著者
川本 哲也
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.210-224, 2015

本研究の目的は成人形成期の人のアイデンティティと複数の社会的関係性がいかに関連するかを検討することであった。分析対象者は385名(男性:210名,女性:175名;<i>M</i>=22.4,<i>SD</i>=2.4,レンジ:18–29歳)であった。対象者のアイデンティティは多次元自我同一性尺度(MEIS;谷,2001)を用いて測定され,社会的関係性は,改訂版親密な対人関係体験尺度(ECR-R;Fraley, Waller, & Brennan, 2000; 島,2010)を用い,養育者・友人・恋人に対するアタッチメント・スタイルを測定した。対象ごとのアタッチメント・スタイル,年齢,性別を独立変数とし,アイデンティティの各側面を従属変数とした重回帰モデルを用いた共分散構造分析を行い,以下の結果を得た。「自己斉一性・連続性」は養育者に対するアタッチメント・スタイルからの効果が有意となった。「対自的同一性」は年齢からの効果が有意であり,「対他的同一性」は友人と恋人に対するアタッチメント・スタイルからの効果が有意となった。「心理社会的同一性」は年齢と,友人に対するアタッチメント・スタイルからの効果が有意となった。この結果から,主観的なアイデンティティの側面は養育者との関係性と関連し,社会的なアイデンティティに関しては友人や恋人との間の関係性が関連することが示唆された。
著者
川本 亨二
出版者
教育史学会
雑誌
日本の教育史学 (ISSN:03868982)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-22, 1964-10-30 (Released:2017-06-01)

Whatever is called "arithmetic" in our present system of school education is "yozan" (western arithmetic). This dates back to 1872, when it took the place of "wazan" (Japanese arithmetic) which is quite peculiar to our country. The present thesis is intended as a brief inquiry into the process of the pervasion of yozan in our school system. Yozan came to be known in Japan as early as the first half of 18th century, in close connection with the coming of the western knowledges of astronomy, tactics and so on. But it was mainly via China through the Chinese translations. The visit of American warships in 1853 was really an epoch-making event in the history of yozan in Japan. Yozan, which had been considered only as useful against the crisis of the domestic economy, came to be regarded as "necessary" for surmounting the diplomatic crisis. It is only then that the systematic teaching of yozan began in our country. It was launched out at the Nagasaki Naval Academy (1855-59), where yozan was regarded as the most important basic knowledge for all military sciences. In Hanko (educational institution for the military class), there had been a tendency toward neglecting arithmetic, even wazan. But as the problem of national defense became urgent after the visit of the American warships, yozan began to be taught at some Hanko. To most Terakoya (private school for the lower class), however, yozan gave no great influence worth mentioning, except a few where it was taught in compliance with the pupils' request. Though yozan had thus given quite a limited influence on our school education, it was decided in 1872 in the code entitled "Gakusei" that only yozan should be taught as "arithmetic" at every school in Japan. The aim of Gakusei was, first of all, the rapid growth of Japan into one of the advanced countries. In this sense, it seems natural that we have accepted yozan as our only "arithmetic", following other advanced countries. But it shouldn't be regarded only as a matter of imitation. The largest motive of our having accepted yozan lay in the then urgent desire for the increase of our defensive power which is eloquently expressed in the active attitude of the Nagasaki Naval Academy toward the introduction of tactics. Preference of yozan to wazan came in fact more from the need of national defense than from any academic comparison between them. In other words, the western knowledge which was indispensable in our national defense couldn't be learned efficiently without western methods of calculation and description. "The western arithmetic for learning the western knowledge" this was what made us prefer yozan to our old wazan.
著者
Rawls John 川本 隆史
出版者
岩波書店
雑誌
世界 (ISSN:05824532)
巻号頁・発行日
no.619, pp.103-114, 1996-02
著者
フォン ヤオカイ 松本 晋一 穴田 啓晃 川本 純平 櫻井 幸一
雑誌
コンピュータセキュリティシンポジウム2015論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, no.3, pp.1151-1158, 2015-10-14

暗号通貨はインターネット上で流通しているデジタル通貨である.Bitcoin は暗号通貨の代表の 1 つであり,金融機関による管理を必要としない通貨の流通を可能とする概念として提唱され,近年は一般的人にも良く知られている存在となった.また Bitcoin の別の側面である,集中管理者の存在なしに分散環境で価値を流通/交換し合意形成する方法に着目した方式もいくつか生まれており,Ethereum はその一つで,分散型アプリケーションを構築するためのプラットフォームである.本発表では,Ethereum とその周辺の暗号通貨に関する研究と実装状況について報告する.
著者
山田 明弘 土井 貴明 小國 孝 川本 龍一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.11, pp.817-821, 1999-11-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
11

下垂体卒中は, 発症の誘因が不明のことが多い. 今回, 老年者下垂体腺腫において, 感冒症状から腺腫内出血を引き起こした1例を経験したので報告する.症例は, 74歳, 女性. 1997年6月19日より発熱, 眉間から前頭部にかけての頭痛を訴え, 嘔気を自覚し, 嘔吐を認めた. 近医にて感冒の診断で内服加療されたが症状は軽快せず, 食思不振も自覚するため, 精査加療目的で6月21日当科入院となった.入院時の神経学的所見では, 瞳孔は左眼は散瞳し, 対光反射は左眼は消失, 右眼は遅延していた. 彼女は両眼とも上転が困難であった. 入院時検査所見では白血球は6,700/μl, CRP 16.2mg/dl, 腰椎穿刺では総蛋白97mg/dl, 総細胞数82/μlでリンパ球が主体であった. 臨床症状と腰椎穿刺の所見より当初は中枢神経のウイルス感染症と診断しγ-グロブリンを投与した. 第16病日より動眼神経麻痺の症状である左眼瞼下垂と複視を約2週間認めたが, 経過観察で神経症状は改善した. 第23病日のMRI像から下垂体卒中が強く疑われた. 下垂体腺腫内の血腫が吸収され, 圧迫により麻痺していた動眼神経機能は改善されたと推察できた. 第71病日に施行した Hardy 手術時の摘出標本の組織所見から下垂体卒中の確診に至った.高齢者で, 頑固な頭痛と嘔気, 嘔吐, 発熱に加え外眼筋麻痺の症状を認めた場合には, 下垂体卒中の発症を鑑別に加える必要があり, この疾患を病初期に診断するのは難しいと考えられた.
著者
土屋 萌 落合 和彦 鈴木 浩悦 神谷 新司 加藤 卓也 名切 幸枝 石井 奈穂美 近江 俊徳 羽山 伸一 中西 せつ子 今野 文治 川本 芳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第33回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.37, 2017-07-01 (Released:2017-10-12)

2011年3月11日に起きた東日本大震災に伴い,東京電力福島第一原子力発電所(以下,原発)が爆発し,周辺に生息する野生ニホンザル(Macaca fuscata)は,ヒト以外の野生霊長類において世界で初めて原発災害によって放射線被ばくを受けた。放射線被ばくによる健康影響は数多く報告されており,ヒト胎仔の小頭化や成長遅滞もその1つとして知られている。本研究では,被ばくしたサルの次世代への影響を調べるため,震災前後における胎仔の脳容積の成長および,生後1年以内の幼獣の体重成長曲線を比較した。また,脳容積の推定のため,頭蓋骨の骨化度を考慮しCRL(頂臀長)が140㎜以上の個体21頭においてCT撮影により頭蓋内体積を計測した。震災後胎仔は震災前胎仔よりもCRLに対する頭蓋内体積が小さい傾向が見られ,胎仔に脳の発育遅滞が起こっていると考えられた。さらに,0歳の幼獣について捕獲日ごとに体重と体長との散布図を作成し,震災前個体と震災後個体の成長曲線を比較した。その結果,体長が250㎜に達するまでは震災前個体よりも震災後個体の方が体長に対する体重が軽い傾向が見られた。一方,成長が停滞する250~350㎜に達すると震災前個体も震災後個体も体重はほぼ変わらず,再び成長が見られる350㎜以上では大きな差は見られなくなった。以上より,震災後個体は生後も数か月間は成長が遅滞していることが示唆された。
著者
川本 直美
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

本発表ではメキシコ西部ミチョアカン州T村にあるカルゴ・システム(自治的、行政的および宗教的な社会組織)が、グローバル化や村内の対立の影響を受けいかに変容しているのかを検討し、現代の文脈で同システムのカルゴを果たすことへの新たな意義及び村内でのカルゴの現在の位置づけを明らかにしたい(ここでいうカルゴとはスペイン語で「(義務的な)仕事」を指す)。
著者
川本 哲郎
出版者
京都産業大学
雑誌
産大法学 (ISSN:02863782)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.916-901, 2008-03
著者
香月 秀仁 川本 雅之 谷口 守
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.728-734, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
21

近年注目を集める自動運転技術を搭載した自動車(SDC)の導入は都市における人々の交通行動に大きな影響を及ぼし、結果的に都市構造も影響を受けることが考えられる.本研究では独自に実施した意識調査と全国都市交通特性調査による大規模な交通行動調査の結果を結合することを通じ,個人のSDC利用意向に影響を及ぼす要因,およびSDC利用意向と都市属性の関係について検証を行った.分析の結果,1)運転することが好きな人やステータスと感じている人はむしろSDCを利用しない傾向にある,2)現在運転をしておらず,自動車の安全性が改善されると感じる人はSDCを利用する傾向にある.3)個人の運転距離が長い疎な構造を持つ都市においてSDC利用意向率が高くなることが定量的に示された.
著者
川本 思心
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション = Japanese journal of science communication (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
no.19, pp.135-146, 2016-06

現在、科学技術政策において安全保障関連技術の研究が積極的に推進されている。一方で、大学や研究機関の対応は遅れている。デュアルユース研究(軍民両用研究)に関する意思決定において、研究者個人、研究組織、独立の審査機関、そして政府がどのような役割を果たすべきか、専門家による議論が求められる。その際、市民が大学や研究機関におけるデュアルユース研究をどのように捉えているのかを把握し、それを議論に反映させることが重要である。しかし、市民の意識について現状では十分に把握されていない。本稿はデュアルユース研究をテーマに開催した公開シンポジウム「デュアルユースと名のつくもの~科学技術の進展に伴う両義性を再考する」の参加者に対して実施した質問紙調査の結果について報告する。サンプルバイアスがあるため、この結果から議論できることは限定的である。しかし、賛成と反対が二分された結果は示唆的である。科学技術コミュニケーションの観点からも、デュアルユース問題に関して専門家と市民の議論を喚起する必要がある。
著者
曽ヶ端 克哉 水島 康博 松村 将之 川本 雅樹 野村 裕紀 秦 史壮 染谷 哲史 八十島 孝博 佐藤 卓 平田 公一
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.469-473, 2005-04-01
被引用文献数
3

症例は88歳の女性で, 発熱・食欲低下を主訴に受診し, 腹部CTにて虫垂周囲膿瘍と触診にて腹膜刺激症状を認めた.血液検査上, WBC 27,600/mm^3, CRP 34.8mg/dlと高度の炎症所見を伴っていたため虫垂穿孔による汎発性腹膜炎と診断し手術を行った.術中所見では子宮底部に穿孔を認め, 直腸癌が子宮に浸潤し左尿管・左卵巣を巻き込んでいた.膀胱への浸潤を認めなかったため直腸・子宮・左卵巣合併切除および人工肛門造設術を施行した.病理組織学的には, 直腸癌が子宮筋層に浸潤しているのを確認した.本症例は癌の浸潤により子宮内腔が汚染され, 癌の進行とともに子宮に機械的閉塞を生じ子宮留膿腫を引き起こし穿孔したまれな症例であった.高齢女性の汎発性腹膜炎に遭遇した場合, 子宮・付属器の疾患も十分に考慮しつつ骨盤腔を精査し手術に望むべきであると思われた.
著者
鎌谷 直之 川本 学 北村 豊 針谷 正祥 奥本 武城 隅野 靖弘
出版者
日本組織培養学会
雑誌
組織培養研究 (ISSN:09123636)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.71-80, 2004

日本のヒト遺伝子解析研究に関する倫理指針を遵守して、研究計画について倫理審査委員会の事前承認を得た後、日本人ボランティアに十分な説明をし、自由意志による同意を得て末梢血液試料を収集した。血液試料は細胞株化研究に使用する前に新しく開発した匿名化プログラムを用いて連結不可能匿名化した後、Epstein-Barr virus処理して996人のB細胞株を樹立した。樹立した全細胞株を公的な国立医薬品食品衛生研究所と(財)ヒューマンサイエンス振興財団の細胞バンクに寄託し、2003年に細胞株の分譲が開始された。ヒト遺伝子解析研究に利用できるこれらの細胞株の分譲は、ヒト遺伝子解析研究の進展に貢献すると期待される。
著者
川本 大史 入戸野 宏 浦 光博
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.33-40, 2011-04-30 (Released:2012-02-29)
参考文献数
22

人は他者から受け入れられているかどうかに対して敏感に反応する。社会的排斥は個人の感情や行動に多様な影響を及ぼす。しかし,集団から受け入れられていると感じる状況において他者から選択されなかったときに,排斥と類似した反応が生じるかは不明である。本研究では,そのような小拒絶に対する認知過程について,コンピュータ上で簡単なキャッチボールを行うサイバーボール課題を用い,事象関連電位(event-related potential: ERP)を測定することによって検討した。その結果,投球後約200 ms 後に,参加者に投球されたとき(受容試行)と比較して,投球されなかったとき(小拒絶試行)に,陰性のERP 成分であるfERN が惹起された。fERN は予測より悪かった事象に対して生じることが知られている。本研究の結果から集団の中で他者から選択されないことはネガティブに知覚されることが示唆された。