著者
土橋 邦生
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.6, pp.1119-1127, 2019-06-10 (Released:2020-06-10)
参考文献数
9

喘息有症率は,小児では減少傾向が見え始めたが,成人では増加傾向にある.厚生労働省の患者調査によると,入院患者数は減少が続いているが,外来患者数は依然横ばいであり,2014年,総患者数はむしろ増加した.吸入ステロイド薬の使用とガイドラインの発行により,喘息死の数は順調に減少し,2016年には1,454人となり,1,500人の大台を割ったが,死因統計分類の変更のためか,2017年には1,794人と増加に転じた.65歳以上の高齢者の割合も90%を超えた.

15 0 0 0 OA カササギ

著者
江口 和洋
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.5-30, 2016 (Released:2016-05-28)
参考文献数
97
被引用文献数
2 2

日本産カササギは約400年前に朝鮮半島より,北部九州の限られた地域に移入された.移入当初の保護の下で個体群が定着し,筑紫平野で個体数を増やしたが,大きく分布を広げることはなかった.本格的な分布の拡大と個体数の大きな増加は20世紀後半から始まり,特に最近の30年間に際立っている.本論文では,日本産カササギの生態と生活史の諸特徴に関する知見を整理し,個体数と分布の変遷に関与した諸要因について考察した. 本種は雑食性で,状況に応じて人工物も利用するという可塑的な営巣場所選好特性を持ち,産卵数が多いという,侵入地への定着後に急速に個体数を増加させる可能性のある生態,生活史特性を持つ.一方,形態的には飛翔力に恵まれず,出生地近辺への定住性が高いという,通常は長距離分散と縁のない特性を持つ.最近まで分布が急激に拡大しなかったのは,丘陵地の森林が障壁となったためであり,環境改変による障壁の消失が最近の分布拡大を引き起こしたと考えられる. 最近の分布域の拡大と個体数増加は,生息環境の都市化と本種の都市環境への適応がもたらしたと考える.本種は農村の集落内の高木に営巣するが,1980年代以降の都市近郊の住宅地開発にともない電柱への営巣が急増し,それとともに都市近郊での営巣数が増加した.しかし,さらに都市化が進んだ地域では1990年代以降に営巣数が減少している.都市中心部での採餌環境の悪化が原因であろうと考えられる. カササギは国内および世界各地で都市への侵入定着,個体数増加の傾向が見られる.このような都市化環境での本種の営巣数を継続記録し,その生態,生活史,社会を明らかにすることにより,鳥類の侵入定着を左右する要因を解明するための新しい知見を提供すると期待できる.
著者
露崎 弘毅
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.20-33, 2022 (Released:2022-06-02)
参考文献数
97

生命科学分野で取得されるデータ集合は、雑多(ヘテロ)な構造になり、ヘテロなデータ構造を扱える理論的な枠組みがもとめられている。本連載では、汎用的なヘテロバイオデータの解析手法である行列・テンソル分解を紹介していく。第3回では、行列を一般化したデータ表現であるテンソルと、行列分解の発展型であるテンソル分解手法について説明する。
著者
早瀬 幸俊
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.121-132, 2003-03-01 (Released:2003-03-26)
参考文献数
12
被引用文献数
17 14

By October 2002, the separation of prescribing and dispensing in Japan had already been implemented for 28 years since the system was inaugurated in 1974. Although the separation rate reached 44.5% in 2001, the questions, “Is the separation necessary in Japan?” or “Has the system been working successfully?” are often heard. These questions are raised because people have not noted the advantages of the system yet, and because the separation itself has many problems or shortcomings. These questions are not only from pharmacists, but also from physicians, patients, or medical and educational institutions. If the problem concerns pharmacists, it is assumed to stem from their lack of ability required for the separation. A breakthrough for an early solution of the problem will be found in a change in education, which includes a range of clinical subjects and long-term clinical practices.
著者
杉山 将
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.111-118, 2006-09-05 (Released:2011-03-28)
参考文献数
44
被引用文献数
4 4

これまで,教師付き学習は訓練用の標本がテスト時に用いる標本と同じ規則に従って生成されるという大前提のもとで研究されてきた.しかし,現実的な場面ではこの前提が成り立たないことも多く,そのような場合は従来の教師付き学習法では良い学習結果が得られない.このような背景のもと,共変量シフトと呼ばれる状況下での学習法が近年盛んに研究されている.共変量シフトとは,与えられた入力に対する出力の生成規則は訓練時とテスト時で変わらないが,入力(共変量)の分布が訓練時とテスト時で異なるという状況である.本稿では,共変量シフト下での教師付き学習の最近の研究成果を概説する.
著者
千葉 太郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.314-319, 2018 (Released:2018-05-01)
参考文献数
5

心身医学的治療は, 心身症患者についてその心身相関を明らかにし, これに対する心理治療などを行うことによって症状の改善または傷病からの回復を図る治療法である. 心身医学的治療の意義を筆者は3つのレベルで考えている. すなわち良好な患者-医師関係, 治療効果, そして自己変革の3つである.治療的自己はJG Watkinsにより提唱され, 知識や経験, 技法などを超えて患者の行動や回復に影響を及ぼすような治療者の個人的な資質を表す. その中核をなす概念は 「共鳴」 であり, さらに真の患者理解のためには患者の客観的な把握も重要である.共鳴は概念としては理解できるが, 実感することは難しい. しかし, たとえ治療者が不完全な共鳴しかできないとしても共鳴へと心が向いているのであれば治療的自己は成立すると考えられる.治療的自己は心身医学的治療の意義の各段階に作用し, 心身医学的治療全体の中で重要な役割を果たす.心身医学的治療, 治療的自己, 心身医学的治療の中での治療的自己の役割について私見を述べた.
著者
山口 覚 村上 英記 大志万 直人
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.17-31, 2001-07-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1

Many types of luminous phenomena were observed at the 1995 Hyogo-ken Nanbu earthquake (Kobe earthquake) of January 17, 1995. A questionnaire survey was done regarding luminous phenomena in order to determine 1) spatial distribution of eyewitnesses of luminous phenomena; 2) origin-times and duration-times of the phenomena; 3) properties of lights, such as color, shape, and brightness.Out of 798 people surveyed, 31 answerers (3.9% of the total) reported that they had observed luminous phenomena. Characteristics of the phenomena may be described as follows; a) More than 50% of the eyewitnesses were within 10km of the epicenter of the main shock. b) Almost all observations of the phenomena occurred simultaneously, or at a maximum of 2-3 minutes from the arrival of the seismic wave to the eyewitnesses' location. c) The duration-time of the phenomena was less than 30 seconds. d) The gross form of luminescence was a belt of light or curtain shape. e) The colors of luminescence were white, blue, and orange, while blue-white was predominant.
著者
山口 建治 ヤマグチ ケンジ
出版者
神奈川大学日本常民文化研究所非文字資料研究センター
雑誌
非文字資料研究 = The study of nonwritten cultural materials (ISSN:24325481)
巻号頁・発行日
no.17, pp.1-20, 2019-03-20

八坂神社や津島神社の祭神であった牛頭天王は、最初期には「五頭天王」とも称されていた。筆者はこれまで、この「五頭天王」は中国民間の五道大神(五道神、五道将軍とも称される)が日本に伝来した後の別称ではないかと指摘してきた。それはおもにゴトウ(五頭)、ゴズ(牛頭)というコトバの音声の類似性と神格の類似性に基づく仮説であった。ところが最近、滋賀県琵琶湖北岸の塩津港遺跡から発掘された大型木簡のうち、「五頭天王」と「五道大神」の両方がともに記されている一つの木簡があることに気づいた。 五道大神は今日の日本ではほとんど顧みられることのない、かつて日本に伝来してきたことすら忘れさられている中国の民間神である。しかし日本の密教仏典に照らしてみると、11~13世紀のころにさかんに行われた焔魔天(密教では閻魔をこのように称す)の修法のなかで重要な役を演じた神であり、それゆえとくに秘匿を要する神であったことがわかる。10世紀のころまで疫神として人々に崇められてきた「祇園の天神」が、本来どういう神であったかを明確に指摘した人はいないが、五道大神は密教では天部の神、仏法の守護神であり、まさに「祇園の天神」と称されるにふさわしい。11世紀のころ、この五道大神と入れ替わるように牛頭天王が文献上にも顕在化してくる。密教僧は、祇園神= 五道大神を秘匿する代償として、いわばその身代わりに、新たな祇園神= 五頭天王(のちに牛頭天王)を創出する必要があった、と考えられるのである。 小論は、塩津港遺跡起請文札のうちのある一つの木簡に、上界の神「五道大神」と王城鎮守の祇園「五頭天王」の両方がそろって記されていることの意味を読み解き、中国民間の五道大神が牛頭天王にすり替わる、その神格誕生の秘密の経緯をあらためて明らかにし、識者のご批評を仰ごうとするものである。
著者
吉村 芳弘
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.137-145, 2019 (Released:2019-09-15)
参考文献数
32

リハビリテーション(以下,リハ)を行う高齢者には低栄養とサルコペニアの合併が多い.高齢リハ患者の低栄養とサルコペニアの有症率はそれぞれ49‐67%,40‐46.5%と報告されている.低栄養とサルコペニアはいずれもリハや健康関連のアウトカムと負の関連がある.サルコペニア肥満の概念も重要であるが,この領域におけるエビデンスはほとんどない.リハやプライマリ・ケアのセッティングでは,生体インビータンス分析が最も簡便で,侵襲がなく,臨床的に使用しやすいモダリティである.しかし,評価の妥当性や限界に留意しておく必要がある.リハ患者に対しては,通常のリハ評価に加えて,体組成分析による骨格筋量や脂肪量などの詳細な評価が必要である.
著者
清水 右郷
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.85-1, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
34

The concept of “trans-science” has been widely used thanks to contributions from science, technology, and society scholars but sometimes interpreted arbitrarily. I examine original and current usage of the concept and then propose a new definition of it. “Trans-scientific questions” were originally defined as questions of facts which cannot be answered by science, while the standards of unanswerability in science were not definite. Nowadays Japanese scholars invoke “transscience” to claim that scientists should not answer political questions. My proposal is to remake the definition of “trans-scientific questions” in order to accept both original and current usage.
著者
加藤 隆弘 扇谷 昌宏 渡部 幹 神庭 重信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.140-145, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
29

死後脳研究や PET を用いた生体脳研究により,統合失調症患者,自閉症患者,うつ病患者において脳内免疫細胞ミクログリアの過剰活性化が次々と報告されている。他方で,ミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリンに抗精神病作用や抗うつ作用が報告されており,筆者らは既存の抗精神病薬や抗うつ薬が齧歯類ミクログリア細胞の活性化を抑制することを報告してきた。筆者らはこうした知見を元に,精神疾患におけるミクログリア仮説を提唱している。本稿では,精神疾患におけるミクログリア仮説解明のために現在進行中のトランスレーショナル研究を紹介する。 筆者らの研究室では,安全性の確立されている抗生物質ミノサイクリン投薬によってミクログリアの活動性そのものが精神に与える影響を間接的に探るというトランスレーショナル研究を萌芽的に進めており,健常成人男性の社会的意思決定がミクログリアにより制御される可能性を報告してきた(Watabe, Kato, et al, 2013 他)。精神疾患に着目したモレキュラーレベルのミクログリア研究では,技術的倫理的側面から生きたヒトの脳内ミクログリア細胞を直接採取して解析することは至極困難であり,モデル動物由来のミクログリア細胞の解析に頼らざるを得ない状況にあった。筆者らは,最近,ヒト末梢血からわずか 2 週間でミクログリア様細胞(induced microglia-like cells:iMG 細胞)を作製する技術を開発した(Ohgidani, Kato, et al, 2014)。精神疾患患者由来 iMG 細胞の作製により,これまで困難であった患者のミクログリア細胞のモレキュラーレベルでの活性化特性が予測可能となった。こうした技術によって,臨床所見(診断・各種検査スコア・重症度など)との相関を解析することで,近い将来,様々な精神病理現象とミクログリア活性化との相関を探ることが可能になるかもしれない。