著者
田中 晋平
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.109, pp.89-108, 2023-02-25 (Released:2023-03-25)
参考文献数
23

1974年に大阪で安井喜雄たちが創立した《プラネット映画資料図書館》は、映画のフィルムや関連資料の収集・保存に加えて、自主上映活動を続けてきたグループである。本論では、筆者が〈神戸映画資料館〉で担当した《プラネット》に関する資料(自主上映会のためのチラシや機関誌など)の整理作業を踏まえ、1970年代半ばから1980年代後半までに開催されたその上映活動の歴史的な役割を考察する。具体的には、《プラネット》の上映を実現してきた人間およびモノのネットワークに注目し、自主上映と新たに勃興したミニシアターなどの映像文化との差異を明らかにしたい。まず《プラネット》の前身となる上映活動として、1960年代末に結成された《日本映画鑑賞会OSAKA》の時代に遡り、関西における自主上映の地層を検討する。次にフィルム・コレクターや他の上映グループとの関係性を構築しながら、《プラネット》の活動が展開され、国内外で製作された古典的映画、アニメーション、ドキュメンタリー映画、実験映画・個人映画におよぶ多様な作品が上映されてきた経緯を確認したい。また論点として、自主上映グループが、モノとしてのフィルムをいかに確保し、活動を行ってきたのかに着目する。さらに1980年代後半に《プラネット》が関わった「OMSシネデリック」のシリーズなどを取り上げ、自主上映の活動とミニシアター文化との差異について論じる。
著者
香川(田中) 聡子 大河原 晋 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.W3-4, 2015 (Released:2015-08-03)

生活環境化学物質がシックハウス症候群や喘息等の主要な原因あるいは増悪因子となることが指摘されているが、そのメカニズムの詳細については未解明な部分が多い。著者らは生活環境化学物質による粘膜・気道刺激性のメカニズムを明らかにする目的で、ヒトTransient Receptor Potential (TRP) V1及びTRPA1をそれぞれ安定的に発現するFlp-In 293 細胞株を樹立し、その活性化を指標にして室内環境化学物質の侵害刺激について検討した。これまでに評価した238物質のうち、50物質がTRPV1を、75物質がTRPA1を活性化することを明らかにした。なかでも溶剤として広く使用される2-Ethyl-1-hexanolやTexanolをはじめ、一般家庭のハウスダスト中からも比較的高濃度で検出されるTris(butoxyethyl) phosphate、溶剤や香料成分として多用される脂肪族アルコール類、実際に室内環境中に存在する消毒副生成物や微生物由来揮発性有機化合物がイオンチャネルを活性化することが明らかになった。特に、可塑剤等DEHPの加水分解物であるMonoethylhexyl phthalateがTRPA1の強力な活性化物質であることを見いだした。また、塗料中に抗菌剤として含まれ、室内空気を介してシックハウス様症状を引き起こすことが報告されているイソチアゾリノン系抗菌剤や、呼吸器障害を含む相談件数が増加している高残香性の衣料用柔軟仕上げ剤もイオンチャネルを活性化することが判明した。シックハウス症候群の主要な症状として皮膚・粘膜への刺激があげられるが、本研究結果は、室内環境中に存在する多様な化学物質がイオンチャネルの活性化を介して、相加的あるいは相乗的に気道過敏性の亢進を引き起こす可能性を示唆しており、シックハウス症候群の発症メカニズムを明らかにする上で極めて重要な情報であると考えられる。
著者
小瀬古 伸幸 長谷川 雅美 田中 浩二 進 あすか 木下 将太郎
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.23-32, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
30

【目的】WRAPの視点を反映した看護計画を用いた精神科訪問看護の効果を明らかにすることである.【方法】本研究では1群事前事後テストデザインを用いた.2015年1月~9月に精神科訪問看護を受けている15名を対象にWellness Recovery Action Plan(WRAP)の視点を反映させた看護計画を用いた介入を6か月間行い,介入前と6か月後で日本語版Profile of Mood States(POMS)短縮版,日本語版Rosenberg Self Esteem Scale(RSES-J),日本語版Rathus Assertiveness Schedule(RAS),Global Assessment of Function(GAF)を測定した.【結果・考察】6か月後の中央値で有意に改善したものは,POMSの「不安-緊張」「抑うつ-落ち込み」「活気」「疲労」「混乱」,RASの「目標志向・成功志向・希望」「自信をもつこと」「手助けを求めることをいとわないこと」,GAFであった.WRAPの視点を反映させた看護計画を用いた精神科訪問看護は,リカバリーを促進する有効な方法であると示唆された.
著者
田中 哲朗
雑誌
研究報告ゲーム情報学(GI)
巻号頁・発行日
vol.2009-GI-22, no.3, pp.1-8, 2009-06-19

「どうぶつしょうぎ」¹⁾ は 2008 年に女流棋士の北尾まどか初段によって考案されたボードゲームである.将棋に類似しているが,将棋と比べて非常に簡潔なルールになっている.「どうぶつしょうぎ」 は二人完全情報零和ゲームであり,すべての局面の理論値 (勝ち,負け,引き分けのいずれか) が決定可能である.本論文では,後退解析 (Retrograde analysis) をベースにしたプログラムを用いて初期局面から到達可能なすべての局面の理論値を求め,初期局面が後手必勝であり勝ちに要する手数が 78 手であるという結果を得た.また,「敵陣へのひよこ打ち」 が有効である局面が存在することなど,いくつかの興味深い性質を確認することができた.
著者
田中 圭子
出版者
同志社大学
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.43-58, 2008

日本の球体関節人形は、1960年代に澁澤龍彦、瀧口修造らシュルレアリストたちによって紹介されたハンス・ベルメールの人形写真との邂逅に始まる。人形には「人形としてのかたち」があるという発見から生まれた四谷シモンの人形は、それまでの叙情的で愛らしい創作人形の概念を覆すものであった。70年代の四谷シモン、土井典らの活躍によって、球体関節人形は工芸の一部としては収まりきらないものとの認識が高まり、新たな文脈の中で独自の発展を遂げてゆく。80年代、天野可淡、吉田良らが制作した耽美で幻想的な人形作品と写真集は、その後の人形表現に大きな影響を及ぼし、多くの追随者を生むこととなった。また、球体関節人形に関する出版物の増加、人形教室の開設などにより、球体関節人形制作は短期間で全国に波及し、多くの作家を輩出していった。近年では、西欧のビスクドールに影響を受けた恋月姫の登場以降、玩具性やファッション性を重視する傾向が強まり、球体関節人形文化はサブカルチャーと係わりあいながら新たなひろがりを見せている。
著者
田中 邦明
出版者
日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.1-9, 2002-06-17
参考文献数
39
被引用文献数
2

我が国の現行の中学校理科教科書には,両生類の呼吸方法について,「オタマジャクシはえら呼吸し,カエルは肺呼吸(一部は皮膚呼吸)する」と記述されている。一方,カエル幼生の呼吸機能分担に関する最近の研究によれば,ヒキガエル類を除くカエル類のオタマジャクシ(無尾目の幼生)は,後肢が発達する変態期以前からすでに肺呼吸を始めており,オタマジャクシの肺呼吸は嫌気的水中で生き延びるのに役立っているという。また,系統進化の観点から,オタマジャクシの肺呼吸はセキツイ動物の肺の獲得と進化にかかわる痕跡的な行動とみられている。さらに,ふ化直後のオタマジャクシではエラ呼吸よりも皮膚呼吸の方が重要な役割を果たしていると考えられている。したがって,少なくとも「オタマジャクシはえら呼吸する」という見解は,厳密な意味では,誤りを含む一種のミスコンセプションとみなされる。オタマジャクシの肺呼吸は,すでに1931年にヨーロッパで発見され,1982年にはウシガエルの幼生で,肺と皮膚がエラとともに呼吸分担機能をもつことが明らかにされていた。しかしながら,オタマジャクシの呼吸についての不正確な扱いは,我が国の教科書や一部の専門書だけでなく,海外の生物学の専門書にもみられることが報告されている。このようなミスコンセプションが発生するメカニズムには,誤った教育時報の関与も考えられるが,魚類のような水生動物はエラ呼吸し,高等な陸生動物は肺呼吸するという,現生の脊椎動物についての認識から,両生類も水中生活のオタマジャクシはエラで呼吸し,陸上生活期のカエルは肺で呼吸するに違いないという演繹的推論が生まれやすいことも関与しているものと考えられる。このようなミスコンセプションを克服するためには,教育情報の訂正のほかに,オタマジャクシの呼吸生理実験を取り入れた教育プランの活用が必要と考えられる。
著者
植田 広樹 田中 秀治 田久 浩志 匂坂 量 白川 透 後藤 奏 島崎 修次
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.578-585, 2016-08-31 (Released:2016-08-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1

背景:病院外心停止傷病者に対するアドレナリンの投与の有効性については臨床的なエビデンスが不十分である。目的:救急救命士が心停止プロトコールに沿って実施したアドレナリン投与が社会復帰率に及ぼす影響について検討すること。方法:全国ウツタインデータ(2006〜2012年)から300,821症例を対象とし,アドレナリン投与群(n=40,970)と非投与群(n=259,851)に分類して効果を解析した。結果:アドレナリン投与による心拍再開率は非投与群の7.9%に対して投与群が22.5%と良好なものの,社会復帰率は非投与群の3.2%に対して投与群が1.9%と低値を示した。しかし,接触から7.9分以内に限定した早期投与群を検討すると,アドレナリンを投与された傷病者の社会復帰率は4.2%と,それ以降に比べ高かった〔OR=4.23(3.44-5.20)〕。考察:今後は,救急救命士が傷病者への接触から7.9分以内にアドレナリンを投与できるように何らかの工夫を講じ,傷病者接触から薬剤投与までの時間を短縮することが必要と言える。結語:病院外心停止症例においてアドレナリンは,早期に投与すれば社会復帰率を改善しうると考える。
著者
若菜 宣明 中林 敦代 本間 和宏 大松 孝樹 平井 香織 田中 越郎
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.44-48, 2007
参考文献数
19

ビルベリーは夜間視力を改善するといわれている。しかしいくつかの臨床試験が試みられているものの,はっきりした結果は出ていない。ブルーベリーはビルベリーと近縁の植物で,日本ではビルベリーとしばしば混同されている。従って多くの日本人はブルーベリーが視力改善に効果があると思っているが,ブルーベリーの眼機能に関する研究はほとんどなされていない。本研究ではブルーベリーが眼機能を改善するか否かを調べた。7人の健康成人に10gの乾燥ブルーベリーを摂取させ,4時間後に眼機能を評価した。暗順応時間,視野,流涙量(シルマー試験で評価),まばたき回数,自覚所見には改善は見られなかった。また,10人の健康成人に毎朝7gの乾燥ブルーベリーを21日間摂取させたところ,やはり暗順応時間,視野,流涙量,まはたき回数,自覚所見には改善は見られなかった。すなわち,今回の17人の被検者で調べた限りでは,一般的摂取量のブルーベリーでは明らかな眼機能改善効果は見い出せなかった。
著者
田中 晋平
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.85-96, 2013-12-31 (Released:2017-05-22)

The aim of this paper is to analyze Theo Angelopoulos' film The Suspended Step of the Stork (To Meteoro Vima Tou Pelargou, 1991) and reveal its uniqueness in the director's filmography. First, I describe the outbreak of the civil war in Yugoslavia and Greece's relationships with its neighboring countries at that time. These events underlie the themes presented in this film, such as the borders between countries, refugees, and exiles. Further, I clarify the issue of the journey motif, associated with Homer's Odyssey, which has frequently appeared in Angelopoulos' works since the 1980s, to explore the border that lies within the refugees, in other words, the "other border," which this film attempts to portray. Based on these observations, I would like to obtain a perspective for giving another thought to Angelopoulos' filmography by examining the meaning of the "new collective dream" as presented in this film, by analyzing three scenes where the characters' behaviors of gazing at each other are emphasized.
著者
田中 志典
出版者
東北大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2020-09-11

制御性 T 細胞(Treg)は自己に対する免疫応答や、常在細菌叢などの無害な非自己に対する過剰な免疫応答を抑制する重要な働きをもつ。そのため、Treg の機能障害は自己免疫疾患や、外界とのバリア面である皮膚や腸管粘膜の炎症を引き起こす。他方、Treg を増強する治療戦略は自己免疫疾患や炎症性疾患に有効である。本研究では新規 Treg 療法として皮膚へ活性型ビタミン D3 を塗布する方法を開発する。
著者
國分 美華子 田中 夏子 榮 結以 掛谷 亮太 野澤 佳司 村津 匠 瀧澤 英紀 小坂 泉 阿部 和時
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.271-274, 2015 (Released:2016-04-19)
参考文献数
5

治山・砂防堰堤(以下,堰堤)は,渓流生態系に影響を及ぼすと考えられる。本研究では,水生昆虫に焦点をあて,堰堤建設による渓流環境の変化が水生昆虫の生息状況にどのような影響を与えるか検討した。調査は,神奈川県西丹沢地区の中川支流の白石沢上流で行った。堰堤直上流部の土砂堆積域(以下,堰堤土砂堆積域),堰堤の直下流域及び付近に堰堤が建設されていない自然渓流域にて水生昆虫の採集を行った。データ解析の結果,総個体数は堰堤土砂堆積域で最も多く,総種数は自然渓流域で最も多かった。このことから,堰堤建設による渓流の安定化・単調化は,水生昆虫の生息場所を減少させ種の多様性を低下させていると考えられた。
著者
池田 華子 田中 智明 石山 智弘 日高 聡太 宮崎 弦太
出版者
Japan Society of Kansei Engineering
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18845258)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.369-379, 2015 (Released:2015-08-28)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

Ultra-high definition (4K) imaging allows us to achieve considerably higher image quality than would high definition (HD) imaging. The present study examined how 4K and HD imaging could influence subjective impressions of movies differently, in association with the quantities of motion and fields of view of these movies. We found that stronger impressions regarding comfort and impact were evoked for 4K movies with smaller quantities of motion and medium field of view. Stronger perceptions of impact occurred for HD movies with larger quantities of motion and larger field of view. HD movies also gave stronger impression regarding dynamics regardless of motion quantities. Additionally, HD movies down-converted from 4K movies tended to induce higher impressions regarding evaluation and comfort in some situations. These results suggest that subjective impressions of movies are influenced by the differences in resolution images, as well as interactions between imaging types and characteristics of movie contents.
著者
田中 英輝 美野 秀弥 越智 慎司 柴田 元也
雑誌
研究報告自然言語処理(NL)
巻号頁・発行日
vol.2012-NL-209, no.9, pp.1-9, 2012-11-15

著者らは 「やさしい日本語」 でニュース提供するための研究を行っている. 2012 年 4 月より,やさしい日本語のニュースを web で試験的にサービスする公開実験 「NEWS WEB EASY」 のサイトの運用を開始した.本稿ではまず,この公開実験のサイト,および,そこで使っているやさしい日本語の特徴について述べる.次に,提供しているニュースが,外国人 (漢字圏・非漢字圏) と子ども (小学生・中学生) にどのような効果を持つかを確認するために行った実験について報告する.具体的にはやさしい記事と元記事に対する,理解度テストを実施し,その,正解率,あきらめ率,回答時間を測定した.この結果,すべての集団で正解率が向上することがわかり,やさしい記事の基本的な効果を確認した.また,外国人用に作ったやさしい日本語が子どもにも効果的であることが確認できた.さらに詳細な分析を行った結果,漢字圏外国人には実質的に理解度が上昇する効果を,非漢字圏外国人には,記事を最後まで読み通す部分に効果があることを確認した.また,子どもでは,中学生は元記事の理解度がかなり高いことから,小学生に対する実質的な理解度向上の効果が高いことを確認した.