著者
鈴木 祐介 二瓶 義人 鈴木 仁
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.110, no.10, pp.2286-2292, 2021-10-10 (Released:2022-10-10)
参考文献数
17

IgA(immunoglobulin A)腎症は,世界で最も頻度の高い原発糸球体腎炎で,特に日本を含む東アジアで頻度が高い.未治療の場合,約4割が末期腎不全に至る予後不良の疾患であり,国内外を問わず本症に起因し若くして維持透析となる患者は多く,医療経済上も深刻な問題となっている.近年,糖鎖異常IgAと関連免疫複合体が本症の発症・進展のカギを握ることが証明され,その産生抑制と糸球体沈着後の炎症制御を目的とした治療薬の開発が進んでいる.なかでも,粘膜面で感作を受けた成熟IgA産生B細胞を標的とした薬剤や,糖鎖異常IgAの糸球体沈着に伴い活性化される補体古典経路及びレクチン経路を標的とした薬剤の国際治験が進行中で,その結果が期待されている.こういった複数の有望な根治治療薬の開発が進み,治療選択肢が増えれば病期・病態に応じた治療が可能となり,本症による透析移行の阻止は実現可能と考える.本稿では,これら薬剤に関する病態の背景や,現状を概説する.
著者
小暮 哲夫 小川 彰 関 博文 吉本 高志 鈴木 二郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.7, no.5, pp.394-401, 1985-10-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
20
被引用文献数
1

内頚動脈閉塞症急性期の臨床像とその予後を明らかにする目的で発症後24時間以内に収容された本症104例に対してCT・脳血管撮影を施行し, 2ヵ月間にわたり意識障害や運動障害の推移を中心に臨床経過の観察を行った.死亡例が5割, 社会復帰不能例が4割を占め, 社会復帰可能例が1割のみと, 本症の予後は不良であり, 過半数を占める塞栓症においてより顕著であった.入院時の意識状態や運動機能は予後とよく相関し, 多少とも意識障害を認めたり, 重力に抗する運動の不可能な例で社会復帰したものはまれであった.CT上のLDAの大きさも予後とよく相関し, 予後良好例は非出現例にほぼ限られ, 複数の脳主幹動脈に及ぶ出現例のほとんどが死亡していた.約半数を占める死亡例は高齢者に多く, その8割が第4病日をピークとする発症後早期の脳梗塞直接死亡例であり, 他の2割は合併症による間接死亡例に相当し, その死亡時期に一定の傾向は認められなかった.
著者
鈴木 遼香
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.475, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)

シチズン・サイエンスとは,一般市民が参加する科学研究のことを指します。欧米で見出され,インターネットの発展を一つの追い風として発達してきたシチズン・サイエンスは,日本でも様々な立場の人から――科学技術振興政策の一環として,あるいは科学者が取り得る手法として,はたまた参加者にとっては科学へ貢献しつつ知的関心を満たすレクリエーションとして――注目を集めてきているようです。このように「三方よし」に思えるシチズン・サイエンスですが,日本でも数々のプロジェクトが実施されたことで,異なる動機を持つ人間が一つのプロジェクトを進める難しさや,プロジェクトの成果が科学研究とどう結びつくのかという問題など,具体的な課題も共有されつつあるようです。そこで今号では,「シチズン・サイエンスの現在地」と題し,日本でシチズン・サイエンスに携わる方々に,現在までに行われた議論から重要なテーマ,具体的な実践経験に至るまで,様々な角度から論じていただきました。総論では,中村征樹氏(大阪大学)に,シチズン・サイエンスとは何か,そしてどのような類型があり,どのような意義があるのかを,欧米でなされてきた研究の蓄積を踏まえながらご解説いただきました。次に,一つ目の事例紹介として,現在も継続中のプロジェクトであり,ウェブサイトが大変魅力的な「GALAXY CRUISE」(https://galaxycruise.mtk.nao.ac.jp/)とその参加者の属性変化について,臼田-佐藤 功美子氏(国立天文台)にご紹介いただきました。続いて,科学者と参加者の関係という論点について,一方井祐子氏(金沢大学)に論じていただきました。先行研究や,石川県金沢市を中心に実施中の「雷雲プロジェクト」(https://fabcafe.com/jp/labs/kyoto/thunderstorm/)の事例からは,異なる動機を持つ科学者と参加者,それを結ぶシチズン・サイエンスの作用について,より考えを深めることができます。大澤剛士氏(東京都立大学)には,生物調査分野での実践を例に,シチズン・サイエンスが期待通りの成果を得られないことがあるのはなぜか,という普遍的な問題を論じていただきました。東北地域で現在も実施中のモニタリングプロジェクト「東北の自然とくらしウォッチャーズ」(https://tohoku.env.go.jp/to_2021/post_222.html)からは,シチズン・サイエンスの特性を十分に踏まえた,丹念なプロジェクト設計を学ぶことができます。ここまでは全て自然科学分野の事例でしたが,人文科学分野の事例である古文書データベースの内容理解支援機能の構築について,吉賀夏子氏(大阪大学)にご紹介いただきました。シチズン・サイエンスや機械学習を課題に応じて組み合わせた点,地域特有の人名や地名といった市民の知的資源を可視化されるデータにしたこと,オープンデータ化,システムやアプリによる充実した支援体制と新たなプロジェクトの試みなど,随所が注目される実践例です。最後に,シチズン・サイエンスの成果をどうアウトプットするかについて,髙瀨堅吉氏(中央大学)に論じていただきました。職業研究者に対する研究評価をめぐる議論や心理学分野におけるプロジェクトの経験を踏まえ,シチズン・サイエンスの成果について考えることを通じて,シチズン・サイエンスとは何かを問い直す内容となっています。本特集では,これまでのシチズン・サイエンスをめぐる基本的な議論や先行研究を解説していただく一方で,個別のプロジェクトを紹介したり,特定の論点について論じたりしていただきました。異なる分野で活躍する各執筆者の現在の到達点を共有していただくことで,シチズン・サイエンスとは何なのか,どうして難しいのか,それでもどうして魅力的なのか,その可能性について豊かな示唆を与えてくれる特集になりました。末筆ではございますが,充実した内容の論考をお寄せくださった全ての執筆者の方々へ,深く御礼を申し上げます。(会誌編集担当委員:鈴木遼香(主査),池田貴儀,小川ゆい,尾城友視)
著者
鈴木 賢二 黒野 祐一 池田 勝久 渡辺 彰 花木 秀明
出版者
日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会会誌 (ISSN:21880077)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.5-19, 2015-01-20 (Released:2020-10-27)
参考文献数
18

With the cooperation of the otorhinolaryngological departments at 29 universities in Japan, as well as their 26 affiliated hospitals and practitioners, we conducted the fifth national survey (The first survey conducted by The Japanese surveillance committee, consisting of the Japanese Society of Chemotherapy, Japanese Association for Infectious Disease, and Japanese Society for Clinical Microbiology) to investigate the trends of bacterial isolates and bacterial sensitivity in otorhinolaryngological major infections.The subjects comprised patients with acute purulent otitis media (185 cases), chronic otitis media (119 cases), acute sinusitis (128 cases), chronic sinusitis (92 cases), acute tonsillitis (116 cases), and peritonsillar abscess (89 cases) who presented to the medical institutions participating in the survey from January 2011 to June 2012. Using specimens obtained from the patients, bacteria were identified by culture and drug sensitivity was measured.S. pneumoniae and H. influenzae were mainly isolated from patients with acute purulent otitis media and acute sinusitis, and frequency of isolation of S. aureus was decreasing in the recent surveys. Streptococcus spp. (including S. pyogenes) was mainly isolated from patients with acute tonsillitis. Anaerobes (Peptostreptococcus spp., Prevotella spp. and Fusobacterium spp. etc.) were mainly isolated from patients with peritonsillar abscess, and frequencies of isolation of anaerobes in the recent surveys were markedly higher than observed in the former surveys.Among 112 strains of S. aureus isolated in the present survey, 28 (25.9%) were MRSA. Among 113 strains of S. pneumoniae isolated, 41 (36.8%) were PISP and 14 (12.3%) were PRSP. Among 106 strains of H. influenzae isolated, 38 (35.8%) were BLNAR, and 16 (15.1%) each were BLPAR and BLNAI, respectively. Frequency of isolation of these drug resistant bacteria was higher in patients aged 5 years or younger than in other age groups. Compared with the result of the previous surveys, frequencies of isolation of MRSA, resistant S. pneumoniae (PISP and PRSP), resistant H. influenzae (mainly BLNAR), and ABPC resistant M. catarrhalis are increasing recently.It is considered necessary to take measures to promote the appropriate use of antibiotics in order to prevent the increase of resistant bacteria.
著者
中村 友美 鈴木 秀和 山川 信之 市川 清士
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.168, 2022 (Released:2022-03-28)

1.はじめに 地下水は,上水道事業が広く普及された今日においても重要な水資源として多くの地域で利用されている。一方,人為的影響を伴った地下水は,沿岸に発達する生態系への影響などが問題視されている。琉球列島南部の八重山諸島東端に位置する石垣島白保地区の前面海域には,サンゴ礁をはじめとする貴重な自然環境が残っている。しかし,白保地区の地下水に関する詳しい報告は少ない。このような状況を踏まえ,本研究では,更新世の琉球石灰岩上に位置する白保地区を対象に水位変化および水質調査を行い,白保地区における現時点における地下水の諸特性を明らかにすることを目的とする。2.調査方法 水位観測は,汀線から内陸部にかけて調査測線を設定し,3地点にロガー(自記記録計)を設置した(図1)。データ取得期間は,2020年9月3日から約1年である。No.2は地面標高が確約していないため,データ解析にはNo.1およびNo.3を使用した。潮位データは,気象庁が観測および公開している1時間間隔実測潮位を使用した。また,測水調査は, 2020年9月10日~12日及び2021年9月6日に実施した。調査地点は,民家の井戸を対象に,2020年に14地点,2021年に10地点調査した。井戸の状況をふまえて地点数は異なっている。現地では気温,水温,EC(電気伝導度),地下水位を測定した。採水した試料は,駒澤大学地理学科の実験室で主要溶存成分の分析を行った。 3.結果および考察 1)地下水位の観測結果 今回得られた地下水位の観測結果では,潮汐変動の影響を顕著に受けていることが認められた(図2)。無降雨時の2020年9月17日~19日の範囲をみると,各地点とも潮位のピーク後に水位のピークを迎えていることが分かる。その時差は,無降雨時の満潮時にそれぞれNo.1およびNo.3で,約1時間,約2時間であり,干潮時は約2時間,約3時間であった。汀線からの距離によって時差が異なり,それぞれ満潮時と比べ干潮時の時差が大きいことが分かる。また,9月18日の水位の振幅は,潮位の振幅が1.84mの時にNo.1で0.83m,No.3で0.53mと内陸へいくほど小さくなる。2)水質調査結果 水質組成は,全体的にNa-Cl(アルカリ非炭酸塩)型を示した(図1)。海岸に近くになるほど,Na+,K+,Mg2+,Cl-,SO42-濃度が高くなり,内陸部になるとNa-Cl型ではあるが,全体に占めるCa2+とHCO3-濃度が沿岸付近よりも高くなり,海水の影響度が低くなることが判明した。しかし,汀線と平行に海水の影響度は低くならず,調査地点の北側と南側で異なる傾向を示した。調査地点の北側では,陸域の地下水中に多く含まれるCa2+・HCO3-・NO3-,南側では,Na+・K+・Mg2+・Cl-・SO42-が相対的により多く含まれていたが,海水とその影響がない地下水(石垣島鍾乳洞)のCl-濃度を用いた二成分混合モデルにより各井戸への海水の混合率を求めたところ,2020年の調査では約1~8%,2021年の調査では約3~22%であった。汀線からほぼ同距離であるが,北側と南側では,約2倍の差があることが分かった。潮汐による溶存成分量の変化は,大きく表れなかったものの,微量な変化は認められた。4.まとめ 本研究では,琉球列島南部の八重山諸島東端に位置する石垣島白保地区における地下水の水位変化及び水質調査を行った。その結果,地下水位は,潮位と位相差が生じているものの,潮汐と対応して周期的な変動をしていることが明らかとなった。水質調査の結果も兼ねて,井戸への直接的な塩水遡上はないものの,海水および地下水が地下内部で連続していると判断できる。
著者
日方 希保 諸橋 菜々穂 樽 舞帆 鈴木 雄祐 中村 智昭 竹田 正裕 桑山 岳人 白砂 孔明
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.127-134, 2021-12-24 (Released:2022-02-28)
参考文献数
13

ミナミコアリクイ(Tamandua tetradactyla)は異節上目有毛目アリクイ科コアリクイ属に分類される哺乳類の一種である。コアリクイの計画的繁殖には,基礎的な情報の蓄積による繁殖生理の解明が必要である。これまでミナミコアリクイの妊娠期間中の血中ホルモン変動に関しては,1個体で1回分の妊娠期間についての報告がされているが,同一個体で複数回の妊娠期間中のホルモン変動に関する報告は存在しない。本研究では,同一雌個体のミナミコアリクイに対して長期間における経時的な採血(約1回/週)を実施し,同一雌雄ペアで合計6回の妊娠期間における血漿中プロジェステロン(P4)またはエストラジオール-17β(E2)濃度の測定を実施した。全6回の妊娠期間中のP4濃度測定の結果から,妊娠期間は156.8±1.7日(152~164日)と推定された。各時期のP4濃度は,妊娠前では0.6±0.1 ng/ml,妊娠初期(妊娠開始~出産100日以上前)では13.2±1.8 ng/ml,妊娠中期(出産50~100日前)では28.1±4.3 ng/ml,妊娠後期(出産日~出産50日前)では48.2±11.8 ng/mlであった。出産後のP4濃度は0.4±0.1 ng/mlと出産前から急激に低下した。血漿中E2濃度は妊娠初期から出産日に向けて徐々に増加した。また,妊娠期間前後で6回の発情周期様の変動がみられ,P4濃度動態から発情周期は45.5±2.4日(37~52日)と推定された。以上から,ミナミコアリクイの同一ペアによる複数回の妊娠中における血漿中性ステロイドホルモン動態を明らかにした。また,妊娠初期でP4濃度上昇が継続的なE2濃度上昇よりも先行して観察されたことから,P4濃度の連続的な上昇を検出することによって早期の妊娠判定が可能であることが示唆された。
著者
鈴木 浩太
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.80-99, 2022 (Released:2023-09-30)
参考文献数
74

To clarify the psychological characteristics associated with attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD), an umbrella review was conducted concerning the evidence of differences in behavioral indices between individuals with ADHD and individuals with typical development. Attention measures have large effect sizes and include omission error, commission error, and standard deviation of the reaction time in a continuous performance test. However, in previous research, the indices did not precisely discriminate between individuals with ADHD and individuals with typical development, which suggests that one psychological function cannot explain all characteristics of ADHD. The effect sizes of the other indices were small to medium, although these indices have been associated with the core characteristics of ADHD. In previous studies that used multiple indices, children with ADHD were classified into several groups, based on different psychological characteristics. The findings revealed heterogeneity in the psychological characteristics of ADHD. Future studies that focus on the heterogeneity of ADHD and that examine the psychological functions of ADHD, independently of diagnostic systems, is suggested. Thus, research trends may change the concepts of ADHD.
著者
鈴木 拓 山本 英一郎 仲瀬 裕志
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.116, no.11, pp.859-866, 2019-11-10 (Released:2019-11-11)
参考文献数
31

大腸がんは,遺伝子変異の段階的な蓄積により発生するという多段階発がん説がよく知られている.さらに染色体不安定性,マイクロサテライト不安定性,CpG island methylator phenotypeなどの分子異常に基づく大腸発がん理論が提唱されてきた.近年のオミクス解析技術の進歩により,がんゲノム・エピゲノムを網羅的に把握することが可能となり,従来の知見の整理とさらなる解明が進んでいる.また,トランスクリプトーム解析に基づくサブタイプ分類や,数理解析による大腸がん進化モデルの提唱など新たな展開も見られており,より精密ながんゲノム医療の実現に寄与することが期待されている.
著者
鈴木 翔 河上 洋 三池 忠
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.2145-2158, 2023 (Released:2023-10-20)
参考文献数
9

消化器内視鏡は消化器診療において必要不可欠な医療機器で,検査・診断のみならず治療でも大きな役割を担っている.ルーチンのEGDや全大腸内視鏡検査(total colonoscopy:TCS)の他,胆膵内視鏡,EUS,ESDや止血処置・異物除去など内視鏡スキルは多岐に渡るが,内視鏡技術を向上させるには経験と時間が必要である.現在,様々なタイプのトレーニングモデルやシミュレーターが開発されており,初学者の練習や研修医・学生指導に用いられている.トレーニングモデルは簡便性や低コストが長所で,シミュレーターは豊富な種類の内視鏡検査・手技のトレーニングができる点で優れている.練習や指導の中でトレーニングモデルやシミュレーターを上手に活用して,個々のスキルアップ,実際の内視鏡診療の向上に繋がることが期待される.
著者
鈴木 啓章
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.14, no.12, pp.555-561, 2014 (Released:2017-02-01)
参考文献数
66
被引用文献数
1 1

ビタミンKは正常な血液凝固の維持に必要なビタミンとして発見された脂溶性ビタミンの1つである。近年,ビタミンKは骨粗鬆症や動脈硬化の予防に効果があることが明らかになってきた。ビタミンKは骨のオステオカルシンや動脈のマトリックスGlaタンパク質を活性化することで生体内のカルシウム代謝を調節し,骨や動脈の健康維持に役立っている。骨の健康維持のためには食事摂取基準における摂取目安量よりも多くのビタミンKの摂取が推奨されている。食品に主に含まれるビタミンKのうち,納豆に含まれるビタミンKであるメナキノン-7が最も高い栄養価を有している。
著者
鈴木 健介 浅井 武 平嶋 裕輔 中山 雅雄
出版者
一般社団法人 日本体育・スポーツ・健康学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.261-275, 2021 (Released:2021-04-29)
参考文献数
29

In soccer, as the number of goals determines victory or defeat, the top priority of soccer attacks is to score goals. In many competitions, more than 70% of goals are scored by shooting from within the penalty area (PA). Thus, entering the PA is an important factor in scoring goals to win games and advance in a tournament. However, as no previous research has analyzed in detail attacking play involving entry into the PA, players are unable to receive effective coaching. Focusing on the group stage of the 2014 FIFA World Cup, the present study compared attacking play into the PA between top-ranked teams that advanced (top teams) and lower-ranked teams that were defeated and did not advance (lower teams) in order to identify the characteristics and differences of the two groups. Samples were obtained from all 48 games played in the tournament at this stage. For statistical analysis, the unpaired t test and c2 test were used. No significant inter-group differences were found in the number of attacks or entering the PA and the number of shots, but the top teams had higher success rates in shooting and attacking, suggesting that they had excellent finishers or created better shooting situations. With regard to movements for receiving passes by players who entered the PA, the top teams showed a higher frequency of moving from the outside to the inside of the PA and receiving passes there, suggesting that their players received the ball as they moved toward the PA. Moreover, compared to the players of lower teams, they received passes inside the PA when no opposition defenders were in the attacking direction. These findings suggest that players of top teams evaded marking by opponents by receiving the ball while moving toward the PA. Furthermore, since top teams had higher scoring rates when their players dribbled into the PA, they likely had players more highly skilled in dribbling, thus resulting in goals.
著者
加藤(鈴木) 美羅 岡松 優子
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.99-108, 2023-03-20

哺乳類には,白色と褐色の2種類の脂肪組織が存在する.白色脂肪組織はエネルギーを中性脂肪として貯蔵する役割を担うのに対し,褐色脂肪組織はミトコンドリアの脱共役タンパク質1(UCP1)により熱を産生する非震え熱産生の部位である.哺乳類は寒冷刺激を受けると交感神経を介して褐色脂肪組織の熱産生を活性化し,体温の低下を防ぐ.寒冷刺激が長期に渡ると褐色脂肪組織が増生するとともに,白色脂肪組織中にUCP1を発現するベージュ脂肪細胞が誘導され(白色脂肪の褐色化),個体レベルの熱産生能が増大して寒冷環境に適応する.本稿では,寒冷適応における脂肪組織の変化とその分子機序を概説するとともに,動物種による褐色脂肪組織の発達や機能の違いについて紹介する.
著者
波多野 元貴 鈴木 重行 松尾 真吾 後藤 慎 岩田 全広 坂野 裕洋 浅井 友詞
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100755, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 スタティック・ストレッチング(static stretching:SST)は、柔軟性の改善をもたらすとされ、臨床場面やスポーツ現場などで広く用いられる。他方、SST後は最大発揮筋力や単位時間あたりの筋力発揮率であるrate of force development(RFD)などに代表される筋パフォーマンスの低下が生じるため、最大限の筋力発揮を要するパフォーマンスの前にはSST実施を避けるべきであるとする報告が多い。また、SST後の筋パフォーマンス低下の要因のひとつとして、筋電図振幅の減少など神経生理学的な変化が報告されている。SST後の発揮筋力や瞬発的なパフォーマンスの変化を検討した先行研究を渉猟すると、少数ながらSST後に動的な運動や低強度・短時間の等尺性収縮を負荷することで、筋パフォーマンスの低下を抑制できる可能性が示唆されている。しかし、SST後の運動負荷による筋パフォーマンス低下抑制と神経生理学的変化の関連性について比較検討した報告はない。よって、本研究はSSTおよびその後に行う低強度・短時間の等尺性収縮が最大等尺性筋力、RFDおよび筋電図振幅に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 被験者は健常学生7名(男性4名、女性3名、平均年齢21.4±1.0歳)とし、対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節および膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位をとり、等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)と表面筋電計(Mega Electronics社製ME6000)を用いて測定を行った。評価指標は6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮時の最大等尺性筋力、筋収縮開始時から200 msec間の時間-トルク関係の回帰直線の傾きであるRFD、等尺性収縮中の内・外側ハムストリングスの筋電図平均振幅(root mean square:RMS)とした。実験は、まず6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行い、15分間の休憩の後、膝関節を痛みの出る直前の角度まで伸展し、300秒間保持することでハムストリングスに対するSSTを行った。その後は、直ぐに6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行う場合(SST群)、または30%maximum voluntary contraction(MVC)の強度で6秒間の等尺性収縮を行った後に6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行う場合(SST-30%MVC群)のいずれかを行い、被験者はこの2種類の実験をランダムな順番に行った。統計処理は反復測定2元配置分散分析および対応のあるt検定を行い、有意水準は5% とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は本学医学部生命倫理審査委員会および共同研究施設倫理審査委員会の承認を得て行った。被験者には実験の前に実験内容について文書及び口頭で説明し、同意が得られた場合のみ研究を行った。【結果】 最大等尺性筋力は、SST群では介入後に有意に低下し(介入前:64.5±19.7 Nm、介入後:57.0±18.7 Nm)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:63.9±20.3 Nm、介入後:65.70±19.8 Nm)。また、介入方法と介入前後との間に交互作用を認め、両群の介入後の値に有意な差を認めた。RFDはSST群で介入後に有意に低下し(介入前:238.5±61.6 Nm/msec、介入後:160.0±63.8 Nm/msec)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:215.0±88.5 Nm/msec、介入後:194.7±67.3 Nm/msec)。また、外側ハムストリングスのRMSは、SST群で介入後に有意に低下し(介入前:280.0±92.3 μV、介入後:253.9±97.0 μV)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:270.6±62.3 μV、介入後:258.9±67.1 μV)。内側ハムストリングスのRMSは、両群とも介入前後の値に有意な差を認めなかった。【考察】 本研究結果より、SST後には最大等尺性筋力、RFD、外側ハムストリングスのRMSの低下が生じるが、SST後に低強度・短時間の等尺性収縮を負荷することで、これらの低下を抑制できることがわかった。先行研究にて、筋活動が低下した状態で30%MVCの等尺性収縮を負荷すると、筋紡錘の自発放電頻度が増加することが示されている。本研究では外側ハムストリングスのRMSの変化が最大等尺性筋力およびRFDの変化に同期していることから、SST後に低下した神経生理学的な興奮性が等尺性収縮の負荷によって高まり、筋パフォーマンス低下が抑制されたものと推察する。【理学療法学研究としての意義】 本研究から、理学療法士がスポーツ現場でウォームアップとしてSSTを行う際に危惧してきた筋パフォーマンス低下が、低強度・短時間の等尺性収縮により抑制できる可能性が示唆された。理学療法士が頻繁に行うSST効果に関する基礎的データの集積は、理学療法介入の科学的根拠に基づく理学療法介入の確立・進展につながるとともに、有効なSST実践に向けた方法論構築に寄与するものと考える。