著者
松川 和嗣
出版者
高知大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

我々は、絶滅が危惧されている家畜のクローン技術と凍結乾燥技術を組み合わせた保存・再生を試みている。本研究では、ウシ線維芽細胞の凍結乾燥後におけるDNA損傷細胞数を計測し、凍結乾燥後の保存温度が核移植胚の発生に与える影響を検討した。凍結乾燥後1週間のDNA損傷細胞の割合は、-30℃保存では22%、+20℃では100%となり有意な差が認められた(P<0.05)。培養細胞、-30℃保存および+20℃保存凍結乾燥細胞を核移植したときの卵割率は67、50および0%,胚盤胞発生率は37、28および25%となり、培養細胞と-30℃で保存した凍結乾燥細胞の間に有意な差は認められなかった(P>0.05)。
著者
長谷川 智子 福田 一彦 今田 純雄 川端 一光 川端 一光
出版者
大正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,幼児の食・睡眠と母親の育児行動との関連性を検討するため,2つのインターネット調査を実施した.1次調査では,1000名の母親を対象に,幼児の生活時刻と規則性から5クラスターに分類し(①:夜更かし朝寝坊,②やや夜更かし朝寝坊,③やや夜型,④早寝早起き,⑤週末朝寝坊),母親の育児行動,食行動等に関する違いを検討した.2次調査では42名の母親を抽出し,5日間の子どもの生活時刻と写真法により母親の食事を検討した.その結果,夜更かし朝寝坊の子どもの母親は子どもの夜更かしを促進する行動を行い,母親の外食・偏食が多いこと,極めて簡便な朝食を摂取していることが示された.
著者
中村 卓
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、「おいしい」食感の感性表現を客観的な機器を用いた食品構造の破壊過程の解析から食品属性に翻訳するシステムの開発を目的とした。タピオカ澱粉ゲルを用いて「もちもち」食感表現を構造と物性に翻訳し、タピオカ澱粉の伸展性が寄与することを明らかにした。パスタの「モッチリ/プリッ」、うどんの「つるつる」、プリンの「とろ~り」のおいしい食感表現を構造と物性に翻訳した。以上の様に、咀嚼破壊の過程を (イ)知覚の意識化(官能評価)、(ロ)機器破壊による単純モデル化することで、硬・柔のレベルではない「おいしい」食感の感性表現を、知覚に対応した食品属性の変化に翻訳するシステムを確立することが出来た。
著者
五十嵐 章 WARACHIT Pai CHANYASANHA チャンチュ SUCHARIT Sup 長谷部 太 江下 優樹 CHANYASANHA Charnchudhi SAGWANWONGSE スラン
出版者
長崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

デング出血熱の発病機構と伝播に関する現地調査研究を、デング流行地の1つであるタイ国東北部ナコンパノム市において実施した結果、下記の知見が得られた。(1)デング患者のウイルス学的検査には、ELlSA記録計と抗原、酵素標識抗体などの測定用試薬が入手できればIgM‐ELlSAが適正技術である。それに対して、RT‐PCRは実験条件が整備されていない地方で日常検査に使用するには問題点が多い。但し、ウイルス分離は分離株の詳細な解析を行うために不可欠である。(2)6月に採取した患者血液検体からはデングウイルス1型、2型、3型が分離され、ナコンパノム市は依然としてデングウイルスの超汚染地域の1つであることが確認された。(3)患者プラスマ中のサイトカインに関して、不明熱患者に比べてデング患者ではIFN‐γが上昇しており、臨床的にデング出血熱と診断された患者の半数以上に見られた。(4)乾期に臨床的にデングと診断された患者は、デング以外の感染症の可能性が高い。(5)今回の調査において、乾期・雨期共に多数のネッタイシマカ成虫が採集され、その殆どはabdominal dorsal tergal pattern 1の黒い蚊であった。残念なことにネッタイシマカ雌成虫からデングウイルス遺伝子の検出は陰性であった。従って、当初予定していたabdominal dorsal tergal patternとウイルス感染率との関係、及びウイルス保有蚊の潜伏場所に関する知見は得られなかった。これらの課題は今後検討すべき価値があろう。(6)1〜2月の調査によって推定されたネッタイシマカの屋内潜伏場所にオリセットネツトを選択的に使用した結果、ネッタイシマカに対する防除効果が見られたことは、今後限られた経費と資源を有効に利用してデング媒介蚊防除を実施する上で重要な知見である。
著者
池野 旬 島田 周平 辻村 英之 池上 甲一 上田 元 武内 進一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究計画では、タンザニア北部高地のキリマンジャロ・コーヒー産地を中心的な調査対象地域とした。国際的・国内的な要因によるコーヒー生産者価格の下落という近年の状況に対して、地域全体を統合するような広域の地域経済圏の形態での対応は発見できなかった。地理的分断、居住する民族集団の相違、行政的区分、農産物流通組織の相違等の要因によって、同地域は4〜5の山地-平地という組み合わせの下位地域に細分され、それぞれが別個にコーヒー価格の下落に対応している。メル山地域においては近隣都市の野菜・乳製品等の需要増大に応じて、中核的なコーヒー栽培地域において作目転換・畜産重視という変化が見られた。キリマンジャロ山地域には複数の下位地域区分が存在するが、コーヒーの差別化・流通改革をめざす地域、平地部でのトウモロコシ・米生産を重視する地域等の対応の差が見られた。また、北パレ山塊においては、建設ブームによって山麓にある都市部で人口増大が著しいのに対して、コーヒー産地である山間部では過疎化が進行しつつあることが明らかになった。比較対照のためにとりあげたルワンダ、エチオピアでは、タンザニア北部高地では見られない対応が行われていた。ルワンダにおいては、コーヒー産地は最も人口稠密であり、また有利な換金作物を栽培できる地域であるために、ルワンダの他地域では見られない分益小作制が発生しつつあった。また、エチオピアにおいては協同組合がフェアトレードやオーガニック・コーヒーという差別化に巧みに対応し、民間業者と互してコーヒー流通を担い続けていた。両国の事例は東アフリカにおけるコーヒー経済の存在形態の違いを浮き彫りにしており、本研究計画のめざした比較研究の必要性が改めて確認された。
著者
三上 岳彦 成田 健一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

緑地規模や土地被覆構成と緑地内の気温低下量との関係を明らかにするために、2006年夏季に都内11箇所の公園緑地(対象の緑地は皇居、明治神宮と代々木公園、新宿御苑、自然教育園、小石川植物園、小石川後楽園、芝公園、戸山公園、六義園、新宿区立甘泉園公園、港区立有栖川宮記念公園)にて気温の長期連続観測を行った。その結果、以下の成果が得られた。1.都内の主要な緑地における連続的な気温観測記録を得た。それにより、夏季の緑地内外の気温差は最大で5℃に達するほどであることなど、都市内緑地の熱環境緩和効果が明らかになった。2.緑地内外の気温差は、緑地総面積や樹林面積の対数に近似される曲線で近似できることが分かった。このことは、都市内緑地の熱環境緩和効果を論じるうえで近年課題となっているSLOSS(Single large or several small)問題に答えたことになる。また、緑地内の樹林面積と樹林率からなる、公園緑地における気温低下量を説明できる指標を提案した。3.高時間分解能での観測を生かし、時刻ごとに公園の土地被覆構成と気温低下量との関係を表す重回帰式から、どのような土地被覆構成要素がどの時間帯にどの程度の熱的効果(気温低下量への寄与の大きさ)を持っているのかを明らかにした。
著者
山本 真也
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

ギニア共和国ボッソウ村にて野生チンパンジーの調査、コンゴ民主共和国ワンバ村にて野生ボノボの調査をおこなった。同時に、林原生物化学研究所類人猿研究センターおよび京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリのチンパンジーを対象に実験研究をおこなった。集団協力行動・食物分配・手助け行動に焦点を絞り、進化の隣人であるチンパンジーとボノボでの行動を比較することにより、利他性・互恵性・他者理解の進化、ひいては人類進化について新たな考察をおこなった。
著者
久保 姉理華
出版者
熊本高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的バンペイユ(Citrus grandis)はザボンの一種で、マレー半島を原産とするカンキツであり、八代市特産品である。これまで果皮の有効利用を目指して精油の抽出を行ってきたが、今回、学生実験への応用を目指し、果皮の精油抽出の最適条件を探索した。加えて、実験室にある器具での実施や校内の植物を用いた精油抽出についても検討した。○研究方法今回用いた試料は校内で栽培されているものと一般で売られているものを使用し、水蒸気蒸留装置の圧力鍋に対して、体積比や蒸留時間を変えて精油を抽出した。GC-MSも用いて成分の簡易同定を行なった。校内の植物として、蓬からの精油の抽出を試みた。また、一般の化学実験室にある枝付フラスコとリービッヒ冷却管等の器具で精油を抽出してみた。○研究成果校内で採取したバンペイユは市販のものより小さく、そのことが精油の収率に顕著に現れ、平均して約5倍も後者が高かった。これはバンペイユの大きさと成熟度が精油を蓄える器官である油胞の生育と相関性があると考えられる。バンペイユの水蒸気蒸留時の鍋に対する体積比は2/3の時、最適蒸留時間は1時間半の時が最も収率が高かった。GC-MSで成分の簡易同定を行った結果、モノテルペン炭化水素類のリモネンとβ-ミルセンで約97%以上占め、その他モノテルペン炭化水素類4成分とセスキテルペン類2成分の有用成分を同定した。実験室にある実験器具で水蒸気蒸留をした結果、微量の精油を確認できた。また、校内の植物として蓬の若葉を水蒸気蒸留してみたところ、爽やかな香りの芳香水が取れたが、精油は取れなかった。
著者
高井 奈緒
出版者
日本女子大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

『日記』を精査した結果、衣服と織物をゴンクール兄弟が作品の中で頻繁に喚起し、また愛好したのは、それらが彼らが作品によって目指したもの2つを同時に表現しうる特権的な物質であるからであったという結論に至った。そのうちの1つは、歴史家として、小説家として、あるがままの19世紀後半の現代社会の生理学を描くこと。もう1つは、芸術家として色彩の美しさや調和を表現することである。彼らは衣服と織物のもつこれらの特徴を『日記』に迅速かつ敏感に捉えてメモし、その後さらに考察を加え、そしてより確信をもって、小説などの作品において表象したのである。
著者
井上 剛 木村 和美
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

岡山県内遠隔地域の脳卒中診療支援のため、遠隔地病院の脳卒中患者の頭部MRIやCT画像を、都市部岡山市の脳卒中専門医が携帯するiPhoneやiPadへ配信し、専門医が診断や治療を遠隔地病院の医師へ電話する、24時間365日対応のシステムを考案した。平成25年9月より遠隔地の岡山市内の榊原病院と新見地区3病院と、都市部の川崎病院脳卒中専門医師でシステムを導入した。岡山県内の脳神経系医師不在の133病院へのアンケート調査では、脳卒中患者は脳神経専門病院へ搬送され、5割弱の病院が遠隔医療は必要ないと回答した。現在は10病院が導入、準備中。本システムは地域の脳卒中患者へ最新医療を提供できる可能性がある。
著者
西村 一樹
出版者
広島工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

覚醒中の舌下温の日内変動特性を客観的かつ定量的に評価する方法を考案し,若年者500名(平均年齢20歳)および中高齢者40名(平均年齢59歳)を対象に舌下温の日内変動特性と生活習慣および健康関連尺度指標との関連性を明らかにした.以下の知見を得た.①舌下温の日内変動特性は,生活習慣の乱れによって,位相が後退すること.②舌下温の日内変動特性と健康関連尺度の精神的要素と関連性が観察されたこと.③朝食摂取および午前の軽運動の実施が,舌下温の日内変動特性の形成・修復に寄与する可能性があること.以上のことは,基本的な生活習慣がサーカディアンリズムの獲得に寄与し,精神的健康度を高めることを示唆する.
著者
齊籐 純
出版者
サレジオ工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ものづくり教育とエネルギー教育を融合した課題解決型教育として、電動カートをテーマにした実習の教材キットと教育プログラムの開発および評価を行った。本教育プログラムでは電動カートを学生らが設計して製作する。またこの電動カートを運転する際の加速感と消費電力の計測値から電気エネルギーの定性的かつ定量的な理解を促す。実習実施後の学生のアンケート結果では9割を超す積極的な参加と、エネルギーの体感的理解の達成を示す結果が得られた。また本教育プログラムを過去に受講した上級生を対象に調査したところ、平均して6割以上が継続して教育効果を実感しているという結果が得られ、本教育プログラムの有効性が明らかとなった。
著者
高科 直
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

申請者は申請書内の研究目的・内容[3]にある,社会経済学的な視点を取り入れた海洋保護区(MPA)の効果的な導入方法を明らかにする研究をすすめてきた。この研究において,漁業資源管理をするにあたり,努力や海洋保護区配分の最小単位である管理単位スケールの選択が,経済的便益や資源量などの資源管理の帰結に重大な影響を与えることを明らかにし,資源の生物学的特性に関する情報の他に,管理者らの意思決定も管理の成否に大きく関わる可能性を示唆した。また,伝統的な資源管理モデルを空間明示的なモデルに拡張し,最も重要な漁業資源管理の指標の一つである最大持続生産量(MSY)がどのように影響を受けるかを明らかにする研究を行った。モデルを空間明示的に拡張した場合,得られるMSYの値は必ず伝統的に使われてきたMSYの値より低くなることがわかった。すなわち,現実の空間構造を無視している伝統的なモデルは,MSYを過大に見積もっている可能性があることを示唆する。さらに,申請者は空間構造・齢構造を取り込んだ資源動態モデルを発展させ,MPAの導入が漁獲量を増加させるための理論的条件を初めて導きだした。この条件は,漁獲対象種1個体当たりの再生産数が中庸な値になるとき達成され,同時に漁獲高を増加させるという観点からみると,MPAは必ずしも有効な管理手段では無い事を示唆する。以上の3研究は現在論文にまとめ,審査中である
著者
平田 和明 長岡 朋人 澤田 純明 星野 敬吾 水嶋 崇一郎 米田 穣
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

赤星直忠博士を中心とする横須賀考古学会は,1967~1968年に神奈川県三浦市所在の雨崎洞穴遺跡(弥生~古墳期)において発掘調査を行った。本研究で出土人骨の整理を行なった結果,非焼骨について,大腿骨がもっとも残存する部位であり,その最小個体数は19体であった。死亡年齢や性別の構成を見ると,本人骨群には少なくとも成人男性3体,成人女性1体,性別不明成人11体,未成人5体の20体が含まれた。焼成人骨について,各部位の出土点数に基づく個体数の算定と焼成状況の復元を試みた。人骨は少なくとも33体からなり,主体は成人であるものの,未成人骨が複数確認された。
著者
森本 伊知郎
出版者
椙山女学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、まず、第1部「近世陶磁器の研究史」で、近世考古学と近世陶磁器の研究史について略述した。第2部「消費地遺跡における近世陶磁器の研究」では、第1章で江戸遺跡の事例をあげ、陶磁器の出土状況を検討した後、陶磁器の生産年代から遺構の廃絶年代を推定する方法を述べ、産地組成、器種組成から江戸における陶磁器流通とその背景を考察した。第2章では陶磁器の数量把握の方法を論じ、望ましい数量把握の方法を示した。第3章では江戸から京都、大阪にいたる東海道の消費地遺跡を多数取り上げて産地組成を比較し、近世陶磁器の流通には地域差が存在したことを明らかにした。第4章では、消費地で少数ながら出土する茶陶や鍋島藩窯製品などのやや特殊な高級陶磁器の出土状況を検討した。第3部「生産地遺跡出土の陶磁器」では、生産地の窯跡、物原から出土した陶磁器について、多変量解析など統計的な手法を含む型式学的な分析を行った。第1章では肥前広東碗の器形と文様の変化について検討し、量産品が多い近世陶磁器についても、微細ながら器形の形態変化が捉えられることを示した。第2章では有田と瀬戸の磁器端反碗の容量と規格性を論じ、ふたつの産地にみる販売戦略の違いを検討した。第3章では、器形の微細な差異から生産した窯や陶工個人を識別する可能性を論じた。第4部「近世陶磁器と文字資料」では、紀年銘資料、暦を記した陶器碗、関口日記の事例などから、文字記録を考古資料の関係について論じた。以上のような分析から、遺跡から出土する近世陶磁器は編年や年代推定の資料になるばかりではなく、近世の文化や社会を解明する上で有益で重要な遺物であることを示した。
著者
野間口 雅子 宮崎 恭行 足立 昭夫
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

HIV-1 Vif とAPOBEC3Gとの拮抗はウイルス複製にとってcriticalである。HIV-1の馴化・適応研究から、SLSA1を含むスプライシングアクセプター1近傍の領域(SA1prox)に自然に存在する1塩基置換によりウイルス複製能が変動することを見出した。本研究では、このようなウイルス複製能の変動が、Vif発現量の増減により起こることを明らかにした。さらに、Vif低発現変異体の馴化実験により、vif mRNA産生に関与するSA1prox以外のゲノム領域が存在すること、また、APOBEC3Gにより強力に複製が抑制される環境下でも、HIV-1が極めて高い適応能力を持つことが示された。
著者
青島 麻子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度の学会発表をもとに執筆し、投稿受理された論文「平安朝物語の婚姻居住形態-『源氏物語』の「据ゑ」をめぐって-」は、国文学の分野においてあまり言及されてこなかった従来の婚姻居住形態に関する議論を、物語の方法として捉え直すことを目的としたものである。本論文では、当時の婚姻居住形態に関する議論について改めて整理を行い、これまで妻としての疵と捉えられるのみであった「据ゑ」の形態について、物語の描かれ方に即して検討を加えた上で、『源氏物語』の独自性とその先駆としての『蜻蛉日記』の存在を指摘した。また、今年度に発表した論文「『源氏物語』の初妻重視-葵の上の「添臥」をめぐって-」では、古記録等の調査により「添臥」についての通説に再検討を加え、さらに『源氏物語』における「添臥」の語の使用方法が、光源氏の両義性を照射する優れた方法となっていたことに着目し、それを手がかりに物語に語られる初妻重視の思想について考察した。さらに、今年度末に予定していた研究会発表(震災の影響により中止)は、物語に散見する婿選びの際の登場人物の発言を取り上げ、このような記述をもとに実際に平安朝の婚姻慣習を炙り出そうとするような方法を退け、その描かれ方をこそ問題にすべきであると主張するものであった。具体的には若菜下巻の蛍宮と真木柱の結婚記事を端緒として、当該場面直後に置かれる代替わり記事と女三の宮物語との繋がりや、光源氏の地位を揺さぶり物語を展開していく当該巻の手法について検討した上で、蛍宮と真木柱の結婚記事と上記のような若菜巻の論理との関連を指摘するものである。以の研究により、婚姻研究という視点を通して、平安朝の各作品相互の交渉や『源氏物語』の独自性の一端を浮かび上がらせることができたと考えている。
著者
窪田 知子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

平成19年度は、これまでの訪英で得られた資料を分析の対象として、イギリスの文脈に沿いながら、インクルージョン概念の整理と概念規定を行うことを目的としていた。そこで、インクルージョンについて理解する上で新たな視点を提供するセバらの「プロセスとしてのインクルージョン」というとらえ方に着目して考察を行った。その成果は、平成19年10月に行われたSNE学会で発表した。また、平成20年5月に同学会の研究紀要(SNEジャーナル)に投稿予定である。本年度の研究では、インクルージョンの先進的な実践としてスキッドモアが紹介しているイギリス南西部のダウンランド校の実践例を取り上げ、同校が、学習上の困難をもつ生徒への対応を発展させていく中で、どのようにインクルージョンの実現をめざしていたのかを検討することを通して、「プロセス」としてインクルージョンを理解することの具体像の一端を明らかにした。またその過程が、統合という「状態」の実現をめざしていた従来のインテグレーションと、インクルージョンの相違をあらためて浮き上がらせるものであることを指摘した。「プロセス」としてインクルージョンを理解することにより、障害児を含めた多様なニーズをもつ生徒の存在を前提として、彼らを包摂する「不断の学校づくりの努力のプロセス」としてインクルージョンをとらえることが可能となり、通常学校教育のあり方そのものを問い直す議論としての視座を明確にすることができた。さらに、昨年度に引き続き、京都市立高倉小学校との共同授業研究では、障害児学級を足場に学習する児童について、教師と協働で具体的な支援について考えた。また、日本学術振興会の許可を得て大阪府大東市教育委員会の非常勤巡回発達相談員を勤め、本研究の成果の普及にも努めた。
著者
坂本 佳子 前田 太郎 岸 茂樹 五箇 公一 森口 紗千子
出版者
国立研究開発法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

1.国内におけるアカリンダニの分布調査:昨年度より引き続き、全国から採集したミツバチ358コロニーを用いて、アカリンダニの寄生状況の調査を昨年に引き続き行い、北海道と沖縄をのぞくほぼすべての都府県での発生を確認した。2.ネオニコチノイド系農薬を曝露したミツバチへのアカリンダニ寄生実験:イミダクロプリド、チアメトキサム、クロチアニジンの3種類の農薬をセイヨウミツバチに経口投与し、アカリンダニに対する対抗行動にどのような影響を及ぼすかを評価した。3.アカリンダニの寄生がニホンミツバチに与える影響:アカリンダニ寄生がミツバチの発熱能力と飛翔能力を低下させることを、サーモグラフィーおよびフライトミルを用いて明らかにした。4.アカリンダニの生存時間:従来報告されていたよりも長く、特に低温かつ高湿度条件では9日間生存していることを確認した。
著者
澤口 聡子 加茂 登志子 米山 万里枝 滝口 清昭 坂本 慎一 大脇 敏之 多木 崇 栗原 千絵子 加藤 則子 佐藤 啓造 京相 雅樹 平澤 恭子 加茂 登志子 杉山 登志朗 森 友久
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

解離性同一性障害における複数人格を音声録音しSOFTware PRAATの基本周波数分析で人格識別することが可能であった。PRAATの関係する要因を用いた個人を対象とする(nested)多値logistic回帰分析および一般線形モデルを構築し、前者において0.5<odds ratio<1.0、後者において尤度比・LR統計量>0.05を一つの目安として、専門医にアクセスする対応方針で臨床研究をすすめ得る。薬剤使用時の客観指標としてMetaRNA(複数のRNA・mRNA分子種)測定モデルを作成し治療や研究の潜在的なnavigationを与え得る。anticiper de ja saisirを推唆。