- 著者
-
大津山 彰
- 出版者
- 学校法人 産業医科大学
- 雑誌
- Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
- 巻号頁・発行日
- vol.38, no.2, pp.175-183, 2016-06-01 (Released:2016-06-14)
- 参考文献数
- 27
2008年HLEG(High Level Expert Group on European Low Dose Risk Research)は低線量影響研究の意義とその重要性を提唱し,発がんも含めて低線量放射線影響研究は国際的関心事となってきている[1,2].我々は長年動物実験を行っているが,放射線発がん実験は動物種の選択や,放射線の種類,量,照射方法など組合せが複雑で,解析もマクロからミクロ,分子生物学分野におよび,線量と効果の関係の目標を定めにくい領域である.我々の実験系では特異的自家発生がんが少ないマウスを選択し,目的の誘発がんとしてマウスで自家発生が希有な皮膚がんを選択した.また被ばくによる他臓器への影響を避け,かつ皮膚限局照射が可能なβ線を用いた.これにより照射部位の皮膚のみをがんの発生部位とし,他臓器の放射線影響を最小限にして長期反復被ばくを可能にし,放射線誘発腫瘍が生じる実験系を作った.照射は週3回反復照射で1回当りの線量を0.5~11.8 Gyまで段階的に線量を設定した.11.8~2.5 Gy線量域ではどの線量でも発がん時期と発がん率に変化はなかったが,この線量域から1.5~1 Gy線量域に1 回当りの線量を下げると発がん率に変化はみられず発がん時期の遅延が生じた.1回当りの線量0.5 Gyではマウスの生涯を通じ照射を続けてもがんは生じなかった.この結果はマウスでは,生涯低線量放射線被ばくを受け続けても生存中にがんが発生しない線量,つまりしきい値様線量が存在することを示している.