著者
清川 貴志 山口 浩和 照屋 正則 清水 誠一郎 上西 紀夫
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.1191-1196, 2012 (Released:2013-12-25)
参考文献数
19

症例は43歳女性.検診で高血圧,貧血を指摘され近医受診しCTでトライツ靭帯の背側に約6cm大の腫瘤を認めた.小腸Gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断され,手術目的に当院紹介となった.しかし問診で労作性の動悸が判明し,高血圧も認めたため内分泌的精査を行ったところノルアドレナリン高値を認めた.またMetaiodobenzylguanidine(MIBG)シンチグラフィーで腫瘍に高濃度集積を認めたため,後腹膜原発paragangliomaと診断し手術を施行した.当症例は画像上ではGISTとの鑑別が困難であったが,術前の問診と内分泌精査により的確に診断することができた.致死的な合併症の可能性を考えると大動脈周囲後腹膜の腫瘍は常にparagangliomaの可能性を考慮すべきと考えられた.
著者
秋元 秀昭 高里 良男 正岡 博幸 早川 隆宣 八ツ繁 寛 東森 俊樹 菅原 貴志
出版者
日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-10, 2003-01-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
24
被引用文献数
1

びまん性軸索損傷(diffuse axonal injury; DAI)はCT所見に乏しい割に,転帰不良の症例が存在する。急性期の脳血流量(cerebral blood flow; CBF)測定とMRI (magnetic resonance imaging)撮像を積極的に行い,その所見によりDAIの予後を予測し得るか検討した。対象は来院時指示動作に応じず,CT上頭蓋内占拠性病変を有しない症例のうち意識障害が24時間以上遷延した症例とした。CT所見は外傷性クモ膜下出血,実質内小出血,脳室内出血,異常所見なしなどの症例が含まれた。それらは1995年7月から1999年12月までの期間に当院に入院したDAI症例のうち急性期にCBF測定およびMRIを施行し,転帰を確認し得た21例で,内訳は男性15例,女性6例。年齢は17歳から86歳,平均37.5歳。来院時Glasgow Coma Scale (GCS)は3から12,平均6.7。CBFはXe(キセノン)CTにて測定し大脳半球平均値を算出し,MRIはT1, T2 axial像とT2 sagittal像を撮像した。いずれも受傷7日以内に施行した。受傷6か月後のGlasgow Outcome Scaleがgood recovery(症例数10,以下同じ)とmoderate disability (4)の転帰良好群(14)とsevere disability (4), vegetative state (2), death (1)の転帰不良群(7)に分け,それぞれの年齢,来院時GCS, CBF値,MR所見を比較した。年齢は転帰良好群の平均が31.4歳,転帰不良群の平均が50.0歳で,転帰良好群で有意に低かった。来院時のGCSは,両群間で有意差はなかった。転帰良好群のCBF平均値は43.2ml/100g/min,転帰不良群では33.6ml/100g/minと,転帰良好群で高かったが統計学的有意差はなかった。MRI上の脳梁と深部白質病変の有無は転帰とまったく相関せず,一方視床と脳幹部病変は転帰不良との相関が高く,とくに脳幹病変の有無と転帰との間には統計学的有意差がみられた。DAIの転帰に影響する因子は年齢とMRI上の脳幹部病変の存在であった。脳血流量と転帰との間には統計学的な有意差は認められなかった。高齢者やMRI上脳幹部病変を有する症例では日常生活自立が難しいといえる。
著者
土居 晴洋 山崎 健 香川 貴志 木本 浩一
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,現代中国において改革開放政策導入以後,急速に展開されている住宅改革の実態と都市地域構造の変化における意味を明らかにすることを目的としていた。本研究の具体的な研究テーマは,中国における住宅改革の特質を明らかにすること,中国国内における都市の住宅の市場化の地域的特質を明らかにすること,北京と上海における住宅開発のタイプとその開発の地域的特質を明らかにすること,住宅建材を含めた中国独特の住宅供給構造を明らかにすることの4点である。これらのテーマに関して,代表者と各研究分担者は海外共同研究者の協力を得て,中国現地において不動産企業や行政機関などへの聞き取り調査や統計・文献資料の収集と整理を行った。土居は住宅改革およびその市場化に関して,文献・統計資料を用いて全国的な動向を把握して北京市と上海市の全国的な位置づけを確認するとともに,北京市における不動産企業への聞き取り調査を進めて,住宅開発が行われるメカニズムを明らかにした。山崎は北京市における住宅開発の地域的動向を統計資料と開き取り調査によって明らかにし,住宅開発が北京市の都市地域構造の変化に持つ意味について考察した。香川は上海市における住宅開発の地域的動向を分析するとともに,インターネットを通じた住宅物件情報の整備状況を調査した。木本は建設業者や内装設備等の関連業者への聞き取り調査を進め,日本とは異なる中国独自の住宅開発プロセスおよび住宅産業の特質を明らかにした。なお,香川と木本は共同で北京市,上海市において,住宅入居者に対するアンケート調査を用い,住宅購入の動機や住宅選択の要因などを考察した。以上の研究成果を通じて,経済成長が急速に進む中国の大都市において,居住環境の改善を求めて住宅を購入する市民,中国独自の土地・住宅制度のもとで住宅開発を行う住宅開発企業,さらに社会主義的特質の維持にも努力する政府・行政機関それぞれの特質と3者の相互関係が明らかになるとともに,このような住宅市場の形成によって都市地域構造が急速に変容していることが確認された。
著者
山内 知子 阪野 朋子 小出 あつみ 間宮 貴代子 松本 貴志子 勝崎 裕隆 今井 邦雄
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成26年度(一社)日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.15, 2014 (Released:2014-08-29)

【目的】愛知の地元野菜であるアシタバに着目し,生活習慣病予防を目指した機能性パンの開発を試みた。試料のアシタバの構成成分の分析と粉末アシタバ置換量が製パンの機能性亢進に与える効果について,製パン中のポリフェノール量及び抗酸化活性の変化を明らかにした。【方法】】アシタバは,2012年11月に稲沢市の栽培農家から購入し,凍結乾燥(-80℃)し粉末(250μm)にした。強力粉重量400gの内、1%(4g)、3%(12g)、5%(20g)をアシタバ乾燥粉末で置換してパンを作成し、試料とした。対照としてアシタバ無置換パンを作成した。パンの材料配合は置換したアシタバ以外は、使用したホームベーカリーに示される方法で焼成した。アシタバ成分の構造はLC-MSとNMRで分析し,ポリフェノール量はFolin Denis法,抗酸化活性はDPPHラジカル捕捉活性測定法を用いて測定した。データは多重比較法によりTukey-Kramer法で解析し,統計的有意水準は1%とした。【結果】成分分析の結果,今回実験に使用したアシタバの主要成分の一つがChlorogenic acidであることを明らかにでき, Quercetin やkaempferol の配糖体が含まれていることも示唆できた。アシタバ置換パンにおいて,ポリフェノール量・DPPHラジカル捕捉活性能は対照パンと比較して,両者ともにアシタバの置換量増加に伴い有意(p<0.01)に増加する傾向を認めた。日常的に食するパンの強力粉の一部をアシタバに置換することにより、効率的に機能性成分を摂取できる可能性が示唆された。今後,より生理活性の高まるアシタバを用いた調理・加工法について検討していきたい。
著者
近藤 貴志
出版者
[出版者不明]
巻号頁・発行日
2007-03

制度:新 ; 文部省報告番号:甲2398号 ; 学位の種類:博士(工学) ; 授与年月日:2007/3/15 ; 早大学位記番号:新4485
著者
石割 隆喜 渡邉 克昭 貴志 雅之
出版者
大阪外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

石割は、いまだ「小説」的である『V.』における「個」としてのパラノイア的主体が、同様にパラノイア的でありながら『重力の虹』においては「多」的主体性へと変容したと捉え、これを従来の「小説」という表現形式の「ポスト・ノヴェル」への移行という観点から検証した。これを踏まえ、ピンチョンの「ラッダイト」が「多」として表象されていないこと(「デカさ」ゆえ、"apparition"たりえていないこと)の重要性も指摘した。渡辺は、死をもたらす銃の発砲と映像の撮影との問に見られる類同性によって引き起こされるアポリアを強調しつつ、デリーロ文学の弾道を描いた。両者の不安的な共犯関係を視野に入れ、無限に反復される暗殺の映像によって増殖する亡霊的なアウラという視点から、『リブラ』に描かれたオズワルドの肖像の分析を行った。『アンダーワールド』におけるザプルダー博物館とテキサス・ハイウェイ・キラーをめぐる論考において、多次元的な「シューティング」が、歴史を無化する揺らぎをいかに惹起するかを考察した結果、正史へのパリンプセスト的な上書きにおいて、銃とナラティヴが螺旋状に振れ合っていることが明らかになった。貴志は、アメリカ演劇について以下の3つの観点から研究課題にアプローチし、その成果を論文、著書、口頭発表の形で公表してきた:(1)「他者」の記憶と人種的歴史を再現し、正史脱構築を目指すメディアとしての身体;(2)人種・ジェンダー・階級を包摂した文化的アイデンティティの表象・形成メディアとしての身体;(3)「他者」のアクティヴィズムを表象・生産し、支配的権力を脱構築する政治文化戦略メディアしての身体。以上から、現代アメリカ演劇における身体は、政治文化的表象性を多様に変容しつつ、複雑化するポストモダンの文化的アイデンティティと歴史認識問題を可視化する(再)表象メディアとして強力に作動していることが明らかになった。
著者
西崎 真也 樋口 貴志
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.41, no.9, pp.103-103, 2000-11-15

本論文では,ファーストクラス環境の機構を用いて単一化機構を関数型言語へ組み込む方法を提唱する.単一化子は変数上の代入として表現されるが,これを変数の束縛する環境とを同一視することにより,単一化の機構を関数型言語へ自然に組み込むことが可能となる.In this paper, we propose a way of embedding of the unification mechanism into function languages through facility of first-class environments, where unificands are introduced as expressions and their evaluation is defined as the first-order unification.
著者
長谷川 貴志
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要. アーカイブズ研究篇 (ISSN:18802249)
巻号頁・発行日
no.10, pp.99-120, 2014-03

2011年の「公文書等の管理に関する法律」の全面施行は、日本における公文書管理制度に大きな変化を齎した。こうした公文書管理制度が法令によって制定された背景には、それまでの行政機関における公文書管理の不備が、国民の権利を侵害し、国民に対する説明責任を全うできなかったことにある。本稿では、戦後外務省が作成・取得した文書によって形成された外交記録を検証対象とし、以下の三つのことを明らかにする。第一に、戦後の外交記録公開制度が如何に整備されたか。第二に、占領期における外務省の文書管理と外交記録の特徴とは何か。第三に、外交権回復後における外務省の文書管理と外交記録の特徴とはなにか。これまで戦後の文書管理が本格的検証にされていないなかで、戦後外務省が国際情勢の変化にどのように対応したのかという問題を文書管理という側面から明らかにすることとしたい。Putting in force of "Law on the management of official documents etc." in 2011 originates big change in management system of official documents in Japan. This big change is caused by defect of management of official documents by government. And this defect had been violating citizen's rights. The government could not perform a duty related for citizens of course.This paper is about the validation of diplomatic record conducted by Japanese Ministry of Foreign Affairs.With this validation, we can check 3 points following.The first, there adjustment process about the opening system related diplomatic record to the public in post war.The second, inoccupation period, what the characteristic of the diplomatic records and documents management is.The third, in recovery period of diplomatic privileges, what characteristics of the diplomatic record and document management is.This verification is intended to clarify aspects concerning dealing with counter move of Japanese Ministry of Foreign Affairs in the international situation with document management problems. Because previous management of official documents in post-war has not been verified enough and has some defect.
著者
長谷川 貴志
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要. アーカイブズ研究篇 (ISSN:18802249)
巻号頁・発行日
no.10, pp.99-120, 2014-03

2011年の「公文書等の管理に関する法律」の全面施行は、日本における公文書管理制度に大きな変化を齎した。こうした公文書管理制度が法令によって制定された背景には、それまでの行政機関における公文書管理の不備が、国民の権利を侵害し、国民に対する説明責任を全うできなかったことにある。本稿では、戦後外務省が作成・取得した文書によって形成された外交記録を検証対象とし、以下の三つのことを明らかにする。第一に、戦後の外交記録公開制度が如何に整備されたか。第二に、占領期における外務省の文書管理と外交記録の特徴とは何か。第三に、外交権回復後における外務省の文書管理と外交記録の特徴とはなにか。これまで戦後の文書管理が本格的検証にされていないなかで、戦後外務省が国際情勢の変化にどのように対応したのかという問題を文書管理という側面から明らかにすることとしたい。Putting in force of "Law on the management of official documents etc." in 2011 originates big change in management system of official documents in Japan. This big change is caused by defect of management of official documents by government. And this defect had been violating citizen's rights. The government could not perform a duty related for citizens of course.This paper is about the validation of diplomatic record conducted by Japanese Ministry of Foreign Affairs.With this validation, we can check 3 points following.The first, there adjustment process about the opening system related diplomatic record to the public in post war.The second, inoccupation period, what the characteristic of the diplomatic records and documents management is.The third, in recovery period of diplomatic privileges, what characteristics of the diplomatic record and document management is.This verification is intended to clarify aspects concerning dealing with counter move of Japanese Ministry of Foreign Affairs in the international situation with document management problems. Because previous management of official documents in post-war has not been verified enough and has some defect.
著者
淺原 彰規 佐藤 暁子 丸山 貴志子
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.24, pp.1-8, 2009-11-05

本報告では歩行者の動線解析技術を提案する.動線解析とは測位装置を持った歩行者の位置情報に意味づけを行う処理であり,意味づけにより適応的な情報配信などが可能となる.まず本報告では動線解析処理を体系化し,動線解析技術が提供しうる機能を明らかにする.次に動線解析の実現可能性を検証するため,バーベキューイベントにて 13 名の動線を収集し,解析した.その結果,誤差 10m 程度で 15 秒/回の測位でも,イベントに伴う歩行者行動の変化が検出された.We propose a pedestrian trajectory analysis in this paper. The trajectory analysis, which is defined as a process to discover sematics of the trajectory, enable an adaptive information distribution for the pedestrian's preference. We classified the analysis methods and their functions in this paper. Then we measured positions of 13 people in a BBQ event in order to prove the possibility of the system with the trajectory analysis. Finally, we obtained that the trajectory analysis is effective even if positioning systems are not so precise.
著者
阿部 貴志
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

環境メタゲノム資源から、連続塩基・アミノ酸組成に基づく一括学習型自己組織化マップ(BLSOM)を基に、環境中の微生物叢のための生物系統推定ソフトウェア、地球環境改善に役立つ新規微生物ゲノムの検出手法、ならびに、それらが持つ環境浄化システムに関与する有用遺伝子候補の探索手法を開発した。新規性の高いゲノム断片配列を微生物ゲノム別に再構成するための手法が開発でき、環境が保有する環境浄化システムを構成する微生物や代謝遺伝子セットの全体像が把握でき、様々な微生物が持つ環境浄化システムの全体像把握に向けた情報学的スクリーニング法としての活用も期待できる。
著者
小出 あつみ 山内 知子 山本 淳子 松本 貴志子
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.48-55, 2012-02-05
被引用文献数
1

本研究では,高齢者が咀嚼しにくいと考えられる8種類の食材を試料として,切り込みにおける機器測定値,官能評価および咀嚼回数の関連から,高齢者における切り込みの有効性を検討した。切り込みによって煮にんじん以外の7試料(リンゴ,キュウ,煮ダイコン,煮コンニャク,カマボコ,イカ,タコ)は有意に軟らかくなった。咀嚼回数では切り込みによって全て試料の咀嚼回数が有意(p<0.05)に減少した。特にイカとタコの減少率が高かった。切り込みをした食材は高齢者に好まれなかったが,煮コンニャクとイカでは違和感は少なかった。したがって,イカヘの切り込みが,高齢者に違和感を与えず,食材の硬さと咀嚼回数を減少させる有効な調理操作であることが示された。

1 0 0 0 OA お知らせ

著者
木村 薫 中田 好一 上田 貴志
出版者
東京大学大学院理学系研究科・理学部
雑誌
東京大学理学系研究科・理学部ニュース
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.18-19, 2007-07

二宮敏行先生のご逝去を悼む/人事異動報告/東京大学大学院理学系研究科・博士学位取得者一覧/木曽観測所一般公開のお知らせ/あとがき
著者
貴志 倫子 鈴木 明子 高橋 美与子
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.9-18, 2008-03-25

本研究では,家事労働の理論の検討をもとに授業実践を行い,生徒の家事労働の認識構造をとらえ,授業のねらいがどのように達成されたか検討することを目的とした。授業後のワークシートの記述内容を分析した結果,次のことが明らかになった。(1)家事労働の認識として価値的認識がもっとも多く発現し,家事のケアの側面に気づかせる本時のねらいはほぼ達成された。(2)家事労働に関する認識は,感覚的認識から功利的認識,価値的認識,社会的認識へと変容がみられた。(3)授業の意見交換と資料の読みとりによって,自分の生活を振り返る記述や,家事労働に関わる家族に目を向ける記述が表出し,自分と家族の関わりから生活のあり方をとらえる認識の萌芽がみられた。
著者
貴志 俊彦
出版者
島根県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

この4年間、各地の文書(案)を中心に調査、研究するなかで、本研究に関連する文書はアジア諸国だけでなく欧米各国にも膨大にあることを知ることができた。その一部は、概括的なものながら、実際に文書にあたることができ、調査報告も公表した。各地の文書調査を通じて、たんに黄渤海地域に限定されない歴史学上の課題にも直面し、本研究は萌芽的ながらも地域研究、外交史、社会史を交錯させた研究成果としてまとめることができた。さらに、こうした調査を通じて、マルチリンガル・アーカイブの手法による歴史学研究という点で日本はやや遅れをとっていることも痛感され、こうした手法による都市やメディアに関わる研究成果の公表につとめた。本年度の研究では、4年間の研究成果をまとめ、公表することに重点をおいた。実際に、上海及び日本国内の数箇所の研究会で、成果発表をおこない、批判をあおいだ。こうしてまとめた『研究成果報告書』の構成は、次のとおりである。第1章 近代中国における<都市>の成立-不平等条約下の華と洋-第2章 近代天津の都市コミュニティとナショナリズム第3章 帝国の「分身」の崩壊と「異空間」の創出-第一次大戦期の天津租界接収問題をめぐって-第4章 メディア文化とナショナリズム第5章 日中通信問題の一断面-青島佐世保海底電線をめぐる多国間交渉-第6章 天津租界電話問題をめぐる地域と国家間利害第7章 戦時下における対華電気通信システムの展開-華北電信電話株式会社の創立から解体まで-第8章 日中戦争期,東アジア地域におけるラジオ・メディア空間をめぐる政権の争覇第9章 啓蒙と抗日のはざまで-国民政府による電化教育政策をめぐって-4年間で一定の成果を得たとはいえ、課題も残った。例えば、本研究の時期として設定していた1950年代の問題はほとんど触れることができず、第二次世界大戦後の都市やメディアの変化を明らかにできなかった。また、黄渤海地域の都市といいながら、結局中国サイドのそれしか留意できず、朝鮮半島や日本の都市に言及できなかった。こうした課題に対しては、日本を含めた北東アジアの諸地域を意識した研究が必要であると考えている。広範囲な地域における文書調査は今後も続けたい。