著者
山口 拓 富樫 廣子 松本 眞知子 泉 剛 吉岡 充弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.4, pp.142-146, 2012 (Released:2012-04-10)
参考文献数
36

中枢神経系の発達過程において,神経細胞やシナプス伝達に関連する様々な分子が著しい変化を示す時期,すなわち“臨界期”が存在することが知られている.一方,幼児・児童期に受けた“身体的虐待”や“ネグレクト”といった過度なストレス体験と,成長後のうつ病や不安障害などの精神疾患との関連性が指摘されている.本稿では,臨界期という視点から幼若期に受けたストレスが成長後の情動行動表出におよぼす影響について,幼若期ストレスを受けた成熟ラットが示す行動学的特性,特に情動機能を中心に紹介する.幼若期ストレスとして,生後2週齢あるいは3週齢時の仔ラットに足蹠電撃ショック(FS)を負荷し,成熟後(10~12週齢)に行動学的応答性を検討した.2週齢時FS群では,条件恐怖に対する不安水準の低下(文脈的恐怖条件付け試験)が観察された.一方,3週齢時FS群においては,生得的な恐怖に対する不安水準の低下(高架式十字迷路試験)および社会的行動障害(social interaction試験)が認められた.これらの知見から,幼若期ストレスによる成長後の情動行動表出には,幼若期のストレス負荷時期に依存した変化が生じること,すなわち臨界期の存在が明らかとなった.昨今の精神疾患あるいは感情をうまく制御できない子供達の増加の背景には,幼児・児童虐待の関与が指摘されている.本研究は,このような社会的問題の背景をなす精神疾患と,その発症要因の環境因子としての幼児・児童期に曝露されたストレスとの関係を科学的に解明する上で,有用な情報を提供するものである.
著者
松本 良平 須原 哲也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.464-468, 2007 (Released:2007-12-14)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

セロトニントランスポーターは多くの抗うつ薬の主要な結合部位のひとつであり,うつ病の発現に重要な役割を果たしていることが想定されている.PET(positron emission tomography)では,セロトニントランスポーターに特異結合する放射性リガンドを用いて,ヒト脳内のセロトニントランスポーターをin vivoで定量することが可能である.実際に,PET研究で,視床のセロトニントランスポーターがうつ病患者群において,増加していることが報告されており,セロトニントランスポーターがうつ病の病態に大きな役割を果たしていると推察できる.また,健常者において,うつ病の発症脆弱性が,視床におけるセロトニントランスポーターの発現と関連している可能性もPET研究から示唆されている.一方,セロトニン神経系の起始核がある中脳での有意な変化は,PET研究では報告されておらず,今後の知見の集積がまたれる.抗うつ薬のPETによる評価としては,セロトニントランスポーターに対して特異的に結合する放射性リガンドと抗うつ薬が競合阻害することから,占有率を算出して評価する方法が一般的である.PETを用いて,抗うつ薬による脳内セロトニントランスポーターの占有率およびその経時変化を測定することで,血中の薬剤濃度や半減期に比して,より適切な臨床用量や投与方法が設定可能である.実際に,既存の薬剤の再評価に加え,日本国内でも,新規抗うつ薬の治験にPETが使用されている.今後,新規の抗うつ薬の開発にPETが重要な役割を果たすことが,期待されている.
著者
大島 洋志 松本 雄二 市橋 学 柿原 宏
出版者
Japan Society of Engineering Geology
雑誌
応用地質 (ISSN:02867737)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.123-130, 2001-06-10 (Released:2010-02-23)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

南九州には特殊地質のシラスが広域に分布している. このシラス地帯に新幹線を建設する場合, 地下水面下のトンネルの設計・施工法が大きな課題となる. ここではこの課題に対して, 路線選定段階, トンネルの設計段階ならびに施工段階で払った3つの対策, すなわち縦断線形での配慮, 透水性路盤の採用, 切羽の自立性を確保するためのウェルポイントによる地下水位低下工法の採用, について記述する.
著者
田中 真奈実 入江 勇治 安羅岡 一男 佐藤 章仁 松本 繁 白田 保夫 中村 尚志 河合 美枝子 海老原 誠
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.156-163, 1988-02-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
16

関東地方利根川流域で感染した慢性日本住血吸虫症について, 茨城県内診断例12例を中心に, その診断法・病態・治療適応について検討した. 患者は, すべて海外渡航歴・利根川以外の本症流行地への旅行歴はなく, 取手市戸頭, 稲敷郡河内村, 筑波郡谷和原村等かつて本症の流行が報じられた地域の在住者である. 血中抗住血吸虫抗体及び糞便中の虫卵は検査したすべての症例で陰性であった. 8例の患者の確定診断は, 本症とは異なる基礎疾患で摘出された臓器 (胃・十二指腸等上部消化管及び肝・胆道系) 中の日本住血吸虫虫卵の病理学的検索によってなされた. しかし, 茨城県取手市戸頭の3症例と筑波郡伊奈町の1症例は, 人間ドックで画像診断学的に診断されており, 流行地における本症患者のスクリーニングには, 肝エコーにおける魚鱗状パターン, 肝CT像における被膜石灰化像・隔壁様石灰化像等特徴的所見も有用であることが示された. また, その病態は, 基礎疾患によって異なっており, 胃癌・肝癌等悪性腫瘍との合併例は4例であった. プラジカンテルによる治療適応の判定には, 虫卵排出の有無及び虫卵の孵化能の検索が必要であるが, 疑わしい症例には生検材料による孵化試験をすることが必要である. 病理組織学的検索だけでは, 感染時期及び孵化能の判定は困難である.
著者
樊孟 松本 孝朗
雑誌
中京大学体育学論叢
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.33, 2016-03-15
著者
佐賀 朝 塚田 孝 吉田 伸之 人見 佐知子 神田 由築 小野沢 あかね 松井 洋子 吉田 ゆり子 金 富子 浅野 秀剛 伊藤 毅 米谷 博 杉森 哲也 初田 香成 松田 法子 松本 良太 本康 宏史 横山 百合子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本課題では、日本近世~近代における「遊廓社会」の形成・普及の歴史について、三都と中核とする列島各地や植民地の事例も視野に入れて、比較類型史論・都市社会=空間構造論の方法を用いて共同研究を実施した。その最大の成果は、『シリーズ遊廓社会』全2巻(吉川弘文館)であり、本課題の代表者・分担者・連携者・協力者21名による論稿を掲載することができた。列島各地で個別の現地調査や、調査と一体の研究会を開催し、遊廓研究のネットワーク化を図るとともに、府県別の遊廓・遊所の沿革と史料情報を内容とするデータベースWEBサイトを構築し、今後の遊廓・遊所研究の発展につながる基盤を構築した点も特筆すべき成果である。
著者
斎藤 寛子 松本 時子
出版者
山形県立米沢女子短期大学
雑誌
山形県立米沢女子短期大学紀要 (ISSN:02880725)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.83-90, 2008-01

本研究では、ボン・デ・ケージョに使われるタピオカスターチの代替として、薄力粉、中力粉、強力粉、上新粉、白玉粉、片栗粉、コーンスターチを用い、調整を試み、その形状及び嗜好性について検討を行なつた。結果は以下の通りである。(1)外観は、白玉粉・片栗粉のパンの表面に亀裂が生じ、断面の気泡が多かった。(2)膨化率には、大きな差がみられ、白玉粉と片栗粉のパンは大きく膨らんだ。コーンスターチのパンは生地が形状を維持しないために高さがなく幅が広くなった。(3)水分含有量は、中力粉のパンが一番多く、白玉粉・コーンスターチのパンが少なかった。(4)白玉粉のパンはタピオカスターチのパンに外観は似ているが、抵抗応力については有意な差が見られた。(5)官能検査の結果、総合評価において、白玉粉と強力粉のパンが好まれたが、片栗粉と薄力粉のパンは好まれなかった。以上の結果より、白玉粉が最も適し、上新粉と片栗粉は不適当と思われる。
著者
松本 清二
出版者
橿原市昆虫館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

我々はこれまでのタウナギの繁殖性態の観察結果やタウナギの食性に着目し、次のような仮説をたてた。タウナギは魚類や水生動物をはじめ多種多様な動物を餌とする捕食者であり、共食いも頻繁に認められている。繁殖期雄は巣を構え訪問してくる雌には求愛するが、接近する雄には激しく噛み付き、それがもとで雄は死亡することもある。また、雄間での共食いも少なからず見られている。このような状況で、もし小型の雄の死亡率(雄間闘争や雄間での共食いによる)が高いなら、小型の時期は雄であることより雌でいることのほうが有利となるかも知れない。死亡率の性差による性転換を予測するモデルも出されている。この小型個体の雌雄での死亡率の差異が、本種の雌性先熟を引き起こす進化要因なのかも知れない。われわれは、タウナギの性転換を説明するために、「雌雄での死亡率の差異仮説」を考えた。本仮説のように小型魚の雄がいない場合,検証のための実験観察の実施は難しい。奈良県下で確認されているタウナギは、個体群毎で性転換サイズが大きく異なる。最小魚サイズの個体群では約30cmの小さな雄がいる一方、最大サイズの個体群では雄は60cmを超える。本実験ではこの特性を利用し、自然状態では共存していない大きさの異なる雄を用いることで実験を行った。水田を仕切った半自然状態の複数の実験池で、これらの大小の雄を入れ繁殖生態、なわばり行動、死亡率,共食いなどを観察した。仮説からの予想は(1)小型雄の高い死亡率と大型雄の低い死亡率、(2)雄間競争により小型雄が繁殖巣をもてないこと、(3)小型雄と同サイズの雌は産卵成功をあげること(4)小型雌の死亡率は高くはないこと、などであった。観察結果は、予想(1)大型の死亡率が10%であったのに対して小型のそれは10%と同様であった。予想(2)で小型雄が巣を持つことはなかった。予想(3)では、繁殖巣をつくった大型雄が2個体と少なく、しかも産卵できたのは1個体であり確認できなかった。予想(4)では、小型個体の性差が等しく著しい結果は得られなかった。この原因は、実験個体の雄が1m近い大型個体を使用した。そのため、広い縄張りが必要となり観察池が小さすぎた。そのため繁殖行動が大型雄2個体でしか観察できず、顕著な行動を観察できなかった。今後、観察池を改善し研究を進めたい。
著者
松本 正夫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
哲學 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.1-47, 1961-12

Relying upon the existence-experience of regions of matter, life and mind, and using the analogy of proportionality of essences, I explained the conception of their essences and categories, Thus I arrived at the standpoint of analogical universal which transcends particular regions of beings. On this basis we get the regional metaphysics about the world in general. As we consider the essence of world as relative being and the essence of God as absolute being in the proof of God's existence, and by using the analogy of proportionality of existences, proportioned to each essence, we arrive at the standpoint of transcendental wholeness, ens commune sive analogicum, in which the absolute being and the relative being can coexist. Here we get metaphysics, i.e. ontology which treats not only regional beings in the world, but also the absolute being as its object. If ens commune sive analogicum, which covers both the absolute and the relative were itself an objective being, it would have to be another world, containing God and the world, where the God can not retain His absoluteness and becomes a mere relative being. So in order that, without loosing their "thing in itselfness", the absolute and the relative might still relate with each other in their coexistence, ens commune sive analogicum should not be universal in object but universal in function. Kitaro Nishida's place-universal and the voidness in Mahayana thought are the equivalents for that. This is an excessus from the absolute itsself and "diffusivum sui" of God. God establishes ens commune sive analogicum "the place" which is not aliquid in any sense i.e. nothing, or voidness, by throwing His pure act of actual existing upon not-existence; thus His pure act leaves behind all sorts of essences and even His own essence of the absolute i.e. the existence itself. This is the only place where the absolute and the relative can coexist. In His nature God has ens universale which can cause every creature but can only have ens commune sive analogicum as "the place" of Himself and His creature in habitus of creation. On one hand in ens commune God makes creatures coexist with Himself, still in the full possession of His absoluteness and on the other hand the mind of creature must expand (dilatare) itsself by ens commune in its habitus, though in its nature it remains finite and relative. "anima quodammodo omnia fit." For man, it is possible to meet the absolute as "you" in its transcendental itsselfness, and mot in any shade of idolatry only when he makes his mind-structure coincide with voidness of "the place", that can be realized in acquired habitus but never in its apriori nature.
著者
松本 〓生
出版者
日本結晶学会
雑誌
日本結晶学会誌 (ISSN:03694585)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.254-257, 1997-06-28 (Released:2010-09-30)
参考文献数
20
著者
松本 由紀子
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.1996, no.9, pp.107-118, 1996-06-05 (Released:2010-04-21)
参考文献数
28

Yanagita Kunio clarified that the word “Senzo” (Japanese traditional concept of ancestors) is used in two different meanings in his “Senzo-noHanashi” (1946). One meaning is the founder of “Ie” (the stem family), and the other is all of its deseased members. This paper points out that his study was based on his formula on the the relations between “Ie” and society. He regarded social mobilization in modern Japan as a serious problem to the eternal continuation of “Ie” and the society which is organized by “Ie” s. This problem let him pay attention to two meanings of “Senzo”. Through the reviewal of his studies, we will try to find a possibility to build a new hypothesis about the relation between social mobilization and ancestor worship in modern Japan.
著者
今井 美奈 松本 園子 堤 祐介 光畑 裕正
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.115-123, 2014 (Released:2014-10-17)
参考文献数
28
被引用文献数
2

四逆散の難治性疼痛に対する報告は少ない。西洋医学的治療で鎮痛を得られなかった26症例で四逆散の有効性が認められた。男性13症例,女性13症例,年齢は57歳~85歳であり,発症から受診までの期間は1週間から15年であり,慢性痛に分類される症例は17症例であった。四逆散7.5g分3を処方し,証により他の漢方薬を併用した。NSR で0~4にまで痛みが改善した期間は3日~90日であり,平均26±19日であった。痛みの部位は様々であり,漢方医学的腹診では,腹直筋の緊張を認めた症例は58%,胸脇苦満は38%,心下痞鞕は38%であった。これらの腹候がある場合には四逆散を基本とした治療で鎮痛効果が認められた。特に腹候が明らかでなくてもうつ状態と脇胸部から背部にかけての痛みでは四逆散と香蘇散の併用で効果が認められた。四逆散は難治性疼痛に対して試みる価値のある方剤であることが示唆された。
著者
松本 鮎美 三上 弾 木全 英明
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J101-D, no.10, pp.1448-1461, 2018-10-01

本論文では,スポーツ映像を対象として,動作中のイベントの発生タイミングを時間的に詳細に検出することを目指し,映像を疑似的に高フレームレート化した上で,高フレームレート化された映像からイベントを検出する手法を提案する.一般的に,スポーツの動作は非常に高速である.例えば野球において投手のボールのリリースタイミングを分析することを考えると,フレームとフレームの間で撮影されていない可能性がある.一般的な映像からのイベント検出手法の時間分解能は映像のフレームレートに制約されてしまう.この問題を解決するために我々は,低次元特徴に着目し,低次元特徴空間における映像の疑似高フレームレート化による高い時間分解能でのイベントタイミング検出方法を提案する.これは,映像をダイナミックスを保持したまま低次元特徴空間へマッピングするものであり,これにより高フレームレート化が容易となり,フレームレートより詳細なレベルでのイベントのタイミング検出が可能となる.更に,クラスタリングによるアノテーションを行うデータの自動抽出と,ストリームデータに対する逐次的なアノテーションの導入により,実環境での利用への拡張を行う.
著者
松坂 俊 大屋 清文 片山 勝之 松本 美奈 佐々木 理絵 Ivor Cammack 柏木 秀行
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.67-72, 2021 (Released:2021-03-02)
参考文献数
9

【緒言】緩和的放射線療法を含む集学的な加療により長期間放置され巨大化し自壊した頭部脂腺がんの局所コントロールができ,ADLが大幅に改善した1例を経験したので報告する.【症例】退職し独居,家族とも疎遠であり,社会的孤立がある48歳男性.3年前に頭部腫瘍を自覚した.近医に受診したが診断が得られず,その後放置していた.その後巨大化し,疼痛,滲出液が増悪し体動困難となり救急搬送された.頭頂部に最大径30 cmの腫瘤を認め,手術不能な脂腺がんと判断された.全身管理とともに計27 Gy/9 Frの緩和的放射線療法をしたところ腫瘍は2/3程度に縮小し,疼痛も改善,滲出液の減少も認め,外出することも可能となった.【考察】手術不能な巨大頭部脂腺がんであっても緩和的放射線療法を含む集学的加療で局所コントロール,症状緩和をし得る.
著者
西村 春夫 松本 良夫
出版者
科学警察研究所
雑誌
科学警察研究所報告 防犯少年編 (ISSN:04511999)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.53-61, 1969-03
被引用文献数
2