- 著者
-
梶 茂樹
- 出版者
- 日本アフリカ学会
- 雑誌
- アフリカ研究 (ISSN:00654140)
- 巻号頁・発行日
- vol.2021, no.99, pp.13-20, 2021-05-31 (Released:2022-05-31)
- 参考文献数
- 8
現代スワヒリ語では,ndiyo「はい」とhapana「いいえ」は比較的よく使われる単語である。hapanaの由来は,ha-pa-na(動詞の否定標識-クラス16の主語接頭辞-「共に」を意味する小辞)であることは容易に分る。つまり,「(その)場所にはない」>「いいえ」というような変化である。それに対し,ndiyoは現代スワヒリ語の知識では分析することができない。筆者は,このndiyoは,例えばニョロ語のndíyôに相当する表現がかつてのスワヒリ語にもあり,そこから来ていると推測する。n-ri-yo(私-be動詞-「そこ」を意味する接語)「私はそこにいる」である。ニョロ語ではこの表現は人を訪問して,Olíyô?「(あなたは)いますか。」と訪われた時の返事「私はいます。」としてよく用いられる。本来,自分自身のその場での存在を示すndiyoが,スワヒリ語では,1) -li~-diの交替の不透明さ(形態音韻的交替),2) 欠如動詞-liの使用の極端な制限,さらに3) 接語-yoの不使用と相まって分析不能となり,たんに「はい」という肯定だけを表すようになったと考えられるのである。