著者
張 超 森 洋二郎 五十嵐 浩司 加藤 一弘 菊池 和朗
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. OCS, 光通信システム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.189, pp.41-46, 2008-08-21

ディジタルコヒーレント受信器はディジタル領域で信号とLOの位相同期を実現し、任意の光多値変調信号を復調できる。しかし、この受信器の処理できる最大シンボルレートはAD変換器及びDSP等の電子回路の速度に制限される。現在、ディジタルコヒーレント受信器による10Gsymbol/sの実時間信号処理が報告されているが、40Gsymbol/s以上の実時間信号処理はまだ困難である。この課題を解決するために、信号から分周したクロックでLOをパルス化したディジタルコヒーレント受信器を提案する。この受信器により信号は光時間多重分離され、受信シンボルレートが緩和される。筆者らはこの受信器を用いて160Gsymbol/sの光多値変調信号を10Gsymbol/sのトリビュータリに光時間多重分離し、その1トリビュータリの復調に成功したので報告する。
著者
山下 和人 佐藤 正人 海川 暁子 津田 麻美 矢島 康広 椿下 早絵 瀬野 貴弘 加藤 澄恵 泉澤 康晴 小谷 忠生
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.229-235, S・Vi, 2000-03-25
被引用文献数
1

軽種馬24頭を6頭ずつの4群に分け, A群ではグアイフェネシン-ケタミン-メデトミジン混合液の持続点滴麻酔を併用した酸素-セボフルラン麻酔(GKM-OS麻酔), B群では酸素-セボフルラン麻酔(OS麻酔)下で頚動脈ループ形成術を実施した.また, C群ではGKM-OS麻酔, D群ではOS麻酔で4時間麻酔持続し, 心血管系の変化を観察した.AおよびB群の麻酔時間は約180分間であり, 麻酔維持期の終末呼気セボフルラン濃度はA群で1.5%, B群で3.0%前後であった.A群の動脈血圧は良好に推移したが, B群では血圧維持にドブタミン投与が必要であった.AおよびB群の結果より, 終末呼気セボフルラン濃度をC群では1.5%, D群では3.0%で麻酔維持した.C群では, 心拍出量と末梢血管抵抗が麻酔前の約70%に維持され, 血圧も良好に維持された.D群では, ドブタミン投与により心拍出量が麻酔前の約80%に維持され, 血圧も良好に維持されたが, 1頭に重度の頻脈を認めた.起立時間は, A群で36±26分, B群で48±19分, C群で38±27分, およびD群で58±12分であった.GKM-OS麻酔は心血管系の抑制が最小限であり, 麻酔からの覚醒も良好であることから, ウマの長時間麻酔に有用と考える.
著者
加藤 寿郎 山口 昭
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.117-123, 1971-03-30

オオムギ斑葉モザイクウイルス(BSMV)に感染したオオムギ(品種・横綱)の粗汁液(15,000×g, 30分上清)をポリアクリルアミドゲルを支持体とする電気泳動にかけると, 健全対照には見られない2群のバンド(SA 1, SA 2)が得られた。これらのバンドに含まれる物質は, 105,000×gの遠心によっても沈でんしない。また, これらの物質は, 葉緑体中のfraction Iたんぱくよりも易動度が小さく, SA 1, SA 2ともBSMV抗血清と反応する。BSMVたんぱくの電気泳動によって, SA 1およびSA 2に相当するバンドが得られる。SA 1をとり出して再び電気泳動するとSA 2が分離してくる。したがって, ウイルス感染によって生じたこれらの可溶性抗原は, ウイルスたんぱくが種々の程度に凝集したものと考えられる。感染が進むとfraction Iたんぱくは減少する。接種した第1葉では, えそ斑点が現われる接種後3日めに可溶性抗原が検出されるが, 感染が進むにつれて減少し, 接種後8日には認められなくなる。これに反して, 第2葉では, 葉基部にmosaicが見えはじめる接種後4 ,5日めにはじめて可溶性抗原およびウイルスが検出され, その後感染の進行にともなって両者とも増加する。ウイルス合成における可溶性抗原の意義については結論が得られなかったが, 第1葉と第2葉での可溶性抗原の消長の違いは, 両者での病徴の型およびウイルス含量の差と関係があるものと思われる。
著者
加藤 由美子 串間 美智子 豊瀬 恵美子
出版者
帝京短期大学
雑誌
帝京短期大学紀要 (ISSN:02871076)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.27-35, 1999-04-26

身体障害者の食生活指導をするため、東京都多摩身体障害者SP利用者の食生活調査を行い、その結果を検討して以下の様にまとめた。(1)SP利用者の1/3は脳血管疾患者であった。(2)SP利用者の運動習慣者の割合は健常者よりも高く、肥満者は健常者よりも少なかった。(3)3食の食事バランスの良い者が50%以上いたが、残りの者は食事バランスも悪く、食事パターンの無い者であった。又、病後の食生活が従来と変わらない者が56%いた。(4)体に障害を持ちながら自分で食事作りをしている者が1/3、一人で食べている者が1/4いた。(5)数量化I類でみて、肥満度の関連の高い因子は、栄養バランスの悪い者と、夕食の食事内容がパターン化してない者、岨嚼の早喰いをする者であった。
著者
加藤 道男 吉川 恵造 島田 悦司 斉藤 洋一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.195-202, 1992-02-01
被引用文献数
2

ヒト胃癌組織を用いて免疫組織化学的に epidermal growth factor receptor (EGFR) と transforming growth factorα (TGF-α) を認めた腫瘍の病理組織学的特徴を検索した. EGFRは凍結切片に抗EGFRモノクローナル抗体を, TGF-α はパラフィン切片に抗 TGF-α 抗体を用いて染色し, 病理学的所見と比較した. その結果, EGFR 陽性例は69例中18例 (22.8%) で, 分化型癌には49例中17例 (43.7%) と多かった. また TGF-α 陽性例は86例中24例 (27.9%) で, 未分化型癌には38例中18例 (47.4%) と多かった. そして両者の検討が可能であった36例では EGFR 陽性で TGF-α も認めた症例は3例 (8.3%) ですべて進行癌であった. したがって, EGFR は胃癌細胞の分化度と関連し, 分化型胃癌増殖に EGF が影響を与える可能性が考えられた. また EGFR 陽性腫瘍に TGF-α 産生細胞を認めたことから, ヒト胃癌みの autocrine mechanism で増殖する腫瘍のあることが示唆された.
著者
高木 啓吾 加藤 信秀 笹本 修一 秦 美暢 田巻 一義 木村 一博 梁 英富 外山 勝弘
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.138-144, 2004
参考文献数
7
被引用文献数
4

背景.気管病変に対するステント療法は,多くの気道疾患患者のQOL向上に寄与したと言えるが,その適応,手技,合併症,成績に関する問題が未だ山積している.本稿では気管および気管分岐部のシリコンステント療法の有用性と問題点に論点を絞り,我々の経験例を中心に分析したので報告する.対象.1992年4月から2003年4月に経験した気管および気管分岐部の狭窄病変32例で,部位は気管14例,気管分岐部18例,疾患別では,肺癌16例,食道癌11例,悪性リンパ腫2例,気管切開後狭窄2例,甲状腺腫1例であった.ステント種別では,Dumon直型14例,Dumon-Y型13例,Dynamic型5例であった.結果.肺癌による狭窄のうち,気管病変は縦隔のbulky転移リンパ節によるものですでに予後不良であり,留置後の多くが1ヶ月以内に死亡したが,気管分岐部病変では,3ヶ月以上の生存例が10例中7例(70%)あり生存が見込まれた.一方,食道癌では,気管病変にせよ気管分岐部病変にせよ,ステント療法に加えて化学放射線治療が奏効するので,3ヶ月以上の生存例は予後が判明している10例中6例(60%)にあった.ステント留置後の腫瘍の再増生や瘻孔発生の可能性を考えると,本病変ではワイアーステントよりもシリコンステントの有用性が高いと考えられた.ステント留置に際して気管分岐部病変では,狭窄程度のみならず気道軸の偏位を重視しなくてはならず,高度偏位例では術中に出血に基づく換気障害による一時的な低酸素血症に留意しなくてはならなかった.留置後療喀出障害はステント全長が90mm以上の例で高率にあり,またステント内面の細菌増生は,留置後4ヶ月以上経過した12例で検討すると,全例でbiofilmの形成を認め,留置後の定期的な経過観察が必要と思われた.結論.シリコンステント療法は,その侵襲度は大きいが確実な気道確保のもとで行う安全な療法である.これを実践するには万全の体制でよき指導者のもとで臨まなくてはならない.呼吸器科医は今後硬性気管支鏡の苦手意識を取り去り,軟性気管支鏡のみならず硬性気管支鏡も熟知して,確実な気道確保のもとで多くの治療法を選択できるようになることが望まれる.
著者
高野 雅典 加藤 正浩 有田 隆也
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.221-233, 2005 (Released:2009-10-16)
参考文献数
26
被引用文献数
2

An individual having a Theory of Mind (ToM) can read the minds of others. If we assume further that the individual considers each of them also to have a ToM, then there should be recursive structure here. We believe that emergence and evolution of this structure are deeply linked to the evolution of intelligence. We construct two computational models: an abstract model describing fitness landscapes interacting with each other and a concrete model describing physically-situated agents moving around avoiding collisions. We conduct evolutionary simulations using the concrete model in order to investigate the dynamics inherent in the mechanism of recursion. Several unexpected properties of recursion were found, including a significant difference in fitness between odd levels and even levels of recursion. This is due to the asymmetry between level 0 and 1 (without and with ToM). We also discuss an evolution scenario in which human beings have evolved the ToM.
著者
平和 昌 加藤 崇 澤谷 邦男
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. A・P, アンテナ・伝播 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.230, pp.49-54, 2002-07-17
被引用文献数
10

本報告は、波源から比較的短い距離に配置した測定面における測定データに対して、高分解能到来方向推定技術を適用することにより波源の位置を推定する方法について、実際の測定装置を用いて得た初期的な結果をまとめたものである。波源が1つの場合及び2つの場合について、2.45GHzによる測定データを用いた推定結果から得られた誤差を示し、見込んでおくべき誤差の量について検討している。その結果、本手法によって波源の位置を点として明確に特定することができる結果は得られたが、波源が1つの場合、特に波源が中心軸から離れることにより最大で約5cm程度の誤差を見込んでおく必要がある結果となった。一方、波源が2つの場合、2つの波源の位相差に応じて誤差も異なり、本実験的検討からは最大で約17cm程度の誤差を見込んでおかなければならない結果となった。
著者
加藤 崇 平和 昌 澤谷 邦男
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. A・P, アンテナ・伝播 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.230, pp.43-48, 2002-07-17
被引用文献数
12

電子機器から放射される不要な電波により周辺の電子機器が誤動作する問題があり,漏洩する電波の位置を特定することができれば,EMC対策に大きく寄与できるものと考えられる.本報告では,漏洩する電波の到来方向を利用し,MUSICアルゴリズムを用いて波源位置の特定を検討している.MUSICアルゴリズムは,通常,十分遠方に存在する波源を対象としているが,本検討では,電子機器からの放射電波の波源推定を行うため,数波長程度離れた位置(有限距離)においてMUSICアルゴリズムを導入した.本報告では,有限距離からの電波源位置推定の特性をシミュレーションにより求め,その推定精度を示している。
著者
加藤 直樹 中川 正樹
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:03875806)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.1536-1546, 1998-05-15
参考文献数
8
被引用文献数
15

本論文は, 表示一体型タブレットとペンを使用する環境におけるペンの操作性を検討し, ペンの特徴やペンUIを設計するときに考慮すべき点を明らかにする.現状のペンUIの多くはマウスUIで用いられてきた対話技法を流用しており, ペンの良さを引き出しているとはいえない.ペンはマウスとは異なったデバイスであり, ペンにふさわしいUIを構築する必要がある.そこで我々は, ペンとマウスの操作性を比較する実験を行った.実験は, ドラッギングでオブジェクトを移動するタスクと, 2つの対象をドラッギングとポインティングで選択するタスクについて行った.その結果, ほとんどの場合ペンはマウスより速く操作できるが, ドラッギングで正確さが要求される操作を行うとき操作回数が多くなること, 長い距離をドラッグする操作や, 右利きの人の場合, 右, 右下の方向への移動をともなう操作では操作時間が長くなるという欠点が明らかになった.このことから, 右・右下方向へ頻繁に移動する対話技法, たとえば従来のドラッギングで選択するプルダウンメニューなどは, ペンには向かないことが予想される.また, ペンはマウスより, 次の操作があらかじめ分かっているとき, 操作がより速くできるようになることが示された.
著者
加藤 洋介
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究には大きく二つの目的があった。一つには、これまでに受けた科学研究費補助金によって、源氏物語全巻について『源氏物語大成 校異篇』(以下『大成』と略称)の河内本校異の補訂作業を行なってきたところであり、その成果として『源氏物語大成 校異篇 河内本校異補遺 稿(一)〜(五)』をまとめてきた。しかしながらこれは「補遺」であり、常に『大成』と見合わせる必要があった。また『大成』刊行後に紹介された伝本の校異をどうするかという問題も残っていた。そこで『大成』に未採用の諸本の校異を加えた上で、河内本の校異を一覧できる一書としてまとめることを企画した。これについては、本研究期間中に『河内本源氏物語校異集成』として刊行したところである。もう一つの目的は、別本についても『大成』の校異を補訂することであった。河内本源氏物語の成立を考えるためには、ぜひとも『大成』の青表紙本校異や『河内本源氏物語校異集成』と同基準での校異データが必要である。また自分自身の目で別本の本文に触れて、その感触を確かめてみたいという興味もあった。そうしたことから、河内本について行なった作業と同様のことを、別本についても試みたのであるが、その成果が研究成果報告書であり、「付 源氏物語大成 校異篇 別本校異補遺稿(上)(桐壺〜幻)」とした所以である。本研究は当初平成15年度までの4年間の研究期間を予定していたが、幸いにも科学研究費補助金の前年度申請が採択され、同じ研究課題名で平成15〜18年度までの継続研究が認められた。現在までに源氏物語全体の約2/3の調査を終えており、この研究期間内に源氏物語全巻の調査を終え、今回と同様の研究報告書を作成する予定である。
著者
加藤 洋介
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の主たる目的は、『源氏物語大成 校異篇』(以下、『大成』と略称)の別本校異について、刊行の際に割愛された音便や表記の異同などに関する校異を増補し、合わせて『大成』校異の誤脱を修正することにある。これにより『大成』青表紙本校異と『河内本源氏物語校異集成』(加藤洋介編、風間書房、平成13年2月。)を合わせ、ほぼ同一の採用基準によったデータに基づいて比較研究を行なうことができる環境を整えることになる。本研究は同研究課題名での前年度申請によって採択されたものであるが、すでに先の研究期間における研究成果報告書では、桐壺巻から幻巻を対象として、約16,000項目の校異を増補し、3,600箇所ほどの『大成』校異の補訂を行なった(加藤洋介『河内本源氏物語の本文成立史に関する基礎的研究』(平成12〜14年度科学研究費補助金 基盤研究(C)(2)研究成果報告書)、平成16年6月。)。この研究期間においては、残りの匂宮巻から夢浮橋巻までを対象とした調査とその結果のとりまとめを目指した。『大成』所収の別本伝本に関する調査を行い、データの集約と整理を実施した。約8,300項目の校異増補と『大成』の誤脱2,000箇所程度の補訂作業を終え、その結果を研究成果報告書としてまとめたところである(研究成果報告書は『大成』の判型に合わせるためB5判とした)。これにより『大成』の別本校異すべてにわたる増補補訂作業を終了したことになる。今後は『大成』未収伝本へと調査対象を拡大し、『別本源氏物語校異集成』(仮称)として書籍刊行できるよう、研究の継続を計画している。また今回の調査研究の過程において、『大成』の青表紙本校異についても同様の調査が必要であることが判明しつつあり、こちらについても近々研究を開始したいと考えている。
著者
加藤 洋介
出版者
愛知県立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は、河内本源氏物語に関する全校異の集成と、それによって河内本源氏物語の成立過程解明の目途を探ることにある。これまで平成4年度科研費 奨励研究(A)「河内本源氏物語の校合と校異語彙索引の作成」、および平成6〜8年度科研費 一般研究(C)「河内本源氏物語の諸本調査と校異作成およびそのデータベース化についての研究」において、『源氏物語大成』に採用された伝本の再調査を行なってきた。本研究ではこの成果に加え、『源氏物語大成』に未収録の岩国吉川家本・書陵部本・吉田本などの校異を加え、また調査に時間がかかるため先回は見送らざるをえなかった鳳来寺本(東海大学蔵現写本による)の調査を計画し、この2年間の研究期間においてこれらの伝本についてはすべて調査を終了した。その成果は『河内本源氏物語校異集成』(風間書房、来年度刊行予定)として一書にまとめ、研究者に広く公開できるよう準備を進めている。その調査の過程で、岩国吉川家本についての従来の見解を改めるべき必要が認められたため、その旨を論文化し、合わせて河内本源氏物語の成立に関わる問題の所在についても言及した。また河内本源氏物語の本文が別本に近いことは、以前より指摘されていたが、それがいかなる成立事情によるものかについて明らかにされていなかった。本研究においては、蜻蛉・手習という二巻についてだけであるが、河内本源氏物語は青表紙本を底本とし、それを若干の別本によって校訂することで出来上がった本文であることが明らかになり、その旨を論文化した。
著者
加藤 洋介 高木 元
出版者
愛知県立女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、平成4年度文部省科学研究費補助金 奨励研究(A)「河内本源氏物語の校合と校異語彙索引の作成」での研究成果をもとに計画したものである。上記研究において、池田亀鑑編著『源氏物語大成 校異篇』(以下『大成』と略称)で割愛された河内本校異を、原本調査に基づいてすべて採録し、その過程で発見された『大成』校異の誤りを正した。その成果はすでに『源氏物語大成 校異篇 河内本校異補遺 稿(-)』(1993)としてまとめたところであるが、対象としたのは洞壺巻から葵巻までであり、本研究はその後を受け、平成6年度から作業を開始し、『稿(二)』(賢木巻〜朝顔巻、1994)『稿(三)』(少女巻〜若菜下巻、1995)『稿(四)』(柏木巻〜早蕨巻、1996)、『稿(五)』(宿木巻〜夢浮橋巻、1997)として成果をまとめ、これで『源氏物語』全巻の調査を終えたことになる。上記『源氏物語大成 校異篇 河内本校異補遺 稿(一)〜(五)』にて調査した校異は、すべて機械可読データとしても保存している。そこでは校異に採用したミセケチ・書入傍記などの情報を、機械データとして検索可能なものとすることによって、原本調査のデータシートにそのまま流用でき、さらにはそのデータに一定の符号等を付し、日本語組版ソフトLAT^EXを使用することで、校異データに『大成』と同様の符号を付した印刷用版下を作ることも可能になった。諸本調査および校異作成からその印圧刊行までの過程で発生する人為的誤りを、機械を使用することで可能な限り減らすための方法を、ほぼ確立できたように思われる。