著者
古積 博 蔡 匡忠・曾 子彥 岩田 雄策 岩田 雄策
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.246-250, 2018

<p>石油タンクの防災対策,特に薄層ボイルオーバー抑制の一助とするため, 軽量ビーズの燃料の蒸発速度, 引火点・発火点への影響, 小型容器(直径0.3 m まで)を使って燃焼実験を行った.ビーズを厚さ1 層程度投入しても, 燃焼速度や周囲への放射熱の低下等,燃焼性状に一定の影響があることが判った.また,薄層ボイルオーバー(燃料:軽油)はほぼ起こらないことを明らかにした.</p>
著者
岩田 学 近藤 和泉 細川 賀乃子
出版者
社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.12, pp.880-887, 2005 (Released:2006-09-22)
参考文献数
35
被引用文献数
1

It has been generally considered that physical fitness is represented by exercise performance under aerobic conditions. However, we are often required to exert highly powerful movements momentarily or within a few seconds in daily life. Therefore, when we evaluate physical fitness, it appears important to evaluate physical fitness not only under aerobic conditions, but also under anaerobic conditions, with the latter being represented by maximal muscle power. In the daily living of people with physical disabilities, whether or not they can achieve a specific activity (for example, standing up, getting up from the floor and sitting down, etc.) is considered to depend on their performance under anaerobic conditions rather than under aerobic conditions. The Wingate anaerobic test (WAnT) has been developed as one of the most precise tests to evaluate anaerobic exercise performance. The WAnT, established at the Wingate Institute in Israel in 1970s, is a test incorporating bicycle riding with a maximal effort for 30 seconds. An ergometer with equipment to load an examinee with a constant resistance from a suspended weight is used in this test. The WAnT is measured as the changes in mechanical power that are yielded by multiplying the resistance produced from a suspended weight by the rotation speed of pedaling during a period of 30 seconds. The WAnT has not been usually applied so far to disabled people due to some technical problems. However, we have been improving the test to overcome those problems so that we can adopt the WAnT in the field of rehabilitation. We expect that this modified WAnT would contribute to a comprehensive evaluation of physical fitness in people with disabilities.
著者
岩田 年浩 大石 太郎
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-31, 2002-08-20

ランダムに見える株価や経済データの変動に対する予測の可能性は,長く研究者の関心事であったが,それを分析する有効な手段は存在しなかった.ランダムな変動においては要素間の複雑な相互作用が関係しており,従来の回帰分析という近似では妥当し難い.近年, カオス研究の重要性については,自然科学や社会科学という枠組みを超えて議論がなされている.この新しい見解は,株価や経済データの分析においても新たな予測の可能性につながるものであるといえよう.本研究では,数値データそのものを定性的に分析する実証的カオス分析という新しい手法を用いて,株価や経済データの持つ独特の性質を抽出し,それが示す規則性から予測の可能性について検証した.
著者
岩田 一正
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.417-426, 1997

本論文は, 義務教育制度がその内実をほぼ完備し, 地域共同体が再編成されつつあった明治後期に, 少年たちが, 書字文化を媒介とした固有名の個人が集う公共圏をどのように構築していたのかを検討することを目的としている. 少年たちが雑誌への投稿者として共同性を構成する過程は, 自らを言葉を綴る主体として保つ近代に特有な方法を, 我々に開示してくれるだろう. 本論文が史料とするのは, 当時最も読まれていた少年雑誌であり, 明治後期の「出版王国」博文館によって発行されていた『少年世界』である. 『少年世界』に掲載された投稿文の分析を通して, 三つの観点が示されることになる. 第一に,1903年頃に『少年世界』の主筆である巌谷小波によって提示された言文一致体は, 天真爛漫な「少年」という概念を創出した. さらに, 『少年世界』編集部は投稿作文欄の規定を改正し, 少年たちは言文一致体で投稿するように要請された. その結果, 煩悶する「青年」と天真欄漫な「少年」が差異化され, 『少年世界』は後者のための雑誌となった. 第二に, 『少年世界』は, 少年に固有名をともなった他者とのコミュニケーションの場を提供した. しかし, その場は, 抽象的で均質な時空によって構成されていた. それゆえ, 少年たちは地域共同体からの切断に由来する, いまだかつて経験したことのない孤独を感じることになった. しかしながら, 投稿欄を利用することによって, その孤独を補償し, 他者との交歓=交感を享受するために, 少年たちは誰かに向かって何かを書こうとする欲望を生み出し, ある場合には, 同好のコミュニケーション・ネットワークを形成したのである. そして, この文脈において, 言文一致体は適合的な文体であった. なぜなら, 言文一致体は, 少年に見えざる他者の声を想像させることができるからである. また, 当時は, 国家的な郵便制度が確立したことによって, 文通によるコミュニケーションの制度的な基盤が整備された時期であった. 第三に, 少年たちは, 自らの手で雑誌を出版するようになった. ここで注目に値するのは, 活字で構成される一般の雑誌とは異なり, 少年が制作した雑誌は, 肉筆やこんにゃく版, 謄写版によって作られており, 手作りの感触を残していることである. 少年の雑誌制作は, 大正期以降の同人雑誌文化の基層を形成するものであり, この同人雑誌文化から, 数多くの文学作品が創出されることになる.
著者
岩田 大介 小林 豊 石本 万寿広
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.79-83, 2020
被引用文献数
1

フェロモントラップは,従来から利用されている予察灯と比較し,廉価で,設置も容易であることから,多くの害虫でそのモニタリングに用いられている。捕獲虫を自動で計数するフェロモントラップは,調査を省力化する目的で,以前から研究開発が行われており,その対象はチョウ目害虫やカメムシ目害虫,貯穀害虫にまで及び,計数の手法は,画像解析,光電センサ,電撃電極などが報告されている。市販・実用化された事例もあり,自動昆虫捕獲装置「ムシダス2000」((株)エルム)は,ショック電極に触れて落下した誘引虫を高圧電流を付加した計数用ローラで巻き込み,その際に生じる電気信号を用いて計数する装置で,計数結果を自動で送信するシステムを実装することで調査の自動化を可能とした。しかし,ムシダス2000は,本体価格が約70万円と高価であったため,広く普及するには至らず,2019年現在では,販売終了となっている。近年,情報通信技術の発達により,コンピューターの小型化,低価格化が進んでおり,センサ制御可能なシングルボードコンピューターが数千円で販売されている。吉田・植野は,シングルボードコンピューターと各種環境センサ(気温,湿度,気圧,風速,降水量)を用いた低価格環境センサシステムを構築し,野外でも安定稼働することを実証した。光電センサは,投光器から出る光が物体に遮られたり,反射すると反応するセンサで,片山はファネルトラップの漏斗部の先端に,ガラス管と光電センサを取り付け,ガラス管を通過したハスモンヨトウSpodoptera litura Fabricius(チョウ目: ヤガ科)を計数できることを報告している。筆者らは,これらの技術を利用し,市販品を組み合わせてフェロモントラップを改良することで,従来よりも廉価にフェロモントラップ調査の自動化ができると考えた。そこでハスモンヨトウを対象として,ファネルトラップに光電センサとシングルボードコンピューターを搭載し,捕獲虫の自動計数を試みたので,報告する。
著者
後藤 昌弘 岩田 惠美子 大久保 郁子 森 一幸 中尾 敬
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.66, 2014

<b>[目的]</b>ジャガイモは,栄養学的に優れた食品であり,様々な調理や加工に用いられている。本研究ではジャガイモの品種による調理方法と食味の構成要因を解析することから様々な調理法に適した品種を探求することを目的とし,西南暖地の主要産地である長崎県産の品種・系統について種々の物理化学的調査及び官能検査を実施した結果について報告する。 <br><b>[方法]</b> 平成25年度秋作のニシユタカ,デジマ,アイユタカ,さんじゅう丸,西海31号の育成品種,品種登録前の育成系統西海37号,西海40号の7品種系統をそれぞれ,蒸す,ゆで,レンジ,焼き,揚げ加熱で調理した。加熱試料について「ニシユタカ」を標準試料として色,香り,口当たり,甘み,苦み,おいしさ,総合評価の項目について官能検査(評点法)を行った。また,加熱前後の試料の遊離還元糖,アミノ酸,フェノール物質含量と加熱試料のテクスチャーの測定を行い,これらの関係を調べた。<br><b>[結果]</b> 「デジマ」は揚げ加熱で還元糖含量が多かった。「アイユタカ」(黄肉)は蒸し加熱で他の品種に比べ色の評価,総合評価が高かった。「さんじゅう丸」は加熱法による差はみられなかった。「西海31号」(赤肉)は全ての加熱法で色の評価が低かった。「西海37号」は揚げ加熱で還元糖含量が多く,レンジ加熱で色の評価が高かった。「西海40号」はレンジ加熱を除くと標準試料に比べ,口当たりの評価が高かった。
著者
宗像 祥久 柴原 秀典 植田 愛美 川原 玲香 白砂 孔明 桑山 岳人 岩田 尚孝
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.111, pp.AW1-5-AW1-5, 2018

<p>【目的】卵胞液(FF)は卵子と顆粒層細胞(GC)の共通の環境である。我々は卵子の発生能力とその個体のFFの卵子成熟・発生支持能力の間に高い関係性があることを見出している。FF中にはエクソソームなどの細胞外小胞(EV)が存在しており,近年FF中EV内のmiRNAが卵胞内の細胞に影響するという報告があるが詳細は未だ明らかになっていない。本研究では卵胞発育に関与するFF中EV由来のmiRNAの探索およびその影響について検討した。【方法】(実験1)食肉センター由来ブタ卵巣の卵胞(直径1–3 mm)からFFを採取し,EV除去FFと対照FFを作成した。対照FF又はEV除去FF10%添加培地で卵子卵丘細胞複合体(COCs)を培養し,成熟率と発生率を評価した。(実験2)小(直径1–3 mm)又は大(5–7 mm)卵胞のGCのRNA-seqデータを用いて発現変動遺伝子群のIPA解析から上流因子であるmiRNAを推定した。又,大小卵胞FFからEVを抽出しsmall RNA-seqから得られたmiRNAとの比較で候補miRNAを推定した。(実験3)良好(GC数が多く卵子が高発育)と不良(GC数が少なく卵子が低発育)個体の卵巣からGCとFFを回収し,実験2と同様に候補miRNAを推定した。(実験4)対照FFとEV除去FF添加培地でCOCsを培養し,その卵丘細胞をRNA-seqに供して発現が異なる遺伝子群から上流因子であるmiRNAを推定した。(実験5)実験2–4の候補miRNAから共通miRNAを選抜し,そのmiRNAをEV除去FF添加培地に添加し卵子の能力に及ぼす影響を検証した。【結果】(実験1)EV除去FFに添加により卵子の成熟率と発生率を低下させた。(実験2–5)それぞれの結果の比較からmiR-27b,miR-17,miR-145を候補miRNAとして推定した。成熟培養へのmiR-27b添加は発生率を有意に向上させた。一方miR-17とmiR-145については胚発生率への影響は観察されなかった。</p>
著者
片山 耕大 魲 洸平 寿野 良二 木瀬 亮次 辻本 浩一 岩田 想 井上 飛鳥 小林 拓也 神取 秀樹
出版者
Springer Nature
雑誌
Communications Biology
巻号頁・発行日
no.4, 2021

振動分光法を駆使した薬剤効能測定法の開発 --アセチルコリン受容体を標的とした神経疾患の治療薬開発への期待--. 京都大学プレスリリース. 2021-12-01.
著者
亀山 幸司 岩田 幸良 宮本 輝仁 北川 巌 久保田 幸
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.I_119-I_126, 2021 (Released:2021-04-01)
参考文献数
30

本研究では,有機物が不足する砂質土に対して,国内において入手が容易な木質バイオ炭と牛ふん堆肥の混入が土壌の物理・化学的特性に及ぼす影響について検討した.バイオ炭混入割合の増加により,全炭素,陽イオン交換容量(CEC),pH,易有効水分量,1 mm以上のマクロ団粒の割合が有意に増加した.また,バイオ炭を堆肥と混合施用した場合,全炭素,pH,CEC,1 mm以上のマクロ団粒の割合が有意に増加した.更に,バイオ炭と堆肥の混合施用によりCECが相乗的に増加する可能性が考えられた.ただし,バイオ炭単独の施用では混入割合の増加と共に易有効水分量が増加する効果が見られたが,バイオ炭と堆肥の混合施用の場合は易有効水分量の増加が抑制された.今回の試験結果から,砂質土に対して木質バイオ炭と牛ふん堆肥を混合施用した場合,保肥性の改善やマクロ団粒の増加が期待できる一方,易有効水分量の増加が抑制されることやpHの急激な増加に留意する必要があると考えられた.

1 0 0 0 抗ENA抗体

著者
岩田 進
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.254-255, 1986-03-01

抗ENA抗体は抗核抗体の一種で,全身性エリテマトーデス(SLE),慢性関節リウマチ(RA)をはじめとする自己免疫疾患の患者血清中に見られる. ENAとはextractable nuclear antigen(可溶性核抗原)の略で,細胞成分の中の核質成分の総称である(図1).この成分は生食水またはリン酸緩衝液により抽出され,非ヒストン核蛋白または酸性核蛋白抗原(nuclear acids protein antigen;NAPA)とも呼ばれている.しかしENAから核酸を除いたものがNAPAであり,必ずしも同一成分とは言い難い.これまでENAの中の抗原性をもつ核成分が主にNAPAであることから同一視されてきたが,抗原分析の進歩により塩基性蛋白抗原も存在することが証明され,これらを総称する意味で非ヒストン核蛋白と言う場合が多くなってきている.
著者
川崎 弘 岩田 文男 メスキータ フィーリョ マノエル V.
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.45-50, 1984

セラードにおける作物の根群文布は著しく浅いため, 栽培期間中不定期に発生する小乾期なよってしばしば水分不足の被害をける.従来, この浅根化は強酸性土壌に由来する交換性Alの阻害作用に婦せられ, 石灰の深層施用が推奨され, かつ実施されているが, 依然として改善されていない.本実態調査ではセラートにおける作物根分布の表層化の原因を解明するため, セラードのライソル (Ferralsols) , 肥沃なテラロシャ (Eutric Nitosols) および沖積土壤 (Dystric Fluvisols) のダイズ根群の分布を調査・比較し, セラードにおけるダイズ根群分布の特異性を明らかにしようとした.調査の結果, セラードのダイス根群はテラロシャおよび沖積土壤に比べて主根の伸長・肥大が悪く, 代って地表近くの分枝根が良く発逹し, 根群が表層に集中する特徴を示した.しかし, セラードの開墾初年月の畑では主根が深くまで伸長し, 根群も地表から比較の深層まで広い範用に分布しているのが認められた.
著者
小川 里美 岩田 幸蔵 久野 臨 小島 伊織 堀部 良宗
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.605-611, 2016-05-25 (Released:2017-01-10)
参考文献数
10

神経内分泌型非浸潤性乳管癌(neuroendocrine ductal carcinoma in situ; NE-DCIS)の細胞学的所見について検討した。病理組織学的にNE-DCISと診断され,穿刺吸引細胞診を実施した5例を対象とした。年齢は50歳代から80歳代で平均年齢70.6歳であった。NE-DCISの細胞学的特徴は,出血性から清の背景に粘液様物質や裸血管を認めた。細胞採取量が多く,結合性の低下した集塊ないし孤立散在性に出現し,筋上皮の付随はみられなかった。細胞形態は多辺形から類円形で,細胞質はライトグリーンに淡染性で顆粒状を呈していた。核は円形から類円形で偏在傾向を示し,クロマチンは微細顆粒状から細顆粒状に軽度増量し,小型の核小体が1から数個みられた。肉眼的に,腫瘍の大きさは4例が10 mm以下で,1例が最大径25 mmであった。病理組織学的に,腫瘍細胞は拡張した乳管内に充実性および索状に増殖していた。間質には毛細血管が豊富にみられ,粘液貯留も観察された。免疫組織学的検索では,シナプトフィジン,クロモグラニンAは4例陽性,CD56は3例陽性であった。Ki67は,検索した4例について0%から19.1%(平均8.5%)であった。本症例と鑑別を要する腫瘍は,乳管内乳頭腫であった。NE-DCISは,結合性が低下し散在性細胞の出現,筋上皮細胞を認めない,さらに核の偏在傾向や顆粒状の細胞質を有することが最も重要な鑑別点に挙げられた。
著者
岩田 忠久 柘植 丈治 石井 大輔
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.123-129, 2014 (Released:2017-02-01)
参考文献数
10

現在,様々なバイオベースプラスチックが開発されているが,熱的あるいは機械的性質,加工性,生産性,原料問題など多くの課題を抱えている。本稿では,微生物産生ポリエステル合成において炭素源を糖から非可食系植物油へ転換する取り組み,木質バイオマスの1つでこれまで廃棄されてきたヘミセルロースであるキシランの有効利用に関する研究,食品廃棄物の1つであるコーヒーの搾り滓から抽出されるカフェ酸を原料としたポリエステル合成に関する筆者らの最近の研究成果について紹介する。
著者
田中 直人 岩田 三千子
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.177-186, 1998

長寿社会の到来とともに,福祉のまちづくりとして,住宅をとりまく地域環境のあり方が問われ,阪神大震災では住民の構造的な課題とともに,地域でのコミュニティの重要性が認識された。本研究では,被災地である神戸市において,小学校区を計画単位として地域福祉の観点から,これまで設けられた「地域福祉センター」を中心に,既存のコミュニティ活動団体の連合体としての「ふれあいのまちづくり協議会」の活動状況や関係者の意識を調査し,(1)地域とのかかわりとしての付き合いの状況は,どの地区も比較的密であるが,震災による地域のまとまり具合の変化は非被災地区の方が大きく意識されている。(2)ふれあいのまちづくり協議会の活動については,よく認知されているが実際の活動への参加は条件しだいであるという住民が多い。(3)活動拠点としての地域福祉センターの規模については,おおむね満足しているがやや大きい規模を望む傾向がある。設備的には新しい施設機能としての風呂・サウナや花壇・菜園・車いす用トイレなどのほか全般的に手すり・スロープ等のバリアフリーヘの配慮が求められている。(4)地域の活動拠点としての地域福祉センターは,よく利用されているが施設利用のきっかけづくりや交通等の利便性の向上,地域内の他の施設の有効利用が今後さらに必要である。(5)事例調査からは,集会施設だけでなく既存の福祉施設や他の施設を行政による計画だけでなく,住民の自発的活動を支援するようなプログラムづくりが有効である。等が明らかになった。今回の調査では,農村地区やニュータウン等の新興住宅地区での差異が明らかになったが,今後は既成市街地における地域特性と地域コミュニティの関連について,さらに詳細な検計が必要と思われる。今後は本研究を,地域環境を形成する社会資源の評価とそれらを有機的に地域福祉につなげる方法論の構築へむけて,さらに発展させたいと考えている。