著者
山本 啓介
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 = National Institure of Japanese Literature (ISSN:18802230)
巻号頁・発行日
no.40, pp.117-151, 2014-03-14

飛鳥井家は『新古今和歌集』撰者の一人である雅経を祖とする和歌・蹴鞠の家である。本稿はその飛鳥井家の当主と周辺における蹴鞠の伝授書の整理分析を中心に行った。飛鳥井家による蹴鞠伝授書は、現在確認した限りでは、早くは応永一六年(一四○九)の雅縁のものから、慶長一八年(一六一三)の雅庸まで計三七種類がある。これらの書の伝授奥書には、対象や伝授の状況なども記されていることが多く、飛鳥井家と門弟との関わりや動向について知る手がかりとなる。その分析から、飛鳥井家が室町から近世にかけての長期にわたり、公家や守護大名、地方武士に至る広い階層に伝授を行っていたことや、地方下向中の伝授や口伝を筆記したものなどの様々な伝授形式があったことが知られる。また、被伝授者の中には飛鳥井家の和歌の門弟としての事跡も残っている人物もいるため、その他の蹴鞠伝授者の場合も同様に和歌の門弟であった可能性を考えてよいものと思われる。被伝授者の中にはその詳細が判然としない人物も少なからずあったが、むしろ本資料の紹介によって明らかとなる事実もあることだろう。This report is an analysis about the Initiation books of “kemari” written by Asukai family in Muromachi and Warring States period.These Initiation books exist 37 kinds. From these, a relation and the trend with the pupil are identified as a person of Asukai family. It lasted for a long term from Muromachi to the early modern times, and the Asukai family knew various instruction forms such as the things which took notes of in a downward direction instruction and learning through the grapevine to a thing and the district which I initiated the wide hierarchy before reaching a court noble and a feudal lord, the district samurai into.
著者
溝田 友里 藤野 雅弘 山本 精一郎
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.321-338, 2020-12-25 (Released:2021-02-04)
参考文献数
46

がん予防やがん検診は,がんで苦しむ人を減らすために重要な方法である。しかしながら,これらについては十分に科学的根拠(エビデンス)があるにもかかわらず,必ずしも十分に実践されていない(エビデンス・プラクティスギャップ)。禁煙などのがん予防やがん検診受診などはすべて個人の行動変容を促すものであり,近年,行動変容を促すには従来の「教育的アプローチ」では十分でなく,「環境的アプローチ」への変化が必要とされてきた。なかでも,従来のモデルや理論に新たな行動科学的なアプローチを加味したアプローチの効果が期待されている。本稿では,なかでも,ソーシャルマーケティング及びナッジを利用したアプローチについて取り上げる。ソーシャルマーケティングは,商業マーケティングに用いられてきた概念や技法をがん予防・がん検診といった公衆衛生的な行動変容を促すために用いるものである。ナッジは人々が行動を選択するときのくせ(惰性・バイアスなど)を理解して,強制することなく,選択の自由を確保した上で,人々が望ましい行動を選択するように導くアプローチである。望ましい行動という点で,公衆衛生政策や保健政策との相性がいい手法といえる。我々が行った大学生に対する禁煙・防煙キャンペーンを例に,分析,戦略開発,コミュニケーションのデザイン,実行,評価とフィードバックといったソーシャルマーケティングのプロセスを説明する。また,がん検診の受診率向上プロジェクトを例に,ソーシャルマーケティングに加え,ナッジなどの行動科学的方法を活用した行動変容へのアプローチについても例示を行う。
著者
山本 輝太郎 石川 幹人 菊池 聡
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 42 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
pp.341-342, 2018 (Released:2019-06-14)
参考文献数
4

本研究では,疑似科学に関するオンライン上での議論を手がかりとして,それらの中で「誤った論法=誤謬」がどのように見られるかについて分析した。分析の結果,オンライン上のコメントでは 意味の曖昧さや多義性につけ込み,受け手(閲覧者)に対して先入観を与えるタイプの誤謬が 多く見られた。本報告では,分析結果とともに誤謬を見抜く取り組みの必要性について論じる。
著者
山本 晶友 樋口 匡貴
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.71-77, 2019-05-31 (Released:2019-05-29)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

We examined the extent to which a beneficiary experiences gratitude toward a benefit, as a function of what another beneficiary has received. In our experiment, participants who are university students read a scenario in which the protagonist received help from his or her classmate for a report. Imagining themselves as the protagonist, participants rated the extent to which they felt grateful. We manipulated what a protagonist’s friend underwent (i.e., receiving better help, receiving worse help, or being refused help). In the control condition, no mention of the protagonist’s friend was made. Overall, there was no significant difference between the gratitude experienced in various conditions. However, a comparison of the gratitude scores of participants in the lower half of each condition revealed that, the participants who read that the friend was refused help felt more grateful than those in the control condition. This suggests that knowing another person fails to receive helps increases gratitude among those who otherwise feel less gratitude.
著者
伊藤 俊秀 宮澤 樹 山本 恭輔
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.1-10, 2020-01-30

二酸化炭素の排出が地球温暖化にどの程度影響しているかは議論の余地の残るところではあるが,現時点で商用化されている水素自動車(燃料電池車)は走行時に二酸化炭素を排出しないので,地球温暖化防止に有効であると広く認識されている.しかし,水素は,工業的には天然ガスから製造されているので製造時点で二酸化炭素が排出される.そこで,水素自動車が実質的に排出する二酸化炭素量を推計し,ガソリン車,ハイブリッド車,電気自動車が排出する二酸化炭素量と比較して考察した.ここで,電気自動車については発電時の排出量であるので,各国の電力ミックスに大きく依存する.比較考察した結果,日本の場合,水素自動車と電気自動車の二酸化炭素排出量は,現時点ではほぼ同量であるが,政府が2030年に目標としている電力ミックスで考えるとむしろ電気自動車の方が少なくなることがわかった.したがって,水素ステーションなどに膨大な設備投資を行って取り扱いが難しく非常に危険な水素で走行する水素自動車の普及を推進するより,現時点でもかなり普及している電気自動車の更なる普及を促進する方が合理的である.本稿では,最後に,水素の製造や発電の際に排出される二酸化炭素の地中への貯留手法であるCCSの現状と実現性についても言及した.
著者
朝倉 宏 山本 詩織 橘 理人 吉村 昌徳 山本 茂貴 五十君 靜信
出版者
日本食品微生物学会
雑誌
日本食品微生物学会雑誌 (ISSN:13408267)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.159-166, 2015-09-30 (Released:2015-10-24)
参考文献数
23
被引用文献数
6 4

鶏肉におけるカンピロバクター・ジェジュニ/コリ汚染を流通段階で制御するための一手法として,冷凍処理の有効性を検証した.NCTC11168および81–176株を用いた添加回収試験の結果,鶏挽肉における生存性は,-20℃での2週間の冷凍処理により,最大で約1.9–2.3対数個の減少を認めた.40%の自然汚染率をあらわす鶏挽肉を同上温度での冷凍処理に供したところ,汚染率は1日後には半減し,一週間後にはさらにおよそ半減した.急速冷凍処理(Crust freezing)を行った食鳥部分肉(ムネ・ササミ・レバー・砂肝)は,チルド処理群に比べて,相対的に低いカンピロバクター汚染菌数を示した.しかし,モモ肉ではその差異は認められなかった.輸入冷凍鶏肉の本菌汚染率は,2.2%(1/45検体)と,国産チルド鶏肉検体の陽性率(26.7%, 12/45検体)に比べて顕著に低い値を示した.以上の成績より,冷凍処理は,鶏肉におけるカンピロバクター汚染を低減する一手法であることが示された.
著者
矢後 勝也 平井 規央 小沢 英之 佐々木 公隆 谷尾 崇 伊藤 勇人 遠藤 秀紀 中村 康弘 永幡 嘉之 水落 渚 関根 雅史 神宮 周作 久壽米木 大五郎 伊藤 雅男 清水 聡司 川口 誠 境 良朗 山本 以智人 松木 崇司
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.233-246, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
11

シカの急増に伴う林床植生の食害により国内で最も絶滅が危惧されるチョウと化したツシマウラボシシジミの保全を目的として,a)保全エリアでの実践的な保護増殖活動,b)保全エリア候補地の探索に関する活動,c)希少種保全と農林業との連携に関する活動,の大きく3つの課題に取り組んだ.保護増殖活動では,環境整備やシカ防護柵の増設により保全エリアの改善を試みた他,現状の環境を把握するためにエリア内の林床植生および日照・温度・湿度を調査した.今後の系統保存と再導入のために越冬・非越冬幼虫を制御する光周性に関する実験も行った結果,1齢幼虫から日長を感知する個体が現れることが判明した.保全エリア候補地の探索では,本種の好む環境を備える椎茸のホダ場30ヶ所を調査し,良好な環境を保持した11ヶ所のホダ場を見出した.保全と農林業との連携では,アンケート調査から多くの地権者や椎茸農家の方々は本種の保全に好意的なことや,本種を育むホダ場で生産された椎茸のブランド化に賛成で,協力可能であることなども明らかとなった.
著者
鈴木 修司 近藤 浩史 古川 顕 河井 健太郎 山本 雅一 平田 公一
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.177-185, 2015-03-31 (Released:2015-06-11)
参考文献数
62
被引用文献数
2

非閉塞性腸管虚血(NOMI)は,腸間膜血管に器質的閉塞が存在しないにもかかわらず,腸間膜虚血や腸管壊死を呈する疾患である。1974年Siegelmanらによる血管造影を用いた診断基準がgold standardであったが,最近のmultidetector-row computed tomographyの普及や超音波検査の進歩により腸管虚血を客観的に評価しうる検査法の精度が向上してきたため,新診断基準の確立が望まれている。NOMIは早期に特異的な症候はなく,重症化して診断されるため,一般に予後不良である。NOMIと診断されれば,腹膜刺激症状がない場合は血管拡張薬血管内投与の適応となるが,腹膜刺激症状をきたし,腸管壊死が疑われる場合には外科手術が必要であり,NOMIの診断の標準化と治療の新たなアルゴリズムの構築が望まれる。
著者
田島 明子 山本 弘子 長谷川 幹
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.12, pp.91-100, 2017-03-31

目的:海外旅行に参加した夫婦にインタビュー調査を行い,重度失語症者にとっての本旅行の意味付けと旅行後の生活への影響を考察することで,作業療法における旅行の活用方法について示唆を得ることである.対象と方法:失語症のある人の中から,配偶者が調査時に同席可能であり,旅行後の生活において事故などの旅行とは無関係なイベントのない4 名を対象とし,「発障前の生活」「発症後の生活」「旅行後の生活」「本旅行への関心」「本旅行に対する満足・不満足」「また旅行に行きたいか」について聴取した。結果・考察:本旅行への意味付けと,参加態度,満足度,旅行前後の生活変容の状況を事例毎に整理した.結果より,主体的な旅行参加はその後の生活にも肯定的影響を与える可能性がある,旅行への参加態度は本人の抱く旅行への意味付けの能動性が影響する,旅行に対する満足度の高低と旅行後の生活活性化の有無は関係しない傾向がある,の3 点が考察された.
著者
星 秋夫 中井 誠一 金田 英子 山本 享 稲葉 裕
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.175-184, 2010 (Released:2010-12-17)
参考文献数
24
被引用文献数
2

本研究は人口動態統計死亡票を用い,熱中症死亡の地域差について検討した.さらに,ICD-10 適用前・後(以降 ICD-10 前後と略)における熱中症死亡の差異についても検討した. 1975年~2007年までの33年間における熱中症による死亡数は5,877人であり,年平均の死亡数は178人/年であった.ICD-10 後の死亡率,年齢調整死亡率は ICD-10 前よりも有意に高値を示した.また,いずれの年齢階級においても ICD-10 後の死亡率は ICD-10 前よりも有意に高値を示した.死亡の発生場所において,スポーツ施設,その他明示された場所を除くすべての場所で ICD-10 前よりも ICD-10 後に発生割合が増加した.しかし,スポーツ施設,その他明示された場所においては ICD-10 後,その発生割合は急激に低下した. 死亡率は秋田県が最も高く,次いで鹿児島県,群馬県となる.これに対して,北海道の死亡率は最も低く,神奈川県,宮城県で低値を示した.各都道府県における人口の年齢構成の影響を除くために,年齢調整死亡率をみると,沖縄県が最も高くなり,ついで鹿児島県,群馬県となり,北海道,神奈川県,長野県が低値を示した.最高気温/年と死亡率,年齢調整死亡率との間には高い有意水準で相関が認められ,年最高気温の差異は各地域の熱中症死亡に影響をもたらす要因の一つであることが認められた. 以上のことから,熱中症の死亡率や年齢調整死亡率は日本海側で高く,太平洋側で低い傾向を示すとともに,内陸に位置する群馬県,埼玉県,山梨県で高値を示した.また,沖縄県,鹿児島県で高く,北海道で低いことが認められた.このような熱中症の死亡率や年齢調整死亡率の都道府県の差異は夏季の暑熱環境の差,いわゆる熱ストレスの差に起因していると考えられる.