも大変だと答えている。なお、イメージと現実とのギャップがあったと答えた人たちの方が育児不安は高い傾向がみられた。養育態度や意識について把握したところ、子どもを感情的に叱ったり、体罰を多用する傾向がみられた。例えば、大きな声で叱るが85.8%、叩いて叱るが55.1%(複数回答)という結果であった。子どもに苛立つことがあるという回答は68.4%、自分は育児に向いていないと感じることがあるという回答は53.4%であった。また、子育てに疲れるという回答は82.3%、時間的なゆとりがほしいという回答は91.9%であった。母親たちの自由時間はほとんど無く、専業の母でも平均2時間で、有職の母の平均1時間とあまり差がなかった。夫の家事・育児参加に満足している妻は、3人に1人に過ぎなかった。さらに、近隣からのサポートも受けられず、孤独な育児を強いられている実態が浮き彫りになった。なお、母親が育児に専念すべきと考えている人は、3.8%に過ぎず、28.7%の母親は保育所を利用したいと希望しており、48.7%は時々保育を受けたいと希望していることがわかった。これらのことから、親の不安や負担感の軽減を図るためには、必要なときにはいつでも利用できる保育システムを整え、養育技術を学習する機会等を保障することが不可欠になってきているといえよう。
著者
福永 久雄 胡 寧 跡部 哲士
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,運用中の航空機CFRP構造に小石等が衝突するときの荷重位置・荷重履歴を,異物衝突時の放射音を用いて非接触・実時間でモニターする手法を確立するとともに、同定した最大衝撃荷重および荷重~時間関係より,CFRP構造の衝撃損傷の有無・大きさを実時間で評価する手法を開発することを目的とした。すなわち、異物衝突時のマイクロホンへの放射音到達時間から異物衝突の位置を判定し、音圧情報より荷重履歴を推定するとともに,同定した荷重履歴より衝撃損傷を評価する非接触・実時間の異物衝突・衝撃損傷モニタリング法を開発し,CFRP積層板およびCFRPサンドイッチ板により本手法の有効性を検証した。