著者
木村 学 斉藤 和巳 上田 修功
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. AI, 人工知能と知識処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.38, pp.51-56, 2006-05-11

本稿では、新聞記事のような文書ストリームを対象に、ホットトピック抽出法に関する検討結果を報告する。具体的には、文書出現のバースト性を土台にしたKleinbergの抽出法に村し、単語出現のバースト性を土台にした改良法を提案する。新聞記事一年間分を用いた評価実験では、人手抽出したベンチマークのホットトピック群に対し、Kleinbergのオリジナル抽出法と比較して、提案法が高い抽出性能を示したことを報告する。
著者
木村 昌司 田口 友康
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.11, pp.2209-2216, 1997-11-15

日本語の文章は仮名漢字混じり文であり,その印刷文書は仮名書体の違いによって視覚的印象が変わるといわれている.この研究では,6種類の仮名書体を選んで,その印象の変化が何と関係しているのかを分析した.始めに物理計測で縦横の幅と黒領域の面積比を計測した.次に心理実験で被験者にサンプルを提示し,その印象を40種類の形容詞を用いた選択記述法で解答させた.この両者から,全体として文字間が一定に見えるようにデザインされた時代の新しい書体が良い印象を与え,縦または横に長い,時代の古い書体が読みにくくかつ悪い印象を与えるという結果が得られた.Japanese texts are written in kanji(Chinese)and kana characters.It is said that the use of different typefaces of kana characters may result in different visual impressions in the printed texts.This paper studies the kana typefaces in Japanese typesetting in two aspects,that is,a physical measurement and a psychological experiment with the use of six typical kana typefaces.In the physical measurement,the vertical and horizontal widths as well as the density of black area were measured.In the psychological experiment,the impression of the typefaces were evaluated for texts of different styles by the method of selected description on forty adjectives.The result showed that the kana typefaces of modern time,designed in a square-like shape,gave a good impression,while those of ancient time,characterized by the shapes of unequal vertical vs.horizontal widths,gave a poor impression,as a whole.
著者
木村 清孝
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.947-961, iii, 2005-03-30

本論文は、近代日本において、西欧から移入された文献学的な仏教研究の軌跡を辿ることを基軸として、このおよそ百年間における仏教研究の歴史を顧み、その特徴を明らかにするとともに、それがもつ問題点を探り、合わせて今後の仏教研究のあり方について述べようとするものである。明治時代の初め、<近代的>な仏教研究の扉は、少なくとも表面的には伝統的な仏教学と切れたところで、南條文雄によって開かれ、高楠順次郎によって一応定着した。それが、文献学的仏教研究である。この伝統は、のちに歴史的な見方を重視する宇井伯寿によって新展開を見た。さらにその愛弟子の中村元は、宇井の視点と方法を継承しながらも、それに満足することなく、新たに比較思想の方法を導入し、「世界思想史」を構想し、その中で仏教を捉えることを試みた。この比較思想的な仏教研究が、西田哲学を継承する哲学的な仏教研究と並んで、現在も主流である文献学的な仏教研究に対峙する位置にあると思われる。最後に付言すれば、これからの仏教研究は、その中軸として、文献学的研究と、それを踏まえた思想史的研究、さらには、その思想史的研究によって明らかになる重要な「生きたテキスト」をよりどころとする比較思想的研究が遂行されることが望まれるのではなかろうか。
著者
木村 尚子
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.21-35, 2012 (Released:2013-11-30)
参考文献数
54

岩崎直子(1868-1950)は、明治政府による新しい産婆教育のもとで養成された産婆として、はじめて天皇家にかかわった産婆である。彼女は、のちの大正天皇の子四人の出生介助にあたり、これによって産婆界内外で特異な地位を手に入れる。1910年代から1920年代は産婆職の興隆期であり、また正常産に介入する医師との間に競合が増す時期である。本稿は、岩崎という一人の産婆の著述を軸に、産婆が、天皇家とのかかわりを強調することで自らの権威を高めようとする経緯を明らかにする。岩崎は、その持ち前の熱意に加え、幼い子どもと夫を相次いで失ったことから産婆職に情熱を傾け、妊産婦に啓蒙を図るほか、産婆団体においても指導的立場に立つ。この時期、衛生行政からの要請と大正デモクラシーを背景に産婆の職能集団が形成され、さらに産婆たち自身が、その職の権益を守り業務の独自性を主張して産師法(産婆法)制定運動と呼ばれる運動を展開しはじめる。岩崎はこの運動において天皇家との関係を精神的支柱とし、さらにそれは、その後の戦時下人口管理体制のもとに産婆・助産婦を集結するにあたり大きな効果を及ぼしていく。天皇を「生ましました」産婆・岩崎は、1910年代半ばの新中間層に天皇家の母に象徴される「母性」への関心を「生まし」、また続く1920年代には、天皇を頂点とする国家に「御奉公」する産婆やその職能団体を「生ましました」産婆であった。岩崎にとって産婆職は生計を立てる手段という以上の大きな意味をもち、天皇家に関与したことは彼女の誇りや自信であった。同様の努力、あるいは総体としての産婆職の資質向上を、岩崎が必須と感じたのは無理からぬことであった。岩崎が主導した産婆の運動は男性医師や衛生官僚に対抗する女性の権利確立を目指すものであったが、同時に彼女の主張は、その職を通じて天皇家を支え、そのことによって産婆や妊産婦らに天皇家の存在意義を強く印象づける役割を果たしたのである。
著者
堀田 一樹 木村 正典 宮田 正信 竹中 幸三郎
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.203-206, 2010 (Released:2011-03-16)
参考文献数
8

観葉植物のポトスとサンセベリアを用いて,明,暗条件下での植物のガス交換とホルムアルデヒド濃度を閉鎖系チャンバー内で測定した。その結果,ポトスでは暗期よりも明期で活発なガス交換がみられるとともに,ホルムアルデヒド濃度も明らかに低下した。一方,サンセベリアは暗期でガス交換が若干みられ,ホルムアルデヒド濃度も低下する傾向が若干みられた。以上のことから,観葉植物のホルムアルデヒド除去効果には植物のガス交換が影響していることが示された。しかし,ガス交換とは関係なくホルムアルデヒド濃度が減少していたことから,植物体への吸着の可能性が示された。
著者
善教 将大 木村 高宏
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.86-93, 2021 (Released:2023-11-16)
参考文献数
13

本稿では,注意喚起を目的とする警告メッセージが,サーベイ実験における読み飛ばし行為の抑止や実験結果に与える影響を明らかにする。近年,日本の政治学ではサーベイ実験を用いた研究が増加傾向にあるが,実験結果の妥当性を向上させる方法論については,研究が十分に蓄積されていない。本稿は,図書館の民間委託への選好を推定するサーベイ実験を題材に,先行研究で有効性が示された複数の警告メッセージを取り上げ,これらがサーベイ実験の結果などに与える効果を分析する。実験の結果,警告メッセージはサーベイ実験の処置効果に影響を与えるとはいえないことが明らかとなった。この知見は,警告メッセージにより実験結果の妥当性を向上させるには,メッセージの内容やそれを発するタイミングに注意すべきであること,さらには適切な実験設計が妥当な結果を得る上で何より重要であることを示すものである。
著者
竹内 雄毅 樋口 恒司 坂井 宏平 文野 誠久 青井 重善 古川 泰三 木村 修 田尻 達郎
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.76-80, 2014-02-20 (Released:2014-02-20)
参考文献数
16

11 歳女児.初潮以降3 回の月経周期に伴う右下腹部痛,腹部腫瘤および同部位圧痛を主訴に近医を受診したところ,腹部超音波にて骨盤内腫瘤を認め,精査目的に紹介となった.腹部CT にて重複子宮・膣と右膣閉鎖による右子宮膣留血腫を認めた.また右腎は無形成であった.Herlyn-Werner-Wunderlich 症候群(HWWS)と術前診断し,待機的手術を施行した.右膣閉鎖と膣壁膨隆を認め,膣中隔切開・内容液ドレナージ後,膣壁形成を施行した.以降,下腹部痛と腹部腫瘤は消失し,術後経過,月経発来も順調である.HWWS は,見かけ上,月経が正常に起こるため他の女性性器奇形(処女膜閉鎖,膣閉鎖)よりも診断が遅れることがある.治療は膣中隔切除と留血腫ドレナージで良好な成績を得られる.下腹部腫瘤と片側腎無形成を伴う二次性徴期女性の急性腹症に対しては,HWWS を考慮に入れて診断と治療を行うべきである.
著者
木村 建貴 香西 直文 坂本 文徳 福谷 哲 池上 麻衣子
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集G(環境) (ISSN:21856648)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.III_375-III_382, 2020 (Released:2021-03-17)
参考文献数
20

粘土鉱物に吸着したセシウムの一部が微生物の作用により溶出することが明らかになってきている.一般的に植物は微生物と共生関係を築くが,粘土鉱物からのセシウム溶出に係る植物と微生物間における相乗効果は報告されていない.本研究では,植物由来の有機酸に着目し,まず植物(シロツメクサ)が生産する有機酸分析を行った.次に,シロツメクサ由来として同定された乳酸を用いて,微生物の培養実験を黒雲母存在下で行った.その結果,増殖の誘導期において黒雲母から溶出した鉄等の量が乳酸の添加により増大した.また,セシウムを吸着させた黒雲母からセシウムが溶出した.これは黒雲母が部分的に溶解したことに伴い吸着していたセシウムが溶出したと考えられる.また,溶出したセシウムは,増殖した微生物に吸収されたことが示唆される.
著者
内藤 考洋 松田 直樹 鈴木 創 丸谷 孝史 酒井 安弘 佐田 真吾 塚田 鉄平 木村 俊哉 高山 拓也 片野 真奈未 稲田 亨
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.323-331, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
23
被引用文献数
5

【目的】在宅脳卒中者の生活空間における各活動範囲(住居内,住居周辺,住居近隣,町内,町外)に関連する因子を調査した。【方法】在宅脳卒中者143 名を対象に,基本属性,Life-space assessment(以下,LSA),Modified Fall Efficacy Scale(以下,MFES),Barthel Index(以下,BI)等,計15 項目を調査した。統計学的検討では各活動範囲別のLSA 得点と各評価指標との相関分析を実施した。また,対象者を通所系サービスおよび外来リハ利用の有無であり群・なし群に割付けし,2 群の各活動範囲別得点に対し,対応のないt 検定を実施した。【結果】住居内・住居周辺のLSA 得点はMFES とBI との間に中等度の相関を認めた。また,住居周辺,町内・町外の得点は,通所系サービスおよび外来リハ利用あり群で有意に高かった。【結論】生活空間は,各活動範囲によって関連する因子が異なることが示唆された。
著者
望月 和樹 木村 真由 川村 武蔵 針谷 夏代 合田 敏尚
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.18, no.8, pp.375-381, 2018 (Released:2019-09-02)
参考文献数
26
被引用文献数
2 2

中鎖脂肪(MCT)は,中鎖脂肪酸とグリセロールによって構成される。MCTは,小腸において脂肪酸に素早く分解され,その後長鎖脂肪と比較してエネルギー源として素早く代謝される。これは,MCTの消化吸収には胆汁によるミセル化のステップが必要ないことや,小腸で消化された中鎖脂肪酸は,中性脂肪に再合成されることなく,ミトコンドリアのβ酸化の律速ステップである脂肪酸とカルニチンとの結合が必要ないことによる。加えて,MCTを動物モデルに投与すると,β酸化,解糖系,クエン酸回路,電子伝達系,脂肪酸合成経路といったエネルギー代謝経路の遺伝子発現や酵素活性を増大することが明らかとなっている。また,MCTの摂取は,インスリン抵抗性や低栄養を有する動物モデルにおいて,インスリン作用を増大させることがわかっている。これらの結果は,MCTは,エネルギー源としてだけではなく,律速酵素の活性や発現を増大させることによって積極的にエネルギー代謝を活性化する作用を有することを示唆している。さらに,近年の研究によって,β-ヒドロキシ酪酸やクエン酸のようなMCTの代謝産物は,エピジェネティックメモリーの一つであるヒストンアセチル化修飾を増大させる能力を有することがわかってきた。我々は,中鎖脂肪酸であるカプリル酸は,小腸において脂肪や糖質の消化吸収関連遺伝子だけではなく,転写因子であるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体やヒストンアセチル基転移酵素であるCBP/p300の遺伝子発現を増大させることを明らかにした。これらの研究成果は,MCTは,代謝関連遺伝子やヒストンアセチル化修飾を誘導する遺伝子の発現を増出させることによって,代謝や栄養素の消化吸収を増大しうることを示唆している。
著者
阪下 暁 尾本 篤志 大村 知史 角谷 昌俊 大下 彰史 木村 雅喜 浦田 洋二 福田 亙
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.121-127, 2017-06-30 (Released:2017-09-06)
参考文献数
20

症例は24歳女性.指趾末梢のチアノーゼ,レイノー現象,疼痛を認めて当院を受診した.高度の末梢循環不全とCRP上昇,赤沈亢進,Dダイマー上昇を認めたが自己抗体はすべて陰性であった.足底の皮膚生検で中型血管にフィブリノイド壊死を伴う血管炎を認めた.皮膚以外に臓器障害を認めず皮膚動脈炎(CA)と診断した.プレドニゾロン40㎎/日の投与にて皮膚症状は著明に改善した.末梢循環不全の原因としてCAを考慮する必要がある.
著者
木村 聰城郎
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

大腸粘膜のバリアー能について、透過し得る分子サイズの小腸粘膜との差を明らかにするため、水溶性化合物で分子量の異なるpolyethylene glycol(PEG)300,600及び1000を用いて、in situループ法によりラット小腸及び大腸からの吸収を検討した。用いたPEGはそれぞれ分子量300,600及び1000を中心に、重合度の異なる各種分子量のPEGの混合物である。その結果、小腸では分子量600付近まで吸収が認められるのに対して、大腸では分子量300以上では吸収は困難であった。これらのPEGについては細胞間隙を通るいわゆる経細胞側路が考えられるが、両部位での透過可能な分子量すなわち分子サイズの差は細胞間隙の大きさの違いに基づくものと思われる。この点については電気生理学的解析によっても裏付けられた。また、細胞間隙の帯電状態の違いも示唆されたが、細胞間隙に作用する吸収促進剤EDTAの作用はその帯電状態への影響も含むことが明らかとなった。一方、経細胞路の透過性は薬物の親油性に左右されるが、小腸と大腸では吸収の親油性との関係に違いが見られた。3種のアシルサリチル酸を用いて吸収実験を行った結果、小腸部の方が大腸部より極めて吸収がよく、大腸の中では結腸の方が直腸より吸収が良好であった。これは大腸よりも小腸、特に小腸上部では吸収表面積が大きいことが寄与していると考えられる。また、どの部位でもアシル鎖が長くなるに従って吸収が良好になっているが、小腸部では親油性が増しても、吸収が頭打ちになった。そこで、親油性の異なる2種類の薬物acetaminophen とindomethacinの吸収を評価したところ、高親油性薬物の場合には小腸と大腸で吸収速度に差がなくなることが分かった。これらの現象は粘膜表面近傍に存在する非攪拌水層の抵抗の部位差で説明することができた。
著者
乙武 北斗 高丸 圭一 内田 ゆず 木村 泰知
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.700-705, 2023-08-15 (Released:2023-08-16)
参考文献数
10

議会会議録には議会におけるすべての発言が記録されている.議会会議録の発言内容に基づき,議会における議員の取り組みや政治的態度を明らかにする研究が進められている.従来の研究ではTF-IDFなどの単語ベースの方法が用いられており,複数単語のフレーズや文脈を考慮する表現力に欠けていた.本論文では,会議録中の各発言の発言者を推定するBERTベースの分類器とSHAPを用いて算出されるトークン単位の分類貢献度を利用し,発言文から文節単位で政治的関心を含む特徴的な表現を抽出する手法,およびその結果の分析について述べる.文節単位で係り受け関係も考慮することで,抽出された表現の文脈を提示できる.分析の結果,本手法はTF-IDFと比較して発言者の政治的関心が見受けられる特徴的な表現を多く抽出できることを確認した.また,TF-IDFでは抽出が困難な,発言者の独特の言葉遣いを抽出できることを確認した.
著者
榎本 一紀 松本 直幸 木村 實
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.89-94, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
12

絶え間なく変化する自然環境のなかで,雑多な情報から必要なものを判別し,過去の経験や現在の状況に照らし合わせて,将来の目標を見据えた最善手を打つことは,人間やその他の動物にとって,配偶者や食料,金銭などの報酬を効率よく得るために,また,危険や損失を回避するために必須である。ドパミン細胞は中脳の黒質緻密部,腹側被蓋野などに集中して存在し,線条体や前頭葉,大脳辺縁系などの広範な脳領域に投射しており,報酬を得るための意思決定や行動選択に関わる神経システムにおいて,重要な役割を担っている。過去の研究から,ドパミン細胞の活動は,刺激の新規性や,動機づけレベルなどと同時に,報酬価値情報を反映することが報告されている。ドパミン細胞は条件刺激に対して放電応答を示して,期待される報酬の価値を表現し,また,強化因子に対する応答は報酬の予測誤差を表現する。最近,筆者らはニホンザルを用いた研究によって,ドパミン細胞の活動が,学習によって,長期的な将来報酬の価値を表現することを明らかにした。この研究では,サルに複数回の報酬獲得試行を経てゴールに到達することを目標とする行動課題を学習させ,課題遂行中のドパミン細胞の活動を電極記録した。ドパミン細胞は,条件刺激(各試行の開始の合図となる視覚刺激)と,正または負の強化因子(報酬獲得の有無を指示する音刺激)に対して応答し,その応答の大きさは,目前の1試行だけの報酬価値ではなく,目標到達までの,複数回の報酬価値を表現していた。これらの活動は,強化学習理論に基づく一般的な学習モデルによって推定した報酬予測誤差(TD誤差)によってよく説明できた。また,このような報酬価値の表現は課題の学習初期には見られず,課題の構造に習熟してはじめて観測できることが確かめられた。以上のことから,ドパミン細胞は長期的な将来報酬の情報を線条体や前頭前野などに送ることで,意思決定や行動選択を制御していると考えられる。この結果は,目先の利益にとらわれず,目標に向かって意志決定や行動選択を行う脳の作動原理解明につながることが期待される。
著者
鈴木 慎太郎 本間 哲也 眞鍋 亮 木村 友之 桑原 直太 田中 明彦 相良 博典 柳川 容子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.282-288, 2018 (Released:2018-10-20)
参考文献数
24

症例は38歳男性.自家製のお好み焼きを食べている最中から喉頭違和感,呼吸困難,眼球結膜の充血などを訴え救急搬送された.アナフィラキシーの診断で加療し,後日当科へ精査目的で来院した.患者には著しいダニ・ハウスダストによるアレルギー性鼻炎の既往があった.お好み焼きの具材に対する抗原特異性IgEによるアレルギー検査とプリックテストを行ったが全て陰性だった.問診上,開封後密封せずに常温で6か月以上経過した市販のお好み焼き粉を用いて調理したことが判明し,お好み焼き粉に混入したダニによるアナフィラキシーを強く疑った.お好み焼き粉を鏡検した結果,多数のコナヒョウヒダニが検出され,さらに,Dani Scan®(生活環境中のダニアレルゲン検出を目的とする簡易型検査キット)を用いた検査においても強陽性を示した.近年,お好み焼きやパンケーキ等の小麦粉製品に混入したダニを経口摂取して生じるアナフィラキシーの報告が急増している.診断のためには,調理に用いた小麦粉製品の保管状況の聞き取りと,感作が成立した同種のダニを発症前に摂取した調理材料中に証明することが求められる.今回,使用したDani Scan®は,一般家庭においても食品中のダニ汚染を検知する簡便なキットであり,本病態の診断や発症の予防に一定の効果が期待できるものと推察した.