著者
清水 芳見
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.166-185, 1989-09-30

本稿では, ヨルダンの北部のクフル・ユーバーという村の邪視信仰について, 記述, 考察する。この村では, 邪視は妬みと不可分に結びついており, 妬みが生じるような状況下では, どんな人間でも邪視を放つ可能性があるとされている。邪視除けの方法として, この村でもっともよく行なわれるのは, 邪視にやられると思われたときに特定の文句を唱えることであり, 邪視にやられて病気になったときの治療法としては, sha' ir al-mawlidと呼ばれる植物などを焚きながら特別な祈念をしたり, クルアーンの章句を唱えたりすることがよく行なわれる。この村では, 邪視を放った者を公に告発するようなことは行なわれないが, この告発ということに関連して, 邪視を放ったという疑いをかけられないようにするための方策がよく巡らされる。最後に, この村では, 邪視がつねにイスラームというコンテクストのなかで理解されているということが, 本稿全体を通して明らかになった。
著者
森 創 堀口 逸子 清水 隆司
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.267-272, 2013-06-30 (Released:2014-11-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

目的: 開眼状態における脳波測定法を用いた前頭葉脳波スペクトル分析のうつ状態像の判定における有効性について検討した. 対象と方法: うつ状態群22名ならびに対照群21名に対して開眼状態での脳波測定による脳波スペクトル分析を行った. 脳波はFp1, Fp2に相当する位置より導出した. またSelf-rating Depression Scale, Social Adaptation Self-evaluation Scale, Gotow Alexithymia Questionnaireの質問紙調査を行った. 結果: 脳波スペクトル分析において, S波のパワースペクトル値は, うつ状態群で有意な増加を認めた. 脳波の各成分帯域の出現頻度は, うつ状態群でのα成分帯域の有意な低下およびθ成分帯域の有意な増加を認めた. 各質問紙調査においてうつ状態群と対照群に有意差を認めた. 対照群とうつ状態群の設定は, 質問紙調査結果等から妥当と考えられた. 考察: うつ状態群は, 安静時脳波による先行研究と同様に活動時脳波のパワースペクトルが増大すると考えられた. 脳波成分の出現頻度は, 安静時脳波による先行研究の結果と異なるが, 活動時脳波における特徴を示していると考えられた. 近年うつ病の診断や治療効果の判定などについては, 精神科医による問診, また質問紙等をはじめとした評価尺度が多数存在するが, 生理的指標を用いた客観的検査法はいまだ開発途上にある. 脳波検査は, 頭皮電極で得られる脳の電気活動を時間的, 空間的に記録し, 脳の活動状況を客観的に評価するものであるが, 従来の脳波検査は, 電源雑音を遮蔽した専用の脳波計測室で行う必要があった. 近年, 遮蔽空間が不要で覚醒開眼生活行動下での測定が可能な小型脳波計が開発されたが, 今回の結果より, 開眼状態における脳波測定法を用いた前頭葉脳波スペクトル分析について, うつ状態診断補助としての利用可能性が示唆された. 本機器を使用した検査は, 使用に際して環境的制限が少ないこと, さらには被験者にとって非侵襲的であり負担が少ないことから, さらなる研究により利用可能性を検討すべきと考えられた.
著者
清水 誠
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

タウリンはβ-アミノ酸の一種であり生体内で様々な生理機能を有することが知られている。タウリンは、タウリントランスポーター(TAUT)による外部からの取込とMetやCysからの生合成の二通りによって生体内へ供給される。昨年度は、脂肪細胞のモデルとしてマウス由来前駆脂肪細胞株3T3-L1を用い、3T3-L1細胞におけるTAUTの特性、またTAUT及びタウリン生合成の律速酵素であるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)の制御について解析を進めた。そこで本年度は、脂肪細胞分化過程におけるTAUTとCDOの制御についてまず検討した。3T3-L1の脂肪細胞分化過程におけるTAUT活性及びTAUTとCDOのmRNA量を測定したところ、TAUT活性とTAUTmRNA量は分化誘導時において一過的に増加し、その後徐々に減少していくことが示された。一方、CDOmRNA量は分化が進むにつれて増加し、特に分化誘導直後に顕著な増加がみられた。そこで次に、タウリンが脂肪細胞分化に及ぼす影響について検討することとし、分化の指標となる細胞内トリグリセリド量とGPDH活性に対するタウリンの影響を検討した。しかしながらタウリンはいずれの活性に対しても影響を与えず、脂肪細胞分化に対して影響を与えないことが示された。一方、分化した脂肪細胞が分泌するアディポサイトカイン類の発現に対するタウリンの効果を検討した結果、TNF-αによるアディポネクチンの発現抑制がタウリンの添加により改善されることが見出された。さらにタウリンはTNF-αによるPAI-1mRNA発現量の亢進を有意に抑制した。以上の結果より、タウリンは脂肪細胞においてインスリン抵抗性のサイトカイン(PAI-1)を抑制しインスリン感受性のサイトカイン(アディポネクチン)を増加させることで、インスリン抵抗性さらには生活習慣病を改善する可能性が示された。
著者
中村 雅俊 長谷川 聡 梅原 潤 草野 拳 清水 厳郎 森下 勝行 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0153, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】頸部や肩関節の疾患は労働人口の30%以上が患っている筋骨格系疾患であると報告されている。その中でも,上肢挙上時の僧帽筋上部の過剰な筋収縮や筋緊張の増加は肩甲骨の異常運動を引き起こし,頸部や肩関節の痛みにつながると報告されている。そのため,僧帽筋上部線維の柔軟性を維持・改善することは重要であり,その方法としてストレッチングがあげられる。一般的にストレッチングは筋の作用と反対方向に伸ばすことが重要であると考えられている。僧帽筋上部線維の作用は肩甲骨の拳上・上方回旋と頸部伸展・反対側回旋・同側の側屈であるため,ストレッチング肢位は肩甲骨の拳上・上方回旋を固定した状態で,屈曲・同側回旋・反対側の側屈が有効だと考えられる。僧帽筋上部線維に対するストレッチングの効果を検証した報告は散見されるが,効果的なストレッチング肢位を検討した報告は存在しない。そこで本研究では,筋の伸長量と高い相関関係を示す弾性率を指標に,僧帽筋上部線維の効果的なストレッチング肢位を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は上肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない若年男性16名の非利き手の僧帽筋上部線維とした。先行研究に従って,第7頚椎と肩峰後角の中点で,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,弾性率を測定した。弾性率測定は各条件2回ずつ行い,その平均値を解析に用いた。弾性率は筋の伸張の程度と高い相関関係を示すことが報告されており,弾性率が高いほど,筋は伸張されていることを意味している。測定肢位は,座位にて肩甲骨の挙上・上方回旋を徒手にて固定した状態で対象者が痛みを訴えることなく最大限耐えうる角度まで他動的に頸部を屈曲,側屈,屈曲+側屈,側屈+同側回旋,屈曲+側屈+同側回旋を行う5肢位に,安静状態である頸部正中位を加えた計6肢位とし,計測は無作為な順で行われた。統計学的検定は,頸部正中位と比較してストレッチングが出来ている肢位を明らかにするため,頸部正中位に対する各肢位の弾性率の比較をBonferroni補正における対応のあるt検定を用いて比較した。また,頸部正中位と比較して有意に高値を示した肢位間の比較もBonferroni補正における対応のあるt検定を用いて比較した。【結果】頸部正中位に対する各肢位の比較を行った結果,全ての肢位で有意に高値を示した。また有意差が認められた肢位間での比較では,屈曲に対し,その他の全ての肢位で有意に高値を示したが,その他には有意な差は認められなかった。【結論】肩甲骨の挙上・上方回旋を固定した状態で頸部を屈曲することで僧帽筋上部線維をストレッチング出来るが,屈曲よりも側屈する方が効果的にストレッチングすることが可能であった。また,側屈に屈曲や同側回旋を加えても僧帽筋上部線維をさらに効果的にストレッチング出来ないことが明らかになった。
著者
八木原 寛 角田 寿喜 後藤 和彦 清水 洋
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.53-61, 1994-06-14 (Released:2010-03-11)
参考文献数
30

On January 30, 1992, a shallow earthquake of magnitude 4.9 followed by about 300 aftershocks occurred in a northern area of the Koshiki channel, north-western Kagoshima Prefecture. We located seismic events observed at two stations of NOEV (Nansei-toko Observatory for Earthquakes and Volcanoes) and four stations of SEVO (Shimabara Earthquake and Volcano Observatory), using Joint hypocenter determination (JHD). Hypocenters of the mainshock and its aftershocks were nearly vertically distributed at depths from 5km to 13km in a small area.Initial motions at the seismic stations of NOEV, SEVO and FMO (Fukuoka Meteorological Observatory) suggest a focal mechanism of strike slip fault type with a T-axis of NNW-SSE direction: the mechanism is very similar to those reported for the earthquakes in and around the area. The nodal plane striking in NE-SW agrees with trends of the fault system in the channel and the other WNW-ESE plane is parallel to the earthquake alignment along Amakusanada-Izumi-Kakuto areas. Hypocenters of the event and aftershocks nearly vertically distributing are, however, not consistent with any of the planes.In March of 1991, about 10 months before the M 4.9 event, an earthquake swarm (Mmax 2.9) occurred at depths around 5km almost within the same epicentral area. Namely, two different types of earthquake sequence occurred at different depths in the same area: the swarm occupied a shallower zone than the focal zone of the M 4.9 event. Although some volcanic process may be inferred from hypocenters vertically aligning, it is probably difficult to explain the fact that the earthquake swarm at shallow depths occurred about 10 months before the M 4.9 event at a deeper depth without accompanying any notable foreshocks.
著者
北村 繁幸 佐能 正剛 清水 良 杉原 数美 藤本 成明 渡部 容子
出版者
日本薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-10-21

生活用品に含まれる化学物質は日常生活を豊かにするうえで欠かせない。生活用品には、防腐剤、品質の維持、着色料、着香料、柔軟剤、可塑剤、紫外線吸収剤や難燃剤などがあり、多かれ少なかれ化学物質が含まれている。本研究課題では、生活用品に含まれる化学物質を広く取り上げ、生体機能維持に重要な働きをする核内受容体に対する活性化についての検討を行った。その結果、幾つかの化学物質が核内受容体を活性化することを見出した。さらに、それぞれの核内受容体の活性化に対応したシトクロムP450分子種が誘導されることを明らかにした。また、近年使用量が増えているリン系難燃剤が薬物代謝酵素活性へ直接的な影響を及ぼすことを示した。
著者
中澤 愛子 京 哲 中西 一吉 小川 晴幾 笹川 寿之 清水 廣 田中 善章 井上 正樹 上田 外幸 谷澤 修
出版者
公益社団法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.467-472, 1991 (Released:2011-11-08)
参考文献数
15

子宮頸部におけるHuman Papillomavirus 16型, 18型の感染を子宮頸部擦過細胞から得たDNAを用いてPolymerase Chain Reaction (PCR) 法により検出した.さらにHPV感染と組織診, 細胞診との関係を比較検討した.Dot blot法と比較してPCR法は検出感度に優れていた.PCR法にてHPV16型または18型を検出した症例数は, 正常69例中11例, 頸部コンジローマ3例中0例, CIN 67例中17例, 浸潤癌30例中11例であった.Koilocyte, binucleated cell, dyskeratocyteなどのHPV感染細胞所見を検討できた59例中, PCR法にてHPV 16型または18型が陽性となったのは19例, 陰性であったのは40例であった.HPV 16型または18型陽性の19例中, koilocyteは5例 (26%), binucleated cellは4例 (21%), dyskeratocyteは11例 (58%) で, HPV陰性例40例中では, それぞれ1例 (3%), 10例 (25%), 15例 (38%) に認めた.しかし, いずれの所見も特異的でなく, 細胞診のみではHPV感染を検出するのは困難であると思われた.また, 細胞診, 組織診にて正常の症例中, 約16%にHPV DNAを認め, これらの症例の今後のfollow upが重要であると思われた.
著者
清水 賀之 畠山 信夫 花村 英悟 渡部 一雄 横山 由香 益山 忠
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
Journal of MMIJ (ISSN:18816118)
巻号頁・発行日
vol.135, no.7, pp.52-62, 2019-07-31 (Released:2019-07-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1

Flow characteristics of slurry with rare-earth rich mud are investigated to examine lifting systems for mining rare-earth elements from deep seabed. Twelve samples, extracted from different locations and depths from seabed around the Minamitorishima with several concentration of rare-earth elements are mixed up with sea water to make slurry with specified volume concentration of mud 1.0% to 10.0%. Cone-plate type rotary viscometers are used to examine relations between shear stress and shear rate of slurry in each volume concentration of mud. As a result, it was found that shape of graph; the shear stress in the vertical axis and the shear rate in the horizontal axis was concave down and increasing during whole range of the shear rate. The shear stress increased gradually as the shear rate increased in case of low volume concentration of mud up to 3.0%. On the other hand, the shear stress changed significantly at small shear rate, and then gradually increased, then lineally in the end in case of larger volume concentration. In addition, similar characteristics under the same volume concentration, even though tested samples were extracted from different locations, depths and concentration of rare-earth elements. Further, three types of fluid model; the Power low model, the Bingham-Papanastasiou model and the Herchel-Bulkley-Papanastasiou model were fitted on the data using the least square techniques, then compared with each other. The last two models, i.e., the Bingham-Papanastasiou model and the Herchel-Bulkley-Papanastasiou model corrects deviations from the data when using “original” the Bingham model and the Herchel-Bulkley model, especially in the range of small shear rate under high volume concentration of mud. The Herchel-Bulkley-Papanastasiou model was the most appropriate model within the three models. Furthermore, correlation equations for parameters of the HerchelBulkley-Papanastasiou model were derived related to volume concentration of mud.
著者
清水 保夫
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.69, no.12, pp.1562-1577, 1978-12-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
46

To ascertain anaerobic urinary tract infection, a total of 615 urine specimens from 97 male and 117 female patients were cultured. Most of them have chronic urological disease, such as cancer of the bladder, benign prostatic hypertrophy and urinary calculus. Urinary bacteriological exminations were investigated to serially dilute the urine specimens obtained by two methods. Clean midstream catch technique was applied for the samples of male subjects and sterile catheterization for famele.112 strains of anaerobes were recovered from 27 per cent of 214 patients (78 of 615 specimens). Peptococcus anaerobius and Peptococcus variabilis were most frequent and isolated 18 times and also 7 strains of Bacteroides fragilis could be found in this study. This result seems similar to that obtained for the anterior urethral flora by other investigators.Among 30 urine samples with anaerobes of more than 105 viable cells counts per ml., anaerobes were isolated in 5. There is less significnat association between viable cell count and pyuria when anaerobic bacteria were cultured in large quantities of mine sample than when aerobic bacteria were cultured in similar conditions.The bacterial count and species of yielded anaerobes from urine samples are not the decisive factor for diagnosing anaerobic urinary tract infection. Additional factors, such as clinical findings and predisposing or underlying conditions of the patient, must always be considered. Now criterion for diagnosis of anaerobic urinary tract infection sholud be established.
著者
下畑 享良 久保 真人 饗場 郁子 服部 信孝 吉田 一人 海野 佳子 横山 和正 小川 崇 加世田 ゆみ子 小池 亮子 清水 優子 坪井 義夫 道勇 学 三澤 園子 宮地 隆史 戸田 達史 武田 篤 日本神経学会キャリア形成促進委員会
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001533, (Released:2021-01-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1

医師のバーンアウトに関連する要因を明らかにし,今後の対策に活かすため,2019年10月,日本神経学会はバーンアウトに関するアンケートを脳神経内科医に対して行った.学会員8,402名の15.0%にあたる1,261名から回答を得た.日本版バーンアウト尺度の下位尺度の平均は,情緒的消耗感2.86/5点,脱人格化2.21/5点,個人的達成感の低下3.17/5点であった.また本邦の脳神経内科医のバーンアウトは,労働時間や患者数といった労働負荷ではなく,自身の仕事を有意義と感じられないことやケアと直接関係のない作業などと強く関連していた.これらを改善する対策を,個人,病院,学会,国家レベルで行う必要がある.