著者
加藤 清 藤繩 昭 篠原 大典
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.167-178, 1959-03-15

〔Ⅰ〕 実験精神病研究の歴史をみるに,古くはKraepelinがアルコール,モルヒネ,トリオナール,ブローム化合物などを用いて実験的に精神病を惹起せしめ,とくに内因性精神病の病因論の研究に役立てようとし,またその弟子等もコカイン,ハッシュシュあるいはメスカリン酩酊などの精神病理学的研究を行つているのであつて,この種の研究は,すでに19世紀末より,今日まで続いてきたといえる。ただ今日では,メスカリンよりアドレノクロームに至る,種々の幻覚誘発物質の生化学的研究が進み,とくにその分子構造内にインドール核をもつHalluzinogen(D-リゼルグ酸ジェチルアミドすなわちLSD-25,ハルミンあるいはブフォテニンなど)が注目され,実験精神病研究に拍車をかけた。なかでも部分合成された麦角製剤であるLSD-25は,極めて微量(体重1kgにつぎ0.5〜1γ,すなわちメスカリンの約1/1000)で精神障害を惹起しtrace substanceとしてmodel psychosisの生化学的解明,また精神病理学的分析,および治療的応用などに,多大の便宜を与えている。 LSD-25は1943年BaselのHoffmannが麦角アルカロイド研究中,眩暈を伴う不穏感と共に,活発な幻想のある酩酊状態に襲われたことから,偶然発見された。その後1947年Stollがその精神症状を始めて系統的に記載した。すなわち知覚の障害,思考過程の障害,気分の変動を伴う意識変容(乃至夢幻)状態などが,現象学的に記載され,さらに種々なる植物神経症状をも伴うことが認められ,LSD酩酊現象は,非特異的な急性外因反応型に属するものと考えられた。Condrau(1949)は精神病者におけるLSD酩酊現象を観察し,Stollの知見を補い,続いてBeckerは感情-衝動領域および志向領域の障害をLSD精神障害の基本的なものとして,その症状を躁-多動的および抑制-離人症的の二型に分けた。われわれも50例(対照例15例,神経症24例,分裂症11例)における70回の実験精神障害(LSD投与量50〜175γ)において,以上の諸家とほぼ同様な現象を精神病理学的に考察した。ただその状態像は,われわれが先に内因性の間脳症に観察しえた症状と類似する点が多い。すなわちその成立要因としては,やや図式的にいうと,心的エネルギーの動揺,気分状態に規定された意識変容の様態等の要因に加えて,とくにこの心理的エネルギーの動揺が,「心的緊張力」の低下となつて現われ,その結果,時には,自我障害を中心とした,豊富な精神症状を出現せしめることもあり,LSD酩酊現象も,急性間脳症と類似の現象様態を呈すると考えられた。事実,LSD酩酊状態では,幻覚症,躁的あるいは抑うつ的気分状態,二重見当識を伴つた人格意識の障害,その他種々なる間脳-脳下垂体症状を中心とする植物神経症状の合併などがある。これらの諸事実よりわれわれと同じくStaehelinも急性間脳症と考えたが,Condrauもまたアテトーゼ様運動の出た例を観察して,LSD酩酊には間脳が関与していると指摘した。次に,LSD症状が典型的且つ強烈に現われた対照例A. S(男子28才)のLSD酩酊の状態を記載してみよう(LSD服用量75γ)。
著者
原 大地
出版者
日本フランス語フランス文学会
雑誌
フランス語フランス文学研究 (ISSN:04254929)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.140-154, 2007-09-20 (Released:2017-08-04)

Les premiers vers de Mallarme sont ceux d'un garcon qui remplit ses cahiers en revant qu'un jour il sera un poete fecond et rivalisera avec ses maitres romantiques. Sans doute connait-il ensuite Baudelaire, Poe et Banville et eprouve-t-il des crises intenses qui bouleversent sa vie litteraire et spirituelle ; il n'oublie pourtant jamais le destin et le devoir dont le romantisme charge les poetes. N'est-ce pas cette mission epique qui l'incite plus tard a pratiquer a sa facon l'interaction de l'ecriture et du siecle ou celle-ci est posee? Ce petit essai tente d'apporter une contribution a la recherche de cette lignee au moins inavouee sinon cachee : nous situons Mallarme dans la descendance de Hugo, qui l'a tant charme dans sa jeunesse et dont la mort lui a donne le sentiment que venait de s'ouvrir un <<interregne>>poetique. Partons du vers initial du poeme <<Les Fleurs>>, qui est un de ses premiers poemes publies : <<Des avalanches d'or du vieil azur [...]>>. Hugo avait ecrit un vers fort semblable dans La Legende des siecles : <<Des avalanches d'or s'ecroulaient dans l'azur>>. Ressemblance assez connue que nous reexaminerons a notre tour, en recourant aux concepts de fecondite et de sterilite. Cependant, notre intention n'est pas de reprocher a Mallarme un plagiat quelconque, mais de voir au debut de sa carriere une experience de sterilite, experiencce negative qui prepare pourtant la <<rarete>>de sa propre poesie. Nous determinerons ainsi le point qui separe non seulement les deux poetes mais aussi la poesie romantique et celle qui lui succede. Il nous sera necessaire d'etudier aussi le cas de Baudelaire, qui a approfondi l'imaginaire de la sterilite et l'a instaure au coeur meme de la poesie francaise moderne.
著者
諏訪 裕一 豊原 大樹 岡田 達治 漆川 芳国
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水質汚濁研究 (ISSN:03872025)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.261-265,232, 1991-04-10 (Released:2010-01-22)
参考文献数
8

膜分離リアクターによる,有機性模擬廃水中全ケルダール態窒素(TKN)の最大硝化速度を検討した。模擬廃水中に徐々に硫酸アンモニウムを加えることでTKN負荷を増加した。比較的小さいステップ増加率でTKN負荷を上げた結果,前回の実験で得られた最大アンモニア酸化速度の約2倍の速度(0.59gN・l-1・d-1)が得られた。本実験での結果と前報での同じ条件の実験結果とをまとめて解析した結果,負荷のステップ増加率と負荷を増加する時点でのアンモニア酸化速度が,次なる負荷での運転の成否に影響しており,リアクターのアンモニア酸化速度が高くなるにつれてステップ増加率を小さくしてゆかなければアンモニアの残存がおき,リアクターの硝化速度が高くならない場合のあることが考えられた。
著者
三浦 理 磯貝 佐知子 吉野 真樹 馬場 順子 梶原 大季 小山 建一 竹之内 辰也 谷 長行 田中 洋史
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.231-237, 2019-06-20 (Released:2019-07-02)
参考文献数
28

PD-1/PD-L1阻害剤に代表される免疫チェックポイント阻害剤を用いるがん免疫療法の開発は,肺がんの治療に大きな影響を与えた.これらの薬剤は,非小細胞肺がん患者の初回治療,2次治療さらには化学放射線治療後の維持療法において,標準治療と比較して生存期間延長効果が示されている.安全性と忍容性は非常に良好だが,これらの薬剤は免疫関連有害事象(irAE)を起こし得る.その頻度は稀であるものの,時に致死的となる重篤な事例に直面することがある.さらにirAEはいつ,どの臓器が罹患するかを予測することができず,未だ適切な管理方法は確立していない.未だ多くの医師は,irAEの管理に精通しているとは言いがたい状況である.これらの問題を克服するために,irAE発症のバイオマーカーを予測する検討や,集学的チームアプローチによる管理が試みられつつある.これらの検討は,患者教育を通したirAEの早期発見,管理に繋がる可能性がある.この総説では,肺がん治療におけるirAEに関わる現在のデータとコンセンサスをまとめた.
著者
須藤 竜大朗 河原 大 落合 陽 青木 謙治 稲山 正弘
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.128-139, 2020-07-25 (Released:2020-07-30)
参考文献数
14

釘接合部の耐力の推定式にはヨーロッパ型降伏理論(EYT)によるものと,釘の頭部径をパラメータにしたものがある。また降伏後の荷重の上昇について理論的に考察した例は少ない。本報ではMDFの釘接合部を対象に,降伏耐力と最大耐力の推定を試みた。釘頭がMDFに回転しながらめり込むことで発生するモーメントを考慮したEYT式を降伏耐力の推定に用いた。またロープ効果を考慮したビス接合部の最大耐力の推定式を本研究に適用した。その結果釘頭の回転めり込みモーメントを考慮しEYT式を改良することで推定精度の向上がみられた。またビス接合部の設計式でも釘接合部のロープ効果を推定できる可能性が示された。一方釘の塑性ヒンジより先の支圧耐力が降伏耐力の推定値と実験値の誤差へ影響している可能性が示唆された。また最大耐力時の釘引抜耐力を実際より低く,釘頭貫通力を実際より高く推定している可能性も見受けられた。
著者
栗原 大輔
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究ではヒストンH3リン酸化の可視化により、染色体構造構築メカニズムの解明を目指したが、平成20年度は植物におけるヒストンH3 Thr3をリン酸化するHaspinのシロイヌナズナホモログの細胞分裂期における機能解析、またヒストンH3 Ser10およびSer28をリン酸化するAtAUR3について植物体における機能解析を行った。昨年度までにAtHaspinがvitroにおいてH3 Thr3およびThr11をリン酸化することを明らかにしていたが、タバコ培養細胞BY-2において、AtHaspinを過剰発現したところ、分裂期にH3 Thr3のリン酸化パターンがより広がることが明らかになった。このことはAtHaspinが少なくとも細胞内においてもH3 Thr3をリン酸化することを示唆している。またAtAUR3の機能を明らかにするために、RNAi法を用いてAtAUR3を発現抑制したシロイヌナズナ形質転換体を確立し解析したところ、野生型と比べて根の伸長速度が遅くなっていた。また根の細胞を顕微鏡観察したところ、細胞分布が野生型とは異なっていた。また、AtAUR3は胚においても発現が見られることが予想されたため、胚において染色体が可視化できるH2B-tdTomato形質転換体を構築し、Auroraキナーゼ阻害剤によってAtAUR3を機能阻害したところ、全ての染色体が正常に赤道面に整列する前に染色体が分離するという染色体分離異常が認められた。このように本研究では、遺伝情報を均等に分配するという,生命の根幹をなす過程である細胞分裂において重要な染色体動態に、ヒストンH3をリン酸化するAtAUR3およびAtHaspinが植物において重要な役割を担っていることを明らかにした。
著者
栗原 大輔
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.81-89, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
46

細胞周期の中でも細胞分裂期はダイナミックな染色体動態を伴う過程であり,その動態の美しさは古くから研究者たちを魅了している.安定した遺伝情報の継承のために必須な染色体動態は,様々な分子が関わる精巧なメカニズムによって制御されている.染色体分配に失敗すると直接異数染色体につながり,遺伝情報のバランスに狂いが生じ,細胞死やガン化を引き起こすため,動物の研究では医薬の分野も含めて精力的に研究が行われているが,植物ではほとんど明らかになっていない.著者らはこれまで,シロイヌナズナ,タバコを用いて染色体動態を制御する分裂期キナーゼ,オーロラキナーゼの同定および機能解析を進めることによって,植物における染色体動態制御機構を明らかにすることを進めてきた.本稿では,近年次第に明らかになりつつある染色体動態の制御機構とともに,植物における染色体動態研究の現状と展望を解説する.
著者
眞鍋 治彦 久米 克介 加藤 治子 前原 大 平田 顕士
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.2-11, 2008 (Released:2008-02-16)
参考文献数
27
被引用文献数
1

帯状疱疹罹患例のなかで, 高齢者, 重症皮疹, 急性期高度疼痛, 皮疹出現に先行して疼痛を認める例は, 長期間疱疹痛が持続し帯状疱疹後神経痛に移行しやすい. このような患者では, アシクロビルやバラシクロビルなどの抗ウイルス薬を適切に用いるとともに, 発症早期より, 繰り返し神経ブロックを行うか, あるいは硬膜外腔に局所麻酔薬を連続的に注入するなど十分な鎮痛処置を行い, 疱疹痛が軽減・除去された状態を保つ必要がある. また, 神経ブロック適応外例では, リドカインの点滴静注を繰り返す. これらの方法は, 帯状疱疹による疼痛刺激の持続がもたらす末梢や中枢の感作・機能異常の発生を防ぎ, 帯状疱疹後神経痛への移行阻止に役立つと考えられる.
著者
朱 祐珍 小尾口 邦彦 福井 道彦 新里 泰一 阪口 雅洋 板垣 成彦 稲見 直子 藤原 大輔
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.47-50, 2013-01-01 (Released:2013-04-23)
参考文献数
11

症例は66歳,女性。2型糖尿病でメトホルミン内服中であった。酒石酸ゾルピデムの大量内服後に乳酸アシドーシスを発症しICU入室となった。入室後,輸液などによるアシドーシス補正中に胸痛を訴えた。超音波検査で心尖部の収縮低下を認め,たこつぼ心筋症が疑われた。第4病日には壁運動異常は著明に改善し,たこつぼ心筋症と診断した。経過良好で第9病日にICU退室となった。メトホルミンによる乳酸アシドーシスは,稀だが致死的な合併症である。本症例においては酒石酸ゾルピデムの大量内服による低酸素状態がメトホルミンによる乳酸アシドーシスを発症する契機の一つとなった可能性が考えられた。また,アシドーシスによる身体的ストレスや自殺企図にまで至った精神的ストレスによって,たこつぼ心筋症を続発したと考えられる。
著者
穂苅 諭 中山 秀章 梶原 大季 鈴木 涼子 大嶋 康義 高田 俊範 鈴木 栄一 成田 一衛
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.30-34, 2011-06-30 (Released:2016-07-05)
参考文献数
14

目的:呼吸機能低下患者での術後ハイリスク群を検討した.対象:術前呼吸機能検査で1秒量<1.2 Lを満たした80例.方法:術後呼吸不全の発生について診療録より後ろ向きに調査した.結果:7例で合併症が発生した.多因子より算出した呼吸不全リスク指数は合併症群で有意に高値であった.また,同リスク指数と合併症発生頻度の間に有意な傾向性が認められた.結論:呼吸不全リスク指数は術後呼吸不全の検出に有用である.
著者
河原 大輔 黒橋 禎夫
出版者
一般社団法人 言語処理学会
雑誌
自然言語処理 (ISSN:13407619)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.67-81, 2007-07-10 (Released:2011-03-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

本稿では, 格フレームに基づき構文・格解析を統合的に行う確率モデルを提案する.格フレームは, ウェブテキスト約5億文から自動的に構築した大規模なものを用いる.確率モデルは, 述語項構造を基本単位とし, それを生成する確率であり, 格フレームによる語彙的な選好を利用するものである.ウェブのテキストを用いて実験を行い, 特に述語項構造に関連する係り受けの精度が向上することを確認した.また, 語彙的選好がどの程度用いられているかを調査したところ, 60.7%という高い割合で使われていることがわかり, カバレージの高さを確認することができた.
著者
服部 貴好 石橋 卓弥 高原 大輔 石野 岳志 竹野 幸夫
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.196-202, 2019 (Released:2019-07-20)
参考文献数
10

嗅覚障害診療ガイドラインが発刊され,嗅覚障害に対する概念や分類,原因,診断,治療に対する知識が広がりつつある。今回我々は,鼻腔所見から原因不明の嗅覚障害が疑われたものの,鼻腔CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖が原因であると診断できた気導性嗅覚障害例を経験した。症例1は24歳の女性。基礎疾患にアレルギー性鼻炎があり,CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖を認め,鼻処置にて同部位を開大すると嗅覚の改善が得られた。症例2は50歳の女性。好酸球性副鼻腔炎に対し他院にて手術を施行されていたが,術後の嗅覚は不安定で高度の変動を認めた。CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖を認め,嗅裂の状態で嗅覚の変動が認められた。症例3は17歳の男性。基礎疾患に慢性副鼻腔炎があり,近医耳鼻咽喉科を不定期受診していたが嗅覚は改善しなかった。CTにて上鼻甲介の内反による嗅裂閉鎖を認め,嗅裂の形態改善目的で中鼻甲介開窓術を行い嗅覚の改善が得られた。3症例はともに鼻腔CTで,上鼻甲介レベルの嗅裂の狭小化を認め,両側の上鼻甲介がそれぞれ鼻中隔側に向かって内反して閉塞した所見を認めた。本所見を基に同部位の開大を行ったところ全例において嗅覚の改善が得られたため,これら症例においては嗅裂の形態が病態形成の主要な要因であると考えられた。本病態においては鼻腔CTによる嗅裂形態の確認が重要であるとともに,恒久的な構造の改善のために内視鏡下鼻内副鼻腔手術による中鼻甲介開窓術が有効であると考えられた。
著者
小野 健一 藤原 大輔 川上 孝行 金山 祐里
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.210-216, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)
参考文献数
18

認知症の人とその家族介護者への支援は,両者の在宅生活を維持するために重要である.今回,訪問作業療法場面で,認知症高齢者と家族介護者2組に対し,共作業支援尺度を用いた共作業支援プログラムを実施した.共作業支援尺度から提案された改善したい共作業への作業療法介入を行った結果,認知症高齢者のBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia(以下,BPSD)の重症度と,家族介護者のBPSDから生じる介護負担感,共作業継続意志得点の改善が,2組共に見られた.両者の行う共作業への介入により,家族介護者の共作業の遂行能力が改善し,結果として両者にとって,より満足のいく在宅生活につなげられる可能性が示唆された.