著者
池尻 良平 池田 めぐみ 田中 聡 鈴木 智之 城戸 楓 土屋 裕介 今井 良 山内 祐平
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.45031, (Released:2021-11-05)
参考文献数
15

本研究では,若年労働者の思考のモデリングが,経験学習と職場における能力向上に与える影響と,思考のモデリングの実態を調査した.インターネット調査で取得したデータをもとに構造方程式モデリングを用い,仮説を検証した結果,思考のモデリングは経験学習の具体的経験,および職場における能力向上に正の影響を与えることが明らかになった.また,若年労働者は上司や先輩から,主に仕事や業務の仕方や方法や進め方,過去のものを含む資料といった対象に注目し,見る・聞く・読むことで思考のモデリングをしていることが示された.さらに,職場における能力向上の上位群では,仕事相手を含む対象まで観察できていたり,見る・聞く・読むことに加えて,分析することで,より深い思考を学んでいることが示された.
著者
田中 稔之 梅本 英司 宮坂 昌之
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.359-371, 2006 (Released:2006-12-31)
参考文献数
61
被引用文献数
3 3

獲得免疫の中枢をになうリンパ球は全身を巡回して病原体の侵入に速やかに対応する.ナイーブリンパ球はリンパ節やパイエル板などの二次リンパ組織を循環して病原微生物の侵入を監視している.リンパ球は二次リンパ組織で抗原感作をうけると,活性化とともにその遊走特性をリプログラムして末梢の標的組織に移住してエフェクター機能を発揮する.感作T細胞の組織トロピズムの誘導には,二次リンパ組織に分布する組織特異的な樹状細胞が重要な役割をもつ.リンパ球の生体内動態は,リンパ球と標的組織の血管内皮細胞との多段階接着反応によって制御されている.例えば,リンパ節やパイエル板に局在する高内皮細静脈は,固有の血管アドレシンとリンパ球に働くケモカインを構成的に発現し,ナイーブリンパ球を選択的に動員する.一方,末梢のエフェクター組織の血管内皮細胞は,刺激応答性に細胞接着分子やケモカインを発現し,組織特異的なエフェクター細胞やメモリー細胞を動員する.また,リンパ組織や末梢組織からのリンパ球の遊出もスフィンゴシン-1リン酸やケモカインによって制御されることが示されている.本総説では,免疫系を機能的に統合する生理的なリンパ球の再循環や感作リンパ球の組織特異的な遊走制御機構について最近の知見を概説する.
著者
中嶋 亮太 田中 泰章
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.3-27, 2014 (Released:2014-09-02)
参考文献数
134
被引用文献数
1 6

造礁サンゴが透明で粘性のある有機物(サンゴ粘液)を海水中に分泌することは古くから良く知られてきた。この粘液はサンゴの生育に欠かせない生理的機能に関与しており,例えばストレスに対する防御や餌の捕獲,細胞内の代謝調節など,様々な理由から分泌される。粘液の化学成分は糖質,タンパク質,脂質などから成り,海水中に放出されると大部分は溶存態有機物として従属栄養細菌に利用されながら微生物ループに取り込まれていく。一方,高分子の粒状態有機物はその粘性ゆえ,海水中の粒子を次々に捕捉しながらサイズを増大させ,効率良く高次の栄養段階に取り込まれる。このように,サンゴ粘液は多様な経路でサンゴ礁の生物群集に取り込まれていき,生態系の物質循環を構成する上でなくてはならない有機物エネルギーとして機能している。本総説では造礁サンゴが放出する粘液の形や化学組成,生産速度,従属栄養生物群集に対する役割などについて紹介し,サンゴ粘液の重要性について生物地球化学的・生態学的観点からまとめる。さらにこれまでの研究の問題点を整理し,今後の研究の方向性を述べる。
著者
李 熙馥 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.527-538, 2013 (Released:2015-12-20)
参考文献数
27

ナラティブ(Narrative,語り)には,ある出来事をどのように組織化し,意味づけるのかに関する構成の側面と,聞き手となる他者にどう伝えるのかに関する行為の側面がある。本研究は,空想のストーリーであるフィクショナルナラティブ(Fictional Narrative:以下FN)に注目し,自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:以下ASD)児の構成と行為の側面における特性について検討を行った。その結果,ASD児のFNは典型発達児と比べて,FNの組織化において登場する人や場所,時間,行動的状況に関する言及である「セッティング」や,ストーリーの結末を明確にする「結果」に関する言及が少ない,登場人物の言動と心的・情動的状態との因果関係に関する言及が少ない,言動の主体を明確にし,主人公の一貫した観点からFNを構成することが少ないことが示された。一方,行為の側面においては,参照的工夫の言及においては典型発達児との間に有意な差はなく,参照的工夫の行動においては小学生のASD児の方が小学生の典型発達児よりFNを行う際に聞き手をみる行動が多かったことが示され,ASD児は聞き手に伝えようとする意識を有していた可能性が考えられた。今後は,聞き手の状態や働きかけに対し,どのようにナラティブを調整するのかに関する検討が必要であると考えられる。
著者
西本 美紗 田中 友規 高橋 競 Suthutvoravut Unyaporn 藤崎 万裕 吉澤 裕世 飯島 勝矢
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.273-281, 2020-07-25 (Released:2020-09-04)
参考文献数
22
被引用文献数
8

目的:近年,老化に伴う口腔機能の低下(オーラルフレイル)が低栄養や心身の機能低下に繋がることが注目されている.本研究は,オーラルフレイルが栄養摂取のみならず主観的な食事の満足感にも関連するという仮説の下,オーラルフレイルと食事の満足感の関連を明らかにすることを目的とした.方法:対象は千葉県柏市在住高齢者におけるコホート研究2016年度追跡調査参加者のうち,認知機能障害が無く主要変数に欠損値の無い者とした.食事の満足感は食事のおいしさ,食事の楽しさ,食事量,口腔関連指標は残存歯数とオーラルフレイルを評価した.調整変数は年齢,性別,BMI,居住形態,抑うつ傾向,義歯の使用状況,慢性疾患既往歴とし,ロジスティック回帰分析を用いオッズ比を算出した.結果:対象者940名(平均年齢76.3±5.1歳;男性53%)のうち,食事の味を「とてもおいしい,おいしい」と回答した者は71%,食事を「楽しい」と回答した者は96%,食事量を「多い,やや多い」と回答した者は23%,「ふつう」と回答した者は63%であった.平均残存歯数は20.8±8.5本であり,残存歯数20本以上/未満の間で食事の満足感に有意差は認められなかった.一方,オーラルフレイル該当者8.4%は,非該当者に比べて食事を「とてもおいしい,おいしい」と回答した者(OR 0.49,95%CI 0.29~0.83),食事量を「多い,やや多い」「ふつう」と回答した者(OR 0.36,95%CI 0.15~0.84;OR 0.44,95%CI 0.22~0.85)が有意に少なかった.結論:オーラルフレイルは食事の満足感に関連することが明らかになった.また,その関連性は残存歯の多少のみでは認められず,高齢者の充実した食事を支えるためには口腔機能全般の維持・向上が必要であることが示唆された.
著者
市川 有二郎 中田 利明 井上 智博 行方 真優 本田 恵理 石井 栄勇 飯村 晃 藤村 葉子 内藤 季和 田中 勉 高橋 良彦
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.221-235, 2016-05-15 (Released:2016-05-13)
参考文献数
23

手賀沼を流末とする柏市内の調整池の水中ならびに底泥中における放射性セシウムの分布状況と環境動態を検証した。福島第一原子力発電所事故から約4年が経過した時期の底泥から10 kBq/kg以上の放射性セシウムが検出され,調整池は下流域に対する放射性セシウムの供給源の1つであることが裏付けられた。台風などの豪雨時において,水中放射性セシウムの懸濁態の存在割合が平水時と比較して上昇することから,豪雨は放射性セシウムの下流域への流出に関与していることが示唆された。
著者
市川 裕介 田中 明通 川村 亨 中村 俊郎
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.30, pp.99-104, 2005-03-18
参考文献数
8
被引用文献数
1

我々は独自開発した自動レコメンド手法によるレコメンドエンジン"AwarenessNet"をオンラインショッピングサイトbk1に導入し、レコメンドサービスについての実証実験を行った。従来、レコメンドエンジンのアルゴリズムの有効性はシミュレーションによる予測精度の評価やサンプルユーザへのアンケート調査によって評価される。しかし、その評価結果から実際のオンラインショッピングサイトへ導入した際の導入効果を見極めることは困難である。本報告では、実運用サイトでのレコメンドシステムの実証実験を行うことにより、従来の評価手法では評価することができなかった、レコメンドエンジンのビジネス面での導入効果についてその事例を示す。We introduced the recommender system "AwarenessNet" by the automatic recommendation technique for developing originally into online shopping site bk1, and did the demonstration of the recommendation service. The effectiveness of the recommender system is evaluated by the evaluation of the predictive accuracy by the simulation and the questionnaire survey to the sample user so far. However, it is difficult to ascertain the introduction effect when introducing it from the evaluation result to an actual online shopping site. This research shows the case about the introduction effect on the business side of the recommender system where the recognition cannot have been done by doing the demonstration of the recommender system in the real operation site in a past evaluation technique.
著者
石川 禎浩 高嶋 航 小野寺 史郎 村上 衛 森川 裕貫 田中 仁 丸田 孝志 江田 憲治 瀬戸 宏 武上 真理子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

2017年度は、研究分担者の協力を得て2015年4月に発足した毛沢東伝研究についての共同研究グループの研究会を継続実施した。研究グループによる研究例会は基本的に隔週金曜午後に京大人文研で定期開催し、年度内に15回開催することができた。例会では2015年以来収集してきた毛沢東伝に関するデータ、資料、様々な版本などを持ち寄って分析するとともに、毛沢東の国外における影響をとりあげるなど、日本の研究者にしかできないアプローチで実態解明を進めた。主な研究報告の中身は以下の通りである:高嶋航「毛沢東とスポーツ」、田中仁「現代中国政治における毛沢東経路の発生」、江田憲治「遊撃戦争とは何か?」、石川禎浩「『全連邦共産党(ボ)歴史小教程』と毛沢東の党史」、三田剛史「毛沢東統治下の経済学者」、瀬戸宏「毛沢東時代の知識分子像」、丸田孝志「毛沢東の伝記・物語の成立と展開」、村上衛「大躍進と日本」、小野寺史郎「中華人民共和国初期の「記念節日資料」中の毛沢東略伝について」、森川裕貫「「ハリコの虎」から「精神原子弾」へ」。研究の中間段階の公開とデータの収集、および学術交流を主目的として9月に本研究グループの主要メンバー7名が北京をおとずれ、毛沢東研究の本山とも言える中国共産党中央組織の党史関連部門とのコンタクトをはかった。結果として、先方の面会不履行により交流は実を結ばなかったが、党史関連の収集という目標は達成することができた。また、研究成果の将来における公表を見越して、5月に石川が北京の出版社との打ち合わせをおこなう一方、9月、12月、3月にも中国、ドイツにおいて、研究成果の報告や資料調査を進めた。そのうち、いくつかの研究成果は中国の学術刊行物に相次いで掲載されるにいたっている。このほか、京大人文研の所蔵する旧鱒澤彰夫氏所蔵の文化大革命期紅衛兵資料の整理を継続した。
著者
西原 健司 山岸 功 安田 健一郎 石森 健一郎 田中 究 久野 剛彦 稲田 聡 後藤 雄一
出版者
Atomic Energy Society of Japan
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
pp.1202060058, (Released:2012-02-08)
参考文献数
15
被引用文献数
29 35

After the severe accident in the Fukushima-1 nuclear power plant, a large amount of contaminated stagnant water has been produced in turbine buildings and surrounding areas. This rapid communication reports the calculation of the radionuclide inventory in the core, the collection of the measured inventory in the stagnant water, and the estimation of the radionuclide release ratios from the core to the stagnant water. The present evaluation is based on data obtained before June 3, 2011. It was revealed that the release ratios of tritium, iodine and cesium were several tens of percent, while those of strontium and barium were smaller by one or two orders of magnitude. These release ratios of the Fukushima accident were equivalent to those of the TMI-2 accident.
著者
田中 逸
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.4, pp.931-937, 2013 (Released:2014-04-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

生理的な日内リズムは視交差上核の中枢時計と全身の末梢時計が同調して形成されている.エネルギー代謝もこのリズムで規定され,栄養学に日内リズムの概念を組み込んだ学問領域が時間栄養学である.糖尿病の食事療法は1日のエネルギー量と栄養バランスが適正でも,遅くて多い夕食や夜食,1日2食で遅くて多い朝昼兼用食などは時間栄養学的に不利と思われる.時間栄養学の視点に立った個別的な食事療法は血糖改善に有用である.
著者
大林 正人 田中 誠一 小町 裕志
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.153-154, 2008-01-10
参考文献数
9

麻痺肢の擬人化とは,麻痺肢に対してあたかもそこに人格が宿ったかのようにふるまう症候である.今回68歳の右視床出血の女性患者において,入院数日後から麻痺を認めた左上肢に対して「てっちゃん」と名づけて話しかけるという特異な行動を認めた.意識障害や認知機能異常は認められず,身体失認が軽度認められる程度であった.擬人化は長期にわたり持続した.<br>
著者
田中 正
出版者
学校法人滝川学園 名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.99-101, 2006-03-31 (Released:2019-07-01)

親子関係がいかなる状態にあるかは子どもの成長のうえで重要な要素になっている.本研究は,人間形成のうえで重要な要素をなしている親子関係それ自体を取り上げ,父子関係と母子関係別に息子と娘によってそれぞれどうとらえられているのか(性差)をみたものである.結果として,父子関係では男女によって違いがあり,男子は父が自分に対して統制的で厳しいととらえ,女子は父が受容的でやさしいととらえる傾向にあること.父子関係を親子関係の型別でみると「拒否的自律型(放任型)」,「拒否型」,「拒否的統制型(残酷型)」で男子は女子に比べて多くなり,女子では「受容的統制型(過保護型)」,「受容的自律型(甘やかし型)」が多くなること.母子関係では男子,女子の違いによる性差が現れないこと.また母子関係を親子関係の型別でみても性差は現れないことが分かった.いずれにしても父子関係の場合には,母子関係とは異なり,父-息子関係と父-娘関係とが違っていることは確かであり,世に言う父が娘に甘く息子に厳しいというのは現実であり,リアルな事実である.